第弐章~歴史~
~山奥・山小屋前~
「なんでお前の知り合いは、こんなくそ山奥に隠居してんだよ…。」
「んなの俺に聞かれたってわかんねぇよ。親父が言うにはなんかちゃんとした理由があって、ここに住んでるらしい。」
なんとむちゃくちゃな。第一、今現在ほとんど道なき道を行ってるからな、この先どうなることやら……
「っと、ここがおじさん家(ち)だ。気をつけろよ、床やらそこやらに大量の本が転げ落ちとるから…。」
立派な考古学者ならもう少しきちんと本の整理ぐらいしとけよ…、傷んだらどうするんだ。
~山小屋内~
「おじさん、どこにいるんだ~。カイルの息子のレデストです。」
小屋の中に入ったら、レデストの言うとおり床一面本のオンパレードだった。レデストはうまく本と本の間を通り抜けて、どんどん奥のほうに進んでいく。一方の俺はというと、身動き一つとれず、入り口で棒立ち状態…
『つーか、ホントにこんなとこにいんのかよ…』
「お~、久しぶりだなレデスト。」
「なっ、本の山が喋った⁈」
「なんだそこにいたのか、おじさん。探したじゃないか。」
本の山にレデストが喋りかけると、中から中年の男の人の声が聞こえてくる。俺がしばらく呆然と本の山を見ていると、頂上のほうから本が崩れ始め、その中から一人の男が発掘された。パッと見三十後半ぐらいか…、ずいぶん若いんだな~。…ん?確かこの人…
「この人ってレデストの親父さんの知り合いだよな?」
「あぁ、ゲインおじさん。親父の旧友で同じ四十六歳だ。」
「へ~、四十六歳か~……って、え~~~~‼嘘っ⁉見た目とのギャップというか、なんか騙された感じ…。」
「ん?何じゃお前さん。見たことのない顔だが、」
「あっ、おじさん紹介するよ。彼の名前はカミヤマモル、異世界のチキュウっていう場所に住んでるらしい“影無き血”を持つ勇者なんだ。」
「どっ、どうも…」
俺は、レデストに紹介されるとゲインさんに軽く会釈をする。だけど、そんなのお構いましっていう感じでずっとこっちを睨んでくる……。たしかに俺は部外者だけど、そんなガンつけなくてもいいじゃないか…(汗)
「お主が、あの予言の中に出できた勇者か。パッと見たところそんなに凄いやつではなさそうだが?」
「正直な話、自分もさっき知ったんです。自分が勇者だと…」
「なんじゃと⁈そうなのか⁉」
「それで、昔のことに詳しそうなおじさんにそういうの全部ひっくるめて質問しに来たってわけ。」
俺たちの話を聞いて、ゲインさんは驚きの顔を隠せないでいた。…まぁ、そうだよなぁ…。
その後ゲインさんは、俺たちをよそに大量の書庫のほうに向かっていく。暫くすると、何冊かの本を持ってこっちに戻ってきた。…ふらふらで…。大丈夫かよ、あのおっさん…。
「ぃよいしょっと!これが勇者に関する古文書じゃ。ほれ、これを持ってけ、ここで読むと日が暮れちまう。」
どれどれ…、ってこれは、
「いやいや、おじさん。こんな字全く読めないどころか、何に関しての本かなんてわかったもんじゃないよ‼」
「…象形文字を超える意味不明な文字の集合体…一体これは何なのか、ホントに本なのか?」
「なんだお主ら、こんなのも読めんのか?」
「「一般人がこんなの読めるか‼」」
~しばらくお待ちください~
「全く仕方ない奴らじゃ、わかった、わし直々に教えてやる。」
あの後、いろいろあって部屋はぐちゃぐちゃ。そんな部屋の真ん中で、ゲインさんは俺たちに説明を始める。えっ、何があったかって?…それは聞いちゃ駄目なんだよ、わかった?
