No.433237

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works5

水曜定期更新。

UBW5話。もう早く進めるのは諦めた。
代わりに書きながら、夏とそれ以降の作品を考える。
UBWが終わったら、

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2012-06-05 23:51:43 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1896   閲覧ユーザー数:1825

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works5

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その9

 

○桜井智樹(UBW):本編の主人公。士郎互換。美香子やイカロスがカードを無茶なことに使おうとするのを止める為に参戦する。敵が強大である為に命懸けで戦うことになるが、参戦動機自体は単純で他律的である。従ってUBWにおける智樹の葛藤とは強大な敵に如何にして勝つかというものであり、その結果は途中で挫けるか挫けないかという単純な二分法になる。格闘モノスポーツモノ少年漫画の主人公に最も近い存在である。

 

○ニンフ(UBW):本編のヒロイン。言い換えれば遠坂凛ポジション。智樹のブレーン役ではあるが、原作共々立てた作戦は大体が失敗している。しかし智子やアストレアの介入により事なきを得ているラッキーガールでもある。従って彼女の主な役割は実際の所は智樹の肉体的精神的ケアサポートとなっている。また作中ジャミングシステムは攻守共に応用が効くので執筆の際には重宝する。原作共々これから大変な目が待っている。

 

○見月そはら(UBW):本編のサブヒロイン。言い換えればセイバーポジション。原作のダイジェストと言える劇場版では重要場面でほとんど活躍していない。本作においても重要場面は智樹と智子が掻っ攫ってしまうので囚われのヒロイン以外にあまり活躍はない。幻のそはらルートの場合には空女王イカロスとの直接対決となるがこのシナリオだと…。けれど、智樹陣営に属する彼女は他キャラに比べれば幸せであることは言うまでもない。

 

○カオス(UBW):本編では空女王の強さを示す為のかませ犬役。言い換えればイリヤ&バーサーカーポジション。そはらルートであれば中ボスだったが本編では早々に退場となった。イカロスは自身の理想の為にカオスを邪魔に思い、かつ贄として利用しようとしている。カオスがカードを求めたのは愛が何なのか知りたかったからであるが、愛を最も歪んだ形で実現しようとしている空女王に目を付けられたのが彼女の不幸だった。

 

○パピ美&パピ子(UBW):本編での最初の脱落者。言い換えればライダーポジション。残念ながらHeavens Hiyori編で彼女たちがライダーポジションに至ることはなく永遠のかませ犬ポジ。けれどよくよく考えてみると、ハーピーの参戦理由はシナプス超科学技術の結晶であるカードが人間たちに悪用されないように回収しに来たという至極真っ当なものであり、回収役が適切な交渉力を持つ人材ならばそもそもカード争奪戦は起こらなかった。

 

 

 

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works5

 

 

 

「投射超振動光子剣(ティロ・クリュサオル)っ!!!」

 

 上空に飛翔したアストレアの全身全霊を賭けた必殺の一撃が智子に向かい放たれた。その必殺の一撃は確実に智子を捉えていた。

「智樹の為に己の唯一の武器でさえ躊躇いなく投擲する。まったく、愛の力は偉大だわね」

 智子は迫り来る巨大な槍と化した剣とそれを投げた少女を見ながら称賛の声をあげる。

 けれど彼女は逃げない。逃げる必要など微塵も感じてはいなかった。

「けどね、桜井智樹への愛を背負って戦う限り……あたしには勝てないわよ」

 智子は右手を剣に向かって突き出し、対アストレア用の絶対の防御障壁の名を唱えた。

 

「智樹的七大総衣装(トモキズ・パレード)ッ!!」

 

 智子の手の全面に智樹のニット帽、制服上、制服下、手袋、靴下、シャツ、そしてパンツが召喚されて激しく回転しながら絶対の障壁を形成する。

 智子は自身の身長の数倍の大きさの剣を正面から受けに掛かる。

「いっけぇええええええええぇっ!!」

「舐めるなぁあああああああぁっ!!」

 アストレアのクリュサオルと智子の絶対障壁がここに正面から激突した。

 

