No.421387

~薫る空~覚醒編:第67話『少し、淋しくて』

お久しぶりです。または初めまして、和兎といいます。
当作品は以前投稿していた「薫る空」の完全続編となります。
一年半以上、約2年ちかくあいているので、出来るだけこの作品だけでも楽しんでいただけるようにしたいと思いますが、あらかじめご注意ください。


続きを表示

2012-05-11 14:46:46 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3417   閲覧ユーザー数:2945

【注意事項】

 

・恋姫?ナニソレ

・オリキャラとかキモい

・作者がきらい

・美しい文章でないと許せない

・ヒャッハー!あらしてやるぜぇ!

 

上記に当てはまる方は、読まれても時間の無駄かとおもいますので、ブラウザバック推奨です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そこまででいいですよ」

 

 鳥のさえずりが聞こえてくるような陽気の中、女性は口を開いた。

 

「ふぅ……」

 

 少し小高い丘の上に建てられた小屋。

 

 そこで、私はもう一度、兵法について勉強していた。

 

 赤壁の戦いから一年と半年。

 

 琥珀と再会した後、私は琥珀の誘いを断った。

 

 琥珀はやさしいから、「戻るか」なんて聞いてくれたけど、それはやはり無理な話。

 

 琥珀にもそういうと、納得してくれたのか、一人で帰っていった。

 

 小さい背中を見送るのが少しつらくて、私はそれを最後まで見ずに、その場を離れた。

 

 それからはひたすら、それぞれの軍に見つからないように逃げ続ける日々。

 

 逃避行の旅というやつだろうか。

 

「それにしても、貴女は本当に教え甲斐の無い子ですね」

 

 書を片手に持った紫陽花色の長い髪をもった女性―わたしにとっては一応師匠、又は先生にあたる人物―が呟く。

 

「えぇ~……そんなに私才能ないですか?」

 

 これでも一応元国主兼軍師だったんだけどな、なんて若干の不満を覚える。

 

「いえ、むしろ逆ですよ。いくら教えても、あなたはもう知っていることばかりですから」

 

「そんな事……」

 

 師匠は……っと、この人は水鏡先生って呼ばれてて、本名はたしか私と同じ司馬姓。

 

 親戚かな、とも思ったけど、司馬の家も大概に広いから、その可能性は微妙なものだった。

 

 私とはたまたま旅の途中で出会って、どうも私の名前は知っていたらしく、見聞を広めるための旅だというと、ここへ招き入れてくれた。

 

 話を聞けば、昔はここで朱里……諸葛亮や鳳統、周瑜、郭嘉なんかもいたらしい。

 

 恐ろしい私塾もあったもんだなんて思いつつ、私も彼女達の軌跡を知りたくて、ここに居座ることにした。

 

 「師匠」という呼び名は、どうにも「先生」とは呼びづらかったからだ。

 

 「先生」は私にとってそれなりに、大事な言葉だったりするから。

 

「そうだ、薫。そろそろお昼にしましょうか」

 

「え?……あ、そですね」

 

 窓から外を覗くと、もう日がかなり高かった。

 

「……。わわっと……!」

 

「あら、大丈夫?」

 

「あ、はい」

 

 と、急に窓から拭きぬける風に、頭に被っていた帽子が流されてしまった。

 

「それじゃあ、準備しましょうか」

 

 慌ててそれを拾って、私は師匠の後についた。

 

「はい」

 

 此処にきて、そろそろ半年。

 

 窓から広がる平和な景色は、その間ずっと変わらずに、時が過ぎていった。

 

 私は、そんな景色とは逆に、変わらなければならない。

 

 来るべき、時のために。

 

「……」

 

「ん、どうかしましたか、薫?」

 

 師匠は、じっと彼女のほうを凝視する私に違和感を覚えたのか、そんな風に話しかけてきた。

 

「師匠、太りました?」

 

「へっ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて、師匠は目を見開いた。

 

「な、なぜです?」

 

 若干冷や汗も見せるのは気のせいだろうか。

 

「いや、ご飯の量が前より少ないような」

 

「き、気のせいですぅよ~?」

 

 お分かりいただけただろうか。師匠はとことん嘘が下手なのです。

 

「そんな風に見えないんだけどなぁ」

 

「見えるとこは隠してるんだから当たり前です!!」

 

「へ、へぇ……」

 

