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第4話 別離 - 機動戦士ガンダムOO × FSS

西暦2365年地球。突如異世界から現れたサタン達によって地球連邦軍の精鋭MS部隊は壊滅状態に陥ってしまう。再び戦場へと舞い戻った刹那とELSダブルオークアンタだったが、遂に最強の敵サタン・コマンダーが立ちはだかる。刹那とクアンタはこのまま為す術もなく倒されてしまうのか!?
この物語はクロスですが、基本的にオリジナル展開です。原作にない設定や人物も登場します。ただし、星団歴の改編に繋がらないように頑張っていきたいと思います。

2012-06-04 00:48:33 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:2582   閲覧ユーザー数:2555

第4話 別離 - 機動戦士ガンダムOO × FSS

「セイエイさん? セイエイさん!?」

「……」

「セイエイさん!」

「うん? ……すまない。考え事をしていた。」

「は? はぁそうですか。セイエイさん、ここは私に任せて休まれたらどうですか?」

 ミレイナはトレミーの副操縦席の刹那が先ほどから急に黙り込んでしまったため心配になって声をかけたのだが、心配を余所に素っ気ない返事が返ってくるだけだった。

「いや、間もなく大気圏突入のアプローチ準備に取りかからないといけないはずだ。俺も手伝おう。」

 刹那の言うとおりだった。トレミーは間もなくイースター太陽系第二惑星へのアプローチ準備に取りかからないといけないのだ。船籍登録されていないトレミーをツテ(・・)を頼りに船籍登録して貰う必要があったのだ。だが、そのツテ(・・)に会えるかどうかの保証は一切無い。場合によっては最悪の事態も想定しないといけなかった。

「セイエイさん。……あの時の事を思い出していたんですね。」

「……ああ。俺はあの時、クアンタの異常にすら気がつくことが出来なかった。」

「それは私のミスでもあります。」

「あれはミスではない。それよりもミレイナはマリナを励ましてくれた。」

 再び西暦2365年、地球。

「司令、サタン二体の撃破を確認しました。ダブルオークアンタは我々の予想以上の戦闘能力を秘めているのではないでしょうか?」

 ここは刹那とダブルオークアンタを監視している組織の管制室だ。刹那とダブルオークアンタは下馬評を覆し、GN-X部隊を壊滅させたサタン二体を葬り去ってしまった。容易くサタンが倒されたことによりオペレーターの一人がやや興奮気味に彼らの司令官である長身の男に報告を行う。

「……やはり、歴史は覆らないか。」

「え?」

「こちらの話だ。それよりも姫様の発進を急げ。サタン・コマンダー相手では刹那もマリナ(・・・)もそう長く持たんぞ。」

 刹那が宇宙でサタンと戦っている頃、フェルトはマリナの蘇生に全力を尽くしていた。ミレイナもダブルオークアンタの管制を行っていたが、今はマリナの側で呼びかけを行っている。アザディスタン王宮の医療チームもしばらく前に駆けつけてみたものの、時間の問題だった。

