No.424709 真・恋姫†夢想 魏√ 桂花EDアフター その十 そして・・・2012-05-18 21:58:44 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:8685 閲覧ユーザー数:7086 |
「おかえりなさい、一刀。そしていらっしゃい、桂花さん」
「うん。ただいま、
「はい。ありがとう御座います、燐華さん」
たおやかな笑顔で鹿児島空港に降り立った私と一刀を出迎えてくれたのは、以前に見た着物姿ではなく、とてもラフな格好で真っ赤なスポーツカーをその背にした一刀の祖母である北郷燐華さん、その人だった。
「でも珍しいね、祖母ちゃんが車を運転して俺達を迎えに来るなんて」
「そうなの?」
「ああ。俺も今まで、数回しか見たこと無かったよ。……バイクで走ってる方のイメージしかない」
「へえ、燐華さん、バイクも乗れるんですか?」
「ええ、勿論。あの仔…
「……馬とバイクは全く違うと思うんだけど……」
ちなみに“烏騅”って言うのは、項羽の愛馬として史書にも出てくる、有名な馬の名前。史実において、項羽が死を覚悟したその際烏騅だけでも逃がそうとして船で長江を先に渡らせた…んだけど、結局、烏騅は項羽の下を離れるのを嫌がり、主の元へ戻ろうと河へと飛び込み、そしてそのまま力尽きてしまった。そんな逸話が残されている、名馬中の名馬だ。
「ちなみに、あの外史での烏騅はどうしたんですか?……やっぱり正史と同じように」
「いいえ。あの仔なら天寿を全うしたわ。……貂蝉、胡蝶が気を使って連れてきてくれた、“こちらの世界”で、ね」
「へえ。良い所あるじゃないか、胡蝶さん」
「うん。やっぱり、とってもいい人ね。……
『あ、あはは……』
私の最後の呟きに、揃って乾いた笑いを零す、一刀と燐華さん。その笑った顔はとてもそっくりで、やっぱり祖母と孫なんだなあ、と。そんな風に、その時改めて私は思っていた。
……そう。
そこにある、揺るがし難い一つの事実から、あえてその目を背けるかのように、ころころと笑いあう祖母と孫の、その屈託の無い笑顔に混じって。
「そういや、
「すけちゃんなら、今は稽古場の方に居るから、直に戻ってくるわよ。さて、それじゃあ一刀、桂花さん」
燐華さんの運転するスポーツカーで、一刀の実家に着いた私達は、現在、茶の間の囲炉裏を挟んで燐華さんと相対している。囲炉裏にかけられた鍋からはとても良い匂いがしていて、私たちの食欲を良い感じで刺激してくれている。
《ぐうう~》
『……ぁ』
「うふふふ。……二人とも空腹みたいだけど、ご飯はもう少し、私のお話が終るまで我慢して頂戴ね。……さて、魅子から連絡は貰っているけど、二人とも、本当に、それで良いのね?」
「ああ」
「……はい」
そんな依頼を、左慈、于吉と同じ管理者である、貂蝉こと西園寺胡蝶さんのお師匠さん、卑弥呼こと高千穂魅子さんから受けた私と一刀は、その魅子さんの言に従い、こうして鹿児島までやって来た。その目的は、今、私達の目の前に居る、かつて西楚の覇王、項羽という名で呼ばれていた燐華さんから、とある事を教えてもらうため、というものだ。
「あの二人が、何時、外史の記憶のリセットを行なうか、それはまだ分からないわ。もしかしたら、もう既に行なっているのかも知れないけど、少なくとも、秦代末期のあの時代までは、巻き戻されていない、そのことは確かよ。もし既にそれが行なわれていれば、私も、今ここには存在していない筈ですからね」
そう。
私も燐華さんも、元々あの世界の住人だった、人間だ。私については、魅子さんが譲ってくれたこの“
けど、燐華さんは違う。
もし、あの世界の巻き戻しが、かつて彼女が居た時代よりももっと前に戻されてしまっていれば、北郷燐華という人物は、この正史の世界から居なくなってしまっている筈。だから、まだここにこうして燐華さんが存在する以上、まだ巻き戻しが行なわれていない、もしくは、何らかの理由でそこまで巻き戻されていない、ということになるわけだ。
「さて、それじゃあそろそろ本題に入るけど。……一刀」
「あ、うん」
「……魅子、いえ、卑弥呼からは“あれ”について、どう聞いているかしら?」
「どう、って。ただ単に、祖母ちゃんから受け取るようにってだけしか、俺達は何も聞かされていないよ。“草薙の剣”を、さ」
八咫鏡。八尺瓊勾玉。そして、草薙の剣。
これら三つを総じて、三種の神器、と呼ばれているわけで。私と一刀は、その三種の神器の最後の一つである神剣を、この燐華さんから譲ってもらうように、魅子さんに言われてやって来た。それが、今回の鹿児島訪問、その目的の一つなのだ。
もっとも、何故、項羽こと燐華さんが、その、件の剣を持っているのかは、魅子さんも胡蝶さんも、教えてはくれなかったけど。
「そう。……なら、まずはこれをはっきり言って置かないとね。……草薙の剣、それは、“剣にして剣にあらず、剣にあらずして剣にある”……ということをね」
「?……えと、祖母ちゃん?それって、どういう……」
「端的に言えば、草薙の剣と言う名の剣は、この世に存在しない。けど、草薙の剣は確かにこの世に存在する、ってことよ」
『……は?』
えと。
草薙の剣はこの世に無い。けど、草薙の剣はこの世に存在する。
……どういうことだろう?
