No.441165 真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ十七2012-06-24 07:35:31 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:10440 閲覧ユーザー数:7783 |
「ここが南郷郡の太守様がいる街か…」
青髪の女の子はそうしみじみと呟いた。
「村に来た商人さん達の話だとここの『お味噌汁』が一番美味しい
って事だけど…どのお店なのかな?」
道の左右に立ち並ぶ店を見渡す度に女の子の前髪に結ばれたリボン
が揺れる。
「あ、あそこのお店が『お味噌汁』の旗を出してる。とりあえずあの
お店に行ってみよう」
女の子はその店に入る。
「いらっしゃいませ~!ご注文はお決まりですか?」
「はい、お味噌汁一つお願いします」
「味噌はどの種類になさいますか?」
「えっ、お味噌の種類が幾つかあるんですか?」
「ああ、初めての方なんですね。はい、米味噌・麦味噌・豆味噌と
ございまして、それぞれに赤味噌と白味噌がございます。あと、
これらを配合した合わせ味噌がいくつかございます」
「そんなにあるんだ…全部を少しずつというのはさすがに図々しい
ですか?」
女の子は気まずそうに聞いた。しかし店の人は。
「いえ、そういう要望の方の為に菜譜に載せてございます」
すぐにそう答える。
「できるんだ…ならそれでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
そしてしばらくして…。
「お待たせしました」
小さいお椀に入った何種類もの味噌汁が運ばれてきた。
「わあ、こんなにあるんだ…いただきます」
そして全て食べ終わると…。
「ごちそうさまでした。やっぱり話で聞くのと自分で味わってみるの
じゃ全然違うなぁ。どの味もすごく美味しい」
そして女の子は少し考える。
「でも、ここが一番美味しいって感じはしないなぁ。他のお店も行って
みた方がいいのかな?…あの~すみません」
「はい、追加ですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが…こういう事を聞くのは失礼
だとは思うのですが、この街で一番お味噌汁が美味しいのってどの
お店ですか?」
その質問を聞いた店員さんは少し困った顔をした。
「あ、あの、ごめんなさい!こんな事聞かれても答えられないですよね。
すみません、忘れてください」
女の子がそう言って席を立とうとすると、店員さんが慌てて呼び止める。
「いえ、別に困るとか答えられないとかじゃないの。ただ、この街で一番
美味しいお味噌汁は、お店じゃ出ないのよ」
店員さんのその言葉に女の子はとまどう。
「お店じゃないって、どういう事ですか?」
「そもそもこのお味噌汁という食べ物はこの南郷郡の太守様の軍師を務めて
おられる諸葛亮様がお作りになったものが広まったものなの。そして、
どのお店がどれだけ頑張っても諸葛亮様の味には遠く及ばないという話
なのよ。…とは言っても私も話に聞いただけで実際に味わった事はないの
だけどね」
店員さんの話を聞いた女の子は肩を落とす。
「そうなんだ…料理修行の為に南郷郡名物のお味噌汁が一番美味しいお店を
探してたけど、さすがに軍師様に教えてもらうわけにもいかないな~」
その時、女の子の背後から声をかける人がいた。
「へぇ~、料理修行ねぇ。よかったらウチがその軍師様を紹介したろか?」
「えっ!?それはどういう…」
女の子が質問しようとする前に、店員さんがその人に声をかける。
「あら、張遼様、いらっしゃいませ。今日こそは少し位ツケの分を払って
下さるのですよね?」
その人…霞は店員さんの言葉に申し訳なさそうに答える。
「いや、そのつもりやったんけどな。ちょ~っと都合つかんくてな。次の
給金が入った時には必ず払うから、頼むさかい今回は勘弁して!」
霞がそう言うと、店員さんは盛大にため息をついて答える。
「はあ~~っ…張遼様、その台詞もう五回目ですけど。一体何時になったら
給金でツケを完済できるんですか?」
「うっ…それは、え~と、今度こそは必ず、絶対に約束するさかいな!