「マリナ! マリナ、目をあけて!お願い、呼吸をして」

 フェルトが必死の形相で心臓マッサージを行う。

「イスマイールさん、まだセイエイさんは帰って来ていません。だから、だから! 息をしてください」

「マリナ、オキロ、マリナ、オキロ、メヲサマセ、メヲサマセ」

 ミレイナもハロもマリナの耳元で必死に呼びかける。

 刹那が宇宙船のサタンと交戦するために転進したあたりからマリナの呼吸が停止したのだ。

「お願い、お願い! お願い!! マリナ、呼吸をして、マリナァ!」

 だが、フェルトの叫びはもうマリナの耳には届くことはなかった。

 私はゆっくりと瞼をあける。遠い昔光を失ったはずの私。ぼんやりと何かが見えてきた。

 小さな光が瞬いている。私を包み込むように無限に広がる大宇宙。

 私は夢と同じように宇宙空間に漂っていた。

 夢と同じく何も着ていない。

 体も若返っている。

「これは夢の続き? 夢の続きであれば私はあの悪魔に殺されていました。」

「それでは『現実』? わからない。でも、刹那に危機が迫っている事は間違いありません。」

 マリナ・イスマイールは自分自身が不思議な状態であるにもかかわらず、落ち着いていた。

 まるで、いずれこうなることが判っていたかのように。

 マリナは刹那を探す。見るのではなく、刹那を感じるのだ。

「見つけた! 刹那のガンダム!」

 動けなくなったGN-Xにトドメの一撃を加えようとしていたサタンをクアンタが狙撃する所だった。

「刹那、駄目! あれに無闇に近づいてはいけません。目を合わせただけで魂を吸い取られます。」

 マリナはクアンタの元へと向かう。そのスピードはダブルオークアンタの戦闘速度を遥に上回っていた。

「良かった。今度は間に合いそう。」

 マリナはダブルオークアンタに近づくと背中からそっと憑依する。まるで刹那に知られないように。

「刹那は私の命に賭けて守り抜きます。」

「GN-Xのパイロット、応答しろ。こちらは地球連邦軍『所属機』だ。」

 刹那は大破したGN-Xのパイロット、先ほどまでエリート部隊を率いていた隊長機に通信を入れる。

「友軍機だと!?(あのMSの顔はどこかで見たことがあるぞ、まさか?)俺は夢でも見ているようだ。」

「コアファイターで脱出は可能か? 戦艦の乗組員の救助は完了したようだな。GN-X二機がこちらに向かっている。」

 ナイル級戦艦の乗組員救助を行っていたGN-X11番機と12番機だ。

「粒子残量が心許ないが、コアファイターは使える。部下に拾って貰うことが出来るかもしれない。」

「了解した。奴らの増援が来る前に脱出しろ。」

「まだ増援がいるのか!? わかった。コアファイターで脱出しよう。」

 刹那はGN-Xからコアファイターが分離するのを見届ける。

「GN-Xのパイロット、最後に聞いておきたい。奴らは何者だ。あの姿形は『悪魔』にしか見えなかった。」

「俺達も判らない。俺たちは奴らに手も足も出なかった。俺は部下の仇も討てなかった。何なんだあいつらは! 何の目的でやってきたんだ? クソッ」

「そうか……。だが、今は部下の分まで生きる事を考えろ。」

「……そうだな。救援に感謝する。『ガンダム』、俺たちの仇を討ってくれ!」

 コアファイターが戦場から離脱するのを見届けると刹那は宇宙船の後を追うべく再び転進する。

 だが、すぐに刹那の追撃は阻止される事となる。長距離からクアンタに向けてレーザーマシンガンが発射されたのだ。

 次々と降り注ぐレーザーマシンガンの雨をクアンタは回避するが、刹那はそれが牽制でしかないことはわかっていた。本命の攻撃は別にあると。

「その通り、本命はこちらだ。」

「クッ!」

 クアンタの目の前の空間がぐにゃりと歪む。

 大型のサタンが(スパルーク)を構えてワープアウトしてきたのだ。

 クアンタは辛うじて奇襲攻撃をGNソードVで受け止めるが、凄まじいパワーでクアンタははじき飛ばされてしまった。

 普通のイノベイターでは受け止めることも出来ず叩き斬られていたであろう。刹那はクアンタの姿勢をすぐに立て直しGNソードVの鋒をサタンに向ける。

「何者だ! 何の目的があって地球にやってきた。」

 サタンはクアンタに対峙すると動きを止めた。先ほどの悪魔達より一回り大きく、また軍服のようなものも着ていることから先ほどの二体とは格が違うことを感じ取ることができた。

「我はサタン・コマンダー。我の目的は退魔の巫女の魂ただ一つ。」

 クアンタの通信回線を使わずに直接、脳量子波でサタンは話しかけてきた。これには刹那も驚く。

「サタン・コマンダーだと? 退魔の巫女?」

「貴様が知らぬはずがあるまい。」

 サタン・コマンダーが斧を構え再び突進してくる。斧の一撃を再びGNソードVで受け止める。今度ははじき飛ばされずに粘り勝った。

「俺は退魔の巫女など知らない。」

「何を馬鹿な。退魔の巫女の加護を受けているお前が言う台詞か!」

 サタン・コマンダーは力に任せてクアンタを突き放と、凄まじい速さで次々と斧による斬檄を繰り出してきた。

「斧でこのスピードか! 一撃が重い。」

 繰り出される斬檄を時には受け止め、時には受け流しているのだが徐々にクアンタのELS融合装甲に傷がつき始めていた。

 その時、ダブルオークアンタの背面の触手の先端が千切れ飛んだ。一見サタン・コマンダーの繰り出す斬檄で切断されたようにも見えたが、これは刹那の意志で「切り離した」のだ。千切れた触手はすぐにソードビットに姿を変えると、サタン・コマンダーに粒子ビームの十字砲火を浴びせる。