元曹魏の筆頭軍師として、数々の舌戦やら弁論やらをこなした私だったけど、燐華さんのこの謎かけめいた言葉を理解する事は、さすがの私にもすぐには出来なかった。そしてそれは一刀も同じだったらしく、その首をかしげて燐華さんの言葉を何度も、その口で小さく反芻していた。
「……もしかして、この正史の世界には無い、けど、外史の世界の何処かにはある……そういう意味とか?」
「はい、外れ」
「う。い、今のが外れなら、もう、後はとんと見当がつかないよ。……桂花は?」
「……剣にして剣にあらず……剣にあらずして剣にあり……あ。もしかして」
ぱっ、と。私の頭に浮かんだ、先の燐華さんの言葉に対する、一つの、可能性。至極、単純明快な、発想に柔軟性のある者なら、ちょっと、考えを逆転させる、それだけで浮かべるであろう、その答え。
「もしかして、“草薙の剣”って言うのは、“剣の形”をしていない。別の形、もしくは存在として、この世界の何処かにあるっていうことじゃあ」
「いや、そんな。まさか、そこまで単純な」
「……ふふ。さすが、荀文若。かつての我が軍師であった
「……本当に、それが正解なのか、祖母ちゃん」
「ええ。……そして、草薙の剣、それの今の在処は」
『在処は?』
「一刀。貴方のその“中”、よ」
【???】
「どういうことだ、于吉」
「……どうもこうも無いですよ。ただ、“鏡”の力が、私の想像以上に失われていた。それだけですよ、左慈」
石造りの壁と床に囲まれたその、室内と言うには余りに広い空間において、白く長いコートのようなものを羽織った二人の人物が、一人は驚愕、一人は勤めて冷静な、そんな表情で、つい今しがたまで眩いばかりの光を放っていた一枚の銅鏡、それを見つめながら忌々しげな感情の篭った言葉を交わしていた。
「くそっ!これじゃあ、あの“女”を復活させるという、俺達の目的が達成できないじゃあないかっ!そしてそれが叶わない以上、俺は」
「まあ、落ち着いてください、左慈。たしかに、当初の目的だった、あの女の封印される寸前、すなわち秦代の末期まで戻すことは出来ませんでしたが、まだまだ、私達は運に見放されては居ませんよ」
「……どういう意味だ?」
青年風の容姿をした、白いコート、いわゆる道士や方士と呼ばれる類の者達が身に纏う衣装を着た、かなり血気盛んそうなその人物こと、左慈が、その相方であるもう一人の人物、眼鏡に長髪の道士服姿をした、于吉と言う名の人物の言葉に、怪訝そうな顔でその真意を尋ねる。
「簡単なことですよ。巻き戻しが成功した時代は、例の外史が三つの分岐を起こす、その寸前のあたりです。つまり、この“鏡”に力を蓄えさせられる、その絶好のチャンスである“乱世”が、もう一度この外史にて行なわれるわけです」
「……そういうことか。つまり、俺達はただあと少しの間待っているだけでいい。そういうことなんだな?」
「そういうことですよ。……ただ、一つだけ問題と言うか、厄介な事はありえますでしょうがね」
「まさか……奴か?肯定派の連中が、奴を再び、この外史に送り込んでくるというのか?」
「……その可能性は高いですね」
「ならば、それはそれで好都合だ!今度こそ奴を」
「駄目ですよ、左慈。彼を…北郷一刀を殺しては」
「なんだとっ!」
北郷一刀を殺すな。それは、左慈にとって、己の存在意義そのものを否定されたのと、ほぼ同義の言葉だった。左慈はそれを発した相方、于吉のその胸倉を思わず掴み、彼の顔を凄まじいまでの怒りの篭った形相で睨みつける。
「……おそらく、肯定派が、貂蝉と卑弥呼が送り込んでくるのは、“正史の世界”の北郷一刀、その本人でしょう。左慈、貴方も知っているでしょう?我々管理者は、その属する所が肯定派であろうが否定派であろうが、けして、正史の人間だけは害する事は」
「くっ……!」
「まあ、焦らない事です。鏡が再び力を取り戻し、そして、再び巻き戻しを起こせるその時になれば、貴方の望みも叶きっと叶いますよ」
「ふん。だと良いんだがな」
掴んでいた于吉の胸倉から無造作にその手を振りほどき、左慈はその彼から背を向ける。
