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真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~ 第二十六話 夏のヒーロー祭り!華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫!!一幕

YTAさん

 どうも皆さま。YTAでございます。
 今回は、前作のアンケートで最もリクエストを多く頂いたお話です。あとがきにて、重大発表もございますので、お楽しみに!

 では、どうぞ!!

2012-06-11 02:30:14 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:3245   閲覧ユーザー数:2404

                                   真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~

 

                     第二十六話 夏のヒーロー祭り!華蝶連者 対 仮面白馬・倍功夫!! 一幕

 

 

 

 

 

 

「さぁ~て、今日もお仕事頑張りますよ~っと!」

「うふふ、ご機嫌ですね、ご主人様」

 董卓こと月は、北郷一刀の鼻歌混じりの言葉に、微笑みを浮かべて言った。一刀の私室での朝食を終えた二人は、城の廊下を政務室に向かって歩いている所だった。

 

「いやぁ、昔に比べたら雑多な仕事は大分減ったけど、相変わらず、それなりに忙しい事には変わりないからなぁ。今日は桃香も詠も午前中、視察で居ないし、二人が帰って来て楽できる様に、普段より気合入れとかんとね」

 一刀がそう言って微笑み返すと、月は嬉しそうに頷く。

 

「はい!私も頑張ってお手伝いしますから!」

「ありがとな、月―――さて、んじゃ、女性尊重(レディーファースト)って事で、お先にどうぞ」

「へ、へぅ!?お、恐れ入ります……」

 月は、執務室の扉を開いて手で押さえる一刀に恐縮しきった様子で頭を下げると、素直に部屋に入った。経験上、こう言う時に主に遠慮をしても、笑って相手にして貰えない事が解っているからである。

 

「あれ?ご主人様、机の上に何か……」

「ん?――――!!?」

 扉を閉めて向き直った一刀は、月の指差す執務机の上にあった物を目にするなり、月の横を電光石火の速さですり抜けると、机の上に置いてあった筆箱ほどの大きさの木製の箱をひったくる様に持つや、そのまま速度を落とさず窓際まで行き、乱暴に窓を開け放った。

 

「そぉぉぉい!!」

「ご、ご主人様!?」

 月が、裂帛の気合を上げて箱を外に放り投げた(正しくは、オーバースローで全力投球した)一刀を、呆然とした表情で見詰めていると、一刀は静かに窓を閉じ、深呼吸を一つして、くるりと月に向き直った。その顔には、いつもとかわらぬ笑顔が浮かんでいる。

 

 

 

「ふぅ、危なかった……さ、月、仕事しようか!」

「え?え!?で、でも、ご主人様、あれ……」

「良いから良いから、気にしない気にしない!―――断固、拒否するぞ……!」

 一刀は、何故か最後に天井に視線を投げてそう呟くと、戸惑う月の肩を優しく掴んで補佐役用の卓まで押して行き、椅子を引いて座らせた。そうして、自分も執務机の前に座ると、何事もなかったかの様に書簡に目を通し始める。

 

 月は、少々、面喰いながらも、自分の前にうず高く積まれた書簡や竹簡の山が視界に入ったので、一刀に倣って、すぐに政務に没頭し始めた。執務室の天井裏で、小さな舌打ちをした蒼い影の事など、彼女は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

「―――お、居た居た!おっす、北郷!」

 公孫賛こと白蓮は、昼時を過ぎて、程良く空き出した街の定食屋の卓に北郷一刀の姿を認めると、声を掛けながら近づいて行く。

「おう、白蓮。お前も昼休憩か?御苦労さん」

 

 一刀が微笑みながら挨拶を返して、自分の向かいの席を勧めると、白蓮は礼を言って着席した。

「いや、昼は済ませたんだけど、月から、北郷が此処だって聞いたからさ」

「あぁ、頑張って午前中で書類仕事を終わらせたんで、詠が珍しくご機嫌で半休くれたんだよ。本当は、手伝ってもらった礼に月も誘おうかと思ったんだけど、それだと詠がおっかないからさ」

 

 一刀は、微苦笑を浮かべながら、エビチリの最後の一尾と白米の残りを口に入れると、旨そうに咀嚼して飲み込んでから、茶を一口啜って、満足そうに腹を撫でた。

「ふぃ~、満腹満腹っと……で?」

「……へ?“で”って?」

 

 

 

