No.429958 そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works42012-05-29 23:46:40 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:1755 閲覧ユーザー数:1684 |
そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works4
拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その8
○数学の竹原:智樹たちの数学教師。やたらと難解な問題を出しては生徒達を翻弄する。だが、美香子や守形の方が頭が良いらしい。原作ではお祭りイベントがあると大概解説役を任されている。アニメだと他キャラに解説役を奪われていることが多いので、アニメスタッフは竹原フィーバーを恐れているに違いないと密かに思ってみたりする。
フラレテル・ビーイングのフラレテル・マイスターの1人だが描写がない。
○体育教師の松岡:智樹たちの体育教師。やたらゴツい体格で竹刀を持ち歩いているという昔ながらの体育教師キャラ。プロレス回では竹原に代わって実況を務めた。2人の間で血生臭い因縁があるに違いないと勝手に思い込む。
松岡も竹原と同じフラレテル・マイスターであるが、竹原と同じく描写がない。正確にはバレンタイン蜂起編だとクリスマス蜂起時に竹原と共に戦死した脳内設定になっている。
○美人の英語教師:智樹たちの英語教師。美人に描かれているが名前は不明。プロレス回のEDにもこっそり登場しているが、やっぱり紹介は英語教師。原作で特に扱うべきエピソードもなく、また英語教師だと文中表記が難しいので拙作で今後も出番はあまり期待できない。勿論原作で目立つようになればこの限りではなく、その意味では今後の日常編でおお化けする可能性も持った美人教師である。
○怪しい理科教師:智樹たちの理科教師。中年のおっさんで、怪しい薬品をよく調合している。プロレス回のEDでは怪しい薬を調合して会場内で大爆発を起こした。原作者の別作品のキャラに似ていると言われているが、直接的な関係は不明。だが、授業が扱われる話が今後メインに来るかは疑わしく、扱われたとしてもきっと竹原、松岡辺りで占められてしまうと思われる。謎が謎で残るであろうキャラ。
○テキ屋のおやじ:美香子と組んで祭りのイベントごとで一儲けしているおっさん。常に拳銃を携帯している。智樹を何度も射殺しており、その意味では主人公最大の敵。理科教師と同様に別作品のキャラとの関連がよく指摘されているが、直接的な関係はやはり不明。
拙作だとほとんど扱ったことがないキャラ。一歩扱い方を間違えると無敵キャラになりかねず、対智樹専用殺害キャラにすると作品の面白みがなくなる。扱いが難しい。
そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works4
「何でイカロスがカオスを攻撃してるんだよっ!?」
物陰に隠れた智樹は体中から汗を流しながら小声でニンフに尋ねてきた。
「分からないわよ。カオスの放っていたジャミングが酷過ぎてアルファがいたことにさえ気付かなかったし……」
智樹の隣に隠れているニンフもまた額に多くの汗を掻いていた。
迂闊だった。カオスのジャミングを他陣営が利用して来るとは想定しなかった。
「何でイカロスは鳳凰院のヤローと一緒なんだよ!?」
「2人の利害がどこかで一致しているからでしょうね。それ以上は今の段階じゃ分からないわ」
ニンフは必死になって頭を巡らせながら2人の利害の一致、より正確にはイカロスが義経を随行させている利点を考える。
候補は幾つか思い浮かぶ。
