No.403654

本日、お稲荷日和。~おまつりっ~

他所の神社のお祭りに出掛けたいつもの2人。そこで出くわしたのは怪しい屋台。そして、蓉子の良き理解者・・・・・・?

第1話 http://www.tinami.com/view/403151
第2話 http://www.tinami.com/view/403636
第3話 http://www.tinami.com/view/403642

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2012-04-06 19:11:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:403   閲覧ユーザー数:403

周辺の山も徐々に色鮮やかに染まりつつある今日この頃、橘音と蓉子はと言えば……。

 

「ねぇねぇ、次は射的やろ♪しゃ・て・き☆」

 

「ちょっ、おばーちゃん!?」

 

余所の神社の秋祭りに参加していたりする。

 

「だぁってぇ、ウチの神社じゃお祭りなんて出来ないんだもの。狭いから」

 

確かに、初詣も数人しか来ない神社ではお祭りは無理っぽい。

いろんな意味で。

 

「おばーちゃんのせいでしょ」

 

呆れ顔で蓉子がツッコミを入れる。

 

だって、呼んでもいない会合や集会はもちろん、PTAの話し合いにすら顔を出す橘音である。

 

よく言えば、地域に溶け込んでいる気さくな神様。

悪く言えば、そこら辺のおばちゃんと同類。

 

わざわざ長~い石段を登って会いにいく…、もといお参りする必要すら地元住民は感じちゃいなかった。

 

「うっは~♪」

 

射的の屋台に向かう途中で、橘音さんが急ブレーキ。

 

「きゃっ!?」

 

なので、橘音に手を引かれていた蓉子は慣性に逆らえずに、橘音に追突。

 

「いきなり止まらないでよ」

 

おでこをさすりながら蓉子が文句を言うが、本人の耳には届いちゃいなかった。

 

「蓉子ちゃん、200円ちょうだい!」

 

それまで繋いでいた手を180度回転させて、小銭を要求する橘音さん。

キツネ耳をピコピコ、尻尾をブンブン振って蓉子には見向きもしない。

 

気になった蓉子が、橘音のはぁとをガッツリ鷲掴みにしている屋台を覗いてみる。

 

おじさんが鉄板からジュージュー音を立てて、小判型の何かを焼いている。

 

その手前には出来損ないのパチンコ台みたいなモノが飾ってあった。

 

「なに?ここ……」

 

見るからに怪しさ大爆発の屋台に警戒する蓉子。

 

橘音はと言えば、ちゃっかり蓉子のガマグチ財布から100円玉を4枚せしめていた。

 

「おじちゃん、2回ね♪」

 

屋台のおじさんに代金を渡して、パチンコ玉をふたつ受け取る橘音。

 

蓉子にパチンコ玉をひとつ渡して言った。

 

「これを、ここから転がしてねん♪」

 

出来損ないのパチンコ台の上の方には、手書きで『START』と書かれた塩ビの筒。

言われた通りに蓉子がパチンコ玉を入れる。

 

するとパチンコ玉が釘に弾かれながらコロコロとパチンコ台を転がり降りていく。

 

そして、いくつかの部屋に区切られた底で止まる。

部屋ごとに、1~4までの数字が書かれているようだ。

 

ちなみに蓉子のパチンコ玉は3と書かれた部屋に入っていた。

 

「……で、なに?」

 

唖然とする蓉子に、屋台のおじさんが串に刺さったハンバーグをみっつ、紙袋に入れて渡してくれた。

 

鉄板の上で焼かれてたのはハンバーグだったのだ。

 

「意外とくじ運が良いのね……」

 

真剣な表情でひとりごちる橘音さんに人影が迫る。

 

背後に立っても気づかない橘音に、巫女装束を纏った妙齢の女性が声を掛けてきた。

 

「挨拶も無しで、何をしている?」

 

せっかくの凛々しい雰囲気も、銀色のイヌ耳と尻尾が台無しにしている。

 

「何って、見ての通りハンバーグくじの真っ最中よん♪」

 

橘音があっけらかんと答えた。

 

「全く、相変わらずだな貴様は。まずは挨拶が先だろうに」

 

「別に良いじゃない。わたくしと貴女の仲でしょう?」

 

ちょっぴりムッとする橘音に構わず女性は話を続ける。

 

「そちらの女性とは私は初対面だというのに。あぁ、これは失敬。私は当神社に祭られている狗神の狛(こま)だ」

 

「あ、お稲荷神社の管理人をしている蓉子です」

 

お互いに自己紹介してペコリとお辞儀するふたり。

 

それをほったらかして、ハンバーグくじに興じる橘音さん。

 

ちなみにハンバーグはひとつしか貰えませんでした。

 

「えぇい、もう一度!」

 

いつの間にやら蓉子の財布を奪っていた橘音がおじさんに100円玉を2枚渡す。

 

「いつも、ああなのか?」

 

「いつも、ああです」

 

狛と蓉子が生暖かい目で、ムキになった橘音を見守っている。

 

「その……、大変だな(主に金銭的に)」

 

「ええ、ホントに大変です(主に精神的に)」

 

ふたりが理解を深め合っている間にも、大量のハンバーグを抱えて満面の笑みの橘音さん。

もちろん財布は空っぽ。

 

「なんと言うか……、アレ(橘音)に関して何かあればいつでも言ってくれ。力になるぞ。」

 

「ありがとうございます……」 

 

がっしりと握手する狛と蓉子。

橘音の傍若無人さが結んだ友情が、そこには確かに存在していた。

 

「あの狛さん。早速お願い、良いですか?」

 

蓉子が橘音に抱っこされてる大量のハンバーグを指差した。

 

「アレ食べるの、手伝ってください」

 

「ふむ、そうだな。胃腸薬を用意しよう」

 

戦利品を見ず知らずの他人に渡したくないという、橘音の我が儘もあって・・・・・・。

結局、全部のハンバーグを食べる羽目になった3人は、翌日胃もたれで地獄をみたそうな。

 

 

 

その夜のお稲荷神社は特別静かだったようです。


 
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