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鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第六二話

NDさん

次回、最終章

2012-06-19 18:07:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1600   閲覧ユーザー数:1571

~ライマ国騎士団~

 

『痛みますか?』

 

ナタリアは、右手に風穴を開けたアッシュの治療をしていた。

 

下手をすれば、右手消失の障害者になる可能性があったからだ。

 

エドの習う錬金術等を使えば、治療錬金術で治せる速度は早まるのだが、

 

エドに関してもそれは『難しい』らしい。

 

賢者の石さえあれば、一瞬で治す事も可能らしいのだが。

 

それも相当な技術があってのこそだろう。

 

『痛みはしない』

 

だが、今の彼の右手に風穴は無い。

 

ナタリアは、右手の治療をしているのでは無くて、

 

治すとき、少しだけズレた肉を治療しているのだ。

 

ゲーデの持つ大量の賢者の石を使い、アッシュの治療を試みたのだが

 

人間の情報がやや足りなく、少々不完全な物になってしまった。

 

復活の肉と繊維が少々多かったのだ。

 

その不完全なせいで、拒絶反応もあり、激痛が走る。

 

本人いわく

 

≪風穴が空いてた方がマシだ!!≫らしい。

 

しかし、物は少々握りやすくなっている為、そこまで文句は言えないだろうと、追言はしなかった。

 

だが、アッシュは礼を言わず立ち去った為、エド達の所で『今度から魔物の手にしてやろうぜ』と言う対談が行われていた。

 

『………所で、そこのお方は』

 

『ラザリスだ。貴様ら人間にそれ以上の紹介はしない。』

 

『いえ、それは知っております。』

 

ナタリアは即答すると、次にジェイドに顔を向けた。

 

ジェイドは笑顔で答えた。

 

『いやだって、エドワード君がどうしてもって言うから……ねぇ?』

 

『俺に責任を持ってくるな!いや、元から無い責任を俺に背負わせるなぁ!!!』

 

話を降られたエドは、瞬時にジェイドを睨みつけてから、次にナタリアを睨みつけた。

 

『……とりあえず文句はこいつに行ってくれ王妃様。こいつが全ての元凶だからよ』

 

そう言って、エドは親指でゲーデを指差した

 

ゲーデは別の方向を向いて、窓の外の世界樹を睨みつけていた。

 

この状況で多分、彼は今の話を聞いていないだろう。

 

『……ゲーデ。貴方が連れてきたその者について、御説明願い出来ますか?』

 

ナタリアの言葉により、ゲーデは正面に向きなおし、真っ直ぐとナタリアの顔を見ながら発言した。

 

『目的が同じだから連れてきた。』

 

『それだけ………』

 

その説明を聞くと、ナタリアはしばし考え唸った。

 

ナタリア王妃が唸っている間に、そくささとスタンがエドの隣まで移動し、小声で相談を要した。

 

『なぁエドワード。本当にアイツをここに入れて大丈夫なのか?』

 

『まぁ大丈夫では無いな、人を殺してるし。だから事を終えて、あいつが暴れだしたら全力で討伐だ。』

 

『………”今は”大丈夫って事か……』

 

スタンも同じく、唸り、顔を若干しかめて悩み始めた。

 

また、その他の者もラザリスの風貌を見て、これから仲間となる事の不安を露骨にしている者もちらほら居る。

 

『……それに、ヴェラトローパの壁画にあった説、あれを読んだ奴なら分かるがこいつはこの世界の最初から裏側で存在していたんだ。』

 

『……………』

 

知る者は理解し、

 

知らぬ者は初めて知る情報に驚いた。

 

『それが、もう一つの理由かもな』

 

そう言って、ゲーデは再び窓の方へと目を向けた。

 

『どう言う事?』

 

『つまりだ』

 

ゲーデが説明する瞬間、エドは全てを理解した。

 

同時に、他の者も察しがついた者も居るだろう。

 

『………こいつは、世界が全てを皆殺しにする日を何回も目撃している可能性がある……』

 

実際に答えを言ったのはエドだったが

 

『その通りだ』

 

『つまり……それが分かって、何になるって言うんだ?』

 

スタンが良く分からなそうに首を傾げた

 