だが、そのどれもがニンフにとっても智樹にとっても良くないものでしかない。いや、最悪な可能性しか思い浮かばない。
「今の状況から1つ予測できることは……アルファがカードを手にすることは美香子と同様かそれ以上に危険と判断して間違いないわ」
「クソッ! なんてこったっ! イカロスまでが最悪な敵側に回るなんてっ!」
智樹はニンフの言葉を予測していたのか大きく舌打ちして呼応した。
「それで……これからどうするの?」
「決まってる。イカロスが危険だってんなら……カオスを援護してイカロスを叩くまでだっ!」
智樹の一言で方針は決まる。
「じゃあ私は右から、智樹は左から回り込んで奇襲よ。応戦して隙が出来ればカオスにも勝機が生まれるかもしれない」
「分かった」
智樹とニンフは共に密かに移動を始める。
だが、その勝機が訪れることは遂になかった。
「……そろそろとどめ。ウラヌス・システム」
イカロスが指を鳴らし空美神社の上空に巨大な空中戦艦が出現した。鳥のような形をしたその戦艦には長さ数十メートルに及ぶ巨大なアームが2本装着されている。
「わきゃぁあああああああぁっ!?」
アームはその巨体からは想像も出来ないほど俊敏な動きでカオスの体を両側から掴み拘束した。
「う~~離せ離せ離せ~~っ!!」
「……無駄です。このアームに掴まれた者は例え天使であろうと逃れることは出来ません」
既に満身創痍のカオスに拘束を解く余力はない。アポロンによる連続攻撃はカオスの力を既に極限まで摩耗させていた。
「……私の渇望する理想の新世界には貴方の様な幼女は最も必要ありません。だから、カオス。この場で今すぐ散って下さい」
イカロスの背後の空中に次々にアポロンの矢が出現する。その数実に10本。
「おっ、おいっ!?」
その矢の多さが意味する所を考えて智樹は全身に悪寒が走った。
「やっ、止めろ~~っ!」
ニンフが所定位置に回り込むのを待たずに智樹が走り出す。
だが、それは遅過ぎる介入だった。
「……ゲート・オブ・アポロン」
智樹の眼前で10本の必殺の矢が動けないカオスに向かって発射された。智樹はその矢がカオスに直撃して爆発する様を呆然と見ているしか出来なかった。
「……イージス展開終了」
イカロスはイージス着弾と同時に展開させたイージスフィールドを解いた。
傷付いた体に10本のアポロンを更に浴びたカオスは既に物言わぬ体となっていた。悲鳴も上げる間もないほどに強大な衝撃がカオスを襲っていた。
「イカロスっ! お前はっ、何て酷い真似をするんだぁっ!」
智樹はイカロスに向かってあらん限りの大声で吼えていた。
イカロスはゆっくりと顔を智樹へと向ける。
「………………っ」
だが、イカロスは何も語らない。無表情な瞳で智樹を見ているのみ。
代わりに智樹に語り掛けたのは鳳凰院・キング・義経の方だった。
「やあ、Mr.桜井。イカロスさんは僕の新しい協力者。謂わばパートナーだね」
義経が自信たっぷりに語り掛ける。義経は更に智樹に近付いて楽しそうに嗤った。
「命乞いしたまえ。そうすれば命だけは助けてあげるよ。何、上に立つ者は下賎な存在に慈しみを与えるものだからね」
「断るっ!」
「なぁああああぁっ!?」
智樹の声の激しさに義経が身体を震わす。一方で義経の隣に立つイカロスの翼から2個のアルテミスが生成されて空中へと放たれた。
その狙いが智樹についていることは狙っている方向からすぐに分かった。
「クッ!」
智樹の身体がビクつく。その時だった。
「アルファッ!」
ニンフはイカロスに向かって叫んでいた。
「そのアルテミスをちょっとでも動かせば、鳳凰院義経の命はないわよっ!」
ニンフはイカロスに脅しを掛けながらパラダイス・ソングの発射体制に入っていた。
「……問答無用で義経さんを殺さない。やっぱりニンフは交渉事がよく分かってる」
イカロスの背後のアルテミスが消える。
「あの、イカロスさん?」
義経がイカロスの行動を見て驚いた。
