No.418174

真・恋姫無双 EP.98 攻防編(2)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
(´・ω・`)
楽しんでもらえれば、幸いです。

2012-05-04 16:55:12 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3032   閲覧ユーザー数:2707

 初戦は劉備軍が勝利を収めた。しかし突出した一万のオーク兵を追い返したものの、逃げた兵は残りの先鋒部隊と合流して陣を張ったようだ。多少は減ったとはいえ、それでも四万以上はいる。

 

「指揮官でもいるようだな……」

 

 偵察からの報告を聞きながら、ぽつりと白蓮が漏らす。それは全員が感じていたことだった。

 

「森の中に陣を張ったようですが、なぜでしょうか?」

 

 焔耶が師匠でもある桔梗に訊ねた。

 

「ふむ……おそらくは、まだ積極的に攻めるつもりはないのじゃろう。森の中に陣を張られると、こちらはいささか攻めにくいからのう」

「確かに、それはあるな」

「なぜですか?」

 

 星が同意するが、焔耶にはわからないようだ。

 

「長安の民も、森の恵みを受けておる。森を荒らすことは、民の生活を守る我らの仕事に反するのじゃ。それに火攻めも出来まい。燃え広がれば、仮に何進軍を退けても民が離れてゆく。それでは意味がないじゃろう」

「はあ」

「もっとも、連中がそこまで考えたとも思えんがな」

 

 本隊が来るまで、まだ時間が掛かるということなのだろう。何進軍が急ぐ理由はない。森の中に陣を張ったのは、単に食料が豊富なためだった。互いの陣は、まだ一キロ近くも離れている。

 

「できれば少しでも兵力を削って起きたいところじゃのう……」

 

 桔梗がみなの気持ちを代弁するように漏らす。その時だ。不意に外が騒がしく、兵士がなにやら叫んでいるようだった。

 

「何事じゃ!」

「た、大変です! り、竜が現れました!」

 

 

 天幕の外に出ると、巨大な竜が長安の上空を旋回していた。

 

「あれは赤竜……呂布じゃな!?」

「どうやら降りてくるようですぞ」

 

 星たちは慌てる兵士を落ち着かせて、ともかく降りてくる呂布を出迎えた。彼女が天の御遣いと共に行動をし、現在は曹操軍に身を置いていることはすでに知っていた。いきなり襲ってくるような事はないだろう。

 ゆっくりと降下する赤竜には、二人の人の姿が見えた。

 

「我が名は陳宮、そして一騎当千の呂布殿ですぞ!」

 

 赤竜の背中から、小さな女の子が叫んだ。すると、呂布が陳宮を抱えて飛び降りたのである。地面に着地した二人は、様子をうかがう星たちのもとにやって来た。

 

「義により、我々も助力するのです! ここの責任者は誰なのですか?」

「ここの領主は劉備殿じゃが、今は少し席を外しておる。あの呂布に協力してもらえるのなら、我らとしてもありがたい限りじゃ」

 

 桔梗が代表して応え、呂布と陳宮を迎え入れた。

 

「さっそくだが、何か策でもないだろうか? どうにも我らは、頭を使うことが苦手な者ばかりでな」

 

 星の問いかけに、陳宮が腕を組んで考え出す。現在の状況とこちらの兵力を聞く限り、とても勝ち目がありそうには思えない戦いだった。

 

「今できることは、少しでも向こうの戦意を削ぐことでしょう。本隊が到着するまでが勝負なのです。部隊を細かく分けて、昼夜を問わずに休みなく攻撃を仕掛けます。同時に呂布殿がセキトで空を旋回すれば、オークたちも落ち着いて寝て居られないでしょう」

「なるほど、確かに上から見られるのは嫌なものじゃからな」

 

 陳宮立案の策に異論はなく、すぐに実行のための準備が進められた。

 状況は変わらず不利なままだったが、呂布の参加が少なからず兵士の士気を上げる役目を果たした。呂布の強さもそうだったが、彼女が曹操軍の一員であることは知られている。心のどこかで、曹操軍が助けに来てくれるのではないかという希望があったのだ。

 桔梗たちはそんな部下の様子に気づいてはいたが、あえて何も口にはしなかった。

 

(曹操が長安のために動くことはあるまい)

 

 それが首脳部の面々による、共通の見解だった。ただ今は、その希望が兵士を支える命綱でもあったのである。

 

 

 それは、ほんの小さな割れ目だった。薄暗い洞窟の中では影になって見つからない、そんな場所にある。子供がようやく通れるほどの割れ目の奥には、数人が入れるほどの空間があった。

 最初にその割れ目を見つけたのは、美以だった。

 

「もしかしたら、抜け道があるかもしれないにゃ」

 

 そう言って中に入ったが、結局、行き止まりだったのだ。それからしばらくは、その割れ目のことは忘れていた。しかし突然、大勢の男たちがやってきて子供たちを連れだそうとした時に、美以は仲良くなった璃々、美羽と共に割れ目の奥の空間に隠れたのである。

 

「な、なんなのじゃ?」

「あれは売られるんだよ、きっと」

「売られる? そうすると、どうなるにゃ?」

「もう、みんなとは会えないんだよ」

 

 美以、美羽の問いかけに、一番幼いはずの璃々が答えた。

 

「また知らない場所に連れていかれるのは、嫌なのじゃ……」

「美以もにゃ。せっかく、二人と仲良くなれたのにゃ」

「ここに隠れていたら、諦めて帰るかもしれないよ」

 

 三人は身を寄せ合って、息をひそめた。明かりのない真っ暗な中、時折、足音が近づき話し声が聞こえる。そのたびに、震える美以と美羽を璃々がぎゅっと抱きしめた。

 

「もう、いないんじゃないか?」

「よし、行くぞ!」

 

 そんな声が響き、足音が遠ざかる。やがて静寂のなか、璃々はホッと安堵とともに力を抜いた。

 

「もう、大丈夫かな?」

「本当かえ?」

「にゃ……」

 

 三人が割れ目から出ようと、体を動かした時だった。激しい轟音と共に、洞窟全体が大きく揺れたのである。

 

 

 地震かと三人は手を取り合い、不安そうに身を強ばらせた。やがて揺れは収まり、再び静寂が戻る。

 

「出てみよう」

「うむ」

「にゃん」

 

 三人は割れ目から這い出ると、壁に手をつきながら立ち上がる。真っ暗で何も見えず、手をつないで進むことにした。

 

「何も見えないのじゃ」

「ここは美以に任せるにゃ」

「おおっ! さすがなのじゃ」

 

 美羽は最近になってここにやって来たのだが、美以とは真名が似ていることもありすぐに打ち解けた。以来、美羽は美以のそばから離れないのである。

 

「確か、出口はこの辺だったはずにゃ」

「塞がっているね……」

 

 まだ崩れて新しい細かな砂利を触りながら、璃々が呟く。

 

「閉じ込められたのか? どうするのじゃ?」

「どうするにゃ?」

 

 美羽と美以が璃々に問いかける。いつもわからない事を聞くと、幼い璃々が教えてくれた。だから二人は今の状況も、何とかしてくれるのではないかと軽く考えていた。だが、璃々に答えはない。

 

「どうしよう……」

 

 自分たちの身の上に何が起きたのか、幼い璃々にわかるはずもない。どうしてみんなが連れ出されたのか、どうして出入り口が塞がれたのか……そして、これからどうなるのか。

 

(お母さん……)

 

 璃々は泣き出しそうになるのを堪えるだけで、精一杯だったのである。一筋の光もない暗闇が、まるで三人の運命を暗示するかのようだった。


 
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