No.432603

斬島切彦 ÷ ギロチン

紅kure-naiの二次創作小説。

2012-06-04 14:35:25 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1415   閲覧ユーザー数:1412

 
 

斬島切彦÷ギロチン

                                        シロ月 カサネ

 

 

「あぁ~、熱いです……」

何故こんなに世界は暑いのでしょうか? 夏の日とはいえもう夕刻の時間だというのに暑すぎる。

仕事の依頼が無ければ空調の効いた場所でゴロゴロしていたかったのに…、あーフラフラします。仕事へと向かう為にポケットに入れたナイフさえも重たくわたしのバランスを崩していきます。

いけません、そろそろ耐えられないかもしれません。じわじわと暑さがわたしの身体を蝕んでいく。

これも普段が海外に出かける事が多くて、日本での気候の変化に対する知識が足りないからでしょうか。

そんな意味のあるのか分からない思考にとらわれ始めたわたしを一瞬撫でた冷気が足を止めさせます。

どうやら冷気の正体は目の前にあるゲームセンターから漏れ出た冷房のカケラらしく、自動ドアのセンサーに反応して開いた入り口からゲーム機の騒音と共に流れてわたしに当たったみたい。

そんな、ひんやりとした冷気がわたしを誘う。

それに、ふらりと身体が冷気を求めるように動き店内へと向かってしまう。

そうやって暑さを避けるため入ったゲームセンターの中は予想通り冷房が効いている。しかし、その涼しさに今度は逆の懸念が出てくる。それはあまりに涼しすぎるのもまたわたしの身体に響いてくるという事だ。

 取りあえず外の気温がもう少し低くなるまでと、店内を見て歩く事にして奥へと進んでいく。こういうゲームセンターの中はどこも雰囲気は変わらない、様々なゲーム機体の電子音やゲームミュージックに溢れて騒がしい。ゲーム機の多さはさして多くは無いが機体の稼働熱を相殺するように稼働する冷房はやはり心配です。

「さて、どうしましょうか?」時間つぶしとは言え、せっかく入ったゲームセンターだから、ひとつまたアーケードゲームでもするつもりで格闘ゲームの筐体を探しに奥の方へと向かっていくと、その途中クレーンゲームの筐体の群れの中に熱く騒ぐ十歳ぐらいの黒い髪の女の子が1人いました。なにやら聞いた事のある声がと改めて見直してみると、その女の子が九鳳院紫さんだという事に気付きました。彼女とは以前に出会ってトモダチになったのですがこんな所で出会うのは初めて会った時を思い出しますね。

何をしているのかと近づいてみると、紫さんは一生懸命にクレーンゲームの機械を操って中のぬいぐるみを取ろうと頑張っているようで、近づいて声を掛けてみましたが集中しているようでなかなか気づいてはくれません。

邪魔をしてはいけないかなと思いつつも、肩口に触れてみる。

それで気づいてくれた紫さんが「おお、びっくりしたぞ、切彦ではないか。どうしたのだ?」と応えてくれました。

わたしは外が暑くて涼んでいると答え、紫さんが一人だけで遊んでいる様子に

「きょうは一人ですか…?」いつもだと紅真九朗さんと一緒なので聞いてみると

「ああ、本当は今日も真九朗と一緒に遊ぶつもりだったのに、あやつは仕事なんだそうだ…」

とても残念にそう語る紫さん。紅さんが仕事という事はもめ事処理屋の仕事なんでしょうか? 

またわたしの仕事に関わってくるのは困るので違う仕事なら良いのですが…。

そんな事を考えたりしていたわたしに紫さんがまた声を掛けます。

「そうだ、切彦。おまえはこのくれーんげーむをやった事はあるか?」そう言って自分の目の前にあるゲーム機を指し示しながら、「いま、あそこにいる者を助けようと、ずっと頑張っているのだが上手くいかなくてな」指さす先にはぬいぐるみの山の中で一体だけ白く目立つぬいぐるみがいて、どうやらさっきからこのぬいぐるみを狙って苦労をしてい様子で。みれば紫さんが立つクレーンゲームの操作ボタンが配置された場所に硬貨の山があって、足元にはいくつもの取ったであろうぬいぐるみ達が大きなビニール袋に溢れるようにあります。

「そうだ、切彦おまえがやってみぬか?」何を思ったか急にそんな事を言い出す紫さん。それはわたしにもぬいぐるみの救出を手伝えというのでしょうか? そんなのは無理ですわたしはやった事ないのに…

「わたし、こういうのはやったことが無くて…」普段のわたしは基本的にアーケードの対戦ゲームばかりやっているのでこういうのは全然縁がなく自信なさげに応えてみるも

「そうか、では一回はやってみるのがいいぞ」とそんな事は関係ないとばかりに、わたしを機械操作させる為に自分の立っていた場所をずらして席を作ってくれる。そうなると、やらない訳にはいかなくなってしまう。これも、わたしが紫さんに声を掛けたのだからとやってみる事にします。まずはやり方を聞いてみます。

「あの、それでどうすれば?」そう言うと紫さんが指を指しながら

「まず、この①のボタンを押すのだ」そう教えてくれたので黙って押してみました。するとゲーム機体の中、ガラス面の向こうでクレーンが動き始めます。しかし、直ぐに止まってしまい。

「切彦、ボタンは押し続けないとダメなのだ」紫さんがわたしの操作にそうたしなめの言葉をします。

「?」どういう事か分からなくて首を傾げてしまう。ボタンは一瞬押せばいいのではないのでしょうか?