 両者が衝突した瞬間に、智樹のニット帽、靴下、手袋が吹き飛ぶ。

 しかしクリュサオルはそれ以上の防壁を容易には突破できない。

「何で? どうして? どうしてこの星で最強の剣がたかが強化されただけの服を貫通できないんですかっ!?」

 制服上が吹き飛んだの見ながらアストレアは驚愕している。障壁はまだ3枚残っている。

「分かんないかしら? これが智樹の服だからアンタにはどうしても貫けないのよ」

 制服下が砕け散りながらも冷静に智子は返した。残り2枚。

「アストレアの原動力は智樹への愛。そのアンタの攻撃が智樹を壊しきることが出来る訳がないでしょ」

 シャツが砕け散っていく。

 残る障壁はパンツのみ。けれど智子は一切退く構えを見せなかった。絶対の自信に満ちた表情を浮かべながらその場に踏みとどまっている。

「アストレアに智樹を砕くことが出来るものかぁあああああああぁっ!」

 最後に残った障壁、智樹の縞々トランクスに無数のヒビが入っていく。

 しかし──

「なぁっ? な、なあっ!?」

 トランクスが粉砕される直前、クリュサオルはその進撃を止めて地面へと弾かれたのだった。

 

「ほんと、愛の力って偉大だわね。超科学力を駆使した最強の一撃さえも弾いちゃうんだから」

 アストレアのクリュサオルを凌ぎきった智子は右手を突き出したまま爽やかな余裕の笑みを浮かべた。

 けれど実際にはその突き出された右腕は4箇所で粉砕骨折を引き起こしており使い物にはならない。智子の回復能力が通常の人間よりずば抜けて高いとはいえ、アストレアとこれ以上打ち合うのは不可能な状態だった。

「智子さんは一体、何がしたいんですかっ!?」

 智子が左腕で投げ返したクリュサオルをキャッチしながらアストレアが叫んだ。何故敵である自分に剣を平然と投げ返すのかも分からない。智子の行動は謎に包まれている。

「そうね……」

 智子は校舎の上層階を見上げる。

「会長は随分と苦戦しているようね」

 生徒会室の周囲から破裂音と粉砕音がひっきりなしに聞こえて来る。さらに様々な物品が生徒会室に向かって次々に雪崩込んで行くのが見えた。

 状況は不明だが激しい戦闘が継続中であることは視覚と聴覚が証明してくれていた。

「あたし達の戦いを監視している余裕さえもないみたい」

 智子はニヤリと笑った。

「まさか、智子さん。最初からそのつもりで!?」

 驚くアストレア。

 智子は無言のまま更に黒い笑みを浮かべて返してみせた。

 

 

 

「うふふふふふふ~。ニンフちゃん、なかなかやるわねぇ~。会長は命を賭けたやり取りって大好きよぉ~」

 美香子は理科準備室から飛んで来た化学薬品の瓶を中身を浴びないように粉砕する。

 瓶を粉砕することなど訳はないが、中身には劇薬や毒が含まれていることもある。

 加えて身体に掛からなくても床に落ちた薬品同士が化学反応を起こせばどんな有害物質を発生させるか分からない。

 加えてその薬瓶を飛ばしているのは電子戦用エンジェロイドのニンフ。何かを狙っているのは間違いなかった。

「……でも、桜井くんがこの室内にいる限り、毒薬調合で皆殺しとかはないわよねえ」

 美香子は知っている。目の前のエンジェロイド少女が問答無用で自分たちを殺す覚悟を抱いていないことを。智樹がいなくても自分達を本気で殺そうとはしないであろうことを。

 甘い。とは思う。その甘さは自分自身ばかりか智樹の身をも危険に晒すことに繋がっている。そういう甘さが美香子は好きではない。

 けれど智樹とニンフを見ているとその甘さも悪くないような気がしてくるから困る。間違いなくあの2人は甘い。けれど、その甘さが2人の魅力であることもまた事実だった。

 

