No.420395

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works

水曜定期更新。
摩耗した。新しい物語を作るのに摩耗した。
という訳で誰も見たことがない物語を展開。
ちなみに日和さんはHeaven's Hiyoro編のヒロインなのでこっちには出てきません。

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2012-05-08 23:58:29 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1961   閲覧ユーザー数:1873

そらのおとしものショートストーリー4th Unlimited Brief Works

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その5

 

○吉井明久:文月学園2年F組在籍。地の文でボケ返し会話文でツッコミを入れる驚異の可変スペックを誇る万能男子。更に作品のプロット次第でどの女の子が好きかコロコロ変わる可変流動型のハーレム王。そして狙いすました鈍感で死亡フラグを立てまくり大体死ぬ。その為に基本的にそらおと作品に登場する時は痴情のもつれの末によく刺される。

男たちにもモテモテで総受けアキちゃんとして描かれることも多い。

 

○坂本雄二:2年F組在籍。原作におけるキープレイヤー。バカテスがラノベの中で輝くのは吉井明久のボケ&ツッコミよりも雄二と読者の知恵比べによる部分が大きい。だが、ネタ切れであることを最近原作者自身が漏らしているように、C組戦前後から決め手が微妙になっている。以前のような意表を突かれる爽快さではなく、斜め上というかそれは変だろうという感じ。大掛かりなバトルは残り1戦のようなので最後まで頑張って欲しい。

 

○姫路瑞希&島田美波:2年F組在籍。元々はメインヒロインの位置を占めていたが、現在拙作では驚き役の大任を得ている。基本的に似たような思考法で似たようなアクションを起こすのでセリフ自体ほとんどコピペである。そして2人並んで喋っている。

 2人が別れて行動するときは、美波は聖帝(メインヒロイン)となり、瑞希はヒッメジ~ンと化す。基本的に葉月やその他のヒロインや男に敗北する宿命を背負っている。

 

○島田葉月:小学5年生。真のラスボス。姉達を弄ぶことが大好きな天真爛漫を極めた少女。基本的に策士だが拳王木下優子を上回る拳も持っている武闘派でもある。明久が原作以上にロに対する関心がない為に外堀内堀を埋めて囲い込む作戦を取っている。

 姉を弄んでいるが一方では姉に対して強く依存しており、姉が本調子でないと彼女もまた精神的に酷く落ち込む難しい年頃の少女でもある。

 

○木下優子:2年A組在籍。拳王にして拙作におけるバカテス主人公。BLと吉井明久と暴力をこよなく愛する。主人公の癖にどの作品でも明久とろくに喋ったことさえなかったりする奇特なヒロインになりきれない拳王。女性FFF団で馬鹿やっているのも楽しいのだと思いたい。そして今日もまた勝てない戦いに拳を滾らせるのである。優子が主役になった背景にはTinamiにおける文士の先人達が彼女をおしていたからという理由がある。

 

○工藤優子:2年F組在籍。拙作におけるバカテスのラブストーリー担当のヒロイン。ムッツリーにと優子の恋愛が拙作におけるラブパートのほぼ全てである。煮え切らない感じの2人が素敵なのである。言い換えれば他の要員は全員お笑い、または汚れ担当となっている。しかし大きな問題としてムツ×愛子は書いている側が喉を掻き毟りたくなる衝動に駆られるのでなかなか書けない難点がある。

 

 

Unlimited Brief Works

 

 

