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真・恋姫†夢想 夢演義 『再演・胡蝶の夢』 ~桂花EDアフターより~ 第四話「相国」

狭乃 狼さん

はい、魏√アフター、再演・胡蝶の夢の第四話です。

ども、似非駄文作家の挟乃狼ですw

歴史の流れ、それはいつも定められた速度とは限らない。

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2012-06-11 20:11:55 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7156   閲覧ユーザー数:5758

 第四幕「相国」

 

 

 「み・と・め・ら・れ・ま・せ・ん・わっ!!」

 

 そんな激昂した甲高い声と供に、派手な音を立てながら、一巻の竹簡が床に激しく叩きつけられる。それと同時に、それを目の前の玉座に興奮と怒りで顔を真っ赤にした金色の髪の女性へと差し出した、黒髪をボブカットにした少女がその身体を小さく震わせる。

 

 「れ、麗羽さま、少し落ち着いてくださ」

 「こおれがっ!落ち着いてなど居られるわけ、ありませんわよっ!こんな、董卓だかなんだかという田舎者風情が、四代に渡って三公を輩出した名門袁家の当主たるこの袁本初をさしおいて!漢の最高位たる相国に就任するなど!天地がひっくり返ろうと認められるものですか!」

 

 その自らの臣下であるボブカットの少女に対し、その怒りのままに声を荒げるその女性。河北は冀州の牧、袁紹、字を本初、その真名を麗羽という。そんな袁紹を玉座の少し手前、一段低い位置からその整った顔を蒼白にして見上げているのは、袁紹の腹心の部下である顔良、その真名を斗詩、である。

 

 「で、ですけど麗羽さま。この度のその、董卓様の相国就任は、帝の外戚であり都の禁軍その全てを率いる大将軍何進さまと、十常待の長にして後宮の責任者である張譲殿、そのお二人の強い推薦から帝に上奏されたそうですけど」

 「ならば尚の事認められませんわよ!何進に居たっては元は市井の屠殺業、張譲などはあの卑しい宦官共の長ですわよ!?そんな連中の推薦を受けた時点で、董卓が如何に恥知らずの田舎者であるかがしれましてよ!」

 

 後漢代の代々に渡り、その忠臣たる存在であり続けた袁家の名。それを正当に継ぐ当主であるとの自負の強い袁紹からしてみれば、元肉屋でその妹がたまたま先の皇帝の目に止まったと言うだけで出世した何進も、男性としてのシンボルを落としてまで権力にしがみつくおぞましい宦官達の長である張譲にしても、そのどちらも腹立たしい存在なのである。

 

 「……まあ私の寛大で広い心をもって一億歩譲ったとしてもですわ!何進将軍はまだともかく、あの腐れ宦官なぞの力を借りた、それが何より許せませんわよ!」

 「じゃ、じゃあ一体どうするんですか?朝廷が出した正式に決定に異を唱えるとなると、下手をしたら私達に逆賊の汚名が」 

 「だったらやられる前にやっちゃえば良いんじゃねーの?こっちが先にあっちを逆賊だーって言っちまえば、それでいいんじゃねえかなー?」

 

 袁紹と顔良の会話に、ひょいと割って入ったのは、緑の髪をショートカットにした、とても勝気そうな少女。顔良同様、袁紹の腹心の部下であり、冀州袁家の二大看板と呼ばれる文醜、その真名を猪々子である。

 

 「ちょっと文ちゃん!無責任な事言わないでよ!幾らなんでもそんな無茶が」

 「……いえ。猪々子さんの仰る通りですわ!」

 「へ?あ、あの、麗羽さま?まさか本当に……?」

 「斗詩さん!すぐに各地の諸侯に檄文を飛ばしなさい!此度漢の相国に就任した董卓なる者は、臣下の身分をわきまえず、幼い皇帝と朝廷を牛耳り、好き放題に権力を振りかざし、悪逆非道な鬼畜にも劣る所業を都にて行なっていると!そして、それを討伐するための大義の軍を袁本初の名において召集、反董卓連合を結成してかの者を討つと!」

