Scene5:通学路上 AM08:25
「わー、おはなおはなー」
「きのうのぽけもんがねー」
「はーい、みんなー。お歌を歌いましょうねー」
「あー、じんじゃー!」
「ちがうよー、めたもんだよー」
「おとなしく歌わんかーい!」
冬厳寺幼稚園の、随分型遅れになった通園バスの中。
やんちゃな盛りの園児達はいつもの如く大騒ぎで。
本日の通園担当の秋山先生(23)は、おもちゃ箱をひっくり返したような大混乱を歌で何とかしようと言う空しい試みを早々に放棄することにした。
「ほんっと、無駄に元気よねー、こいつら……」
やさぐれた様子でどっかと補助席に座ると、ため息を吐く。煙草を吸おうと胸元のポケットに手を伸ばそうとして……度重なる洗濯で色あせたエプロンに触れ、ここが通園バスの中だと気が付いて手を戻す。
勤め先を定年退職後このバスの運転手を勤めている矢木沢さんは、自分の孫とさほど歳の変わらない先生(元ヤン疑惑有り)のそんな様子を横目で見ながら苦笑する。
秋山先生としてはそれがちょっと気恥ずかしくて、思わず視線を逸らすように窓の外を見る。
……と。
横道から現れた巨大なダンプカーがバスの両脇を封鎖していた。
「え?ナニコレ?」
「せんせー、だんぷだよー、だんぷー」
「ちょ、やめなさい!ほら、危ないから!」
この辺りでは滅多に見ないいかついデザインの大型ダンプに、大はしゃぎで窓から手を伸ばして触ろうとする子供を押さえつける。
「え?なんでダンプ?え?え?」
じたばたするアキラ君を力ずくで押さえつつも頭の中は大混乱。
子供が沢山乗っている通学通園バスは、下手に事故でも起こせば大変なことになる。普通のダンプなどにとっては危険物の塊も同然、当然こちらとしてもうっかり大型車の事故になんか巻き込まれたくないから、大抵はお互いなるべく距離を開けて運行するものなのだが……
通園バスの数倍はありそうなダンプが。
それも両側から露骨に幅寄せしてくるとは。
少しずつ近づいてくる、鈍く黒光りするダンプの車体を呆然と見つめる秋山先生の耳に、矢木沢さんの忌々しげな舌打ちが聞こえた。
いつの間にか同型のダンプが更に2台現れて、前と後ろを塞ごうとしていた。
両脇のダンプ同様、ゆっくりと車間距離を詰めてくる。
――囲まれた?
秋山先生の背中を冷たい汗が流れる。
いらだたしげにクラクションを鳴らす運転手。
子供達も異変に気が付いたのか、騒ぐのをやめて不安げに辺りを見回す。
ダンプは距離を開けるどころかさらに詰めてきて……
周囲のダンプがブレーキランプを点滅させる。
じわじわと。
じわじわと減速させられて……
ついに、止まった。
ダンプからぞろぞろと飛び降りてきたのは、黒地に骸骨を模した白い模様の全身タイツを着た男達。
最近ケーブルテレビで見慣れた「ダルク=マグナ」の戦闘員だ。
「イーッ」と叫ぶと、手でドアを開けるように指示しているようだ。
運転手の矢木沢さんがこちらに「どうします?」と目配せをする。
「開けてください……」
怯える子供達をかばうように立ちながら、頷く。
下手に逆らえば、バスごとどうにかされるかも知れない。従う他はない、と思った。
矢木沢さんはしばらく躊躇った後、開閉レバーを操作する。
ぷしゅーっという空気弁の音と共にドアが開く。
戦闘員の一人がドアを押さえると、素早く乗り込んで来た数名が、通路の数カ所に立つ。
先生と園児達はそれに押されるようにバスの後方に固められた。
――武器は持っていないようね。
と、変に冷静な判断が働く。とはいえ、多勢に無勢、下手に抵抗すれば園児に危害が及びかねない。
矢木沢さんも同じように判断したらしく、下手な抵抗は諦め戦闘員の示すままに運転席から降りると、助手席側に縛り付けられた。
子供達は突然の展開にまだ判断が追いついてないのか、凍ったように固まっている。
相手を刺激しようものなら何をされるか分からない。下手にパニックを起こされるよりはいい。
――おねがい、泣かないで!
と強く念じながら、子供達を抱えるようにうずくまり、目をかたくつむる。
と、そこへ、
「けーっけっけ、このバスは我々『ダルク=マグナ』が乗っ取ったでやんすー!みんなおとなしくして、我々の言うことを聞くでやんすー!」
その場に不釣り合いな――いや、この非常識な状況には返ってお似合いなのだろうか?――脳天気な高笑いが浴びせかけられる。
思わず目を開いて声の主を見ると、やけに凹凸のはっきりしたボディに、牙や骨を模したビキニアーマー。
腰に手を当てて高笑いしているのは、レミィであった。
<Aパート終了ここでCM>
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