「そう、二組代表になった中国代表候補生
「何格好つけてるんだ?すげえ似合わないぞ」
「んなっ!なんてこと言うのよ、アンタは!!」
そう言って再開の喜びの笑みを浮かべながら一夏と話を始める鈴。箒、セシリアは一体この少女は一夏とどういう関係なのか、…・仲が良いのはわかったのだがおかげで二人のボルテージは上がる一方だった。
ヒイロはこの少女の事は弾…一夏のバイト先で親友の五反田 弾から聞いていた。写真も見ていたので覚えていた。なので鈴の後ろの人物に気づき声をかけた。
「………凰 鈴音、そろそろ教室に戻った方がいい。後ろに…」
「なによ!?」
ヒイロにそう言い返す鈴の頭に出席簿アタックが決まる。鈴はものすごく痛がり、そして後ろを振り向きながら文句を言った。
「なにするのよ!!」
そこにいたのは…………鬼だった。
「SHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん…」
この鈴は千冬と言うとんでもない鬼がとても苦手なのである。
それを目の前にして、鈴はおびえる子猫のようになってしまった。
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ。そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません…また後で来るからね!逃げないでよ一夏!!」
「さっさと行け」
「は、はい!!」
そして扉の前に立っていた鈴はそのまま教室にダッシュで戻って行った。
「ってかあいつ、代表候補生だったのか…。初耳だぞ」
と一夏が言う。ヒイロも鈴の事は一夏、弾に聞いた範囲しか知らないので知らなかった。イギリス政府主導のテストパイロットのセシリアとは違い、鈴に関しては中国軍主導のテストパイロットなので情報が規制されているからであった。無論…ハッキングすれば話は別だが…
「…一夏、今のは誰だ!?えらく親しそうだったが…?」
「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で!?」
いまだに騒いでいる箒とセシリア。そんな二人には鬼の出席簿が火を噴いてしまったのだった。
「おまえのせいだ!!」
「あなたのせいですわ!!」
昼休みに入るなり開口一番に文句を言われた一夏。
というのも理由は二人が授業中に真耶と千冬に散在(教育的)指導をくらっていたからだが、原因が一夏と鈴との関係で二人がやきもちを焼いたことである。(箒はその後、同室であることを思い出し、にやにやして出席簿アタックをくらっていたが…)
さらに普段では本音とご飯を食べるヒイロも一緒に来ている。ヒイロはおそらく昼休みのどこかで鈴は一夏に会いに来ると思い、彼女が何者なのか、自分の目でまずは見極めようと考えたのだ。
「ヒイロ、今日何食べるつもりだ?」
「カロリーメイ○」
「お前の飯は俺と同じな。勝手に買っておくぞ」
と一夏とヒイロのよくある会話を繰り広げながら食堂に向かってみると…
「待ってたわよ一夏!」
ドーン!!と戦隊ヒーローの登場の如くエフェクトが出そうな勢いで一夏たちの前に立ちはだかり、待っていたのは鈴だった。手にはラーメンが鎮座しているトレーを持っている。
だがそのラーメンはすでに面が汁を吸いこみ始めていた。
「伸びるぞ?」
「う、うるさいわね。あんたを待ってたんでしょうが!もっと早く来なさいよ!」
無論人間はどこぞのスーパーな金色サルのように瞬間移動はできないし、どこぞの対話をしようと機動兵器に乗って、量子テレポートする人類の進化形みたいにもなれない。授業を終えてすぐに来たのだからこれが限界であるのにそう言われた一夏は内心呆れていたが、話を変えることにした。
「にしても久しぶりだな。元気にしてたか?」
「げ、元気にしてたわよ。あんたこそどうなのよ」
「俺はずっと元気だぜ?皆勤賞ものだ」
「あー、ゴホンゴホン!」
「ンンッ!一夏さん、注文の品が出来ましてよ?」
鈴との会話に夢中になっていた一夏は定食が用意されていることに気が付かず、鈴と仲良くしていることにおもしろくないセシリアはワザとらしい咳をして一夏に伝えた。
食堂のおばちゃんから料理を受け取り、空いていた席に座る一夏たち。ヒイロは一夏の隣のテーブルに箒たちと座った。一夏は鈴と同じテーブルに座り、再び話し始める。
