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超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第7話

ME-GAさん

超次元ゲイムネプテューヌ(ry 第7話です
最近暑くなってきたような…暑がりだからですかね

2012-04-04 10:29:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1541   閲覧ユーザー数:1461

「一つテラに聞きたいんだけど」

「何?」

テラがネプテューヌ達と合流して翌日。

依頼先のパッセ工場へ向かう途中、アイエフがふと口を開いた。

「テラが一緒にいたあの娘は一体誰?」

「あー……」

テラは『その説明まだだったっけ』とか思いながら記憶を探る。

「……」

「……まさか」

「誰だ? 名前は分かるんだがそれ以外は知らない……」

三人の汚いモノを見るような視線にテラは少し涙したという。

「で、でもさ! 知り合ってたった二日だぞ、二日!

しかも若い男女が仲を深めるにはあまりに短すぎる時間というか!」

「えー……テラさんそういうのが目的だったんだ」

ネプテューヌは更に目線を厳しいモノへ変える。

「ち、ちが……!」

「私達を放っておいて他の女の子と仲良くしたかったですか……?」

「ヒィイ!」

じりじりと迫り来るネプテューヌとコンパにテラは恐怖し、後退る。

 

――バキッ!

「ぎゃぁ!」

 

「ま、テラが要領悪いのは分かりきってたことだけどね」

「目の前で言うんだ、それ」

頭の天辺にタンコブをこさえたテラは涙目でアイエフを見る。

 

その話題はそこで終了し、一同は眼前に佇む工場の中へと足を踏み入れる。

「ここが前の依頼のシアンの工場?」

「別に工場なんて立派なモンでもねえよ。ただの町工場だ」

テラ達の声を聞きつけてシアンが奥から顔を覗かせる。

「しばらくだったな。何でも大ケガしたとか……。悪い仕事頼んじまったな」

シアンが表情を曇らせる。

クエストに問題はなかったんだよなー、とか一同は思ったのだが。

「と、とりあえずさ、そんな顔するな。悪いのはオレの方だからさ。

ねぷ子もぴんぴんしてるし、この話は保留にしようぜ」

テラは慌てて話題を修正する。

彼としても、この話題は触れられたくないことだったので、シアンが奥に入るように促すのを見てホッと胸をなで下ろした。

 

 *

 

「ま、好きなトコに座ってくれ。ここ、俺の家だから」

見えてきたのは先程のゴツゴツしい工場とは正反対の綺麗な木造の飲食店のような場所。

「へー、じゃあ私カウンター席とったー!」

ネプテューヌは素早く数少ないカウンター席の真ん中を陣取り、椅子でくるくると回り、しばらく回って「うっぷ、キモチワルイ」とか言いながら口元を押さえて顔を青ざめさせた。

「でも、仕事場の隣がレストランっていいね! 飲み放題?」

「自分の家で飲み放題やっても仕方がないだろ? 工場だけじゃあ苦しくてな、母さんが片手間でやってくれてるんだ」

「はいはい。アンタが話すと話題が反れるから黙ってなさい」

アイエフがネプテューヌを制す。

「しかし、なんかここいらの工場は随分と……なんつーか、覇気がないよな?」

テラはここに来るまでに幾つか見かけた工場の様子を見て持った疑問をぶつける。

「この辺はまあ、アヴニールの所為で仕事が回ってこなくてな……」

「アヴニール……?」

どっかで聞いた名前だ……、とかテラは思う。

「やっぱりアヴニールは悪い会社だよ! それで街の人達も困ってるんでしょ!?」

「悪いなんてモンじゃない! 仕事全部取り上げて自分だけドンドンでかくなる化け物みたいな会社だ!」

「アヴニールって何?」

ネプテューヌもシアンも熱くなっているところでテラが空気を読まずに割り込む。

この男が空気を読むなんて芸当は出来るはずもないのだが。

「まあ、一言で言えばここら辺で一番大きな会社ね」

「そのせいで何処も景気が悪くて潰れちゃってるらしいです」

「ふぅん……」

「どういうワケか、女神様もそれに仕える協会も見て見ぬフリだしな!」

シアンは悔しそうにテーブルを叩く。

「やっぱりアヴニールを倒さなきゃ、ラステイションに幸せは来ないよ!」

「でも、どうするです? やっつけようと思ってやっつけられるモノじゃないです……」

シアンはバッと顔を上げる。

「でも俺達だってただ黙って潰されやしない! 待ちに待った総合技術博覧会が今年開催されるんだ」

「そうごう……?」

「ぎじゅつはくらんかい……」

ネプテューヌとコンパはこくりと首を傾げる。

「あー、二人はラステイション初心者だしね。テラはどう?」

「俺は何回か来たことはあるからなんとなく分かるぞ」

 