「いや……白蓮、俺に用事があったから探してたんじゃないのか?」

 一刀が、ポカンとして首を傾げている白蓮に向かって、不思議そうに尋ねると、白蓮は「あぁ!」と声を出して、少し頬を赤らめた。

「わ……悪い……。お前が、あんまり旨そうに飯を食ってるから、つい、ぼーっと見ちまってて……(うぅ、ご飯を頬張ってる所が可愛くて見惚れてたなんて、言えるかよぉ~)」

 

「そうか?まぁ、良いや。どうせ話があるなら、少し付き合え。ここにずっと居ても、迷惑だろうしな」

 一刀はそう言って立ち上がると、脱いで椅子に掛けていたロングコートに袖を通しながら、他の卓を片付けていた女給を呼んで、会計を頼んだ。それから暫くして、一刀と白蓮は、街の中央にある公園の片隅の屋台で蜂蜜水を飲みながら、並んで長椅子に座って居た。

 

「んで、何の話なんだ?白蓮」

 一刀が紫煙の最初の一口を空に向かって吐き出しながら尋ねると、白蓮は、蜂蜜水の入った茶碗を両手で包み込む様に持って項垂れながら、口を開いた。

「……今日も“あれ”、あったんだろ?」

 

「……ああ」

 一刀は、白蓮の言葉の中にあった“あれ”が何を射すのかを瞬時に理解して、頷いた。

「朝に、執務室の机の上にと……それから、街に出て来る前に財布を取りに言ったら、部屋の前の廊下に……な。両方とも、因果地平の彼方まで放り投げてやったが……」

 

「うぅ……本当に済まん!私が、酔っ払ってうっかり星に喋っちまったばっかりに……」

 白蓮は、勢い良く一刀に向かって頭を下げた。彼女は、成都で仮面白馬・倍功夫(バイカンフー)を名乗って戦った謎の人物の正体が一刀である事を、酒宴の席で趙雲こと星に漏らしてしまったのである。

 白蓮は随分と気に病んでいたが、あの星の事、最初から、成都に現れた謎の人物の正体を探る為に白蓮を酔わせる積りで酒宴に誘ったと言う可能性も十分にあったので、一刀には、強く白蓮を責める事は出来なかった。

 

「いや―――本当にもう良いんだよ、白蓮。相手が悪過ぎたんだから……とは言え、最近、勧誘が激しくなって来てるのも事実なんだよねぇ……」

「美以達が帰って来たからかな?」

「かもな~。またぞろ、麗羽達とバカ騒ぎする可能性は大だからなぁ……“華蝶仮面”が派手に新展開するには、絶好の機会だし……」

 

 

 

 一刀が自分の考えを言うと、白蓮は、腹を擦りながら肩を落とした。

「だよなぁ~。あぁ、胃が痛い……」

 一刀と白蓮の危惧しているのは、当然、麗羽率いる(軽)犯罪組織“むねむね団”の再動であった。大幹部(?)の一人である孟獲こと美以と、人海戦術の要であるミケ・トラ・シャムの量産型三人娘の不在は、成都に於ける“むねむね団”の活動の足枷であったらしく、一刀が倍功夫として戦った時も、以前と比べれば大分、規模が縮小していた。

 

 都に戻ってからも、一刀が直ぐに、文醜こと猪々子と顔良こと斗詩を愛紗と張三姉妹の救出に同行させた為、“むねむね団”は沈黙を守っていたのである。だが今や、この都には、全ての大幹部と人員が揃っているのだ。

 しかも、趙雲こと星が、“面白そうな予感”を感じて一刀への勧誘を激化させたのだとすれば、最早、近い内に何らかのアクションが起こると見て間違いないだろう。

 

「まぁ、ただの“活動再開”だったら、まだ良いんだけどねぇ……」

 一刀はゴキゴキと首を鳴らしながら、新しい煙草を取り出して短くなった煙草から火を移すと、溜め息混じりに紫煙を吐き出した。こんな漠然としたモヤモヤを抱えていると、ニコチン、アルコール、カフェインは、呼吸をする為の三種の神器と言っていい。

 

 白蓮も最近、朝はむくんだ顔をしている事が多いと言う事実を鑑みるに、何も一刀だけが参っている訳ではないらしいが。

「おいおい、北郷。どう言う意味だよ、それ?物凄く不吉な予感がするんだが……」

「いや、だってさ、この都には今、三国の将が一堂に会してるだろ?」

 

「うん。まぁ、殆ど以前と同じに戻ったよな……それが?」

「…………貧乳党」

「!!?」

 一刀がその名を口にした瞬間、白蓮は弾かれた様に一刀の方に顔を向けた。

 