 「ほ、本気ですか?!」

 「本気も本気です!分かったらさっさとお行きなさい!」

 

 無理が通れば道理が引っ込む。そんな言葉が世の中にはあるが、袁紹はまさにそれを地で行く行動に出た。

 それが一体どういう経緯で、そしてどういう形で行なわれたのかについては、袁紹には全く興味も無ければ関係も無かった。彼女の心中にある感情はただ一つ。先頃漢の臣下としては最高位にあたる相国の位に任官された董卓への、その子供じみた幼稚ともいえる羨望と嫉妬のみ。

 そして彼女は己の虚栄心を満たすただそれだけの為に、上は諸侯下は民のそのすべてに対して、董卓仲頴という人間を悪逆の徒として宣伝。その討伐を呼びかける檄文を、自らの名をもって各地へと発したのである。

 

 そして、この袁紹が発した檄文を皮切りとして、大陸は大いなる動乱の時を迎える。そこに交錯する様々な思惑と想い。そこに紡がれるは、勇者と愚者が織り成す喜劇と悲劇の輪舞曲。

 古今東西、全ての歴史の中においても、もっとも有名な部類に入るその戦い。反董卓連合と董卓軍による、虎牢関の戦いは、そうしてその幕を上げようとしていたのである。

 

 此処で一旦時を少しだけ遡り、その董卓が都へと招聘され相国に任命される、その少し前の安定へと場面を移す。

 

 

 「じゃあ詠が洛陽に行ったのは、大将軍の何進さんの力を借りることで、長安から安定にかけての軍権だけ月の裁量で動かす事の出来る地位を、擁州の刺史としての位を手に入れるためだった、と?」

 

 安定の政庁内、その会議の場として良く使われる広間に、董卓を始めその臣下一同が顔を揃え、とある重要な案件についての会議を行なっている。十二畳はあろうかというその広い室内の、ほぼ中央に据えられた大きな卓を囲み、上座である部屋の入り口から一番奥の席に、普段とは違って緊張の面持ちで居る董卓が座している。

 その彼女の向かって右手に張遼を筆頭とした一刀、呂布、高順、そして先日仲間入りをしたばかりの魏延がその末席に座り、対してその一刀達の向かい側、董卓の左手側には、筆頭の賈駆から順に桂花、陳宮の順で軍師勢が座る。なお、この席順は武官と軍師、それぞれの筆頭である張遼と賈駆以外は、席次などは関係無く、単なるくじ引きでその席が決まったこと、一応注釈させて頂く。

 

 「まあ、最初は、ね。……けど、十常待筆頭の張譲どのまでこちらに接触して来たのは、僕もはっきり言って予想の範疇外だったわ。宦官たちは基本的に、地方の軍閥を敬遠しているからね。その理由、アンタに分かる?“焔耶”」

 「え、あ、えと、宦官が地方の軍閥を嫌う理由……あ、身分が低いから……とか?」

 

 突然賈駆から振られた問いかけに、魏延は少し戸惑いながらも、自分なりに思いついた答えを挙げる。その彼女の返答に対し、賈駆は少しだけ意地悪そうな笑みをその顔に浮かべて、先の己の出した問いの答えを、魏延だけではなくその場に居る全員を見渡しながら口にした。

 

 「それじゃあ半分だけ正解ね。……地方の軍閥相手だと、中央の権威が通用し難い。それゆえにその手綱も取りづらい。普段、皇帝と朝廷の権威だけを利用して生きてるような連中だもの。それが通じない相手とは出来れば手を組みたく無いものよ」

 「……その対象外となりそうなのは、名門を謳って憚らない一部の軍閥、例えば両袁家って所ぐらいかしら?」

 

 袁家には以前の外史で少々含みのある所がある桂花は、少々皮肉っぽい感じの言い回しでその名を場で挙げる。

 

 「そうね。ただ桂花が今言った両袁家の当主二人は、両方とも宦官を心底嫌っているから、その辺りが連中と手を組むことはまずありえないわ」

 「じゃあなんで、今回は向こうから月様に接触しに来たんだよ?臣下の礼をとったばかりのあたしが言っちゃあ悪いけど、月様だってその」

 「まあ、地方の一田舎管理、ちゅう認識が強いやろな。んで?なんで張譲はんは、そんな月嬢ちゃん様に、向こうの方から接近しようとしたんや?」

 

