何か変な空間だなとまどかは思った。
杏子は床で転がりながら漫画を読み、ほむらはベッドの上で時より奇声を発しながらデジタルカメラを一生懸命いじっていた。
そして、自分は机に向かって宿題を進めている。会話は恐ろしいほどなく、ほむらの声だけがわずかに聞こえているぐらいだった。静かにしていてくれる分だけ、自分は宿題に集中できるからいいのだけどと思うが。この二人の行動は何もまどかの部屋でやらなくてもいいのではとまで思っていた。
まどかはほむらに警戒していた。それは一度下着を盗まれたからである。盗んだというよりは、堂々と持ち去ったというのか。なおかつ、その代わりの下着を置いていったという怪しい事件があったからである。だからこそ、下着が入っているタンスから離れたベッドに押し付けるようにして、警戒しているのだった。タンスはまどかの視線が入る部屋に入ってすぐの場所。だから、ほむらが何かすれば一瞬でわかるのであった。
そんなことを考えながら必死に筆をただ動かし問題を解いていた。
この後、さやかも来ることになっているのだけど、『このおかしさが更に増幅されるのでは?』と疑念も持ち始めた頃、
「うーん」
それに耐え切れなくなったわけじゃないが、まどかが声を漏らした。声を漏らすほどの難題に差し掛かったことは事実であるのだがすっきりとしないとまどかは感じる。
後ろを振り返れば、変わらない二人の行動。唯一変わったといえば、まどかのベッドの中にほむらが入っていた。
そう唯一……。
「って、ほむらちゃん! 何勝手にわたしのベッドの中に入ってるの! そこまで許可してないよ!」
急いで立ち上がると、まどかはほむらからベッドを奪還すべく布団をめくる。布団をめくるとニヤついたほむらがうっすらと目を開けた。
「んー。なんで邪魔するのまどか。いい匂いがしていい気持ちで眠れそうなのに。そうだ! 匂いを採集しておこうかな。ちょうどほらポケットにエチケット袋が」
そういって、ほむらはごそごそと布団にまだ隠されている下半身部分からエチケット袋を取り出し、見せた。
「匂いなんて取らなくていいから! そんなのわたしが嫌だよ!」
奪い取るようにしてエチケット袋をはたき落とす。
「あぁー、私の宝物になる予定(仮)の袋がー。が、予備はた――」
ほむらが言い終わる前にまどかがほむらの身体を起き上がらせる。
「おぉ、ジェットコースター気分だね。もう一度お願いできる? まどか」
ほむらが頭を傾げる。
「やらないから、はやくベッドから降りてよ」
『仕方ないなぁ』とほむらは声を漏らして、まどかが先ほどまで座っていた机へと向かっていった。ため息をはいたまどかがベッドを整えようとベッドへ視線を戻すと、
「えっ、なにこれ」
布団の上には大量の使用済みと思われるティッシュが散らばっていた。その幾つかにはなぜかうっすらと赤い血のようなものが見えた。
「ほむらちゃん! これ何!? それに使ったティッシュはゴミ箱に捨てて欲しいんだけど……」
まどかが怒りながら、そして呆れながらティッシュを指さす。
「そうだぞ、ほむら。ゴミはきちんとゴミ箱に捨てるんだぞ」
杏子がほむらの代わりと言わんばかりにヤル気なさそうに声を上げた。
「そうね、この写真がいけないのよ。すごくグッと来るわ。まどかも見る?」
使用済みティッシュの山のことなんてもう頭にないのか、再びデジタルカメラを取り出して見つめなおすほむらがまどかの目に入った。それを見て、再びため息をつくとゴミ箱を持ってきてその山を崩した。
そして、ゴミ箱を再び元の位置へと戻すとほむらへと近づく。
「それで何がすごいの?」
ほむらが熱中していたものが気になり、そうまどかが問う。
「最近、下着が空から落ちてくるのを撮影したの」
『ほらっ』という掛け声とともに近くに寄ったまどかへと満足気にほむらが見せる。
「こ、これって、わたしの下着だよね? ねぇ、ほむらちゃん?」
表情を青くしながらほむらを見つめるまどか。写っている場所はこの街で人通りが多い場所。それを証明するかのように数名の人物が指を指しているのが写っている。
「そうなの? 不思議ね、まどかの下着が落ちてくるなんて」
ほむらが棒読みをするかのようにして答える。
「また、ほむらちゃんわたしの下着盗んだの? いつ……。え、でもこれこないだのときより、前の日付……」
まどかが頭を両手で抑えながら、昔のことを辿っていくと盗まれたのは確か二、三枚だった……っけと曖昧に思い出す。
「ほむらはほんとまどかの下着好きだな?」
「えぇ、すごくいいわ。グッと来るし、いい匂いがするわ」
困惑するまどかをおいて、ほむらは杏子へと親指をたてる。
「おじゃまするよー」
何も知らないさやかが部屋の中へと入ってくる。部屋と人物を見渡すと何があったのか感じ取って笑い、
「なんだよ、またほむらがまどかで遊んでるのか?」
ほむらへと近づき後ろからその画像を覗こうとすると、
「あたしもまぜぇ――あ!」
ほむらが写真を次のものにした瞬間、悲鳴にも似た声をさやかが上げた。そして、顔を一瞬にして赤く染め上げた。
一見すれば、仲がいい友だちが写っているようにも見える。
――ただし、服装は何も来ておらず全裸でベッドの上でさやかは表情を赤らめていた。ほむらが写真の中のさやかと部屋に入ってきたさやかを見比べる。
「うん、同じだわ」
そして、一枚写真を撮った。
「えっ、こ、ここ、これさ? い、いつ取ったんだよ? ってか、ここあたしの家だろ! なんで撮影できてるんだよ」
ほむらはにやりと笑うと、
「普通にあの現場にいたのだけど? 気付かなかった? 杏子は気付いているようだったけど」
そう言って、寝っ転がる杏子へ声をかけた。
「ん? あぁ、あんときかぁ。確かにいたな。さやかも気づいているもんだとアタシは思ってたけど。まぁ、あんときさやかはだいぶテンション高かったからなぁわからないか」
読み終わった漫画を棚へと戻した杏子がさやかを見つめた。
バタンと勢い良くその場に倒れこむさやか。
「う、うそ……。あたし、ほむらの前で……。しかも撮られているなんて……」
頭を抑えるまどかと、顔を赤く染めながら自問しているさやかを見ながら、ほむらは『今日も何事もなくいい日だわ』と呟いた。
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くずいほむらちゃんの外伝的な物語。