『……お前はもう少し頭に仕事を増やしたらどうだ』

 

アッシュが皮肉をスタンにぶつけた

 

『で、実際の所どうなのよ?』

 

ルーティが腫れものを見るかのようにラザリスを見つめて言った。

 

『貴様ら人間に伝える義務は無い』

 

ラザリスは見下した目で答えた。

 

『………………』

 

女同士の緊迫した視線のぶつかり合いが、音を立てて空虚の空間に響いた。

 

その音を聞いてほとんどの者が一言も発言しようとしなかったが、そう言うわけにもいかない。

 

エドは、ちらりとゲーデを睨んだ。

 

ゲーデは舌打ちしながらラザリスを呼んだ。

 

『それは俺も興味がある。俺の目的の為にも何時始まるのかその口で伝えて欲しい』

 

『………君になら構わないけれど』

 

ラザリスは俯き、腕を組みながら発言した

 

『こいつらには教える義理は無い。一つの空間にお前と二人きりの時に話してやる』

 

『駄目だ待てん。ここで言え』

 

『………っ!人間にも情報を漏らせと言うのかい!?』

 

『言わなければ、後にお前が後悔する事になるぞ』

 

その発言のやり取りを見る限り、カップルに見えなくもないが

 

実際は、人間が皆殺しにされるかされないかの日の報告である。

 

ラザリスの発言を聞く限り、皆殺しの日は恐らくだが知っている。

 

完全では無い……のだがな。

 

『それに、ここで食い止めなければまた再びこの世界は力を取り戻し、お前も再び取り組まれる形になるだろう。今度は何時弱体化するかわからない。もしくはお前の世界も皆殺しにされる可能性だってある』

 

『…………』

 

ラザリスは、ゲーデの話一つ一つを耳に入れて、

 

疑問をゲーデの言葉にぶつけた。

 

『今までは、殺されなかった』

 

『だが?お前がこの世界に出てこれたのは何度目だ?』

 

『……………』

 

ラザリスは、何も言えなくなった。

 

『そうだ。お前がここに来たのは今回が”初めて”だ。この世界の主が生物ならば、害虫は駆除するのが当然だろう。』

 

ゲーデは人差し指をラザリスの目の前に突き出し、一歩一歩彼女の前へと歩んで行った。

 

『つまり、人間を厄介者に変え、世界を取り組もうとしているお前は、間違いなく世界から”駆除”される』

 

『…………!!!』

 

ラザリスの表情が変わった。

 

その表情は、嫉妬、怒り、憎悪、理不尽

 

そして恐怖

 

それらの感情が入り混じった表情

 

『人間の所為と同じだ。家畜に危害を加える害獣を狩猟するように、この世界も家畜である人間に危害を加えるお前を許さないだろうからな。』

 

『……………僕が……駆除……』

 

『ディセンダ―が人間を超えた人種……いや、世界樹から生まれた魔物だってなら、数多い奴らの方が力が上の可能性もある。』

 

ゲーデは人差し指を戻し、手を下ろし、ラザリスから一歩離れていく。

 

『ある意味、人間より性質の悪い生物だよ』

 

世界樹が行う、全ての問題も掻き消される日

 

はっきり言えば、それは恐ろしく幼稚で、恐ろしく残酷で、恐ろしく無意味だった。

 

何度も生きて、生きて、何度も世界を無にして、作って、無にして

 

何が、目的なのだろうか

 

世界は、何がしたいのだろうか。

 

世界は、どうしてそこまで生きる事にこだわるのだろうか。

 

多くの物を、犠牲にして………

 

『………………』

 

ラザリスはまっすぐゲーデの目を見て、震え、唇を噛み、半分瞳に涙を浮かべた。

 

今まで怨んできた人間、だが、それ以上に外道な世界樹

 

今、ようやく人間は真理に辿り着き、世界を討伐しようと動いている。

 

自分は、その世界も恨み、人間も恨み

 

ただ、嫉妬しているだけ

 

自分は、何をしているのだろう。

 

自分は、何もしていないのだろう。

 

ただ、誰かが持っている絆や仲間を羨んで

 

自分と言う存在を安全に持っている者を妬んで

 

ただ、悔しくて泣いているだけだ。

 

そんな自分の存在意味は何だ?

