No.435642

【AGE】Weiβ schlamm【6話目】

柘榴さん

六話目。女体化注意。
前回http://www.tinami.com/view/432885 の続きになります。

2012-06-11 01:59:11 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:903   閲覧ユーザー数:898

前書き(注意書き)

 

・フリット君が生まれた時から女の子です

・カップリングはウルフ・エニアクル×フリット・アスノ(♀)

・「weiβ flamme(一話目)」「weiβ wald(二話目)」「weiβ schattan(三話目)」

 「weiβ gestirn(四話目)」「weiβ weigerung(五話目)」の続きで六話目

・フリットが婦女暴行未遂の被害にあいます

・↑の理由もあり、あまり宜しくない表現があります

・オリキャラがまた増えました

・捏造ばっかり

 

以上の項目に吐き気や腹痛の症状が出た方はこのページから脱出しましょう。

大丈夫だった方はAGEシステムの成長を我が子のように見守りながらどうぞ続きへお進みください。

読んでる途中で気分が悪くなりましたら、無理をせずに避難してくださいね。

 

 

高級住宅が多く、富裕層が多く集まるコロニー“ヴェルデ”の宇宙ステーションにラーガンは降りたってフリットの姿を探す。

 

今回は作戦などではなく、地球連邦政府主催による上層部の人間やそれに支援をしている企業や個人が集まるパーティがこのコロニーにあるホテルで行われることになっている。

ラーガンには縁の無い話だったはずなのだが、フリットがアスノ家当主としてその場に向かわなければならなくなったのだ。基本的にパーティにはパートナーを引き連れていくのが礼儀で、彼女の護衛役も兼ねてラーガンが抜擢された。

 

フリットはビッグリング基地に一度寄るより、“トルディア”からこの“ヴェルデ”に来たほうが近いために現地の宇宙ステーションでラーガンと落ち合うことになっている。

 

「ラーガン」

 

聞き慣れた声に呼び止められてラーガンが振り返れば、美少女がいた。

固まったラーガンにフリットは変だろうかと髪を触ったりドレスに視線を落とす。

 

「エミリーとおばさんにやってもらったんですけど、何かおかしいですか?」

「いや、そうじゃなくてな。本当にフリットか?」

「はい」

 

首を傾げながらもそうだと言うフリットをラーガンはまじまじと眺める。

いつもと違う髪型に視線を移せば、伸ばした髪を捻り上げて右耳の後ろあたりでピンクのリボンで結い、テールになった髪を肩前に流しており、今までの印象と比べると大人っぽい。

ドレスは桜色のように淡いピンクでジャケットとパンプスは白で統一されている。

 

「そういう服持ってたんだな」

「これは……ウルフさんが」

 

尻すぼみになるフリットの言葉にラーガンは成る程と頷く。ウルフの趣味で選ぶような服ではないが、女の子と女性の境目にいるフリットに良く似合っているドレスだ。

推察するに、女性の店員が見立てたものだろうとラーガンは鋭く結論づける。

 

「だったら護衛はウルフの方が良かったんじゃないか?」

 

この“ヴェルデ”にはウルフの移動赴任先であるデインノン基地がある。彼の方が適役だろうと言えば、フリットは首を縦には振らなかった。

けれど、指先を唇に押しつけるフリットにラーガンは気付いてしまう。自分の無意識な行動に気付いて手を腰後ろで休めのような体勢に変えるフリットに気付かないふりをしてやるべきだろうとラーガンは時刻を確認する仕草を取った。

 

海賊を追い払ってビッグリング基地に戻ってきた次の日にはもうフリットは“トルディア”に向かってしまっていた。

ウルフも移動手続きやらで忙しくしていたが、時間を見つけてラーガンは彼と話す機会をもうける。

所々はぐらかされての会話だったが、フリットが許すところまでは踏み込んだらしい。今のフリットの反応からそこまで行ったかと胸にとどめておく。けれど、ウルフの腑に落ちない表情がちらついた。

 

足下のハロを見下ろして、お前も知らないよなと視線で語ってみれば、相手はゆらゆらと揺れたり転がったりするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

デインノン基地に移動してきてから四日目。ウルフが休憩所まで足を運んでいると、ブレイクルームの扉を挟んだ向かい側の通路から見知った顔を見つける。

 

