カサディスのとある場所。
そこに((覚者|わたし)と
「うーん…やっぱりなんか濁っちゃってるなぁ…」
「…
そう尋ねるフブキちゃんに、わたしは向き直りながら答える。
「ここはねー、カサディスでもわたししか知らない秘密の場所! といっても人があまりこないだけでそこまで秘密じゃないんだけどね」
えへへ、と頭を掻く。
そんなわたしを、フブキちゃんはいつもと変わらない無表情でみつめてくる。
「それで、こんな時間に何故このような場所に…」
「えっとね、本当ならこの夜の時間にここにくると、月の光が強くなって海がすっごく綺麗に見えるんだ。…今はヒュージブルが住み着いちゃったからか濁っちゃってるんだけどね」
「そうなのですか」
「うーん…そうだ! ね、フブキちゃん」
「なんでしょう?」
「いつか、ドラゴンを倒してわたしの心臓を取り戻して…それで旅も落ち着いたらまた来よう! きっとドラゴンをやっつけちゃえばヒュージブルもおとなしくなると思うし」
「…ですが、私は…」
「いいから! どうしてもフブキちゃんに見せたいの! ね、お願い!」
両手を合わせて頭を下げながら懇願する。
フブキちゃん、意味の無い事嫌いだからなぁ。
「…ふぅ、分かりました。全てが終わったら、またここを訪れて覚者様の言う風景を見に来ましょう」
「ホント!? やったぁ! 約束だからね!」
「はい」
フブキちゃんが頷くのをみて、思わず笑顔がこぼれてしまう。
ふふ…そしたら早くドラゴンを倒さないとね!
フブキちゃんとの約束を守るために、わたしはより一層強く決意しなおした。
…今からもう楽しみだなぁ…ふふっ♪
「……マスター…」
夜の海岸で一人、薄れ行く記憶の中の存在を想う。
ドラゴンから心臓を取り戻し、界王との戦いに勝利したマスターは、新たな界王となってこの世界を見守る神となった。
だが、それからマスターの顔から笑顔が消えてしまった。
言葉遣いはいつものマスターなのだが、界王になってからは一切笑うことはなく、ただ哀しい表情をするようになった。
「あ…セレナちゃん、村の人と仲良くなれたんだ…よかった。これでわたしがいなくても大丈夫だね」
「…………」
かつてマスターが親しくしていた者を見守りながら、哀しそうに呟くマスター。
感情というものがない私には、今のマスターにかけるべき言葉が見つからず、ただ見守ることしかできなかった。
そして、マスターが界王となってからどれだけの時間が過ぎたのか。
ある時、突然マスターが私の名を呼んだ。
「なんでしょうか、マスター」
「……フブキちゃん…」
「…? マス…ッ!?」
いつも以上に様子のおかしいマスターが私の方に向き直る。
頬には一筋の涙、そして、その幼い身体には――
――リディルが突き立てられていた。
「マスターッ!」
その場に崩れ落ちるマスター。
私はすぐにマスターの傍に駆け寄った。
「……フブキ、ちゃん……もう、わたし…疲れちゃった…」
「そ、んな…そんな…!!」
言葉が見つからない。
どうして私はこんなにも取り乱しているのだろうか。
分からない。
「…ごめん、ね……約束…守れないや……」
「マ、スター…!」
私の頬に、マスターの小さな手が触れる。
視界が歪み、私の頭が恐怖で埋め尽くされる。
モンスターに捕まってしまったとき、力尽きて消滅してしまうとき…そんなのよりも、深く、恐ろしい恐怖。
「でも……フブキちゃん、なら……きっと…………」
私の頬に触れていた小さな手が力尽きたように地に落ちる。
それと同時に、地面がなくなり、強烈な浮遊感に襲われる。
「マス、ター…ッ」
離れていくマスターの身体に、必死に手を伸ばす。
とてつもなく虚しい気持ちになる。
脳裏に…今までのマスターの姿がうつしだされる。
『フブキ…? それじゃあフブキちゃん! これからよろしくね!』
『えっとえっと…ど、どっちに行けばいいんだっけ…』
『フブキちゃん抑えてて! …てぇいっ!!』
『やった、やったよフブキちゃん! わたし達が力を合わせれば絶対に負けないよねっ!』
『ありがとう。…いこう、フブキちゃん…!』
『約束、絶対に忘れちゃダメだからね!』
「マスタァァァァァアアッ!!!!!」
叫んで、伸ばした。
その手は、届くことはなく、私は海に落ちた。
「……ますたぁ…っ…」
もう、名前も顔も思い出せなくなってしまった大切な方。
それでも、私は絶対に忘れない。
その方が確かに存在していたことを。
その方と、交わした約束を――
夜の秘密の海岸で独り、海を眺めながら私は泣いた。
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クリアして思いついたもの、シリアスに挑戦。
一応、ドラゴンズドグマのラストのネタバレ注意です。
クリア時に私の使用していたサクラ(作中じゃ名前出ない覚者)とフブキ(メイポ)のお話です。
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