No.405492

Legend of Vampire 第5話 誓約...君の記憶が全て消えても

さん

前回の投稿から時間が空いてしまいましたが、
Monsterをイメソンにした吸血鬼小説の最終回です。
約束の夜、セナは、レウラはどうするのか。
お楽しみいただけたら嬉しいです。

2012-04-09 15:17:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:460   閲覧ユーザー数:460

5. 誓約

 

 

約束していた満月の夜がやって来た。最後の夜だ。

彼女はバルコニーに立っていた。

 

「本当にきてくれたのね…待っていたわ。そういえば、セナの瞳、今日は紅いのね。お揃いみたいでなんだか嬉しい。」

 

無邪気にはしゃいでみせるが、その白い手は冷えきっていた。きっと何時間も外で待っていたのだろう。あの夜と同じ痛みが走る。気のせいだと言い聞かせる。

 

さあ、今宵の闇に誘おう。

 

 

 

 

少年は姫君を守る騎士のように片膝を折るとうやうやしく少女に手を差し出した。

そして、彼女の細い腰を抱き上げ夜の暗闇に溶けた。

 

 

******

 

 

やって来たのは一面の白百合の花畑。満月の光に白い花が幻想的に浮き上がり、甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

「すごい…!綺麗…こんなの見たことがないわ。それになんていい香り!」

 

喜びに満ちた彼女の顔は満月にも負けないくらい明るく輝いている。

 

「セナ、ありがとう。素敵だわ!」

 

「ふん。悪くないだろ。今宵限りの外の世界とやらを楽しむといい。」

 

ばつが悪そうにそっぽを向く彼に彼女は抱きついた。

 

「わっ!何するんだ。離せ!」

 

高鳴る胸の音。これは突然のことに吃驚したからだ。それ以外の理由なんて無い。

 

 

彼女が花畑を満喫している間、セナはすることもないので足を組んで横になっていた。

すると、上からふわりと白いものが降って来た。

 

「……!?」

 

「うふふ。花冠を作ったの。セナの金の髪にとってもよく似合うわ。」

 

眩しいほどの満面の笑み。こんな表情は初めて見た。いつも悲しげな顔しか見たことがなかったから気付かなかった。笑顔の彼女はこんなに美しい娘だったのか。この笑顔を消して毎日を過ごしていたなんて…胸が苦しくなった。また魔力が足りないのだろうか。そうではないことに薄々気付いてはいた。でも、気付いてはいけないのだ。彼は冷酷な吸血鬼なのだから。

 

 

******

 

 

日付が変わってしばらく経った頃、彼女は持って来たバスケットを開けた。中から出て来たのは彩り鮮やかなサンドイッチ。

 

「夜食にしましょう。夜通しなんにも食べないんじゃ、おなか空いちゃう。」

 

笑顔で少年に差し出す。少年は神妙な顔でそれを口に運んだ。

 

「……。」

 

「どう?お口に合わなかった?」

 

心配そうに覗き込む彼女に、彼はぽつりと言った。

 

「…うまい。」

 

今まで人間の食べ物を食べてこんなに美味しいと感じたことは無い。でも顔に出してしまうと負けたような気がして悔しいので、極力仏頂面で言ってやった。しかし、彼女の表情はぱあっと明るくなる。

 

「よかった〜。私、料理は好きなのだけれど、他の人に食べてもらうのは初めてだったの。嬉しいわ。」

 

その笑顔があまりに眩しくて、彼は目を細めた。また胸が痛む。なんでもない。なんでもないと自分自身に必死に言い聞かせた。

 

 

******

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、東の空が白み始めた。夜が、明ける。

 

「そろそろ時間ね…」

 

「おい、娘…」

 

セナの言葉を遮って彼女は言う。

 

「レウラよ。最後くらい名前で呼んで。」

 

そしてにっこりと微笑んだ。少しだけ、寂しげな影を添えて。

 

「ありがとう。セナといられた時間、楽しかったわ。私の人生で唯一度の幸せな時間だった。本当はもっと一緒にいたかったけど…約束ですものね。好きなだけ血でも魂でも持っていくといいわ。」

 

胸に熱いものが込み上げる。それは冷酷非情な吸血鬼に彼女がくれた暖かな光。予感は、確信に変わる。

 

——彼女が、欲しい。

 

食糧ではなく、一人の人間として。

いつまでも、側に居たい。例えこの身が彼女の光に灼かれようとも、構わない。

蒼の吸血鬼のことなんて恐れるものか。いざとなったら、彼女を連れて地の果てまで逃げてやる。

 

「それならば…レウラ。これからずっとオレのものになると誓うか?」

 

彼女はきょとんとして答えた。もう気持ちは偽れない。堪らなく、愛おしい。

 

「あら、もう私はセナのものよ?」

 

次の瞬間、セナはレウラの身体を抱き寄せて、その細い顎に手をかけた。

真剣な瞳で彼女を見詰める。

 

「いや違う。今生だけでなく、来世もずっと、未来永劫だ。」

 

彼女はふわりと微笑んだ。

 

「いいわ。だってそれってずっとセナと一緒にいられるってことでしょう?」

 

 

少年は肯定も否定しなかった。その代わりに娘を抱きしめ深く口づける。それは約束。幾世にも渡る愛を誓う口づけだった。

 

 

 

 

こうして、翠の吸血鬼の伝説が始まる…

 

 

******

 

 

水鏡には、白百合の中で幸せそうに口づけを交わす少年と娘が映っている。長い睫毛に縁取られた夜闇色の瞳が瞬くと、その映像はかき消えた。

 

「ふふふ…セナもようやく大事な人に気付いたんだね。あれだけ痛めつけられて怯まずにいるなんて、偉い偉い。まあ、恋は障害があった方が燃えるとも言うしね。さて、僕も迎えにいくとしますか…」

 

足取りも軽く向かったのは東方の雑技団の宿舎。ここに太陽の乙女が居る。彼の約束の彼女が…

 

 

 

 

The End.


 
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