No.427887

Black dream~黒い夢~(6)

C-maさん

PSO2「ファンタシースターオンライン2」の自分の作成したキャラクターによる二次創作小説です。
(PSO2とその世界観と自キャラが好き過ぎて妄想爆裂した結果とも言う)

1ヶ月か・・長いですよね。お陰でどんどん書き進めてしまいますよどうする(; ・`д・´)
この小説はPSO2クローズドβおよびファンブリーフィングの映像を元にした「独自解釈」のものです。ご了承下さい。(今後展開がはっきりしてきてもパラレルってことで一つよろしくおねがいしまう)

2012-05-25 13:23:31 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:909   閲覧ユーザー数:902

本来ならば、リュードには「味方を傷つけた」という規律違反で謹慎処分が下される筈だったのだが。

ダーカーの異常発生が続いていたため、それは免除された。

アフィンとリュードには二人での「ナベリウス」の継続調査の任が。

エリには一週間の休息期間が与えられた。

自室でリハビリをしているエリの手元に、ナベリウスでダーカー相手に奮闘する二人の様子が映し出されている。

逐一情報が入ってくるように、担当オペレータのブリギッタに頼み込んだのだ。

 

「相変わらずアフィン君は戦闘時に下がる癖があるわね」

『性格的に仕方ありませんよ、慎重って言ってあげてください』

 

まあ、仕方ないか。

エリは苦笑した。

 

「引き続き、モニターをお願いね。私は今から別の用件で通信できなくなるから」

『了解しました』

 

軽いランニングを終え、汗をシャワーで流しながら腹部の違和感を確かめる。

大きな絆創膏が張ってある患部にはもう殆ど違和感もない。

 

「大丈夫そうね」

 

部屋に戻り、濡れた髪を拭きながら。

ふとベッドの上に視線が止まる。

古びた衣装ケースの上に、いつもとは違う水色のロングドレスのような装備が出され。

その脇に、長く使い込まれた翼のような「法具」があった。

倉庫から装備品のリストに登録し、いつでも引き出せるようにする。

 

「これを装備する日が来るなんて思ってもみなかったわ、父さん…母さん」

 

懐かしいような、辛いような。

エリは複雑な笑みを浮かべて、そのスーツに触れる。

 

ずっとしまっておくつもりだった。

あの戦火が収まり、投棄される寸前のシップの自宅へと戻ったエリが見つけた、母親のもの。

そして、その法具は父親が愛用していたものだった。

エリの両親は生粋のフォース。

あの事件で命を落とすまで、ずっと「アークス」でフォースとして活動していたのだ。

エリのずば抜けたフォトンの力も、親譲りのもの。

 

己のクラスの変更と戦略OSの書き換えは既に昨日済ませた。

今の彼女のクラスは「フォース」。

「フォニュエール」として、彼女は今アークスに在籍している。

 

やっと、踏ん切りがついた。

怪我やチームの事も考えての、決心。

エコーにも、看護士のローラにも散々言われ続けてきた「クラスチェンジ」。

フォースになる事を決めたと伝えた時のローラの顔が、全てを物語っていた。

ここまで、自分を心配してくれていたのかと。

自分は思った以上に周りを見ていなかった。

そう思った時、今まで無駄に意地を張ってきた自分が恥ずかしくなった。

 

スーツを装備する前に、エリは何枚ものテクニックディスクを衣装ケースの中から取り出した。

それも、父親が保存していた遺品。

背中に当たる部分の「戦略OS」のディスク読み込み部に差し入れると、テクニック登録が行われた。

幾度目かの登録の後、最後の一枚にふと目が留まり。

 

「これ…今の私に使えるのかな」

 

しばらく考え込んでから、インストールを試みる。

問題なく、書き込まれていった。

 

「使う事にならなければいいけど、念のため、ね」

 

今までの「肌を露出してフォトン感応値を上げる」装備とは異なり、その防御力の無さを補うためにぴっちりと肌を覆うタイプのスーツに袖を通すと、驚くほど身体に馴染んだ。

今まで無意識に押さえ込まれていたフォトンが、整えられて自分の周りに纏わり付くような感蝕。

ローラが「フォースになったお祝いに」と用意してくれた、尖った耳のようなヘッドギアを装備する。

脳の負担を軽減してくれる、と言っていたっけ。

インターホンが鳴った。

 

『エリアルド、準備できた?』

「ええ、今行くわ」

 

部屋を出ると、そこに目を丸くしたエコーが居た。

 