 董卓が治めるこの安定という地は、都である洛陽からは割と程近いとは言え、それでも宦官や他の朝臣らの様な都だけが全てという者達にしてみれば田舎の僻地でしかないであろうことは、益州というさらに辺境の地の出身である魏延にも容易に想像の出来ることだった。

 だからこそ、宦官という特にエリート意識の強い者達のその筆頭にあるような人物が、董卓と誼を通じようとしていることが魏延には不思議だった。もちろん、その思いは一刀達他の皆も同様らしく、続きをはっきりとは言いにくそうにしている魏延を代弁するかのように、その事をはっきりと口にした高順のその言葉に苦笑いしながらも、全員が二人に同調して、賈駆のそれに対する返答をその顔をじっと注視して待った。

 

 「……残念だけど、僕にもアイツの思惑は分からないのよ。建前上の理由としては、これまで良く匈奴の侵攻を防いできた、その功と武威を買ってるってことだったけどね」

 「まあ、理由としては不思議な所は無いか。……ならとりあえず、張譲さんの思惑とやらは一旦横に置いて置かないか?」

 「私も一刀さんに賛成だよ、詠ちゃん。今解らないことに時間を使うより、まずはこれからどう動くべきかを考えよう?」

 

 張譲にどのような思惑があれ、今此処でそれを詮議するには余りに材料が少なすぎる、と。一刀が言ったその言葉に董卓も同意の意を示したことで、賈駆もその言に従い思考を一旦切り替える事にした。

 

 

 「……分かった。なら、まず確定してる事だけ皆に伝えるわ。とりあえず、何進将軍の助力のお陰で、月に擁州刺史の位が下賜されることと、その為に、月が直接朝廷に参内し、その際、僕たち将兵もまたそれに同道することが、皇帝陛下の勅として間も無く下される事。それはもう決定済みよ」

 「月が直接、ねえ。……で、それに私達も着いて行くことになるわけ?……どう考えても、一筋縄じゃすまない事態になりそうなんだけど」

 

 董卓の洛陽入り。

 それは、この先の流れをほぼ知っている一刀と桂花、そして高順の三人からしてみれば、自ずととある事件をその脳裏によぎらせるに足る事柄。正史では曹操が、そして前回の外史では袁紹が、それぞれに理由を掲げて出した檄文による、反董卓連合と董卓軍による戦いが近い事を、示唆していた。

 もっとも、両者が出したその檄文の、その根底にある理由というか思惑の程度には、それこそ天と地ほどの差はあるが。

 

 「……俺たち……洛陽に入ったら、多分、どっちかの手駒として留め置かれることになりそうだな」

 「それは僕もわかってる。何進将軍は確かに大将軍という地位にいて禁軍を牛耳っては居るけれど、内部の反発が全く無いわけじゃあない」

 「張譲の方はもっと分かりやすいですな。どれだけ宦官達が皇帝に近しい存在だとしても、流石に軍権までは自由に出来ないでしょうから」

 「おお、流石は恋ちゃんの自称軍師。結構ものが見えとるやん」

 「ふふん。恋殿の軍師として、その位は当然なのです」

 

 董卓軍随一の武将であり、世に飛将軍と呼ばれる呂布、字を奉先、真名を恋の、その専属軍師を自称して憚らない陳宮、字を公台、真名を音々音が、高順の皮肉混じりな言葉に、その小さな身体を仰け反らせて得意げな顔をしてみせる。

 

 「じゃあこれも分かって当然よね、ねね?たとえばどちらかの手駒に収められる事になったとして、その後月がどう言う扱いにされるか」

 「う。……え、えーっと……それはそのですな」

 

 先ほどの自信たっぷりな態度は何処へやら。賈駆に振られた次なるその問いかけへの答えに窮しする陳宮。そんな彼女を見かねたか、陳宮に代わって言葉を紡いだのは一刀である。

