新暦71年 ミッドチルダ北部臨海第八空港。本来なら大勢の人で賑わうここは、今は見る影もない程人がいない。それもそのはず、灼熱の火炎で一面覆われていたからだ。
原因はここに運び込まれたレリックと呼ばれるロストロギア。最高評議会がジェイルへ研究用として手配したものだ。それが、ふとしたキッカケで暴走、爆発したのだ。無論、ライダーシステムに魅入られているジェイルはレリックの輸送を断った。必要ない。そうはっきりと。
しかし、それを良く思わなかったのか最高評議会は無理矢理レリックを送りつける事にしたのだ。何だかんだ言ってもジェイルは『無限の欲望』と名付けられた存在。レリックが手元に来れば、嫌でも研究せずにはいられなくなると踏んで。
だが、実際に今のジェイルはそんなものに興味は無かった。ライダーシステムの実用化。それにやっとメドがつき出したこの頃、彼はロストロギアなどに一切の興味を感じなかったのだ。
話を戻そう。空港は無残に焼け落ち、到る場所で火の手が上がっている。そんな中、一人の少女が泣きながら歩いていた。少女の名は、スバル・ナカジマ。彼女は両親が揃って休みになる事を利用し、姉と共にこの空港に来ていた。
だが、活発な性格故姉であるギンガ・ナカジマとはぐれてしまい、そのギンガを捜している中でこの惨状に巻き込まれたのだ。
「ヒックっ……お姉ちゃん……どこぉ〜……」
煤にまみれた顔や手。転んだのだろうか腕や足には擦り傷もある。だが、一番注意するべきはこの空港内の温度にある。何せ、救助活動を行なっている魔導師達がバリアジャケット無しでは活動出来ないような場所となっているのだ。
そこを何も無しで動く事が出来る彼女はセイン達と同じく戦闘機人と呼ばれる存在。普通の人とは違う体を、望まずに持った者なのだ。
だが、そんな彼女もそろそろ疲れが出たのか、大きな石像がある広場まで来たところで座り込んだ。こんな事なら魔導師である母からちゃんと魔法を教えてもらうんだったと、そんな事を考えたからだろうか、少女の脳裏に家族の顔が浮かんできた。
会いたい。そんな事を思い、寂しくなった少女はふと上を見上げた。空が見えれば、少しは気が紛れるかもしれない。そんな淡い気持ちの行動だった。
「え……?」
その目に映ったのは、倒れてくる石像。それが、何故かやたらとゆっくりに見えて―――スバルは目を閉じ、心の中で叫んだ。
―――誰か助けてっ!
その声は、普通ならば届かないのだろう。その声にならない叫びは、本当ならば聞こえないのだろう。だが、そんな声を聞き、風よりも速く駆けつける者達がいる。そう、彼らの名は―――仮面ライダー。
「危ないっ!」
赤い何かが石像を支える。その声にスバルは目を見開いた。そこにいたのは、赤い体の怪物。だが、何故かスバルには怪物とは思えなかった。その理由。それはその背中がスバルにはこう見えたため。
(泣いてる……ような気がする……)
望まぬ力を振るう事。それにまだ悲しみを感じるヒーローの心。それを幼い感受性は捉えたのかもしれない。だが、それも束の間。その赤い存在は石像を反対へ押しのけ、スバルへ駆け寄るとしゃがんで頭を優しく撫でた。
それが父のようにも、兄のようにも思えてスバルは思わず微笑みを浮かべた。助かった。そう心から思えたのだ。相手もその笑顔に笑顔を返してくれた気が、スバルにはした。だが、そこで思い出したのだ。もう一人、ここにいるであろう存在を。
「お姉ちゃんが、ギンガお姉ちゃんがまだっ!」
「大丈夫!」
「え?」
「きっと、大丈夫。俺の仲間が、先輩がいるから!」
サムズアップ。生憎スバルはその意味を知らない。だが、それを見てると何故か安心出来るのだ。絶対大丈夫。そんな根拠のない自信が心を満たしてくれる。そんな気がしてスバルは微笑んだ。
「あ、そうだ」
と、そこでスバルは気付いた。まだ大事な事を聞いてないと。故に尋ねる。純粋に、素直に。心から知りたいと思ったから。自分を助けてくれた恩人を、自分にとってのヒーローの名前を。
「私、スバル。スバル・ナカジマって言います。えっと、貴方の名前は?」
その問いかけに赤い存在は、躊躇う事無く告げた。
「クウガ。仮面ライダー、クウガ」
「仮面ライダークウガ?」
これが、クウガとスバルとの出会い。それは奇しくも、自動人形であるイレインと同じく炎の中というもの。後にクウガは知る。この時出会った少女も、イレイン達と同じような存在だと。
そして、これが新たな戦いの序章。クウガはこの後、成長した少女達と再会する。だが、それはある意味で悲しみの再会となる。
少女は必死で妹を捜していた。こんな炎の中に長時間動いていられる程、彼女の妹は鍛えていない。捜す彼女は陸士になるために母から様々な事を教わり、こうして妹を捜しながら逃げ遅れた人達を救助していられる。だが、彼女の魔力も体力も無尽蔵ではない。
現に今も気を抜いたら倒れそうなぐらい消耗している。そんな彼女だったが、その目だけは強い輝きを持っていた。それは果たすべき目的を持つ者の目。
(待っててスバルっ!)