 

生きたかった筈なのに、生きる意味が分からない。

 

人間だって、生きたい筈なのに

 

生きる為なら、なんでもする筈なのに

 

もっと強くなって、もっと長く生きられるように……

 

………あれ

 

人間って

 

僕と、同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう悟った時、ラザリスは大きく目をつむり、

 

安らかな表情になった後

 

その場から、倒れ込んだ。

 

『ラザリス!?』

 

その場に居た多くの物が、ラザリスの元へと駆けよった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ライマ国騎士団 医務室~

 

『――――……』

 

何かが聞こえる

 

『――――――――……』

 

人間の声が聞こえる

 

何故だろう

 

嫌いな人間の筈なのに

 

不思議と、憎悪の念が出ない。

 

『―――――ザ…』

 

ああそうか。

 

僕は、人間と同じなんだっけか

 

『――――ラザ……』

 

僕は人間なんだっけ

 

『―――――ラザリ……』

 

人間

 

違う

 

僕は……

 

違う世界の……

 

『ラザリス』

 

声が聞こえた

 

人間の

 

人間じゃない声

 

目を開けると、うすらぼんやりだが大勢居た

 

ほとんどが人間で

 

その中で一人

 

人間じゃない、僕の仲間の……

 

『おい、ラザリス』

 

『…………』

 

そいつの手は、少し冷たかった。

 

だけど、少しだけ温かかった。

 

まるで、人間のようだ。

 

『起きたか』

 

『……………』

 

辺りを見渡すと、多くの人間が居た。

 

多くの人間が僕に注目して、安心した表情をしている。

 

僕は、目を覚ましたにも関わらずだ。

 

どうして

 

『なんで、こいつらは喜んでるんだ。』

 

『お仲間が、目を覚ましたからだろ』

 

そう答えたのは、厚底履いたチビだった。

 

『俺達人間は、例えどんだけ人間離れした化け物だろうと、例えば虫だろうと、仲間だったら誰でも心配する生き物なんだよ』

 

心配

 

僕が

 

心配?

 

『……僕は、君たち人間の大勢を殺した』

 

『だが、仲間だ』

 

『………僕を、許すと言うのか?』

 

『ああ?何回も言ってるだろ、絶対許さねえって』

 

チビは、僕に指を指して答えた。

 

『だから、それのツケは絶対に払わせるつもりだ。お前、人間の英雄になれ』

 

『………ああ?』

 

『言い方が悪かったか?』

 

『当たり前だ』

 

僕がそう答えると、チビは悪意ある笑顔で僕の顔を見て

 

指差して笑っていた。

 

『じゃぁ、それで良いや』

 

『!!』

 

そう言われて、僕の怒りは爆発しそうになった。

 

そくささと逃げ出そうとするチビに、僕は激しい声を出した

 

『おい!!このチビ……』

 

『止めとけ、人間臭いぞ』

 

ゲーデは、腕を組んでそう呟いた。

 

僕は、腕を震わしながらベッドに腰をかけた。

 

顔が真っ赤なのが分かる。当然怒りでだ。

 

『………前にも言ったが、俺も人間の為に世界を滅ぼそうとしているわけじゃない。』

 

『…………』

 

そう言ってくる彼に、僕は睨みつけるように彼を見つめた。

 

『…お前はこれに、耐えられるのか?』

 

『耐える耐えないの問題じゃない。俺達がやらなければいけないんだよ。』

 

そう言って、ゲーデはベッドの傍の椅子に腰をかけた。

 

『俺達自身の問題の為にな』

 

『…………』

 

『俺は、その為に人間を巻き込ませていると言っていい。』

 

ゲーデは、人間たちの方の顔を見た。

 

『あいつらは、俺を利用していると思いがちだがな。そうはさせねぇ』

 

『…………』

 

『誰の思い通りにもならない。俺は、俺達は、俺達の目的の為に世界をぶっ壊す。』

 

『それで良いのかい?』

 

『これ以上の最高な答えは無い』

 

そう言って、ゲーデは優しい微笑みをラザリスにかけた

 

『だから、その為にお前が必要なんだ』

 

『…………!!』

 

その答えを聞いた瞬間、ゲーデの顔を見た瞬間、

 