「ふふ。本当に、貴方は彼にご執心ですねえ。まったく、妬けちゃいますよ、左慈」
「黙れ。殺すぞ」
「おやおや。それは嬉しいですねえ。左慈の手にかかって死ねるなら、私も本望という物ですよ。ああ、それもまた殺し文句って奴に入るんですかねえ」
「知るか」
【桂花視点】
草薙の剣は一刀の“中”にある。
と、燐華さんがそう言ったとき、私と一刀はただ呆然と、正座したままの姿で固まった。燐華さんの目は真っ直ぐに私と一刀に向けられており、その瞳には一点の曇りも無い。
「え……と。祖母ちゃん?それって、一体どう言う意味……なんだ?」
「文字通りですよ。……草薙の剣は、他の神器の様に、物質としてこの世に存在する物ではないの。草薙の剣、その本来の名は“
「元々の、恵……」
「そう。そして、“剣”とは“力”の象徴でもあります。つまり、これらの意味するところは」
「……一刀には、元々、生まれ持った何かしらの才能がある……と、いうことですか?」
「そ。そしてその才とは、剣という字に象徴される通り、“武”の素養、です」
一刀に眠る武の素養。それが、草薙の剣こと天叢雲の剣、そのものだと。燐華さんは何処か悲しげな色を湛えたその瞳で、自分の孫に眠るその
なるほど、言われて見れば、納得できない話でもなかった。
実際、あっちの世界に居た頃、始めの内はともかく、戦も終盤に近づく頃には、一刀は春蘭や霞なんかの豪傑の攻撃を、それなりには見切れるようにはなっていた。もちろん、春蘭達だって本気では…多分なかったと思うけど、それでも、わずか数年でその域に達したのには、そういう素養が一刀にあったのだと考えれば、合点がいくというものだ。
「私も、
隔世遺伝っていうのは、親から子へ直接ではなく、近場では祖父母から孫、遠ければ祖先から子孫へと、いくらかの代を経て受け継がれる、そんな遺伝情報のことだ。草薙の剣こと天叢雲の剣は、元々一刀の祖母である燐華さんの中にあったものだったけれど、それが彼女の孫として生まれた一刀に受け継がれ、今も、その力を徐々にではあるが解放しつつ眠っているのだそうだ。
「……本当なら、お前の中のそれを完全に目覚めさせてから、あちらに送り出したかったのだが、いかに向こうとこちらの時間の流れが違うとは言え、あまり日数を裂くのは得策ではないしの」
「っ!祖父ちゃん」
「おじい様」
ひょい、と。会話の途中に割って入ってきたのは、その手に何か棒状の包みを持った、一刀の祖父である北郷
「話は全て済んだか、燐華?」
「ええ、すけちゃん。あとは」
「うむ。わしから二人に、餞別を贈るだけだな。まずは一刀……ほれ」
「っと」
ぽん、と。おじい様がその手に持っていた包みを軽く一刀に投げて渡し、一刀はそれを両手でしっかりと受け止めた。
「わしが向こうで使って居った、当時、戦地に赴く際に持っていた軍からの支給品だったものを、向こうで鍛え直したものじゃ。特に銘は無いが、持って行け」
「祖父ちゃん……さんきゅ」
「桂花嬢ちゃんには、これじゃ」
「これは?」
お祖父さまが懐から出し、私に渡してくれたのは、一つのUSBメモリだった。
「それの中には、古今東西、あらゆる時代の史書や戦術書、戦略書がすべて入っておる。その、嬢ちゃんが胸にかけている八尺瓊勾玉には、そういった機器を差し込むコネクタがある筈。それに挿せば、中空にホロスクリーンとして、その内容が表示されるようになって居るはずじゃ」
「……ちょっと待て。八尺瓊勾玉って、確かかなり大昔の遺物の筈だろ?!なのに、なんでそんな、USBを挿すコネクタなんかがあって、しかもホロスクリーンって、要はホログラフみたいなもんだろ?なんでそんな、現代でも出来て居ないことが、過去の遺物に出来るんだよ!?」
「んなもん、わしは知らん。ただ単に、以前、それを貰った時に卑弥呼の奴からそう教わっただけじゃ。その時は奴も、『オーパーツへのツッコミはするだけ無駄じゃぞ』と、そう言っておったしな」
「……なんか、頭痛くなって来た……」
ご都合主義にも程があるだろ、と。そう頭を抱えて呟く彼の隣で、私は私で、違う事をその脳の片隅で考えてました。
(……この世界って、本当に、“正史の世界”、なのかな……)
