「いた……」
クウガに教えられた場所に向かったアギトの視界に仮面の男が見えてきた。あちらもアギトの接近に気付いたのか、まるで待ち構えるようにアギトを見つめている。それを見て、アギトは余計に警戒心を強くする。何故かその視線に強い敵意を感じていたのだ。
その視線はどこかかつて戦った”黒い服の男”に近い何かがあった。だからこそアギトは警戒心と同時に不気味さも抱いた。黒い服の男は結局正体が分からぬままだったためだ。そういう意味では目の前の相手も正体不明だ。そう考え、アギトは小さく呟く。
「一体、あの人は何者なんだ……」
その直後アギトは男の前に降り立った。男はアギトを見つめ、何か戸惑っている。敵なのか味方なのかを判断しかねているというよりは、アギトが一体何なのかを測りかねている風だ。しかし、考えても答えは出ないと察したのだろう。意を決するように男は告げる。
「貴様、何者だ」
「何者、か……」
男の問いでアギトの脳裏に甦るのはこの世界に来る前に経験した発電所での戦い。その場所は異常な空間になっていて、アギトはそこで過去のアギト達―――一号やV3にBLACKと出会ったのだ。
そして、彼らと初めて会話した際一号が名乗っていた名前を思い出したのだ。あの時、ついつられるように名乗ったその名を。それが持つだろう意味。それを思いアギトは微かに頷くと男に対してはっきりと告げる。己が新しい名前を。
「俺はアギト! 仮面ライダーアギト!」
「仮面ライダー……だと?」
「そうだ! 闇を打ち砕く正義の光だ!」
脳裏に甦る緑のアギト―――一号の言葉。悪魔と呼ぶべき”邪眼”に対し、彼が叫んだその言葉。その時の力強さを借りるようにアギトは言い切った。その叫びに男は何か可笑しいものがあったのか、低く笑い出す。
「ククク……闇を打ち砕く、だと? ならば、何故貴様は蒐集行為を見逃した」
「っ!? どうしてそれを!」
「ふん……まぁいい。とんだ邪魔が入ったが、それもここまでだ」
その瞬間、アギトの体を光の輪が拘束した。バインドと呼ばれる拘束魔法だ。それを何とか打ち破ろうとアギトはもがくが、バインドは微かに亀裂を走らせるだけで砕けはしなかった。だがバインドを力で打ち破ろうとするアギトへ、男はやや感心するように息を漏らしながらもゆっくりと手を向けた。
「興味深い力を持っているようだが、生かしておくのは危険そうだ。さらばだ、仮面ライダー……」
「くっ!」
男の手に恐ろしい程の魔力が集束していく。その攻撃は確実に自分を捉え、大ダメージを与えるようにアギトは感じた。それ故、何とか拘束を外そうと足掻くアギト。それに応じて亀裂は大きくなりバインドが砕けそうになる。だが、無常にもそれより早く男の手から魔法が放たれようとした。
「死ねっ!」
「っ!?」
しかし、その瞬間何かがそれを阻止するようにそこへ飛来し男を牽制したのだ。
「何っ?!」
「今だっ!」
アギトを助けたのは目には見えない何かだった。しかも、その攻撃が今度は完全に男へと襲い掛かる。何とかシールドを展開し男は謎の攻撃を防いでいた。その間にアギトが体勢を立て直し、片手でベルトの側面を叩く。
それにアギトの体が赤くなる。フレイムフォーム。剣を使うアギトの姿。腕力に優れた攻撃力が高いその姿になったアギトはベルトの前へ手をまわす。それに呼応し、ベルトから一振りの剣が出現した。フレイムセイバー。フレイムフォームと、とある姿しか使えない専用装備だ。
それを手にし、アギトは見えない攻撃を防御している男へ斬りかかった。ここで男が幸運だったのはフレイムセイバーの鍔が展開していなかった事だろう。アギトは相手を倒すつもりはなかったのだ。話を聞き出したいとの気持ちがそこにはある。
「はあっ!」
「ぬっ!」
アギトの一撃も先程と同じでシールドで防ごうとする男。だが、その目の前で信じられない出来事が起きる。
「ば、馬鹿な……っ!」
「はあぁぁぁぁ!」
アギトのフレイムセイバーがシールドにひびを生じさせていったのだ。男の驚きを他所にアギトはそのままフレイムセイバーをシールドを壊すように押し付ける。
「はっ!」
「ぐあぁぁぁっ!」
最後の一押しがシールドを打ち砕き、その剣先が男の腕に掠る。その場所を押さえるようにしながら男はアギトから距離を取った。
これ以上の戦闘は難しい。そう感じて話を聞こうとアギトが男へ近寄ろうとする。だが男はアギトを睨むように見つめて吼えた。