「こざかしい真似を!」

 サタン・コマンダーはクアンタから距離をとりながら巧みにビームをかわすが、刹那はこの隙を狙っていたのだ。素早くGNソードVをライフルモードに切り替えると、サタン・コマンダーに向かって圧縮粒子を解放した。それはサタン・コマンダーの全身を優に飲み込むほどの粒子ビームの帯だった。

 

 ビームが駆け抜けた空間の後にはサタン・コマンダーの姿はなかった。

「……ワープとは違う。後ろか!」

 刹那は咄嗟にクアンタを反転させると強烈な殺気の方向にGNソードVを切り払う。

「流石は巫女の騎士。これなら部下がやられるわけだ。」

 そこには斧を盾にしてGNソードVを防ぐサタン・コマンダーの姿があった。

「俺は巫女の騎士ではない。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ!」

「しらを切るか。ならば、その証拠を見せてやろう」

 刹那はサタン・コマンダーから一瞬異様なオーラのようなモノがクアンタに向けて放たれたように見えた。

『いけない!』

 刹那は聞き覚えのある女性の声を聞いた。

 次の瞬間、刹那はクアンタのコックピットから信じられない光景を目にする。

「マリナ!?」

「刹那とサタン・コマンダーが戦闘に突入したようだな。次元航行艦の動きは?」

「はい、司令。サタンの次元航行艦は単独で地球に向かっています。」

 再び多くのモニターやコンソールが並ぶ一室。

「司令、『ドウター』が次元航行艦の攻撃目標を予測しました。司令の予想通り、やはりアザディスタン王国です。」

「やはりマリナ・イスマイールの住居を狙うか。攻撃ポイントはどうだ?」

「ドウターは宇宙空間もしくは衛星軌道上からの攻撃がもっとも有力と予測しています。」

「次元航行艦の乗員は4名だ。攻撃に失敗した場合は直接の地上戦も想定できる。」

 その一言でオペレーター達に緊張が走る。

「まさか、カミカゼ、ですか?」

「さもありなん。サタン共も、はじめから無事に帰れるとは思っていないだろう。次元航行艦の最大射程からアザディスタンへの攻撃ポイントを割り出せ。』

「すでに割り出し済みです。姫様のディスティニーに攻撃ポイントも転送済みです。」

『手回しがいいな。地球連邦軍の動きと姫様のディスティニーの偽装は?』

「軌道エレベーター『ラ・トゥール』常駐のGN-X小隊にスクランブルが発令されました。しかし、次元航行艦の阻止には間に合いそうもありません。姫様のディスティニーはヴェーダへの偽装は完璧です。地球連邦軍『所属機』として処理されるはずです。」

「ウム。連邦政府にも伝えろ、アザディスタン王国が攻撃される恐れがあるとな。」

 

 軌道エレベーター、ラ・トゥールに常駐するGN-X VI2個小隊合計6機が、ナイル級戦艦を撃沈させた宇宙船を迎撃するべく発進していた。

 GNブースターによるトランザム中である。

「せめて粒子増加タンクを付ける事が出来れば長距離トランザムが使えるのに。」

「隊長、無理を言わないで下さい。下駄を履けただけマシだと思いましょうよ。」

 GN-X小隊はスクランブル発進のため下駄、つまりGNブースターしか取り付ける時間がなかったのだ。粒子増加タンクを装備していないためGNブースター胴体内粒子タンク分の中距離トランザムしか行うことが出来ないのだ。

「隊長、後方より友軍機が接近中!」

「何、トランザム中の俺達に追いつくだと!?」

 それは耳を疑う報告であった。スクランブル発進した機体を遙かに上回るスピードで追いかけてきたのだ。

「こ、これはブレイヴIIの高々度迎撃パッケージより速い!?」

「一体、どこのどいつだ?」

 すぐに副隊長機がヴェーダへ後方より接近中の友軍機(・・・)を照会するのだが結果は芳しくなかった。

「ヴェーダへ機体照合しましたが、該当ありません。」

「新型機だというのか? まさか、噂のガンダムか!?」

「隊長、コールサインが判明しました。『ゴールド・ソード』です。最近、登録された機体のようです。」

「『金の剣』だと? 馬鹿にしやがって。国民の税金で作ったMSを何だと思ってやがる。一言文句を言ってやる!」

 そんな隊長のぼやきが聞こえたのか、自称友軍機は後方から急接近してきた。

金の剣(ゴールドソード)後方より急速接近! 並びます!!」

 GN-X小隊の後方から『それ』は一気に迫るとGN-X小隊の先頭を飛行する隊長機に併走する。

「どこのどいつだ! 名を名乗……れ!?」

 『それ』の鋭い眼光が隊長機を睨む。MSのアイセンサーとは違う。

 黄金色に輝く機体の巨大な頭部に、人間の眼と同じ物が2つ着いていたのだ。

 GN-Xの隊員全員がその眼差しから背筋に冷たいものを感じとっていた。

(これは、文句を言ったらやばい……)