「……マスター。こんなものをタンスの裏から発見してしまいました」

 頭に三角巾を付けたイカロスが居間で新聞を読んでいた智樹に向かってソレを見せた。

「これってシナプスのカードだよな?」

 智樹が何度もお世話になり、かつ痛い目を見てきたトランプ大のカードがイカロスの手の中にあった。

「……はい。しかも現在はシナプスでも製造されていない、どんな願いでも1つだけ叶えてくれる一番強力なカードです」

「どんな願い事でも、だと?」

 智樹の目が鋭く光る。

「……はい。どんな願いでも叶います」

 イカロスは無表情のままコクリと頷いた。智樹はゴクリと唾を飲み込んだ。

「そのカード~。会長が欲しいわ~」

 そんな時だった。この世全ての悪、五月田根美香子が居間に入ってきたのは。美香子は大量のショッピング用紙袋を両手に抱えた守形を伴ってやって来た。

 美香子の姿を見て智樹は体を大きく震わせる。

「イカロスっ! 会長にだけは絶対にそのカードを渡しちゃダメだからなっ! 地球が本気で滅びかねん!」

 強い怒気を篭めてイカロスを諭しながら美香子を牽制する。

「うふふふふ~」

 だが美香子は智樹の牽制などものともせずにイカロスに近付いていく。そして耳元でねっとりとささやき始めた。

「イカロスちゃんも女の子~。桜井くんと叶えたい夢……欲望ぐらいあるんじゃないのかしら~?」

 悪魔がエンジェロイドの心を侵食していく。

「……マスターに、叶えて欲しいこと……?」

 イカロスの体が大きく震える。

「話を聞くな、イカロス~~っ!」

「そうよ~。何を躊躇う必要があるの~? イカロスちゃんは欲望を全開にして素直に生きて良いのよ~。だってぇ……」

「おっ、おいっ!」

「今は悪魔が微笑む時代~~なんですから~~♪」

 美香子が囁いた瞬間、イカロスは大きく目を見開いた。その汚れなき翼を暗黒の色に塗り潰し、鼻から赤い液体を滝のように垂らしながら。

「さあ、イカロスちゃん。そのカードの所有者は暴力と残虐で決めましょう♪ 殺戮の開始は明日よ~~♪」

 美香子はとても嬉しそうに微笑んだ。すぐにカードが欲しいと言わない辺りが彼女がこの世全ての悪たる理由だった。美香子は暴虐の過程を楽しむ気満々だった。

「……分かりました。このカードは殺戮の勝者に託すことにします。それでは私は、戦いの準備に入ります」

 イカロスは一礼すると縁側から外へと出て飛んでいってしまった。

 

「どうしたの? やけに騒がしいようだけど」

 イカロスと入れ替わるようにニンフが居間に入ってきた。ニンフはツインテールの髪型に加えて赤い服に黒いミニスカートを穿いていた。

「この世に地獄が……本物の地獄が具現されるかもしれない」

「はぁ? 何を言っているの?」

 更に続いてそはらと智子が入ってきた。

「一体どうしたの?」

 智樹は3人の顔を順々に見回しながら決意を漏らした。

「いいか。お前らに告げておく。これから俺たちはイカロスと会長を全力で止める。さもなければこの地球は明日にでも滅びるかもしれない」

「智ちゃん、それだけじゃ説明にならないよ」

 その腕に聖剣エクスカリバーを宿したそはらが黒い笑みを浮かべる会長を見ながら首を捻る。

「会長はシナプスのカードを使って全世界を混沌の闇にたたき落とすつもりに違いないんだっ! そしてイカロスはそのカードを自分で使う為に邪魔者を世界ごと滅ぼすつもりなんだっ!」

 智樹は身を震わせた。

「まったく、いつものことながら面倒な事態に巻き込まれているわね」

 ツインテールの赤いニンフが大きく溜め息を吐き出した。

「どんな願いも叶えることができるカード……」

 5月にも関わらず赤い外套を着込んだ智子は美香子と守形を見ながら小さく呟いた。

 

 

 

 翌日放課後。

 智樹はそはら、ニンフ、智子と共に校舎内を駆け回っていた。

「会長を何としてでも一刻も早く探し出すんだ~~っ!」

 智樹が大声を上げながら先頭を走っていく。その形相はいつになく必死だった。

「アルファも学校を休んでいるし、どうやらあの子本気みたいね」

「3年生の人に聞いたけど、会長も今日は授業に出ていないらしいよ。学校で見掛けたって話はあるんだけど」

「守形先輩も授業には出ていなかったって。最近先輩、借金の片に会長の世話係をさせられているって噂になっているし、会長と一緒にいるのは間違いないわね」

 4人は話を照らし合わせるほどに気分が重くなっていく。

「とにかくまずは校内にいるらしい会長を探し出して悪しき野望を食い止めるのが先だな。ニンフと智子は校内を、俺とそはらは校庭側を見てくる」

「「「わかったわ」」」

 智樹はニンフたちと分かれてそはらと共に校庭に出た。

 