「覚えていろ! 今度は……こうはいかんぞっ!」
その言葉をキッカケに足元に出現した魔法陣の中へ男は姿を消した。追い駆けようとするアギトだが、流石に魔法陣の中へ消えたものを追い駆ける事は出来ない。
話を聞き損ねた。そう思いながら周囲にもう怪しい気配がないのを確認し、アギトは後ろへと視線を戻す。先程の自分を助けた攻撃。それをやっただろう者の名を呟きながら。
「クウガさん……」
アギトが男へ反撃を行った頃、クウガはビルから降って手にしたペガサスボウガンをなのはへと返した。それを恐々受け取るなのは。
そう、クウガが変化させたのはレイジングハートだった。射撃が出来る物という言葉でなのはがレイジングハートを渡したのだ。
損傷を受けているのでクウガも不安ではあったが、見事にレイジングハートはペガサスボウガンへと変化した。クウガの物質変換能力は原子レベルでおこなうもの。
つまり、手にしたものがどんな状態でも関係なく、その姿に適したものであれば応じた武器へと変化させるのだ。
「……本当に戻った」
”驚き……ました”
自分の手に乗った途端、普段の姿へ戻るレイジングハートを見たなのはは手品を見たかのように呟いた。それに同調するように喋るレイジングハートだったが、損傷のために途切れ途切れだ。クウガはそれを見ながら再び姿を赤へ戻した。
それを見ていた全員が軽い驚きを見せる。超変身自体は理解していた。クウガは最初こそ青で次に赤へ体の色を変え、今は緑となっていたのだから。
しかし、それを目の前でやられる事にまだ慣れるはずもなく、誰もが小さな声を漏らしたのだ。
「ありがとう、なのはちゃん。おかげでアギトさんを助けられたよ」
「えっと、その事で聞きたい事があるんだけど」
なのはへ改めて御礼を述べるクウガへユーノが恐る恐る問いかける。なのはから人間と言われても先程からのクウガを見ているとどうしても人間とは思えないためだ。
それを見たクウガはユーノの様子からかつての杉田刑事を思い出し、その感覚を感じ取った。すぐにユーノへ視線を向けるとその姿を一瞬にして普段の状態へと戻したのだ。
今度はそれに全員が驚く中、五代はどこか気まずそうに表情を変え、周囲の面々に告げる。
「すいません。何か、驚かせてばっかりで……」
ややあってからそこへアギトも戻ってきて同じような事をし、五代と翔一は揃って苦笑いを浮かべる事になる。
これが二人のライダーが出会った夜の最初の出来事。静かに闇の書事件と呼ばれる流が変わり始めた瞬間だった……
「嘘だ……」
「チンク、気持ちは分かるがこれは現実だ」
どこか憮然とするトーレと唖然としているチンク。その二人の視線の先にいるのは一人の騎士の―――いや戦士だ。
「っとと……あぶね」
巨大なとかげの化物を相手に孤軍奮闘する龍騎。ここはとある管理外世界。三人はドラグレッダーの餌を確保するため、ここに来ていたのだ。本来ならば、三人で協力して倒すはずだったターゲット。それを龍騎は「俺だけでいけるって。二人は女の子なんだし、さ。任せてくれよ」と言ってこの状況だ。
二人が何故龍騎の戦いを見つめ、どこかやるせない気持ちになっているのには理由がある。それは龍騎が相手をしているターゲットの強さ。管理外で原生生物なので個体差があり絶対とはいえない。だが、それでも魔導師ランクに換算すればAAは堅い相手なのだ。それを龍騎は一人で相手をし、尚且つまだ余裕さえある。それが意味する事を考えれば二人の気持ちも分かろうというもの。
「今度はこいつだ!」
”STRIKE VENT”
龍騎の右手にドラグクローが装着される。龍騎はそれと同時に腕を引いてパンチの構えを取った。それを好機と見たのか巨大とかげは龍騎へ向かって突撃する。
だが、それは悪手でしかなかった。龍騎はギリギリまで引き付けてその拳を打ち出したのだ。昇竜突破と呼ばれる攻撃。またの名をドラゴンストライク。龍騎の技の一つが巨大とかげの巨体を吹き飛ばす。
「……私は、あれを喰らった事があるのだが……?」
「私達へ放つ際はおそらく加減してるんだろう……どこか信じられんがな」
その光景に背筋が凍る二人。既にドラゴンストライクを受けた事のある二人にとって眼前の光景は恐怖でしかなかった。まだ二桁にも満たないが、ある程度戦い底が見えてきたと思っていた龍騎。その底が再び見えなくなったのだから。
(真司はどこまで力を隠しているのだ? ……もしや、全力を出せばSランクさえ凌駕するとでもいうのか……?)