たった一人の妹であり、自分とは色々な意味で姉妹と言える存在。その妹を見つけ出せずに倒れる訳にはいかない。その思いが彼女を、ギンガ・ナカジマを支えていた。
そして、その足が爆発の衝撃で脆くなった階段へ乗った瞬間、ギンガは浮遊感を感じた。階段が崩れて落ちている。それを認識した時、ギンガはパニックになった。もし彼女が飛行魔法を使えればそうはならなかったかもしれない。もしくは、彼女がウイングロードと呼ばれる魔法を行使すれば良かったのだろう。
だが、まだ陸士としての訓練をまともに受けていない少女に突発的な状況で冷静な判断を求めるのは酷である。しかし、ギンガが無意識にこう叫ぶ事が出来たのは、妹と違ってまだ少し彼女の方が強かったのだろう。
「助けてぇぇぇぇ!!」
その叫びに何かが動いた。それは、傍目からは動く液体に見えただろう。それが落下するギンガへ猛スピードで近付き、その体を優しく抱き抱え、崩れていなかった場所へ運んだ。
「え……?」
何が起きたのか分からないと言わんばかりに、ギンガは周囲を見渡した。すると、液体のようなものが人型になり、青い人間のようになった。そんな光景にギンガは不思議と恐怖を感じなかった。むしろ不思議と安心感さえある。
そんな風にギンガが見つめている前で青い存在が光ると同時に黒い体に変わった。それにギンガは驚いて目を見開く。そんな彼女へ黒い存在はゆっくり近付き、しゃがみ込んでその頭を優しく撫でた。
「大丈夫かい」
「あ、えっと、ありがとうございます」
「どう致しまして。それで、君はギンガちゃんって名前かな?」
見も知らない相手に名前を呼ばれ動揺するギンガだったが、彼の仲間が助けた相手から姉を助けて欲しいと言われた事を伝えるとその事に納得した。同時に妹の無事も確認でき、彼女としては心から安堵出来た。
そんなギンガを見て黒い存在は小さく息を漏らして立ち上がる。それは彼女の様子に微笑んだからなのだが、生憎それはギンガには分からない。そのまま立ち去りそうな彼にギンガは慌てて尋ねた。
「あ、あの、貴方は誰ですか?」
「俺は、太陽の子。仮面ライダーBLACK RX」
「RXさん……。私はギンガ、ギンガ・ナカジマです。この恩は絶対忘れません」
これがRXとギンガの出会い。こうして、黒い太陽も哀しい体を持った少女と出会う。彼女達が秘める哀しみ。それを、彼は払う光となり得るのだろうか……?