「ま……まさか、北郷……お前、“むねむね団”が貧乳党を取り込むって考えてるのか!?」

「考えられん事ではないさ。最近は、季衣や地和、明命が入党したと言う情報もある……本来の知力に加え、優れた扇動家である地和と、季衣と明命の武力を得た貧乳党ならば、戦力としても申し分ないだろ」

「でも、貧乳党には、朱里も所属してるんだろ?それに、貧乳党の至上目的は、巨乳人の殲滅の筈……“むねむね団”とは、相容れないんじゃ……」

 

 

 

 白蓮が、形の良い顎に握り拳を添えて考えながらそう言うと、一刀は首を振って答えた。

「朱里は……最近『最早、同士に非ず』って言われて、罷免されたんだって。雛里は、まだ一応は在籍してるみたいだけど、立場は微妙らしいよ」

「あはは……確かに、朱里は結構“ある”し、雛里も……」

 

 白蓮が、頬を染めて苦笑いを浮かべると、一刀も同様に微苦笑を浮かべて頷いた。

「だから元々、成長期の問題だったんだって……それにな白蓮、考えてみろ。貧乳党の巨乳人に対する敵愾心は、元を(ただ)せば劣等感……つまり、巨乳への憧れの裏返しだ。団を信奉し、“むねむねそんぐ”を用いる事で巨乳になれると謳っている“むねむね団”に迎合する事があったとしても、何ら不思議じゃない……」

 

「そうか!確かに、それなら矛盾しないな!!」

「それに何より……」

 一刀は、得心した様子で手を叩く白蓮に顔を向けて、疲れた様に微笑んだ。

「貧乳党の総裁は“あの”桂花だからなぁ……俺を困らせられるってだけでも、十分に理由になるだろ?」

 

「あ~、有り得るわ……それ、凄く有り得る……」

「だろ~」

 一刀は、白蓮の諦めた様な同意の言葉に頷き返すと、残りの蜂蜜水を飲み干して、長椅子から立ち上がった。

 

「引き続き探りは入れてるし、大丈夫だとは思うけどね。ま、書類仕事が多くなるのは勘弁だけどさ……」

「こっちの方も、何かあったら全力を尽くすよ」

 一刀に倣って立ち上がった白蓮がそう言うと、一刀は白蓮の肩に、優しく手を置く。

「あぁ、そこの所は、信頼してるからな」

 

「お、応!」

 一刀は、白蓮の力強い答えにもう一度微笑みを浮かべると、懐から財布を出そうとする白蓮を制して勘定を払いながら、白蓮に尋ねる。

「で、白蓮はこれからどうする?俺は、真桜から暇が出来たら来てくれって言われてるから、魏の屋敷に行ってみるけど、一緒に来るか?」

 

「あぁ……行きたいのは山々なんだけど、これから騎馬隊の調錬があるから……」

 一刀は、残念そうに首を振る白蓮に向かって頷くと、踵を返した。

「そうか、仕方ないな。じゃ、また夕飯の時にでも」

「あぁ、折角、誘ってくれたのに済まない……気を付けてな!」

一刀と白蓮は、互いに軽く手を上げて別れを言うと、午後の日差しも爽やかな道を、それぞれの目的地に向かって歩き出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、魏の屋敷に来るのも久し振りだなぁ」

 一刀は、門兵に挨拶をして屋敷の正門を潜ると、物珍しそうに周囲を見渡した。別に、取り立てて変わった物がある訳ではなかったが、何処なく懐かしい感じがする。

 怪我をした典韋こと流琉は華佗の診療所に入院しているので、見舞いにはそちらに行ったし、華琳や魏の主要な面子とも城か外で会っていたので、都に戻ってからこっち、魏の屋敷を訪れたのは初めての事だった。

 

 一刀が、十三年前の記憶を頼りに李典こと真桜の部屋を目指して屋敷の廊下を歩いていると、背後から凛とした声が一刀の名を呼ぶ。振り返った一刀は、笑顔を浮かべて手を上げた。

 そこに居たのは、夏侯惇こと春蘭と張遼こと霞を両脇に従えた、曹操こと華琳だった。

「よぅ、華琳、春蘭、霞―――華琳にはこの前会ったけど、二人とは久し振りだな」

 

「『久し振りだな』や、ないで、一刀ぉ~!!」

「おわっ!?いきなり抱きつくなよ、霞。びっくりするだろ~」

 一刀が、困惑気味に微笑みながら、ネコ耳を出した霞の頭を撫でてやると、霞は気持ち良さそうに目を細めた。

 

