No.407285 IS~インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ― 四十九話黒猫さん 2012-04-12 21:32:58 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3035 閲覧ユーザー数:2918 |
暇だなー、神谷士です
あれだけ繁盛していた俺達のご奉仕喫茶も客足が減り、今はたいした仕事もなく暇している
ちらっと扉の方を見ると
「簪?」
簪がもじもじしながら立っている
何してんだ?入ってこればいいのに……
恥ずかしいのかな?
なら……
「ごめーん、ちょい休憩ちょうだい。あっいわ~」
燕尾服の袖を捲くり、教室を出る
皆は特に文句を言うもなく「いってらしゃ~い」と見送ってくれた
感謝感謝
「よっ、簪。どした?」
簪に手を振りながら歩み寄る
「つ、士!?」
なんで、そんなに驚いてんだ?
「つ、士から来てくれた……えへへ//」
なんだ?
急にニコニコして…………可愛いじゃねぇか
「燕尾服……似合ってる///」
「ありがとよ……そういや、簪とはまだどこにも行ってないな……行くか?」
「い、行く……!」
そんなににっこりして
……………可愛いじゃねぇか
「さてと……どこ行きたい?」
「そ、そうだな~」
簪が可愛らしく首をかしげ、その顎元に人差し指を添える
「あ、あそこ!」
指差したのは、お化け屋敷?
そんなもんまであったのかよ……よく考えるねぇ
「じゃあ行くか……」
少し広めに作られているその教室の窓には黒いカーテンがかけられていて中の様子は伺えない
ただ、時々聞こえる女子の叫び声が恐怖心を誘っているのかもしれない
「あ、神谷君だ~入ってく?」
フレンドリーな人だな
「そうっすね……じゃ、2人で」
「了解」
中は異様に暗く、どこか肌寒い
「ちょ、ちょっと……雰囲気、ありすぎ、ない……?」
簪はもう少しマシだと思ってたのか微妙に怖がってる
ってか、全力怖がってる
なんで入ったんだよ……
「(だ、だって……お化け屋敷は……自然と、士にくっけるし……でも、ここは……)」
簪が袖をぎゅっと掴む
そんなに怖いんかい……
「まぁ、さくっと抜けちゃおうぜ」
「う、うん……」
「ひゃいんっ!?な、なにかが……私の足を!足を……!」
ゲシッ
あんまり蹴りたくはなかったけどしょうがない
「いった!」
ごめんね、お化け役
でもな……
観客に触れて驚かそうなんてのはナンセンスだ。
簪に触ってきたからとか言う理由で蹴ったわけではない………絶対だ。
「つ、士は……頼りに、なるね……」
「んなこたねぇよ」
結局、大して怖いわけではないお化け屋敷を抜けた
簪は始終俺の袖を離さなかったが
あの……これ借りもん……
簪はそのまま自分のクラスに戻っていった
なんか、嵐みたいな……
教室に戻ると楯無さんが俺を探していた
「あ、士くん!生徒会の出し物に手伝って!」
「はい?……まぁ、いいっすけど」
どうせ、もう仕事なんてほとんどないでしょ……
「なにやるんですか?」
「演劇よ」
「内容は?」
俺の質問に楯無さんはニヤッと笑う
「シンデレラよ」
「士くん、ちゃんと着たー?」
「あ、はい。バッチリっす」
楯無さんが着替えていた更衣室を開ける
「はい、王冠」
「あ、了解」
「さて、そろそろはじまるわよ」
「そういえば楯無さん……未だ脚本なり台本を一度も見てないんですけど」
「大丈夫、基本的にこちらからアナウンスするから、その通りにお話を進めてくれればいいわ。あ、もちろん台詞はアドリブでお願いね」
「不安要素しかないんですが………」
不安を抱きながらも、俺は舞台袖に移動する
「さあ、幕開けよ!」
ブザーが鳴り響き、照明が落ちる
するするとセット全体にかけられた幕が上がっていき、アリーナのライトが点灯した
「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」
(まぁ、こんな感じでしょ。ん?そういえばシンデレラ役って誰なんだろう?)
そんなことを考えながら、俺はセットの舞踏会エリアへと向かう
「否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士たち。彼女らを呼ぶにふさわしい称号………それが『灰被り姫(シンデレラ)』!」
「………は?」
なんか、格好いいぞ?