自分の中の何かが激動しているのが分かった。

 

それが何なのか分からない

 

だが、気のせいでは無いだろう。

 

まともに、彼の顔が見れなくなってしまっている自分が居る。

 

そんな自分が恥ずかしくあり、嫌いであり、自己嫌悪した。

 

『なんとなく分かってるんだろう?教えてくれ。世界に勝つには、お前が必要なんだ。』

 

『……………』

 

まともに口が動かない。

 

まともに目が見れない。

 

 

 

 

『教えなければ、お前も死ぬぞ』

 

その言葉で、決心がついた。

 

自分の中の、何かが壊れた様な気がした。

 

『………………』

 

だが、ラザリスはまだ俯いたまま何も答えなかった。

 

『………………』

 

その様子を見たゲーデも、何も答えない。

 

周囲も、緊張感持った感情で、誰も言葉を発さなかった。

 

その時間が永遠の様にも長く、誰もが息苦しい感覚に襲われた。

 

『……………死にたいのか?』

 

『……死にたくない』

 

そう答えた後、ラザリスは一度布団を強く握り締めた。

 

握りしめて、しばらく深く俯いた。

 

その様子を、ただゲーデは見ていた。

 

しばらくして、ラザリスは大人しくなり

 

布団を掴む力が次第に弱くなっていった。

 

『……………』

 

そして、顔を上げてゲーデを見た。

 

『死にたくない』

 

次に騎士団の方へと前へ向いた

 

『僕は、君たち人間の憎悪より、自分の命を守る法を選ぶよ。』

 

『ほほう』

 

そう答えたラザリスに、一番嬉しそうな顔をしたのはジェイドだった。

 

『それじゃぁ、教えてくれるな?』

 

そう質問をしたのは、エドだった。

 

『言い方がなって無い』

 

『よし、口が裂けるまでぶん殴ってやろう』

 

そう言って、エドは拳を振り上げた

 

『待てエド、俺から頼む』

 

ゲーデがそう言うと、ラザリスは舌打ちをした。

 

『…………やはり、場所は君が決めるんだな』

 

『ああ。その方が効率が良いからな。』

 

そう言うと、ラザリスは再び前を向いて、

 

自分への発言を、許した

 

『この世界は、この世界の時間感覚だと後二日で世界は全ての生物を殺すだろう』

 

全てを話した後

 

全員は

 

驚きを隠せないまま

 

そのまま、固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『………二日ぁ!?』

 

『そんな……もうそこまで時間は削られていたのですか……!?』

 

『その通りだよ。君たち人間が資源を使い続けたのも理由の一つだろうけどね』

 

残り二日

 

『二日………』

 

エドは、その極端に残り少ない日数に愕然とした。

 

不安が

 

不安が、身体の奥から滲み湧いてきたのだ。

 

間に合うのか

 

俺は

 

その二日だけで、準備が出来るのか

 

人が死ぬのだぞ

 

大勢……いや、最悪全員

 

『……………』

 

最早、選択の余地も無い

 

その二日の間、なんとかするしかないのだ

 

なんとか……

 

 

人類を、救うために

 

世界を、滅ぼす

 

その、準備が

 

『二日……ですか…』

 

ジェイドが、しばし考える仕草をする。

 

しばらくした後、すこやかに微笑んで答えた。

 

『まぁ、なんとか間に合いますね』

 

『!?』

 

一瞬、ジェイドの言っている事が理解できなかった

 

『おい、小国と戦争するのとは訳が違うんだぞ。ウリズン帝国の時だって……』

 

『ええ。それは大砲や武器を調達する時間が押しましたね。』

 

そして、グルリと首を動かし、エドとアルの方向を見た

 

『しかし、ここには幸いなことに錬金術師が居ます。』

 

『……………』

 

エドとアルは、ジェイドの意図を瞬時に理解した

 

『調達部類、必要事項は各自私が直々に騎士団員にお伝えしますので、どうか任務を全うさせてくださいね。』

 

『上等だ大佐コラ。腰抜かすほどの武器を大量に見せびらかしてやる』

 

『それは格好なご条件で』

 

エドは中指を立てた手をジェイドに見せた。

 