「会長……一体、どこへいやがるんだ?」

 必死に校舎脇の樹林地帯を探し回る智樹。そはらとも分かれて1人で探し回っていた。だがそれは智樹にとって危険な行為だった。

「やあ。ごきげんよう」

 智樹の前に現れたのは目的とは違う人物だった。

「おいおい、Mr.桜井。殺戮の最中に供も連れずに歩き回るなんて無用心過ぎるのではないかな?」

「お前は……鳳凰院・キング・義経っ!」

 智樹の前に現れたのはワカメっぽいロン毛に白い学生服がトレードマークの宿命のライバルだった。

「何故私立のお前がこの場にいる?」

 智樹は嫌な予感に溢れていた。そしてその予感は的中してしまった。

「決まっているじゃないか。僕も万能のカードとやらが欲しいからさ」

「何故お前がその話を知っている!?」

 智樹は戦局の拡大を避ける為にかん口令を硬く敷いておいた。にも拘らず義経が知っていることに焦りを感じていた。

「ああ、カードのことなら彼女たちが教えてくれたよ」

 義経が振り返る。すると木の後ろに隠れていた2人のハーピーが智樹の前へと姿を現した。

「お前ら……シナプスのマスターの野郎の手下のパピ美とパピ子じゃねえか! 一体、何の用だってんだ!」

 智樹は内心で舌打ちしながらハーピーを睨んだ。

「シナプスの重要なアイテムがこの地上にあるって分かったんだ。取り戻しに来るのが当然だろう?」

「そして回収するのにこのロン毛のお兄さんの力を借りているという訳さ」

「チッ! シナプスめ。やっぱり監視していやがったか」

 だが今更気付いても後の祭り。

「けど、俺はカードを持っていないぞ。持っているのはイカロスだ。俺を待ち伏せして何の得がある?」

「おいおい。君もカードを狙っているのだろ? だったらここで君に死んでもらうだけさ。僕とイカロスさんの明るい未来の為にね」

 義経の瞳が鋭く光った。

「チッ! やっぱりそういうことかっ!」

 智樹がバックステップを取りながら3人から間を取ろうとする。

 だが、その動きよりも早く義経は攻撃命令を下した。

「行くんだ、ハーピーたちよっ! カード回収に最も大きな障壁となるであろうMr.桜井をここで葬るんだ」

「「任せておきなっ!」」

 ハーピーが一斉に智樹へと襲い掛かってくる。

「これ、ちょっとヤバイぞっ!」

 樹木が密集して生えている為に逃避行動にも支障をきたす。一方でハーピーたちのシナプス製の調合金の爪は木さえも容易く切り裂いてしまう。

 智樹は自身の絶体絶命の危機を感じない訳にはいかなかった。

 

「そろそろ終わりにさせてもらうよっ!」

「くそぉっ!」

 伸びたハーピーの爪が大樹の幹ごと智樹を貫こうとしたその瞬間だった。

「パラダイス……ソングっ!」

 超音波が弾丸となってハーピーたちを襲った。

「なっ!?」

智樹にとどめを刺そうとしていた2人は慌てて飛翔しながらこれを避けた。

「ニンフッ!」

 智樹は上空からハーピーに攻撃を加えてくれた恩人の名を大声で叫んだ。

「センサーにエンジェロイドの反応が現れたから慌ててやって来たけれど……まさかアンタたちだったとはね」

 かつて自分の翼を毟り取った仇敵に苛立ちの表情を向けるニンフ。

「だったら、何だって言うんだい?」

「前みたいにまた羽を毟り取ってあげようか?」

 砲撃の狙いをニンフへと付けるハーピー。だが、ニンフは以前と違いそんな仇敵の攻撃態勢を見ても少しも動じなかった。

「アンタたちなんかアフロディーテを起動させれば1秒で乗っ取ってやるわ。そうしたら美香子やアルファに特攻させる捨て駒にしてあげましょうか?」

 ニンフは余裕の笑みを浮かべた。

「チッ!」

「一旦引いて大勢を整えるぞ」

 ハーピーたちはニンフとの戦いを避けて林の中へと撤退していく。

「おいっ! 僕を置いて勝手に行くんじゃないっ!」

 ワカメっぽいロン毛を振りかざしながら義経もまた林の中へと姿を消していった。

 

「たっ、助かったぜ」

 ハーピーたちが目の前からいなくなったことで智樹が安堵の息を撫で下ろす。

「ハーピーたちをやっつけた訳じゃないし、何より会長たちはまだ見つかっていない。まだ安心は出来ないわ」

「そうだな」

 智樹が気を引き締め直す。その瞬間だった。

「何だ、この嫌な感じはっ!?」

「校舎内が猛烈な悪意で包まれていく様な……きっ、気持ち悪いっ!」

 智樹とニンフの体が小刻みに揺れる。体は如実に恐怖を感じ取っていた。

 だが、その悪寒がカードを巡って暗闘中の校舎から放たれているとなれば話は全くの別だった。

「行くぞ、ニンフっ!」

「わかったわっ!」

 2人は恐怖を理性と勇気で封じ込めながら校舎に向かって全力で駆け出した。

 

