No.442935

零二争奪戦

緋縅焔さん

魔法戦争『最終戦争(ラグナロク)』から数ヶ月。平和な日常を取り戻した零二達。そんな日常の一幕――

2012-06-28 19:04:21 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1273   閲覧ユーザー数:1237

 
 

零二争奪戦

 

月読島で起こった最終戦争(ラグナロク)から数カ月。俺達は平和な日常を取り戻し、いつものように平和な学園生活を楽しんでいた。この時はまさかあの何気ない一言であんな事が起きるとは思いもしていなかった――

 

 

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レイジ(マスター)、おはようなんだよ」

その声と腹にかかる衝撃に俺は目を覚ます。

「…サクラ…」

「朝なんだよ、朝ごはんなんだよ」

朝から元気一杯のサクラは馬乗り状態のまま体を揺らしながら俺を起こしにかかる。

「……お前が重くて起きられない」

「ひどっ!私はそんなに重くないんだよ!!」

「わかったから叩くな。とりあえず起きるから降りろ」

布団の上から叩き始めたサクラを宥めながら、俺は起きる為にサクラを上からどかす。

「すぐに行くから先に行って待ってろ」

「はーい」

サクラが部屋から出て行った後服を着替え、皆の待つリビングへと向かう。

 

 

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「兄さん、おはよう」

「あぁ、沙雪おはよう。苺さんもおはようございます」

リビングに入ると真っ先に挨拶してきた沙雪に挨拶を返し、次に苺さんに挨拶をする。

「おはようじゃ。しかしお主が寝坊するなど珍しいの」

「昨日は遅くまでサクラの相手をしていたんですよ」

そう言ってサクラの頭を軽く叩きながら席に着く。

「む、何だか私のせいみたいに聞こえるんだよ」

「9割がたお前のせいだろ」

「なんじゃ、僅かとはいえ自分の非を認めるとは珍しいの」

「こいつを止められなかった俺にも責任はありますからね」

「かっかっか、そうかそうか」

「とりあえずこの話はここまでにしていい加減食べましょうか」

「うむ。そうじゃな」

このままだらだらと話していたら食べる時間が無くなってしまうので俺達は話を中断し、何か言いたげなサクラも無視して食事を始めた。

 

 

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「それじゃあ苺さん、行ってきます」

「行ってきます」

「うむ、行ってくるがよい」

レイジ(マスター)、私も行きたいんだよ」

「お前は大人しく待ってろ」

「ぶーぶー」

「まぁまぁ、サクラはわしとお留守番じゃ」

苦笑しながらサクラを宥める苺さんに見送られながら俺と沙雪は外に出た。

「れーじ、おはよう!!」

外に出た途端名前を呼ばれ、腕に軽い衝撃を受ける。

「里村紅葉…」

「おはよう里村……でだ、とりあえず離れてくれるか?」

俺は腕に抱きついている里村を引きはがす。

「これくらい別にいいじゃん」

そう言って里村はまた抱きついてきた。

「里村紅葉、兄さんから離れて」

「あんたの指図は受けないわよ」

戦いが終わった後もこの二人の仲は変わらず、会う度に喧嘩をしている。

「お前らいい加減仲良くしろよ…」

「兄さんの頼みでもこればかりは譲れない」

「いくられーじの頼みでもこいつだけは無理ね」

「はぁ…」

引きはがしたところで直ぐにまた抱きついてくるであろう里村は諦め、俺は歩き始める。

隣を歩く沙雪が不機嫌ながらも俺との距離をいつもより詰めてきている気がするのは気のせいということにしておこう。

 

 