「……戦いの最中に何をバカなことを考えているのかしらね?」

 意識を戦闘へと切り替え直す。

 戦況は膠着状態に陥っている。ニンフのジャミングシステムを利用した攻撃は威力は高くない。しかしいつまでも止まないので攻撃に転じる隙もまた生じない。

 こうなると、自分1人で勝利を得るのは難しい。

 細心の注意を払い瓶を切り落としながら横目で幼馴染と後輩の戦いをチェックする。

「このぉおおおおおおおおぉっ!!」

「クッ! ていっ!」

 智子の戦い方を真似たらしい智樹の攻撃は昨日戦った時と比べて数段洗練されている。その戦闘技術は守形との戦いの最中にも上昇している。守形といえども迂闊に攻撃を仕掛けられなくなっている。

 つまりこちらも膠着状態。

 守形が智樹に遅れを取ることはないだろう。

 けれど代わりに支援も期待できそうにない。智樹とニンフは適度に距離を置いて戦闘を行なっており自分と守形がコンビネーションを駆使できない位置取りをしている。

「ほんと、たった1日で変わるものね」

 昨日の2人はぎこちなかった。けれど、今の2人は各自が果たすべき役割をきっちりこなしている。弄ぶおもちゃから倒すべき難敵に変わっている。

 やはり昨日の内に滅ぼしておくべきだったと脳内で愚痴で生じる。けれど、現状が困難だからこそ美香子は体の芯がゾクゾクと震え上がり興奮が際限なく湧き上がってくる。

 最初から勝ちが決まっている戦いなど楽しくない。命を賭け、文字通り命の危機に陥っている現状だからこそ、今という刻が最高に楽しい。

 この快感を得る為にアストレア達の離反を事実上黙認した。いや、推奨すらしていたのだ。後悔なんてある訳がなかった。そこに類稀なる愉悦があるのだから。

 

「どうしたの、ニンフちゃん? もう隠し種はおしまいなのかしら?」

 ニンフが繰り出して来る得物が再び机や椅子に変わり始めた。厄介な薬品の類が飛んで来ることがなくなった。

「…………っ」

 ニンフは無言のまま美香子を睨み続けている。その強い意思を込めた瞳はただ闇雲に攻撃を続けている訳でないことを物語っている。

 何か大技を仕掛けて来る。

 それは美香子にもよく分かっていた。後は何を仕掛けてくるのか。その予測だった。

 毒ガスや刺激臭を発生させて来なかったことからその類ではない。なら……。

「この学校にあるもので一番重いものと言えば……二宮金次郎の銅像っ!」

 美香子が生徒会室側の扉ではなく、窓側に目を向けた瞬間だった。窓ガラスをぶち破って巨大な銅像が室内へと飛び込んで来た。

「甘いわよ、ニンフちゃんッ!」

 美香子は右腕に全ての力を乗せ、400kgを誇る握力と共に渾身の一撃を繰り出す。

「タアッ!!!」

 美香子の人間離れした一撃で銅像は台座ごと木っ端微塵に粉砕される。

 そして美香子にはもう分かっていた。

 この銅像がただの囮に過ぎないことを……。

「本命は後ろ、よねっ!!」

 美香子の耳は捕らえていた。後ろから微かに空気を震わす飛翔音が聞こえていたことを。

 美香子は振り返らないまま左腕を振り回し、残った全体力を総動員して裏拳を放つ。この本命さえ粉砕してしまえば勝利だと確信しながら。

 