「せやかて、一刀ってば、ちーっともウチの事、構ってくれへんねんもん!最後に会ったの、謁見の儀の時やで?」

「そんな事言ったって、俺、すぐに出掛けなきゃいけなかったし、霞だって、国境警備から帰って来たの、つい最近だろ?」

 

「そ、そ、そ、そうだぞ、霞!第一、華琳様の前で無礼であろう!さっさと北郷から離れんか!!」

 春蘭が、顔を真っ赤にしながら大声を上げると、霞は不敵に笑って、一刀の腕を抱く自分の腕に、更に力を込めてみせる。

「なんやぁ、春蘭。も・し・か・し・て~、ヤキモチ焼いとるん?成長したやんか~♪」

「ち、ち、ち、違う!断固として違うッ!!私が、こんな種馬とイチャイチャしたいな~などと思う筈がなかろう!!私は、華琳様の御前(ごぜん)で破廉恥な行動は慎めと言っているのだ!!」

 

 

 

「へぇ~?そんなら、春蘭も今度からは、華琳に部屋に呼ばれても、えっちぃコトするんは断るちゅうこっちゃな?」

「な……!?どうしてそうなる!!」

「だって、華琳の前では、誰かと腕組むんも無礼なんやろ?そしたら、服脱いで裸になるなんて、無礼の極みやん。なぁ、華琳?」

 

 霞がそう言って、今まで愉快そうに成り行きを見守っていた華琳に水を向けると、華琳は悠然と微笑みながら頷いた。

「確かに……春蘭の理屈だと、そう言う事になるわね。主想いの春蘭に態々(わざわざ)、不忠を働かせるなんて心苦しいし、もう、閨に呼ぶのはやめようかしらね?」

 

 華琳が、誰がどう見てもからかっていると解る口調で放った言葉も、当然、春蘭の脳内では大真面目な命令になってしまう。(たちま)ち隻眼の瞳に涙を浮かべた春蘭は、この世の終わりの様な顔で華琳の前に跪き、服の裾にしがみ付いた。

「お待ち下さい、華琳様!!その様な事になったら、この夏侯元譲、切なくて生きていけませぬ!どうか、平に御容赦をぉ~!」

 

「あら―――切ないのがイヤなの?それなら、一刀に可愛がって貰えばいいじゃない。一刀なら、あなたが人前で抱き付こうと、閨でどれだけ乱れようと、無礼にはならないのでしょう?」

「そ、そんなぁ……」

「おいおい、そこで俺に振るのかよ……華琳、勘弁してくれよな……」

 

 一刀が、加虐心に煌めく瞳で春蘭を見下ろす華琳に、恐る恐るそう言うと、華琳は視線を一刀に移して、妖艶に笑った。

「一刀も、そう言う訳だから、春蘭を宜しくね―――あぁ、そうそう、今度は、私と秋蘭とであなたの閨に行くから、楽しみにしていて頂戴?」

 

「はい?いや、それはそれで、とっても楽しみだけれども―――」

「……ほ・ん・ご・おぉぉぉ!!」

「うわっ!?な、何だよ春蘭、いきなり殺気飛ばしやがって!てか、その柄に掛けた手は何だ!!?」

 一刀が、背中に炎を纏って立ち上がった春蘭を前に、ジリジリと後退すると、春蘭は、すらりと七星餓狼を抜き放ち、正眼に構えて、膝に力を込める。

「やかましい!元はと言えば、お前がこんな所を薄らボケっと歩いていたのが悪いのだ!こうなれば、死ならば諸共―――覚悟しろ!!」

「い、いや、ちょっと!?流石にヒド過ぎだろう、それは!!てか、主の前で刃傷沙汰起こすのは無礼ちゃうんかい!!」

 

 

 

「五月蠅い五月蠅い!!北郷……一緒に、死ねぇぇぇ!!」

「いぃぃやぁぁぁ!!」

 春蘭に追いかけられた一刀が、器用に七星餓狼を躱しながら逃げ惑う姿を、要領良く一刀から離れていた霞が、呆れ顔で見詰めた。

 

「なぁ、華琳」

「何かしら?」

「自分でネタ振っといて、こんなん言うのも何やけど……あれ、大丈夫なん?」

「暫くはね。あの()は貴女とは違って、ああして(けしか)けて上げないと、一刀に甘えられないんですもの」

 

