No.424493

【南の島の雪女】琉菓五勇士チンスゴー(5)

川木光孝さん

【前回までのあらすじ】
面接を受け、晴れて(?)チンスゴーの新メンバーになった白雪。
公園で事件が発生したとの連絡があり、チンスゴーたちとともに公園へ向かおうとするが…

2012-05-18 05:58:51 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:409   閲覧ユーザー数:409

【階段の悲劇】

 

プレーン

「チンスゴー、出動だ!」

 

ハイビスカス、モズク、ゴーヤー、パイン

「了解! 行ってきます!」

 

パイン、ゴーヤー、モズク、ハイビスカスの順に、

颯爽と、風乃の部屋から続々と外に出て行く。

 

プレーン

「ホワイト、俺たちも急ぐぞ」

 

白雪

「うむ」

 

プレーンと白雪も、勢いよく、風乃の部屋から飛び出し、廊下へと出る。

そして、1階へと続く階段へ。

 

階段には、他のチンスゴーたちが、1階へ下りていく姿が見える。

 

そのとき。

 

プレーン

「うっ!?」

 

プレーンは、急ごうとするあまり、足がもつれた。

バランスを崩す。

床に、ころびそうだ。

チンスコウが床に勢いよくぶつかるとどうなるか、プレーンはよく知っていた。

 

粉々になりたくない。

プレーンは何かにつかまろうと必死になり、

手をのばす。

その手は。

階段を下りようとする、ハイビスカスの背中に触れた。

正確には、背中を押した。

 

突然背中を押されたハイビスカスは「きゃっ!?」という声をあげ、

バランスを崩す。

 

焼き菓子であるチンスコウが、階段から落ちるとどうなるか、ハイビスカスはよく知っていた。

粉々になりたくない。

ハイビスカスは何かにつかまろうと必死になり、

手をのばす。

その手は。

 

そのあとのことは、すぐに想像つくだろう。

 

ハイビスカスは、モズクの背中を押し、

モズクは、ゴーヤーの背中を(略)

ゴーヤーは、パインの(略)

 

大音響を立てて、チンスゴー4人は、階段を落ち、

チンスコウでできたそのボディはくだけちり、肉塊となった。

そして階段の下は、肉塊で埋め尽くされてしまう。

 

ただのチンスコウのカケラと化した4人は、ぴくりとも動かない。

なんとかバランスを持ち直した、チンスゴー・プレーンだけが生き残っていた。

 

プレーン

「くそっ…あんなところで足がもつれるなんて!

 ヤナムンの術だな!

 おのれ、ヤナムンめ!

 俺の仲間をよくも…!」

 

白雪

「どう見てもお前のせい」

 

 

【悲劇の後始末】

 

大惨事だ。

 

階段の下には、ピンク、緑、黒、黄色、と色とりどりの大小のカケラが、ごちゃまぜになって、ちらばっている。

色鉛筆セットを地面にぶちまけて、粉々に踏み砕いたら、こうなるのだろうか。

 

特にハイビスカス(ピンク)のカケラなんて、遠目に見れば、肉のようにも見えてしまう。

 

母親

「あらあら、困ったわねぇ…。

 こんなに散らかして。掃除しなきゃ」

 

白雪

「お義母さん、とても冷静だな…」

 

母親

「風乃、すぐに掃除しましょ。

 放っておくと、アリさんたちが集まっちゃう」

 

風乃

「うん」

 

母親

「大きめのカケラは、トングでつかんでバケツに入れて。

 細かいカケラは、掃除機で、なんとかしようね」

 

白雪

「俺も手伝うよ、お義母さん」

 

母親

「だめよ。

 白雪は、早く仕事に行きなさい。

 せっかく就職したんだから、遅刻しちゃだめよ」

 

白雪

「いや、だから、就職してないって」

 

 

【年齢と体重を大公開】

 

プレーン

「…やむを得ん。

 ホワイト。俺たちだけで出動するぞ」

 

白雪

「バラバラになった他の4人はどうする」

 

プレーン

「お菓子工房に連絡して、再生産してもらう」

 

白雪

「再生産って…」

 

再生産。

チンスゴーはチンスコウであり、

人間による製造物であると、気づかされてしまう言葉だった。

 

プレーン

「急ぐぞ!」

 

ふたたび、階段を下りようとするプレーン。

 

白雪

「待て。お前、体重は何キロだ」

 

プレーン

「何でこんなときに体重を訊く」

 

白雪

「いいから教えろ」

 

プレーン

「俺の体重はな…」

 

プレーンは自分の体重をつげる。

小学校低学年くらいの体重だった。

 

白雪

「なるほど。

 じゃあ大丈夫だな。

 おい、少し手を貸せ」

 

プレーン

「お、おい! 何を…」

 

突然、白雪に手をつかまれるプレーン。

 

白雪

「また階段から落ちて、粉々になったらたまらん。

 俺ひとりで、トラブル解決しろってか?