『それ』は一気に加速するとあっという間に見えなくなってしまう。

「隊長、3倍以上の速度で離脱していきました。」

「GN粒子の光も見えなかったぞ!」

「……強力なジャミングで映像の記録に失敗しました。」

「なんだったんだ?あれは」

 刹那は驚愕する。

 刹那の目の前には両手を広げ、サタン・コマンダーから放たれた邪悪なオーラから身を挺して守るマリナの姿がそこにあったのだ。

 何も身につけず若い頃の姿に戻り妖精のように透き通ったマリナの姿は刹那には神々しく見えた。

「なぜ、マリナがここに!?」

「刹那ごめんなさい。私は貴方を死なせたくないの。」

「ほう、これは巫女自ら現れるとは。だが、いつまでそうやっていられるかな? 我にはわかるぞ。貴様の魂が間もなく燃え尽きることを」

 サタン・コマンダーから再び異様なオーラがクアンタに放たれる。

「きゃあ!」

「マリナ!!」

 苦しむマリナと同調するようにクアンタのコックピットに警告アラームが一斉に鳴り響いたのはその時だ。急激にクアンタのGNドライヴの粒子生成量が低下し始めたのだ。クアンタの機動力が一気に低下する。

「GNドライヴが緊急停止!? リポーズとも違う! 一体これは!?」

 永久機関ともいえるGNドライヴが異常停止したのだ。GNドライヴが停止すること等あり得ないことだ。

 動揺する刹那とクアンタに一瞬隙が生まれた。それを見逃すサタン・コマンダーではない。

 次の瞬間、GNソードVが握られたクアンタの右腕が宇宙(ちゅう)を舞っていた。

 

 刹那とサタン・コマンダーが戦いを繰り広げている頃、サタンの宇宙船は地上に攻撃を仕掛けるために攻撃ポイントへと向かっていた。

「コマンダー、間もなく攻撃ポイントに到着。破壊砲(・・・)のエネルギー充填完了まで残り120秒、119秒」

(了解。こちらも巫女と騎士にとどめを刺す。)

 刹那はサタン・コマンダーの繰り出す斧の斬檄を必死で回避していた。右腕を切り落とされながらも、更にGNドライヴの粒子生成量不足で行動が制限されているため、回避性能は格段に落ちたはずだ。しかし、クアンタにはもう一つの動力を有していた。

 それはクアンタに融合しているELS達である。元々ELS達が51年前に脳量子波に惹かれて地球に訪れたときに、TRANS-AMを使用したMSでも逃げることが出来ない程の機動力を見せつけていた。刹那はそのELS達の力を借りてクアンタを操縦しているのだ。

 しかし、そこには重大な制限もある。GN粒子を使用する兵器は一切使用できない。TRANS-AMもクアンタムバースト、粒子化も行えないのだ。

「マリナ、大丈夫か!しっかりしろ」

「ごめんなさい、刹那。いずれ話をしないといけないと思っていたのに、こうなってしまいました。どうしても私は刹那を死なせたくなかったの。」

 マリナはクアンタのコックピット、刹那の膝の上に抱かれていた。その体は今にも消えてしまいそうな程透き通っている。 ――あれほど戦いを否定してきたマリナがどうして!? 刹那は一瞬、解り合えたと思っていたはずのマリナの気持ちが理解できなかった。だが、すぐにマリナの気持ちを酌み取ることが出来た。目の間に現れた恐るべき地球外生命体。この異常事態だ。

「……マリナの気持ちはわかった。もう良い、喋るな。」

「刹那、私はもう助かりません。私が悪魔を抑えます。その隙に貴方が悪魔を倒して下さい。」

「馬鹿なことを言うな! 俺がマリナを守る。」

 だが、再びクアンタはサタン・コマンダーの斧を受けてしまう。回避が間に合わず左膝から下を切り落とされてしまった。

「貴様らの魂は現世に転生できないように消し去ってやる。それに間もなく私の部下が、巫女の肉体も吹き飛ばす。これでもうこの世界に再び転生することも戻ることも出来なくなるのだ」