「よお、ミーちゃん」

「その呼び方は止めてください」

 

三年前と変わらない美貌に感嘆しつつ軽い調子で声を掛ければミレース・アロイは眉を歪めた。

ミレースはこのデインノン基地に勤務して半年になるが、蝙蝠退治戦役後からディーヴァのクルーは全員別々の赴任地へと移動となった。それは彼らが協同して上層部が隠蔽していた真実を暴露してしまうのではないかと危惧したために取られた処置だった。

しかし、ラーガンやフリットに続きウルフがこうしてまたディーヴァの元クルーと顔を合わせることになったのだから、連邦軍はやはり未だに人材不足ということだ。

 

ミレースはウルフと目的地が一緒だったことに落胆しながらも、回れ右はせずにブレイクルームに入り、ウルフもそれに続く。

共に入ってきた二人に先客として寛(くつろ)いでいた面々が顔を上げる。

 

「ウルフ、もう浮気か?」

「我慢が足りねーなぁ」

「愛しの女子高生はどうしたよ」

 

新しい同僚と上司が目聡くそんな言葉を次々にウルフに投げかけてくる。

 

「女は大切にする主義なんだよ」

「私は泥沼の原因にはなりたくありませんからね」

 

ミレースも此処にいる同僚らもあのレースの噂は耳にしており、何だかんだで気に掛けていることだ。

 

「嫉妬の一つぐらいしてくれたら良いんだけどな」

 

ウルフのその話しぶりにコーヒーメーカーから手を離してミレースは驚き半分で振り返る。

 

「まだ何ですか?」

 

ミレースが何を問いかけているのかウルフには分かる。既にあの宣言の日から二ヶ月は経っており、手の早いウルフのことだから既に両想いになっているものだと思われていたのだ。

 

「まあな…それで。ミレースに、女の目線から訊きたいんだが」

 

少し歯切れの悪いウルフにこんな人だっただろうかと首を傾げつつミレースは両手に持ったコーヒーカップの片方をウルフに手渡す。

気配り上手と煽(おだ)てた礼を言うウルフの声を耳に入れながら、適当な椅子に腰掛ければ、テーブルを挟んだ向かいの席にウルフも腰を下ろした。

 

「訊きたいことって何ですか?」

「十七で初体験って早いのか?」

 

ブッと近くの席でコーヒーブレイク中だった周囲の同僚らが黒い液体を吐き出す音や咳き込む音が聞こえるが、ウルフは真剣にミレースの返答を待っている。

 

「…すみません。ちょっと話を整理してもらいたいんですが」

「モビルスーツ乗った後ってアドレナリンの匂いがまだ燻(くすぶ)ってるだろ」

「そんな理由で手を出したんですか?」

 

互いに気持ちの確認をし合っていないのに先に進もうとしたのかとミレースは信じられないと顔を歪める。それに対しウルフはやはりフリット相手にこの間の行動はまた早計なことだったらしいと納得すれど、今までの経験から割り切った関係でしかそういうことをしたことがないのだから仕様がないだろうとも思う。

 

ウルフなりに色々考え、あいつバージンっぽいしなぁと続く言葉にどうしてくれようこの男…とミレースの脳裏に物騒な考えが浮かぶ。けれど、この人でもそういうことで悩むのかと意外にも感じた。

 

「それは個人差があるので何とも言えませんが、好きかまだ判断出来ない相手に身体はそう簡単に許すことは出来ないと私は思います」

 

デリカシーの無い言葉への怒りをどうにか抑えて本心からそう言えば、ウルフはやっぱそういうもんかと相槌を返した。

 

 

 

 

 

 

 

タクシーを拾ってフリットとラーガンが辿り着いたのはウォルドルフェザーという四十七階まである建物だ。名の知れたインテリアデザイナーが外観や内部空間の設計を手掛けたデザインホテルである。

アールデコ調の外観を持つホテルの玄関を進んでロビーに入れば、照明は白い枝で作られた鳥の巣のような形をしており、柔らかな光を放っている。

フロントの前まで行き、フリットが招待状を受付スタッフに提示すれば丁寧な語り口で二階の会場への道筋を説明される。

 

「招待状は会場入り口スタッフにもう一度お見せ下さい。お荷物は此処でお預かりを承っておりますが、如何致しますか?」

 