 

 

 智樹とニンフが玄関から校舎内部へと突入する。

 するとそこには多くの生徒に襲撃を受けているそはらの姿があった。

「そはらっ!」

 智樹は玄関に立て掛けられていた傘を掴んでそはらの元へと駆けていく。そして、正気を失い白目を剥きながらそはらへと襲い掛かる男子生徒(モテ男)を思い切りぶん殴った。

「一体、何がどうなってんだ?」

 智樹はそはらを狙い続ける男子生徒(モテ男)を殴り続ける。

「分かんない。でも、突然悪寒がしたと思ったら校内に残っている生徒達が急におかしくなり始めて……。それで、一斉に私に襲い掛かってきたの」

「こんなことが出来るのは……やっぱりあのハーピーどもの仕業か?」

 入り口付近で目を閉じてセンサーに手を当てていたニンフが目を大きく見開いた。

「いたっ! 私たちの教室の中にエンジェロイドの気配を2体察知したわ」

 智樹は自身の教室がある方角を見定めて顔を引き締める。

「ならやっぱり、アイツらをとっちめる必要があるようだな」

 智樹は傘を振り回しながら階段へと向かって突撃を始める。

「ハーピーたちは教室から動いていないみたいだわ。ジャミングが多くて詳細は分からないのだけど」

 ニンフが智樹の隣へと駆け寄る。

「首謀者の居場所さえ分かればそれで十分だっ!」

 智樹はニンフと共に更に速度を上げながら廊下を駆けていく。

「そはらは済まないが階段でそいつらを足止めしていてくれないか」

「うん。わかったよ」

 理性を失った生徒達の相手をそはらに任せて智樹とニンフは一路教室を目指す。

 

 駆け抜けること約1分。遂に2人は自分達が毎日使っている教室に到達することに成功した。

 そして智樹達が教室内で見たもの。それは──

「ひぃいいいいいいいぃっ!? い、嫌だぁっ! 来るんじゃないっ! 僕は、僕は~~っ!」

 意味不明な悲鳴を上げながら隅で体育座りの姿勢で震えている鳳凰院・キング・義経の姿。

 そして──

「嘘……社会的に……死んでる」

 額に『骨』と書かれ、倒れたままピクリとも動かないハーピーたちの姿だった。

「一体誰が、こんなことを出来るっていうの?」

 ニンフにはそれが信じられなかった。

 ハーピーはエンジェロイドとしてはそれほど強力な方ではない。イカロスは勿論アストレアやアフロディーテを身に付けた今となってはニンフよりも弱い。

 しかしそれはあくまでも比較対象が戦闘用エンジェロイドであればという仮定。そはらのような超強力な必殺技を有する人間ならともかく、普通の人間でどうこうできる相手では決してない。

 にもかかわらず、ハーピーは機能停止に追い込まれていた。

 そしてニンフのレーダーが捕捉したこの教室内のエンジェロイドは常に2体だけだった。他のエンジェロイドが介入した気配はない。

 この事実が何を意味するのか?

 ニンフは義経の元へと歩み寄った。

「一体、何が起きたの?」

 ニンフの目は非常に鋭いものだった。

「しっ、知らないんだ。僕が悪いんじゃない。これは僕が望んだものとは違う結末なんだぁ~~~っ!」

 義経は再び意味が不明瞭な言葉を発するとニンフ達の脇を擦り抜けて教室の外へと駆け出していってしまった。

「畜生っ! 一体、何がどうなってやがるんだ?」

 智樹は舌打ちしてみせた。

「よくは分からないけれど……厄介なことが起きていることは確かなようね」

 ニンフは教室内にハーピーを倒した者の痕跡が残っていないのか念入りに捜す。だが、何も見つからない。

「智ちゃんっ! 校内で暴れていた生徒達が突然大人しくなって眠っちゃったんだけど?」

 そはらが教室へと入って来た。驚いた表情を見せている。

「そうか……」

 智樹は短く息を吐き出した。

「何がどうなっているのか分からないけれど。とりあえず一旦幕ってことなんだろうな」

「生徒達が狂ったのもこのハーピーたちがやったのか。それとも他勢力も噛んでいるのかよくわからないけれどね」

 ニンフが厳しい表情のまま同意した。

 智樹たちに分かることは何もなかった。

 

