第十話 ~~10人目っ!?~~
ん~、今日も蜀の街は平和だ。
街の大通りを歩きながら、俺は心の中でそんな事を呟いていた。
今日、俺は久しぶりの休日だ。
なんたってあの紅蓮隊の一件からここひと月はぶっ続けで仕事仕事だったからな。
紅蓮隊によって出た領土内の村や町の被害状況の整理にその対策。
それに今回の件で力を貸してもらった呉の面々との情報交換やこれから先の方針など、やる事は山積みだったのだ。
皆の協力もあってやっとそれらもひと段落し、呉の面々も先日国へと帰って行った。
小蓮さんはずっと国に帰るのを嫌がっていたけれど、あきれ顔の蘭華に引きずられるようにしてしぶしぶ連れて行かれていた。
全くあの人は、成長しても性格は昔と変わらないんだから。
そもそも、彼女は呉の初代国王の娘であって、二代目、三代目の妹なんだから、本当は彼女こそ四代目の国王になるべき立場のはずなんだ。
なのに、『今はもう次の時代だから』なんてもっともらしい事を言って、王位を継ぐ事無く姪の蘭華にゆずったらしい。
それでも一応は王の相談役という立場で蘭華たちのフォローをしているらしいけど、どう見ても苦労を増やしている様な気がしてならない。
蘭華のヤツも大変だな。
そう言えば別れ際に蘭華の奴が、『ちゃんとこまめに連絡をよこしなさいよっ!』と怒鳴っていたけど・・・・・また会ったときにどやされても嫌だし、暇があったら書いたほうがよさそうだな。
でもそんな話を愛梨に何気なく話したら、顔は笑っていたけどあからさまに不機嫌オーラが出てたんだよね。
昔からそんな感じだけど、なんで愛梨と蘭華と若干険悪ムードなんだろうか?
女心というのはよく分からない。
それから、もうひとつ気になっているのは、紅蓮隊の首領だった儀招という男の話に出て来た正体不明の男の話だ。
儀招の話では、自分はある男に操られて、紅蓮隊の頭領に仕立て上げられ、しかもその間の記憶はあいまいだと言う。
そのある男とやらの正体は、どうやら俺と同い年くらいの青年であるらしい事以外情報は全くない。
でも、紅蓮隊ほどの規模の人間を人為的に、しかも個人の力で操っていた存在が本当にいるのだとしたら、それは間違いなくこれから先俺たちにとっての脅威になる。
もちろん麗々や煌々にも相談してみたが、彼女達もにわかには信じられないといった反応だった。
そりゃ、俺だって儀招の話をそのまま鵜呑みにする訳じゃないけどさ。
はぁ~・・・・・。
まぁ、考えるのはこれくらいにしよう。
俺の無い頭でこれ以上考えたって、天文学的確率でものすごい妙案が浮かぶとは考えにくいし、何より正体が分からないうえに真偽も定かじゃない事に必要以上に不安になっても仕方が無い。
俺は頭の中のスイッチを仕事からオフモードに切り替えて、今はとにかくこの久しぶりの休日を楽しむことに決めた。
――◆――
「あら、関平将軍。 今日はおひとりですか?」
通りを歩いていると、果物屋のおばちゃんに声をかけられた。
「ああ、まぁね」
立ち止まって、片手を挙げておばちゃんに挨拶する。
実を言うと、この世界に帰ってきて最初のころはまだ関平って呼ばれるのに慣れてなかったから、こんな風に呼ばれても気づかなかったりしていた。
でも最近やっとこの名前にも馴染んできて、すぐに反応できるようになった。
・・・・自分の名前に慣れないとか、考えてみると結構アホだな、俺。
「最近店の調子はどう?」
「ええ、なかなか好調ですよ。 最近は野盗も減ってきたみたいで、品物もたくさん仕入れるようになりましたからね」
「それは良かった」
商品の仕入れがスムーズになれば、それだけ売りに出せる商品が多くなるわけだから値段を安く提供することができる。
