No.403636

本日、お稲荷日和。~あさげっ~

朝、何気なく目覚めた蓉子。その布団には・・・・・・?

第1話はこちら http://www.tinami.com/view/403151

2012-04-06 18:29:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:383   閲覧ユーザー数:383

スズメの鳴き声と部屋に差し込む朝日が彼女を優しく起こす。

 

手足をう~ん、と伸ばして背伸び。

 

まだ重たい目蓋をこじ開けながら、むくりと起き上がった。

 

目覚まし時計は、いまだ絶賛待機中。

 

閉じようとする目蓋と死闘を繰り広げる彼女に、スズメが「頑張れっ」と声援を送った。

 

眠気と格闘すること数分、不意に掛け布団が誰かに引っ張られた。

 

引き摺られてゆく掛け布団のあとを彼女の視線が追う。

半分閉じかけの目がゆっくり動く。

 

視線の先でモゾモゾ何かが動いて、掛け布団にくるまった。

 

「んぅ……?」

 

眠気でうまく回らない頭で考える。

考えて……

 

「ぐぅ。」

 

寝た。眠気に完敗。

 

ぐらりと彼女の身体が揺れて、丸まった掛け布団のほうへ頭からダイブする。

 

「いたっ!」

 

「きゃん!」

 

目蓋の裏でたくさんのお星様が瞬きました。

 

 

「ガハハハ、孫に夜這いたぁな!!」

 

「HAHAHA!キツネらしいデスネー!!」

 

「いくらなんでもねぇ……」

 

賑やかな話し声が聞こえて、蓉子は目を覚ました。

 

「あれ?」

 

目をパチクリ。

 

蓉子が横たわっていたのは寝室ではなくて居間。俗に言うリビング。

 

しかも……

 

「あん♪あんまり頭を動かさないでねん」

 

橘音さんが腕枕で添い寝してたりする。

 

「え!?ちょっ!!」

 

慌てて橘音の方に向き直る。ごろんと、寝返りをうって。

 

「うぷっ!!」

 

「いやん」

 

すると、橘音さんの胸に顔を埋める格好になった。

 

「もう、甘えちゃって可愛いんだからぁ♪」

 

感極まって、ぎゅっと抱きしめてくる橘音。

 

「ちょっ……息できな…い」

 

酸素を求めてジタバタ暴れる蓉子。

頬を赤らめて、幸せそうに蓉子の頭に頬ずりする橘音。

それを笑いながら見つめるご近所のお年寄り3人衆。

 

ただいまの時刻、AM6:30。

今朝も平和なお稲荷神社である。

 

 

「ぷはぁっ、死ぬかと思った…」

 

おばーちゃん(しつこい様だが外見は20代後半)の胸に抱かれて窒息死という、みょうちくりんな殺人事件は未遂に終わったようだ。

 

「それにしても、まさかそのキツネ耳がホンモノだったなんて……」

 

「尻尾だってホンモノよん」

 

抵抗する蓉子に思いっきり引っ張られたキツネ耳を橘音がさすりながら言う。

よっぽど痛かったのか、ちょっぴり涙目だ。

 

「はいはい、朝餉が出来ましたよ」

 

人の良さそうなお婆さんが、お膳にのっけた味噌汁とご飯とお漬物を目の前に置いてくれた。

 

「相変わらず美味しそう♪」

 

さっそく箸をのばす橘音の手首をお婆さんが目にも止まらぬ速さで掴む。

 

「いただきますは?」

 

只者ではないオーラを放つお婆さん。この人、デキる。

 

「い、いただきます」

 

素直に従う橘音さん。

お婆さんはパッと手を離して満面の笑顔。

 

「はい、どうぞ」

 

どうやら、礼儀には厳しい人のようだ。

 

「いただきま~す」

 

蓉子も目の前のお膳に箸をのばす。

まずはこの白菜のお漬物から。

 

「……美味しい!」

 

思わず感嘆の声をあげる。

 

「大げさだねぇ」「HAHAHA!」とお爺さん2人が笑う。

 

「ん?」

 

なんかアメリカンな笑い声に蓉子が首をかしげる。

 

ぐるん!と蓉子の首が回って、お爺さん達をロックオン。

 

2人のお爺さんのうち、右っかわのお爺さんを指差して蓉子が叫ぶ!

 

「外人!?」

 

指差されたお爺さんはクイッと立てた親指を自分に向けて「Yes!」と笑った。

すっごく清々しく。

 

「ワタシ、ジョージ言いマス」

 

「ど、どうも」

 

とりあえず握手。ゴツゴツした働き者の手だ。

 

「こっちの色男は無視ですかい、お嬢?」

 

隣のお爺さんが自己主張する。対抗意識バリバリだ。

 

「谷田 八郎(たにだ はちろう)だ。ハチでいいぜ」

 

「そうっすか、ハチ」

 

こっちのハチお爺さんとも握手。

 

「で、こっちがハナお婆ちゃんよん」

 

空のお椀を突き出しながら橘音がお婆ちゃんを紹介する。

 

「紹介するのかおかわりするのか、どっちかにして欲しいねぇ」

 

ハナが笑いながらおかわりをお膳ごと運んできた。

 

「ところで、ジョージとハチは朝ごはん食べないの?」

 

ちょっと気になったので聞いてみた。

 

「まぁ、勝負がつくまでハナの手料理はご法度なのよ」

 

ニヒルに笑ってハチが言った。

 

「おヨメサンにするまでガマンでース」

 

ジョージがダンディに笑って言った。

 

「はい?」

 

意味がわからず蓉子の目が点になった。マンガみたく。

 

「ジョージとハチはね、40年来の恋敵なのよん。でね、勝負に勝ったほうがハナにプロポーズするんだって」

 

にんまりと底意地の悪いニヤケ顔で橘音が説明してくれた。

なんでもお互いハナお婆さんにヒトメボレだったとか。

 

「日頃は喧嘩ばかりなのに、あたしのお見合いの時には一致団結してねぇ」

 

ハナお婆さんが苦笑いを浮かべる。

そうとうお見合いを邪魔されてきたらしい。

 

「め、迷惑すぎる……」

 

蓉子が呻いた。

 

「それがねん、ハナもまんざらでもないみたいなのよ」

 

ニマニマ気色悪い表情のまま橘音がハナを指差してからかう。

 

「何言ってんの、もう!」

 

顔を真っ赤にしたハナお婆さんが台所へ消えていった。

 

「んじゃ、朝メシ前に一勝負いくか!」

 

「オーケー!」

 

2人のお爺さんが一瞬で軍服姿に変身した。

両方ともライフル(エアガン)を装備している。

 

「うえぇ!?」

 

仰天してうら若き乙女にあるまじきリアクションをする蓉子。

 

「はじまったわね!」

 

味噌汁を片手に興奮気味の橘音。

 

ハナお婆さんは巻き込まれないようにしっかり避難していた。

 

「いくぜ、オラぁ!!」

 

「かかって来なサーイ!!」

 

突如、お稲荷神社で始まる銃撃戦。

本殿、鳥居に刻まれる弾痕。

 

「やれー!ぶっころせー!!」

 

「ちょっと!なに煽ってんの!?味噌汁こぼれるってば!!」

 

テンションMAXで箸を握り締めた拳を振り上げる橘音と、それを止めようと奮闘する蓉子。

 

賑やかで、ちょっと騒がしい朝食模様。

 

 

 

お稲荷神社は本日、ちょっと荒れてます。


 
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