 

 「傀儡の将軍、もしくは俺達を自在に動かすための人質として、囚われの身にされる。そんなところじゃないかな?」

 「そ、そうなのです!ねねもまさに、それを言おうとしていたのです!まあ、此処はこのねねの寛大さをもって、北郷にその功は譲ってやるですが」

 

 照れ隠しか何かなのか。自分の代わりに答えを出した一刀の尻馬に乗り、陳宮はあくまで自分も同じことを言おうとしていたと言い張る。そんな彼女によせばいいのに、からかいながらツッコミを入れるのが、この男だったりするわけで。

 

 「……ほんまか~?かずぴーの助け舟無しに、ちびじゃりにちゃんとした答えが言えたか~?」 

 「ぬぐ。……ち・ん・きゅ・う・きーっく!」

 「ごがあっ?!」

 

 体面の席に座る高順目掛けて繰り出された陳宮のとび蹴りが、先ほどまで嘲笑の笑みをその顔に浮かべていた高順の、その顔面に見事クリティカルヒット。高順はそのままもんどりうって、会議室の床に転がり、そのまま壁に激突したのであった。

 

 「ふんっ!余計な事を言う奴には天罰覿面なのです」

 「はいはい。仲良く喧嘩するのは後にして頂戴よね、ねね、佑」

 「まあそれはともかく、おそらく、一刀が今言ったそのとおりになる可能性が、洛陽に行けばなってしまう可能性が高いと私も思う。でも詠?アンタの事だから、もちろん、そのための対策も練ってあるのよね?」

 「当たり前よ。むざと月をそんな目にあわせるわけ、この僕がするはずが無いでしょう?」

 

 尊大ではあるが卑怯な手を使うタイプではない何進の方はともかく、これまで宮中という一種魔界じみた中で、数々の権謀術数を張り巡らせて来たであろう張譲ならば、都入りした董卓に対し、あの手この手を使ってその身柄を確保し、賈駆や張遼らをはじめとした董卓軍配下の者達を、己が意のままに使おうとするだろう。

 そしてその後、賈駆の口から告げられたその対策手段と言うものに、一同は唖然とその口を大きく開けて、半ば呆れた笑いを揃って皆で零すのであった。

 

 

 「じゃあ、これで今日は解散にするわ。みんな、それぞれに出立の準備、進めておいて頂戴。それから一刀と桂花、それに焔耶」

 「ん?」

 「アンタたちは一応安定(ここ)に残って、何かしら不測の事態が起きた場合の備えをしておいて欲しいの。頼めるかしら?」

 「ああ、俺は構わないけど」

 「そうね。まだ、中央に名前も顔も知られて居ない私達なら、同行して無くても不審には思われないわね」

 「私も構わん。後ろの事は安心して任せてくれ」

 

 賈駆の終了宣言でお開きになるその場の会議だったが、その直後に賈駆は一刀と桂花、そして魏延の三人に対し、安定の留守役を頼むと言って来た。桂花の言うように、まだその存在そのものが余り知れ渡って居ない三人であれば、何かの時の切り札にも使えるから、と。

 その賈駆の提案を一刀達が快諾し、そしてそれぞれがそれぞれの役目へと移るため、順に席を立ち上がり始めたその時、董卓と供に退出しようとしていた賈駆の背に、一刀からふいにこんな問いが投げかけられた。

 

 「あ、なあ詠?ずっと気になっていたんだけどさ、華雄さん……どうかしたのかい?」

 「ほういや華雄姐さんだけ姿が見えへんなんだな。……怠業かな?」

 「アンタじゃあるまいし、んな分けないでしょ。華雄なら今朝早くに出かけたわよ。月の特使として涼州に行ってもらってるの」

 「涼州?」

 

 涼州。俗に西涼とも呼ばれるその地域は、遥か西方、羅馬から続くシルクロードの終着点であり、その玄関口とも言える所である。かの地を治めるのは複数の部族からなる連合体の様なものなのだが、それの現在の代表が馬騰、字を寿成と言う人物で、涼州諸部族の中では珍しく、漢朝への忠心篤い人物でもある。