値段が安ければ街の人たちも頻繁に買うようになるから、それによって更に商売が円滑になる。
学校で習った需要と供給ってやつだ。
こうやって街の人たちと会話することで、今この国がどんな状況にあるのか、どんな事を対策して行かなければいけないのかを知ることができる。
だから、街の人と会話する事はとても重要なんだと、桜香が言っていた。
確かにその通りだ。
だから俺も、こうして街に出かけたときにはなるべくたくさんの人と会話するようにしている。
「それより、今日は美味しい桃がたくさん入ったんですけど、よろしければどうですか? お安くしときますよ」
「お、いいね」
丁度、城のみんなになにかお土産でも買っていこうかと思っていたところだ。
桃なら、妹たちも皆大好物だし。
もちろん俺も大好きだ。
「それじゃあ、10個もらおうかな」
「毎度ありっ! じゃあ3つ程おまけしておきますね」
「お、マジで?」
おばちゃんが笑顔で、10個プラス3個の桃を紙袋に入れて渡してくれた。
その袋を受け取って、代わりに代金を手渡す。
「はい、確かに。 またごひいきにお願いしますね」
「ああ、ありがとう」
おばちゃんにお礼を言って、紙袋を抱えたまま店を後にした。
「さてと・・・ひととおり待ちも見て回ったし、そろそろ帰ろうかな」
両手いっぱいに桃を抱えたまま歩きまわるのも疲れるし。
まだ時間は早いけれど、せっかくの休みだ。
残りの時間は仕事での疲れを取るのに部屋でのんびり、なんてのもいいじゃないか。
ということで、俺は城に戻る道を歩き出した。
休日とはいえ、街の様子もバッチリ視察できたし、桃もおまけしてもらったし、かなり得した気分だ。
両手に抱える桃の重さを感じながらも、上機嫌で城に続く通りを歩いていると・・・・・
「・・・・ん?」
目の前の光景に少し異変を感じて、俺は足を止めた。
大通りの真ん中、丁度俺が今から通ろうとするところになにやら人だかりができている。
旅の芸人がなにやら大道芸でもしているのかとも思ったけど、近づいてみるとどうやら違うらしい事が分かった。
人だかりの民衆たちの表情は、芸を見ていると言った楽しそうなものじゃなく、なにやら中心の方を不安げに見つめていたからだ。
これは何か事件でもあったのかもしれない。
俺はそう思って、人だかりの方へと駆け寄った。
すると、人だかりの中に知った顔が居ることに気が付いた。
それは、鎧を身に付けた城の兵士だった。
どうやら兵士は、集まった群衆が騒がないようになだめているようだった。
その兵士に近づいて、俺は声をかける。
「なぁ、何かあったのか?」
「! これは関平様。 丁度良いところに」
俺に気付いた兵士は軽く礼をしてから、この状況を説明し始めた。
「実は街を警邏していた途中、なにやら怪しい女を発見いたしまして・・・・」
「怪しい女・・・・?」
「はい」
頷きながら、兵士は困ったように人だかりの中心の方へと目を向けた。
この人だかりの先に、その怪しい女とやらがいるらしい。
「俺も様子を見たい。 中に通してくれ」
「はっ!」
強く返事をして兵士は群衆をかき分けて道を空けてくれた。
俺もその後に続いて、人だかりの中心へと進んでいく。
両手に抱えた桃の袋が邪魔になるので、桃を買う前にこの騒動に出くわしたかったと少し後悔する。
それでもなんとか人の群れを抜けると、その中心では確かに数人の兵士に囲まれている一人の少女がいた。
・・・だけど、正直にいって俺は少し拍子抜けしてしまった。
というのも、その少女というのが俺の想像とはあまりにかけ離れていたからだ。
なんせ警邏隊の兵士が怪しいといって捕まえるくらいだから、なんかこう魔女的な・・・・不気味な雰囲気の女を想像していたんだけど・・・・