「……状況が変わりました。それにカオスは仕留めました。贄はもう十分です」
イカロスが動かなくなったカオスの身体を拾い上げて担ぐ。その間彼女は一度も義経の方を見なかった。
一方で義経はいまだ自分に必殺技を放とうとしているニンフへと話し掛けて来た。
「フッ。ニンフさん。下々のゴキブリでしかないMr.桜井のことなど放っておいて僕と手を組みませんか? 美香子くんの陣営さえ倒せばもう勝利は目前ですよ」
「お断りよっ!」
ニンフの答えに躊躇はなかった。
「アルファに良い様に使われているだけのアンタに付いて行く道理はないわよ」
「なっ!?」
「分からないの? アルファと対等なパートナー関係にいるなんてオメデタイことを考えているのはアンタだけだってのよ!」
「なっ、なあっ!?」
義経は屈辱の余り声が詰まった。だがイカロスはそんな義経の憤慨に付き合わなかった。
「……時間切れです。新世界を作り上げる為の準備には多くの時間を要しますので」
イカロスはカオスの身体を担いだまま大空へと羽ばたいていった。義経を残して。
「くそぉっ! 後で泣いて後悔しても遅いのだからね、Mr.桜井、ニンフさんっ!」
義経は慌てて階段を駆け下りて空美神社から出て行った。
空美神社の戦いはこれで幕となった。
「何で、アルファに対して正面から飛び出すような真似をしたの? 今のあの子がどれだけ危険かはカオスへの容赦ない攻撃で分かっていた筈でしょ」
パラダイス・ソングの発動を止めて智樹へと近付いて尋ねた。
「どうしたもこうしたもねえ。俺はただ、カオスを助けたかったんだ……っ」
智樹はカオスが倒れていた地点を見ながら辛そうに目を細めた。
「智樹の生き方は……酷く歪。自分より他人の命の方が大事だなんて……間違っている。と、思う」
辛くて智樹の顔がまともにみられない。
「だって人間はシナプスの住民やエンジェロイドに比べて寿命が短過ぎる。修復能力だって極端に拙い。その短くて細い命を他人の為に使うなんておかしいわよっ!」
声が甲高くなる。切羽詰ってまともに喋れない。
「智樹がそうやって自分の命を粗末にしたら悲しむ存在がいるってことぐらい、いい加減に気付きなさいよっ!」
ニンフは悔しそうに歯噛みしていた。その瞳は大粒の涙を流している。
「私は、アンタが時々格好良く見えるのが怖いのっ! 智樹が格好良く見える時はいつも命を懸けている時だから。消えてしまいそうな智樹に格好良さを覚えるのはもう嫌なの!」
「ニンフ……っ」
「バカで、スケベで良いから……消えないでよ。私の前から勝手に消えてなくならないでよ……」
智樹に抱きついてその胸に顔を埋める。涙が止まらない。
「俺の身を案じてくれてありがとうな」
智樹がニンフの頭を優しく撫でた。
「でも、俺は俺の守りたい人がピンチになっていたら……何度でも助けに行くと思う。それは、間違いじゃないと思うから」
「なら……今度からは1人で飛び込むんじゃなくて、私も一緒だからねっ!」
「ああ、そうだな。そうだよな」
智樹はニンフの背中に手を回して抱き締めた。
戦況は絶望的。
それでもニンフと智樹は互いの体温をとても心地よく感じていた。
智樹とニンフは空美神社の境内の中で固く抱き合っていた。
だが、その安らぎの時間は1人の少女の声によって終止符を打った。
「ああ~~っ!? ニンフ先輩が桜井智樹に抱きついてラブラブしてるぅ~~~~っ!」
「「…………っ!?!?」」
上空から声が聞こえて来たので2人は慌てて離れた。
「あっ、アストレアっ!?」
智樹が上空を見上げながら叫ぶ。
「何よっ! 決着を付けようっての!?」
ニンフが顔を真っ赤にしながらアストレアを威嚇した。
「ぷすすぅ。私と決着を付けた所で師匠にもイカロス先輩にも勝てませんよ~」
アストレアは嘲笑を発しながら地面に降り立った。
「「クッ!」」
智樹とニンフが戦闘の構えを取る。けれど、それを手で制したのはアストレアだった。
