<10話と11話の幕間 >
・ちょっくら小話をいくつか・
・( )りしていってね!!!
昼食を終えた一刀達は、一刀を旦那と呼ぶ男の案内でこの街での宿に向かっていた。
9話までのことを再認識&補足すれば。 一刀達が助けた村の住人達、その中の一人は現在向かっている宿の発足直後、人手の無かったころにほぼ無償で手伝ってくれた人であり、その人が無事でいられたのは一刀達のおかげ という訳で以下上記の通り、である。
「よ、連れてきたぜ。 旦那方、宿ってのはここでさぁ。」
場面はすっ飛んで。 上のセリフは旦那呼びの男が宿の中に放ったもの。
その宿は今の街にいくつかある宿の中でも一・二の…とはしてもそう大きな街でもないから宿泊施設としては中規模中程度なのだが、宿屋としては充分なレベルのものである。
一行が宿に着くとカラッとした口調で開口一番、
「おぅおっちゃん! お、あんたたちが噂の人達な? 話は聞いてるしあんたたちも聞いてるんだろ?
ってことでさっそく部屋に案内さねぇ!」
曰く看板娘の、薄いそばかすの純朴そうな髪を肩辺りで切りそろえた少女が宿の入り口で出迎えた。
宿の入り口前で屈託の無い笑みでいるが、
「(ゴチッ!)あてぇっ!?」
「ったく客人にゃもう少し丁寧に応じろってんのにお前は!」
後ろから小走りで来た宿の主であり父親の中年男性に頭を小突かれた。
「おぅお客人、うちの娘が悪かったな。」
少女を小突いた父親はそう言うと一刀一行を少し見て、その中で隣同士になっていた華陀と慈霊に目を向ける。
「なに、商いの基本は明るくあることだと聞くからな。 悪いことなど無いと思うぞ。」
「ふふっ えぇ、そうですね。 ところで店主さん、私達の代表はこちらですわ。 …どちらか、と問われると困りますが。」
「ふぇ、 代表?」
「いやそりゃそうだって桃香、 …ん、どちら… って、俺も?」
慈霊が指すほうへと店主は目を向け、その目線の先に居た隣り合っていた一刀と桃香は二人してぽかんとした表情を浮かべる。
「あれ? だってご主人様は私達のご主人様で、てん あぅぅ… えと つ、強い人だし…」
「でも俺は桃香達に付いて行って協力するって立ち位置で…」
つまりは。
桃香からすれば自分達の中で一番えらいのは『天の御使い』でありまた自分達の主である一刀と思っているし、
また一刀としては文字が読めないことが先に露呈している負い目もある。
それに皆とは序列のない仲間だという意識もあり、なにより桃香の意思に協力するスタンスでもあるから、代表は桃香との見解であった。
そんなわけで今のような反応の双方であったが、
「む……、ですが御主人様は我らが主… ですが、桃香様も… これはどうしたら…」
「まぁそれならご主人サマが代表としたほうがいいですね? 事実みんなの主ですから。」
「そう、ですね。」
愛紗、寧、朱里の会話にて代表は一刀ということになった。
「お ぅ? っと、てっきりそっちの赤い髪の兄さんがそうかと。
悪い、賊を全部やったのはこっちの黒と白の服の兄ちゃんってのは見聞きしてて知ってたんだけどな。」
総括すると、一行は傭兵集団で一刀はその中のエース、華陀は集団の頭と思われていたらしい。
改めて一刀に向き合った店主に一刀は応じる。
「悪いなんてそんな。 代表って言っても一応なんで。
でも その、本当にタダで泊まらせてもらっていいんですか? さっきの料理屋でもご馳走になって、
あ や、…その、お金持って無い俺が言う資格は無いんだけど…」
「ご 御主人様、 先にも言いましたが我らはもう共に行くのですから、路銀に関しては気になさらないで下さいっ」
この低姿勢がどうにも琴線に触れるらしく、やはり愛紗はあせあせとお説教気味に。
それをどうにか鎮めて、
「ゴホンッ …とはいえ店主、我らが主の言葉にも一理ある。
こちらもそう貧窮しているわけではないから普通の客として扱ってくれて構わないが。
あぁ、朱里達はどうだ?」
「そう、ですね。 私達もお金ならまだ平気ですし…」
愛紗に次いで朱里も言うと、
それに店主はこう返す。
「いやいや、あの人はこの宿を始めたころはしょっちゅう手伝ってくれた人でな。
なのに今更礼なんかいいとか言うもんだからよ、せめてあの人を助けてくれたあんたたちに返すことにしたんだよ。」
揚げ足取り的なことを言えば『代償行為』になるのだろうが、たとえそうであっても感謝故のこと。
それなら、