フリットはラーガンを見上げ、彼は預ける手荷物はないと首を振ったのを確認し、自分も小さなハンドバックを手にしているが中にAGEデバイスが入っているため受付スタッフの申し出を断る。ハロも手荷物ではない。

 

「いえ、大丈夫です」

「では、ごゆっくり」

 

頭を下げる相手に軽く会釈を返してフリットとラーガンは説明して貰った会場へと足を運んだ。会場の入り口に立つスタッフに招待状を手渡し確認が終われば会場内へと続く扉をスタッフが開ける。会場内は五階まで吹き抜けになっており、横にも縦にも広々とした印象を受ける。

 

パーティの開始時間はあと五分後の十九時からであり、既に会場内は招待されている者達で溢れていた。

開始時間ぎりぎりに来たせいもあり、会場内にいた全員の視線が軍人を引き連れた少女に向けられる。

あの子は誰だろうと各々が隣の者や近くの者に尋ねる中、一人の紳士が前に出てきて王に仕える騎士のように少女の前に片膝をついて少女の手を取ればそこに唇を落とす。

 

「アスノ嬢、お久し振りです」

「ラクトさんも元気そうですね」

 

相手の騎士のような振る舞いを見慣れているフリットは手の甲にキスされたことを全く意識せずに挨拶を返す。

 

「やはり、聖女には可憐なドレスが良く似合う」

「はぁ…」

「ウルフの見立てですけどね」

 

正確には店の店員の見立てであるが、些細なことなので訂正せずにラーガンがそう言えばラクトは動きを止める。

エウバのリーダーであるラクト・エルファメルは蝙蝠退治戦役でフリットらと共に戦った仲であるが、紳士でプライドの高いラクトから見てウルフは野性的なところが目立つ相手であり会話をしてみれば馬が合わなかったのだ。そう感じたのはウルフも同じでお互いに犬猿の仲だと認め合っている。

 

「今回ばかりは彼に軍配をあげよう。だが、奴が嫌になったら何時でも私の所に来るといい」

 

ラクトにもやはりあのレースの一件は耳に入っているらしく、フリットは曖昧に返事をするしかない。

ラクトがフリットに話し掛けたことにより会場内にいる周囲の者達も状況を把握する。 地球連邦政府の人間が半数以上を占めており、ガンダムは勿論のことフリット・アスノという名も彼らには知れ渡っている。

 

「あんな子供が」

「横の兵士は子守か?」

 

忌避する声が漏れ聞こえるが、戦果を上げたガンダムは隠蔽していたUEの正体を軍の下層部の人間までもが知る切っ掛けとなってしまっただけに軍事部の上の人間はフリットを厄介者と見る者も少なからずいた。

 

先日の海賊討伐作戦のミッション中に計画に組まれていなかった行動に出たフリットにガンダムを見せびらかすような真似をしてと訝(いぶか)しむ者もいるのだろう。結果良ければ全て良しの世界では無いが、あれは海賊について自前調査不足だったこともあり、フリットの行動は作戦違反にならずに済んでいる。

 

「まだ若いがあの伝説のモビルスーツを開発したのだろう?」

「流石、アスノの当主だけのことはありますね」

 

だが、賛辞する声もある。連邦政府にとっては賛否両論があり、フリットは本人のあずかり知らぬところで微妙な立場に立たされていた。

 

相手が子供だからと言いたい放題だなとラーガンは思うが、彼はフリットを妹のように感じることはあれど、子供扱いしたことはない。モビルスーツの知識は自分以上に詳しいうえに幼さを感じさせない秀明さも持ち合わせている。

悪評の声も称誉の声もフリットのことを何も知らないからこその言葉だとどちらにも言えた。

 

「フリット、私のことを覚えているかい?」

 

丸テーブルの間を縫ってフリットのもとにやってきた老紳士が開口一番にそう問いかければ、フリットは少し考えるも直ぐに目を丸くした。

 

「ランディさん」

「嬉しいね、名前まで覚えていてくれたか」

 

顔の皺を深くして微笑む老紳士にフリットも彼が無事でいてくれたことに微笑み返す。 ラーガンがフリットに此方のご老体は何者かと訊けば、フリットは十一年前のことを掻い摘んで説明を始める。

 

