No.439041

泡になる条件【リメイク】

白田まこさん

前に書いた作品のリメイクになります。文字おもいっきり間違えてました。恥ずかしい……。
■アドバイスありがとうございました。時空モノガタリに、リメイク版あげました。
http://www.jiku-monogatari.jp/entry/?mode=disp&key=430&lid=&sort=&word=C120430114152&page=1 です。よろしければ閲覧・評価お願いします。

2012-06-18 22:27:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:652   閲覧ユーザー数:641

 当初、王子は街一番の美しい娘と結婚するはずだった。だが結婚式の前日、娘は死んだ。次に選ばれたのは前の娘に負けず劣らずの美しい娘。この娘も結婚式を控えた数日前に死に、また次の娘も死んだ。王子は彼女らの葬式に出る事はなかった。その為、婚約を嫌がった王子の手により殺されたのでは、という噂が次第に囁かれるようになっていた。

 それでも次から次へと娘たちは選ばれた。自分の娘が王子によって殺されるかも知れない。だが、王子の婚約者となれば、それだけで最高の地位と金が手に入る。大人達は娘を担保に命がけの賭けを楽しんでいた。

 そして、次に選ばれたのは私だった。

見目美しい城は、まるで牢屋のようだった。王子との顔合わせは、呆気にとられるくらいあっさりと過ぎた。王子は私を一瞥すると、直ぐに何処かへ行ってしまった。

私は部屋へと逃げた。布団を頭から被り、未知の恐怖に怯えた。

ふと、何かの気配を感じ、私は急いでベッドから跳ね起きた。見るとベッドの脇に一人のランプを持った老女が立っていた。

「あら、起きてたんですか」

 ランプの灯が揺れた。皺だらけの垂れきった顔と、それとは対照的な皺ひとつない質素な作業服が暗闇にぷかりと浮かびあがっていた。

混乱する私に、老女は「本日付で貴女のお世話係を任されました」と挨拶をしてきた。どこか田舎訛りな声に故郷の影を感じた。何処か遠い国から来たのだろう。相手が王子でなかった事に、私は胸をなでおろした。

「眠れないのですか?」

「……えぇ」

「ではしばしの間、私が話し相手になりましょう。あぁその前に私、脚が悪いんです。椅子に腰かけてもよろしいでしょうか」

「えぇ」

 老女は礼をいい、ベッドの横の椅子に腰をかけた。

「すみません、もうボロがきているようで」と自分の脚をさすった。スカートで隠れて見えないがかなり細い脚だ。

「貴女、ここに来て長いの?」

「いいえ、数ヶ月ほど前からここで働かせてもらっています」

「そう」

「そういえば、初めて王子に会ったのでしょう。どうでした。結婚したいですか?」

 老女は妙な質問をしてきた。結婚したいかだなんてそんな事自分で決められる訳ないのに。学がなさそうだし、結婚を自分の意思で選べるとでも思っているのだろうか。

「王子、貴女に興味を示さなかったでしょう」老女は断言した。「王子はね。恋をしているのです」

「誰に?」と言う問いを聞かぬまま、老女は「人魚姫に恋をしているのです」と言い放った。

「数ヶ月前、海が大きく荒れていた日の事です。王子が船の甲板から海へ落ちてしまったんです。そしてその時、世にも美しい娘に命を助けられた。それ以来、王子はその娘にこころを奪われてしまったんです。

けれど、彼は知らないんです。助けてくれた娘が、人魚だって事を。可哀想な王子。彼は今でも娘を探しているんです。地上の美しいと評判の娘を見つけてきては、娘ではないと絶望しているのです。だけどあの人は、身分がある身。早く結婚して世継ぎを作らなければいけない。だから不満を抱えたまま文句も言わずに結婚しようとするんです」

 老女は歌うように、あぁ可哀想、と繰り返し呟いた。

「貴女は、何故その娘が人魚だと知っているの?」私は慌てて聞いた。

「何故? 決まってるじゃないですか。私がその人魚なんですもの。私はね、魔女と契約したんです。あの人の傍にいたい。人間になりたいって。

そしたら魔女はなんて言ったと思います?『この薬を飲めばお前は人間になる。ただし、代償としてお前の若さを貰おう』って。私はそれを承諾しました」

老女は枝のように細い脚をむき出しにして、ベッドの上に脚を乗せた。ランプの灯りに照らされて、脚がキラキラと輝いていた。老女の脚には微かに鱗が残っていた。私はその場に固まったまま動けなかった。

「ですけど、こんな姿になったからしら、王子は私に気づいてくれなかったの。私は王子を憎みました。だって、海の暮らしを全て捨てて、ここにやって来たんだもの。陸は辛いわ。別れた脚がまだズキズキと痛むの。海の暮らしが懐かしい。

でもね、やっぱりあの人が好き。あの人の傍にいたいの。それでね。魔女はこうも言ったの『王子がお前以外の人間と結婚した場合。お前の海の泡になり命を落とす事となる』って。酷い話でしょう。可哀想でしょう」

 私は訳がわからぬまま、頷いた。

歌うような口調で老女は言葉を紡いだ。

「だから考えたの、王子が私以外と結婚しない方法を。用はね、単純な話だったの。泡になる条件を排除すればいいってこと」

老女はゆっくりとした動作で私の上にまたがると、懐から短剣を取り出した。

「だからね。貴女が死ねばいいのよ」

老女は満足そうに笑った。それはまるで、少女のような笑顔だった。

 


 
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