「まぁとにかく。 厚意は素直に貰っておくべきと思いますよ? それにお礼されるのを断るってのも無礼にあたる気がしますし。」
寧の言うように、素直に甘んじるべきであろう。
「お、いいこと言ってくれるじゃねぇの。」
「いえ結局ただで泊まれるなら是非もないので。」
「…寧さん、言わなくていいこと言わないで下さいよぅ…」
寧のぶっちゃけに店主がガクッとなって、それに朱里がつっこんだところで。
「そんじゃ、部屋に案内す」る、
筈だったが。 そこで奥から どんがらがっしゃん なる冗談のような音が響く。 『ひぇぇ!』なんて声も後に続いて。
「…ぁ~も ったくかーちゃんは… しかたねぇお客人、悪いがこいつに付いて行ってもらえるか。
ってことだ、客人の案内頼んだぞ。」
「ういっさ、任された!」
何事かが起きた宿の奥、受付のカウンターの向こうへと店主は向かい、
「それじゃ今度こそお部屋にご案内さね!」
案内は彼から少女に代わる。
「うんっ お願いします。」と桃香が応じると、旦那呼びの男の「それじゃ待ってますんで、一段落ついたら降りてきてください。」なるセリフに見送られて、一行は少女に付いていく。
すぐそこの階段を上ってぞろぞろと行っているとその途中で
「おぅ、そういえばお客さん方は旅の途中って。 それなら他んとこもやっぱり賊とかがたくさん出てるん?」
先行する看板娘がそんな話を振ってきた。
「は いっ …そう、ですね、 今回みたいなことがあったらしいことは、私達も見聞きしてます。」
「まぁそうですね。 当事者になったのは今回が初めてです。 それでも無事だったのはひとえにご主人サマのおかげですね。」
言う朱里と寧の傍では、雛里も無言ではあるが首をコクコクとさせていた。
「私達も似たようなものだ。 行く先々で山賊退治をいくつか手がけた。
規模は十数人程度がほとんどだったが、まみえていないだけでもっと大規模な賊軍は存在しているだろうな。」
「オレ達もだな。 小さな村単位での件には何度か関わった。」
「えぇ。 …こう言ってはなんですが、そう珍しいことではなくなっているのでしょう。」
愛紗に続いて華陀と慈霊も答えると、
「おぅ… そんなになってるんで? いやこの辺は割と治安はいいからそう物騒なことは聞かないんさ。
でもそれも今んところはってことなんかね。
ちょっと前にもどこかは知らないっけどね、大きな街がおっきな賊軍に教われたってなこと聞いてるんよ。」
ここで一刀が、この少女の話は先の料理屋で細身の男が言っていたことか となんとなく思ったところで、ふとある単語が頭に浮かんだ。
故、むしろなんでこのことを今まで聞かなかったんだと考えつつもいい機会だからと質問することにした。
「…もしかしてその賊軍 いやそれだけじゃなくて、問題になってる賊って『黄巾党』って言うんじゃ?」
これに対する答えはちょっと意外だった。
「こうきん、とう? んにゃ、そんな名前は聞いたことないよ。 あ でもうちが知らないだけっかね?」
言いつつ看板娘が他の面々に顔を向けると、
「こうきんとう… ううん、知らないかな。」
「私も聞き覚えはありませんが。 華陀殿や朱里達はどうだ?」
桃香と愛紗がそう答えて、
「いえ、私も…」「…。」
朱里に続いた後者はふるふると首を横に振った雛里である。
ここまでの反応から、どうにも未だ『黄巾党』の存在は表舞台に名前が広がっていないらしい、と一刀は察した。
改めての説明も今更ではあるが、
朝廷の威光の衰退と一緒に各地の統治も自然発生的に乱れ、政治や税金のせいで溜まった民衆の不満が爆発。
首領の張角を筆頭に朝廷を倒すべくと蜂起して各地で暴れたとされるのが、
黄色い布をトレードマークとした『黄巾党』。
それを知らないと言うなら、まだ今は黄巾党は動いていないのだろう。
ただ。 今現在立っているこの世界が三国志と同じであることは確かだが、かといって全く同じであるとも言いがたいらしい。
…主に性別とかのことで。
ともすればもしかしたら、黄巾党自体が他のものになっているだとかの可能性も考えられる。
しかしそうだとしてもどの道、こうして自分が知っているのは一同からすればおかしな話であるから、
「同じく。」「あぁ。 『こうきん』… 黄巾、か?」
「黄色い布、です? だったらまた妙な名前ですね?」
慈霊、華陀、寧と続いたときには、若干慌てながらもごまかすための返答は思いついていた。
「ふぅん、どうやらうちの世間知らずのせいじゃないっぽいさね?