「いつ帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばかりしないでよ。あんたこそ、何IS使ってるのよ。びっくりしたじゃない」
無意識のうちにいくつも質問を投げ掛けていく二人。
だが、やはり面白くないのは箒とセシリアだ。二人は急に立ち上がり、そして机をたたいて聞いた。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ!まさかこちらの方と…つつ…付き合ってらっしゃるの!?」
二人はトゲのある声で一夏に詰め寄る。他のクラスメイトも興味津々とばかりに頷いていた。ヒイロは無表情でご飯を食べていた。だがヒイロも鈴の人間性を知るために耳を立てていた。
「べ…べべべ、別に付き合ってる訳じゃ……」
鈴は顔を赤くしながらゴニョゴニョと声をこもらせる。そこで空気を読まない男、一夏は言う。
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」
「幼なじみ…?」
鈴が一夏を睨んでいるが、本人は理解できず…そんな二人をほっといて箒は一夏の質問の答えを再び言った。一夏再び答える。
「そうか…その時には箒はいなかったんだったな…箒が引っ越したのが小四の終わりだろ?鈴はその後に転校してきたんだ。で、中二の終わりに国に戻ったんだよ。いわば箒はファースト幼馴染、鈴はセカンド幼馴染って奴だな。鈴、こっちが篠之乃 箒。前に話した小学校からの幼なじみで、俺が織斑先生と通っていた道場の娘だ」
「ふうん…、初めまして。これからよろしく」
「ああ。こちらこそ」
そう言って挨拶を交わす二人の間に火花が散ったようにヒイロには見えた。最近、皐月と一緒に寝る時間を削って(実際はヒイロのみ寝る時間を削っているのだが)ツインバスターライフルの出力制御装置開発を行っているせいか疲れからついには幻覚を見るようになってしまったのか?と本人は思っていた。決して嫉妬から来るものではないだろう…ヒイロはそう考えることにした。
(……俺自身…よくわからない感情だからな)
「ンンッ!私のことを忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰(ファン) 鈴音(リンイン)さん?」
セシリアは毎度おなじみのポーズをとり、鈴に言うが…
「…誰?」
と鈴は本当に『あなた誰』みたいな顔でセシリアに言ったのだった。
「なっ!?私はイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさか、ご存じないの!?」
「あたし、他の国には興味無いもん」
「なっ、なっ、なっ……!?わ、私はあなたのような方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったらあたし勝つよ。悪いけど強いもん」
鈴はあっけらかんに答える。
(昔っからこうなんだよな、こいつ。妙に確信じみていてしかも嫌味のない言い方をする)
素でこうなのだと一夏は心の中でそう思った。
しかし、箒は箸を止め、セシリアは拳をわなわなと震わせている。これ以上空気が悪くなる前に一夏は話題を変えようとしたときにヒイロが立ち上がって鈴の目の前に行ったのだ。
すでにご飯を食べ終えており、問題はなかった。何よりさっきの会話の一連で鈴は一夏に害をなす存在ではないと判断したからだった。
「…凰 鈴音…お前の事は居候先の一夏や五反田 弾から聞いている。」
「弾から!?それに居候って…道理で一夏とも仲好さそうだし、あたしの名前を知ってたのね」
「そう言う事だ。……ヒイロ・ユイだ、よろしく頼む」
「よろしくね、ヒイロ」
五反田 弾と言う一夏、鈴の知り合いとヒイロは知りあっていることで鈴の警戒心も薄くなっていた。
「ねえ、一夏、あんたクラス代表なんだって?」
「成り行きでな…」
「ふーん…。ね、ねえ。あたしがISの操縦訓練付き合ってあげようか?」
「そりゃたすか―――」
ダンッ!!と大きく、そして再び机から音が発せられる。
「一夏に教えるのは私の役目だ。一夏に頼まれたからな」
「これは一組の問題ですわ。二組が出る幕はありませんわよ」
「あたしは一夏に聞いてるの。あんたたちは黙ってて」
全員が全員、一夏の名前を強調する。ふつう見たらわかりやすい感情なのだが、一夏、ヒイロはよくわからなかった。
「それもだけどさ、一夏、今日は放課後予定空いてる?久しぶりにどこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとか」