(真司の奴、まだ力を隠していたのか。まったく、私には全力を出せと言っているのに! ……帰ったら説教だ)
二人が思い思いに龍騎を見つめる中、勝負は決着の時を迎えようとしていた。先程の攻撃で巨大とかげは横たわっている。それを確認し、龍騎はおもむろに一枚のカードを手にした。そこに描かれているのは龍騎のマーク。それを見た二人は息を呑んだ。
それをドラグバイザーへ読み込ませる龍騎。それが意味する事を知る二人に緊張が走る。そう、それこそ龍騎の切り札。初めて見た際にトーレもチンクも言葉を失った必殺技を放つ合図なのだから。
”FINAL VENT”
「はあぁぁぁぁぁ……」
その場で構える龍騎の周囲をドラグレッダーが巻き付くように動いていく。そして、それと呼応するように龍騎も腰を深く落とし―――。
「はっ!」
ドラグレッダーと共に空へ跳んだ。空高く舞い上がり、その体をドラグレッダーが一瞬隠す。その瞬間龍騎は一回転捻りをし、蹴りの体勢へ入った。それは未だにトーレもチンクも破れない無敵の必殺技。今の龍騎の最大にして最強の攻撃。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
その名はドラゴンライダーキック。ドラグレッダーの火球を受け、その勢いを加えて突撃する荒業。その破壊力と速度は凄まじく、トーレのライドインパルスさえ逃れる事は出来なかったのだ。
龍騎必殺の蹴りが巨大とかげを完全に沈黙させる。そして、それを確認して龍騎をドラグレッダーを見上げた。しばし見つめ合う龍騎とドラグレッダー。やがてドラグレッダーは龍騎の視線から何かを感じ取ったのか、巨大とかげへと近付きおもむろにそれを食べ始めた。
それに安堵の息を吐く龍騎とトーレ達。もしこれで無理ならやむを得ずジェイルの創る人工生命体を食べさせるしかなかったからだ。それを回避出来た。そう思ってドラグレッダーの体を嬉しそうに龍騎は叩く。
「腹一杯食えよ。でも、確かにこんな奴が暴れたら大変だよな。いやぁ、ジェイルさんってやっぱ良い人だよ。人を襲いかねない凶暴な生き物を退治して、それを餌に出来ないか? なんてさ。ホント良い人だな」
「あ、ああ」
「そうだな……」
ジェイルの言った言葉を本気で信じている龍騎。その実情を知っている二人としてはその言葉に何も言えなくなった。こうして懸念されたドラグレッダーの食事問題は解決した。だが、ここでジェイルの予想外の出来事が起こってしまう。それは……
「データ、もう取れないよ」
龍騎が強すぎるため、現状の姿で十分相手出来てしまったのだ。本来期待していた龍騎のもう一つの姿。それを使わせる事をジェイルは狙っていたのだが、それは結局出さずじまいとなったのだ。龍騎がその更なる力―――”サバイブ”の力を使う事になるのは、これより遥か先の出来事まで待たねばならなかった……
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今回やりたかったのはアギトの名乗りです。ゲーム内で仮面ライダーと名乗るシーンがあり、それに当時感激したため、絶対やってやると思って書きました。
そしてやってきた時間軸ですが、クウガは最終回後。アギトはゲーム「正義の系譜」後。龍騎はTVの終盤近くからです。
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クウガとアギトによってなのは達の衝突は回避された。
安堵する二人だったが、その感覚が妙な気配を捉える。
クウガの超感覚でその気配を出す者の下へと向かうアギトが見たものは……