No.417430

蜥蜴皮膚の男:1-1

アジア、アフリカのような架空世界のファンタジー物。

2012-05-03 02:15:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:302   閲覧ユーザー数:292

 

蜥蜴皮膚(リザードスキン)

 

灼熱の太陽が乾いた大地を照らしている。

ちりちりと、後頭部を焼かれているような感覚に目眩を起こしそうになる。

その光源を手で覆い隠すと、手のひらはオレンジ色に輝き、指と指の間から強烈な光が、熱を伴い射しこんでくる。

 

鼻の付け根や、こめかみからじわじわと水分があふれ出てくる。

生ぬるい汗が頬を伝っていく。

汗の伝った後には穴を掘る度に巻き上がる砂埃がへばりつき、気持ちが悪い。

 

そろそろ引き揚げたほうがよさそうだ。

もうどれくらい掘り続けているのだろうか。

朝日が出てくる前に体を温めることも含めて掘り始めていてが、日はすでに頭上にまで来ている。

休むべきだろう。熱中症にかかってしまったら元も子もない。

ヴァダンは大きく息を吸い込むと、二メートルほど掘り進めた穴の中に座り込んだ。

ふうと大きく息を吐く。無理をしすぎたのかもしれない、脂汗がどっと噴き出し口の中はしょっぱい唾液が出てきている。

 

体育座りの状態で、頭を両膝の中に入るほどうなだれ、ヴァダンは息を整える。

落ち着いてきた。

汗で体が冷やされていくと、頭が冴えてきた。

ふとあの少女のことを思い出す。

今思えば、なにも言っていないまま穴を掘りに来てしまった。

スコップ代わりに使っていた木の棒を支えに立ち上がると。

 

「あのぉ…」

 

蚊の鳴くような声で、少女が穴を覗き込んでいた。

少女は決して流暢ではないが、一つ一つ言葉を確認するように

 

「日中は…病気…熱になると思います。」

彼女が悪いのではない。彼女は自分に合わしてくれているのだ。

 

「すまない、余計な気を使わせた。もう休むから。」

 

勢いをつけて穴の淵に膝をかける。

両腕を使って穴から飛び出る。

少女は巻き上がる砂を、背丈には少し多い目の貫頭衣を頭まで上げて防いでいる。

当然前も見えなく足場が不安定な砂漠では転んでしまい、少女はうぅと唸っている。

なんとも微笑ましい光景なのだが、自分たちの置かれた状況を考えると悠長にもしていられない。

なんとかこの砂漠から脱走する、いや後数日でも生き延びられることができれば希望は見だせるかもしれない。

すべては二日前、あの村で巻きこまれたことのせいなのだが

 

ヴァダンは悲鳴を上げながら砂丘を転げ落ちていく少女を責める気にもなれなかった。

 

 

         ※二日前

 

 

びゅうびゅうと砂塵が突風に巻き上げられ、飛ばされていく。

麻でできた外套では防ぎようもなく、皮膚が突き刺さされているかのように痛む。

三日前に遊牧民の野営地をでてから、ろくな食事にありつけていない。

砂嵐の季節ではないと侮って備えを怠った自分を呪う。

呼吸をするたびに口の中に砂が入り込んでくる。

 

口内は乾き切っており、唾の一滴も出てきやしない。

 

足が砂地に埋もれていく。

 

踏み出す気力もない。

 

自分が砂丘を上っているのか下っているのかさえ分からなくなっている。

心が闇に支配されていく。

死ぬ瞬間が来たのだろうか。

砂丘に蹲り、空を見上げる。

先ほどまで砂の分厚い壁によって遮断されていた砂漠に、針のような細い光の柱が射しこんできている。

嵐の終わりを告げているのだ。

高く澄んだ青空が見え始めてきた。

助かったのか。

 

しかし、予定の道のりから大幅にそれてしまった。

ここが砂漠のどこかも分からない。

砂に埋もれている身体をおこすと、砂丘の奥に岩の塊のようなものが見えた。

頭巾を脱ぎ、立ち上がって岩のようなものを凝視する。

男が立つ姿は、砂漠に一本の朽木が生えているかのようである。

二メートルはあるであろうこの者の身の丈とそれに合わせるようにして長く、丸太のような四肢。

その体躯にも関わらず、肉つきは悪くそれがより朽木と思わせる。

肌は日に焼けているが、おそらくは白肌の種族であろう。

 

そして何より目を引くのは、顔の右半分を細長い布で覆っているのである。

瞳は黒く少し濁っているが、何かの決意を秘めた力を持っている。

 

徐々に視力が回復してきた。

男は砂丘の奥をにらみつけていると自らの幸運に驚く。

岩のようなものは人の手で築かれた、土塀であった。

残る気力を振り絞って男は土塀に向かって走り出す。

わずかな希望がそこにはあった。

 