 そりゃないだろう。

 俺が抱っこしてやるから、階段を下りるのはやめろ」

 

プレーン

「抱っこなんて、恥ずかしいからやめてくれ!

 俺は、二十歳なんだ!」

 

白雪

「…え? 年齢あったの?」

 

衝撃の事実を聞かされ、あぜんとする白雪。

 

 

【階段の悲劇を繰り返してはならない、ので】

 

なんだかんだで白雪に言いくるめられ、

プレーンは、白雪にかつがれ、階段を下りることになった。

 

プレーン

「抱っこしていいとは言ったが、お姫様だっこはやめてくれ」

 

プレーンは赤面する。

 

今、プレーンは白雪にお姫様抱っこをされていた。

誰にもこんなことをされたことがないし、かっこいいといえない

担がれ方に、少し、恥ずかしさをおぼえる。

 

白雪

「はっはっは、照れるな!

 しかし、お前、いいにおいがするな。

 おいしそうだ」

 

白雪は、鼻をくんくんとさせる。

プレーンから焼き菓子のようないい匂いを感じた。

 

プレーン

「おい、お菓子を食べるのはトラブルを解決したあとだ!」

 

身の危険を感じたプレーンは、あわてて白雪を止める。

 

白雪

「わかってるとも」

 

こうして、白雪はプレーンをお姫様だっこしたまま、階段を下りていくのだった。

 

 

【公園にて】

 

プレーン

「公園の広場は、みんなのものだから。な?

 ケンカはだめだぞー」

 

公園のトラブルと聞いて、急いでかけつけてみれば、何のことはない。

ただの子供同士の遊び場争いだった。

 

「だってあいつらが…」

 

「オレたちが先にここで遊んでいたんだっ!」

 

「僕たちが先だ!」

 

「いいや、オレたちだ!」

 

「僕!」

 

「オレ!」

 

風乃

「いいえ、私が先よ!」

 

いないはずの風乃が、子供たちにまじって、遊び場の領有権を主張しだした。

 

白雪

「遊ぶんじゃないっ!」

 

風乃の頭のたんこぶは、順調に増えていった。

 

 

【なぜ風乃がここにいる】

 

風乃

「痛いなあ、もう。そんなに殴らないでよ」

 

白雪

「だいたい、なぜお前がここにいる!

 お義母さんの掃除を手伝っていたのではないのか!」

 

風乃

「お母さんに、言われたんだ。

 『白雪の初仕事がちゃんとうまくいくか心配だから見てきて』って。

 だから、見に来たんだよ」

 

白雪

「はじめてのおつかいかよ…。

 俺なら大丈夫だ。

 さっさと帰れ」

 

風乃

「やだっ!

 私も、チンスゴーとしてがんばるよ!

 お菓子ほしいんだもん!」

 

子供のように駄々をこねる風乃。

 

白雪

「お菓子ほしいだと!

 お菓子はぜ~んぶ俺のものだ!

 お前にはわたさん!」

 

風乃

「ひとり占めはずるいよ、白雪!

 お菓子いっぱい、私も食べたい!」

 

白雪

「いいや、お菓子は俺のものだ!」

 

風乃

「私のものだよ!」

 

白雪

「俺んだ!」

 

ここでも、子供のケンカが始まろうとしていた。

 

 

【説得】

 

プレーン

「ホワイト。協力してくれ」

 

白雪

「…ああ、わかったよ」

 

なんで子供のけんかの仲裁なんか。

この俺が。

 

白雪は少し不満だったが、これを解決すればお菓子いっぱい

食べられるのだから、仕方なく仲裁に入る。

 

白雪

「なあなあ、君たち。

 おねーさんの話を聞いてくれー」

 

子供

「お姉さん誰?」

 

プレーン

「チンスゴーの新メンバーの、

 チンスゴー・ホワイトだ!」

 

子供

「チンスゴー…? お姉さんが?

 うーん…

 チンスコウに見えないよ…?」

 

子供は、プレーンと白雪を見比べる。

かたやチンスコウ、かたや妙齢の女。

この2人が同じチンスゴーのメンバーなのだというから、

世の中不思議である。

どう見ても、生物が違う。

子供は、首をかしげざるを得なかった。

 

風乃

「ホワイトの正体はね、雪女なんだよー!」

 

風乃は、自慢げに子供たちに言う。

 

白雪

「おいコラ! 子供が困るような答えばっかり言うな!