この重厚なる黒の大地『ラステイション』では4年に一度、各会社が決められたジャンルで展示を行う催しがある。

まあ、それで最良なモノを造ると女神に認定されて知名度上がって大もうけ、うふふ♪、みたいなイベントである。

少し端折ってあるが、この裏ではシアンが長々と詳しい説明を繰り広げていることは一応本人の名誉のために申し上げておく。

 

「それでどうやってアヴニールさんをやっつけるです?」

「重要なのは女神様の方だ。博覧会に出品してアヴニールの鼻を明かしつつ、女神様に直談判しようってことさ!」

シアンの言葉にコンパはポン、と手を叩く。

「なるほどです! でも、それだとシアンさんがとっても頑張らないとダメですよ?」

「分かってるさ。それで、資材、材料の運搬にもモンスターの脅威が増すばかりでな。

これからはこまめに仕事を頼むだろうから、ヨロシク頼むって挨拶だな」

「ま、こっちは仕事だからな。頼まれたらやってやるさ」

「おう、頼むぜ」

シアンは言い笑顔を浮かべてグーサインを出す。

 

 *

 

「折角こっちのゴタゴタが収まったと思えば今度は依頼主の方がなぁ……」

テラはしみじみと呟く。

「アヴニールさえ無くなればラステイションはもっと良い感じになるのになー……」

「いや、それはどうかと思うわよ……?」

「ねぷねぷ、いくらなんでもそのアヴニールさんをそこまで敵視するのもいけないですよ?」

「でもさー……」

ネプテューヌはぷくーっと頬を膨らませて不服の表情を見せる。

「でもよ、アヴニールが荒稼ぎしてるってコトはそれで税金なんかも入ってるわけだからそれが無くなって国が傾くなんてあり得ない話じゃないだろ?」

テラの言葉にネプテューヌは「あー……」とか呟く。

「それに、アヴニールで働いている人だっているわけだし、その人達の仕事を奪うってのもなんか後味悪い話だと思わない?」

追い打ちとも言えるアイエフの言葉にネプテューヌは「ぐぅ……」と唸る。

「要はアヴニールさんの不正を暴いてラステイションの皆さんに仕事が行き渡るようにすればいいです?」

「そういうこと」

テラは「流石、物わかりが良いな」と言ってコンパの頭を撫でる。

コンパはカーッと頬を紅潮させる。

「でもさー、シアン達だって困ってるんだし少しくらい痛い目見てもいいって思わない?」

「だから、それが今度の博覧会で鼻を明かそうって話だろ?」

まだまだ不服そうなネプテューヌをどうにか宥めて一行は次なる依頼主との合流場所へと向かった。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ねー! なんでアヴニールのお仕事なんて受けたの!?」