「私にニンフ先輩達と戦うつもりはありませんよ」
アストレアは自身の唯一の武器であるクリュサオルを地面に置いた。
「じゃあ一体、私達に何の用なの?」
ニンフが警戒心を解かない瞳でアストレアを見る。センサーの感度を最大限に上げて他の敵がいないのか探る。
だがアストレアはそんなニンフの心配とは真逆のことを真剣な表情で提案してきた。
「師匠を倒すまで共同戦線を張りませんか?」
アストレアの提案を聞いて智樹は仰天した。
「な、何を言っているんだ!? お前、いつも師匠師匠って慕っている会長を裏切るって言うのかよっ!?」
智樹はアストレアの言葉が信じられないようだった。
無理もない。アストレアは美香子を崇拝しているのだから。
けれど、ニンフが抱いた疑問は別の所にあった。
「共同戦線……その提案をしたのは一体誰なの?」
瞳を細めてアストレアを見る。
「ニンフ先輩? えっと、それはどういうことでしょうか?」
アストレアの額に冷や汗が流れる。
「デルタに共同戦線なんて難しい単語がスラスラ出て来る訳がないでしょ。なら、アンタにそう言って誘えって言った人物が他にいる筈よ」
アストレアは大きく息を吐き出した。
「確かに、誘い方を教えてくれたのは私のくろいあんこです」
「なるほどね」
アストレアの言葉に頷いてみせる。
美香子の陣営に属し、アストレアを自在に操ることができ、尚且つ美香子を裏切る胆力を持った存在。そんな存在、ニンフの心当たりはただ1人しかいなかった。
内面で激しい動揺と苛立ちを覚えながらアストレアとの会話を続ける。
「でも、師匠と袂を分かつことを決めたのは私が決めたことです。私が自分で決めたんだからぁ!」
アストレアは拳を突き上げた。
「何で美香子を裏切るの? 美香子は現状では最強の陣営よ。アルファにだって勝る戦力を有しているわ」
「でも……師匠は智樹を何度も本気で殺そうとしました。それは、絶対に許せませんっ!」
アストレアの瞳が怒りの赤に染まっている。
「つまり、デルタは智樹のことが好きだから美香子を裏切るって訳ね。愛の力は偉大だわね」
「なぁああああぁああああああああぁっ!?!?」
アストレアの大声が境内に響き渡る。
「そっ、そんな訳がある訳がないじゃないですかぁっ! わ、わわっ、私は桜井智樹のことなんて何とも思ってないんですからねぇえええええええぇっ!?」
アストレアは首を激しく横に振りながら取り乱している。
「んなこと言われなくたって、知ってるよ」
鈍感過ぎる智樹以外には丸バレな態度だった。
「と、ととと、とにかく、智樹を殺そうとする師匠にはもうついていけません。敵として倒すことに決めたのは私とくらいあんこの共通した意思なんですっ!」
「智樹を殺させない……やっぱりそういうことなのね」
予測した人物がアストレアの黒幕であることを確信して大きな溜め息が漏れ出る。この先に自分に大きな災いが降り掛かって来ることが99%以上確定した。
けれど、現状では美香子陣営に勝ち目がない以上、アストレアとその黒幕が協力を申し出てくれたのは嬉しいことだった。
「夜明けまで休んで智樹の体力が回復したら美香子と決着を付けにいきましょう。デルタがいるなら……勝機はあるわ」
美香子との4度目の戦いを決意する。
「別に俺は今すぐ行っても構わないぞ」
「ダメよ。学校での戦い、ここでの戦いと連戦で智樹は体力を消費している。智樹には次の戦いで守形を相手してもらう役目を果たしてもらうわ。だから、体力を回復させて最高の状態で望んで頂戴」
「ああ、分かった」
智樹は力強く頷いた。
「はいは~い。ニンフ先輩。私は私は?」
「デルタにはそはらと智子、特に智子を抑えてもらう。恐らく美香子はそはらを対アルファ戦の切り札に温存するだろうから智子を足止めして」
「わっかりました~♪」
アストレアが右手を大きく挙げてニンフの案を承認する。