 どん、と机に大げさに手をついて、珍しく荒い口調で師匠は叫んだ。

 

 どうやら本気で気にしているようなので、このあたりでやめておこう。と口には出さずに私は改心した。 

 

 ――んだが。

 

「薫、あなたいつまでそんなへそ丸出しの服を着ているつもりか知りませんが、かなり危ういですよ。走っているときとか」

 

「っ!?」

 

「二の腕、お腹、足」

 

「うっ」

 

「さ、無駄な話はやめて昼食をいただきましょうか」

 

 逆襲は済んだと言わんばかりに師匠は、椅子に腰を下ろして、満面の笑みで食事をはじめようとする。

 

「おや、どうしたんですか、薫。料理を鍋に戻して量を減らすなんて」

 

「い、いえ、よく考えたらそんなに食欲なかったもので……」

 

「そうですか~」

 

 やはりにこにことこれ以上ないほどの晴れやかな笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私より早く食事を終えた師匠は、ご馳走様と口にしてから、私に話しかけてきた。

 

「午後は私と将棋でもしますか」

 

「ふぇ?」

 

「そろそろいい勝負になるかと思いますよ?」

 

「ほんとかなぁ」

 

 将棋は一刀が広めたものだ。初めは軍用の模擬戦に使えるかと曹操軍の中で行われていたんだけど、それがいつの間にか遊戯的な目的に変わっていき、今では大陸のほとんどの人間が知っている遊びになっていた。

 

 将棋を知ったのは私のほうが早いはずなんだけど、初めて師匠と対局したときは、まるで勝負にならなかった。

 

 まるで以前の私を相手にしているみたいに、どういう攻め方、守り方をしても先手を打たれてしまい、あれよあれよという間に私の敗北。

 

 涙目で若干の恨みを込めて睨みつけても、にこりと微笑むだけで、すっかりこども扱いだった。

 

 でも、こてんぱんにやられたわけだけど、何故だか嫌な気分ではなかった。

 

 からからっと木製の盤に同じく木製の駒を並べていく。

 

 後から食事を終えた私も、自分の陣地の駒を並べ、そろえていく。

 

「戦の参考になるとは言っても、所詮は用兵術のみの勝負ですから、負けても落ち込むことは無いんですよ?」

 

「それは何十連勝中の人がいう言葉じゃないと思います」

 

 

「あなたは策に頼りすぎて、基本がほとんど抜けていますから」

 

「……」

 

 そう言われても。と頭を二度ほどかいてみる。

 

「優位な兵力差で突撃をして勝利することに疑問を覚えているうちは、私にはまず勝てません。派手な神策鬼謀を使い、世に名を売るのも悪いことではありませんが、あなたは道化ではないんですからね」

 

 ぱち、と師匠は駒を一つ動かす。

 

 実際、この盤上では火攻めや水計、食料攻めだったり、そういう計略はいっさい使えない。

 

 五分五分での勝負となった時に、私はまだ一度も勝てていないのだ。勝てていたのは、あのチカラがあったときだけ。

 

 ぱち、とこちらも駒を動かす。

 

「歩は騎馬の蹄に剣を折られ、騎馬の槍は弓には届かず、弓は歩の剣を避けることができない。もちろん、現実には個々の能力もあるので、例外や逆転する場合もあります。また、将の統率能力、兵士の士気、武具の優劣、天候、地形、情勢、その他、戦に関わる事象は数え切れないほどあります。ですが、それらは戦になる以前にすべて整えることが可能です。軍師が有能であればあるほど、それらは戦時には万全となっているでしょう。であれば、実際にぶつかった際に必要なものは何か、わかりますね」

 

「これ、ですか」

 

 ぱち、と話しながらも私は師匠につづいて駒を動かした。

 

「戦とは相手を知る事。敵の思考、戦術、戦略、それらを読みきったものの勝利です。以前のあなたならば、それも容易でしたでしょう。ですが、それは本来、人にあってはならない力」

 

「何回か聞いたと思うんですけど、聞いてもいいですか?」

 

「えぇ、かまいませんよ」

 

「私のこと、というか、私のしてきたこと……知ってるんですよね」

 

「……こんなところに住んでいても、外の情報は入ってくるものですから」

 

「知ってるのに、どうして」

 

 盤上はすでに中盤。いつもなら私の前線を崩され、玉が狙いをつけられているころあいだ。

 