「え…エリアルドよね?」

「他に誰が居るのよ」

「何なのそのフォトンレベル?!」

 

エコーには、エリがまるで「フォトンの結晶」のように見えたのだ。

ハンターの時とは雲泥の差。

驚きと共に、自分の目に狂いはなかったとエコーは笑った。

 

「実地訓練に私を呼び出すとは、流石はエリアルドだな」

「…先生!」

 

振り返ると、リュードより更に一回り年上に見える男性が立っていた。

エリは慌てて頭を下げる。

 

「すいませんオーザ先生。他にお願い出来る方がいらっしゃらなかったので…」

「構わんよ。他でもない教え子だ。たとえフォースになってもな」

「よろしくお願いします」

 

エリがアークスに成る為に、十年前に強引に師事を申し込んだのがオーザ。

当時は形振り構っていられなかった。

傷だらけになり、体力の無さを指摘されても。

それでも、オーザに付いてハンターとしての技量を学んだ。

アークスとしての生き方、考え方を教えてくれたのもオーザだった。

ゼノやエコーに出会ったのもその頃。

キャンプシップで、オーザが自分のパルチザンを装備する。

 

「さて、準備はいいか?」

「はい」

 

法具「ローザクレイン」。

引き出された法具をいとも容易く装備しているエリに、エコーが驚愕した。

 

「エリアルド、それ装備出来たの?」

「うん。おかしい?」

「当たり前でしょ?私だって法撃力が足りなくて無理なのに…なんか嫉妬しちゃうわ」

「でも立ち回りは絶対貴女の方が上手な筈だわ。色々教えてね、エコー先生」

「まあそうね。その辺は私が鍛えてあげるわ」

 

エコーがふふんと笑う。

だが、オーザが二人のやり取りを見て、エリの前に割り込むように立った。

その表情はあくまでも「師匠」のもの。

 

「遠足気分で居られたら困るぞ。いくら法撃力が高かろうが、お前のフォースとしてのレベルは最低なのだからな」

「は、はい」

 

厳しい目に、エリは背筋を正した。

オーザがキャンプシップの転送パネルを操作する。

 

「リリーパで一気に鍛える。ダーカーも出現していると聞いている。油断したら即死だ。覚悟していけ」

「はい!」

 

テレプールに、砂漠の星「リリーパ」の黄色い地表が映りこんでいた。

当然、覚悟の上だ。

そのくらい強引でなければ、私はフォースとして生きていけない。

迷わず、エリはテレプールへと飛び込んだ。

「って、ええええ!?」

 

翌日、チームの集合場所でアフィンが奇声を上げた。

エリのあまりの変貌に、呆然としている。

当然といえば当然だが。

 

「アフィン君だってフォースが欲しいって言っていたでしょ?」

「いやまあそうですけど…まさか先輩がフォースになるなんて俺…先輩のハンタースーツが好きだったのになぁ」

「何それ?」

「ななな何でもないですっ!!はいっ!」

 

幼いように見えてもそこは男子。

本音の出てしまったアフィンがばたばたと否定する様を、エリはくすくすと笑ってなだめた。

それから、リュードへと向き直る。

 

「これからは前衛は貴方一人よ。よく考えて動いて」

「判っている」

「アフィン君も、怖がらずもっと思い切り前に出て。私がちゃんとサポートするから」

「わ、わかりました」

 

少なからず、リュードも驚いていた。

俺の為、か?

そう言い掛けて彼は踏みとどまった。

まさかな。

だが何故か、彼女が矢面に立たなくなる事に安心している自分が居る。

先日ゼノに言われたからという訳では無い筈なのだが。

ヴォル・ドラゴン戦で、自分の記憶が飛ぶ寸前までやっていたような「剃刀の上を素足で歩くような戦い方」をして欲しくない。

そう思っていたからだ。

 

ロビーの脇にある、大型の遮蔽ガラスから見えるオラクルの船団。

「アークスシップ」の同型艦が視界を埋め尽くす。

エリは何気なく視線をそこへ移し。

 

「…え?」

 

目を疑った。

アフィンが思わずつられるように、窓の外へと視線を移す。

 

「どうしたんです?」

「何、あれ…」

 

何隻か離れている「アークスシップ」から、火柱が上がったように見えたのだ。

直後、けたたましくアラートが鳴り響く。

非常事態を示す赤色灯が、ロビーを一気に赤く染めた。

その場に居たアークス達がざわめく。

 

『コードD発令。コードD発令。アークスシップ4073において、ダーカーの出現を確認。アークスシップ4073において、ダーカーの出現を確認』

 

艦内に響き渡る「コードD=緊急最優先事項」の放送。

エリの全身に鳥肌が立った。

見間違いではなかった。

アークスシップにダーカー?!