新暦71年 ミッドチルダ首都クラナガン郊外。クウガ達が現れた日から三日後の事だ。仮面ライダー達が海鳴へ現れた事による影響は様々なところに現れていた。それは本来起きる事件がなくなったり、事件の内容が変化したりと様々に。
そう、執務官を目指したある青年にもそれは起きていたのだ。彼は運良く念願の職に就いて働いていたのだが、その運命が今終わろうとしていた。まるで本来の流れと同じようになるようにと。
(くそ……ドジったな……)
ティーダはそう思いながら、薄れ行く思考の中である事を考えた。それは妹の事。唯一彼に残された肉親だ。
(ティアナ……ごめんな。兄ちゃん、ヘマしちまったよ……)
簡単な任務のはずだった。近くにいたので協力した逃走中の犯罪者の逮捕。執務官として名前が売れ出した自分ならばこれぐらいは余裕だ。その気持ちが油断を生んだのかもしれない。後もう一歩まで追い詰めながら、ふとしたミスで相手が隠し持っていた質量兵器———拳銃で撃たれたのだ。
甘かった。そうティーダは痛感した。相手が何の罪状で追われているのかをちゃんと考えて行動するべきだったと。相手の罪状は質量兵器の違法所持とその密輸だったのだから。
咄嗟に全力の防御魔法を展開したが、銃弾はそれを砕きバリアジャケットも貫通。更にデバイスまで損傷させた。そのためティーダは飛行魔法を維持出来なくなり、このままでは落下して墜落死は確定していた。
男を見てみれば、そのままティーダが落ちるとこを見ていこうとしているのかその場に留まっていた。相手も悟っているのだ。もう逃げ切れないと。だからこそ、最後にティーダの死に様だけでも見てやろうというのだろう。
それを理解した途端、ティーダは心の底から悔しさと情けなさを感じた。このままでは死んでも死にきれない。その一心で彼は願った。
(せめてあいつだけは俺の手で捕まえたいっ!)
その想いを聞き届けたのだろうか。気付けばティーダは落下が止まっていた。そして、それと同時に不思議な感触を感じたのだ。まるで暖かい金属にでも乗っているかのような感覚を。
それに気付いてティーダは自分の下を見た。そこには、緑色の大き目の石がある昆虫らしきものがいた。更にその丁度真下に一台のバイクとそれに跨る金色の存在がいた。
「ゴウラムさん、その人をお願いします!」
その声に頷くように、ゴウラムと呼ばれたそれはティーダを乗せてゆっくり降下していく。それを横目にし、金色の存在はバイクから降り、戸惑う男へ静かに近付いた。その手にした銃で攻撃する男。だが、それを金色の存在は避けもせず、ただゆっくりと近付いていく。
銃弾は確かにその体へ命中するもまったくそれを意に介さず金色の存在は歩き続ける。そして男の目の前に立ちはだかり、その手にした銃を奪い取った。それを持ったまま金色の存在は男を捕まえ、ティーダの元へと向かう。
ティーダは男を突き出し自分を見ている存在に不思議な感覚を覚えるものの、怯え竦む男にバインドをかけて息を吐いた。それに応じるように金色の存在も頷いて、ティーダへ尋ねた。
「あの……」
「……何だ?」
やや戸惑うが、怪しくても命の恩人だと思いティーダは務めて落ち着いた声で話しかけた。それに相手は躊躇いがちにこう言ったのだ。
「ここ、どこです? 貴方は魔導師なんですか?」
「はぁ?」
これがティーダとアギトの出会い。そして、彼はもう一人出会う者がいる。かつてあの美杉家で世話になった少女。それをどこか思わせるような相手に。
三人の仮面ライダーはそれぞれ魔法世界へ辿り着く。しかし、彼らが出会うにはまだ時間が必要だった。
新暦67年 とある研究所。そこでジェイルはある者達を待っていた。あの日知られてしまったトイの原型。その情報を操作し、もう一年になる。それは戦闘機人を調べ、動いている部隊を相手にしてもうそれだけと言う事だ。
これで犠牲にした施設は四つ目。最初の施設だけでは満足出来なかったのか、その僅か数ヵ月後ジェイルの耳に密かに調査している部隊があると情報が入った。それが、ゼスト隊と呼ばれる陸の守護神と評されている精鋭部隊だと分かった時には、ジェイルは思わず顔を覆った。
ベルカの騎士としてオーバーSの力を持つゼスト・グランガイツ。そんな彼を隊長に幾多もの事件を解決し、治安維持に貢献している部隊だったからだ。早目に見切りをつけて欲しいと思い、二つ目の場所はトイのデータをそのまま残し、相手を満足させたと思ったのだ。