「今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちんも夜がはじまる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」
「はいっ!?」
「もらったぁぁぁ!」
いきなりの叫び声とともに現れたのは、白地に銀のあしらいが美しいシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だった
「おい!いきなり人に襲いかかるなんて危ないだろ!」
「ご、ごめんなさい……」
なんか、素直だな……
「ま、気をつけろよ……俺じゃないと死んでたし」
鈴の頭に手を置く
「う、うぅ~~~////って違う!よこしなさい!……ついでに付き合いなさい//」
「なに言ってんの!?」
最後はまったく聞こえなかった
距離をとって俺を睨んでから、すぐさま中国の手裏剣こと飛刀を投げてくる。
危ない危ない
それをかわす
「おいおい。死ぬっての」
「死なない程度に殺すわよ!」
「なに言ってんの!?」
何回、言わせんの……
「だりゃあ!」
すると今度はかかと落としをしてきた。ソレをよけると、ステージに穴が開く
「鈴……そのガラスの靴って?」
「うん、強化ガラス」
「にっこり笑顔で言ってんじゃねぇ!」
鈴と格闘戦を繰り広げていると、ふと赤い光線が泳いでいるのを見つける
「嘘だよな?まさかな…………………」
次の瞬間、俺の顔の真隣がパァンッと吹き飛んだ
「勘弁してくれ!」
スナイパーライフルからして犯人はセシリアだろう
サイレンサーを装備しているらしく、発泡音とマズルラッシュがわからない
さらに連射性に優れた銃を使っているのか、立て続けに俺の王冠を狙って撃ち込んできた
「シンデレラって銃使えたの!?」
身を低くして遮蔽物へと駆け込む
「俺、生きて帰れたら……ミルクティー飲も。めっちゃ甘いの」
セシリアside-
(くっ……………。逃がしましたわ)
足元に薬莢の金属音を響かせながら、セシリアはスコープから目を離す
狙撃の基本である『射撃と移動(ショット&ムーブ)』を忠実に、次の狙撃ポイントへと向かいはじめた
(今回は、何が何でも勝たせていただきますわ!)
女子組にだけ教えられた秘密の景品。それは『士の王冠をゲットした子に、同室同居の権利を与える』
というものだった
最初こそきょとんとしていた一同だったが
『生徒会長権限で可能にするわ』
という楯無の言葉を聞いて、全身が奮い立った
(士さんと同じ部屋、士さんと同じ部屋…………)
すでに皮算用をはじめているセシリアは、にへっと緩んだ笑みをこぼす
(幸い、ステージまでの距離なら走って間に合いますし、IS装備以外なら自由に使っていいとのことですし)
狙撃による王冠外し。そこからのダッシュで、セシリアは勝負を決めるつもりでいる
(そう!人生において、勝つべき時に勝つものこそが真の勝者なのですわ!)
シンデレラ・ドレスをなびかせながら、第二次狙撃地点に到着したセシリアはすぐさまライフルを構える
(もらいましたわ!)
プシッ!プシッ!と消音器で最小化された発泡音が再び響いた
士side-
(もう大丈夫かな…………?)
セットの物陰に隠れていた俺だったが、数秒後後にセシリアの狙撃によって追い出される
ちなみにそんなこんなで主役の俺が隠れてばかりなので、こうしてたまに舞台に出るたびに満員の観客席から拍手と声援が上がる
「皆、盛り上がってるーー!」
士君はサービス誠心旺盛なんです
観客へ気軽に挨拶しつつ手を振っていると、その隙を逃さないとばかりにセシリアの狙撃が襲いかかってくる
俺はすぐさま走り出し、無茶苦茶広いステージを移動した
「くそが!行き止まりか!?」
どうもさっきからの狙撃はここに誘い込むための罠だったらしい
「士、伏せて!」
「!?」
突然俺の前に現れたのは、対弾シールドを装備したシャルだった
その服装は他のみんなと同じ、シンデレラ・ドレスだった
(シャルも似合っますな~)
キンッ、カンッ、と弾丸を防ぐたびに鋭利な音が鳴る
「士、早く逃げて!」
「ガッテン!」
「ふぅ……助かったよ、感謝感謝!」
「あ、え、えっと、ちょっと待って!」
「ん?」
「そのできれば王冠を置いていってくれると嬉しいなぁ………」
「まぁ、いいけど……」
王冠に手をかけた時、楯無さんのアナウンスが遮った
「王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます」
「……………」
王冠に添えていた手をそっと降ろす
「……………シャル」
「な、何かな?」
「すまん。世の中には譲れない時がある…………それが今かは知らんけどな!」
「あっ!つ、士ってばぁ!」
脱兎の如く逃げ出す
しかし、俺の目の前に現れたのは黒髪と銀髪のシンデレラ×2だった
「士、そこに直れ!」
「王冠は私がいただく」
箒は日本刀、ラウラは二刀流のタクティカル・ナイフで切りかかってくる
「おいおい、切れる斬れる!!」
間一髪で両サイドからの斬撃を避けた俺はこっそり距離をとる
「邪魔をするな、ラウラ!」
「こちらの台詞だ。まずお前から排除してやる」
「面白い……来い!」
なんか、戦いだした!?
って、何?この地響き
「さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!みなさん、王子様の王冠目指してがんばってください!」
「はぁ!?」
地響きの正体はざっと見ても数十人以上のシンデレラだった。しかも、現在進行形でどんどんと増えている
「神谷くん、おとなしくしなさい!」
「私と幸せになりましょう、王子様」
「そいつを…………よこせぇぇぇ!」
「つ、士……!」
あ、簪……じゃなくて!
俺は向かってくるシンデレラの一群からどう逃げたものかと考えながら、セットの上を走り回る
「洒落にならねぇんだよ!」
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