「それじゃあ兄さん、また後で」

「あぁ、またな沙雪」

教室前で沙雪と別れ、俺と里村は自分の教室へと入る。

「あ、紅葉に芳乃君おはよう」

教室に入り、自分達の席までくるとすぐに挨拶が飛んでくる。

「おはよう、なぎさ」

「おはよう、鈴白」

鈴白に挨拶を返していると、先程別れた筈の沙雪が教室に入ってくるのが見えた。

「兄さん」

「どうした、沙雪。忘れ物か?」

「げ、何であんたがここにいるのよ」

普段こちらに来る事の無い沙雪に問いかけると、沙雪の存在に気付いた里村が嫌そうな顔をしている。

「貴女に用は無い。ただ、あのまま貴女を兄さんと一緒にさせておくのは問題だと判断した。」

沙雪と里村は朝の続きと言わんばかりに牽制しあっている。

「あははは……芳乃君も大変だね」

「二人が仲良くしてくれたら嬉しいんだけどな…」

「何や何や、さっつんが此処におるなんて珍しいやん」

「霧崎…」

「相変わらず女の子に囲まれて羨ましいやっちゃな~、芳やん。わいも混ぜてぇな」

俺達が話をしていると霧崎が何処からともなく現れ、話に混ざって来た。

「で、どないな話をしとったん?」

「二人がもう少し仲良くなってくれたらなって話を鈴白としてたんだよ」

「そこんとこ二人はどうなん?」

「あんたには関係ないでしょ」

「相変わらず芳やんや龍やん以外には手厳しいな~」

絶賛睨み合い中の二人に声をかけた霧崎は里村に一蹴されている。

「まぁ二人共芳やんラブみたいやし、恋敵とは仲良くできんちゅうわけや」

「ラブって…霧崎おまえなぁ…」

「でも紅葉は本当に芳乃君一筋って感じだよね」

「そういうなぎさは龍一ラブでしょ」

「も、紅葉ー!?」

「わ、私は別に兄さんのことは嫌いじゃないし寧ろ…だけど…その…」

沙雪との睨み合いを止めた里村はそのまま鈴白をからかっている。

沙雪は沙雪で何か言ってるみたいだが、よく聞こえない。

「でや、芳やん。わいはずっと気になっとることがあんねん」

「急にどうした」

急に真剣な顔になった霧崎につい身構えてしまう。

「自分、色々と女性に縁があるみたいやけど、本命は誰なんや?」

「は?」

「は?やないで芳やん。本命は誰なんやって訊いとんねや」

「それは私も気になるな」

重要な話だと思っていただけに、霧崎の予想外の質問に理解が追い付かず呆けていると、鈴白まで話に乗って来た。

「紅葉はあんなにアタックしてるのに芳乃君って相変わらずだし、実際紅葉の事ってどう思ってるの?」

「いや、ちょ、鈴白?」

「どうなの、芳乃君」

鈴白の凄い剣幕に押され、徐々に後退するも鈴白は迫ってくる。

「ちょ、なぎさ!れーじに何してるのよ!?」

壁際まで迫られていた俺に気付いた里村が慌てて俺と鈴白の間に割り込んでくる。

「芳乃君に本命を訊いてるの」

「本命?当然私だよね、れーじ」

「兄さん」

「で、芳やん本命は?」

「ちょ、お前ら…」

周り全てが敵と化した今、壁際で囲まれている以上逃げ場は無い。

「皆どうしたんだい?」

「龍一」

「零二?」

四人から迫られ、逃げるに逃げれない状況で突如現れたのは龍一だった。

しかし今の状況では龍一の存在は蜘蛛の糸のようだった。

「悪いな皆、俺は今からこいつと話があるんだ。」

包囲網から抜け出すと、龍一の肩を組んで此処からの逃走を図る。

「逃げようたってそうはいかんで、芳やん」

しかし霧崎に回り込まれ、行く手を阻まれる。

「えっと零二、これはいったいどういう状況なんだい?」

「龍やんも芳やんの本命が誰か気にならへんか?」

状況がまるでわかっていない龍一に説明を求められたが、霧崎が代わりに説明し味方に取り込もうとしている。

「いや、僕は別に…」

「龍一、お前は誰が一番だ!?」

「僕かい?」

俺は龍一に同じ質問を投げることで矛先を自分から龍一に変更する。

しかし、次の龍一の一言にその場にいた全員が固まることになる。

「そうだね。一番はやっぱり零二かな」

「な…」

「龍やん…自分そうやったんか…」

「龍一!?」

「兄さん…」

「ちょっとれーじ、どういうこと!?」

すぐに再起動を果たした里村は俺に、鈴白は龍一に詰め寄っている。

「僕は零二の質問に答えただけなんだけど何か間違っていたかい?」