しかし、また数ヵ月後、同じような情報が入る。どうも、かえって簡単に事が運ぶので怪しんでいるらしい。だから仕方なく真司が廃棄したトイを数台持って来て襲撃させたのだが、それを簡単に返り討ちにし、余計ゼスト隊は何かあると踏んだらしく今回もまた現れたのだ。
しかし、今回は今までと違う点がある。一つは、トイの情報も何もない事。次に現在稼動しているナンバーズが全員来ている事。そして最後に控えている変更点。それは……
『お~い、こっちは準備完了だぞ~』
「分かった。なら、そのまま真司はそこで待機してくれ」
龍騎がいる事だ。そう、ジェイルは今回ではっきりと終わらせるつもりだったのだ。広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティとしての自分を。きっと管理局は信じないだろうがそれでもだと。
自分はもう違法行為に手を染める事はしない。その決意をジェイルは持っていた。真司と出会い、そして知った。自分の気に食わない世界だから変えるのではない。自分が変わり、その不自由さえ楽しめばいいのだと。
「……もし、真司にもっと早く会っていたら……どうなっていたんだろうねぇ」
感慨深く呟くジェイル。もしかすれば自分はナンバーズさえ作る事を拒否していたかもしれない。そんな事を考え、誰ともなく笑う彼の前へモニターが出現した。相手はウーノ。その表情からジェイルは時が来たのだと気付いた。
『ドクター、予定通りゼスト隊が現れました』
「分かった。くれぐれも迂闊に動かないよう頼むよ」
ジェイルの言葉にやや躊躇いがちではあるがウーノは頷いた。そう、ジェイルがいるのは研究施設の入口。たった一人でそこに立っていたのだ。
勿論、周囲には龍騎達が控えている。だが、それもジェイルが危険に晒されない限り動かないよう言いつけられている。龍騎はジェイルからこう言われているのだ。以前やった事に対するけじめをつけるのだと。
それがどんな事かは分からないが、ジェイルの真剣な眼差しに龍騎は折れた。故にこうして他のナンバーズと共にクアットロのISで隠れているのだ。クアットロのISはシルバーカーテンと呼ばれるもの。
幻影を作り出したり、姿を隠す事も出来る便利なものだ。そして、周囲の状況はウーノのIS―――フローレス・セレクタリーと呼ばれる力によって把握され、こうして万全の体勢を整えていた。
やがて、前方から三人の局員が現れた。先頭に立つのは、ベルカの騎士であるゼスト・グランガイツ。そして、その脇に控えるのは近代ベルカの使い手であるクイント・ナカジマと、召喚魔導師であるメガーヌ・アルビーノだ。
他の隊員達は三人の後ろで待機しているため、いつ動き出してもいいようにとウーノが目を光らせている。そんな事も知らず、ジェイルは現れた三人へ軽い感じで声を掛けた。
「やぁ。こんばんは」
「っ?! ジェイル・スカリエッティ、だと?」
「そんなっ?!」
「まさか……本当に本人なの……?」
想像にしない展開に三人の表情にも動揺が見える。それもそのはず。確かにこの謎の機械に関わっていると思われていた相手ではあったが、それがわざわざ施設の奥ではなく入口で待ち構えているなどと誰が考えようか。
そんな戸惑う三人へジェイルは聞いて欲しい事があると切り出した。その必要はないと動こうとしたクイントをゼストが止める。その行為が理解出来ず、疑問を感じるクイントはゼストの視線を追って気付いた。
ジェイルの目が澄んでいたのだ。犯罪者特有の濁りのあるものではなく、どこか信じられるようなものに見えた。おそらくゼストはそれに疑問を抱いたのだろうと判断し、クイントも大人しくその拳をさげた。
「……私を捕まえたいのは分かるが、せめて話ぐらい聞いてくれないかな?」
「いいだろう。ただし、それの内容によって罪が軽くなる事も重くなる事もある。慎重にな」
「……ご忠告どうも」
ゼストの言葉にジェイルは苦笑しながら語り出した。それは、ゼスト達からすれば信じられない事だった。ジェイルはもう二度と違法行為に手を出さないと告げ、そしてこれまでやってきた事の全てを収めたディスクを提示した。