「あそこ去年潰れたぞ。ていうか今日はヒイロと模擬戦があるんだ。」
「そうだぞ。私との特訓もあるからな」
と箒が言うと一夏は『え!?』と言う顔をした。箒の特訓の話は聞いていないからだ。無論ヒイロも聞いていない。
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて特訓が必要ですもの。専用機持ちの私も参加させていただきますわ」
さらにセシリアまで参戦し事態はさらにややこしくなってきていた。
「じゃあそれが終わったら行くから、空けといてね。じゃあね、一夏!」
食べ終わった食器を片付けて食堂を出ていってしまう鈴。一夏は断ることもできなくなり…唖然茫然とする。
「一夏、特訓が最優先だからな」
「私たちの有意義な時間も使っていることもお忘れなく」
そんな空気も読まず、残りの2人は一夏にそう言うのだった。
結局、その日一夏の訓練は箒とセシリアが行った。ヒイロは最初やろうとしたが『私をおいてご飯食べに行ったなんてひどいよ~ヒイロン~』と泣きながら腕に抱きついてきた本音やその友達によって寮の食堂でお菓子パーティーに近い状態でお菓子を食べさせられた。
ヒイロとしては食べてみて『…意外とうまい』というのが感想だった。ちなみに一番好きなのは○ワラのマーチだった。その後、そのままご飯となり、そしてそのまま食堂で本音に捕まってお喋りと言う名の一方的な話(内容はお菓子)を本音の部屋で聞かされてしまった。
ヒイロにとって今までない経験で少し疲れたが、きっとこれが本来の10代後半の生活なんだと悟っていた。
ヒイロが寮の廊下を歩いているとその時、走ってくる少女がヒイロにあたり、壮大にこけた。ヒイロは簪のときと同じように手をさしのばす。
「大丈夫か……………泣いているのか?凰 鈴音」
さしのばすその先は泣いている鈴であった。
「う、うるさい!!なんでもないわよ」
「……一夏と何かあったのか?」
「あんたには、関係ないでしょ!!」
「…そうだな、関係ない。だがこういう時誰かに言った方がスッキリすると『アイツ』から聞いた。お前がこうしていると一夏が落ち着かないだろう」
と言うがヒイロはなぜか鈴と話してみたいと思った。さっきの本音の会話が自分でも信じられないぐらい面白かったのかもしれないと自己分析した。
鈴はすべてヒイロに話した。
鈴が一夏の事が好きで、相部屋の箒に部屋を変われと言ってきたこと、一夏に昔交わした約束を憶えているかと聞いてみるとあらぬ間違え方をしていて自分は必至な思いで言ったのに腹が立ってひっぱたたいて出てきたところだったと。
なぜヒイロに話したのか…鈴もわからなかったがヒイロなら公言はしないと思ったからだろう。
ヒイロは鈴の横で壁にもたれかかりながら腕を組んで目をつぶって聞いた。
「…ヒイロ?」
「…すまない。俺にはそう言う経験がないから何とも言えん」
ヒイロは大切な思春期を殺してまでコロニーのために作戦行動をしていた。恋愛ごとにはとても疎いのだった。
「そっか…じゃあ…アンタさ?特別な感情を持った相手なんていた?」
「……特別な感情だと?」
「アタシはさ……一夏と一緒にいると、胸の奥が暖かくなるのよ。そしてアイツが……誰か違う女の人と仲良くしていると胸が締め付けられるように痛く感じて…ま~ちょっと周りが見れなくなるのよ、ヒイロはそんな気持ちになるような女性…いる?」
鈴は自分でもどうしてヒイロにこんな質問をしたのか判らなかった、でも聞きたかった。
ヒイロは鈴に言った。
「……
鈴はヒイロの言葉に気が付いた。それは…【過去形】であること…
ヒイロは話を続ける。
「アイツは……初めてあった時は任務の妨げになる存在だけだと思っていた。しかし出会いを重ね、アイツの事をドンドン知って行くうちに……殺そうなんて思わなくなった、むしろアイツがこの先どのように生きて、自分の理想を実現していくのか見たくなっていた、多分……お前が一夏に抱いている感情と同じものだったんだろう」
「……」
鈴はその話を聞き続ける。このヒイロにこう言わせる女性は一体どんな人なのか思った。しかしそれよりこの内容が【過去形】になっていることが一番気になっていた。だから鈴は…
「俺にもこういう感情はよくわからない、カトルなら何か判るかもしれないがな……」
「そう。………ねぇ…なんで―――――――」
…なんで………過去形なのよ………?