「まさかとは思っとったけど自分らがそんな関係やったとはな…そりゃ芳やんも靡かんわけや…」

「ちょっと待て霧崎、俺をこいつと一緒にするな。俺はいたってノーマルだ」

「そうだよね、れーじはノーマルだよね。ちゃんと女の子が好きなんだよね」

「あぁ、だから少し落ち着け里村」

「う、うん」

テンパってる里村を落ち着かせながら状況を再確認する。

問題発言をした張本人の龍一はさっきの発言について現在鈴白に問い詰められている。

里村はどうやら落ち着いたようで龍一を警戒している。

霧崎は俺と龍一を見る目が何やら変わっていたがもうこの際放っておくことにする。

沙雪は――

「沙雪?」

「これ以上このクラスにいては駄目。兄さんが毒される」

いつの間にか俺の腕を掴んでいた沙雪はそのまま俺を外に連れ出そうとしている。

しかしチャイムが鳴り先生が来た事で沙雪も渋々自分の教室に戻り、この話は一旦終了した。

当初の問題から離れたはいいが、何だか別の問題が発生している気がするのは俺だけだろうか…

 

 

「れーじ、れーじ!お昼だよお昼!!」

「わかったから落ち着けって里村。今日も雨宮の所だろ?」

「うん。それじゃあ行こうか紅葉、芳乃君」

午前中の授業も終わり、昼休みになった途端元気になった里村と鈴白といういつものメンバーで生徒会室を目指す。

「かいちょー、失礼しまーす」

「会長、失礼します」

「失礼するぜ、雨宮」

生徒会室に着いた俺達はそれぞれ挨拶しながら部屋へと入っていく。

「いらっしゃい。紅葉、なぎさ、零二君」

部屋に入って来た俺達を出迎えた雨宮はいつもながら優雅に紅茶を飲んでいる。

「お腹空いたー。れーじ、早く食べよ」

「それはいいが里村。何で今日はこんなに近付いて食べるんだ?」

いつもは少し離れて座っている里村が今日は俺のすぐ隣に座り、更に椅子を近づけてくる。

「朝からあいつがいてれーじといちゃいちゃ出来なかったから、あいつがいない今の内にれーじ成分を補給しとかなくちゃ」

そう言って里村は俺の腕に抱きつきながら食事を始める。

「あらあら。零二君も遠慮なく言えばいいのよ。紅葉の様な残念な体じゃなく私みたいな体の人に抱きつかれたいって」

「ちょっとかいちょー、残念な体ってどういうことよ!!」

「見たまんまのことよ。ねえ零二君?」

「雨宮も里村も落ち着け、な?」

いつもの事ではあるが、二人の争いを止めることにする。

「ごちそうさま」

いつものからかいの標的にされなかった鈴白はいつの間にか食べ終わっている。

「ねえ、なぎさもそう思わない?」

「え?…あ、はははは…」

急に話を振られた鈴白は里村の方を見た後、苦笑している。

「なぎさは只の雌豚だからいいの!それになぎさが好きなのは龍一だから問題無し!」

「雌豚って酷いよ紅葉!?て、そうだ龍一の事で芳乃君に話しがあるんだった。」

「俺にか?」

結局里村によって弄られていた鈴白がふと思い出したように俺に話を振る。

「たとえ芳乃君でも龍一は譲らないんだから!」

「…鈴白?」

「紅葉、これは一体どういう事なの?」

「あー、朝ちょっと色々あってねー…」

事情を知らない雨宮は里村から説明を受けている。

「鈴白。誤解しているようだから言っておくが、俺にそっちの気は無い」

「確かに芳乃君にはそんな気持ちは無いのかもしれない…でも龍一に何回訊いても答えは変わらなかったの!!」

「あの馬鹿…」

剣があれば今すぐにでも斬りかかってきそうな勢いの鈴白を抑えながら問題発言をした龍一の事を考える。

「あいつの事だ、何かの間違いだとは思うが…」

「安心しなさいなぎさ。零二君に悪い虫が寄り付かないよう私が零二君と一緒にいるわ」

「あ、雨宮?」

「なっ…れーじから離れなさいよ、ばかいちょー!!」

背中に当たる柔らかな感触にどきどきしながら後ろにいる雨宮に問いかける。

「零二君は私といれば何も問題は無いの。それに本命は紅葉なんかじゃなく私よね、零二君?」

その一言に俺は雨宮も敵になった事を理解し、距離をとる。

「零二君!?」

「れーじ!?」

「芳乃君!?」

全員が敵となった今、朝のような不利な状況を避ける為に俺は生徒会室から逃走した。

 