「あはは……あれ、甘えてるんや……」

「えぇ。嬉しそうでしょ?」

「そ、そう……やのん?なんや、エラい激しいけど……」

「そうなのよ」

 

「華琳はさ、人の事、あんまし言えへんと思うわ……」

 当の本人達の必死さなど何処吹く風と、優しげな眼差しで一刀と春蘭の追い掛けっこを見詰めている華琳の横顔をちらと見た霞は、呆れた様にそう呟く。すると華琳は、霞の方に顔向けて、優雅に唇の端を歪めた。

 

「ふふ、私は良いのよ。少なくとも春蘭と違って、自覚があるもの」

「ふ~ん、そんなもんかいな?」

「えぇ。そんなものなのよ」

 二人は、そう言い合って、暫し、一刀と春蘭の追走劇を眺めるのに没頭するのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、酷い目にあった……」

 一刀は、漸く引いてき来た汗をもう一度腕で拭うと、深い溜め息を吐いた。現在、一刀は春蘭の魔手から逃れ、華琳と共に真桜の部屋を目指している所である。

「莫迦ね。下手に反撃なんかするから、春蘭がムキになるのでしょうに……」

 

「反撃って……本当に厄場(ヤバ)そうなのを、鞘で弾いた位じゃんか……」

「春蘭なのよ?それだけでも、十分に反撃の範疇だわ……まして、“貴方相手に”抜刀もされず、攻撃を()なされたんですもの。頭に血も上るわよ」

 今頃、一刀を追いかけ回していた春蘭は、華琳の頼みを受けた霞の“訓練”の相手をして、鬱憤を晴らしているところだろう。

 

「無茶苦茶言うなぁ……第一、この刀は罵苦と戦う為の物で、人間相手に遣う物じゃないしさ……」

 一刀がそう言って、頭を掻きながら溜め息を吐くと、華琳は怪訝そうに一刀を見た。

「それなら、あの“流星剣”と言うのを持ち歩けば良いのではなくて?」

「あれは、高貴な剣だよ。血で汚すべきじゃない」

 

「……つまり、今あなたは、抜く積りも無い剣を腰に差して、丸腰同然で市中を彷徨(うろつ)いている、と言う訳ね?」

 一刀は、華琳の目がすっと細まるのを見て、冷や汗を浮かべて苦笑する。

「まぁ、鞘に収めたままだって、チンピラの相手位は出来るしさ……それに、卑弥呼が預けていた刀の(こしら)えを直してくれてる所らしいから、今だけだよ」

 

「その“今だけ”の間に、もしもの事があるかも知れないでしょう?全く、そう言う所は相変わらず抜けているのだから」

「仰る通りです、はい……」

 華琳は、恐縮しきりの一刀を横目で見遣ると、盛大に溜め息を吐いて首を振った。

 

「仕方がないわね……私が許可を出しておくから、帰り掛けにでも武器庫に寄って、適当な剣を持って行きなさいな」

「そりゃ、ありがたいけど……良いのか?」

「当たり前でしょう。この屋敷からの帰り道に辻斬りにでも遭われた日には、私の面目が丸潰れよ」

 

 

 

「そうか……そうだな。ありがとう、華琳」

「……ふん。どういたしまして」

 華琳は、僅かに頬を赤らめて一刀の礼に答えると、不意に視線を逸らし、白い指で頬を掻いた。

「そう言えばさ、華琳はどうして真桜の部屋に行くんだ?また、何か頼んでるのか?」

 

「まぁね。ほら、真桜が使っている、貴方の張り型があるでしょう?あれを改良するように頼んであるのよ」

「またシレっと凄い事を……俺の張り型って、あれだろ?“隊長二号”……」

 一刀が頬をヒクつかせながら尋ねると、華琳は事も無げに頷いた。

 

「そうよ。女の身体でも、女を貫く感覚が味わえるなんて、素晴らしい発明だわ。最も、私が抱いた娘が“貴方に”貫かれている様に感じるのは癪だから、細かい調整をさせているのだけれどね。名前も考えてあるの……聞きたい?」

「い、いや、怖いからいいッス……」

 

「そう?貴方にも満更、無関係と言う訳でもないでしょうに」

「いや、“調整”をしてるんだろ?俺のと形が変わってるなら、もう関係ないじゃないか」

 一刀の怪訝そうな顔を横目に見た華琳は、先程、春蘭に見せた妖艶な微笑みを再び浮かべて、小さく首を振る。

 