アフィンの顔色が一気に青ざめた。

 

「嘘だろ…?これじゃまるで10年前の…!!」

 

そう、同じ。

十年前の事件。

思い出さない筈が無い。

エリが生まれ育ったシップがダーカーに襲われ、結果として「投棄」せざるを得なくなった事件。

 

『現在行動中のものを除く全てのミッションを凍結。4073におけるダーカー殲滅作戦が最優先される。スペースポートを4073への転送に限定。活動できるアークス各員は直ちに行動を開始せよ。繰り返す。現在行動中の…』

 

赤色灯が廻るロビーは混沌が渦巻いていた。

仲間同士で合流してポートへ飛び込むもの、単独で向かうもの。

その誰もが、この状態の「異常さ」に表情が硬くなっている。

 

「エリアルド!」

「おいおいおい、どうなってんだよこれ」

「二人とも」

 

エコーとゼノが、息を切らせて彼らの元へと走ってきた。

 

「俺たち4073へ向かうけど、お前らどうする?」

 

その時、一番最初に身を引いた者が居た。

アフィン。

真っ青な顔をして、首を振る。

 

「オレ…いやです。行きたくない」

「アフィン君?」

「何て言われても良いです、オレは行かない…あの人に会うまで…死にたくないんだ」

 

ガクガクと震え、パニックを起こしかけているようだった。

アフィンも、自分と同じように「人を探すため」にアークスになったと聞いた。

ひょっとすると彼も、10年前のあの事件に巻き込まれていた一人?

きっとこの状態に陥って、トラウマが蘇ってしまったのだろう。

エリはアフィンの前で膝を落とし、安心させるように肩へ手を置いた。

 

「大丈夫、あなたはここにいていいの」

「先輩…」

 

ぼろぼろと涙を流すアフィンを、エリはそっと抱きしめた。

震える体。

まるで、あの時の自分のよう。

ここにも、被害者が居た。

もうこれ以上、こんな人たちを増やすわけにはいかない。

複雑な表情で見守る仲間達の中、エリはアフィンの両肩を支えるように両手を添え、笑う。

あの時自分を励ましてくれた彼のように。

 

「あなたはここで、私達の帰りを待ってて」

 

アフィンは小さく、頷いた。

そのままアフィンを落ち着かせるようにベンチに座らせてから、エリは二人へと向き直る。

 

「ゼノ、エコー。私を連れて行って」

「オーケー」

「エリアルド、まだフォースに慣れてないのよ、大丈夫?」

「俺が守るから心配すんなよ」

「ちょっとゼノ、またそんな軽率な約束して」

 

昨日の強引なトレーニングで大まかな動きは把握した。

確かにまだまだ不安は残るが、そんな事を言っている場合ではない。

そこへ、リュードが割って入った。

 

「俺も行く、いや一緒に行かせてくれ」

 

エコーが驚いて向き直る。

 

「大丈夫なの?」

「またこないだみたいになるのは御免だぜ?」

「大丈夫だ」

 

ゼノがしばらく、リュードを見据えた。

そして、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「その言葉、信じるぜ?」

 

ゼノが笑ったのには理由がある。

頷いたリュードの表情が明らかに以前とは違う。

己の行動に「信念」を持っている表情。

どうやら、先日の事件がこの男の考え方を変えたらしい。

ゼノは頷いた。

 

「よし、行こう」

 

頷きあい、4人はスペースポートへと走る。

 

どうしても行かなければならない。

彼はそう感じていた。

リュードの脳裏に焼きついた断片。

自分の記憶の欠片が、行けと言っている気がする。

そこに行けば、何かを思い出すかもしれない。

それが自分を「絶望」に陥れる可能性があるとしても。

どんな「真実」が待っていても、もう逃げたくは無かった。

破壊された街。

ビル郡が崩れ落ち、到るところに火の手が上がっている。

少なからず、犠牲者の姿も見えた。

 

火柱が上がった箇所には、緊急シャッターが下りている。

辛うじて、シップの気密は保たれているようだったが。

ゼノとエコーは冷静に現状を確認していた。

 

「ひでぇな…」

「行きましょう、一人でも多く助けなきゃ」

 