でもだったらなんでまた旦那さんはそんな名前出したんで?」
「旦那さんって… まぁいいや、 えっと、
…あぁ うん、 なんかそんな名前を聞いた気がしてて。 忘れていい。」
旦那呼びをそのまま流用している少女への反応に困りつつも。
少なくとも今ここで言うことは無いと判断して、一刀は強引だがお茶を濁した。
「おぅ? なんだ気のせいね? そんじゃ忘れるっさねっ」
そして強引なのに何の疑いも無く納得したこの少女、なかなかの人物と言えるかもしれないたぶん。
「…あの それって、」
少女がくるっと前を向いたところで朱里が何事かを感づいて一刀を見たが、
「……」
一刀も朱里に反応して、目配せと首を左右に振る動作で『黄巾党』についての話を後回しにする意思を伝えた。
「…、はい…。」
その場に居た案内の少女を除く全員も同様に。華陀と桃香は一刀と目を合わせて、他はそれらのやり取りから察していた。
「さってぇ、着いたよ!」
そんなことはいざ知らず。
廊下の奥、木の扉がいくつか並ぶ所で立ち止まったと同時に、再びこちらへくるっと少女は回って振り向いた。
「ここらは三人用の部屋でね? 他の一人部屋とかは埋まってんだけど三人部屋は全部空いてっから。
好きなように割り振ってくれていいってとーちゃんが言ってたんさ。」
「好きなように、 …って言われてもこのメンバーじゃ」
「ん、めんばぁ?」
ついつい現代の言葉が出て少女に疑問符を出させてしまうがそれもしょうがないだろう。
なにせ男女が入り混じるとそれらを分ける必要があり、即ちその分部屋数が多くなる。
それが頭に引っかかっていることでの逡巡だった。
しかしかといってどの道部屋数の増加は避けられない以上、甘んじるしかないのも現状なのだが。
「あぇっと、 顔ぶれ、だとそれだけ部屋数が多くなるから… 本当にいいのかな?」
言いよどむ一刀。 右には桃香、左には華陀、慈霊。
その部分に少女は何かを見出だした少女の表情がなにやら『!』と晴れて、
「あぁなるほど。 はいはいそういうことだったらだいじょぶよっ そこが一箇所二人用の部屋だっから。」
言って指す扉に目をやりつつ、一刀は彼女が察してくれたことを理解した。
そう、男は男できっちり分けておいたほうが気分的に楽。 そこんとこを少女も察してくれたらしい。
しかも二人用ときた。 三人部屋を二人しか使わないのが心苦しく思っていただけに、この気配りは嬉しかった。
と、思っていましたこのときの一刀は。
接客業に向いてるんだな、なんてことを考えていたこともありました。
「それじゃほら、」
そう言いうと看板娘、華陀と慈霊に近づいて、
「ご夫婦のお二人はどうぞこっちへ、さね!」
いい笑顔でそんなことを言いましたこの子。
あれ? 男二人を分けようと察してくれたんじゃないのか? 夫婦じゃ無いぞ? それぐらいしか考えられませんでした一刀。
「む? いやオレ達は夫婦では無いぞ。 まぁ別段それでもいいが。」
「そうですね。 普段からそうですから。」
「でもそうなったら俺一人が部屋一つ余計に使うことになるし… 男でまとめたほうが部屋数少なくて
あ、いや結局数は同じか。」
指折り考える一刀の言わんとすることは理解できていることだろう。
華陀と慈霊が相部屋になるということは、残った男一人である自分は一人余分に部屋を使うことになってしまう。
自分と女性陣とが相部屋になるなんてのは、一刀は思考から排除していたことだった。
しかしそれでも二、二、二、三と一、二、三、三の組み合わせでは一刀の言うように数は同じなのである。
…なのに。
「なぁに言ってるんよっ 旦那さんと誰かが二人で二、二、二、三 ! 合計九人御案内ってねっ!」
思考から排除していたこと、だったのに。