実際にそこにいたのは、俺の想像とは似ても似つかない、俺と同い年くらいの少女だったのだ。
身長はスラリと高くて長い羽織を着た、この辺りの生まれとは思えない長くて綺麗な銀髪と碧眼の、はっきり言ってかなりの美少女だ。
正直、その神秘的な姿に少し見とれてしまった程だ。
確かに、この辺りでは見慣れない容姿という点で言えば怪しいと言えなくもないが、そんな理由で警邏隊が捕まえるはずがない。
・・・と思ったが、改めて少女の格好をよく見ると、その理由は一目瞭然だった。
なんとその少女は左右の腰に二本ずつ、右肩にも二本、更に左肩にも一本と、合計七本もの剣を身に着けていた。
なるほど・・・・。
そりゃ、この大通りを七本も剣を持って平然と歩いてれば捕まりもするか。
驚き半分、呆れ半分で俺が少女を見つめていると、少女を囲んでいる兵士の一人が声を上げた。
「お前、一体何者だ! 何の目的でこの街に来た!」
「・・・・別に名のる必要はないな。 悪いが通してくれないか? ボクは城に行きたいんだ」
大きな声を上げる兵士とは対照的に、少女は冷静に・・・・というかどこかけだるそうに呟くように答えた。
目も若干半開きで、やる気のなさそうな表情だ。
「そんな恰好で、城に通すわけにはいかん! いったい城に何の用だ!」
「・・・その質問も、別に答える必要はない。 君には関係ない事だ」
「貴様っ・・・・!」
少女の態度にしびれを切らしたのか、一人の兵士が少女に掴みかかろうとした時だった・・・・・。
「ボクの邪魔をするな・・・・・っ!」
“ズバババッ!!”
「「がぁ゛っ!?」」
「「ぐあっ・・・・!!」」
「なっ・・・・・!?」
一瞬の出来事で、俺も目で追うのがやっとだった。
掴みかかろうとした兵士を含め、少女を囲んでいた数人の兵士達が一気に吹き飛ばされてしまったのだ。
その中心にいた少女の両手には、今の瞬間で抜きはなったであろう剣が一本ずつ握られていた。
俺が持っている剣と同じ様な、日本刀に似た形のものだ。
俺は持っていた桃の紙袋を地面に置き、慌てて地面に倒れこんでいる兵士の傍へと駆け寄った。
「おい、大丈夫かっ!?」
「ぐぅ・・・・は、はい。 申しわけ・・・・ありません」
兵士は攻撃を受けたらしい腹を押さえて苦痛に顔を歪めているが、そこから血は出ていない。
どうやら、刀の刃ではなく御打ちだったらしい。
とはいっても、これはまぎれもなく障害事件だ。
俺は立ち上がって、いまだに刀を収めていない少女を睨みつける。
「君、一体どういうつもりだ?」
俺の質問には答えず、少女はただ俺に視線を移すだけ。
そしてさっき兵士に応えた時と同じように、けだるそうに口を開いた。
「・・・君もボクの邪魔をするのか?」
「何・・・?」
「それなら、容赦しないぞ」
「なっ・・・・・!?」
言うが早いか、少女は一瞬にして俺との間合いを詰め、手にした刀を俺に向かって振り下ろした。
“ギィィンっ!!”
「くっ・・・・・!」
間一髪だ。
少女の刃が届く前に、俺も何とか刀を抜いて受け止める事ができた。
休日でも念のために刀を持ち歩いていてよかった。
「へぇ・・・・なかなかやる」
刀越しで少女はそう言うが、その顔は相変わらず無表情だ。
「こんの・・・・っ!」
俺は刀を握る手に力を込めて、少女を弾き飛ばした。
少女は後ろに飛びずさったが、体勢を崩すことなく着地した。
俺は少女の反撃を警戒し、剣を構えなおす。
しかし少女はそれ以上間合いを詰めようとはせず、刀を持った右手を少し振りかぶった。
「じゃあ、これは止められるかい?」
「?」
こんな距離から一体どんな攻撃をするつもりだ?