記憶がフラッシュバックし、エリは一瞬躊躇したが。

それでも、気丈に走り始める。

恐怖を、責務が押し潰してくれた。

ダーカーを殲滅しつつ緊急用テレパイプを避難経路として設置、生存者を救出する。

それが任務。

側から、有象無象のダーカーがそこかしこに「湧き」はじめた。

 

「おいでなすったぞ」

「エリアルド、補助と回復をお願い。私は攻撃に専念するわ。数が多くなったら私も補助に廻るけど」

「了解、気をつけて」

「さあ行くぜ、リュードの旦那」

「ああ」

 

ゼノとリュードが、「道」を切り開き。

エコーが集団で纏わり付こうとするダーカーを纏めて殲滅する。

エリは必死に、回復と補助に集中した。

たとえ一人ずつでもと、少しでも傷を負った仲間は直ぐに回復した。

幸い「タリス」と呼ばれる投擲法具の効果で、多少離れた場所からでも補助が出来る。

しかし、どうしてもエリはその行動故に遅れがちになった。

その間に割り込むようにして、大型のダーカーが突如出現する。

彼女を捕らえようと鎌首をもたげ、一気に接近してきた。

 

「!」

 

覚えたばかりのミラージュエスケープ(回避行動)を取ろうとして。

直後にその赤いコアごと、ダーカーを真っ二つに切り裂いた者が居る。

崩れ落ちるダーカーをそのままギガッシュで弾き飛ばし、リュードが叫んだ。

 

「無事か?!」

「え、ええ。ありがとう」

殿(しんがり)は俺に任せてくれ、君はエコー君の所へ」

「了解」

 

そのまま、周りのダーカーを一掃してエリの背へと廻る。

エリはすれ違いざまに、回復を施した。

 

「ありがとう、助かる!」

「気をつけて」

 

戦うリュードの姿。

少なからず、この光景が彼にとっては「何かしらの影響」を与えている筈だが。

それ以上の「決意」があるのだろうか、剣筋に「迷い」が無くなっていた。

これなら、大丈夫。

振り返る事もせず、エリは走る。

 

幸い、大きな建物の中に取り残されていた人達は無事な事が多かった。

対処が早かったお陰もあるのだろう。

テレパイプを配置し、次々に別のシップへと避難させる。

子供、大人、老人、女性男性。

怪我をした人々に「レスタ」をかけると。

種々雑多の種族の人々が、エリに感謝の言葉を連ねた。

 

「ありがとう」

 

混乱の中、何となくエリは何故エコーが「フォース」に拘るかが判った気がした。

この言葉が聞きたいのかもしれない。

先刻リュードに感謝の言葉をかけられて、嬉しかった自分を知っている。

今目の前に居る人たちからのその言葉が一層エリを強くする。

まだ、沢山の人が助けを求めているはずだ。

エリは仲間と共に、戦場を駆け抜けた。

ふと、戦火が一時的に収まる。

 

「皆無事か?」

 

息を切らせながらもそう言ったリュードに、エコーが目を丸くした。

 

「驚いた、他人を気遣えるくらいには余裕が出てきたのね」

「おいおい、この非常時になんだよ。そんな言い方ねぇだろ?」

「それはそうだけど」

「いいさ、俺はそれだけの事をして来たんだ」

 

ゼノがエコーを嗜めると、リュードが自嘲気味に笑った。

自覚は無いようだが、間違いなく自分達に打ち解けてきている。

まあ、そのきっかけを作ったのは間違いなく彼女だろうな。

ゼノがそんな事を思った時、チーム全体を「癒しの風」が取巻いた。

 

「うお?!」

 

ゼノが驚くのも無理は無い。

少なからず消耗していたゼノやリュードの体力が、一気に回復したのだ。

ふう、と肩を下ろし、エリが構えを解いた。

 

「大丈夫?みんな」

「すっげぇな、エコーなんかとは比較になんねぇ回復力だ」

「なんかとは何よ」

 

その場で口喧嘩を始めようとする二人に、エリは苦笑する。

 

「何を言ってるのよ、今ので私のフォトンは一時的にガス欠状態だわ」

「あれ、そうなの?」

「こういうところは、全然エコーには適わないの。もっと上手な立ち回りを覚えないと」

 

実際、エコーは常に力の配分を考えながら戦っている。

自分はまだ、テクニックを唱える事で精一杯。

まだまだ、覚える事が沢山ある。

 

その時不意に、エリは背後に気配を感じて振り返った。

 

何?