ネプテューヌはわんわんと叫いてだだっ子のように暴れる。

「理想だけで食べていけるほど、世の中甘くないわよ。

好き嫌いしてたら立派な大人になれないの」

アイエフはまるでお母さんのようにぴしゃりと言いのける。

「依頼主が来たぞ。結構厳しそうだから、しっかりしてろ」

テラはそう注意して、依頼主の元へと駆け寄る。

「はじめましてです。アヴニールのサンジュさんですね? 依頼を受けたコンパとねぷねぷとあいちゃんとテラさんです」

こんな自己紹介で大丈夫かなー、とテラとアイエフは冷や汗を垂らす。

「……社の者が選んだなら仕方がないな。

私が市外のプラントを視察する間、周辺のモンスターを掃討して貰いたい」

男、サンジュは冷ややかな声でそう告げる。

敵意むき出しで威嚇するネプテューヌの頭をテラは軽く小突く。

「くれぐれもモンスター達を逃して施設に被害を与えてくれるな。

あとは任せる」

男はスタスタと歩いていく。

「なんか、感じ悪いです……。

きっと、シアンさんの時と同じで子供だと思って侮ってるですね! 失礼しちゃうです!」

「まー、こんぱとねぷ子じゃ仕方がないかもね」

アイエフはアハハ、と苦笑いで返す。

「……あいちゃんだって人のこと言える身長と胸じゃないです」

コンパはアイエフに聞こえないように小声でそう呟く。

「ま、確かに感じ悪いかな。もう少し愛想良くてもいいのに」

テラも緊張がほどけていつもよりも軽い声でそう告げる。

彼が言えた話でもないが。

「やっぱりアヴニールの人はあんな感じなんだね。恨まれても仕方がないよ」

「だから、そんなこと言わない」

ぺし、と叩かれてネプテューヌは「あいた」とか言って叩かれた額を抑える。

「とにかく、ごちゃごちゃ言われないように仕事するか」

テラは腰のナイフに手を伸ばし、戦闘態勢を取る。

 

 *

 

数時間が経ち、かなりの数のモンスターを掃討したテラ達は再び合流場所へ赴く。

「よし! 綺麗になった! もういないよね?」

「全然見当たらないです! もしいても、逃げちゃってるですよ。

今日のお仕事は完了ですぅ!」

すっかり舞い上がる二人を横目にテラはふぅと溜息を吐く。

「そうは言っても結構疲れたなー。なんであの二人はあんなにテンション高いんだ」

「まあ、久しぶりで舞い上がってるんでしょ。それに、元々元気な方だしね」

テラはキョトンと首を傾げる。

「元気なのは分からんでもないが、クエストは俺がいない間にもやってたんだろ?」

テラの言葉にアイエフはハァ、と溜息を吐く。

(ホント、鈍感いわね……。よくもまあ、こんなのを……)

「? どした?」

「なんでもない」

明らかにどうかはあるのだが、テラには皆目見当も付かず、ただただ頭上に?マークを浮かべるしかない。

「視察は終了だ。……モンスターの駆除はどうだ? この辺りのモンスターは全部倒したんだろうな?」

男は低い声でそう告げる。

「大丈夫! ボスっぽいのも倒したし、しばらくは怖がって近付いてこないよ!」

「そうか。だが、もしモンスターが残っていて施設に傷一つついているようなことがあれば、今後一切君達に仕事は頼まん」

男の言葉にネプテューヌはビキリと青筋を浮かべる。

今にも飛びかかりそうだったので慌ててテラが押さえる。

「お、大げさですぅ。壊れても、直せばいいじゃないですか」

「なにも分かっていないな。大して役にも立たない人間の分際で機械を軽んじるとは……!」

コンパの言葉が気に障ったのか、男は段々と声を荒げる。

「人に機械ほどの精密さがあるか? 人に機械ほどの正確さがあるか!?」

男は近くの壁をドンと殴る。

コンパはビクリと身を震わせてその大きな瞳からボロボロと涙が溢れる。

「っ!」

「テラ! 前に言ったでしょ!?『面倒を起こして困るのはこっち』だって!

今は押さえて!」

アイエフは小声でテラを制す。

「そ、そんなこと言われても分からないですぅ……。

私は機械じゃないですからぁ……」

コンパは溢れる涙を両の手で拭う。

しかし、それを見て男は眉一つ動かさずに淡々と続ける。

「そうだな。君は機械ではなく、不完全な人間だ。

いつどこでミスするかなんて分からない。だが私は人間だからと言ってミスを許すつもりなんて無い」

テラは憤る。

もはや、厄介なんて関係ない。

殴りたい、この男を無性に殴りたい。

殴り飛ばして、這いつくばらせて、惨めな声でコンパに死ぬまで謝らせてやりたい。

テラのドロドロとした感情が渦巻き、もう、それは一切コントロールできない。

テラは動く。

「ミスをして当たり前。それが人間だというのなら私は迷わず機械に仕事を頼むだろう。

君達にもそれ程の危機感を持って我が社の仕事を――ぬぉっ!?」

テラは男の胸ぐらを掴み、低い声音で男に迫る。

「おい……人間が不完全だと? 巫山戯るな。テメエこそ不完全な人間だろうが……!

テメエなんか俺達よりも遥かに劣る不良品だってコトが分かんねえのか?