 

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 

「とりあえずこれで少なくとも雨宮からは逃げられたか…?」

生徒会室から逃走した俺は自分の教室付近まで来ていた。

「兄さん?」

「零二?」

「―――!!」

気を抜いた瞬間に声をかけられたせいで身構えながら振り返ると其処にいたのは沙雪と美樹だった。

「沙雪と美樹…か…」

「どうかしたの零二?」

「何かあったの兄さん?」

「いや、ちょっとな…」

冷静になる為にも一旦落ち着こう。

追ってはまだ来ないみたいだからこのまま沙雪達の教室で時間を稼ぐ事にしよう。

「こんな所で立ち話もなんだ、沙雪達の教室で話そう」

「私は構わないよ」

「兄さんがそういうなら」

「じゃあ行こ――」

「見付けたわよ、れーじ!!」

「里村……」

沙雪達の教室に隠れる前に後を追いかけて来たらしい里村に発見されてしまった。

「いきなり走って出ていくから驚いたじゃない」

「兄さん、何をしていたの?」

「まて沙雪。俺はただ昼飯を食べていただけだ」

「それで何で逃げ出したの、零二?」

「げ…黒羽沙雪にボインちゃん…」

沙雪の誤解を解こうと説明していると、沙雪と美樹の存在に気付いた里村が嫌そうな顔をしている。

「何であんたがこんな所にいるのよ」

「私は偶々兄さんと会って話をしていただけ」

「え…と、ボインちゃんって私の事…だよね?」

「そうよ。れーじを誘惑しようたってそうはいかないんだから。てかもしかして零二の本命ってこのボインちゃんなの!?」

「――――っ!!」

「そうなの、兄さん?」

「本命って…れ、零二?」

非常に不味い状況になってきた。

しかもよりによって美樹にこの話を振るとは…。

「零二…?」

「いや、美樹、それは…」

この状況をどうすれば抜けられる。

考えろ。

考えて――

「よし、龍一。少しあっちで話そうか。」

俺は近くを通りかかった龍一を捕獲するとそのまま龍一を連れて逃走を図る。

「れ、零二?いきなりどうしたんだい?」

「いいから、いいから」

「ちょっと零二また逃げる気!?それとも零二の本命って龍一なの!?」

「兄さんがそんな…」

「れ、零二?どういうこと…?」

龍一のあの発言があったせいで色々と疑われているがこの際仕方が無い。

時間がたてばきっと忘れてくれると信じよう……。

しかし、今朝から今までの事を踏まえてこれからの事を考えると憂鬱になりそうだ…

 

 