 

 「そ。涼州の馬騰将軍の所にね、月と協力体制、構築することは出来ないものかとね」

 「西涼の馬騰っていうたら、五胡の連中ですらも恐れるような偉丈夫や。兵も精強やし、その力を借りられるんなら、これほど心強い事は無いな」

 「霞の言うとおりよ。今回の洛陽入りに際して、もしもの事態が起こった時に備えるためにも、ね」

 「もしも、か」

 「そ。もしも、よ」

 

 賈駆のいうそのもしもの事態と、一刀のいうそれが同一の危惧によるものかどうかは分からないが、少なくとも、董卓が洛陽に入ることによって、思わぬ、そして突拍子も無い事態が起こるであろうことは、その場の誰しもがその想像に難くないと考えていた。一刀達を賈駆が安定の街にあえて残す事にしたのは、そういった事に対する彼女の保険のようなものなわけである。

 結局のところ、それがどの様な効果をその先に齎したかについては、またその時に語らせてもらうとして。

 それから三日後、留守を任された一刀と桂花、そして魏延の三人に見送られ、董卓は安定の街の常備兵、そのほぼ全軍である一万を伴い、洛陽を目指して出立した。その堂々たる兵馬の行進を安定の街の門前から見ていた一刀は、留守番を快諾してこそみたものの、やはりどこか言い知れぬ不安がその胸中に渦巻いていた。

 

 「……なあ桂花。あの戦い……やっぱり起きると思うか?」

 「まあ、十中八九は起きるでしょうね。かと言って、こうも早く世の中の動きが流れていたら、対処しようにも手管が無いんだけど」

 「発生原因はやっぱり……かな?」

 「でしょうねえ。それ以外の理由なんて、到底想像がつかないもの」

 「だよなあ……」

 

 世の中の流れは、一刀と桂花の知る以前の外史のそれより、わずかながらとは言えその早さを増していると、二人はここまでの一連の事件の終息度合いなどから、そう判断していた。とはいえ、それを計算に入れて先々への対処を行なおうにも、現状の自分達には人手も伝手も何もないのが実情である。

 二人が董卓の配下となった時点で、一応、専属の草組を設立してはいるのだが、それもまだ軌道に乗っているとは言い難く、大陸全土をカバーし、様々な裏工作を行なえるような、そんな組織にするにはまだ相当の時間がかかりそうである。

 さらにいえば、九分九厘、その危惧を起こしそうな原因となる人間が誰か分かっていても、その原因本人を諌め、短慮を制することの出来る人物を探して接触しようにも、その当人の配下はおろか何処の勢力を見回してみても、そんな人間は何処にも居ないと言うことが二人にはよく分かっているのが、なおさら彼らを忸怩たる思いにさせているのであった。

 

 「……結局、なるようにしかならないのが現状か。今の俺達に出来るのは」 

 「事が起きたときにそれに素早く対処することと、それを察知できる情報網を早々に創り上げる、それに注力することだけね」

 「だな。……はあ。こういう時、先々の事を知ってるって事が、かえって歯がゆくなってくるな……」

 「そうね……」

 

 

 

 それから一月後の安定県は政庁内。留守番役をしていた一刀たちの下に、涼州へと使者に立っていた華雄が、その日戻ってきていた。

 

 「華雄さん、お帰りなさい。遠路ご苦労様でした」

 「なに。これも役目だ。それに、この交渉は馬騰どのと面識のあった私が一番適していたしな。北郷達も留守役ご苦労。洛陽に行かれた月様からは、何か連絡はあったのか?」

 「ええ。十日ほど前、無事に皇帝陛下から位を賜れたそうよ。……ただ、ね」

 「……?何か問題でも起きたのか、荀彧」

 「問題といえば問題。けど、体面的には吉報でもあるのよね。……正直、素直には喜べないんだけど」

 「?」

 

 華雄には桂花の言わんとしている事がいま一つ理解できなかった。吉報なのに問題で、素直に喜べない事とは何なのであろうか、と。彼女がその事を率直な疑問として、次席軍師である桂花に問いかけると、その桂花から帰ってきた言葉は、華雄にとってまさに晴天の霹靂な事実だった。

