No.431758

ゲイムギョウ界の守護騎士

ゆきさん

1人ダンジョンの最奥に赴いたタイチ。そこで見たものはセフィアの刺客を圧倒する1人の男。タイチと同等、それ以上の力を持つ男に果たして勝つことはできるのか!?
そしてまた、一つの失われた記憶が蘇える

2012-06-02 23:39:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1379   閲覧ユーザー数:1330

第15話 Lost Memory

 

ダンジョンの最奥にそれは居た。

全身黒尽くめのフードを被った男は少女の喉元を片手で掴み絞め殺そうとしている。

俺は状況判断よりも体が先に動いた。

地面を蹴り爆発的な加速で男に剣を振り下ろそうとした瞬間男は片手で持ち上げていた少女をこちらに投げつけてきた。

何とか少女を受け止め急加速に耐え切れなかった俺は体勢を崩しそのまま横に転がりダンジョンの壁側に後頭部と背中から突撃した。

 

「痛って!」

 

痛む頭をさすりながら先程受け止めた少女を見て俺は驚きを隠せなかった。

 

「なんだ?どうしてこんなことになってるんだ?」

 

少女の顔には見覚えがあった。

海を思わせる青色の髪。処女雪のような白い肌。

少女の小さな体を包む異国風のドレス。

ノワールを水族館で襲った子じゃないか!

周りを見てまわすと地面の所々にたくさんの小さなクレータのようなものがある。

その中には俺がラステイションに来た時にに殴りつけたやつもいた。

こいつらがあの男1人にやられたのか?

 

「ようやく来たかい。あまりに遅すぎるんで君と戦う予定だった2人組みは僕がやっといたよ。まあ、殺しちゃいないけどね」

 

「どういうことだ?お前は何がしたいんだ!?」

 

「君を殺したい...それだけだよ。君の存在は彼女を苦しめているんだ。だから、君を殺すんだ」

 

男はゆっくりこちらに向かって歩いてくる。

この威圧感、ただもんじゃないな。

今まで戦ってきた相手の中でもこいつは何かが違う。

 

「ん.....ま、魔王?.....へ、変態...」

 

「誰が変態だ!そんなことはいいとしてここは一旦休戦だ」

 

俺は少女を壁にもたれさせ歩いて来る男に向き直り剣を左手に持ち替える。

俺が剣を持ち替えた理由は単純で一つは十分に剣を扱える左手。

地獄での修行の最中に左手のほうがしっくりきたのでいざ左手で剣を使ってみると右手で使うときよりも動きがいいことが判明したのである。

もう一つの理由はただの直感である。

右手で戦ったら負けるとそう告げている。

 

「?....気付いていたのか。左手で戦うと確かに君は少しは耐えれるかもね。どちらにしろ、最後には『死』しかないけどね」

 

「俺は死ねないんだよ!この世界を守らなきゃいけないからな!!」

 

地面を蹴り一気にトップスピードに乗って斜め下から斬り上げる。

刹那、男の手の甲が禍々しい黒い光を放った。

 

「これが何を意味するか、分かるかい?」

 

甲高い金属音が鳴り響いた。

男はいつの間に取り出したのか俺の剣と瓜二つの剣で今のすばやい剣閃を防いでいた。

そして男の手の甲には交差した黒の剣があった。

 

「君の手にも同じようなもの「それはなんだ!」.....繋がりみたいなものだ。君の未完成な契約では僕に勝つことは不可能だよ」

 

一旦距離をとり、男の声に聞き入る。

 

「君の契約している相手は、セフィアだ。そして、もう一人は......」

 

「契約?もう一人?」

 

「.......」

 

男は答える気がないのか、再度突撃をかけてきた。

俺もほんの少し遅れて前に出た。

剣と剣が交差するたびに激しい火花と甲高い金属音がけたましく鳴り響く。

 

「答えろ!お前は何を知っている!?」

 

「これ以上は僕にとって何の意味もないからね。....ただ、これだけは言えるよ。君は僕には勝てないんだよ。.......さよならだ。偽りの魔王!!」

 

「ッ!!あまく見るなよッ!」

 

剣が交差すると同時に右手に黒き炎を宿しさらに踏み込みをかけ敵の鳩尾を全力で殴りつけた―――――はずだった。

 

「言っただろう。君は死ぬって」

 

目の前に敵はおらず変わりに俺の拳は黒い壁を殴りつけていた。

黒い壁はすぐに形を崩したかと思うと、雲のように広がると同時に俺の体を包んでいった。

捕まってたまるか!