「何! まさかフェルトとミレイナ達にも!?」

 マリナはついに決心する。

「刹那、私は貴方を愛していました。」

 刹那の両手から擦り抜けるようにマリナは起き上がると、刹那の唇に自分の唇を重ねる。物質的な重なりではなかったが、刹那は不思議とマリナの温もりを感じ取れた。

「マリナ! やめろ!」

「サタンよ! 私も刹那も貴方たちには屈しません。」

 マリナは再びクアンタの前に立つ。

 宇宙船は遂に攻撃ポイントに到着する。艦首から必殺の破壊砲を展開した。

「目標補足。エネルギー充填完了まで残り60秒、59秒、」

『ディスティニー、バスターロックを確認。』

 宇宙船のブリッジでサタンが破壊砲のカウントダウンを開始した。操舵を務めるサタンのコックピットには攻撃目標が表示されていた。中東、アザディスタン王国。その中のマリナと刹那の別荘である。今、フェルトとミレイナがマリナの蘇生を行っている、その場所である。サタン達は宇宙空間から破壊砲で粉々に吹き飛ばすつもりなのだ。

『オーバーホールを終えてから試射を行っていないの。エネルギーの逆流があるかもしれないわ。過電圧に注意して。』

「エネルギー充填完了まで残り45秒、44秒、」

『コンタクト、ダウン。』

「40秒、39秒、」

『エネルギーチャンバー内で正常に加圧中。』

「31秒、30秒、」

『ライフリング回転開始、シアーの解放タイミングはディスティーに一存。』

「20秒、19秒、」

『ディスティニー、トリガーをこちらに。』

「15、14、13、」

『当たれえ!!』

「10、9、8、7、6、5! 高エネルギー体接近!? バスター砲だと! うわぁ!!」

 宇宙空間に巨大な光の玉が現れる。

 宇宙船が地上に向けて破壊砲(バスターロック)を発射する直前、彼方より飛来した破壊砲(バスター砲)の砲撃を浴びて蒸発したのだ。

「何? 応答しろ! バスター砲だと言うか!? 何者だ!」

 突如、刹那と対峙していたサタン・コマンダーが狼狽する。刹那とマリナはこの隙を見逃すことはなかった。

 クアンタは失った右腕を『呼び戻す』。背中の触手が右腕からGNソードVを受け取ると悪魔に向けて突撃する。

「最後の悪あがきか、馬鹿め。返り討ちにしてくれるわ!」

「TRANS-AM!」

 サタン・コマンダーは斧を振り上げ、カウンターを仕掛ける。しかし、刹那とマリナの魂の叫びとも言えるトランザムアタックがサタン・コマンダーの斧もろとも切り裂くと遂に一撃を加えたのだった。

 

「ば、馬鹿な、貴様らは運命に逆らったというのか……。」

 クアンタはGNコンデンサーに残っていたGN粒子を全て使い果たしGNソードVもその剣の輝きを失い、砕け散った。

「……だが、その代償は、償って貰う!」

 サタン・コマンダーは肩から胸に斬られながらもクアンタに向けて最後のオーラーを放つ。

「それは貴様だ!」

「刹那!」

 サタン・コマンダーはマリナではなく刹那自信にすべてのオーラーを放ったのだ。

 しかし、間一髪の所でマリナが楯になる。マリナの体を鋭い刃と化したオーラーが貫く。

「きゃあああ!」

「マリナ!」

「ク、巫女よ、どこまで邪魔をする気だ。だが、それだけの力を使った今、貴様も間もなく……」

 すでにマリナの体の輪郭が消え始めていた。

 サタン・コマンダーは切り裂かれ柄だけになった斧を振り上げ、最後の悪あがきを試みようとした瞬間、柄が手からはじき飛ばされた。

 これは刹那の仕業ではない。

『お喋りの悪魔というのは聞いたことがありません。』

「グ……や、やはり、貴様のし、わざか。」

 刹那は剣が飛来した方向を見ると一機のMSがこちらに接近してくるのがわかった。

「あの機体は?」

 そのMSは全身に黄金色の装甲を纏い、背中には二つに折りたたまれた大砲のようなものを装備していた。

 黄金色のMS、刹那の脳裏には過去にソレスタルビーイングを壊滅に追いやった国連軍との戦いの中で遭遇した金色のMSが浮かんだが、すぐにそれとは違うことが確認できる。

 金色ではなく『黄金』、それも半透明の装甲である。巨大な頭部にはまるで血のように赤い十字架が、両肩にも同様に赤い帯のような物も描かれている。

 それは現存するMSには無い独特なオーラーを放つMSだった。

(あれはMSなのか!?)