「そして私が美香子を討つっ!」
右手を強く握り締めながら自身の対戦相手を述べる。
各自の相性を考えた場合、この組み合わせ以外に勝ち目は考えられなかった。
「明日はきっと、長い1日になるわよ」
「そう…だな……ふわぁ」
智樹が大きな欠伸をしながら返す。
「今日の所はこの神社の本殿の一角を借りて寝ましょう。添い寝ならしてあげるから寒くはない筈よ」
言いながらニンフは智樹の右隣に寄り添って密着した。
「ええぇっ!? いや、添い寝ってそれはさすがにマズいんじゃ……」
「はいは~いっ! だったら私も桜井智樹と添い寝してエンジェロイド湯たんぽになりま~す」
アストレアも智樹の左隣に寄り添って密着した。
「そうね。智樹を両側から挟めば暖かいに違いないわ」
「嫌、だからマズいって。それは絶対マズいってぇ~~っ!」
顔を真っ赤にした智樹の絶叫が空美町の空へと木霊する。
こうして智樹やニンフにとって最悪な展開が続いた1日が終わったのだった。
翌日、正午。
ニンフは智樹とアストレアと共に空美学園へとやって来た。美香子と決着を付ける為に。
そして校舎を目前にした所で案の定出て来た赤い外套の少女と対峙することになった。
「昨夜あれだけ派手に敗北したのにもう再戦にやって来た訳? やっぱり智樹って馬鹿なの? 生きている価値が見出せない大馬鹿なのね。こんなのと昔は同じ存在だったなんて恥ずかしい本当に限りよ。何でアンタなんか生まれてきたのかしら?」
智子が蔑んだ瞳で智樹を見る。
「なんだとっ、この裏切り者がぁっ!」
智樹は智子にすぐに食って掛かってしまう。怒りを少しも隠そうとしない瞳が智子に向けられている。
この2人の仲を取り持つことは今現在は不可能そうだった。そして何より今しなければならないことは美香子の打倒だった。
「デルタ、ここは任せたわよ」
アストレアを向いて頷く。
「合点承知です」
クリュサオルを構えたアストレアが智子の前へと立つ。
「そうね。こんな大ヴァカを相手にしているよりはアストレアと命を懸けて戦っている方が数億倍有意義だわ」
智子が強化した守形のブリーフを2枚構える。その瞳は鋭くなり、智樹に見せていた侮蔑のものとは大きく異なっていた。
有体に言えば戦士の瞳をしていた。
「じゃあ、ここは任せたわよ」
「お任せくださいっ!」
まだ怒りが解けていない智樹の手を引っ張りながら校舎の中へと駆けて行く。
「追わないんですか?」
「追ってどうするの? 今あたしが倒すべき獲物は目の前にいるのに」
そんなやり取りがニンフの耳に入って来た。
ニンフと智樹は校舎内を駆け上り4階の生徒会室を目指す。そこに美香子がいる筈だった。
階段の最後の踊り場を抜けて4階へと辿り着く。階段を上りきった地点で既に不穏な雰囲気がニンフ達を取り巻いていた。
「行くぞっ!」
「うんっ!」
だが、ニンフ達は立ち込める瘴気も気にせずに全速力で生徒会室へと目指し、その扉を勢い良く開いた。
「いらっしゃ~~い。待っていたわよぉ」
「智子の言う通り、本当に早々に決着をつけに現れるとはな」
室内には赤いプロレスコスチューム姿の美香子、そして普段通りの学生服姿の守形が立っていた。
「………………っ」
そしてその背後には天井から手首を縛り上げられて吊らされ眠っているウェディングドレス姿のそはらがいた。
「見月さんは次に目覚めた時には、その潜在能力の100%を発揮してくれるわ~~。イカロスちゃんをも一撃で倒せるその力をね~~」
美香子はそはらの頬に手を添えながら微笑んだ。
「でも~~見月さんがその力を存分に発揮して貰う為には~~寝ている間に桜井くん達に死んでもらった方が良いのよね~~♪」
「最初からそのつもりの癖に随分持って回った言い方をするのね」
ニンフがチョップの構えを取りながら美香子の前へと立つ。
「え~? 会長の相手はポンコツニンフちゃんなの~? ちょっとガッカリだわ~」