“ビュンっ!”
「いぃ゛っ・・・・・!?」
なんと少女は、振りかぶった右手の刀を俺に向かって投げ飛ばした。
矢の様なスピードで真っ直ぐに俺に向かってくる。
そんなんありかよ!
「ちっ・・・・!」
“ギィィン!!”
俺は何とか飛んできた刀を弾き飛ばしたが・・・・・
「よく止めたな」
「っ!?」
目の前には、すでに間合いを詰めた少女が左手に残った刀を振りかぶっていた
くそ・・・・なんつー速さだ。
“ビュン!”
少女の剣を間一髪のところでかわし、反撃の為に剣を構える。
よし、この隙に打ちこんで・・・・・
「・・・・まだだよ」
「何っ!?」
“ガギィン!!”
いつの間にか、先ほど刀を投げたはずの少女の右手には新たな刀が握られていて、俺の攻撃をはじき返した。
「ちっ・・・・!」
思わぬ反撃に体勢を崩した俺は、一度後ろに飛びずさって体勢を立て直す。
そうして改めて少女の姿を見ると、先ほどまで刀が抜かれていた両腰の二本の他に、右肩の鞘が空になっていた。
つまり俺に刀を飛ばした後の一瞬の隙に、別の刀を抜いて反撃に備えてたってことか・・・・。
なんて子だ。
スピードと技の鋭さだけなら、恐らく心と同等か・・・・もしかしたらそれ以上。
どちらにしても、手を抜いて勝てる相手じゃないな。
「すぅ~、はぁ~・・・・」
俺は深く深呼吸をして、もう一度気を引き締める。
この子は強い。
女の子相手に本気を出すのはどうかと思ったけど、そんな事を言ってる場合じゃない。
「来い・・・・!」
俺の言葉に反応してかは分からないが、少女は俺に向かって勢いよく走りだした。
俺はその場から動かず、少女の初撃を止める為に待ち構える。
そして二人の間合いが詰まり、少女が俺めがけて刀を振りおろそうとした時・・・・・。
“ギィィン!!”
「っ!?」
少女の刀を受け止めたのは俺ではなく、突然後ろから現れた人影だった。
その背中は、よく知っている。
「愛梨っ!?」
俺に変わって少女の攻撃を受け止めたのは、愛梨だった。
刀越しに少女を睨みつけながら、愛梨は険しい表情で言った。
「全く、兵士の連絡を受けて来てみれば・・・・・やっぱりお前か」
「え?」
“ガギンっ!”
愛梨と少女はお互いに刃を弾き合い、距離を取った。
「兄上、ご無事ですか?」
「あ、ああ。 それより愛梨、あの子と知り合いなのか?」
愛梨の質問に答えながらも、俺は少し戸惑った様子で問いかけた。
「えぇ、まぁ。 詳しい説明は後で致します。 今はとにかく、奴をどうにかしなければ」
そう言って愛梨は、険しい表情のまま手にした青龍刀を構えなおす。
・・・・いや、ていうかちょっと待とうよ。
「どうにかするって・・・・あの子と知り合いなんだろ? 戦っちゃっていいのか?」
「あれはああなると、一度大人しくさせるしかないのですよ。 しかし既に兄上もご存じの通り、奴は相当な使い手です。 これ以上被害が出る前に、私と兄上の二人係で確実に仕留めます」
「あ、ああ。 わかった」
いまいち状況が理解できないけど、愛梨がそう言うなら仕方ない。
俺は愛梨の隣に立ち、剣を構えて少女の方へ視線を向ける。
対する少女はと言えば、突然現れた愛梨に特に表情を変える様子もない。
・・・・本当に知り合いなのか?
