No.429531

36人目の帰還【EDネタバレ注意】

あんみつさん

こういう解釈もありかなーと。
タイトルは私が今日DLしたアレの話から。
捏造設定あり。

2012-05-28 22:19:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1025   閲覧ユーザー数:1023

ナニモ、ミエナイ。

ナニモ、キコエナイ。

ナニモ、カンジナイ。

ナニモ……ナニモ…………

アノコエモ、ナニモ…………

 

[chapter:36人目の帰還]

 

不意に、ルフレは瞼の向こう側から日の光を感じた。

それに爽やかな風、土と草の香り。

そして、懐かしい声。

「――お兄ちゃん、大丈夫かな」

「駄目かもしれんな」

「そ、そんなぁ」

いつかどこかで、同じ会話を聞いたような気がした。

永く閉ざされていた瞼をルフレはゆっくりと開いてみる。

眩しいほどの陽光が、少しだけ目に痛い。

けれども、それは大きな問題にはなりはしなかった。

そんなことなどよりも、大切な半身が眠りについていた自分を覗き込んでいたから。

「クロ、ム……?」

ずっと眠っていたからなのか、ルフレの声は少しかすれていた。

しかしクロムとリズはそんなことは気にしない。

彼女が目覚めたことに気付くと

「気がついたか?」

「平気?」

リズが笑う。

その笑顔が自らに向けられること、それが妙に嬉しくて、けれど、とても苦しい。

「立てるか?」

クロムの手が差し出され、思わずルフレはその手を取った。

手袋ごしに彼の体温を感じる。

「あ……」

ルフレは思わず声をあげた。

自分の手の甲からあの忌々しい紋章が消えていたのである。

「ルフレさんが、自分で運命を変えたからだよ」

リズが言った。

けれど、ルフレは何も答えない。

「……」

「どうか、したか? ルフレ」

クロムが声をかける。

彼女は何か考え込み、静かに首を横に振った。

「違う、違うわ」

叫びと呼ぶには、あまりにも小さい声だったがルフレのそれにはどうしようもない悲痛が込められてた。

「だって、あたし……クロム、あなたを殺したもの」

 

ルフレは、完全に思いだしていた。

父と名乗る男を倒したその時、男の呪いに抗いきれず――今、目の前にいる――クロムを殺した。

そして絶望の中、嗤う父の声を聞いたのだ。

「あたしは、ギムレーになってしまったんだわ。

 深い深い絶望に押しつぶされて、責任から逃げて……絶望の竜になってしまった……!」

洪水のようにギムレーの記憶が彼女を襲う。

クロムの次に哄笑する父を殺した。

竜になった際に自分を止めようとした夫を殺した。

妻を逃がそうとする仲間を殺した。

ギムレーを信仰する教徒たちを虐殺した。

イーリスの民を踏みにじった。

フェリアの人々をなぎ払った。

ペレジアの村々を焼き払った。

ヴァルムの強大な城が簡単に消し飛んだ。

ロザンヌの農地からは生気が失われた。

ソンシンの者たちが浮かべたあの表情を忘れられるわけがない。

空は割れ、海は怒り、大地は震え、湖は枯れ果て、河は全てを押し流した。

そして、私は何故か失われた者たちとここにいる。

「ねぇ、教えて。

 ここは……天国なの? 地獄なの?

 それとも、私の夢の中?」

ルフレは、ギムレーとして異なる時空に生きていた自分の手によって死んだ。

死したことで、やっとここに還ってこられたということなのか。

しかし、クロムもリズも何も答えない。

恐らく、この沈黙が答えなのだろう。

「そう……でも、また二人に会えて嬉しいわ。

 あのね、聞いて?

 あの子たちも随分大きくなったのよ?

 成長を見守ってあげられなかったのはあたしの所為なんだけど、会わせてあげたかったな」

もう一人の自分が夫と共にギムレーとなった自分に向かってきた時、マークは悲しそうな顔をしていた。

再びあのような表情をさせてしまったのは苦しかったが、やっと自分も死ぬことができた。

「……もう一人のあたしは、あたしが勝てなかったモノに勝てるかしら」

変えられなかった自分を思い出して思わずルフレは呟く。

しかしそれにクロムは微かに笑い、こう言った。

「俺の軍師がそんな弱気でどうするんだ。

 ギムレーが倒れて運命は変わったんだろう?

 俺たちの運命も、お前の運命も。

 運命は、変わったんだ」

続いてリズも言う。

「そうだよ。

 ルフレさん、ギムレーを倒した自分を信じて。

 ……わたしたちとの絆も、信じてくれたら嬉しいな」

「二人とも…………」

どうしてこんな自分に、こんなにも優しいのだろう。

呪いに抗いきれず大切な半身を殺めてしまった自分に。

多くの幸福を壊してしまった自分に。

「ありがとう……ありがとう…………!」

謝罪し、許しを乞う資格など彼女にはない。

だからただ感謝を口にした。

その言葉にリズは黙ってルフレを抱きしめる。

「大丈夫だよ、もう独りじゃないから」

「うん」

ここが地獄でも夢でも、かまわない。

自分は独りじゃない。

絶望する必要もない。

リズの体温が心地よかった。

「……あのね、わたしたち以外のみんなもここにいるんだ。

 みんなルフレさんに会いたがってたから、早く行こう」

「うん……あたしも、早くみんなに会いたいわ」

リズがルフレの手を引く。

その時クロムは何かに気付いたのか小さく声をあげた。

「ああ……そういえば、まだ言っていなかったな」

「え?」

ルフレが首をひねると、クロムは懐かしい瞳でこう言った。

 

 

「おかえり、友よ」

 

 

 


 
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