「えっ?」

 だがその”本命”は撃った時の衝撃があまりにも軽すぎた。鋭利な刃物であることも想定はしたが、そのような類のものでもなかった。

 そう、まるで紙の袋に詰まった粉でも打ち抜いた時のような感触……。

「しまったっ!!」

 美香子が自身が打ち抜いたものが何であるのか理解した瞬間、それは爆発した。

 より正確に言えば、美香子が袋を突き破ったことでその中身の小麦粉が空中にばら蒔かれたのだった。

 一瞬にして美香子の周囲に白い煙幕が張られ視界が遮られる。そして周囲が全て白く包まれる直前にニンフが飛び込んで来るのが見えた。

「そう言えばニンフちゃんも500kg以上の牛を軽々と持ち上げられる……戦闘用エンジェロイドだったわね」

 美香子は自身の下腹部に拳が食い込んでいくのを肌で感じながら目の前の少女に対する認識を改めた。

 

 人間はその攻撃力に比べると防御力は遥かに低い。特に美香子クラスの超人的攻撃力を誇る存在になるとその差は顕著になる。

 美香子はエンジェロイドにも匹敵する強大な攻撃力を持っている。けれど戦闘用エンジェロイドの本気の拳を受けて耐えられるように人間の体は出来ていない。

「ウウウゥッ!?」

 たった1撃で美香子は意識の半分以上掠め取られた。いや、戦闘センスに優れた彼女でなければ今の一撃で確実に昏倒していた。死んでいた可能性も高い。

拳が衝突する瞬間に自身の体を後ろに飛ばして衝撃を緩和していなければ危なかった。

ニンフの1撃で美香子の戦闘力、体力は著しく減退した。けれど今気絶する訳にはいかなかった。

「私はっ、負けられないのよっ!!!」

 残った意識をつま先に集中させながらニンフがいると思しき地点に右脚で蹴りを放つ。

「どこ蹴っているの!」

 けれど美香子の渾身の蹴りも当たらない。

 如何に神経を凝らしていようと今のが苦し紛れの蹴りであることには変わりがなかった。そしてこの千載一遇の好機をずっと狙っていたニンフがこの機を逃す訳がなかった。

 白い煙の中からニンフの左腕が伸びてきた。避けるにはもう距離が近すぎた。小学生のような小さな拳が右脇腹へと食い込んでいく。

「クッ!?!?」

 また、意識が飛びそうになる。

 けれど美香子は痛みを発する箇所を庇うのを止めて両手で攻撃態勢を取る。

 この際もはや防御は捨てる。煙幕が収まるまでダメージを無視して攻撃し続けることに方針を切り替える。

 必死になって両手両足でニンフを攻撃する。けれど、少女の体を捉えることは出来ない。反対にニンフの攻撃は3発、4発と体に叩き込まれていく。

「センサーって……便利ね」

 センサー感度に優れたニンフにとっては無視界戦闘であっても何らハンデは生じない。羽を失っている時を基準にニンフの能力を考えていた自分の浅はかさを呪う。

 けれど、攻撃を続けた甲斐があって時間が経過し、ようやく視界にニンフの姿を捉えられるようになった。

「姿さえ見えてしまえばっ!」

 美香子は一撃で勝負を決めるべく大きく拳を振りかぶる。だが──

「クゥ!?」

 累積したダメージが美香子の体の動きを鈍らせる。体が一瞬静止してしまう。

 その隙を見逃してくれる戦闘用エンジェロイドではなかった。

「とどめよっ!!」

 ニンフが大きく拳を振りかぶり美香子の顔面を目掛けて振り抜いてきた。

 

 避けられない……

 

 美香子が自身の敗北を意識した次の瞬間だった。

「きゃぁあああああああああああぁっ!?」

 ニンフの体が大きく後方へと吹き飛んだ。

「仕掛けるのが少々遅かったようだな」

 美香子の隣には右拳を打ち抜いた姿勢で立つ守形の姿があった。

 

 

 

