No.405101

黒髪の勇者 第二編 王立学校 第八話

レイジさん

なんとか間に合いました!w
でも多分来週は投稿できないとおもいます。
イラストともども宜しくお願いしますw

黒髪の勇者 第一編第一話

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2012-04-08 21:32:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:442   閲覧ユーザー数:441

黒髪の勇者 第二編第一章 入学式(パート8)

 

 「それでね、フランソワ。」

 フランソワに続き、ゆっくりと紅茶を口に含んだ後で、ビアンカが慎重な口ぶりでそう言った。

 「如何致しましたか、ビアンカ女王。」

 「今日わざわざ王立学校まで出向いてきたのは、入学式への参加だけではないの。フランソワと、そしてシオンにどうしても会いたくて。」

 ビアンカはそこまでを口にすると、ちらりと自らの背後に控えるアレフへと視線を送った。

 「実は少し、王都で困ったことが起きている。」

 「困ったこと、ですか?」

 何度か不思議そうに瞬きを行いながら、フランソワがそう答えた。その問いに対してアレフは小さく頷くと、一枚の紙をテーブルの上にのせた。縮小されてはいるが、どうやら地形図であるらしい。その至る所に、×印が記されていた。

 「ここ数カ月、王都では盗賊騒ぎに悩まされている。もしかすれば風の噂に聞いているかもしれないが。」

 アレフがそう説明すると、フランソワは少し驚いたように瞳を見開き、そのまま確認するように詩音へと視線を送った。勿論詩音も盗賊騒ぎという噂は聞いてはいない。

 「申し訳ありません、私は何も聞いてはおりませんわ。」

 詩音が軽く首を横に振った事を受けて、フランソワはそう答えた。

 「そうね、一応情報を漏らさないように指示を出しているから、知らなくても問題はないわ。」

 フランソワを宥めるように、ビアンカがそう言った。その言葉を、アレフが引き継ぐ。

 「これは王都アリシアの地図だが、×印が付いている地点がこの数ヶ月間で盗賊の被害にあった所だ。初めての被害はここ、十一月の半ばに襲われた貴族の館。それから一週間から二週間に一度程度、貴族と富豪ばかりを狙っての犯行を繰り広げている。被害総額はもう億単位になろうという所だ。勿論軍も厳戒態勢を引いてはいるが、今のところ盗賊団が二人組であるらしい、という情報以外には確たる証拠すら上がっていない状態だ。」

 「それだけならば良かったのだけれど、最近はそれだけに収まらなくてね。」

 小さく溜息を洩らしながら、ビアンカがそう言った。そのまま、言葉を続ける。

 「治安が悪化したのは私の統治力不足という主張が最近は増えてきてしまったの。これ以上のさばらせると王権の存続にも関わりかねない事態よ。実際盗賊のターゲットになりそうな貴族や富豪は軍は信用できないと言って、自警団として傭兵の囲い込みを行っている状態だし、更にタチの悪い事にね、奴ら今度は予告状を出してきたの。

 『一か月以内に、海の聖玉を頂戴する。』

 ってね。」

 「海の、聖玉?」

 聞きなれない言葉に、詩音は思わずそう聞き返した。

 「簡単に言うと、国宝ね。アリア王国創世の頃から伝わるとされる、片手で掴める程度の丸い宝玉なのだけれど、王権の象徴とされている宝玉なの。万が一これが奪われれば、私の権威は完全に失われると言っても過言ではないわ。ただでさえ若年の私に、盗賊被害と言う失態、更には大陸戦争の時ですら守りきった海の聖玉の紛失となれば、流石の貴族連中も黙ってはいないでしょう。それが原因で内乱になったとしても、文句を言えない状態になるでしょうね。」