 

 「……月がね、漢朝でも長らく空席になっていた、人臣最高位である『相国』に、どういうわけか任官されたのよ」

 「なん……だと?」

 

 相国。それはかつて、漢朝を興した高祖皇帝劉邦の股肱の臣であった、蕭何、曹参という、名宰相が就いていた位で、先の二人が没して以降は、たった一人を除いて漢代では誰も就任していない、永久欠番ともいえる官位である。

 その相国に、何故か刺史の位を叙される予定で都入りした董卓が叙せられ、そしてさらに桂花はとんでもない事実をその場で口にした。

 

 「そしてもう一つ。実際に起こったのはこっちが先なんだけど。……十三代劉弁帝が崩御、されたそうよ。諡号は少帝。そして十四代皇帝に少帝の妹君である陳留王殿下が、もう即位なされたらしいわ」

 「ちょっと待て。幾らなんでも出来すぎだろう!?董卓様が都入りしてすぐそれだけの大事が動くなど余りにも、あ……」

 「へえ、気付いた?……アンタ、普段詠達から猪呼ばわりされてる割には、結構頭の回転が速いじゃない」

 「……まさか、とは思うが。全て、誰かの差し金……か?」

 

 皇帝の崩御。新帝の即位。そしてそれとほぼ同時に行なわれた、董卓の相国叙任。それだけの事柄が一気に、そしてこうも都合良く重なって起こったのは、その裏で策謀を展開し、蠢動した者が居れば納得が行く事だ、と。華雄が気付いたそれに、一刀も桂花も魏延も、その場の者全てが静かにその首を縦に振って見せることで、賛同の意を示していた。

 

 「まず、これだけははっきり言っておくわ。月が相国になった事で、確実に動く人物の候補が二人居るわ」

 「?二人?ああ、何進と張譲か?どっちが董卓様を自分の駒にするかで、宮中にて争いだすと?」 

 「……それだったらまだ、幾らでも対処出来るし、し易いんだけどね。……私が言ってるのは二人ってのは」

 「二人と言うのは?」

 「……冀州の袁紹と、兗州のか…曹操、よ」

 

 そう二人の人物の名を挙げる桂花の表情は、どこか少々もの哀しそうな、そしてなんとも言い表せないような複雑な想いの篭った笑み、であった。

 そして、事態は彼女のその予想通り、既に動き始めていた。豫州北部は黄河のほとり、烏巣と呼ばれるその盆地において、今まさに、打倒董卓の号令が、袁紹のその手で発せられようとしていたのであった……。

 

 ~続く~

 

 

 後書きと言う名の蛇足。

 

 桂花√、再演・胡蝶の夢の四話目でした。

 

 まず最初に、前回のお話へのコメントの中で、一刀と桂花が高順の事を及川と呼んでいる、その事を誰も不思議がらないのか、という質問があり、最初は今回のお話にそれを載せるつもりで居ましたが、流れと雰囲気を優先し、そのあたりのことは次回へと持ち越しとさせていただきます。

 

 続いて、何進と張譲の今後の扱いですが、この二人、アニメのキャラを準拠に出す予定ですが、何進さんはアニメだとただのネタキャラみたいな扱いだったので、此処では普通に有能と無能の間、つまり良くも悪くも普通な人として出すことになること、ご了承ください。

 そして張譲ですが、アニメではまさに悪役キャラを地で行ってましたので、連合編中はそれに一応準拠する形で居ます。ただし、その後はキャラ改変するかどうかで、現在悩んでおります。心を入れ替えて善人にさせるか、それとも子悪党の道を貫かせるか。

 別にアンケというわけではありませんが、皆さんどちらがいいと思われますか?忌憚無きご意見、お待ちしております。

 

 では今回はこれにて。

 

 次回こそは仲帝記、うp出来たら良いんですが、次を間違うとグダグダ確定ですから、そうならないようきっかりかっちり、お話を練らせていただきますので、もう少々お待ちくださいませね?

 

 それではみなさん、再見~!ですw

 

 

 


 
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