 チンスコウとか雪女とか言われても、子供はわからんだろうがっ!」

 

チンスコウだの。雪女だの。

どこまで子供たちが信じてくれるか、わからないような話だ。

雪女だというのは事実としても、いったい誰が信じてくれるだろうか。

いや、信じまい。

 

困り果てた白雪は、子供たちに、事実を言おうと決意した。

 

白雪

「うふふっ…。

 通りすがりの、正義のきれいな優しいお姉さんですわよ♪」

 

いつもの白雪に似合わない、お嬢様のような、すきとおった声で、子供たちに答える。

カラスがウグイスの声を真似するようなものだ。

 

風乃

「…きれい?」

 

プレーン

「…優しい?」

 

それぞれの疑問が飛ぶ。

 

白雪

「なんだお前ら、その疑いの目は!」

 

 

【最近の…】

 

このあと、子供たちのケンカを見事に仲裁した白雪たちは、

子供たちと遊んだあと、自宅への帰路へとついていた。

 

白雪

「俺たちが、子供の争いに関与してどうするんだ!

 ばかばかしい! 過剰保護だ!」

 

プレーン

「最近の子供はキレやすいし、怖い。

 殴りあったり、刃物を出したり、火を出したりするかもしれん。

 大人も止めに入るわけでないし、だから俺たちの出番だ」

 

白雪

「そうは言っても…なぁ。

 きりがないぜ、あらゆる公園の子供のトラブルに関わってたら。

 毎日、全国どこかで起きてるだろ、そんなもん」

 

プレーン

「身の回りの、小さなトラブルも解決するのがヒーローさ。

 どんな大変なことにも耐えなきゃいけないし、辛抱も大事だ。

 最近、仲裁したら、子供に殴られて、

 少しだけ俺の頭部分のチンスコウが欠けたんだ。

 今は直ってるけど」

 

白雪

「そうか。ナンギな仕事だなぁ…」

 

風乃

「そうだよ、大変な仕事なんだよ、ヒーローのお仕事は。

 油断してたら、ホワイティの頭部分も欠けちゃうかもよぉー!?」

 

白雪

「ホワイティ言うな!

 それに、脳みその欠けている奴に言われたくないっ!」

 

風乃

「むっ! わたしの脳みそが足りないっていいたいの!?」

 

白雪

「さあ、どうだかな」

 

風乃

「し、白雪だって!

 お股にちんすこう生えてるくせに!」

 

白雪

「バ、バカ、何を言っているんだ!

 気にしているのに!」

 

風乃

「ちんすこう! ちんすこう!

 白雪のお股のちんすこう!」

 

白雪

「殴るぞ!」

 

風乃

「殴ってみるなら、殴ってみてよ。

 でも、そのかわり、白雪のちんすこう、蹴っちゃうよ?」

 

白雪

「蹴れるもんなら蹴ってみろ!」

 

風乃

「殴れるもんなら殴ってみろぉー!」

 

怒って、キーキー言い出す、白雪と風乃。

 

プレーン

「…最近の女性も、キレやすいし、怖い」

 

プレーンは、この世の行く末を、軽く憂いた。

 

 

【撃破予告】

 

プレーン

「ん? また電話だ」

 

プレーンはまた、どこからか携帯電話を取り出す。

 

プレーン

「何っ!?」

 

白雪

「こんどはなんだー」

 

やる気のない声。

白雪は「また仕事か」とめんどくさそうだ。

 

プレーン

「お菓子工房を撃破する!

 だと…。

 おのれ、ヤナムンめ! 卑怯なまねを!」

 

そう言って、プレーンは電話を切った。

顔を、風乃たちに向ける。

 

風乃

「どしたの?」

 

プレーン

「ネットで、犯行予告があった。

 『お菓子工房を撃破する』とな。

 ハンドルネームは、『ヤナムン』…」

 

風乃

「ヤナムンって、チンスゴーたちがいつも戦っている、あの妖怪だよね」

 

プレーン

「ああ、そうだ。

 ヤナムンめ、なんてことを…」

 

白雪

「妖怪がネットで撃破予告って…。

 でも、撃破って何だ?」

 

ネットで妖怪が犯行予告すること自体、絶句ものなのに、

爆破じゃなくて「撃破」?

ますます意味がわからない。

白雪は、考えるのも嫌になってきた。

 

プレーン

「お菓子工房を撃破されたら、大変なことになる!」

 

チンスゴーたちにとって、お菓子工房は、自分たちの家であり、

再生産できる場所。

それがなくなるということは、チンスゴーたちにとって「死」を意味する。

 

風乃

「そうだよ!

 プレーンさんのいうとおり、大変なことになっちゃう!」

 

プレーン

「おお、わかってくれるか、風乃よ!」

 

風乃

「お菓子いっぱい食べられなくなっちゃうよ!」

 

白雪

「うむ! これは大問題だ!」

 

プレーン

「お前らなぁ…」

 

白雪と風乃の頭は、お菓子でいっぱい。

プレーンさんは呆れるしかなかった。

 

 

次回に続く!


 
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