美香子はあからさまに大きな溜め息を吐いた。
「あんまり電子戦用エンジェロイドを舐めるんじゃないわよっ! ジャミングシステム発動っ!」
ニンフがテーブルに手を触れてプログラムを流し込む。
すると窓際に置かれていた魔界の鉢植えが異常生長し、その巨大化したツタが美香子を襲い始めた。
更にニンフが触った木製の机自体が大きく形を変えて“コ”の字の異常物質に姿を変えて同じく美香子を襲う。
「うふふふふふ~。こうでなくちゃあ~殺し合いは面白くないわよね~~♪」
美香子の胴回りを超える太いツタと彼女の身長よりも遥かに大きい変形机が生徒会長少女を襲う。だが、五月田根美香子はそんな異常事態にも全く動じていなかった。
「うふふふふふ~♪」
笑顔のまま右手を一閃。一瞬にしてツタを引き千切り、机を粉々に粉砕してしまった。
「まだまだぁ~~っ!」
ニンフは更にジャミングシステムを起動させて今度は室内のティーセットを鋭利な飛び道具と化させて美香子に襲い掛からせた。
「ニンフちゃんも最初からこれぐらい本気を出してくれていたら良かったのに~♪」
美香子が自宅から持って来た数十万円のティーセットが一瞬にして粉砕される。けれど、美香子はとても満ち足りた顔で破壊活動を続けていた。その後も椅子、本棚と美香子は笑顔で粉砕してしまった。
「うふふふふ~。会長を倒したければ~この3倍の備品は必要じゃないかしら~?」
「そう……。ならっ! 準備してあげるわよっ!」
ニンフの掛け声と共に生徒会室の扉が粉砕し、大量の机と椅子が室内へと雪崩れ込んで来た。ニンフが隣の教室の備品にジャミングシステムを発動させて呼び寄せたものだった。
「ちょっとだけ訂正~♪ 机や椅子なんか何個用意しても~~会長は倒せないわよ~~♪」
「やってみなきゃ分からないでしょうがっ! いっけぇ~~っ!!」
ニンフの合図と共に多くの備品達が一斉に美香子に襲い掛かっていく。
「これを防げたら……次は理科室の薬品、アルコール三昧にしてあげるわよ」
「うふふふふ~。それは楽しみねえ~」
ニンフと美香子の補充と粉砕という名の攻防は続く。
一方、ニンフ達の隣では智樹と守形による激しい剣戟の応酬が繰り広げられていた。
「せいやぁっ! そりゃっ! やあっ! ていっ! だぁ~っ!」
智樹は強化した2枚の女物のパンツを剣として振り回しながら守形に攻撃を加え続けていた。
そはらが手にしているのはクマと犬がプリントされたそはらのパンツ。今この場において智樹に最も力を与えてくれるパンツだった。そはらと一緒に戦える気になれるのだから。
「フム。昨日までとはまるで動きが異なるな。洗練されている。智子の動きを真似たか」
対する守形は切れ味鋭いパンツを拳で受け止めながら智樹の剣捌きを観察していた。
「そんなこと……知るかぁああああああぁっ!」
2枚のパンツを高く掲げ、守形に向かってクロスに切り付ける。守形はメガネを外してそのレンズで剣を受ける。
口では否定するものの、智樹は心の奥底では認めていた。自分の戦い方が智子の模倣であることを。
守形を巡って美香子と戦い続けて来た智子は戦闘経験において智樹を遥かに先んじる存在だった。
その智子が実戦で見せた体の動き、そして武器の使い方。智樹の参考にならない筈がなかった。例え本人が認めたがらなくても。
「なるほど。ジャミング・システムを使い間接攻撃を仕掛けられるニンフが美香子の相手をし、智子の剣術を見真似た智樹が俺を食い止める。アストレアが智子に勝利するようなことがあれば……或いはという可能性もあるな」
智樹の攻撃を紙一重でかわしながら守形は頷いてみせた。
「或いはじゃなくて、絶対に俺達が勝つんだぁああああああぁっ!」
智樹は渾身の力を込めて守形へと振り下ろした。
生徒会室では2対2により一進一退の攻防戦が続いていた。