待ってましたとばかりに看板娘、こいつなに言ってんだ的発言をいいことしたぜとでも思ってるような笑顔でぶちかます。
それを即座に把握した、してしまったのは女性陣で、特に朱里・雛里の顔が ボンッと朱に染まる。
上がったテンションの過ぎた端折のせいで桃香と鈴々は『?』としているが、しかし読者方は理解できていることであろう。
だが一応、一刀の思考に沿った体で説明を補足しておくと、
俺と誰か… 華陀と慈霊さんが相部屋になるかんじだから、
つまりは残ってる女の子達の『誰か』ってこt
「のぁっ…!?」
何を言っているのかを一刀も理解、なんか変な声が出た。
「三人部屋にそれ以上の人押し込むなんてことはお客人に対して論外! そんで旦那さんと誰かが夜を共に出来るように気配りすればこういうことになるのは必然ってね!」
あぁもう問題発言をドバドバと。湯水の如くに垂れ流すなこの看板娘は。
「うちは気配り接客を大事にするもんで!!」
セリフと共に ばちこーんってな擬音が聞こえるようなウィンクもぶっ放してくれた。
「ってことで『しっぽりしていってね!!!』」
そしてダメ押しのこれである。 いぇーいっ! ってな顔であった。
「ちょ!?」
「夜…!?」
「共に…!?」
「?、しっぽ?」
朱里と雛里の口からもれたこのセリフにより、皆の頭はもうそっちのこと一色。
ただ鈴々は『しっぽり』なる単語を初めとして分かっていない様子だったが。
「え …と、 それじゃ誰かがご主人様と一緒に寝る、のかな?」
ここにきてようやく言ってることを理解した桃香、若干言いにくそうではあるが周囲に聞いた。
今において桃香が言いにくそうにしているのは単純に異性である一刀と一緒の部屋になることを意識してのこと。
そもそも『しっぽり』というスラング的な単語に対しては桃香、意味はよく分かっていないのである。
ところで落ち着いて考えて欲しい。 別段一刀と、慈霊を除く女性陣はそーいう関係な訳ではない。
故に多少気まずくとも、『単純に』男女で相部屋になることは考えられること。
だが先の朱里・雛里のセリフのせいでそっちのことが浮かんでしまう。
そもそも男二人を村八分にすればそれで万事解決なのだが、沸いた頭では考えが戻るのは無理だった。
「そんなわけですからワタシがご主人サマと一緒の部屋にしますね?」
そこへ平坦な声音が渡り、皆が一斉に注視する。 平坦とするところからも分かるだろう、寧だ。
「待っ どんなわけだよおい!!」
「まぁそこはそれ、なんやかんやで。 理由としては色々お話してみたいこともあるってことで。 ってなわけで親睦深めてみましょう。」
「なんだよその手の変な動きっ!」
言いつつ掌側を一刀に向けた両手を軽く上げてなんかわきわきさせる寧。 つっても特に含みは無い。
そんな一定調子な寧の言葉に華陀がふと何かに気付いたらしく、
「ふむ成程な。 体の距離は心の距離、と言うから (ズバァンッ)ぁてぇっ!?」
お前は何を言ってるんだと声を大にして言いたくなることを平気でのたまう。
それへの返事は慈霊の玻璃扇の一閃。
「華陀~? ん…、あぁ、『私的領域』のことですの?」
「っちょ待、 それ以外に何があるっ? どうしてオレは叩かれたんだ慈霊!?」
「いえ それならすいませんでした。つい。」
玻璃扇の一撃が理不尽だったことを素直に認めて、慈霊は華陀の頭を撫で撫でした。
この華陀の余計な一言、いわゆる『パーソナルスペース』なる言葉を知っているだろうか。
コミュニケーションをとる相手との物理的な距離のことで、簡単に言うと『縄張り意識』『心理的な私的空間』である。
たとえば親密な関係の人とは近い距離で話ができても、初対面の人がいきなり近づいてきたら不快な気分になる。