テメエはな、生まれたときからミスってんだよ、生まれたこと自体がミスなんだよ。

人の気持ちがわからねえ、機械にはなくて人間にはあるものを見ようとしねえカスの仕事なんざこっちからお断りしたいね!」

テラはサンジュをドンと突き飛ばし、コンパに駆け寄る。

「大丈夫か?」

「うぅ……」

泣きじゃくるコンパを抱き寄せて、テラはもう一度サンジュを睨む。

殺意すらこもる瞳で。

「っ……!」

サンジュは逃げるようにその場を立ち去る。

しかし、相変わらずテラの瞳から怒りの念が消えることはなかった。

 

「うぅ……私なにか悪い事したですか……?」

「泣かない泣かない。こんぱは悪くないから。

つーか、大人げないわね。女の子脅すなんて……!」

アイエフがよしよしとコンパの背中を撫でる。

「けっ! ゴミが。テメエなんか廃材よりも使えねえ癖によく言えたモンだぜ」

テラはとうに見えなくなった男にそう吐き捨てる。

「わ、私が機械を馬鹿にしたとか思われちゃったんです……。

それに、もしかしたらもうアヴニールさんからお仕事貰えないかもです……」

「こんぱが心配するコトじゃないよ! それにもう頼まれたって受けてあげないんだから!」

ネプテューヌはベーと舌を出して彼方にそびえるアヴニールのビルにあかんべーをする。

「機械を馬鹿にされたっていうか、人間馬鹿にしてる感じね。アレは」

一行に不快な感情を残し、アヴニールの依頼は終了を告げた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ぬあ――! 思い出しても腹立つ――!」

テラは渾身の力を持って叫ぶ。

ガシガシと所在なさげの両手で頭を掻く。

依頼を終えた一行は再びパッセ工場へ戻り、暇つぶしとしてここの手伝いなんかをしているのだが、今回はなんか愚痴を言いに来たッぽい。

「だろ! そうだろう!? サンジュは嫌な奴だったろ!?」

「そーだよ! 機械がどうのこうのって言ってコンパを泣かせたんだよ!?

ぜ――ったい悪者だよアイツ!!」

今までアンチ打倒アヴニールだと思っていたテラだが、今回の騒動で一気に立場逆転でアヴニール解体賛成派に回ってしまっている。

「やっぱそんなこと言ってたか。アイツ、人の物作りを全否定してる感じだから」

「つーか機械だって人の作ったものなのに、それすら否定って矛盾してんだろ!

あー、腹立つわ! この世で一番腹立つ!」

だんだんと地面を蹴りつけるテラを横目に多少興奮の収まったシアンが近くの椅子に腰掛ける。

「ま、アイツがアヴニールの代表でな。俺がいた専門学校のOBでもあるんだ。

特別講師で来たときにあったんだけど、その時『人に機械ほどの正確さがあるか?』とか言ってたんだよ」

「あははは! 言った言った! そんなこと言ってた!」

腹を抱えて大爆笑するネプテューヌ。

頭を抱えて唸ったり、壁を蹴りつけたりするテラ。

泣きじゃくるコンパ。

同じく大爆笑するシアン。

『これ、なんてカオス?』と、ノーマルなアイエフは思ったという。(後日談)

「アイツは技術者の腕を全否定する。技術者の誇りを否定する。だから嫌いだ」

「あー! 俺も嫌いだ! 大嫌いだね、あんな奴!」

珍しく感情を爆発させるテラを奇異の目で見ながらアイエフはどかっと椅子に掛ける。

「いーから落ち着きなさい。ったく、アンタがおかしくなったら私一人でこの手の掛かるメンバー抑えなくちゃならないんだから」

「だってムカツクだろ!? これは是が非でも今度の博覧会で目に物見せt『……放送の途中ですが、ここで協会からの公共情報をお送りします』……あ?」

突如、ラジオから流れる声に一同は耳を傾ける。

『例年より発表の遅れた総合技術博覧会に関して、教院関係者は今年の開催は見送られることが決定しました』

 

「「「「はぁあ!?」」」」

 

突然の発表にコンパを除く4人が驚愕し、耳を疑った。

『教院側は参加企業の減少を理由としていますが、民間の実行委員会からは教員主導の大陸行事に対し、国政員側の圧力があったのではないかとの意見からの反発も多く――』

「巫山戯るな! 今やらなくて何時やるんだ!?

