No.427659

ちびっこマスター! そのいち

春日美歩さん

聖杯戦争から数年後。何故か再召喚されたアーチャーの目の前には、凛と士郎にそっくりな子供とセイバーが!?

久々の投稿になります。
イラストつき小話です。よかったらお暇つぶしにどうぞ。

2012-05-24 22:41:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6158   閲覧ユーザー数:5973

-召還せいこう!-

 

 

…告げる。

 

汝の身は我が下に

 

我が命運は汝が手に

 

 

聖杯の寄る辺に従い

 

この意

 

理に叶うなら応えよ―――――!

 

 

 

神秘の呪文と共に、地下室の石畳に敷かれた魔方陣から光が溢れる。

その実体を伴うほどの力を持ったマナは、渦巻く風と共にヒトの姿を形取り……… 。

 

風と光が収まった時、魔方陣の中央には、赤い外套をまとった英霊が頭を下げた状態で跪いていた。

騎士はその姿勢のまま口を開く。

 

「問おう。汝が我が……」

「お久しぶりですっ。アーチャー!」

 

しかし、彼が契約の口上を述べ始めた時、少女のうれしげな声がそれをさえぎった 。

「?」

どこかで聞き覚えのある声に、アーチャーと呼ばれた英霊が顔を上げると、驚いたよ うに目を瞬かせる。

目の前に立っていた人物は……彼にとって、ある意味、忘れられない相手だったからだ。

「……まさか……セイバー、なのか?」

「はい!」

金の髪に碧の瞳。リボンをあしらった白いブラウスに群青のスカート姿の少女は、かつて、聖杯戦争で対峙した英霊の一人。

聖杯戦争最強のサーヴァント、セイバー。その人だったのだから。

「なぜ君が……!? 一体ここは何処なんだ。それに……」

疑問を口にしながら、アーチャーの視線は彼女の腰元に注がれる。

そこには、セイバーにしがみつくように、二人の幼子が立ってこちらを見つめていた。

 

一人は赤いワンピースに、長くて癖のある黒髪を、二つに結い上げた女の子。

もう一人は、淡いグリーンのパーカーとジーンズ姿の、赤毛を短く切りそろえた男の子。

二人とも六歳くらいだろうか。

ようやっと小学校に上がったばかりに見える年頃の、あどけない子供達だ。

その、あからさますぎるの容姿の二人に、アーチャーは一つの可能性を思い浮かべ る。

 

「ここはもしや……聖杯戦争の後の世界なのか? その二人はまさか…彼女達の 子供?」

 

「なっ…!!」

「何言ってるのよアーチャー!」

その言葉を聴いた瞬間、子供たちが目を丸くして抗議の声を上げ始める。

「私と士郎は、まだそんなじゃないんだからね!!!」

「俺と遠坂はまだそんなんじゃないぞ!!!」

喰いかからん勢いで言い返してきた子供達に、アーチャーがあっけにとられると、その二人をセイバーが引き剥がした。

「二人共大人しくしてください! 説明できませんっ」

背後から両手で身体を抱え込むように止められて、二人はしぶしぶとだが静かに なる。

そんな二人にセイバーは、なんとも複雑な表情でため息をつき、アーチャーの顔を 見た。

 

「実は…………この二人は、本物のシロウと凛なのです」

「………は?」

 

今、一体なんとイイマシタカ?

 

 

 

 

 

改めてセイバーが説明するには、今は、あの戦いから二年余りが過ぎた梅雨の最中らしい。

 

凛、士郎。セイバーの三人は、今はロンドンで暮らしているが、一週間ほど前、夏 期休暇で日本に戻ってきたのだと言う。

そして凛と士郎は、それぞれの自宅の掃除やら留守中に溜まっていた仕事を片付 けながら、なにやら新しい魔術の構成を研究していたそうだ。

 

「……で、昨夜その実験をしていたんだけど、ちょっとだけ手違いがあったみたいで」

「そんな姿になってしまった。と」

凛が最後に呟くと、アーチャーは納得したようにうなずいた。

今の彼女は本当に小さな子供だ。立って並ぶと、彼女の頭はアーチャーの腰元までしか届かない。

か細い手足も形の良い頭も、愛らしい人形のようだが、その強い意志によって輝く青い瞳は、間違いなく遠坂凛だ。

アーチャーは、荒唐無稽に思える事情を、有り得ないと断じることはしなかった。

いつの事かは覚えていないし、座にある自身の記録にも残ってないが、生前刻み込まれた経験が、強く肯定していたからだ。

 

 

――彼女ならやりかねない。と。

 

 

「………君が凛で、そっちのが衛宮士郎なのは理解した」

そう言うとアーチャーは、理解は出来たが状況に痛む額に手を当てて、ため息をつ く。

「それで、二人で何をしようとしていたのだ?」

「……………………」

「……………………」

凛と士郎は言いたくないのか、うつむき加減に互いの目を合わせて黙り込む。

「昨日からずっとこうなのです。魔術の内容に関しては、一言も」

セイバーも、困り果てたように呟いた。

そんな様子にアーチャーは、目を細めて二人を見る。

「ふむ……セイバーにすら言えない様な、バカバカしいことをしていたという事か」

「そ、そういうわけじゃ……」

もごもごと口ごもる凛に、士郎がキッとアーチャーをにらみつける。

「遠坂が悪いんじゃない!俺が……っ」

「衛宮士郎。貴様がやったのか」

 

険悪な雰囲気が石造りの地下室に流れだす。

 

 

 

が。

 

 

 

 

ぐう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。

 

 

 

 

 

「う」

「あ」

「むむむ…」

 

何処からともなく響き渡った三重奏に、あはは…と気まずそうにおなかを押さえて 苦笑いする、アーチャー以外の三人組。

その様子にアーチャーは、すっかり毒気を抜かれた顔でため息をつくと、身体を翻し て地上に続く階段に足を向けた。

「アーチャー?」

思わず凛が声を掛けると、アーチャーはやれやれといった表情で振り返る。

「二人共その姿では、料理も作れ無いのだろう?」

セイバーを初めから数に入れていない辺り。さすがというべきか。

「私が何か作ろう。話はそれからだ」

そしてさっさと地下室を出て行ってしまったサーヴァントに、三人は思わず目を見合わせた。

 

アーチャーは廊下を歩きながら、三人があわてて追いかけてくる足音を聞いていた が、ふと素朴な疑問に口が開く。

 

「……そういえば、私のマスターは誰なんだ??」

 

 

つづく。


 
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