それは自分のパーソナルスペースに侵入されたからである。
しかしそれを逆に考えると。
意図的に距離を詰めることは親愛の意識の提示であり、バイオフィードバック的理屈で心の距離は近くなると言える。
華陀の言った『体の距離は心の距離』というのはあくまでパーソナルスペースの件であり、別段セクハラ発言とかではない。
『私的領域』とはこれまた元々華陀が言い出したことで、何故か今の世界に存在する『パーソナルスペース』の概念そのままである。
「ん…? …あぁ、もしかして性的な肉体関係のことと思われ って慈霊待て慈霊玻璃扇を構えるのは待て!」
「華陀~、それ以上言うことは見過ごせませんわ~?」
目の辺りに影の掛かった笑顔で、ホームラン確定であろうスイングのポーズで玻璃扇を構えた慈霊が怖い。
さしもの華陀も、否 慈霊と付き合いの長い華陀だからこそ、これはやばいと慌てて腕を伸ばして牽制体勢。
「迂遠に言っても結果は変わらんだろ!」
「そういう問題ではありませんよ? せめて仲良くなる とでも言うべきですわ華陀?」
「かかかk体の距 り って」
「せ い…!!」
「おぉぅ積極的! こんなのが身近に見られるなんてのはちょっと無いことさねやっほう!」
注釈はさておき。 『体の距離』なる単語にもうそっちのことしか考えられなくなって首まで真っ赤な朱里雛里。
傍からは看板娘が野次馬みたいに他人事観戦。 誰のせいだと思ってるのかこの娘は。
「ねね寧! そんなことを考えていたのかっ!?」
「いやワタシはなにも言ってませんが。 でもご主人サマに望まれればやぶさかでは無いかもですね?」
愛紗に対する寧の返答のせいであろう、皆から一刀になんともいえない視線が向けられる。
「は ぇ ?
! だ だから!!
相部屋になっても俺はそんなことする気なんか全然無いんだってみんな落ち着いてくれってちょっとぉっ!!」
なんともいえない視線に対してどうにか釈明するが、否定するところが若干ずれているのは状況が状況だから仕方ないとしましょう。
まず女の子達と相部屋ってとこから考え直そう?
「まぁご主人サマがそんな人じゃ無いってことはもう分かってますけどね?」
「!! そ そうともそれは自明の理… って、じゃあなぜ紛らわしいことを言った!」
「それはあれです、もしかしたらということも無きにしも非ず、です?」
「聞かないでくらしゃぃっ!」
やはりいつもの平坦調子で寧、愛紗への返答を何故か朱里に飛び火させる。
何度も言うが寧は思ったことをそのまま言っているだけだから、含みも何も一切無い。 冗談ですらない。
だからこその厄介なわけである。
が、今は話の逸れ具合が何より厄介なので。
「つまりは『単純に』相部屋になるだけ、ということですね。 看板娘さん? 誤解なさっていらっしゃるようですが、彼らはそういう仲ではありませんわ。」
寧とはまた違う、傍観者の立ち位置にある冷静さでもって慈霊はとりあえずと誤解を解く。
それによってどうやら通じたらしく、慈霊の言を受けて『おぅ?』とでもこぼしそうな表情を見せると、
「あ、なぁんださっきからおっかしいなって思ってたけどまちがいさね?
いやそうかと思って『二人かそれ以上の人数で』泊まれるようしようとしたんだっけど。」
あっちゃー、な仕草で頭をぺしりと叩く看板娘。 本気で純粋にそう思っていたのだから尚タチが悪い。
「それ以上って! 俺そんな節操無しに見えんの!?」
…いつになるか分からないが、時が来るまで今の一刀の言葉を覚えておいて欲しい。
知ってる人は分かってるだろう。 これなんてフラグ? と。
「とにかく。 そういうことにならないならご主人サマと相部屋でも問題はありませんね?