ジェイドは無視して、次にゲーデの方へと向いた。

 

『更に、ここに巨大な力を持つ者も在属し』

 

次に、ラザリスを向いた

 

『もう一つの世界も居ます』

 

そして壇に登り、堂々と公言した。

 

『これだけ揃えば、世界を討伐する事も不可能じゃ無いんじゃないでしょうか。』

 

『…………』

 

だが、これでもやはり説得力に弱い

 

『まぁ最悪、アドリビドムに居るマスタングさんに世界樹を燃やしてしまえば済む話ですしね。』

 

その言葉を発した時、辺りに静寂が響いた。

 

『………多分、それは無理なんじゃ無いでしょうか』

 

意外にも口を開いたのは、ナタリア王妃だった。

 

『その方が、いくら有能な錬金術師だとしても、世界樹を燃やす事は簡単ではありません。完全物質と呼ばれている”それ”は、火の抵抗には強いのです。』

 

それは、人の慈悲に向けた言葉だったが

 

『じゃぁ、自爆技してもらえば良いな』

 

と、エドは笑顔で言った。

 

その言葉を聞いて、まずしばらく沈黙、そして最初に声を出したのはルークだった

 

『………くっ!』

 

笑いを堪える声だった。

 

『まぁ、それは冗談として』

 

エドは、再び向き直った。

 

『で、どこから錬成しますか?大佐さん?』

 

嫌味たっぷりの言い方で言ったその言葉は、

 

ジェイドは微笑みながら聞き流した

 

『それでは下僕さん。城の倉庫にある大量の鋼を大砲に変えて下さい。足りなかったら貴方の腕と足の奴も使えば良いですよ』

 

『ほーう………』

 

二人の間に険悪の雰囲気が

 

『まぁまぁ…』

 

アルは二人の間に宥めるように割って入った。

 

『とまぁ冗談はここまでにして…。緊急クエストとして騎士団全員に収集をつけておきます。なので貴方達は屋上から動かずに立って錬成して頂ければよろしいのです。』

 

『………けっ。人使いの荒い上司なこった』

 

『どうも』

 

ジェイドは、嬉しそうに微笑みながら答えた

 

『で、次にゲーデさんの方ですが』

 

『アンタの命令を受ける筋合いは無い。』

 

『そうですか。では何もしないでください。貴方の仰せなままに』

 

そう言って、ジェイドはすぐにゲーデに背を向けた

 

そのアッサリとした反応に、エドは若干イラっとした

 

『では』

 

ジェイドはそのまま受付へと歩き、受付にあるマイクを手に取り

 

言葉を発した。

 

『緊急クエストを開始致します。騎士団の方は全員ホールへ集合してください。』

 

 

 

 

 

 

 

 

ナタリア王女は、自室に戻り

 

一人、ベッドに腰をかけていた

 

『……………』

 

ジェイドとアッシュから言われた言葉

 

≪貴方は、そこで我々の勝利を願って居て欲しい。それだけで有意義な存在意義が有る≫

 

本当に

 

これで良いのか

 

私は

 

何もしなくても良いのだろうか。

 

私は……

 

頭の中で、そう張り巡らせながら

 

ただ、ベッドに腰をかけて溜息を吐いた。

 

『………………』

 

床のタイルの線を見て、目でナゾル

 

そのまま上に行きつき、壁へと行きつく。

 

壁へと行きつくと、壁の模様をなぞって上へと向かう。

 

その向こうには

 

剣が一つ存在した。

 

『……………』

 

いつからか

 

特別騎士団が誕生したその時から

 

≪私も、国を守る王妃ですので。剣を貰い受けます。≫

 

そう言って、

 

私はこの剣を壁に飾った。

 

それは、数年も経たない過去だった。

 

『…………っ!!』

 

ナタリア王妃は立ち上がり、その剣の飾られた壁へと向かった。

 

その剣を取り、腰に付け

 

衣服扉の方へと向かった。

 

『王妃!どこへ!?』

 

衣服扉の近くには、専属のメイドが掃除をしている時だった。

 

『私は、今は王妃ではありません。』

 

ナタリア王妃は、動きやすい服へと着替え

 

弓を取り出し

 

身だしなみを、全て一人で仕上げた所

 