フリットが当時六歳だった頃、母親であるマリナにそろそろ貴女も社交界デビューしないといけないわねと、主催者は誰だったかは記憶に無いが、今と同じようなパーティに招かれたことがあった。

その時にモビルスーツ鍛冶であるアスノ家の援助をしてくれている足長おじさんよと母に紹介されたのが目の前にいるランディ・アグニスだ。

彼もスペースコロニー“オーヴァン”に当時住んでいて、初めて会った後も何度か顔を合わせている。だが、ヴェイガン達の襲撃により母を亡くし周囲が混乱する中、今まで彼の生死を知る術は無かった。

 

「ランディさんはこのコロニーに?」

「いや、今はコロニー間の貿易に携わっていて色んな場所に赴いていてね。定住先はないんだが、ヴェルデには良く来るから今日はお得意様に誘われてね」

 

数々のコロニーの住民票に目を通しても彼の名前を見つけられなかった理由が分かり、フリットは納得がいく。

 

「アスノ家は無くなったという噂があってな。それが嘘で本当に良かった」

「けど、母さん達は…」

「そうか…だが、フリットと再会出来て私は嬉しい」

「私も、です」

 

使い慣れていない一人称で返せば、ランディはいつも通りで構わないと微笑む。

ランディはアスノ家の執事とも気の知れた仲であり、その縁でアスノ家と関係を持った経緯がある。

フリットの近況を訊いたランディはまた会えるといいなとフリットと握手を交わして今日のパートナーであるお得意様のもとへと戻っていき、ラクトも美女の群へと去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

適度に挨拶回りを終わらせたフリットとラーガンは扉近くの壁に背中を預けて暫しの休憩を取っていた。

 

「お疲れさん」

「ラーガンも」

「にしても、お前よくあんなに大人数の名前と顔を覚えられたな」

 

上層部の人間が殆どなのだからフリットは必然的に格下になる。自ら挨拶に率先せねばならず、声を掛けるのは此方からだ。有能な秘書を連れている社長ならばパートナーの秘書任せだが、ラーガンにそのような芸当は出来ない。

だからこそ、フリットが一度も相手の名前を間違えずに涼しい顔で挨拶していく様は清々しいほどだった。

 

参加者の殆どが異性をパートナーに引き連れていたおかげで、女性達がハロを見て微笑むものだから、フリットのことを良く思っていない者達もパートナーの手前、社交辞令の挨拶だけで済ませてくれたのは有り難い誤算だったとラーガンは思う。

 

「参加者のリストは貰ってたんで、暗記してきました」

 

このパーティに参加する旨と一緒に連邦政府から参加者リストのメールが送られてきた時にフリットはどんな格好で行くべきかよりも先に参加者の顔と名前を覚えることを優先した。

 

ぎりぎりになってエミリーにパーティに参加することになったことを伝えれば何でもっと早く言わないのかと怒られたが、おばさんと一緒に身支度の世話を焼いてくれたことには感謝している。

服はどうするかと言われ、クリーニングから返ってきた制服と一緒に今着ているドレスが衣装箪笥に眠っていることを話した。すれば、エミリーはウルフにしては良い趣味だと誰に貰ったものか言ってもいないのにズバリと当てられて居心地の悪い思いをした。

 

「そういやさ、そのリボンいつも付けてるよな」

 

今更だけれどと、そんなことを訊く。ディーヴァを降ろされ、クルーは皆それぞれ別の赴任先に飛ばされた。

二年前にフリットが所属しているビッグリング基地に移動してきた時には既にフリットはそのピンクのリボンを身に付けていて、エミリーの趣味だろうかとずっと思っていたが、よくよく考えてみればフリットが普通の女の子が好むようなピンクのリボンを女友達から貰っても毎日は身に付けないと今更思ったのだ。今着ているドレスだってこのような場でなければ絶対にお目にかかれない。

 

「貰ったんです。今では…その子の形見になってしまいましたけど」

 

静かに、それでいて穏やかな口調に何とも言えなくなってしまう。顔を合わすことのなかった一年間にあったことなのか、ディーヴァに乗っていた時のことなのか定かではないが、生死に一番近い場所にいたのは後者だよなとラーガンは思い至る。

思い出すのが辛いことかもしれないと、ラーガンは話題を変えた。

 