 砂丘を超えていくと、土塀は村を覆うようにして築かれていた。

 泥で塗り固められた壁を見上げ、男は不思議に思う。

 この砂漠で今まで立ち寄ってきたのは、遊牧民たちの野営地であった。

 砂漠にこのような壁で村を覆い、定住している民族がいることを男は知らなかった。

 土塀の周りを歩いて行くと、土塀から丸太が数本突き出ているところがある。

どうやらここが門のようだ。

 丸太を組んでその隙間に泥を塗り、日干しにさせて固めさせているのであろう。

 門はトンネルのようになっていて奥行きが十メートルくらいあった。

いきなり日陰に入ったので視界が真っ暗になる。

中はひんやりと静まり返っている。

涼しげな風が吹いていて、ここが砂漠であることを忘れさせる。

徐々に目が慣れてくる。

すると、道の片隅に老人が腰かけている。

頭に布を巻き、腰布以外は何も身につけていない。

死んではいないようだが、やせ細っている身体を見ればこの村もまた飢餓に陥っているのだろうか。

この村だけではない、ここ数年の干ばつよって飢餓や疫病が氾濫している。

それにかこつけて、諸侯たちは軍隊を用いてこの「国」という概念のない砂漠の町や村から略奪をくりかえしているという。

ここに二、三日止めてもらえるとありがたいのだが。

どうも勝手がわからない。

とりあえずこの村の村長やら酋長に一応顔を出しと方がいいだろう。

「すまないが、酋長の住む家を教えてくれないか?」

老人は、皺まみれのやせ細った顔を上げると、しゃがれえた声で呟き始めた。

 

「――――困ったな。」

 

老人の話しているであろう言葉が、全く分からない

この砂漠で日常的に使われている言語は少しなら理解できた。

しかし、それとは全く違う。発音も単語も方言とも言えるレベルではなく、根本的に違う言語体系のようだった。

逆に老人は俺が話しかけた言葉を理解しているのだろうか?

意味不明な言葉で話しかけられ、何かを言い返しただけなのかもしれない。

しかし、こちらは何一つ分からないのである。

 

しかたがなく老人を残して村の中に入る。

村は閑散としていて、あまり人の気配がしない。

しかし日干し煉瓦で積み上げられた建物の日陰には、さきほどの老人のようにぐったりと倒れこんでいる者がちらほらいる。

水も食料も期待できなさそうだが、とりあえず休むことはできるだろう。

砂で埋もれた石畳の道を歩いていると。

突然、少女の叫び声がした。

思わず声の方向をみると、、鎖で両手両足をつながれた少女が、二人の男に連れられている。

 

人狩りか-------。

 

戦争や疫病、干ばつなどの人々が混乱しているときに乗じて婦女子を拉致し、奴隷商人に高値で売り付ける輩は多い。

いやな奴らだ。

 

実際に干ばつや疫病が生じた際に、人が死ぬ理由で最も多いのが病死や餓死ではなく略奪や拉致、強姦などの後の殺人。

もしくは、暴動鎮圧の際に国軍によって殺されたり、拘束された後の処刑。

二つ目に多いのが自殺である。

帝国では数十年前から聖徒教と呼ばれる一神教が普及しはじめ民衆と統制が行き届いていると聞くが、大陸の多くの国では宗教など持たないため治安も悪く暴動のたびに国軍を派遣するか、戦争により共通の宿敵を持たせてやることで民衆の不満の先を王朝からそむけている。

少女が大声で何かを叫び、泣き始めた。

 

その表情は恐怖で歪み、ヒステリックを起こしているようだった。

すると男が少女の額を棍棒のようなもので殴りつけた。

少女は沈黙し倒れこむ。

奴隷であれば、顔に傷は普通つけないはずだが----。

棍棒には赤い鮮血が付着しており、少女の額は紫色にはれ、鼻筋まで血が垂れてきている。

男は少女を抱えると、俺の前を横切ろうとする。

俺は目をそむける。

何もできやしない、見ず知らずの人間を進んで助けているような奴が真っ先に死ぬのだ。

長期化する戦争、飢餓、軍隊崩れの組織化された野党、疫病。

人は何かを奪うことでしか生きながらえない。

奪うことをやめたら食事だって出来やしない。

いやな奴らであるが、やつらにとって少女を奴隷商に売り飛ばすことは明日の生につながることなら、それは彼らにとっての正義であろう。

他国への侵略が正義なのだから。

顔に巻いた布を握りしめる。

瘡蓋がぱらぱらとおちていく。

男たちが通り過ぎるのを待つ。

今の自分には何もできない、武器と呼べるものも持っていない。

 

 持っていたとしても立ち向かうわけなのないのだが。

二人の男の足音は遠ざかっていく。

素知らぬ顔をして伸びをする。ふと顔を上げると。

もう一人の男がこちらを見ている。 

目が合ってしまった。面倒なことになりそうだ。身体がでかいと目立つし、馬鹿に喧嘩を売られやすい。その都度捻りつぶしてきたのだが。

男たちの身長は二回り以上自分より小さかったが、できれば争いたくない。

何より腹が減っているし、砂漠越えでくたくただった。奴らが金目のものでも持っていなければただの徒労に終わる。

 

男たちが何かを言い合っているが、言葉を理解することはできない。

このままうまくやり過ごせるだろうか?