「関係あるに決まっているでしょう。いずれは、私と貴方と他の娘の三人で、楽しむ為に使うのよ?」

「…………半端ねぇ、華琳様、マジ半端ねぇ……」

 ガックリと項垂れる一刀を尻目に、華琳は瞳を輝かせて言葉を続ける。

「最終標的は、やっぱり稟よね!あぁ……あの娘が、私と貴方に同時に貫かれて恥辱と快楽に愛らしい顔を歪める所を想像するだけで、今日も一日生きて行けるわ!!」

 

「そんな事、絶対に本人の前で言うなよ……今度こそ、真っ白になって燃え尽きちまうぞ……」

 一刀が、力強く握り拳を作る華琳に向かって、どうせ聴こえはしないであろう忠告をしている間に、二人は真桜の部屋の前に到着した。一刀が扉を叩くと、中から「あいよー。開いてんで~」と言う、真桜の間延びした声が聴こえた。

 

 

 

 真桜がこう言う声で返事をする時は、十中八九、((絡繰|からく))りを弄っている時なので、一刀はさっさと自分で扉を開け、華琳に道を譲ってから、自分も部屋に入って扉を閉めた。

「よう、真桜。呼ばれたみたいだから来たぞ」

 一刀がそう声を掛けると、真桜は、案の定、卓の上で何やら弄っていた絡繰りから顔を上げた。

 

「お~、隊長。よう来てくれたな―――って、華琳様!?華琳様も御一緒やったんですか!?お出迎えもせんと、えろう済んません!!」

 華琳は、自分の姿を確認した瞬間、直立不動になって頭を下げる真桜に、優雅に微笑んで見せる。

「良いのよ、真桜。“のっく”の時に名乗らなかったのは、私達だもの。楽にして頂戴?」

 

「はっ、はい!恐縮です!!」

「今に始まった事じゃないけど、何だろうね、この扱いの差は……」

 一刀は、溜め息を吐きながら肩を竦めると、気を取り直して、真桜に話しかけた。

「で、真桜。俺に用事があったんじゃないのか?」

 

「あぁ、せやった!星から頼まれとった隊長用の新装備が完成したさかい、確認してもらお思ってん……て、どないしたん、隊長?」

「一刀……どうしたの?」

 真桜と華琳は、色を失い、凍結したように動かなくなってしまった一刀を、訝しげに見詰めた。

 

 一刀は、漸く意識を取り戻すと、何故か凄みを感じさせる満面の笑みを浮かべて、真桜の両肩を優しく掴んだ。

「―――真桜さぁ、星に、何処まで聞いた?」

「ひッ!?な、な、な、何や、隊長、めっちゃ怖いねんけど……」

「ははは、気のせいだろ。な、ど・こ・ま・で・き・い・た?」

 

「ど、どこまでて……隊長が、星のやっとる華蝶仮面の仲間になるから、装備を造ってくれって……なんや、違うのん?」

「違うッ!断固、断然、絶対に!!華蝶仮面の仲間になんかなりません!なりませんからね!!」

「解った!解ったて!近い!隊長、近いから!!」

 

 真桜は、口づけ寸前の距離で目を剥きながら力説する一刀を両手で押し留めながら、華琳の顔色を気にして、視線を投げた。一刀には下心など毛頭ないだろうが、こんな体勢を主に見られると言うのは、どうにも居心地が悪い。

 幸い、華琳は何事が考え込んでいる様子でこちらを気に留めてはいないらしいが、機嫌を損ねられでもして予算縮小、などと言う事態は御免こうむる。

 

 

 

「まぁ、解ってくれたんなら良いんだけどさ……」

 一刀が漸く平静を取り戻して肩を放してくれたので、真桜はあからさまに盛大な溜め息を吐いて、机に寄り掛かった。

「ほんま、勘弁してぇな……。でも、そいなら隊長、あの仮面も着けてくれてへんの?」

 

「へ?あの仮面も、真桜が造ったのか!?」

 驚愕の表情を浮かべた一刀とは対照的に、真桜は得意満面で頷いた。

「せや!あれな、カシャーンでなったりシャキーンてなったりする仕掛けを仕込んでんねん!!」

「擬音が多くて良く分からんな……」

 

「まぁ、そのうち分かるわ!それより、折角、来てくれたんやから、せめて、完成したモンを見てくだけでも見てってぇな」

「い、いやしかし……」

「良いじゃない。見て上げなさいな」

 