「フリットはこういう場にそんな慣れてないんだよな」

「小さい時に一度だけですね」

「気分とか大丈夫か?」

 

少し前から会場の空気や周囲の腹の探り合いを感じ取って気分を悪くし、会場から出て行く者が何人かいることに気付いたラーガンは自分も多少なりとも空気に当てられておりフリットを気遣う。

 

「平気ですよ」

 

いつも通りの顔色で返され、むしろラーガンの方が大丈夫かと少し心配げな顔を向けられてしまう。

周囲との線引きがはっきりしているフリットはそういうところがタフであり、ラーガンは少し羨ましく感じる。

だが、受け入れてもいいと思っている相手にも線引きして遠ざけてしまっていることに彼女は気付いているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ランディ、連邦政府は腐っているとは思わないか?」

 

挨拶回りを早めに終わらせ、パーティ終了時間を待たずに自家用車で会社に戻るパートナーに付き合って助手席に座るランディは運転手の横顔を見る。

パートナーは大企業の御曹司でランディに貿易の仕事をいくつか持ってきてくれる大事なお得意様だった。

だが、不穏な発言に身構える。

 

「どういうことだね?」

「奴らは鎮圧と称して虐殺をしているんだ。テロリストも同然だ。なら、お返しをしても構わないだろ?」

「君は…!」

 

彼が抱えている企業は警察や連邦軍、特殊警備関係の銃器などを製造している。商売品である銃やナイフをとある組織に流したことを言葉の中で感じ取ったランディは目を瞠る。

脳裏をよぎるのは“オーヴァン”が無くなって以来会うことの出来たフリットの姿だ。

 

企業関係者はパーティ終了まで残っている者はあまりいないだろうが、連邦政府の人間や軍関係者は滅多なことがない限り直ぐに帰ることは出来ないはずであった。

ランディは怒りを胸の奥に留め、彼の言葉に相槌を打ちながらも気付かれないように思案した。

 

 

 

 

 

 

 

ラーガンが飲み物でも取ってくるとフリットの側を離れた時だった。

 

防弾チョッキを身に着けた全身黒ずくめの男達が会場内に俊敏な動きで続々と入り込んできたことにラーガンは驚愕すると同時に腰の銃を手に取りセイフティを外す。

だが、その僅かな間に肩を撃たれてその場に崩れ落ちる人の姿に周囲の人間から悲鳴が漏れる。

その悲鳴を止めるように銃声がまた一つ響き、シャンデリアが揺れて破片が散った。

 

「このホテルは我らESGがジャックした!そこの男のようになりたくなければ手を頭の後ろで組んでその場に膝をつけ!」

 

ESG(Ein Schwarzer Griff)と名乗る組織は政府の隠蔽工作によって被害を受けた者、政治に不信感を覚えている者、連邦軍らの鎮圧で家族を亡くした者など様々な事情を持つ人間達で構成されている。彼らはある筋から横流しされた銃や刃物を手に会場内の者達を脅す。

 

武器を持たない政府の人間達は急なことに戸惑いながらも黒ずくめの男の言葉に従って膝をついていく。

だが、その場にいた軍人や要人警護の者達は違う。要人を警護している者は雇い主の側を離れることは出来ないがそれぞれが応戦の準備を始め、軍人は黒ずくめの男達に銃を向ける。

 

ラーガンが黒ずくめの男の顔面を覆うマスクに銃声を放ったのを合図にテロ組織の人間と軍人が動き出す。

グラスやプレートの乗った丸テーブルに敷かれた真っ白なテーブルクロスを引き抜き、銃を手にする相手への目眩ましとしてラーガンは鳩尾を狙う蹴りを入れる。後ろからファイティングナイフを振りかざしてくる相手には自分から後ろに飛び込み、不意を突いてナイフを手にした腕を抱え込んで背負い投げを喰らわす。

 

だが、黒ずくめの男達の数は圧倒的でその場に崩れ落ちる軍人達が増えていく一方であり、ラーガンも銃弾がバイザーを弾き飛ばし、その隙を突かれて腹部をざっくりとナイフで突き刺された。

 

「…グッ」

 

傾いて霞んでいく視界が捉えたのはピンクのリボンが舞う中ハロが蹴り飛ばされ、黒ずくめの男三人に引き摺られていくフリットの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