「二人がかりか・・・・おもしろい。 まとめて来い」
「言われなくてもそうしよう。 兄上、行きますよ!」
「お、おうっ!」
勢いよく走りだす愛梨の後に俺も続く。
そして少女と愛梨との距離が詰まると少女は愛梨に向かって思い切り刀を振るが・・・・・
“ビュン!”
「っ!?」
少女の刀は空を斬った。
少女が刀を振る瞬間に、愛梨は上空に飛び上がったのだ。
そして刀を振り抜いた体勢の少女の目の前には、愛梨の背後にいた俺が距離を詰めている。
「はぁぁっ!」
“ガギンッ!”
俺の攻撃は、先ほどと同じ様に反対の手に握った刀で受け止められた。
でも、ここまでは予想通りだ。
「愛梨っ!」
「はいっ!」
「・・・・上か」
少女が気づいたように顔を上げると、先ほど飛び上がった愛梨が少女の頭上めがけて青龍刀を振り下ろすところだった。
「くっ・・・・!」
愛梨の攻撃を、少女は後ろへ飛んでかわす。
だけど、それも予想通り。
「悪いね。 後方注意だよ」
「っ!?」
少女は驚いた様子で後ろを振り返る。
そこには、愛梨の攻撃に気を取られている隙に背後へ回っていた俺がいた。
「はぁぁ゛っ!」
俺は少女めがけて、渾身の力で横なぎに刀を振った。
“バキィィっ!!”
「ぐぅ・・・・っ!」
少女は俺の攻撃を受け止めたが、その表情は先ほどとは違って少し険しさが表れていた。
「今度はこっちだ!」
「っ!?」
後方から聞こえた声に、俺の攻撃を防いだまま少女が振り返る。
先ほど攻撃をかわされた愛梨は既に距離を詰め、少女に向かって青龍刀を振り下ろした。
“ギィィン!!”
だが、またしても少女はその攻撃をもう一方の手に持っていた刀で受け止めて見せた。
二人がかりの攻撃を両方受け止めるなんて・・・改めて少女の強さを実感する。
さすがの愛梨も、苦虫をかみつぶしたような表情だ。
「・・・さすがだな。 まさか二人がかりでここまで攻撃をかわされるとは思わなかった。 だが・・・・・」
言いながら、愛梨は“ニヤリ”と笑った。
「これならどうだ!」
突然愛梨は青龍刀を持っているのと反対の手に持っていた何かを少女に向かって振り上げた。
“ビュン!”
「っ!? ボクの刀・・・・・!?」
少女は愛梨の一閃をなんとか身体をそってかわした。
愛梨が空を斬ったのは、少女が先ほど俺にめがけて投げた刀だった。
俺の攻撃に少女が気を取られている隙に、地面に落ちていた刀を拾い上げていたらしい。
俺もまさかこんな攻撃は予想していなかった。
「兄上、今ですっ!」
「あ、ああ!!」
愛梨の攻撃が予想外だったのは少女も同様だったらしく、なんとか攻撃をかわしたものの少女は完全に体勢を崩して無防備な体勢になっている。
俺は愛梨の合図に応えて、少女に向かって渾身の力で体当たりした。
「ぐぅ・・・・!!」
その衝撃で吹き飛ばされた少女は、壁に叩きつけられてそのままうずくまった。
“チャキ”
「!・・・・・・」
それでも立ち上がろうとする少女の前に、光る刃が付きつけられた。
愛梨の青龍刀だ。
「まだやるか?」
「むぅ・・・・ボクの負けだ」
少女は負けを見た様子で、肩を落とした。
それを見た愛梨は構えていた青龍刀を降ろし、力が抜けたように大きくため息を吐いた。
「はぁ~。 全く・・・久しぶりに帰ってきたと思ったら毎度毎度似たような騒ぎばかり起こしおって・・・・・。 いい加減にしないか、晴(はる)っ!」
「?・・・・どうしてボクの名前をしってる?」
晴・・・・というのは、恐らく少女の真名なんだろう。
愛梨にそう呼ばれた少女は、不思議そうにキョトンとした表情を浮かべている。
そんな少女の両肩をガシッと掴んで、愛梨は思いっきり顔を近づけた。
「よく見ろ! 私だっ!」
「・・・・・・・」
少女は無表情のまま、愛梨の顔をじっと見つめる。