念のため気づかれないように、足元にある日干し煉瓦を外套の中に隠し持つ。

二人ともニヤニヤしながら俺を指差し笑っている。でかい男がそんなに珍しいのだろうか。それを挑発しているというのだからきっと馬鹿なりに腕に自信があるのだろうか。

どうやら煉瓦を隠し持ったことは、気づかれてはいないようだ。

男の一人が棍棒を持って近づいてくる。

やり過ごすことは、無理のようだ。

殺されるかもしれない。

その不安で、鳥肌が立ち胃がきりきりと痛む。どんなに相手が弱くても命のやり取りになるだろう。こういった状態で相手を見逃したことは一度もなかった。

男が目の前に立ちふさがった瞬間、座ったままの状態で日干し煉瓦で男の頭を叩きつけた。

衝撃で煉瓦のほうが砕けてしまったが、男は左耳から血を流しながら、倒れた。

すぐさま、もう一人の男がナイフを取り出し、喚き散らした。

倒れた男から棍棒を奪う。

ナイフを持った男はその体格差にたじろいでいる。

 

俺がうなだれていたから死にかけだとでも思っていたのだろうか。

しかし、刃物は相手にしたくない。万が一ということもある。

棍棒を思い切り振りかぶる。

そのまま男の腹に投げつける。

腹を押さえ倒れこむ男。

その隙に、最初に倒した男の膝裏と肩をつかみ、持ち上げる。

普段ならこのくらいどうということはないが、もう三日も何も食べてないせいか両膝ががくがくと震え、肩に激痛が走る。

地面に落ちたナイフを探しながら男は恐怖に満ちた顔をしていた。

関わらなくてもよいものに関わった者は死ぬ。

そのまま、男に投げつける。

鈍い音と、うめき声。衝撃で砂が舞い上がった。

悲鳴を発しながら、仲間の下から這い上がろうとしている。

生かす道理はこちらにはない。

道端に落ちていた拳ほどの大きさの石を使い、全力で殴りつける。

血しぶきが舞い上がる。

石は頭蓋にずぶずぶとめり込み、衝撃で左の眼球が押し出されていた。

手のひらは男の血液で生ぬるい。

手を広げるとぼたぼたと赤黒い血が滴り落ちていく。

男の服で手を拭きとり、金目のものがないか、二人の死体をあさっていると。

理解できない言語で後方から大声が聞こえた。

槍をもった数人の兵士のような、同じ装備をした男たちが駆け寄ってくる。

おそらく俺が少女を気絶させ、男二人を殺し、盗みを働いていたと誰もが思うだろう。

この村は軍隊を持っているのだろうか。

それとも治安維持の自警団化か警邏隊かなにかだろう。

降参したところで、その場で処刑されるだろう。

兵士は一応四人。この人数だと何とかなるが、この村をすぐ出ていかなきゃならないのがつらい。

一人が三人に何か指示を出している。おそらくこの中で最も階級が高い。

狙うのはこの男からだ。

体格は飢餓のせいで皆多少痩せているが、骨と皮の間には鍛え上げられた筋肉がみえている。指揮官らしき男はその中で、一番背が大きく大きいといっても俺の肩くらいか。

それでも、この部族の中ではかなり大きく体つきもずば抜けているだろう。

三人が槍を構えて迫ってくる。

こちらも棍棒を拾い、構える。リーチじゃ槍にかなわない。どうするか考えていると。

指揮官が大声で叫ぶ。突撃の合図か?

その声と同時に三人が砂をけり上げた。予想外の事態と目に砂が入り、体勢を崩してしまう。しかし三人が襲ってくる気配がない。

その時である。首筋に火でも当てられたような激しい熱を伴った痛みが走った。

かがみこみ首筋に手を当てると、細い棘のようなものが刺さっていた。

いったいどこから?三人に槍をつきつけられながらあたりを見回すと、城壁に吹き屋も持った男が腰かけていた。

いつのまに。途切れる意識の中に疑問が浮かぶ。

最初からいたとは考えられない。いたら俺が襲われるところを見ているはずだ。兵士が気づいてこちらへ駆け寄ってきたときに何か合図を送った形跡はない。いつからいたんだ。

そのまま首筋に激痛を感じながらも、意識が薄れていく。

 

------される------

 

--------殺----わけに-------

 

 

 

---いかないのに---------------------------------。

 

 

 
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