 

 

「すっかり遅くなっちまったな」

「そうだね。でも、仕方ないよ。人命救助だもん」

 智樹たちはすっかり日が暮れて外灯の明かりだけを頼りに帰宅の途についていた。

 傷ついた生徒たちに応急処置を施し病院に搬送していたらすっかり遅くなってしまっていた。

「大半はそはらのやり過ぎが原因だった気もするけどね」

「も~酷いよ、ニンフさん。わたしだって必死だったんだから」

「わかってるわよ。私が戦っていたらもっと大怪我が負わせていたかもしれない」

 会話するそはらとニンフを横目に智樹はもう1人の同伴者へと振り返る。

「智子は俺たちが必死に戦っている時にどこで何してたんだ?」

 智樹の声には不満の色が見え隠れしていた。

「ゾンビみたいな生徒を大量に引き連れて全力で逃げ回っていたわよ」

「逃げ回っていたあ?」

「そうよ。だって相手は操られているだけの普通の生徒。やっつける訳にもいかないし、しばらく時間を稼げば智樹たちがどうにかするでしょ? だから逃げていたの」

「確かに結果は智子の言うようになったがなあ……」

 智樹はどうにも智子の言い分に承諾しかねる部分を持っていた。

「まっ、アンタに分かってもらおうとも思わないけれどね」

 智子はそれ以上言葉を続けずに話を打ち切った。

 そして一行が川原まで差し掛かった時のことだった。

 

「お兄ちゃん……わたし……どうしても愛が欲しいの」

 智樹たちの前に現れたのは修道服を着た幼い少女。

「カオス……っ」

 少女の名を呼ぶ智樹の声には大きな緊張が含まれていた。

 何故ならこの幼き少女こそシナプス最新鋭の第二世代型の最強エンジェロイドだったのだから。

「カオスも……カードを狙っている訳?」

 智樹に代わってニンフが緊張しながら問う。

「そうだよニンフお姉さま。わたし……愛が欲しいの。愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛が欲しいの~~っ!」

 愛という単語を連呼しながらカオスは智樹たちに向かって襲い掛かって来たっ!

「ジャミング・システム起動っ!」

 ニンフが地面に手を付きながらカオスの乗っ取りに掛かる。

 しかし……

「やっぱり効かない……わね」

 ニンフは飛翔してカオスの攻撃をかわしながら舌打ちする。

「ならやっぱり……物理的に倒さないとダメなんだね。だったらいくよ、カオスさんっ!」

 ニンフに代わりそはらが前に出てカオスと打ち合う。

 そはらの腕に眠るエクスカリバーはエンジェロイドさえも倒す実力を秘めた必殺の武器だった。

 しかし……

「愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛~~っ!」

 如何に強力な武器があろうともそれを操っているのは人間。そはらの身体能力では人間の運動性能を遥かに超越したカオスの連続攻撃に対抗できない。

「くぅっ!?」

 徐々に追い詰められていくそはら。

 そんな苦戦するそはらを見ながら智樹は歯噛みして悔しげな表情を浮かべていた。

「俺に……俺に、エンジェロイドと互角に渡り合える力があれば……クソォっ!」

 しぶとさには定評があるものの身体能力はごく普通の人間のものでしかない智樹にそはらを加勢することは出来ない。足でまといになるのは目に見えていた。

 何も出来ない自分に心底腹が立つ。

 そんな時だった。

「えっ? 何? この高出力エネルギーの収束はっ!?」

 ニンフが耳となっているセンサーに手を当てながら大声で叫ぶ。そして、100mほど離れたとある民家の2階へと目を向ける。

 そこで見たものは──

「智子っ!?」

 巨大な矢を射ようと座射の体勢を取っている智子の姿だった。そしてその瞬間は唐突に訪れた。

「恋的天使矢(カラサワギ・ボルグ)っ!」

 智子が聞いたことのない謎の単語を叫ぶと同時に巨大な矢が放たれた。

「そはらっ! 危ねえっ!」

 智子の意図に気付いた智樹がそはらを正面から抱きしめて大きく跳ぶ。

 その直後、智子の放った矢はカオスの胸に命中。

 次の瞬間に大爆発を起こした。

「きゃぁあああああああああああぁっ!!」

 最強の名を冠する第二世代型エンジェロイドもこの大爆発にはただでは済まなかった。

 爆風が収まり智樹たちの視界が開けた時、カオスは修道服をボロボロにし左手を右手で押さえながら庇っていた。

「お兄ちゃんたち……また、遊ぼうね」

 そしてその言葉を最後に闇夜の中へと姿を消していった。

 