そしてその状態が10秒くらいの間が空いて・・・・・・・
「・・・・・・おお。 なんだ、愛梨じゃないか」
“ポン”と手を叩いて、少女は思い出したように言った。
「はぁ~、やっと思い出したか」
愛梨は少女の肩から手を離して、困ったように額に手を当てた。
「なぁ、愛梨。 それで、その子は何者なんだ?」
二人のやりとりから完全に蚊帳の外になっていた俺は、どうやら一件落着になったらしい雰囲気だったので愛梨に問いかけた。
「ああ、すいません。 こやつは周倉(しゅうそう)といって、私たちと共に城に住んでいる者なのですが・・・・・こやつには厄介な忘れ癖があって、ひと月も合わないとすぐに人の顔を忘れてしまうのですよ。」
「えっと・・・・じゃあ、その忘れ癖のせいで愛梨を見ても敵だと思ったってこと?」
にしてもたった一か月で一緒に住んでいる人の顔を忘れるなんて、どれだけぶっ飛んでるんだよ。
「ええ。 うかつでした・・・・。 警邏をしていた兵たちが全員最近入った者ばかりだったので、晴の顔を知らなかったのでしょう。」
なんつー迷惑な・・・・。
そんな理由で叩きのめされたんじゃ、警邏隊の皆がかわいそうでならない。
「ほら、晴。 自分の口でちゃんと名乗らんか」
「むぅ・・・・・」
愛梨に促された少女は立ち上がり、自己紹介をしてくれるかと思いきや、俺に近づいてきてじっと俺の顔を見つめて来た。
「えっと・・・何、かな・・・・?」
「・・・君の顔は記憶にないな。 いったい誰だ?」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で、少女は首をかしげている。
こうして近くで見ると本当に綺麗な顔してるな・・・・・・
なんだかこっちが照れてしまう。
「昔話した事があるだろう。 その方が私たちの兄の関平様だ」
俺が答える前に、少女の後ろから愛梨が答えてくれた。
「ほう。 君が噂の兄上殿か」
「あ、ああ。 関平定国っていうんだ。 愛梨の知り合いみたいだし、真名で章刀って呼んでくれていいよ」
「そうか。 じゃあボクも真名を名乗らなきゃいけないな。 ボクは周倉。 真名は晴という。 晴と呼んでくれて構わない。 何か他に聞きたい事はあるかい?」
「ありがとう。 それじゃあ早速だけど、晴は愛梨とどういう関係なんだ?」
城で一緒に住んでいると言っていたし、あれだけの武の持ち主だ。
さしずめ桜香に仕えている将軍ってところだと思うんだけど、どうしてそうなったのかという理由が気になった。
けど俺の質問を聞いて、晴はまた首をかしげて今度は愛梨の方を向いた。
「ん? なんだ愛梨、ボクの事は話していないのか?」
「ああ。 お前が帰って来てから話すつもりだったからな。」
「えっと、どういう事?」
どうやら二人の間で話が進んでいるようだけど、俺には何が何だか分からない。
「フム・・・・そうだな。 説明するのは少し難しいが、簡単に言えば・・・・・ボクは君の妹だ」
「・・・・・・・・・・へ?」
えっと・・・・今何て言った?
「聞こえなかったかい? ボクは君の妹だと言ったんだよ、章刀」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ええぇぇぇ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!???????
俺は心の中で、恐らく後にも先にも人生で最大であろう大絶叫をあげた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 愛梨、晴が俺の妹って・・・・・」
俺は驚きっぱなしの間抜けな表情のまま愛梨に問いかけるが・・・・
「ええ、まぁ・・・・・事実です」
まじですか?