そんなわけですから、 …あぁ、他に誰かご主人サマと一緒がいいって人が居れば示談受け付けですが。」
一応混乱の原因の一端である寧なのに、当人はそんなことは特に気にしない。
どうと言うことも無い調子で周囲に相部屋を促すぐらいである。
ここで一旦の途切れを見た一刀、 よし今だ抗おうと口を開きかけたところ、
「ぁ、 あのっ」
隣の桃香が一刀におずおずと声をかける。
「それなら私も、ご主人様とお話とかしたいから、その、一緒のお部屋で いい、かな?」
若干照れの入った表情で上目遣い気味に見てくる桃香のその様に胸へとなにかがキたような気が。
手を胸の前で合わせてもじもじしているせいで、手と腕で押さえられた胸が窮屈そうになっているのにも一瞬気を取られる。
ところでいきなりだがなんか見えてきた。
暗い部屋の中、同じ寝台の上でカチコチに背中合わせになって横になっている桃香と一刀。
互いが互いを意識の外に出して寝ようと何度も試みるけど。
背中越しの気配、質量、身じろぎ、
そして布団の中にこもった温度 否むしろ『熱』がどうしても感じられてしま
人はそれを妄想と呼ぶでしょう地の文よ。 話を元に戻しなさい。 OK了解。
でもかわいいのを意識している場合では無い。
取られた気を取り直すべく、やっとこさ頭の処理が追いついて一刀、この妙な状況への反撃を試み たが。
「や…そのっ いいとかじゃな」
「わ たしがっ!」
必死に出したような声が渡って一刀は言葉を断たれる。 音源は、
「 …一緒に、寝ます…」
赤くなって熱すら帯びているのを感じる顔を、引き下げた帽子で隠した雛里だった。
予言しよう。
雛里が朝起きてうっすらと目を開けたら、
数センチ先に一刀の寝顔。
起きがけの気だるさなんか一気に吹っ飛んで目は見開かれて、
ガバッと布団を跳ね上げ ようとしても、ちょっと頭がフリーズしてしばらく動けな
待ていいかげん脱線はその辺で。 第一そもそもさっき然りどうして同じ寝台で寝てんだおい。
「雛里ちゃん、ちゃんと会話して仲良くしないきゃいけない との心構えは結構ですけど。も少し言葉を選びましょうね?」
寧、フォローご苦労。 だが、
「言葉選べって言う資格無いだろっ!」
一刀の言う通りでもあるからどうしたものか。
「あっ!! わぅ…」
かいつまみ過ぎてえらい物言いになっていたことを自覚して更に真っ赤で頭クラクラ。 もう会話を試みる気力はEmptyです。
「…しかし雛里ちゃんが、ってのは意外でしたね。」
「ひ 雛里ちゃんっ?」
ぽつりと独白した寧の傍でわずかに足がふらついた雛里に朱里が寄る中、今度は
「待って待って、お兄ちゃんと一緒の部屋なら鈴々も!」
屈託の無い笑みで片手を挙げて軽く跳び、鈴々もが相部屋希望を申し出てきた。
鈴々なら まぁ、健全に例えば、
朝、鈴々起床。
そしたらすぐ横に一刀を確認、すると面白そうな笑みを浮かべて
「お兄ちゃん、起っきるのだ~!!」
とか言ってダイブして「ぐぇっ!?」と一刀が驚くか、
いやむしろ寝ぼけてしがみついてきて密着、起きたら一刀のほうがわたわたとか
もういいから。 はい。お願いですから刃物突きつけないで。
さてなにはともあれこれで計四人が同室を希望した。
「愛紗さんに朱里ちゃんはどうです?」
「だぁも! 寧なに訊いて」
「いいぃぃぃいいいでしゅぅっ!」
「わわわ私は結構だ!」
まともなのは現在もう朱里と愛紗だけなのに、その二人が根源的なつっこみをしてくれなくなってしまった今。
いくとこまでイっちゃいそうな勢い、であった。 なんでカタカナかを訊くのは野暮ですよ?
「なるほど、じゃあお兄ちゃんが鈴々の『初めての男』だ!」
「はぃあっ!?」
ここで斜め後ろからの一撃ってなかんじでのまさかの鈴々。
「だって一緒に寝たらそーいう風に言うんだってどこかで聞いたのだ?」
「間違って は、無いけ いやいやいやうんそうだそれでいいや!」
鈴々の間違ってはいない発言をどうにかいなす。 ってかごまかす。
傍では寧が看板娘となにか話しているが、それに気付くことはない。
「ご 主人様と一緒のお部屋 って、 …照れちゃう、かな。
あ、 …んと でも、 五人だとお部屋いっぱいになっちゃうよね…」
横で桃香が言った言葉を捉えて今度こそ、今度こそと皆を諌めようと頭をシフト。
「それではもういっそのこと、華陀さんと慈霊さん以外はみんな一つの部屋に泊まります?」
それも、寧の言葉でまたもや挫かれる。 状況だけになにそのハーレム状態なんて喜べる心境ではない。
「…、 なぇっ!?」
「はわぁぅっ!?」
これによって愛紗と朱里にも改めて累が及ぶ。
一応は蚊帳の外であった二人だが、またもや渦中に飲み込まれて困ったものだ。
「いやワタシが退いたとしても人数がアレなので。 そしたら大部屋があるって看板娘さんが教えてくれまして。
そっちのほうが占める部屋数もより少なくていいかと。 で、どうでしょう?」
事後文章化にはなるが、鈴々とのやりとりの中で寧がなにやら看板娘としていた話の内容はこれであった。
看板娘が目配せしてばっちょんとウィンク、親指を上へ立てた拳を グッと突き出す。
あぁほんとにありがとう余計なことしてくれてえぇぇぇ!
