No.43208

ミラーズウィザーズ第一章「私の鏡」04

魔法使いとなるべく魔法学園に通う少女エディの物語。
その第一章の04

2008-11-24 05:34:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:563   閲覧ユーザー数:549

「どうして私が裏口入学なのよ! 言い掛かりはやめてよ」

 心からの否定とばかりに、いつになく真剣にエディは口調を強めた。しかしその思いは伝わることなく一笑に付された

「お前が裏から手を回して入学したなんて、誰でも知ってんだよ。なぁ、みんな?」

 騒ぎ出したトーラスに注目していた生徒達は、ある種、無意識に首肯していた。

 それだけ、エディが裏口入学だという認識は学内で広がっているのだ。誰もトーラスに反論する者はいない。エディの周りにいるマリーナ達ですら、何も言えずにいるのだ。

 エディ・カプリコットは縁故を使って入学した。そのような噂が流れているのは確かだ。そして、ほとんどの者はそれが真実だと思っている。

 かの魔女戦争の際、最凶と呼ばれた『不死の魔女ファルキン』を討滅した聖騎士が建てたこのバストロ魔法学園は、世界でも指折りの魔法使い養成学校だ。そしてエディ・カプリコットは基礎魔法である『炎』も『光』もまともに扱えない落ちこぼれ。そんな彼女がなぜ在籍を許されるのかと皆、首を捻るばかりだ。そこにエディの祖父がこの学校の学園長と聞けば、出る答えは一つしかない。

 そんな偏見が横行する現実を、エディ自身もよくわかっている。だからこそ、汚名をそそごうと必死に研鑽に励み努力しているのだ。しかし残念ながら、その努力は未だに実を結んでいない。

「トーラス。ちょっと言い過ぎじゃない」

 何の反論も出来ないエディを見かねたのか、マリーナが割って入った。友人が一方的に責められるのを彼女の性格が許すはずがない。

「ちょっと何だって? マリーナ、お前だってこいつがまともな方法で入学したなんて惚けたこと思ってないんだろ?」

「それはまぁ……」

 エディを助けに入ったはずではあるが悪気なく、つい反射的に口ごもってしまったマリーナは、気まずい視線を友人に向けた。

 別に恨むでもなく、エディは視線を落とした。

 やはりエディには反論の余地がないのだ。それだけ魔法学園において魔法が使えないという、自らの境遇をわきまえているのである。

「いえ、あの、あのね。そりゃぁエディは魔法制御はほとんどダメだし、魔術もからっきしで、魔学はマシかなぁって感じで魔法課程より魔学課程ならなんとかなるかなぁって感じだけど、毎日頑張ってるんだから。そんな裏口とか証拠もなしに言うのはよくないと思う」

「マリーナ。全然フォローになってないです」

 ローズが呆れた眼差しでこぼした。

「くはははっ。エディ、正直なお友達を持って幸せだな、おい。まぁ午後からはお得意の実技だ。精々、学園長に泣きつかないでもいいように、からっぽの才能を働かせるんだな」

 そんな皮肉にまみれた言葉を残してトーラス・マレは去っていた。

 勝ち誇った薄ら笑いが腹立たしいのにエディは何も言えない。四十四位と、決して上位とはいえないが序列に入っているトーラスに、序列にも入れないエディには反論の言葉がない。それが序列の力。魔法学園における絶対の真理にして現実だ。

 序列が上の者には絶対服従というわけではないが、明確な実力の差が反論する根拠を失わせる。反論したければ序列を上げろ。それが魔法学園という社会のルールなのだ。

「どうしてあいつエディにばっかりきつくあたるのかしら。まぁ普段から嫌味な奴ではあるけれど」

 トーラスが学内序列に入ったときは、所構わず自慢して回っていたのを思い出して、マリーナはうんざりした。

「別に私は平気。慣れているから……」

 それは嘘である。どんなに慣れたからといって誹謗に何も感じないほどエディは達観していない。その悔しさが渋い表情ににじみ出ていた。

「それより、みんなまで落ちこぼれ呼ばわりされて、……迷惑だよね」

「俺様はお前より成績悪いぞ」

「人に何を言われても関係ないです」

 バルガスとローズの答えに、エディの表情は少し和らいだ。

「エディ、ごめんね。私も酷いこと言ってたよね」

「マリーナ……。裏口入学以外、全部本当だから気にしないで。……私、才能ないんだよね」

 無理に明るく振る舞っていたが、エディの言葉は苦渋にまみれていた。

「はぁ。本当に裏口が出来るぐらいのコネだったら楽なんだけどね」

「そうね。エディはよく単位落としているから、裏から手を回してもらわないといけない教科多いもんね。特に実技は全部」

「……やっぱりマリーナって、酷い」

 そう冗談めかしにエディが言うと一同に笑みが戻った。

「マリーナ、次の講義に行こっか。次はキュキュ先生だから退屈しないで済むよ」

「はは、あの先生は意味わかんないよね。私は好きだけど、教鞭をとる者としてはどうなのかな」

「あれならクラン会長の方が講師に似合ってます」

『あ~確かに』

 ローズの指摘に、エディとマリーナの声が揃った。学園の生徒会長であるクラン・ラシン・ファシード嬢なら、容姿、風格共々、講師として申し分ないものだった。

「それにキュキュ先生に教わって魔法が上手くなったなんて聞かないよね。あの人、魔法教えるの下手だよね~」

「エディが言うと、マジに洒落に聞こえないぜ」

 そんな雑談を交わしながら講堂を去っていくエディの足取りは人知れず重かった。

 いつまで落ちこぼれと言われればいいのか。いつになったら魔法使いとして認められるのか。そんないつ晴れるともわからぬ悩みが、エディにとっては身を切るようにつらい。

 エディ・カプリコットは友人に心配させまいと、仮面の笑顔を作り続けるのだった。

 


 
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