 

 

 いまだ爆炎の香りが色濃く残る川原沿いの公道。

「助かった……のかしらね?」

 カオスの反応がセンサーから消えたことを確認しながらニンフが呟く。

「おい、大丈夫かっ! そはらっ!?」

 一方智樹は爆発に巻き込まれたそはらの安否を上に乗って抱きしめたまま気遣っていた。

「う、うん。智ちゃんが庇ってくれたから」

 言葉通りそはらは無傷だった。

 だが……

「わたしよりも、わたしを庇った智ちゃんの方が心配だよぉ」

 またそはらの言うとおりだった。

「風に煽られただけだから大したことは……痛てててぇっ!」

 立ち上がろうとした所で智樹が悲鳴を上げる。背中が猛烈な痛みを訴えていた。

「爆風の影響で火傷しているわね」

 ニンフが制服が半分焼け焦げている智樹の背中を見ながら診断した。

「とりあえず私のジャミング・システムで治癒能力を強化して痛みを和らげるから」

「お、おう」

 ニンフは智樹の背中に向かって手をかざしジャミング・システムを起動させた。

 智樹は背中に感じる痛みがみるみる引いていくのを感じた。

「ありがとうな。助かったぜ」

 痛みがだいぶ引いて立ち上がることが可能になった智樹がニンフに礼を述べた。

「どういたしまして。でも、私の力じゃこれぐらいが精一杯。医療に関してはオレガノが専門家なんだけど……」

 ニンフは五月田根家がある方角をジッと注視した。

「美香子がああである以上、オレガノはその手下になっているか…。それとも裏切って独自の道を歩んでいるか。どちらにしても敵対勢力になっているとみて間違いないわね」

 ニンフの口から溜め息が漏れ出た。

「イカロス、会長一味、カオス。敵にするには強力すぎる面子だよなあ……」

 智樹の口から大きな溜め息が漏れる。

 人数比だけで言えば智樹の勢力は4人。最大級の勢力であることは間違いない。けれど、それが少しも安心材料にならないほどに各敵対陣営は強かった。

 そして智樹は陣営内部にも不安定材料を感じ取っていた。

 

「おいっ! 智子っ!」

 智樹は戻ってきた智子に向かって怒気の篭った声を投げ掛けた。

「何?」

 智樹を見る智子の瞳も冷たい。

「お前……何で事前に大技の発動を知らせなかった?」

「知らせていたらカオスにも気付かれるでしょ。そうしたら、避けられてしまうわ」

「あのなあっ! ニンフがお前の攻撃に気付かなかったらそはらも巻き込まれていたかも知れないんだぞっ! そうしたらどんな大怪我を負ったか分かったもんじゃなかったぞ!」

 智樹の罵声が智子を撃つ。

 だが、智子は少しも答えた様子を見せない。

「アンタがそはらを庇ったから被害は最小限で留まった。それで良いじゃない」

「良くねえだろっ!」

 熱くなって吼える智樹。そんな智樹をより冷たい眼差しで見る智子。

「なら、アンタはあそこでアタシが攻撃しない方が良かったって言うの? そうしていたら今頃アタシたちはカオスの手で全滅していたわよ」

「クッ!」

 カオスに対する劣勢は明らかであり、自分の無力さを痛感していた智樹は上手く反論出来ない。

「だが俺は……智子のやり方を認められねえっ!」

「別にアンタに認められなくて結構よ」

 智樹と智子の主張は平行線を辿る。

「まあまあ、2人共。とにかくみんな無事でカオスさんも追っ払えたんだし、今はそれを良しとしておこうよ」

 そはらが仲裁に入って何とか2人を宥める。

「シナプスの科学力の産物でもある智子はそはらと並んで大きな戦力になる。でも……」

 ニンフは大きく溜め息を吐いた。

「智樹と智子の仲違いは深刻。これは先が思いやられるわね……」

 タイプが異なる最強のエンジェロイドが2人。そして、謀略であれば郡を抜きん出た人間の少女。カードを狙っている勢力は他にもいるかも知れない。

 少しも楽観視出来ない状況にニンフは頭を抱えるしかなかった。

 

 

 続く

 

 

 

 

 


 
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