振り向き、メイドの方へと顔を向けた

 

『勝手な行動を、今のうちに謝罪いたします』

 

そう言って、メイドを一人残しナタリア王妃は部屋から出て行った。

 

『アッシュ!』

 

ナタリアは、廊下を歩いていたアッシュを見つけ、その場へと歩んだ。

 

『お前…その格好…』

 

『私も、命をかけて戦います』

 

そう伝えた所、アッシュの表情は無表情をしばらく

 

そして、時間が経ったと共に豹変しナタリア王妃を怒鳴りつけた

 

『馬鹿な事を言うな!貴様はこの国の王妃なのだぞ!!』

 

ナタリア王妃の襟首を掴み、迫力を出した顔でナタリアを睨みつける

 

『貴様が死ねば……俺達の威厳にも、この国の政にも影響を及ぼすぞ!!』

 

『以前に、国を守れぬ王妃のどこに王妃の威厳が有るでしょう!』

 

『国を守る為に騎士団が居るのだ!王妃は、国をまとめる為に存在する!!』

 

『ならば貴方を守る者は誰でしょうか。』

 

ナタリアの言葉に、アッシュは迷わず答える

 

『騎士団を守るは、己自身。守れぬ者は死して当然だ』

 

『いいえ』

 

ナタリア王妃は、首を横に振った。

 

『騎士団を守るのは騎士団です。一人一人が守るのでは無く、一人が一人を、二人をも三人をも、守るのです』

 

『………ならば何だ?』

 

襟首を掴んでいた手が緩み、それを見たナタリア王妃はその手を掴み、優しく離した

 

『私は、国を守る為に騎士団を作りました。ですが、今は国だけではありません』

 

真っ直ぐ、アッシュの目を見て、手を握って答えた

 

『この世界を、私を存在の誕生を祝福してくれたこの世界を、正しい道へと戻し、この世界の住民全てを救う為に、私達は戦うのです。』

 

そう言われ、アッシュは

 

ナタリアの手を振りほどき、どこかへと去って行った。

 

『馬鹿な』

 

そう、小さく呟きながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラザリスは、ゲーデと同じ部屋へと割り振られ、その場で二人、世界が生物を皆殺しにする日を待つ。

 

『…………』

 

ゲーデは、世界樹の方向を見る。

 

いつもと変わらぬその樹

 

以前の世界の世界樹と、それはそっくりであった。

 

『…………ふん』

 

あそこに、俺の目的が存在する

 

今や、人類やもう一つの世界を味方につけて

 

更に自分の身体には大量の人間の命が入っている。

 

これ程の力をこちらは持っているというのに、

 

まだ、不安があふれ出てくる。

 

この不安は何だ。

 

疑問を感じながら、震える手を見てイラついた。

 

『……大丈夫かい?』

 

後ろで、ラザリスがソファに座り、停止するように止まっていた。

 

その状態から、口だけを動かしゲーデに言葉を放った

 

『お前は自信があるのか?明後日、この世界に打ち勝つ自信が』

 

『自信なんて。どうせ僕たちが負けたら全て消えるんだ。勝つ事だけを考える事にしてるよ。』

 

『…………あっそ』

 

勝つことだけを考える

 

それは、なかなか良い考えかもしれぬと考えたが、

 

以前の世界ではネガティブな発想しか出来なかった為、勝利の妄想が得意でなかった。

 

『くそったれ』

 

小さく、頭を抱えながらそう呟いた。

 

『………ゲーデ』

 

『……………』

 

ラザリスの言葉に、反応しないかのようにただ、ゲーデはじっと窓を見ていた。

 

『……君は、誰かに興味を持った事は…あるかい?』

 

『ある』

 

『!!』

 

即答に答えられたラザリスは、そのまま飛びあがるかのような反応をした。

 

『前の世界に滞在した奴で、俺を殺そうとしたディセンダーと、あのチビだな。今ん所』

 

『…………』

 

その二人しか上げられなかった事で、ラザリスはそっぽを向いた。

 

雰囲気から、物凄い怒のオーラのような物を纏っているのが身から分かった。

 

『……僕の世界には、興味を抱いた事は無いかい?』

 

『いや全然。”住みにくそう”とかなら思った事あるぞ』

 