と。
でも、そんなことは、私にとっては瑣末な事に過ぎない。だって、私は今、一刀のすぐ傍に居られて、そして、ずっと、何があっても
そして、それから三日後。
「では二人とも、これから“扉”を開くが、覚悟と心構えは、もう出来て居るか?」
『……』
こく、と。無言のまま、卑弥呼の姿になった魅子さんの、その言葉に力強く頷く私と一刀。ついに、私と一刀があの外史へと渡る、その日がやってきた。おじい様と燐華さんと、そして、何故だか管理者の姿になっている貂蝉と卑弥呼が、私たちへと八対の目を向けている。
「あの外史が、現時点でどれほど巻き戻されいるかは、向こうに行ってみなければ分からん。そして、これも言っておくが、大陸の、何処の場所に出るかは、こちらでは任意に決めることは出来ん。管理局の本局から直接、外史に渡るのであれば話は別じゃが、普通の人間を管理局に入れることは出来んのでな」
「分かった。……そうだ祖父ちゃん、最後に一つだけ、頼まれてくれないか?」
「ん?なんじゃ」
「留学中のアイツが帰って来たら、俺のこと、それなりに伝えておいてくれないか?」
「……分かった」
留学中のアイツ?……あ、そういえば、確か前に、一刀には妹が一人、居るって言っていたっけ。その子が帰って来たら、私のことも紹介してくれる、そう言っていたっけ。……そっか、これでもう、未来の妹には会えないのか……ちょっと残念。一度位、お義姉さんて、呼ばれてみたかったなあ。
「一刀。桂花さん。身体にはどうか、気をつけて。無理はしても、無茶はしたら駄目ですからね?」
「無謀と勇気も履き違えるな、でしょ?分かってるよ、祖母ちゃん」
「あ、それからご主人様?後で、私達の仲間が一人、ソッチの世界でご主人様と合流する手筈になってるわ。私と卑弥呼は他にやることがあるけど、何かあったら、その子に相談して頂戴な」
「仲間、ねえ……あのさ、やっぱソイツも、漢女とかっていう」
「いいや。そやつは漢女ではない。まあ、会えば分かる」
……なんだか、卑弥呼にしても貂蝉にしても、妙に歯切れが悪いわね。……あ、私もなんか、嫌な予感がして来た。とりあえず、今の内に祈っておこ。予想通りのアイツが来ません様に、と。
「……では、名残惜しいが、そろそろ……」
「ああ。……それじゃあ、祖父ちゃん、祖母ちゃん、行って来るよ」
「ああ、行って来い。どうせなら、項羽の孫らしく、おまえ自身で大陸を統一でもして来い」
「もう、すけちゃんてば。……一刀、桂花さん、行ってらっしゃい。桂花さん、孫の事、宜しく頼むわね?がっちりしっかり、手綱を握って離しちゃあ駄目よ?」
「はい!そりゃあもう!前にも増して!」
「……あ、あははは……」
卑弥呼の持った鏡が、静かにその輝きを増して行き、そして、さらにその輝きは私と一刀を巻きこむほどに大きく、そして強くなっていく。
ぎゅっ、と。
私は知らないうちに、隣に立つ一刀の服の、その袖を強く握り締めていた。それを察した一刀は、私のその手にそっと自らの手を重ね、こう、耳元に囁きかけてくれた。
「……大丈夫。何処に居ても、どんな時でも、俺はもう、桂花の傍を離れないから」
彼の言葉に、私の心は現金にも、それまでの不安な気持ちをあっという間に吹き払っていた。そうだ。私も、もう、二度と彼の傍を離れない。
たとえ、あの世界で、華琳さまや他の皆と戦う事になったとしても、私は、若文桂花となった荀文若は、彼の、北郷一刀のためだけに、この持てる全ての知を尽くす。そう、決めたのだから。
ぱりーん、と。
鏡の割れる、そんな音が聞こえた。
私達は、還る。
これから、あの懐かしい、外史の世界に。
私達は行く。
今度こそ、本当の平穏を、この手に掴むために。
そして。
白く、眩いばかりの光が、世界を、包み込んだ――――――――――――。
真・恋姫†夢想 魏√桂花EDアフター
~了~
……………………………………
真・恋姫†夢想 夢演義 再演~胡蝶の夢~
coming soon……
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