フリットは黒ずくめの男に口を手で塞がれたままホテル内の宿泊施設である一室に運び込まれていた。

彼らの手がフリットから離れたところで彼女はドレスのスカートで隠していたラーガンに万が一の為にと手渡されていた銃をそっと手に取ったつもりだったが、気付いた男に腕を蹴られて銃を落とす。それを男は拾い上げてフリットの額に突きつけた。冷えた硬い感触に唾を飲み込む。

 

「大人しくしてりゃ、殺しはしないさ」

「……」

 

フリットの額に銃を突きつけたままの男は残りの二人にマスクから覗く視線で目配せする。

 

「アスノ家の生き残りを持ち帰ればお頭も考え直してくれるだろうよ」

「ああ、ガンダムを欲しがってたんだ。こいつを連れて行けば」

「今の貧しい生活とはおさらばだ」

 

彼らが言うお頭が誰なのかは分からないが、このホテルをジャックした組織とは別の目的…即ち自分にあることを理解する。

 

「貴方達はテロリストじゃないのか?」

「答える義理はない、ぜ!」

 

額から銃は離れるが、銃を持った男の手に左頬を殴られてフリットは頭を床に打ち付けた。強く殴られたわけではないが、頬が僅かに痛みを伴って赤く染まる。

 

「あんま傷つけるなよ」

「何だよ、紳士面して」

「そうじゃない。お楽しみにしけ込むのに傷物は嫌だろ」

 

下衆な笑みを浮かべる男に合点がいったと話し相手ともう一人も口元に同じような笑みを浮かべる。

男達がマスクを脱ぎ捨てて今までとはまた違う不穏な空気を漂わせ始めたことにフリットは為す術が無いまま上着やハンドバックをはぎ取られ、ベッドシーツの上に乱暴に転がされた。

 

四肢を男三人に押さえられてはフリットは動くことすらままならない。彼らが何を始めようとしているのか分からないほどフリットは子供ではなかった。

自分では強く抵抗しているつもりでも端から見れば僅かに身じろぎしているようにしか見えない。ドレスの肩紐をずり降ろされ、スカートを引き裂かれる。荒々しくストッキングごと下着を脱がされて右足にそれらが絡まった。

 

「生理中か。これじゃ初モノか分かりづらいな」

 

男の言葉に屈辱と羞恥以上に怒りがわき上がるが、「まぁ、いいか」と呟いて無防備な下肢を這ってくる男の手に途端に恐怖心が襲ってくる。

 

「やめ…ッ、ぃゃぁ」

 

両腕を掴む男二人には胸をまさぐられ、足の間にいる男には血の滲む場所に指を入れられてフリットの頬に涙が落ち続ける。

湿った音と共に指が引き抜かれ、男が焦るようにベルトの金具を外す音にこれが現実だと無情なまでに思い知らされた。

 

嫌だと、怖いと、声にならない声が叫び続ける。

誰か助けてと弱々しく願う自分が無力であることに打ちのめされる。

誰か、誰か、誰か。

 

「…ウルフさん」

 

掠れた小さな呟きは誰の耳にも入らなかった。だが、その声に応えるようにドアが蹴破られる音がその場の時間を止める。

続いて銃声が三発放たれる。

 

フリットは自由になるが、彼女の乱れた姿とシーツの血痕を視認したウルフは肩を押さえて呻く一人の男の胸ぐらを掴んでその顔を何度も殴りつける。

一発、もう一発、更にと、立て続けに殴っては殴った。

 

無言で狂ったように殴り続けるウルフに我に返ったフリットはウルフの腕にしがみついた。

 

「止めてください!それ以上やったら」

 

死んでしまうと。ウルフの手が血に染まってしまうのを目の前で見たくはないのだと。フリットが強く願う。

ウルフは腕をだらりと降ろすが、その肩は怒りで震えたままだ。

 

「お前…自分が何されたか分かってるのか?」

「………」

 

静かなウルフの声に分かっていると答えられるほど空気は温かくない。むしろ冷え切っていた。

けれど、フリットはウルフが来てくれたことに安堵し、彼の腕ではなく身体にしがみつけばウルフは驚いた様子でフリットの頭を見下ろす。次いで、フリットは我慢していたものを全て吐き出すように絞り出すように言葉にならない声で泣きじゃくった。