『…………』

 

今度は、哀のオーラのような物が湧きあがっていた。

 

『だが、まぁ。お前の事は別に嫌いじゃないな。』

 

『………!!』

 

その言葉から、喜と恥のオーラが混ざり、赤っぽいオレンジのようなオーラが出来上がった。

 

『この世界と共に生きてきたお前なら、この世界を打ち勝つ力くらいは持っていそうな者だしな。』

 

『……ふふ。僕はこの世界を憎みながらずっと生きて来たんだ。その間に力も蓄積されている。勝てない試合じゃないよ。』

 

『そうか。じゃぁ期待してるぞ』

 

そう言って、再びゲーデは世界樹の方へと目を向けた。

 

二日後、行われるであろう戦争を考えて。

 

腹の中に有る、40万を超える人間の命と共に

 

ラザリスは、自信の中にある妙な感情に

 

疑問を感じながらも、悪い気分がしなかった。

 

”ゲーデが欲しい”

 

ラザリスの中には、そんな感情が”生きたい”という感情と共に渦巻いていた。

 

その奥で、人間二人が笑いながらこの部屋を覗いていた。

 

モジモジしているラザリスを見て、クスクスと笑っていた。

 

『ゲーデ』

 

『ん?どうした』

 

『ちょっと人殺してくる』

 

そう言って、ラザリスは立ち上がり、廊下へと向かった。

 

廊下から、走り逃げる足音が聞こえる。

 

それを、追いかけるようにラザリスは走りだした

 

『おーう。頑張れよー』

 

ゲーデはそう言って、あまり興味を持たずに世界樹を眺めた。

 

廊下から、二人の人間の絶叫が聞こえたが、ゲーデは特に気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『くっはぁー!疲れたぁー。ちょっと休ませろ』

 

『まだ半分も行っていませんよ。頑張ってくださいエドワード君』

 

エドは、何度も手を叩き、大砲や砲弾、銃弾を錬成してから疲れて大の字で眠った。

 

『休ませろっつってんだろうが大佐コラァ!!』

 

だが、すぐさまに半身を起こした

 

『これくらいでなんですか。人類が皆殺しの日まで後1日しか無いのですよ。休憩なんてものは無いと思ってください。』

 

『もう6時間も錬成しっぱなしだぞ!いくつ作る気じゃてめぇコラァ!!』

 

エドとアルの後ろには大量の破壊兵器が作られている。

 

巨大大砲や、ボウガンや、巨大ハンマー等様々。

 

『先ほど、リリスとアニスが原因不明の打撲と骨折を患い、戦闘として不十分な部分が現れたので、更に多くの武器を要するのです。』

 

『あーっ!畜生!!役に立たねえ奴らだなぁ!!』

 

エドが、駄々をこねている間に、アルは作業を進めていた。

 

『兄さんも手伝ってよ。この兵器、かなりの部品を要するんだよ。』

 

『………その兵器も作るの、俺達だろ』

 

『良いじゃない兄さん。錬金術さえ有れば、パパッと作れちゃうんだから。ね?』

 

『……………』

 

エドは、しかめっ面してアルを見上げた。

 

『ほら、立って立って。』

 

『だぁ――――…めんどくせぇなぁ―――……』

 

エドは、そう呟きながら、満点な夜空を見上げた。

 

特別晴れた今日は、特に星空が綺麗だった。

 

『………』

 

だが、エドが元に居た世界とは、やはり星空が違う。

 

星の光は似てはいるが、自分が居た世界の物とは配置も形も違うのだ。

 

『ウィンリィも、ばっちゃんも、この星空を見てねえんだよな…』

 

『何か言いましたか?』

 

『いんや、何も』

 

そう言って、エドは腕を上げて、星空に向かって突き上げた。

 

今にも掴めそうなほど輝く星空

 

その星空に向かって、手を伸ばして、握った。

 

決して星なんて掴めていないけれど、エドの考えた、思った、願った

 

一つの願いは、覚悟は、そこで全て掴めた。

 

『やってやるよ。かかってきな』

 

エドは、この世界の星空に向かって、そう呟いた。

 

 

 

 

 

全ての問題が掻き消される日まで、後1日


 
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