生徒会室でニンフ対美香子、智樹対守形の激しい攻防が繰り広げられている頃、校舎前の空間ではそれよりも更に激しい攻防が繰り広げられていた。
「何でっ、何でそれだけの腕を持ちながら桜井智樹を裏切って師匠側についたんですか~~っ!」
アストレアは可変型ウィングを自在に駆使して高速で背後に回り込みながら智子をその必殺の剣で斬り付ける。
「そんなの、会長側に付いた方があたしの目的を遂げ易いからに決まっているでしょ」
だが智子は両手を逆手にクロスさせてアストレアの一撃を2枚のブリーフであっさりと受け止めてしまった。
「アストレアこそ、普段は師匠師匠ってうるさいのに、一番肝心な時に智樹側に寝返っちゃってるじゃないの」
「クゥッ!」
アストレアが怯んだ隙に智子の乱撃が襲って来る。彼女は後方に飛翔することでこれを何とかかわす。
「まあ、好きな男の為ならば、麗しき師弟愛も関係ないってね。女は自分の幸せの為に生きるのが一番だもんね」
「黙れぇええええぇっ!!」
アストレアが大声を発しながら頭に向かって撃ち付ける。
智子は今度もまた2本のブリーフでアストレアのクリュサオルを受け止めた。
「私利私欲しかない……自分のことしか考えていないアンタなんかと一緒にするなぁあああああぁっ!」
アストレアが強引に力押しで智樹の頭を割りに入る。
「あたしとアストレアでどう違うというの?」
そのただ力任せのごり押しに鼻から息を強く吐き出す余裕を見せながら智子が問い質す。
「私の幸せには……智樹に対する熱い想いがあるっ! 智樹に幸せに生きて欲しいというアイツへの想いがあるんだぁああああああぁっ!」
智子は身を反らしながら大きく後ろに向かって跳躍した。一瞬遅れてアストレアのクリュサオルが地面を引き裂いた。
「なるほど。2人分の想いの重みってやつで自分のことしか考えていないあたしとは違うと言いたい訳ね」
智子が再び2本のブリーフを構える。だが、その守形のブリーフは見るからにボロボロに成り果ててしまっていた。
「確かに今のあたしは……守形先輩への愛一筋に生きている訳じゃない。もっとつまらない、他人から見ればどうでも良いことに囚われてしまっていることは認める」
智子は守形のブリーフを地面へと捨て代わりに紺色と赤色のブルマを構え直した。
「けど、だからこそ……カードがどうしても欲しいのよ。カードさえ入手出来ればこのどうしようもなく腹立たしい矛盾を解消出来る。まさかこんな機会が訪れるなんてね」
「えっ? それって、まさか……」
アストレアの背中に寒気が走る。
「智子さん…………やっぱり貴方は敵ですね」
アストレアの瞳が赤く光った。
「アストレアにそんなことを断言されなくても、今だってこうして命を賭けて戦っているじゃないの♪」
智子は不敵な笑みを投げて返す。
「桜井智樹を排除しようとする輩は誰であろうとこの私が全力で叩き潰しますっ!!」
アストレアが背中の翼を全開にして上空へと飛翔していく。
アストレアは上空50mほどの地点まで飛び上がった所でその上昇を止めた。
アストレアには一切の飛び道具が装備されていない。
ただ一つの例外を除いて。
「チッ!」
アストレアの意図に気付いた智子が2枚のブルマを地面に捨てて、とあるモノの召喚へと入る。
「桜井智樹は私が守るっ!!!」
アストレアはその唯一にして絶対の武器を逆手に持ち、それを彼女の身長の数倍に巨大化させて──
「投射超振動光子剣(ティロ・クリュサオル)っ!!!」
己が全エネルギーを篭めて智子に向かって投げつけたのだった。
つづく
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忙しい気分も乗らないしで、進みはゆっくり。
大量にリタイアするのは来週に持ち越し。
代わりに智樹もげろなお話に。
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