 私がそう言いかけて、師匠は口を閉じた。

 

 瞬間、ぱんっ、と一際おおきな音で、師匠は駒を進めた。

 

「っ!」

 

「あなたのしたことは、まず許されることではありません。死ねば間違いなく煉獄へ落とされ、魂ごと死ねないまま焼き続けられるでしょう」

 

「わかって、ます」

 

「けれど、あなたはまだ若すぎる。望まぬ力に翻弄され、その結末がこれでは、あんまりでしょう。

 ――同情ではありませんよ?あなたは自分のしたことにきっちりと答えを出すべきなんです」

 

「はい」

 

「あなたはあなたが裏切った全ての人間に答えを出して、それから……」

 

「……はい」

 

 それからに続いた言葉は、少し残酷で、この人はとてもやさしいんだと実感できたものだった。

 

 そんな彼女に、ひとつだけ罪悪感があるとすれば、それはその力は別に、望まなかった力という訳じゃないということだった。

 

 最初はわからないことだらけだったけど、それでも私は、あの力を望んで使ってしまったということ。

 

「また、わたくしの勝ちですね」

 

「いい勝負になるとか言ってたのに」

 

「勝てるとは言っていませんよ?」

 

「ちぇ」

 

「けれど、まぁ、そうですね。以前の赤壁の大戦。あの時に今程度のチカラがあれば、ちがった決着になっていたかもしれませんね」

 

「え」

 

 それはつまり、成長はしているということでいいんだろうか。そう問いかけようとしたところで、私の言葉は、玄関からの声に遮られた。

 

 しかし、師匠は扉のほうをみたまま、その場から動こうとしない。

 

「お客さんみたいですけど」

 

「えぇ。珍しいですね」

 

 ほんとに珍しい。私がここに住み始めて半年、客など一度もなかった。それはそれでどうかと思ったが、口にはしないでいた。

 

「ここへ直接来るなんて、普通は”ありえないんですけれどね”」

 

「ありえない?」

 

 師匠はそう言って、玄関の扉へと向かった。

 

 扉を開けると、黒い装束を纏った誰かが居た。男か女かは体型からはわからない。

 

 ただ怪しい雰囲気だけをそこに集めたようなやつだった。

 

 声は小さく、こちらからは聞こえない。ただ、師匠が手紙のようなものを受け取っているのが見えた。

 

 それを見た師匠の顔は、なんともいえない、悲しい顔だった。

 

 こっちの胸まで締め付けるような、そんな表情で。

 

 それが用事だったのか、黒装束は姿を消して、すぐに気配も感じられなくなった。

 

「師匠、今のって……?」

 

 そう聞こうとして、私の言葉は師匠の「薫」という呼びかけに阻まれた。

 

「散歩にいきましょうか」

 

「……へ?」

 

 こちらに振り向いた師匠の顔は、私との将棋に勝った後の、あの笑顔だった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、薫」

 

「はい?」

 

 散歩の途中。不意に師匠は声をかけてきた。

 

 後ろ手に前を歩く師匠の姿は、いかにもそれっぽくて、すこし笑えるほど似合っていない。

 

 長く歩いたのか、日は傾き始め、空には橙色に変わり始める部分もあった。

 

「さっきはあんなこと言いましたけど」

 

「……はい」

 

 あんな、とは。昼食の後の、将棋のときの話だろうか。

 

「わたくしは、あなたが嫌いではないんですよ?」

 

「そんなのわかってますよ」

 

 すこし笑いながら、私は答えた。

 

 むしろこの人が嫌う人がいるなら見てみたいものだ。さぞや悪役の似合う人間なのだろう。

 

「だから、もしあなたが私の言ったような結末を重く感じるようなら……」

 

「……」

 

 少し間を空けて、師匠は言葉を続けた。

 

「同じ司馬の名を名乗っていることも何かの縁ですし、私の養子に来ませんか」

 

「養子、ですか……?」

 

「えぇ。教え子たちはみんな外で活躍していて、誇らしくもあり、嬉しくもあるのですけど……」

 

 師匠は、それ以上は言わずに口をつぐんだ。

 

 彼女の背中を見ていると、続きはたやすく想像できてしまって、私はうまく返事をできないでいる。

 

「わ……私は……すごく感謝してます」

 