この通り!」
霞はそう言って店員さんに手を合わせる。
「はぁ~、わかりました。でも、次の給金で支払いが無かった時は太守様に訴え
ますからね。か・な・ら・ず!お願いしますよ。」
「う、了解や。じゃ、そういう事で一杯…」
「だ・め・で・す!!支払いがあるまで張遼様は飲食禁止です!!」
「あ、あの~…」
霞と店員さんの会話から置き去りにされていた女の子がようやく口を挟む。
「あ、そうやった。すっかり忘れとったわ」
「…ははは、はぁ~。ところで今軍師様に紹介してくれるって仰ってましたけど、
お知り合いなのですか?」
「知り合いも何も、この人は太守様にお仕えする筆頭将軍の張遼様です」
店員さんがそう紹介すると女の子は驚きの声をあげる。
「えっ!?将軍様なんですか?それは失礼しました。…でも」
「でも、何や?」
「何で、筆頭将軍様とあろうお方がツケをためてるのですか?」
「うっ…痛いとこ衝くなぁ~」
女の子の言葉に霞は言葉を詰まらせる。
「そうです、この人の言う通りです。筆頭将軍ともあろうお方がこの不始末では
太守様の御名に傷がつきますよ」
「それはそうなんやけどな…って、ウチのツケの話ばかりしてる場合やない。
あんたはこの街で一番美味しい諸葛亮の味噌汁が食べたいんやろ?だったら
ウチが紹介したるさかい、すぐ行こか」
そう言うと、霞は女の子を連れてその店から去っていった。
「はぁ~、何だかんだ言ってまた逃げるんだから張遼様は…仕方ない、気長に
待つとしますか」
店から離れてしばらくして、女の子が霞に話しかける。
「あ、あの、ありがとうございます。張遼様」
「ええって、ええって。どうせあのままあの店におっても飲み食いできへん
かったしな…ええっと」
霞が口ごもると、女の子は気付いたように答える。
「あっ、そうでした。私は典韋と申します」
「典韋か、改めてよろしゅう。ところで典韋は料理修行で来たとか言っとった
けど、料理人なんか?」
「いえ、昔から自分で料理をするのが好きで、どうせなら美味しい物をと
やっているうちに結構皆から褒めてもらえるようにはなったんですけど
それで生計を立てているわけでは…」
「ふうん、それじゃ修行の間に生活するのはどうするん?」
「お店で修行できれば、住み込みで働かせてもらおうと思ってたんですけど…
あ、あの、何でもしますんでお城で働かせてもらう事は出来ませんか?」
典韋がそう言うと、霞は少し考えてから答える。
「料理の他には得意な事ってあるんか?」
「料理の他ですか…多少の力仕事なら」
「力仕事!?…ほんまに?」
霞は疑わしげに典韋を見る。典韋の体は小さく、とても力仕事が出来るように
は見えないからだ。
典韋が何かを言おうとした時、何かが崩れるような大きな音が聞こえた。
「何や一体!?」
「あっちの方みたいです!」
二人が現場に着いてみると、大きな荷車が店先に突っ込んでいた。少し離れた
所では、数人の男達が暴れている馬を必死に抑えている。
「どうした!?何があったんや!?」
「あっ、張遼様!実はあの馬が急に暴れだして、引いていた荷車はあの店に突っ
込んでしまい、なおも暴れてる馬を何とか抑えようと…」
その時、暴れ馬が抑えを振り払って二人の方へ突っ込んで来た。
「やばい!…馬を斬りとうはなかったけど、仕方ない…」
霞が偃月刀を構えようとした瞬間、典韋が馬の前に躍り出る。
「アホ!下がれ、典韋!!一人で抑えられるわけが…」
霞がそう言いかけた時、典韋は馬の鼻面を抑え、一気に地面に叩きつける。
なおも馬は暴れようとするが…。
「どおぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
典韋は一気に馬を持ち上げ、再び地面に叩きつけた。
その衝撃で気絶したのか、馬の動きが止まった。
「ふう、良かった止められて。皆さんお怪我は無いですか?」
典韋が皆に問いかけるが、皆今の展開についていけず、開いた口が塞がらない
状態になっている。
「あ、あれ?どうしたんですか??」
典韋は戸惑いを見せるが…。
「…いや、あんなの目の前で見せられたら、誰でもそうなるって。でも、これなら
確かに力仕事は得意そうやな…」
他の皆より早く立ち直った霞がそう呟いた。
「まあ、料理が得意でしかもあれだけの力があるんやったら、仕事はナンボでも
あるし心配ないで」
暴れ馬騒動が収まった後、改めて城へと向かう道すがら霞は典韋にそう話していた。
「そうですか!?…良かった。ちょっとだけ心配してたんです。手持ちのお金も少ない
し、もし仕事が無かったらどうしようって」
そして二人が城の門前に来た時。
「あれ、霞?今日は非番じゃなかったっけ?」
たまたま門前にいた一刀が霞に話しかける。
「おお~っ、一刀!ちょうど良かった。実はこの娘、典韋っていうんやけど、この娘を
朱里に会わせたいんやけどな」
「朱里に?そりゃまたどうして?」
一刀はそう言って典韋の方を向く。一刀の顔を見たその瞬間、典韋は驚きの声をあげる。
「えっ、…兄様!?」
その声に一刀と霞は戸惑いを見せる。
「何や、一刀はこの娘と会った事があるんか?」
「へっ!?…いや、間違いなく初対面だけど?」
「あ、あの、すみません。知ってる人に良く似ていたんで…」
典韋がそう謝る。
「そうだったんだ。そんなに良く似てるのかな?」
「はい、本当に生き写しみたいに…」
「それじゃ、その人が現れた時は気をつけないとね」
「…それはないです、その人はもう亡くなってますので」
「…ごめん、余計な事を言ったようだね」
「いえ、大丈夫です。…ええっと」
「ああっと、ごめん。俺は北郷一刀だ」
「…北郷って、もしかして太守様!?失礼しました!!」
典韋はそのまま勢い良く平伏する。
「へっ!?…そんなに畏まる事はないから、ね」
「は、はい」
そして三人は城の中へ入っていった。しかし典韋の心中は…。
(やっぱり似てる…五年前に死んだ兄様に。笑った顔も優しい所も…
これって運命なのかなぁ…)
「話はわかりました。典韋さん、私で良ければお味噌汁の作り方を
お教えします」
俺と霞の話を聞いた朱里は快く典韋の願いを聞いた。
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「但し、一つだけ条件があります」
「何ですか?」
「典韋さんが我が軍の将として仕えてくれる事です」
朱里の出した条件に典韋は驚きを隠せない。
「私が将ですか!?そんな、私なんて…」
「典韋さんが暴れ馬を一人で抑えた話は既に聞いています。その力を
見込んで、親衛隊の隊長になっていただきたいのです」
「親衛隊…という事は、北郷様の身辺警護の任という事ですか?」
「そういう事になりますが…何か問題でも?」
「いえ、そういうわけでは…でも、私なんかで務まるのでしょうか?」
「『無理だな、そうやって“私なんかが”なんて言っているうちはな』
…俺達の国ではそういう言葉がある。典韋が嫌なものを無理やりさせる
つもりもないけどね」
…何か思いつくままに言ってみたものの、ドン引きされるだろうか?