訳が分からない。
この子が俺の妹だって!?
いやいやいや、そんな訳ない!
てゆーかありえない!
だって、俺の一番下の妹は愛衣だ。
それは間違いない。
でもこの晴はどう幼く見積もっても愛梨や桜香と同い年がいいところだ。
俺がこの世界にいたころに生まれていなきゃおかしい。
いや、待てよ・・・・・
もしかして、父さんにはまだ俺の知らない相手が・・・・・・・
「なぁ、章刀」
一人で頭を抱えている俺の様子が気になったのか、晴が声をかけてくる。
だけど、俺は今それどころじゃない。
「ちょっと待ってくれ! 今俺は必死にこの状況を理解しようとして・・・・」
「何か勘違いをしているようだから言っておくが、ボクは君の本当の妹ではないよ」
「・・・・・・・へ?」
今までオーバーヒート寸前だった俺の頭から、スーっと熱が引いていった。
「ボクは君と血のつながりは無い。 つまりは養子ってところかな」
「・・・・養子?」
キョトンとしている俺の言葉に、愛梨はコクリと頷いた。
「ええ。 兄上たちが姿を消してからすぐになりますか・・・・・。 晴は、母上が昔訳あって養子として家に迎えたのです。 なので、兄上にとっては義理の妹という事になりますね」
「はぁ~・・・・。 なんだ、そういうことか」
マジで焦った。
てっきり父さんに隠し子がいたのかと疑ってしまった。
あの人なら本気でありえそうだからな・・・・・・
「理解したかい? それでは改めて章刀、君の事は何と呼べばいいかな? 愛梨と同じ様に兄上が良いか? それともお兄ちゃんの方が好みかい?」
そう言って、晴は相変わらず目は半開きのままいたずらっぽく笑みを浮かべた。
「いや、晴の好きなように呼んでくれていいよ」
「そうか・・・・。 それじゃあ、章刀のままが良いな。 兄上なんて言うのは、正直こそばゆい」
「こら、晴! 兄上を呼び捨てになど・・・・」
「いいよ愛梨。 なんだか晴にはそう呼ばれた方がしっくりくるし」
「はぁ・・・・。 兄上がそう言うのでしたら・・・・」
俺がなだめると、愛梨は渋々と言った様子で納得してくれた。
「そんなことより、そろそろ城に戻らないか? 正直もうヘトヘトだよ」
せっかくの休みだというのに、晴との戦いでどっと疲れてしまった。
早く城に戻ってゆっくり休みたい。
「あ、そう言えばお土産に美味しそうな桃を買ったんだ。 城に帰って皆で食べよう」
俺は思い出したように、地面に置きっぱなしだった紙袋を拾い上げた。
うん、どうやらつぶれたりはしてないみたいだ。
「おお、それはいいな。 ボクも桃は大好きだ」
「待て晴。 久しぶりに帰ってきたのだから、お前にはやることがたくさんあるのだぞ?」
「むぅ・・・・・・」
愛梨に釘をさされて、晴れは唇をとがらせている。
最初は無表情な子かと思ったけど、実はそうでもないのかな?
「はは。 まぁ良いじゃない。 今日は晴の歓迎会にしよう」
そんな風に話しながら、俺たちは三人で城への道を歩いて行く。
正直少し驚いたけど、この日、俺には思いがけない10人目の妹ができたのだった――――――
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オリジナルキャラクターファイルNo.009
一応本家の三国志では、関羽の右腕として登場する人物です。
どうやら実在した人物ではないらしいですが、小指で大岩を持ち上げたり、赤兎馬に乗った関羽の
後ろを自力で走ってついて行くなど、かなり無茶苦茶なキャラですが、さすがにそこまでさせる気はありません。
一応こちら全体図↓
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またまた前回からひと月空いての投稿です 汗
今回新たに新キャラが登場します。
ではでは読んでやってくださいww