それを見た紫さんは改めてクレーンゲームのやり方を教えてくれる。

それは、ボタンは押し続けていないとクレーンは動いていかないという事と、ボタンを離すと止まる事、①のボタンは横にしか動かせない事、②のボタンで縦にしか動かない事、二つのボタンの操作をしたらあとは自動で景品のぬいぐるみを掴む部分が動いてくれるという事を教えてくれました。そして、一番重要なのは動かすクレーンを止めたい位置でしっかり止めると言う事だそうです。

その説明でわたしは続けてボタンを押してみるが反応をしてくれません。

どうなったのか考えていると紫さん笑みを浮かべながら

「はは、切彦。①の次は②のボタンを押さないと動かないぞ」と、わたしの手の上に自分の手を重ねて一緒に操作の仕方を教えようとしてくれます。

「あっ・・・」いきなりの行動に固まってしまうわたし。

しかし、わたしのつぶやきは聞こえていないらしく彼女はわたしの手に自分の手を添えながら操作を続けます。

そして、こんどの操作は見事に動いて、押していたボタンを離すと同時に仲のクレーンが止まりクレーンの先のぬいぐるみを掴む部分が真下にあるぬいぐるみへと降りていきます。

初めての感覚にどきどきしながら見守るなかクレーンの先がぬいぐるみを掴むかと見えましたが、掴み損ねて戻ろうとします。

はう、これはなかなか難しい、彼女が苦戦するはずですね。 そう思った矢先にはずれたと思った景品を掴む部分が、ぬいぐるみの頭に付いている輪っかに引っ掛かってぬいぐるみを持ちあげ始めるではないですか。わたしは紫さんと一緒にその様子に驚き「紫さん」「切彦」と一緒に操作していた手を握り合い、ふらふらと今にも落ちそうなぬいぐるみを目で追い続けます。

そして、ついにクレーンが元の位置に戻ってクレーンの先が開くとつり下がったぬいぐるみはその下に待ち構えていた穴へと落ちていきます。

ガタッ そう音を立てて機械の前面下にある景品取り出し口へと姿を現した白いぬいぐるみ。それを見た紫さんは喜色満面でわたしに抱きついてきます。

「すごいぞ、切彦! 初めてで取れるなんて」わたしに抱き付きながらそう言って褒めてくれる紫さん。わたし一人では絶対に取れない。紫さんと一緒に操作したから出来たのだから、こんなことで褒められるのは何と言っていいのか恥ずかしい。

落ち着きを取り戻して離れた紫さんは景品口から取り出したぬいぐるみをわたしに渡してくれます。

しかし、なにやらソワソワとわたしとぬいぐるみを見比べている彼女は何か言いたそうにもじもじしています。

このぬいぐるみが気になるのでしょうか? べつにわたしのお金で取った景品ではないのでそのまま紫さんに渡してあげます。「どうぞ…」驚いたような表情で「いいのか? これはおまえがとったぬいぐるみだぞ」わたしが良いです。どうぞというように手を振ると、またしても満面の笑みで「そうか、すまない」そんな言葉を言われるとは思わなくて照れてしまう。

一方、ぬいぐるみを受け取った紫さんは何かを思いついたらしく「そうだ、切彦。ぬいぐるみの代わりにこれを受け取ってくれ」ポケットに手を突っ込んで、しまわれていた手のひら大のカプセルを取り出す。

「いえ、あの。そんな…」わたしはまたさっきと同じように手を振ります。しかし、そうはいかないとばかりに彼女は手のひらに乗ったカプセルを開けてわたしに渡そうとしてくれる。 丸いカプセルは半分に別れる仕組みらしく、実際に紫さんが開けようとしますが固いらしくてなかなか開きません。このカプセルはなんでしょうか?