「…そうですよね。わかりました!私で良ければ喜んでお引き受けします」
「自分で提案して何ですけど、本当にいいのですか?別に断ったら絶対に
お味噌汁の作り方を教えないとかいうわけではないですよ?」
…自分で条件に出しといてとか思うが、後が怖いので黙っておこうと思った
のは秘密だ…。
しかし典韋は迷う事無く答える。
「皆さんが私の事をかってくれているのですから、精一杯応えるだけです」
そこまで決意してくれているのであれば、これ以上言う事も無い。
「ありがとう、典韋。これからもよろしく」
「はい!私の真名は『流琉』といいます。こちらこそよろしくお願いします、
北郷様」
「俺の事は一刀と呼んでくれ。それが真名みたいなものだからね」
俺がそう言うと、流琉はためらいがちに…。
「あ、あの、『兄様』って呼んでもいいですか?」
「えっ、『兄様』…?あ、そういえばさっき俺に似ている人がいたとか言っ
てたあれの事?」
「…はい、兄様と言っても本当の兄ではなく、同じ村に住んでた遠縁の親戚
だったんですけど、兄妹のように育ったんで兄様って呼んでたんです。
…五年前に賊討伐の軍に参加して戦死したのですけどね」
「その人が俺に似ているという事?」
「はい、ちょうど戦死した頃のあの人に…って失礼ですよね。これじゃ」
「いや、別にそういうわけでは…流琉が俺をそう呼びたいのなら好きにすれば
いいよ。俺はその人のようにいい兄貴分にはなれないかもしれないけどね」
「ありがとうございます、兄様!…いい兄貴分になれないなんてそんな事はない
です!兄様は同じ位お優しいです!!」
兄様か…こんな可愛い娘にそう呼んでもらえるのも悪くない。何だか俺に向け
られる朱里の目が怖いような気もするがそれはきっと気のせいだ…うん、そう
思おう。
こうして典韋こと流琉が仲間になった。これで不足気味だった武官の方も多少
はマシになっただろうか。
次の日、さっそく朱里が流琉に味噌汁の作り方を教えていた。
「こうやってお出汁をとって、それから…」
「お味噌の量はこの位でいいのですか?」
流琉は元々料理上手なだけあって飲み込みも早いようだ。性格も真面目だし、
これは良い娘が仲間になったな。
「兄様、味見をお願いしてもいいですか?」
「ああ、任せとけ」
~流琉の村~
村の人が旅の商隊から渡された手紙の宛名を見て話をしている。
「あれ、この手紙、流琉宛だ」
「誰からだ?」
「季衣からみたいだけど…」
「でも流琉は数日前に料理修行とかで出て行っちまっただろう」
「どこへ行ったかは知らないのか?」
「行き先までは…落ち着いたら連絡するとか言ってたけど」
「それじゃ仕方ない。連絡が来てからそこへその手紙を送るしかないんじゃないのか?」
「そうするか」
…わずか数日の差でこの手紙が手元に届かなかった事が季衣と流琉の運命を変える事になる
など、この時は誰も思わなかったのであった。
続く(と思うのである)
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は流琉が仲間になりました。
しかし我が北郷軍の武官は魏から引き抜いてばかりですね…。
そしてやはり流琉には一刀を「兄様」と呼ばせなければならない!…という
私個人の妄想から、死んだ兄貴分の男の人の設定を作り、その人が一刀に
似ているから兄様と呼ぶという強引な展開になりました。不快に感じられる
方もいらっしゃるかと思いますが、ご容赦のほどを。
それでは次回、外史編ノ十八でお会いいたしましょう。
追伸 反董卓連合編はもう少し先になります。
Tweet |
|
|
70
|
3
|
追加するフォルダを選択
今回は新たな出会いがあります。
リクエストのあったあの娘が登場です。
とりあえずはご覧下さい。