心中ではそう思いつつ、
「何がどうなんだよあぁもう! とにかく俺は女の子と相部屋になる気は最初っから無いんだって!
そもそも俺と華陀の男二人を隔離すればいい話で…」
ここにきてようやく、一刀の事態収束が発動してくれた。
「ふふっ 隔離、ですか。 言いえて妙ですがそこまでご自身を卑下することも無いのでは?」
「… あぁ、それこそ『男は狼』ってことなんです?」
「もう突っ込まないからなっ!?」
こんなアグレッシブな流し方が他にあるだろうか。 反語。
で、慈霊と寧の言を流してから数分後。
「ん? おい、なにやってるんだ?」
派手に積荷を崩した妻と片付けを済ませた店主がようやく来た。
…未だに一刀達、わちゃわちゃと議論している最中だった。
「おぅとーちゃん。 いんにゃ気を遣ったらなんか変なことになっちゃってね?」
その元凶は。 己の一存で自分なりの(余計な)気遣いをした、この看板娘以外には存在しない。
その後。
結局男二人が相部屋になり、
看板娘は父親に結構痛そうな拳骨をもらっていたそうな。
詳細は次回へ続く。
・あとがき・
華狼はうそつきでした。
今回は本来部屋割り云々他エピソードはさっさと済ませて本題に移ろうかと思っていたのに、どうしてか長々しくなったのでもういいやと居直ってやりたいことやることにした次第。
なんでこうサブエピソードが無駄に長くなるんだろ。 ねぇ?(他人事か。)
他にも美羽達や阿連達とかの各視点もあってそれらもまた長くなるだろうし。
あぁこれからも乗算的に長くなっていくんだろうなちくしょう。
ところで。 今はまぁ、今更ですが『黄巾党編』としてくくりを付ければそれの前段階なのですよ未だに。
そして『黄巾党編』が本格化するまでは一刀達を含めると大体四つ五つの場面を平行して進めて、それらが最終的に二つの大きな区別になります。
それまでほんとにどれくらいかかるんだろ。
けっこうな長期スパンで見ていってくださいほんと今更ですが。
そう、それと長期スパンってので思い出した。 恋姫の冒頭を見る機会があったのですが、
やだ、私の物語のろ過ぎ…? ってのが第一印象でしたね。
あと数日、おそらくSide Somebodiesも含めて何作もまたいでの後にようやく公孫瓉のところに行くでしょうから。
会ってすぐに公孫瓉のところに行ってる原作、あのテキパキさが欲しい。sksk軽快に行きたい真実。
でもサクサクじゃなくスカスカになったら洒落にもならん二律背反。
そんなことを言いつつ。
次回はまたサブエピソードなのかな… 早く本筋進めたい… もうやだ…
ってわけじゃないけど。 見捨てず呆れず付き合ってやってください。
PS、 前回の投稿作の閲覧数の伸び率が『何故か』他と比べて大きいんですが。
そんなにあーいうのが好きなのかっ!! 紳士! クマ吉! 時期だけに『春真っ盛り』! 美羽まだ子供だぞ!!
PSのPS だからって理由で今回もそれっぽいのにしたってわけじゃないですけどね。
おもねった結果に価値は無いので。
「まぁ だからって身勝手に長々やってんじゃねぇ、とかも思いますが。」
「…でも。 根底のテーマに関わることもあるから書かないといけない、らしい。」
…下の奴誰だ? 上は寧だろうけど。
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今回から少し拠点…というか、話数で括るにしては内容が本編にそう関らないエピソードがいくつか続きます。 まぁじらしと思って耐えてください。
…ん? 「いや別に本編にそんな期待はしてない」ですか?
…ですよね~。(泣)
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