『これを』

 脳量子波で少女のような声が伝わる。黄金のMSは腰に下げていた一本の剣をクアンタに投げ渡す。

「やめろ、やめてくれぇ!」

 クアンタは左腕で剣を受け取るとサタン・コマンダーに最後の一撃を浴びせた。

 サタン・コマンダーはついに胴体を切断され、その体が消滅を始める。

「我が負けたというのか……騎士よ、巫女を失った貴様にも、せいぜい地獄を味わって貰おう。グハハハ、グェ!?」

 サタン・コマンダーは負け惜しみと断末魔を残してついに宇宙から消滅していった。そこには何も残らなかった。

 刹那はハッと我に返る。

「マリナ!」

 

 クアンタの側で見守っていたマリナだったが、その表情は暗い。刹那はすぐにマリナを保護するべくクアンタのハッチを開けると遂行用推進装置を取り出すとノーマルスーツに装着して自ら宇宙空間に飛び出した。そして、刹那はマリナと対峙するのだが、あらためてマリナの異常性に気がつくのだった。

「マリナ、いったいどうしたというのだ!?」

 マリナの体は、先ほどよりも透けており宇宙空間に散らばる星々の明かりが見えるほどであった。

「刹那、ごめんなさい。『私は貴方を守れなかった』。」

「何を言うんだ。マリナが守ってくれたから、俺はこうして生きている。生きているんだ!」

『マリナさん、貴方は、貴方達二人の運命を変えたのです。それは貴方もわかっているはず。だから、だから、そんな悲しい顔をしないで!』

 黄金のMSの搭乗者だろう。少女の声でマリナに対して脳量子波で話しかけているのが刹那にもわかった。

「二人とも、ありがとう」

 マリナは少しだけ微笑むと両手を広げる。マリナの頭上に光が差し込む。まるで天国への道標のように。

 その神秘的な光景に刹那はマリナとの永遠の別れを察知した。

「マリナ! 行かないでくれ!」

 刹那はまるで母親に甘えすがる幼子のようにマリナに縋ろうとするが金縛りに遭った如く体を動かすことが出来ない。

「クッ! 何故体が動かない!? マリナ、待ってくれ!」

「刹那、私は貴方に出会えて幸せでした。今度生まれ変わることが出来たら、貴方の側にずっと一緒に……」

『マリナさん!』

 

 その時だった。

 今まさに昇天しようとしたマリナの足下に黒く渦巻く空間が発生するとマリナを吸い込こみはじめた。

「きゃあああああ!」

「マリナ! 体が動く!?」

『こ、これは、まさか、次元回廊!?』

 刹那と黄金のMSが一気に動いた。

 刹那は右腕を伸ばし、マリナを右手を掴もうとする。

「刹那!?」

「マリナ!」

 だが、消滅寸前であったマリナの魂は刹那の手をすり抜けると空間に墜ちていく。

「刹那!」

「マリナァァァァ!」

 マリナを飲み込むと空間はすぐに閉じてしまった。

 刹那の悲しみの叫びがELSを通して全宇宙空間に響き渡った。

 そして、黄金のMSの中で少女は見てしまったのだ。空間の底に広がっていた『あるモノ』を。

(そ、そんな、まさか、あれは、ジョーカー宇宙だというの!?)

「俺はあの時、確かにこの手でマリナの魂に触れたんだ。」

 刹那は自身の右手を見つめながら呟いた。

 

 それはトレミーがセカンドフェーズ第一目的地でもあるイースター太陽系第二惑星(デルタベルン)の大気圏に突入する直前の事であった。

 

第4話完。

 後書き。

 読了お疲れ様でした。

 某所で投稿していた時の第5話が今回の第4話になり第一章が終わりになりました。TINAMIさんでは章という概念がないので、このまま進めたいと思います。あと5話ほど未投下の話が残っていますが、なるべく早く再編集して投下したいと思います。

 今後ともよろしくお願いします。

 


 
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