と聞いてしまったのだった。
その後ヒイロは鈴と別れ、自身が寝泊まりしている研究室に行った。そこにいたのは一枚のディスクを持ってヒイロに差し出してくる簪だった。ヒイロはそのディスクを見て…
「…何のつもりだ?」
「えと…これ…ISの基本武器情報のデータ…参考になるかなと思って」
そう聞いてヒイロはディスクを受け取り、
「いいのか?」
「うん。…使って…『おにいちゃん』」
と簪はつぶやいた瞬間、はっとした。今の発言は無意識にしてしまったものだからだった。簪は恥ずかしいそうな顔をして下を向いた。
「お兄ちゃん…人違いだ。お前には姉がいるだろう」
とヒイロはいい、簪の肩を叩く。そして耳元で
「……感謝する」
とつぶやき、研究室の奥にいった。簪はその姿を後ろから眺めていた。尊敬の目で…
その後、4時間後、忘れ物した簪は研究室でヒイロがソファーで寝ていたので膝枕をしたりした。その監視カメラから見られていることも知らず…
また、ヒイロも起きていることも気づかずに…
あれからしばらく経ち、5月となったが一夏と鈴の事態はあまりよろしくなかった。
一夏は何度か鈴と顔を合わせることがあったが露骨に顔を背けられ、日増しに不機嫌になってきている。聞こうにも地雷原の如く近寄れないのだ。だが鈴は時々ものすごく悲しい顔で何かを考えている。その様子が見えるのも一夏は気づいていた。
来週からクラス対抗戦が始まるのでアリーナの整備の都合上今日の特訓が最後だった。
そのクラス対抗戦の一夏の初戦の対戦相手は鈴と皐月だった。
今現在、ほぼいつものメンツ、箒、セシリア、一夏、ヒイロで第三アリーナへ向かっていた。ここ数日はずっとヒイロと模擬戦、セシリア、箒、そして『あの人』と特訓していて今日も行うからだ。
「待っていたわよ、一夏!」
驚くことにアリーナのピットに入った先には鈴がいた。
腕を組みふふんと不敵な笑みを浮かべているが、昨日まで怒り心頭だったがどういう心境の変化なのだろうか?
ヒイロはその様子を見ていた。
「貴様、どうやってここに―」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」
「あたしは一夏の関係者だから問題ないわ。むしろ部外者なのはあんたたちよ」
鈴の強気な姿勢に箒とセシリアがキレかかっているが、鈴はそれを無視している。
かなり根性があるようだ。
「で、一夏、反省した?」
「反省も何も、おまえが今まで避けてたんだし自分が納得出来ずに謝れるか」
「なっ!?あんたまだわかってないの!?」
「説明してくれなきゃわかんねえだろうが!」
「せ、説明って…、したくないからこうして来てんでしょうが!」
(なんじゃそりゃ。意味わかんねえよ。無理をしても流石にこの道理は引っ込まねえぞ)
と考える一夏。鈴も考え、そして言った。
「じゃあこうしましょう!クラス対抗戦、勝った方が敗けた方に何でも言うことを一つ聞かせられるってことでいいわね!?」
「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうからな!」
「わ…わかったわよ!!その代り、全力でぶちのめしてあげる。首洗ってまってなさい」
そう言って鈴はアリーナから出て行った。その時、ヒイロの顔を見てしまった鈴はまた複雑な顔をした。
「鈴…大丈夫なのか?」
「……いくぞ、一夏」
ヒイロはそう言い、一夏は後ろをついて行った。
鈴は前の…ヒイロと話した夜の事を思い出していた…
(どうして………ヒイロ・ユイ…アンタには何があるっていうの?)
と考える彼女…何故なら、その原因はその時の一言だったからだ。
あの日、最後に聞いたのが…
「そう。………ねぇ…なんで…なんで………過去形なの………?」
だった。ヒイロは鈴の目を見てこう答えたのだった。
「………………したからだ」
俺が……殺したからだ。
ヒイロはそうつぶやいたのだった。
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第09話 あなたの過去は?