 ニンフの立てた作戦はほぼ完璧に進行していた。後3秒、いや、1秒あれば勝利できる筈だった。

 ニンフが計算しきれなかったただ一つの誤算。それは守形が智樹との決着よりも美香子を守ることを優先したことだった。

「大丈夫か、美香子?」

 左脇腹に食い込んだ強化パンツを引き抜きながら守形は尋ねた。その脇腹からは血が激しく滴り落ちている。

相当な重傷である筈なのに全く顔にそれが顕れていない。

「何とか生きているわ、英くん」

 答える美香子は見るからに満身創痍。けれど、まだ立っている。立っている以上、その攻撃力はまだ健在とみなければならない。

「智樹、大丈夫?」

 立ち上がりながら隣に立っている少年に尋ねる。

「まだ、死んじゃいねえさ」

 智樹もまた美香子同様に満身創痍の状態。守形の攻撃を何度も浴びたに違いなかった。

「ニンフこそ派手に吹っ飛んでたけど大丈夫だったのか?」

「そうね。中破って所かしら」

 強制スリープモードに突入しなかったのはラッキーだった。それぐらいの打撃を受けている。立っているのがやっとの状態。

 けれど自身の負傷よりも美香子を倒す絶好の機会を逸してしまったことが痛かった。もはやあの2人を倒す決定打となるだけの手札が残っていない。

「さあ、決着を付けるぞ」

 重傷を押して守形が決着を付けるべく構える。

「そうね。攻撃こそ最大の防御と言うものね」

 美香子も体をふらつかせながらその両手を前方に押し出す。握力400kgに捕まればそれで一環の終わり。

 対するニンフたちの陣営は。

「はぁはぁはぁ」

 ニンフも智樹も荒い呼吸を繰り返しながら立っているのが精一杯だった。

「さあ、決着よぉっ!」

 美香子が雄叫びを上げる。彼女にはまだ闘志が残っている。

 ニンフがこれといった策が思い浮かばないまま戦闘態勢に入ったその時のことだった。

 

「そうね。決着を付けましょう」

 

 その声は生徒会室の外から聞こえて来た。

 そしてその声と共に数十、数百というブリーフパンツが弾丸となって美香子と守形を襲った。

 強化された智樹の未洗濯パンツの弾丸はその1発1発が必殺の威力を持っている。とはいえ、美香 子達が万全の体調であればそれらを避けることも弾くことも訳ない筈だった。

 けれど、もはや避けるだけの体力を残していない美香子と守形にとっては必殺の刃が数百襲って来ることを意味しているに他ならなかった。

 美香子は自身の体が数十のパンツの刃に切り裂かれていく音を確かに聞いた。

 

「智子ちゃんのそういう容赦ない所……私は嫌いじゃないわ」

 数十の刃を体に突き刺した美香子が生徒会室の扉の外を見ながら小さな声で呟いた。

 智子が本心から自分に付いた訳でないことは始めから分かっていた。問題はどのタイミングで裏切るか。それだけの話。

 ニンフとの死闘に夢中になって智子の監視を疎かにした瞬間に敗北は既に決まっていたのだと今になって理解する。

 自分の敗因、そして死因は理解した。

 後は……

「英くんは、大丈夫だった?」

 守形へと向き直りその安否を問う。

 まだ生きている間にそれだけはどうしても確かめておかなければならなかった。

「ああ。美香子が庇ってくれたおかげでな」

 守形は淡々と返した。

 攻撃を受けている最中に美香子が取った行動。それは身を挺して守形を庇うことだった。

「そう。良かった……」

 霞む視界で最後に動かせる右手の指を守形の頬に添える。

 最期の最期にどうしても守りたいものだけは守り通せた。それは彼女にとって最高の誇りとなることだった。

 守形の無事を確認すると……力が急激に抜け落ちていく。

 意識が希薄となり、目の前全てが白い光へと包まれていく。

 全てが終わる刻が来たのだと分かった。

 けれど、それも怖くなかった。悪くなかった。

 愛する少年だけは守り通せたのだから。

「もう少しだけ……私の夢を……叶えていたかった……けど…………こんな人生も……悪くなかった……………わ、ね………………」

 愛しい少年の顔を目に焼き付けながら美香子はゆっくりと崩れ落ちていった。

満ち足りた表情を浮かべながら少女は永い眠りについた。

 