ウルフはその小さな背中の震えが止まるように自分のジャケットを掛けてやることしか、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海賊船艦の船長席に深く腰を掛けているバルバロスはモニターに映る久しい顔に今日は何の取引だと声を掛ければ、通信相手のラクトは険しい顔になる。

 

『先日のテロのニュースはご覧になりましたか?』

『テロ?ああ、あのちんけな黒い手とか言うあれな。それが何だ』

『手首に貴方方のエンブレムを掘っている男が三人混じってたんです。心当たりは?』

『ボブ達のことか?あいつら、俺の目を盗んでドラッグに手をつけやがったから放り出したぜ』

『成る程』

 

ラクトは合点がいったと息を吐く。ナノマシンをインプラントしている彼らだが、薬物は依存症や幻覚障害を引き起こすためにそれらを売買することはあっても使わないのがバルバロスの主義だ。

 

『あいつら、何かしでかしたか?』

『フリット・アスノという少女を拉致しようとしたんです』

『…あの嬢ちゃんか』

『貴方が嗾(けしか)けたのですか?』

 

フリットのことを知っている口振りに、バルバロスが命令したのかと訝しめば、彼はゆるりと首を横に振った。

 

『いや、俺は知らねぇよ。この間ガンダムとやりあった仲なだけさ』

 

ガンダムという単語に驚かないラクトに此奴知ってやがったなとバルバロスは腹の底で思う。

しかし、そこでふとアスノという名に再び引っかかりを覚え、彼は記憶を呼び覚ます。そうだ。若い頃、一緒に良く連(つる)んでいた男が二人いた。

 

その片方がモビルスーツ鍛冶の屋敷で執事として雇われていると二十年以上前に風の噂で耳に入れた。その後、今から十三年ほど前だっただろうか、本人から近況を知らせるメールが写真画像と共に送られてきたことが一度ある。

どうやって海賊への連絡手段を手に入れたか分からないが、昔の友人から来たメールを邪険には出来ない。しかし、仲間達に見られてしまったら気恥ずかしくて何度も繰り返し読んでから削除してしまった。

あの写真画像に友人と一緒に写っていたのは優しそうな母親とその女性に抱きかかえられた小さな子供ではなかったか。

 

『で、嬢ちゃんは無事なのか?』

『命に別状はありません。けど、』

 

何事もはっきりと口にするラクトにしては珍しく口籠もったことにバルバロスは早く言えと催促すれば、ラクトは肩で一度呼吸した。

 

『…乱暴されたんですよ。未遂ですが、女性にとっては辛いことに変わりはない』

 

その言葉に動いたのはバルバロスではなく、彼の傍らに立っていたガイだ。

彼はモニターに背中を向けて立ち去ろうとする。

 

「ガイ」

 

バルバロスが呼び止めたところで彼は立ち止まり、背を向けたままラクトに言う。

 

『ボブの奴らは俺が絞める!此処まで運んで来い!』

 

幼い頃に母親を亡くしたガイにとって女性は守るべき対象だ。女がモビルスーツに乗ることにも我慢ならないが、これは腹立たしい以上に腹の奥底が煮えくり返るほどだった。

 

『制裁ならもう十分喰らってますけどね。ほら』

 

ラクトがカメラを動かせば、顔がこれでもかと腫れ上がっていて誰なのか、むしろ人間なのかすら分からないほどになっている男がモニターに映る。他の二人は足や腕を銃で撃たれただけのようで此方は顔が判別可能で顔見知りだった。

 

『ひっでぇな。誰だ、此処までやったのは』

 

哀れんだりはせず、清々しいという思いでそう訊く。

 

『ウルフ・エニアクル中尉ですが』

『もしかして、あの真っ白いモビルスーツのパイロットか?』

『彼ともお知り合いでしたか。まあ、本当なら彼ら殺されてたでしょうが、アスノ嬢が殺すなと止めたんです。彼らは貴方達に引き渡しますが、死なない程度にやって下さい』

『恩に着るぜ』

 

ラクトにとっても自分が宇宙海賊と裏取引をしていることは伏せておきたい事実だ。警察なり連邦軍の管理下に彼らを置いておけば何を言われるか分かったものではない。

今日の件はこれだけですとラクトは通信を切り、横たわる三人の男を海賊に引き渡すために椅子から腰を上げた。

 

 

 


 
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