 努めて軽い調子で言葉を述べたビアンカではあったが、その事実は余りにも重い。自然に起こった沈黙を飲み込むように、フランソワが慎重に口を開いた。

 「でも、どうしてそのような重大なお話を私たちに?」

 「本来ならば、我々軍で何とかしなければならない問題なのだが、どうしても裏を掴めない。そこで注目したのが君だ。シオン君。」

 「俺、ですか。」

 アレフからの突然の指名に驚いた表情を見せながら、詩音はそう言った。

 「硬直した軍の思考だけでは盗賊を捕えることが難しい、というのが私とアレフの判断よ。本当はアレフにしっかりして貰いたいのだけれど。」

 「面目ない。」

 申し訳なさそうに、アレフがそう言った。その言葉に苦笑しながら、ビアンカが言葉を続ける。

 「それで、ここは一つ勇者様にお力添えをと思ったの。海賊退治の報告は詳細を把握しているし、この四月から王立学校にも進学すると聞いていたから。」

 そこで、ビアンカは表情を真摯なモノに帰ると、真剣な口調でこう言った。

 「シオンとフランソワ、貴方たち二人の力を、私たちに貸してほしいの。」

 「勿論、私はビアンカ女王の為にならどんなことでもやりますわ。シオンも、お願い。」

 即座に、フランソワがそう言った。そのまま、お願いをするような視線で詩音を見つめる。

 「僕に出来ることであるなら、なんなりと。」

 無論、詩音に断る理由があろうはずもない。

 「でもビアンカ女王、学校はどうすればいいでしょうか。」

 詩音の言葉を耳にして安堵した様子を見せたフランソワは、続けて懸念を込めた口調でそう言った。

 「それなら先程、学園長の許可は取っておいた。但し王命とはいえ、講義を優先してくれて構わない。基本的には週に一度、土曜日の講義が終わってから日曜日までの二日間の警備を手伝ってもらおうと考えている。こちらとしては別の視点からの意見を聞きたいという所だからね。」

 「それなら問題ありませんわ。」

 納得した様子で、フランソワがそう言った。その言葉にアレフも安堵したように頷いた。

 「怪盗の詳細は先程言った通り、殆ど分かっていない状態だ。今分かっていることは二人組であるということと、偽名だとは思うが予告状に記載された名前だけ。どうやらジュリアンとタートルという二人組であるらしい。その内、どちらか一人が強力な魔道士だという情報も入ってきている。少人数ながら、油断ならない相手だ。」

 そのまま、アレフは指先を地図に落とした。

 「手口は大きく分けて二通り。盗人らしく、闇夜に紛れて倉庫や金庫の鍵を物音一つ立てずに解錠していくというやり方が一つ目。どちらかが鍵開けの名人であることは間違いないだろうな。そしてもう一つは、ド派手に風魔道をぶっ放して、その混乱の隙に財宝を奪うというやり方。当初は静かに侵入していくというやり方が多かったが、警備が厳しくなってきた二月ごろからは魔道を用いた犯罪が多くなってきている。」

 「軍の魔道師では、対抗できないのですか?」

 アレフが指差した地図を眺めながら、フランソワがそう訊ねた。

 「通常の魔道士なら、十分に対抗できるのだが。」

 溜息を洩らしながら、アレフがそう答える。

 「被害状況を視察したけれど、アレは相当の使い手よ。私でも勝てるかどうか。一対一なら互角というところでしょうね。」

 「ビアンカ女王で、互角ですか・・。」

 驚きを隠さない様子で、フランソワがそう言った。どうやらビアンカ女王の魔力は相当のものらしい、と詩音は考えた。アウストリア公爵と、果たしてどちらが上なのだろうか。

 「とにかく、早速だけれど今週の週末に王都に来てくれると助かるわ。必要があればアレフに迎えに行かせるけれど。」

 「いいえ、そこまでご迷惑をお掛けする訳には行きませんわ。私と詩音二人で、王宮へとお伺い致します。」

 フランソワが、凛とした声でそう言った。果たしてアリア王国王都アリシアとはどのような場所だろうか、と詩音はぼんやりと考えながら、少し心が浮き立つような興味を覚えていることを自覚した。

 


 
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