 守形は美香子が崩れ落ちたのを確認すると無表情のまま生徒会室の中へと入って来た智子へと向き直った。

「決着を付けるぞ、智子」

 両手を折り曲げて戦闘の構えを取る。その背中に10本以上のパンツの刃を深く突き刺しながら。

「おっ、おい……その状態じゃ…………っ」

 ニンフの隣に立つ智樹は声を上げようとした。

 けれど、守形の顔があまりにも真剣であったから、そして智子もまたあまりにも真剣な表情で剣を構えていたので口を挟むことが出来ないでいた。

 その気持ち、ニンフにもよく分かった。

 これは戦いではない。ただ決着を付ける為だけの過程。

 守形英四郎なりのケジメ。

 そういう話だった。

「行くぞっ!」

 守形は体を引き摺りながら闘志に満ちた瞳で智子に向かって突進する。

 そして──

「………………っ」

一刀の元に斬り捨てられた。

守形は断末魔の悲鳴を上げることもなく、何か言い残すこともなくその場に前のめりに倒れ、それきり動かなくなった。

 

こうして決戦は智樹陣営の勝利で幕を下ろした。

けれどその勝利はニンフの胸を少しも熱くしないものだった。

 

 

 

 生徒会室での死闘は終わりを告げた。

 決着を付けたのは美香子側に寝返った筈の智子だった。

「智子は……これで良かったの?」

 床に伏したまま動かなくなった守形を見ながらニンフが問い掛ける。

 智子が守形に恋していることは誰の目にも明らかなことで彼女自身も公言していた。

 守形を巡る智子と美香子のバトルは空美学園の風物詩となっていた。

 その智子が結果として守形を討った。しかも、守形が望んだからとはいえ、瀕死の体にとどめを刺す形で。

 その件をどう認識すれば良いのかニンフには分からなかった。

「別に、構わないわ」

 対する智子の答えは淡々としたのものだった。

「世界の歪みさえ正してしまえばなかったことにだって出来るもの」

「えっ?」

 それは一体どういうこと?

 ニンフが尋ね返そうとした瞬間だった。

 智子はその答えを行動で示した。

 

「死ねっ! 桜井智樹ぃ~~~~ッ!!」

 智子は左手に召喚したブルマで智樹に斬り掛かった。

「お前、一体何なんだよ~~っ!?」

 智樹は回避を試みるが袈裟に深く斬られてしまう。

「ぐがぁあああああぁっ!?」

 痛みに耐えながら両手にパンツを1枚ずつ召喚する。

青とピンクのシンプルなデザインのそれにニンフは見覚えがあった。

「それ……無くしたと思っていた私のパンツじゃないのよ。アンタが盗ってたのねっ! って、今はツッコミを入れている場合じゃないっ!」

 守形の一撃を食らい立っているのがやっとのニンフに智子との戦闘は不可能。どうやって智樹を助けるか頭を巡らせていると視界の隅に動くものが見えた。

「うっ……うっ」

 美香子に操られていたそはらが目を覚まそうとしてた。

 ニンフは美香子の話を思い出す。確かそはらは目が覚めると100%の力が使えるようになると。

「そはら~~っ! 早く目を覚ましてぇ~~っ!! 智樹が大変なの~~~~っ!」

 ニンフはあらん限りの大声で叫んだ。その悲痛な叫びは眠れる少女を目覚めさせたのだった。

 