完全に包まれたわけではなく、閉じかけていた隙間に剣を突き立てた。

剣から霧のように溢れ出していた黒い闇はさらに激しさを増し隙間が埋まるのを何とか防いでいた。

 

「さすがは僕と同...在...さら..だ....トメア....」

 

敵の声はだんだんと途切れ途切れにしか聞こえなくなり、隙間の侵食を抑えていた剣はさらに濃密な黒に隙間を侵食させられ、まるで壁に突き刺さっているように見えた。

そして完全に閉じ込められてしまった。

 

「くそッ!......いったいどうすればいいんだ!?」

 

苛立ちを隠しきれない俺は目の前の壁を何度も殴りつけていた。

視界に移るのは剣が突き刺さった部分とその周りの薄暗い壁だけ。

他は全てが黒で統一されており、囚われたということが嫌でも分かる。

剣を引き抜こうとしてもうんともすんとも動かない。

 

「ッぐ!?....ガハッ!!」

 

突如両腕と両足に激痛が襲い掛かる。

見てみれば後ろから針のようなものが俺の四肢を貫いていた。

 

「あがッ!...はあはあはあ....ぐうッ!」

 

体が地面から離れていくのが分かる。

見えない壁に貼り付けられるような形になり、あの時とと同じように頭痛が走る。

 

 

―――いやだ!―――助けてくれ!!―――あれはきっと女神様が倒してくれるはずじゃ―――

 

子供の声、若い男の声、老人の声さまざまな声が頭の中に聞こえてくる。

続く強烈な頭痛に意識を飛ばされそうになるが何とかそれに耐えていると突如目の前の暗闇が裂けた。

それと同時に肌に熱い熱風が吹きかかる。

 

「ここは....何処だ?」

 

俺の視界に移った世界。

街のあちらこちらで燃え盛る黒炎。

破壊し尽くされた街はその原型をほとんど失くなっていた。

泣き叫ぶ声や必死に何かにすがるような声。

街の中心部らしき所に大勢の人が集まっていた。

 

「滅んでしまえ!」

 

声の先には紺のズボンに黒い胴衣を着て空に浮いていた少年が黒の魔剣を横に薙いだ。

その刹那、中心部の地面が一気に膨れ上がるように爆発した。

集まっていた人々は爆発に巻き込まれ吹き飛んだり、消し飛ばされたりとそんな光景が俺の目に焼き付けられた。

 

「あぐうッ!!.......や、やめろおおおお!!!!」

 

俺は痛みに耐えながら何とか声を上げる。

四肢からは大量の血が流血しており、どんどんと意識が破壊されていくのが分かる。

黒い針は俺の四肢を縛りつけておりいまだに自由が利かない。

少年は俺の声を気付いていないのか次々と魔剣を縦横無尽に薙ぎ払う。

剣先から黒の衝撃波が地面に向かって飛んでいき爆発あるいは黒炎が立ち上ったりしている。

 

「やめてください、魔騎士<ナイトメア>!」

 

「イストワールか.....僕の邪魔をするな」

 

「どうしてもやめないと、言うのですね」

 

「やめる気なんか無い!「そこまでにしておけ、ナイトメア!」僕からセフィアを奪ったお前まで....邪魔をするなら殺すまでだ!!!」

 

「記憶制御開始!」

 

「イ、イストワァァァァル!!!」

 

少年は片手で頭を抑え空中で膝をつくような形になっている。

怨嗟の声を上げながら片手で持っている魔剣をイストワールに向けて振ってゆく。

だが、その黒い衝撃波はイストワールに届く前に見えない壁にぶつかり消滅していった。

否、見えない壁ではなくイストワールを守るように少年に立ちはだかっていたマジェコンヌがいた。

衝撃波は先程とは違い大きさや威力にむらがあるのは力がコントロールできていないだかろうか。

 

「マジェコンヌ、ホントにいいんでしょうか?」

 

「構わない。今のアイツはただの殺戮兵器だ。これからのアイツの未来の為にもここで記憶を消しておくのが最善の方法だと私は思っている」

 

「分かりました。...ごめんなさい、ナイトメア。記憶削除」

 

「ああああああ........」

 

少年は電源が切れたロボットのように全身から力が抜け重力に従い地面に向かって落ちてゆく。

その瞬間俺も意識が持たず気絶した。

 

???side

 

誰かに抱きとめられていた。

なぜか分からないけど全身の筋肉がものすごく痛い。

指一本動かそうとするだけで全身に激痛が走る。

目がやっと開けたときそこには女の人がいた。

 

「大丈夫か!?」

 

「ぼ、僕は.....誰?」

 

僕がそう質問したとき女の人はなぜか苦しそうな顔をした。

......この人、会ったことある?

 

「お前は............魔王だ」

 

「魔王?......何でこの街はこんなに壊れているの?」

 

女の人は再び苦しそうな顔をした。

辺りを見回せば破壊された街がそこにはあった。泣きじゃくる子供達、誰かを探している人達。

次に声を上げようとした瞬間今までにない痛みを感じ僕の意識は途切れた。

 

 

「私はいったい何をしていたのだろうか。...こうなる前に止めることは出来たはずなのに」

 

「マジェコンヌ、自分を責めることはありません。あなたは最善を尽くしたのです」

 

「.........ああ」

 

女性はそう頷くしかなかった。

 

 

 

偽りの記憶。

存在さえもが偽り。

彼の記憶には彼女の記憶には偽りの記憶が魔女の手によってうめられた。

これが守護騎士<ハード・ナイト>の偽りの人生の始まりだとは魔女以外は誰も知らなかった。


 
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