そこには自分に戦闘機人を始め、様々な違法行為を指示した者達のデータが入っているとそう言ったのだ。そして、そのディスクを渡す代わりに一つだけ頼みがあると告げた。その頼みにゼストは耳を疑った。
「見逃せ、と?」
「この場は、でいいよ。何も今後ずっとなんて言わないさ」
ジェイルの言葉にゼストは少し考え、頷いた。
「隊長?!」
「いいんですか?!」
まさかのゼストの判断にクイントとメガーヌが驚愕の表情を浮かべる。それにゼストは頷いて、ジェイルを見つめたまま告げた。
何か罠を張っているのなら見逃せなどとは言わないだろうし、もしその気なら周囲に隠れている手勢に襲わせているはず。その言葉に龍騎達は少し驚く。気付かれていたとは思っていなかったからだ。
尚もゼストは続けた。それに今後もではなく今回はと言っている事からも相手も本気で交渉している。何故そう考えたかは知らないが気が変わらない内に情報を得るべきだ。そう締め括り、ゼストはジェイルを見つめたまま口を開いた。
「最後に一つ聞きたい」
「何かな?」
「どうして広域次元犯罪者の貴様がこんな真似を……」
ゼストの言葉に龍騎は驚いた。犯罪者。確かにそう言ったのだ。あの隊長と呼ばれた男は。そして思い出したのだ。初めて会った際、ジェイルが自分に言った事を。自分は犯罪者。それが本当だったと知り、龍騎は悩んだ。
仮面ライダーの力をジェイルはもう少しではあるが形にしている。そう、セッテ達の武器の材質などだ。それを教えたのは自分。もし、ジェイルが犯罪者でそれを悪用したのなら。そこまで考え、龍騎は思い出す。
(でも、ジェイルさんは……イイ人なんだよな。娘想いの、ちょっと変わったとこもあるけど、俺の恩人なんだ)
見も知らない自分を受け入れ、食事や部屋などを与え、今は妹分までいる。それに龍騎は知っているのだ。ジェイルが元の世界に戻れる方法も考えてくれている事を。しかも、ただ戻るだけでなく、こちらと行き来出来るように。
それをウーノから教えてもらった時、彼は嬉しかったのだ。ただ帰すのではなくまた会えるようにとしている。それは、ジェイルもまた自分と会えなくなるのを避けていると分かったから。自分がジェイル達と会えなくなるのが嫌なように、ジェイルもまたそう思ってくれている。それが、堪らなく嬉しかったのだ。
そんな事を考えていた龍騎だったが、ふと視線をジェイル達へ戻した。どうも話し合いは終わったらしく、ジェイルが手にしていたディスクをゼストへ投げ渡した。それを受け取り、すぐに確認して真偽を確かめるゼスト。
メガーヌはディスクが本物だと分かり、やや驚きながらもゼストへ視線を向けた。それにゼストも頷いて、ジェイルに一言告げて去って行く。次は無い。その言葉にジェイルは苦笑しつつ頷いた。分かっている。そのやり取りは、龍騎にはとても敵対する者同士のものには聞こえなかった。
「……ウーノ」
『はい、撤収したようです。しかし、よろしいのですか?』
「こんな事をして老人達に文句を言われるからかい? 別に関係ないよ。言いたいのなら言わせればいい。私は私のやりたい事をする。それだけさ」
ジェイルはそうはっきり言い切って周囲へ大声で告げた。
「さ、帰ろうじゃないか! 私達の家に!」
その言葉をキッカケにクアットロのISが解除されセイン達が頷いた。ただ一人、変身を解いた真司だけは頷かず、ジェイルへ視線を向けていた。
「本当に……犯罪者だったんだ」
「……ああ。出会った時にそう言ったはずだよ?」
「だよな。……うん、そっか。なら悪いのは……」
真司の次の言葉にその場にいた全員が声を失った。それだけ真司の発言は驚くべき内容だった。
―――ジェイルさんに悪い事を止めろって言う人がいなかったからだ。
そう笑顔で言って真司は歩き出す。呆然としているジェイル達を見て、真司は大きく宣言した。これからは自分がジェイルの悪事を止めるからと。もう悪い事はさせないからな。そう告げて真司は歩いて行く。その後ろ姿を見送り、ジェイルは楽しそうに笑い出した。それに感化されたのかウーノ達も笑う。
そう、真司が言った事はとっくに実現されているのだ。あの日、真司がジェイルと出会った時からそれは始まっていた。ジェイルが本来考えていた計画。それを真司は大きく変化させ、今の形にしたのだから。
ライダーシステムを実用化し、管理局へ譲渡する。その見返りとして自分達への不干渉とどこかのどかな世界での生活を送る事。それが今のジェイルの計画。それと並行してジェイルには研究している事がある。