「華琳?」

 一刀は、今まで沈黙を守っていた華琳の不意の言葉に、思わず彼女の名を呼んだ。

「たとえ星の独断であったとしても、真桜が貴方の為に造った装備である事に変わりはないでしょう?それを見もせずに捨て置くなんて、男が廃ると思わない?」

 

「そりゃあ、まぁ……」

「それに、真桜の発明品だもの。華蝶仮面は脇に置くとしても、使える事は使えるかも知れないじゃない」

「――確かに、華琳の言う通りだな……分かった。じゃ、真桜。その新装備とやら、見せてくれよ」

 一刀が、華琳の理屈の通った言葉に納得して真桜にそう言うと、真桜は「そうこな!流石は隊長と華琳様や!」と嬉しそうに叫んで、他人にはガラクタにしか見えない発明品の山を、ゴソゴソと漁り出した。

 

「じゃじゃ~ん!これぞ、李曼成、渾身の新発明!“仮面白馬・最終合身せっと”や!!」

「……」

「……」

「―――あ、あれ?御両人とも、どないしたん?」

 

「いや……だって……」

「これは、どう見ても……」

 一刀と華琳は顔を見合わせて、同時に頷きながら、口を開いた。

「ゴツゴツした白蓮の鎧だろ?」

「そうね。トゲトゲした白蓮の鎧ね。あと、外套と」

 

 

 

 確かにそれは、白蓮が普段着ている鎧とそっくりだった。違いと言えば、サイズと、各所に取り付けられた角じみた突起くらいである。鎧と共に箱に収まっているのは、仮面白馬の外套であった。

「ちゃう!全然ちゃうで!お二人さん!!」

 真桜は発明家の顔になると、人差し指を振りながら、解説モードに入る。

 

「えぇか、隊長。この鎧と外套にはな、隊長の身に万が一の事があらへんように、色んな仕掛けを組み込んでんねんで!あ、詳しくは、この取説、読んでな?それに、この装備、なんと、この屋敷の中庭にウチが造った超長距離投石機、“むろふし君二号”で、都の何処に隊長がおっても、瞬時にその場に届ける事が出来んねん!!」

 

 一刀は、押し付けられた説明書を握りながら、ネーミングにツッコんだら負けだと自分に言い聞かせ、華琳の方を見て尋ねた。

「なぁ、華琳。確か、“超長距離投石機”って、都の防衛の為に華琳が真桜に造らせてた物だよな?」

「えぇ、そうよ。最も……岩を予定していた距離まで飛ばせなかったから、凍結処分にしたけれど。それでも、威武くらいにはなると思って、庭にそのまま置いてあるのよ。まぁ、確かに、この位の重さだったら、かなり正確に目標地点まで飛ばせるでしょうね」

 

「でもさ、それって、華琳の許可が無いと使えないんだよな?」

「えぇ。それに勿論、都の治安維持機関の最高責任者である貴方の許可もね、一刀」

「ちょ、待って下さいよ、華琳様!これ、絶対に役に立ちますよって!隊長!隊長にも、これ、預けとくから!試しに一遍、使うてみてぇな!」

 

 真桜は、大きな瞳を潤ませて華琳と一刀を交互に見詰めて、一刀の手に筒状の物を握らせた。

「真桜さ……溜まってんのか?」

「へ?」

 真桜は、憐れみを帯びた一刀の表情にキョトンと首を傾げてから、自分が一刀の手に握らせた物を繁々と眺め、一瞬、硬直した後、茹で蛸の様に顔を赤らめた。

 

「げ!?“お菊ちゃん改”!!?」

「真桜、貴女……」

「ちゃうんです、華琳様!これは改良中の試作品で、ホンマに隊長に渡そ思うてたんはこっちですねん!!」

 真桜は、一刀の手から妖しい形の細身の張り型をひったくると、代わりに、リレーのバトンに良く似た白い筒を渡して、華琳に、冷や汗混じりの引き攣った笑顔を見せた。

 

 

 

「―――真桜?」

「は、はい!?」

「改良点は?」

「へ?」

 

「“お菊ちゃん改”の改良点は何なの?と、聞いているのよ!」

 真桜は、華琳の言葉の意味を一瞬、考えてから、恐る恐る説明を始めた。

「えぇと……まず、動きの種類の追加……それから、強弱の調整段階も増やして、駆動時間も長くしよかな……と……」

 

「真桜!」

「ひゃい!?」

「……それ、後で私の分も造りなさい」

「ふぇ?え、えぇと……」

 