奮闘する紫さんに「わたしがやりましょうか?」と声を掛けてみる。

その言葉に、「いや、もう少しだから、待ってくれ」とまた力を込め始める彼女。

「ふっぬ――」紫さんらしくないような声を上げて力を振り絞ると、弾けるように飛び出すカプセルの中身。ちょうど、わたしの足元へと転がってきたそれは薄いビニールに包まれたリングのようでした。

拾い上げたわたしは取りあえず紫さんに渡して上げます。

「すまない、切彦。それとこれはおまえにやろうとした物だから、おまえが受け取ってくれ」そう言ってビニールに包まれたソレをわたしの手のひらに載せてくれます。

「指輪のようだな」「そうみたいです」お互いに手のひらに乗ったソレを確認すると「着けてみたらどうだ?」そう話を振ってくる紫さん。

「いえ、指輪なんて…」そういった指を飾る物を貰った事のないわたしは着けていいのか迷ってしまう。いままで、誰かというより親しい人に何かを贈ってもらった事自体少ないのとトモダチの紫さんに物を貰うというのが少し信じられないというか、少しの驚きがあってどうしたらいいのか考えてしまう。

ホントに貰っていいのか? とか、わたしがこんな物を着けても似合わないという思いがわたしを少しづつ支配し始めてくる。

「あの、その、わたし…」そんなわたしの様子に、指輪は着ける為に存在するのだから着けないでどうするのだと、勝手にビニールを破って指輪を取り出す紫さんはわたしに見せるように「ほら、きれいだぞ」そう言ってわたしの手を捕まえて指に勝手に嵌めてしまいました。着けられた指輪はたぶんおもちゃの指輪であるのだけれどとても綺麗に映って。一瞬、目を止めて見入るように自分の目線まで持ってきてかざしてしまう。

指輪をはめられた手は誰かほかの人の手のような感じがして、手首を返しながら改めてわたしの手と一体になったおもちゃのリングを眺めてみる。

改めてみるリングの不思議さは、わたしの手にこんな光るモノが飾られるということの不思議さであり、トモダチに物を貰ったわたしという姿が手の形で表れているという不思議さだ。そこに指輪をした手が存在する確かさをわたしは不確かな感覚でしかとらえられない。

「うん、良く似合うぞ。切彦」笑ってそう言ってくれる紫さん。その笑顔にわたしはどう答えたら良いのでしょうか? 

そうわたしが悩んでいるとわたし達に近づいてくる人がいて、瞬間わたしが身構えるより早く

「お嬢様。お時間です」と礼を取りながら話しかけてくる。どうやら近づいてきたのは九鳳院の人間らしく、しかも相当に荒事にも慣れているような雰囲気を持った壮年の男の方でした。

「そうか、もうそんな時間か」彼女もそれを受けて名残惜しげながら小銭を片付けたりと帰り支度を始める。

わたしはといえば、その成り行きに紫さんはもう帰ってしまうんだと。急な展開にボケっとしてしまう。

そう言えば、この指輪のお礼を言ってなかったと感謝の言葉を探していると、彼女は足元に置かれていたぬいぐるみ達を詰めた大きなビニール袋を持って「切彦、わたしは帰らねばならない。その指輪、似合っているぞまた会おう」と言葉をのこし、迎えに来た男の人と出入り口へと歩いていく彼女は、その手前で一度振り返って手を振ってくれる。

わたしも思わず手を持ちあげて応えていた。その姿を確認したのか外へ出た彼女はすぐ目の前に停められた黒塗りの車へと入って行き、じきに動き出した車ごと視界から消えて行ってしまった。

結局、お礼を言い損ねたわたしは紫さんのいなくなったゲーム機の前で、いままで忘れていた冷房の存在や仕事の事を思い出して後を追うように外へと向かうことになる。

暑さも薄れつつある街に出たわたしは道を行く中高生らしい十代の女の子達の姿に目を止める。普段なら気にとめない彼女達の姿に今日はなぜか目が行ってしまう。それは彼女達の手に西日に輝いて見えるリングを見つけたからかもしれない。       

そして、わたしの指にはめられた指輪が同じ様に光り輝いて見えるのかと考えると、とても温かいような嬉しさがわたしの胸を満たしてくれる。その想いを抱えて歩く街路は最後の西日も外れて宵闇へと向かい沈んでいく――。

これからわたしが向かう場所は裏の人々が生みだす闇。それでも今日のわたしの足取りは軽く、自分の仕事場へと向かう足取りに迷いはない。

 

―-さあ、仕事の時間だ。

 

その思いがナイフを持つ手に力を込めさせる。しかし、その握り込んだ手を違和感が包む。普段なら直ぐに身体の一部のように馴染むナイフが思うように馴染んでくれない。

こんな事今までになかったのに何故だ、改めてナイフを握りしめた手を開いてみる。

そこにあったのは紫さんから貰ったリング。そのリングがナイフの柄との間で違和感を生んでいた。それはナイフを持ったから生まれた違和感なのか、リングをしていることによって生まれた違和感なのか、わたしには分からなかった。

ただ、この違和感が相容れ無さを示しているような、そんな事を考えさせる。殺し屋の自分と普通の女の子でしかない紫さん。裏十三家のわたしと表三家の九鳳院。本当なら関わって行けないのかもしれない。

でも、このリングはわたしと紫さんを繋いでくれている。この繋がりが違和感の正体だとしても、わたしは捨てたりはしない。これはわたしの大切なリングなんだから。

 

 

 

 
 

 
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