「智子ちゃんっ! 智ちゃんから今すぐ離れて~~~~っ!!」

 目を覚ましたそはらが自身を拘束していた縄を引きちぎりながらチョップの構えを取る。

 そしてすかさず、智子に向けて右腕の黄金の煌めきを解き放った。

「殺人チョップ・エクスカリバーッ!!」

 言葉と同時に飛翔する黄金の閃光。

「チッ!」

 智子は反射的に後方に大きく飛翔して光を避ける。光はその直後智子がいた地点を通過して壁と窓を難なく突き破り空中へと消えていった。

 智子が後退している間にそはらは智樹の元へと駆け寄りその身を盾として間に入った。

「どうやらこれで攻守逆転のようね」

 ニンフは智樹の横に並びジャミングシステムを発動させて傷を癒しながら智子を睨む。

「スキャンした所、今はその右腕も使えないみたいだし、智子にそはらは倒せないわよ」

 そはらの復活により戦力比は逆転していた。少なくともニンフは智子が戦闘を継続できる状態にはないと踏んでいた。

「幾ら智子ちゃんだからって……智ちゃんをこれ以上攻撃するつもりなら容赦しないよ」

 ウェディングドレス姿のそはらがニンフに呼応するようにチョップの構えを取った。

「なるほど。ニンフもそはらも愛の力を発揮して智樹を守るって訳ね」

 智子は大きく息を吐き出した。

「確かにあたしはアストレアとの戦いで負傷している。体力も残り少ない。けれど、その程度の理由であたしの敗北が決定する訳でもないでしょう?」

 智子は自信満々に笑ってみせた。皮肉たっぷりのふてぶてしい笑顔がニンフ達に向けられる。

「「えっ?」」

 ニンフとそはらが驚いてまばたきを繰り返す。

「智子……お前……まさか……っ!?」

 一方で智樹だけは智子の言葉に嫌な予感を感じていたようだった。

 そして、その予感は的中してしまうことになった。

 

「I am the bone of my underwear……」

 

 智子が呪文を詠唱し始める。

 すると、突然周囲の世界が歪み変貌し始めた。

 ニンフにはそう感じられた。

 センサーには如何なる反応も示されていない。全くの平常。

 なのに、目の前の世界そのものが急激に組み替えられていく。

「何で……? 智子は世界そのものの理さえも組み替えているというの? シナプスの科学技術の粋にして最高機密でもある世界の組み換えをたかが人間個人で行っていると言うのっ!?」

 ニンフには理解できない。

 シナプスが人類の歴史など一瞬の出来事に過ぎないような、気の遠くなるような長い時間を掛けて編み出した世界創造の秘術をたった1人の少女が行っていることを。

 何故そんなことが可能なのか、電子戦用エンジェロイドとして多くの知識を有するニンフだからこそ目の前の状況がより理解出来なかった。

「妄想具現化(リアル・ダイヴゲーム)。それが智子が行っていることの正体だよ」

 ニンフに肩を貸してもらいようやく立っている智樹が小さく呟いた。

「えっ?」

 聞いたことのない単語にニンフは驚きながら智樹の話に耳を貸す。

「智子は自身の胸の内に抱いている妄想を具現化させてこの世界を侵食している。世界の全部を変えている訳でもない。恒久的に作り変えるわけでもねえ。ただ、奴の感じ取れる周囲を自分の願う空間に一時的に作り変えていやがるんだっ」

「そんなことが人間に可能なの?」

「可能も何も実際に変わっているだろうが。前をよく見ろ」

 ニンフは智樹と共に再度視線を智子の方へと向け直す。

「何よ……これ……」

 ニンフの目の前に映っていたのは物品が悉く破壊された生徒会室ではなかった。

 

 ニンフの目の前に広がっていたのは緑豊かな丘陵。

 なだらかな丘の頂点には大きな樹が生えている。幹の太さだけで10mを遥かに超すその大樹はふさふさとした葉を茂らせ、その枝には大量の男性モノのパンツを実らせていた。

「あたしが作り出したこのちっぽけな世界には歴史上のありとあらゆるイケメンたちのパンツが存在する。あたしだけのイケメンパンツ空間。それがここなのよ」

 智子は大樹の横に立ちながら静かに告げた。

「智樹の分身という無から生まれたあたしがたった一つ辿り着くことが出来た無限の境地」

 赤い外套の少女は静かに自身の最強の技の名を唱えた。

 

「Unlimited Brief Works(無限の禁製)」

 

 それが少女がその数奇な人生を全て掛けて編み出した大科学魔術の名だった。

 

 

 

 つづく

 

 


 
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