(真司のいた世界への帰還方法とその行き来の模索と確立だね)
次元漂流者だが、話を聞く限りでは真司は更に複雑な事情がある。彼のいた世界自体は簡単に突き止められた。管理外である地球。そこなのはもう真司自体にも確認を取ってある。
しかし、そこには真司の言ったモノがないのだ。それは建物の名前だったり人の名だったりと様々だが、それが何一つとして存在していなかった。そこから導き出されたのが、真司は地球の並行世界出身ではないかと、そういう結論だ。
そのため、今もジェイルはライダーシステムの実用化と並行し、少しずつではあるがそれを調べている。実は、それがあるために未だにノーヴェの目覚めが遅れているのだ。今起動しているナンバースは、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロ、チンク、セイン、セッテ、ディエチの八人。
残りの四人が目覚めるのは、おそらく後二年ぐらいかかるだろうとジェイルは予測している。それには、その事以外にも理由がある。
(真司を驚かせてやりたいからね)
クアットロと話し合い、残る四人を同時に目覚めさせようとしているのだ。そのためクアットロはジェイルの分も引き受け、現在四人の調整を行なっているのだ。それをジェイルが押し付けたと思っている真司が文句も言わずにやっているクアットロを見て感心したぐらいに。
ちなみに真司は、クアットロが四人分の調整を行なっているのはジェイルがライダーシステムへ掛かりきりだからと思っていた。
「さぁ、我々も行こう。お腹も空いた事だしね」
「そうですね」
「今日のご飯は何かしら~?」
「真司はオムライスと言っていたな」
「おおっ! チンク姉の好物だね」
「……わざわざ言わんでいい」
「セッテも好きだよね」
「ええ。ディエチは違うのですか?」
ワイワイ言いながら歩いて行く八人。その視線の先では、真司がジェイル達を眺めて笑っている。そしてセインやセッテに向かってこう告げた。ここから向こうの大きな木まで競争しようと。
それに意気込んで応えるセイン。静かに、だがしっかりと頷くセッテ。微笑みを浮かべながら参加する意志を見せるチンク。どこか呆れながらも加わるトーレ。ディエチはセインに呼ばれ、少し躊躇いながらも参加し、クアットロとウーノはそんな姉妹達に楽しそうに笑みを浮かべる。
そんな光景を見つめ、ジェイルは真司へ告げた。自分が合図を出すと。それに真司も頷いて、それぞれが位置につく。
「それじゃ……スタート!」
その声で一斉に走り出す真司達。必死で走る真司を、トーレが、セッテが、チンクが、セインが、終いにはディエチさえ抜いていく。それに負けるかと頑張る真司だったが、変身している状態ならともかく彼女達に生身のままで勝てるはずもなく、結局最下位で終わった。
そんな真司を慰めるディエチとチンク。誇らしげに笑うセインとセッテ。へたり込んだ真司を呆れたように見つめるトーレ。それを眺めて歩きながら真司の健闘を讃えるウーノとクアットロ。そして、その光景を嬉しそうに眺めるジェイル。
そんな彼らを見渡して真司は心の底から叫ぶ。
―――あ〜! 今度は絶対負けないかんな!
真司のその言葉に全員が笑う。ナンバーズの体の事を知りながらそれを言い訳にしない。その真司の気持ちが好ましいのだ。
こうして、本来であれば悲劇となったゼスト隊の運命は一人の男によって回避された。それもまた、後に起こる戦いを助ける事になる……
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空白期はこんな感じで時間軸が飛び飛びです。真司だけ時間がずれているのは、彼は戻る必要がないため残り続けています。
次回で真司がどうして残っているのか。そして、この世界に来たキッカケの一端が明らかになるかも……?
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無慈悲な現実。不条理な世界。そんな中で響く助けを求める声なき声。
神はそれを傍観し、仏はそれを受容する。それが運命だとばかりに。
だが、それを聞いたかのように現れる者がいる。見過ごせない今を放っておけないと。
人は彼らをこう呼ぶ。ヒーロー、と……