「終わったーー!!」

授業が全て終わり、放課後になったと同時に里村が叫ぶ。

「れーじ、れーじ。放課後どっか行こ!」

そしてすぐさまこっちに向き直り話しかけてくる。

「里村、悪いが今日はさっさと帰ろうと思ってんだ」

朝からの出来事で精神的にも疲労していた俺は里村の誘いを断る。

「むー。今日のれーじ何か冷たいー」

「また、今度付き合うから。な?」

「約束だよ」

「あぁ。じゃあな里村」

「うん、ばいばいれーじ」

里村が鈴白の方に行ったのを確認すると家に帰るべく教室の出口に向かう。

「……霧崎。これはどういうつもりだ?」

出口に向かおうとした俺の目の前には霧崎が立ち塞がり、俺は龍一に羽交い絞めにされていた。

「ごめん零二。霧崎君の頼みを断りきれなくて…」

「逃がさへんで~芳やん。まだ朝の答えはもらっとらんしな」

追求される前に帰る計画は一瞬にして崩れ去ってしまった。

「さぁ、芳やんじっくり話を聞かせてもらおうか」

「くっ…」

「龍一!やっぱり芳乃君を選ぶの!?」

「な、なぎさ!?」

突如割り込んで来た鈴白に驚いた龍一は俺の拘束を解く。

「しまっ――」

「どうなの!龍一!?」

龍一がもう一度俺を捕まえようとするが、鈴白によって阻止され自由になった俺はすかさず教室からの脱出を図る。

「力づくでも行かせへんで、芳やん」

「悪いが霧崎、お前じゃ止められねぇよ」

俺は霧崎をなんなく躱すと教室から飛び出した。

「きゃっ――」

「なっ――」

しかし急に飛び出した為、目の前にいた誰かを避けきれずそのまま押し倒すように廊下に倒れこむ。

「――っつう…」

巻き込んだ相手を怪我させない為に何とか相手を抱きしめ上下の位置を入れ替える事に成功したが、無理をしたが為に受け身も取れず背中を思い切り打ちつけた。

「悪ぃ、怪我は無かったか?」

痛みを我慢しながら腕の中にいる人物に問いかける。

「えと、私は大丈夫だよ零二」

「なっ……み、美樹…!?」

俺の腕の中で恥ずかしげに答えたのは美樹だった。

「兄さん、美樹さん、大丈夫!?」

「わ、私は大丈夫だよ沙雪ちゃん」

「ちょっとれーじ、いつまでボインちゃんを抱きしめてるのよ!?」

「わ、悪い美樹っ」

里村のツッコミに俺は美樹を抱きしめたままだったのに気付き、腕をどかす。

「ご、ごめんすぐに退くね零二」

美樹も今の状況に気付き、顔を赤くしながら俺の上から退き、立ち上がる。

レイジ(マスター)私も抱きしめてほしいんだよ!」

「サクラ!?」

沙雪の後ろから現れたサクラはそのまま俺に飛びついて来た。

「ふみゅっ!」

俺は咄嗟に飛びついて来たサクラを躱した為、対象を失ったサクラはそのまま地面へとダイブする。

「ひ、酷いんだよレイジ(マスター)…」

「何でお前が此処にいるんだよ」

サクラの非難は無視する事にし、疑問を問いかける。

「暇だったからレイジ(マスター)と沙雪ちゃんを迎えに来たんだよ…」

サクラは地面に突っ伏したまま答える。

「丁度いいわ芳やん。此処に役者は全員揃ったみたいやしそろそろ本命を吐いてもらおか」

にやにや笑いながら近付いてくる霧崎の一言でその場の空気が変わるのを感じた。

「?」

ただ一人サクラだけが現在の状況がわからず茫然としている。

「さぁ芳やん。さっさと吐いた方が楽やで」

「当然私よね、れーじ!」

「私は芳乃君の事嫌いじゃないけど龍一が…」

「私は、零二がその…まだ……なら…別に…」

「兄さんが望むのなら私は…」

「勿論私を選んでくれるのよね、零二君?」

「な、かいちょー!?」

全員が振り返るとそこにはいると思っていなかった雨宮の姿があった。

「あ、雨宮。いつからいたんだ?」

「役者が揃ったって辺りからよ、零二君」

「言ったやろ芳やん。役者は全員揃ったってな」

確信犯の霧崎は相変わらず笑みを浮かべている。

「さぁ芳やん。吐くまで帰れると思わんといてな」

「俺は――」

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 

「ただいまなんだよ!」

「ただいま」

「ただいま…」

「うむ、お帰りじゃ」

家に帰った俺達を珍しく家にいた苺さんが出迎える。

「なんじゃやけに疲れた顔をしておるな」

「まぁ、色々とありまして…」

「かっかっか。どうやら青春しとるようじゃな」

色々の部分をどう解釈したかは分からないが、苺さんは楽しそうだ。

「まぁ、そんなもんです」

「にっしっし。それで結局お主の本命は誰なんじゃ?」

「――っ」

適当に流そうとしていた所に不意打ちのように苺さんは質問をしてきた。

「な、何の話ですか?」

「隠すでないない。お主がいつも様々な女性に囲まれるのは知っとるんじゃ」

どうやら苺さんは俺達の事を何処かで見たようだ。

「それについてはノーコメントって事で駄目ですか?」

「つまらんのぅ。まぁ、よい。いつかは紹介してもらうぞ?かっかっか」

「まぁ、いつかは」

俺は学校での出来事を思い出しながら自室へと向かう。

あの時俺が選んだのは――

 

 

-Fin-

 

 
 

 
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