 何度も何かを言おうとして、声に出たのはそんな言葉だった。

 

「でも、師匠が言ってくれた通り、やっぱり私には責任があるから……」

 

「ふふ」

 

「え、えと……?」

 

 言葉を選びながら、私がそういうと、師匠は急に笑い始めた。

 

「いえ、すみません。本当に。西涼でのあの惨事を引き起こした人物とはおもえませんね」

 

「……」

 

「そうですね。あなたは少し、優しすぎるのでしょうね」

 

 振り返り、私の頭をなでながら、師匠は優しい声でそう言った。

 

「では、この話はあなたがすべてを終えた後で、また考えてもらえますか?」

 

「……はい」

 

 夕焼けに吹いた風は、少し冷たくて、妙に目に沁みた。

 

 昼間のあの顔は、たぶんこれを言う覚悟をしているところだったのだろう。

 

 こんな話をする意味を考えると、私はうつむいたまま、顔を上げることができなかった。

 

 受け取った手紙の内容はわからないけど、たぶん、私はもう、ここにいられないのだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、薫はすでに眠っている。

 

 昼間の文は、曹操軍がこちらへ向かっているというものだった。

 

 薫はここに来る以前、赤壁戦後に曹操軍の将と会っているといっていた。

 

 その情報から薫の位置を割り出したのでしょう。

 

「八陣をしいているし、しばらくは時間も稼げるとは思いますが……」

 

 ―ざっ!。重いものが草を踏み潰す音が響いた。

 

「あのような子供だましで時間が稼げるなどと思ってもらっては、困るのだが」

 

「っ!! 誰です!」

 

 振り返り、その男の姿を目に捉える。

 

 漆黒のよろいに身を包み、体全体が青白くぼやけている。およそ人間離れした容姿の男は、唇の端を吊り上げ、不敵に笑っていた。

 

「あぁ、すまない。まだこれの制御はきちんとできていなくてな。常時このような姿なのだ。許せ」

 

「……文には曹操軍とあったのですが」

 

「ああ、間違いなく”曹操軍”さ。いっぺんの疑いもなく、な。ほら、これでそう見えるだろう?」

 

 男は一度だけ指を弾くと、その姿を曹操軍の鎧を着た兵士へと変えていった。

 

「っ!? やはり……実際に見ると非常識なチカラですね」

 

「やつからこれのことを聞いているのか。それは残念だ。貴様の容姿ならば妾にでもできたというのにな」

 

「私が何の用意もなくいたとでも思っているのですか」

 

「ん? まさか麓に布陣していた小隊のことを言っているのか?あれなら今頃わが軍のおもちゃにでもなっているだろうが……どうした?そんな顔をしては美人が台無しだぞ?」

 

 男はまるで遊び女でも見るような、蔑んだ目で、こちらを見る。その目はすべてを吸い込んでしまいそうなほど、美しく金色に輝いていて、この世の何よりも、汚らわしいと感じた。

 

「……目的は」

 

「言わねばわからぬか?」

 

「あの子には手出しさせません」

 

「貴様はあれと出会ってまだ半年程度だろう。庇い立てするほどの関係でもあるまい」

 

「たしかにわたくしとあの子には半年程度の絆しかありませんが」

 

「む? ほう、そうか。なるほどな」

 

 男は何かに納得したようにうなずいた。

 

「っ、他人の頭を覗くというのは、本当に悪趣味ですね」

 

「勘違いするな。もともとは奴の力だ」

 

「それを嬉しそうに見せびらかすあなたに、罪はないとでもいうつもりですか」

 

「ああ、やはり勘違いしている。ひとつ教えておいてやる。いいか?―”王には罪などない。王が行うのはすべて法なのだよ”」

 

「自らを王などと、なんという傲慢……」

 

「そうか。まぁ、どの道貴様にはもう道は残されていないのだ。あれの面倒は私が見ておいてやるから、安堵して――」

 

 男の右腕が、ゆっくりと上へと上げられた。

 

「外史に沈むといい」

 

 瞬間、風を切る音が三つ。男の後ろから、こちらへと放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――がたごと、と不規則にゆれる床に気づいて、私は目をさました。

 目を開くと布の天井が広がっていて、前からは馬のひづめの音が聞こえる。

 

「あれ……ここは……」

 