誰かが、自分を呼んでいる…?

 

彼女は「フォース」になって気付いた事があった。

ダーカーの接近は前以上に感知する事が多くなったが、それ以上に。

何となく「力の流れ」を感じるようになっていたのだ。

 

ふと、視界の隅を何かが横切った。

 

…?!

 

見覚えのある姿。

ヒト?

白と赤の服を着た少女。

銀髪をなびかせて、瓦礫の間を駆け抜けていく。

 

「え…?マトイちゃん?」

「エリアルド?」

 

エコーの声も上の空に、じっとその少女の姿が消えるまで目で追っていた。

以前、リュードとアフィンが助けたと言っていた少女。

まさか、こんな所に居るはずは。

エリは通信機に手をやり、チャンネルをセットした。

 

「アークスシップ7521メディカルセンター、聞こえる?」

『こちらAS7521メディカルセンター、フィリアです。…エリアルドさんですか?』

 

慌てた様子のフィリアの声が、通信機から伝わってきた。

 

「ねえ、そこにマトイちゃんは居る?」

『それが…コードDが発令されてから姿が見えないんです。今みんなで探してるんですが…何故それを?』

 

まさかとは思ったが。

あの姿を見間違える事は無い。

何故?

 

「マトイちゃんだわ」

「え?」

「誰だ?」

 

ゼノとエコーが訝しげに見ている後ろで、リュードが驚きの表情を見せていた。

 

「あの子が居るのか?」

「ええ、さっき見かけたの。まさかこんな所にいるはずないと思って確認したんだけど…」

 

彼女の消えた方角に、巨大なドーム型の施設があった。

スフィア・アリーナ。

本来は、スポーツ競技が行われる筈の場所。

 

その瞬間、エリは何か「得体の知れない恐怖」を感じた。

大きな、何か大きな「力」を持つものがそこに居る。

そしてその力は、遙か彼方からの「道」を通ってその場所にある。

それが何故か「自分を呼んでいる」気がする。

何故、そんな事を感じてしまうのか。

 

「行くのか?」

 

気付くと、リュードが隣に立っていた。

同じようにドームを見据えているその表情の厳しさは、今までとは遥かに違うものだった。

ドームへ視線を戻し、エリは呟いた。

 

「ええ、行くわ」

「なら俺も行こう。行かなきゃならない、そんな気がする」

 

彼の記憶に関わる「何か」も、そこにあるのか。

ならば尚更、行かなければ。

そう決めた途端に、アリーナ前の広場にダーカーが沸き始める。

ぎり、と手にしたローザクレインを握り締め、エリは呟いた。

 

「ゼノ、エコー、サポートをお願い。私達はあそこへ行くわ」

「いや…それはいいけど、二人ともどうしたんだ?」

 

余りの決意の表情に、ゼノとエコーは呆然と二人を見る。

エリは首を横に振って、エコーを見据えた。

 

「お願い、今は聞かないで」

 

微動だにしないエリの決意。

エコーはその気迫に押され、頷いた。

 

「わかったわ」

「しょーがねぇな」

 

徐に、ゼノは「クレイモア」を抜き。

それをリュードの目の前の地面に突き刺した。

 

「持ってけよ」

「…え?」

 

突然の行動に、リュードは驚愕する。

自分の武器を他者に譲るこの意味を、ゼノが知らない筈はない。

 

「こいつなら、並みのダーカーなら簡単に殲滅出来る。あんたなら使いこなせるだろう」

「いや、しかし」

 

言いかけて、リュードは押し黙った。

 

お前が、エリアルドを守れ。

 

ゼノの目がそう言っていた。

リュードは黙し、己のギガッシュをゼノに渡す。

地に立つクレイモアを抜き、それを己の背へ。

 

「よーっし!いっちょ暴れるぜ!!!」

 

言うや否や、ダーカーの群れの中に飛び込んだ。

エコーも、ふっと笑みを残してゼノに続く。

 

ありがとう、二人とも。

 

黙って私達の我侭を聞いてくれたゼノとエコーには感謝してもし切れない。

エリは心の中で呟いた。

これから先は、きっと今までとは比較にならない「死地」。

後戻りは出来ないかもしれない。

それでも、行くしかないのだとはっきり自覚している。

ローザクレインを構え、エリは叫んだ。

 

「行くわよ!」

「任せろ!」

 

弾かれたように、リュードが駆け出す。

目指すは、スフィアアリーナ。

全ては、そこにある。


 
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