「命令の復唱はどうしたの?」

「は、はい!後ほど華琳様の分も造って、献上させて頂きます!!」

「…………なぁ、二人とも。俺、帰って良い?」

 一刀がげんなりした様子で、呟く様にそう言うと、我に返った真桜が、慌てて一刀の腕を掴んだ。

 

「待ってぇな、隊長!それな、前に隊長の命令で造った、“煙矢”の改良版やねん。空に向かって突起をポチっとするだけで、煙矢が発射出来る優れモンや!もしもの時はそれで知らせてくれたら、ウチがこの都の何処へでも新装備を飛ばしたる!それが上がったちゅう事は、隊長が“むろふし君二号”の使用許可出してくれたっちゅう事やろ?」

 

「はぁ……華琳。華琳はどう思う?」

 一刀が、最後の頼みの綱とばかりに華琳に視線を向けると、彼の覇王様は興味深げに“お菊ちゃん改”を弄り回しながら、ちらと一刀に目を遣って、しれっと「良いんじゃない?」と(のたもう)た。

「え!?ちょっと、華琳さん!?」

 

「別に私だって、酔狂で言っているのではないわ……最近、少し気になる事があるから、あなたがもしも星達の手助けをすると言うのであれば、投石機の使用を許可しても良いと思ったのよ」

「いや、だからさ……俺はそんな気は―――」

「気持ちはどうあれ、否応なしに巻き込まれる可能性は高いと思うわよ?貴方の場合」

 

 

 

 華琳は、“お菊ちゃん改”を不釣り合いに優雅な仕草で机に戻して、一刀を見据えた。その瞳は、「(私は間違っているかしら?)」と、一刀に問い掛けていた。

「まぁ、確かにそうかも知れないけど……」

「なら、転ばぬ先の杖とでも思って、持ってお行きなさいな。必要なければ、使わなければ良いと言うだけの事でしょう?」

 

「分かった。分かったよ、ありがたく持って行かせて頂きますとも……」

 一刀は、すっかり諦めて肩を落とすと仕方なく、白い筒を胸の内ポケットに仕舞って、今日最大の溜め息を吐くのだった―――。

 

 

 

 

 

 

「では、そう言う事で、手筈通りに頼みましたわよ?」

 城のある一室。芸術的な金髪縦ロールを棚引かせた女は、そう言って念を押しながら、扉を閉めて出て行った。

 残された小柄な少女は、彼女には大き過ぎる机の上に両肘を立てて、顔の前で指を組む。

 

「ふん。あんたなんかに言われなくても、分かってるわよ……!」

 彼女は今や、侮蔑の感情を隠そうともせずにそう吐き捨てて、きつく目を閉じた。全ては、あの憎っくき男の鼻を明かし、我が前に(ひざまず)かせる為。

「見ていなさい、北郷一刀……今度こそあんたに、地獄の苦しみを味あわせて上げるわ……!」

 

 少女―――荀彧こと桂花は、その愛らしい顔には大凡(おおよそ)不釣り合いに思える邪悪な微笑みを浮かべて、まだ見ぬ宿敵の苦悶の表情を思い浮かべ、独り悦に入るのであった―――。

 

 

                                 あとがき

 

 

 

 

 はい、今回のお話、如何でしたか?

 お約束通り、一番リクエストの多かったエピソードから書き始めました。もうね、日常を書くのが楽しくて、ついつい話が脱線してしまい、ちょっと長めになってしまいましたよw

 少しでも皆さんに笑って頂けたら、これほど嬉しい事はありません。

 さて、今回のサブタイ元ネタは、

 

 東映マンガまつり マジンガーZ対デビルマン

 

 でした。

 なんと行っても、異なる世界観のヒーロー同士が共闘すると言う、クロスオーバーの元祖的な作品ですし、ここは外せないかと思いましたので。

 

 ここで重大発表があります。実は、ある絵師様に、この作品のイラストを依頼した所、快く引き受けて下さり、つい昨日、ラフ画の第一稿を、私の元に送って頂きました。

 敢えて、言わせて頂きますが……こいつは凄いぜ!!

 ラウンジを覗いている方は、絵師様のお名前を御存じかと思いますが、そりゃあもう、素晴らしい物になりそう(と、言うか、今の段階でもかなり素晴らしい)です!

 

 近日公開と言う事で、どうぞご期待下さい!!

 何時もの様に、支援、コメント等、頂けると大変嬉しく、モチベーションにも繋がりますので、是非、お気軽にお願いします。

 

 では、また次回、お会いしましょう!

 


 
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