No.416546

小説:都産祭の新刊の一部(にゃんよし)

ひな子さん

都産祭で発行予定のふとみこ小説と一緒に入れるにゃんよし小説です!妄想設定なのでご注意下さい!!にゃんにゃんが一度子供を産んでる感じになっちゃってます!!!! この小説は全体の4分の1ほどです。詳細はまた後日!!!

2012-04-30 23:24:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:760   閲覧ユーザー数:750

 

 

 

 時々夢を見る。

 

 もういつのことだったか思い出せないくらい昔のことなのに、あの夢はいつも鮮明で、現実の世界なのではないかと錯覚してしまうほどだった。

 かつての夫と、少しの間だけ腕に抱いた我が子。愛したからこそ嫁入りしたのではないが、自分が腹を痛めて生んだ子はいとおしかった。とても可愛らしい女児であった。名を呼べば、ふっくらとした頬を更にふっくらとさせて赤ん坊特有の声できゃらきゃらと微笑んだ。夫も、喜んでくれた。夫の家族も同じであった。

 霍家の人々はとても良くしてくれた。目もさめるような美貌の持ち主といわれ、才覚もあると謳われた青娥であったが、霍家はその見てくれだけでなく心の底から青娥という人間を迎えてくれたのだ。山に篭ったきり、一度も会うことがなくなった父親に自分も仙人となって再会すると誓ったが、霍家の人々は父親がくれなかった愛情を青娥にめいいっぱい注いでくれた。道士への憧れが薄れるほどのそれは青娥を人間としての幸せで包んでくれた。

 しかしそれも永久に続くものではなかった。流行り病で一人娘を亡くした。そして青娥もまた同じ病に罹り一月もの間床に臥せっていたが命だけはかろうじて留め置くことができた。そうして、二度と子を産めない体になることと引き換えに青娥は生き残った。

 家族はみな青娥の身を案じてくれた。誰一人として青娥を責める者もいなかったし、子供が出来ない体になったことを知っても見放さなかった。本来なら霍家ほどの家ならすぐに青娥を離縁させ世継ぎを生ませる新しい女を探すのに、養子を貰えばいいと彼らは慰めすぐに今までの生活に戻ろうとした。

 青娥もまたそれを受け入れ、ここまで良くしてくれる霍家に一生残ろうと努力した。しかしながら我が子という要を失った青娥の心はぽろぽろと崩れ落ちていった。夫も、その家族も青娥にたくさんの愛情をくれたが、一度均衡を失った心をそれらによって元に戻すことは出来なかった。子があったからこそ受け入れられていたのであってそれを亡くしてからはどうにもならない。次第に、物心ついた頃からずっと憧れだった何仙姑への思いが蘇ってきた。

 

 青娥はいつもそこで目覚める。引き篭もりがちになった青娥を、毎日心配そうに世話を焼いてくれた霍家の人々に、さようなら、と告げたその時で目が覚めるのだ。

 青娥は真っ白な絹の布団を握り締め自嘲を零す。握った手と手の間に数個の丸い染みができていた。邪仙ごときが何が悲しくて涙するのか。本当に自分は何て自分勝手なのだろう。しかしこれが私だ。私が私であることを、自分勝手さで表現することしか出来ない人間なのだ。いや、もう人間でもない。

 私はどうしたらいいのだろう。

「青娥様、お目覚めですか」

 身を上げた気配を感じたのだろう、衝立の向こうに控える女官がそっと声をかけてきた。布団を握り締めていた手で頬を拭い、乱れた夜着を直しながら寝台から降りる。

「失礼致します。朝餉はどちらでお召し上がりになられますか?」

「そうね……神子様とご一緒させてもらおうかしら」

「畏まりました」

 衝立の向こうから三人の女官が青娥を取り囲むように滑り出て、ひとりは足を洗い、ひとりは衣服を整え、もうひとりはそれらを手伝った。青娥のためだけの女官たちだ。霍家もまた非常な名家であったため常に数人の奉公人を雇っていたがここは霍家とは比べ物にならない。当然のことだろう、霍家はあくまで私人、そしてここは日本という国の二番目の地位に立つ人物が用意してくれたところなのだから。

 仏教と神道という二つの宗教が覇権を争う中、豊聡耳神子に取り入り道教の魅力を伝えている青娥は、神子の師という扱いになっていた。だからといって国の頂点になったわけではない。青娥もまたその地位は欲していなかった。特別な地位として置かれているというより神子の客人と言ったほうがいいだろうか。表に姿を見せることは少なかったが、現在、そして未来のこの国の歩み方を決めているのが青娥といっても過言ではない。この国を乗っ取るつもりは毛頭ない。そんなことはどうでも良かった。ただここに神子という大変魅力的な人物がいたから近づいただけ、自分の力を見せびらかしたいがためである。

「ここはお暇ですか?」

 はっと顔を上げる。目の前には今自分が取り入っている相手である豊聡耳神子が長い箸を手にしたまま微笑んでいた。彼女はその名に相応しい人物である。青娥は困ったように笑ってみせた。

「私の欲が見えてしまったかしら」

「いいえ、流石は仙人です。心内は全く読めませんよ。……しかしそのような返答の仕方ということは、何かあるのでしょうか」

 彼女の言葉の一つ一つが朗らかで心を撫でてくれるようだ。少しからかいが含まれた声音ではあったが、彼女の人徳がためか、嫌味や軽侮といったものは感じない。青娥は神子の言葉にはめられたかのようにわざと困った表情で肩を揺らした。

「神子様にはちっとも敵いません」

「何を言いますか、青娥殿が私に道を教えて下さったのに」

「いいえ、それは私ではなく、教えが教えを授けたのですよ」

 言葉遊びのやり取りにお互い軽く笑う。しかしながら、事実、自分ごときは神子の足元にも及ばないだろう。自分は、最大の愛情でもって自分を包んでくれた家族を捨ててでも仙人になろうとした。一方の神子は、やんごとなき生まれの人、国を導こうとする人、天に認められたとこの国の人々が決めた人である。青娥はその逆である。比べるまでもない。

 しかし神子はその生まれの高貴さと地位の高さを威に変えることはなかったし、彼女の特殊な能力を自らの欲望のためには使おうとしなかった。内心のところは分からないが表面上はそうであっただろう。その誠実さは、邪仙でしかない青娥にもひたむきに注がれていた。今もまた彼女は柔らかく微笑んでいる。

「……そうそう、最近、大変面白い人を見つけたのです」

「ふふ、どのようなお方ですの?」

「青娥殿に直接見て頂きたいですね。……漢詩にとっても精通している方らしいのです。青娥殿とは話が合うかも」

「いやですわ、私にはそんな教養はないですもの」

「そう言わず、一度会ってみるといいかもしれませんよ。名を、芳香といいます」

 芳香、と心の中で呟く。この身になって、神子を除き今更ただの人間には興味がなくなっていた。それは男女問わず同じことであったが、神子が珍しく彼女に近い人物以外の名を挙げたことが気になった。どういう人物なのか詳しいことは言わないくせに会ってみるといいなどと勧める。ならば会ってみようかなんて思ってしまうではないか。

 神子に真意を問いつめる視線を投げかけたが、彼女は笑って杯を静かに傾けただけだった。

 

 

 


 
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