「お客さんよう眠っとったねぇ。連れの人が手紙ば読んどけって言うとったよ?」

 

「へ、手紙?」

 

 御者台にまたがる男は、私の足元に指差して、そこには確かに手紙が一通おいてあった。

 

 私は、その中身を開いて確認した。

 

「……ね、ねぇ……おじさん……この手紙もってきた女の人は……?」

 

「うん?いや、それとあんた運んできたんは男やったけんどね」

 

「……う、そ……」

 

「いやぁ、あれは間違いなく……ってお客さん!? どうしたっと!?」

 

 馬車引きのおじさんは、私のほうを見てかなりあせっていた。

 そりゃいきなり女が泣き出せば、男は焦るよね。

 

「も、もどって、おじさん!!」

 

「え、ええ!?」

 

 私は急いであの場所へと馬車を引き返させた。

 

 

 

 

 私がそこへついて最初に見たものは、大きな炭だった。

 

 私塾を開いていた小屋は、変わり果てた姿でそこにあった。

 

 思わずひざをついた私は、その場から動けずにいた。

 

 私の手の下には、草の色とは違う、黒い何かがついていて、それは一目で乾いた血だとわかった。

 

「……なんで、私……っ、私がっ……」

 

 関わる度に、人は死ぬのか。

 

 やはり、いっそ自分が死ぬのが早いのではないか。そうも考えたい。

 

 しかし、それは先ほど、あの手紙によって封じられた。

 

 (この手紙が、あなたの目に入っているということは、私はおそらくあの男によって殺された後なのでしょう。

 

 薫。あなたには本当につらい思いをさせていますね。本当にすみません。心を読むというあなたから聞いた力。

 

 それを出し抜くには、私の命を対価とする方法しか思いつきませんでした。本当に、私塾など開いている資格なんてありませんね。

 

 これからあなたには、あの男、李儒からの追っ手が付きまとうかと思います。ですが、必ず生き延びてください。

 

 大丈夫です。あなたにはもう十分すぎる力があります。あのような目に頼らずとも、ね。

 

 気づいていましたか?以前は将棋以外でも遊ぶことはありましたが、最近では将棋しかしませんでした。

 

 だって、ほかの遊びではもうあなたに敵わなかったんですよ?

 

 生きてください。私が今望むのは、あなたの幸せですから。

 

 けれど、どうしてもつらくなったときは、あの夕焼け空の下で交わした言葉を思い出してください。

 

 ――わたくしはちゃんとそばにいますからね)

 

 一刻ほど経って、私はようやく、きちんと目を開けて前を見ることができた。

 

「……師匠、私ね。師匠のこと、”お母さん”って呼んでみたかった」

 

 溢れてとまらない涙を強引にふき取って、私は血のついた周囲の土を一箇所に集め、その場に盛り上げていく。

 

 ある程度の高さになったところで、焼け落ちた小屋の柱から、ちょうどよい大きさの柱を選び、こげた部分を手でこすり落とす。

 

 それを盛った土に突き刺し、近くに咲いていた小さい花を一つだけ添えた。

 

「落ち着いたら、ちゃんと作るから。今は、これで許して?」

 

 緩やかに風が吹く中、私は、曖昧だった気持ちを固い決意にかえた。

 

「私、ちゃんとやるよ。師匠には話してなかったけど、前に同じように教えてくれた子がいてね。その子の分も、ちゃんと私の願いをやり通すから」

 

 最後に、「また来ます」。そう伝えて、私は踵を返した。

 

 今度こそ、もう何も失いたくない。そう願いを新たにして。

 

 

 

 

                                         <続く>

 

 

 

あとがき

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

いい加減にしろという方も、又お前か!という方も、待っていたという神のようなお方も(いないかもしれんけど)お久しぶりです。

久々に投稿しようとしたら投稿画面で三回もエラーだして、このあとがきもすでに4回目の和兎です。

いい加減なきたいですが、うっとおしいことこの上ないので、やめておきます。

自分でも続きを書くつもりはなかったんですが、たまたま自分作品を読み返して、

これは終わらせないとなーと思って、続きを書くことにしました。

2話以降ですが、イラストのほうでやることもあるので、そちらを優先しながら並行してやろうと思っています。

なので、たぶん毎日とかそれに近いのは厳しいかと思いますが、お許しください。

ではでは、また次回お話でノ

 

 

 


 
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