No.404757

カーニバル 11話目

コグさん

ファンタジー小説です、続きものです。

2012-04-08 07:11:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:458   閲覧ユーザー数:458

 濃い霧がたち込める。

おいそれと道を進むことも、ままならない林道を一頭の白馬が

主人を背に乗せ駆けていく。

 

 美しい湖のほとり

 

 静かに何かを探す人影が二つ。「おい、慎重に探せ」

いらだちの篭った低い声。

 

「また、ガセじゃないのかしら」

集中力を切らした高い声が返ってくる。

 

 この二人の空間を切り裂く矢が猛スピードで降ってきた。

 

「そこで何をしている?」

金の髪を靡かせたエルフが澄んだ声で訊ねる。

 

「うん?お前も他国の、この地に何の用だ」

背が低く無精髭を生やしたドワーフが大声で聞く。

 

 辺りの空気がビリビリとしている。

 

「知り合い?」

いままでの態度とは、打って変わって戦闘態勢に入る女。

 

「油断するな、あのエルフ、現十騎士の一人ブラッドのパートナーだ」

 

「あら、という事は……あの情報はガセじゃなさそうね」

 

 いらついた声で

「どういうことだ!」

 

「フフフ、気付かない?そんな大物がわざわざ他国であるこの地に

やってきているのよ、それだけのモノがあるって事じゃない?」

 

「ガハハハ、なるほどな」

いらつきが無くなり、低い声が少しだけ浮ついた。

 

 サッと、下馬して弓を背に戻し

「何をしゃべっている、あなた達もこの国の者じゃないでしょう」

 

「迷い込んだだけだ、道が分かれば出て行くさ」

重量のある大斧をひょいっと持ち上げて

「なぁ、スパイダー」と隣の女に言う。

 

 スパイダーと呼ばれた女が

「ええ、ただ今、目の前に殺さなければならない目標ができたから、

それが済んだらね」

 

「おい、エルフの動きを封じろ」

 

 スパイダーの髪の毛が、蜘蛛の糸のように辺りに張り巡らされていく。

「エルフさん、あなた一人じゃ残念だけど私たちには勝てないわよ」

 

 シアは何とか蜘蛛の糸から逃れていたが、ついに足を捕らえられてしまう。

 

「よくやったスパイダー、おいエルフ何か言い残すことはあるか!」

答えを待たずに、大斧を振り上げて、叩き落とす。

 

 キィィィーン!

 

 シアの前に青く輝く鎧を纏った騎士が剣で大斧を受け止めている。

 

「何年ぶりだ、シア」

 

「相変わらず、かっこいい登場ね」

 

 大斧をはじき返して、辺りの蜘蛛の糸も切り裂く。

 

「いくら同盟国の者でも我が国に無断で入ってもらっては困るな」

 

「うふふ、いつから、そんな他人行儀な人になったの、ハヤブサ」

シアは、すくっと立ち上がる。

 

 湖の水面が揺れる。

そこから少し離れると、まるで頑固な油汚れのように、拭っても拭っても

取れる気がしない緊張感がある。

 

「こんな所に、王がわざわざ来るなんて、ここに何か大切なモノでもあるのか?」

意地悪く聞くドワーフ。

 

 剣を鞘に収める青年騎士

「素行の悪さで十騎士を除名されたドギルド、お前がいるだけで

私がここへ来る理由に充分だ」

 

「ドギルド、あそこを見て」

スパイダーが小声で言う。

 

「ふん、元々の目的は果たした、帰るぞスパイダー」

濃い霧の中、二人は姿を消した。

 

 二人の見ていた場所に、赤く輝く鎧を身に纏った青年と、木の陰から、

顔だけをひょっこり出している若い女性がいた。

 

「ブラッド、ちょっと遅かったじゃない」

緊張が解けた声でシアが言う。

 

「お前まで、来たのか」

ハヤブサが、やれやれといった態度をとる。

 

「おいおいハヤブサ、オレはお前の嫁さんが狙われないように護衛してたんだぞ」

ブラッドは嬉しそうにハヤブサの方へ寄っていく。

 

 木の陰に向かって

「おい、ミューズ……戦場へは来るなと言っているだろ」

 

 ハヤブサの声に反応して木の陰からトコトコとミューズと呼ばれた

若い女性が出てくる。

 

「幼い頃は、ブラッド、ハヤブサ、私とよくこうやって遊んでいたじゃない」

心地よい風が吹いて、鳥がさえずりだす。濃い霧も晴れて、四人は城へと向かう。


 
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