「さてっと、まずは何から聞きたい?どんな質問でも構わんぞ。」
「前勇者の、父の話を聞かせてください。」
「いいじゃろう。…あれはおよそ百年前の出来事じゃった。世界はある存在に、ほとんどの人・モノを根こそぎ奪っていった。そやつの名前は魔龍“カオスドラゴン”世界に一握りしか生きていない“古代種”の一種だ。」
「カオス…ドラゴン…」
「奴の力はもう、“力”の域を超えていた。もう、誰にも止めることはことはできず、奴によって世界は破滅へと追い込まれていった…。だがそんな中、一人のの男が立ち上がった。それが“ネオーレ=ジーギュ”この国・世界の英雄でお前さんの父君じゃ。」
「父さんが、百年前の英雄……」
「ネオーレは、自分と共に立ち上がった勇気ある仲間と共に、勇猛果敢にカオスドラゴンに立ち向かっていった。」
ゲインさんの喋る昔(カコ)に、俺たちは驚愕の連続だった。俺の父さんは昔、ネオーレという名前でレヴェスタ(こっち)に住んでいた英雄だったこと、この世界が一度終焉を迎えていたこと、そしてそれを止めたのが、父さんとその仲間の人たちだったこと。あの後も話が続く…カオスと父さんが一騎打ちになり、父さんは見事打ち勝ちカオスを冥府の門“ソウルゲート”に封印したこと…。全ての事実を知った俺たちは、未だに唖然としたままだった…。
「……っ。これがわしの知っている百年前の事件、“魔龍の大災害(カオスインパクト)”の全貌じゃ…。事細かな内容を知っているのは、もうおそらくわし以外おらんじゃろう。当時の人間のほとんどは、この事件で息を引き取っている。」
「…そう…だったんですか……。」
「どうりで義父さんが知らないわけか…。」
「…っ⁈そうだ!ゲインさん、影無き血の詳しい意味って分かりますか?」
「ん?かげなきち?聞かん単語だな、それは重要なのか?」
「重要かどうかはわかりませんが、父がこの言葉は覚えていろ、意味はいずれわかるから…と。」
そう、まだ小さい頃、俺が父さんから聞き継いだこの単語、もしかしたら、そんなに重要じゃないかもしれない。でも、それでも俺はこの意味を知っておきたい。
「うぅむ……わかった、すぐに調べるから少しばかり待っておれ。」
そう言い残すと、ゲインさんは一人、書庫の山に入っていった。
~しばらくして~
「待たせたな、小僧ども。やっと全てが繋がったわい。」
外が、綺麗なオレンジ色で彩られた空が映える夕刻の時間となった時、閉じこもったままだったゲインさんがやっと出てきた。
「ふ~む…わしは何となく理解したが…お前さんたちにわかるかのう…」
「そんなに複雑な意味だったんですか?」
「そうじゃな~、簡単に言うと“ヒトリ”なんじゃよ、お前さんは。」
「“ヒトリ”?一体どういうことなんだ、マモルは一人しかいないぞ。」
「そういうことではなくて、人・人間というのは別の次元に、違う自分・違う人生があるんじゃよ。じゃが…お前さんの血、“影無き血”を持つ者は違う人生などない、既に一つしか人生の道が無い。異次元にいるはずの“別の自分”が存在しないんじゃ…。」
……つまり、どういうことだ。あまりにも説明が端的過ぎて理解に苦しむぞ…。
「おじさん。言ってる意味がさっぱりなんだが、もっとわかりやすく言ってくれないとわからないんだけど…。」
「まぁ、世界中の人にはクローンがいるが、自分にはいない。そんな感じでいいと思うぞ。」
影無き血の説明に頭の処理が追いつかずにパンク寸前に追い込まれている俺とレデスト。っつーか、これ知ったからってなんか衝撃的な変化がある!ってわけでもなかったな。まっ、損ではない…はずだ…。
「しかし、お前さんも難儀じゃのう。勇者なんて重い運命なんぞ背負ってるに、息詰まりゃせんのか?」
「え、えぇ…というよりも実感がわかな過ぎて、何が何だかもうさっぱりで…」
俺とゲインさんが喋くっている中、レデストは欠伸(あくび)をしながら横で眠たそうにしていた。そんなに暇なら助けてくれてもいいだろうに…。俺がゲインさんの相手をするのに渋り始めたその時、事件は起こった…
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