No.435985

ゲイムギョウ界の守護騎士

ゆきさん

死に追いやられるタイチの前に現れた女の子。タイチの『体を借りる』そう言い男と対峙する。圧倒的な彼女の力!急展開してゆく物語!!そのときタイチは何を思うのか!?

2012-06-11 23:22:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1420   閲覧ユーザー数:1388

第16話 サクラ

 

『体をお借りるね。マスター』

 

「え?」

 

再び遠のいていく意識の中で感じた懐かしい匂い。

 

 

視界に映ったのは赤い血。

タイチの意識はなく、別の意識が体を動かしていた。

 

「お前、どうして死なないんだよ!!」

 

その声と同時に黒い針が背中に無数に降り注がれた。

それと同時に手の甲の紋章らしきものが黒くそして白く光り、針は刺さる寸前で霧散した。

四肢を貫かれたのも関わらず立ち上がると、同時に蜃気楼が崩れてゆきタイチの姿から別人の少女に変わった。太陽のような優しいオレンジの髪の色。

頭の両端を括り残った後ろ髪を下ろしたツーテール。

身に付けているのはかわいらしい制服のような物。160cmぐらいの身長。発育のよい胸。

少女は何もかもを冷静に分析しすぐさま行動に起こした。

(アイツとの距離は30mぐらいかな。これなら)

 

『滅桜剣<セブン―ブレイド>』

 

少女の左に握られていた黒い剣は激しい桜色の光を放ち砕け散った。

左の手のひらに桜色の電撃が灯る。少女はすばやく左手を右から左に直線を描くように振る。

刹那、前方のダンジョンの地面を突き破り、すさまじい勢いで桜色の光の柱が七つ現れた。

 

「なんだよ、この力は!?」

 

男は目を見張って目の前の少女を見た。

悔しそうな顔をした後、男は光に包まれる寸前に空間の裂け目に飛び込んだ。

光は対象がいなくなっても収まることを知らずダンジョンの天井を貫き地上に噴き出ると同時にすぐ消滅した。

 

『マスター、もう少し借りるね。風桜< シルフィード>」                                    

少女の足元に桜色の魔方陣が一瞬で描かれた。少女の足元に強烈な雷火が走る。

次の瞬間少女は地面を思いっきり蹴った。足元の雷火は爆発し少女をとてつもない加速にいざなう。1秒もかからずダンジョンから抜け出した少女は迷うことなく街のほうに飛んで行った。

 

『大好きなマスターは絶対に死なせないよ!』

                                             少女は最愛の人のために目覚めたのだ。

例え全ての記憶が解かれ彼が絶望する形になっても生きて欲しいと少女は思うのだった。

 

 

「なあ、セフィア。僕達の妹かな....その、い、妹が欲しいんだ!!」

 

「い、いきなり何言ってるのよ!?え、えっちなことはいやよ...」

 

「妹だよ!子供じゃないからね!?」

 

木々に紛れたひときわ大きい桜の木の下に2人はいた。

風が吹くたび桜の花びらは踊るように宙に舞う。

 

「もし、もし妹ができたら名前はどうする?」                                        

「そ、そうね。....思いついたわ」

 

「僕も思いついた」

 

「「サクラ」」

 

二人は大木に向かって屈託のない笑顔でそう言った。                     家族。二人にはそのような存在がいなかった。

だからこそ、こんなことを彼は思いついたのかもしれない。

戦うことしか知らなかった不器用な少年は目の前の少女に会って変わることができた。

 

 

 

少女は扉の前に立っていた。ここはネプテューヌ達が宿に使っている部屋である。

少女がここを見つけることはできたのはタイチの記憶に干渉していたからだ。

少女は何かをつぶやくと扉が自動的に開いた。

部屋の隅のベッドに横たわり、荒い息を上げながら最後の言葉を紡いでいく。

 

『さ、桜のように舞ういくつもの命よ。わ、我の命に従い再び咲き誇れ<ローゼンフロスト>!!』

 

瞬間、霊体のように浮かび上がった少女。部屋いっぱいに桜色の光が優しくほとばしる。

 

『体、返すね』

 

少女はタイチの耳元で優しく囁いた。

タイチの四肢に開いた大きな穴は美しい光に包まれてゆく。

 

『さようなら、マスター』

 

少女がそう言った瞬間タイチは立ち上がり、少女を抱きとめた。

だが、意識が完全に戻ったわけではなく抱きしめた力はだんだんと弱くなっていく。

 

『ま、マスター?「サクラ、ありがとう....」....な、泣かないって決めたのに』

 

少女サクラの頬を伝う涙を指で拭うタイチ。

サクラの体は限界を迎えているのか、だんだんと薄くなり見えなくなってゆく。

 

『また、三人で笑えるかな?』

 

「当たり前だ。俺が取り戻してやる」

 

『お姉ちゃんはきっと操られてるよだから―――』

 

「分かってる。....『っちゅ』!!」

 

タイチの唇をふさいだのはやわらかい感触の女の子の唇だった。

 

『は、初めてなんだよ。....大好きだよ、マスター』

 

わずかに頬を赤くし真っ直ぐにこちらを見て言ってくれた。

そして、サクラの体は桜の花びらとなり散っていった。

手には桜の花びらがあった。だが、それもすぐにとけるように消えていく。

 

「サクラ―――――ッ!!」

 

タイチは糸が切れた人形のようにその場に崩れた体勢で虚空を見つめ叫んだ。

(俺は、弱い。でも、もう一度あいつらの笑顔を見るために.......アイツだけには、過去にだけは負けるわけにはいかない!!)

そして心に新たな決意をともし、完全に目覚めたタイチは闇の風をその身に纏いその場から消えた。


 
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