4年なんて待ってたら工場なんかとっくに潰れて――!」

「ちょ、落ち着いて!」

アイエフとネプテューヌは激昂するシアンを宥める。

「もう今年が、最後のチャンスなのに――!」

ブルブルと拳を振るわせて唸るシアンに、もう4人は何も言えなかった――。

 

 

 

 

「悔しそうだったなぁ……シアンの奴」

「まあ、そりゃそうでしょ。折角ここまで来たのに、いきなり中止だなんて聞かされたらね」

あの後は結局その場にいられなくなった雰囲気となり、とりあえず日を変えて会いに来るという約束をして一同はパッセ工場を後にした。

 

「異端者さんて宗教で言うところの違う宗派の人のことを言うですよね。

そんな人を探すですか?」

コンパは顎に手を当ててうーんと唸る。

「よく知ってるわね。プラネテューヌで学校に通ってたんだし、授業環境で言えば、この中じゃトップクラスね」

「あれ? テラさんも学校通ってたんじゃないの?」

「コンパの行く看護学校と俺の士官学校じゃ学力は天と地の差くらいあるぞ。

俺の学校、ほとんど勉強しないから」

士官学校は看護学校とは違い、戦闘訓練が主なのでいわゆる馬鹿が多いのである。

まあ、テラはその中ではかなり頭の良い方ではあるが。

「まー、具体的に説明するなら協会に所属してるのに他の女神様を信仰して協会から追い出されちゃった人のことね」

アイエフの説明にネプテューヌはへぇーと声を漏らす。

「つまり、自分の大陸に女神様がいるのに他の女神様に手出しちゃって教会から追い出されちゃった人のことだね?」

「……なんか不倫みたいだなー」

しかも例が例だけに容易く想像しやすくてテラとアイエフは微妙に嫌な顔をした。

「ていうか、ねぷねぷ! 女神様をそういう風にとらえるのは不謹慎です!」

「ごめんごめん! でさ、そんな異端者さんなんて探してどうするの?」

「協会の内部事情を聞くのよ。もとは教会の人なんだし、きっと何か知ってるわ」

「そうです! 私達に足りないのは情報です。博覧会を中止にしたのは教会だったです!」

「んで、俺達を追い返したのも教会だったな」

その時の光景を思い出したのか、テラは微妙に怒りのこもる瞳で遠くにそびえる教会を見据える。

「でも教会の時みたいに話を聞く前に追い返されちゃったらどうする?」

「その時は……銃でも突きつけて脅しかければいいんじゃない?」

最終的な結論はどうかなー?、とか思ったがそうでもしないと結局は前に進めそうにないので渋るコンパを何とか説得して一行はその異端者のいる場所へ向かう。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「なんかさ、モンスターの数多くない? そんなに広くないのにいっぱいいるよ?

そんな居心地良いかな、ここ」

「確かにちょっと多いかもです。これじゃあ、異端者さんも心配ですね、急ぐです!」

「あー、ちょい待ち」

テラは先程倒したサイクロプスの死骸の近くに膝を突いてそれを調べている。

「てか、今更思ったけどテラさんってよくモンスターの死骸を素手で触れるよね」

「あいちゃんだって足で転がしたりしてるのに、すごい勇者です……!」

「いや、これくらいできないと士官学校やれないから」

よっこいしょ、と声を上げてテラは重いサイクロプスの死骸をゴロンと転がす。

「見てみろ」

テラはサイクロプスの背中辺りを指す。

三人はそれをのぞき込む。

「つるつるだね」

「そこじゃないでしょ! これ、傷ね」

アイエフはネプテューヌの頭をぺしんと叩いてから再びサイクロプスの死骸に向き直る。

サイクロプスの背中には、何やら鋭い武器で斬られたような傷がある。

「おかしいと思ったんだ。あのサイクロプスがこんなに弱いわけがない、ってな」

その言い方は某妹さんに失礼じゃないかなー、とかネプテューヌはどうでもいいコトを思った。

「とにかく、これって私達の他にここに来た人がいるってコトでしょ。異端者以外のがね」

「え? でも、これ異端者さんがやったと思わないです?」

「異端者はとっくに六十過ぎたオッサンだぞ。モンスターと戦闘なんてできるワケないだろ」

テラの言葉にコンパは「ああ……」と呟く。

「しかし、だとしたら誰かしら?」

「私達みたいに協会で追い返されちゃった人が異端者さんに話を聞きに来たとか?」

「もしくは協会の使者が異端者を暗殺に来た、と考えられないでもないぞ」

「だとすれば大変ですぅ! 早く助けに――」

 

――シュッ!

 

コンパがそう言い終わる前に遥か前方から槍が投げられる。

「っ!」

「っきゃぁ!」

テラはコンパを抱えて後ろに飛び退く。

「誰!」

アイエフはカタールを構えて叫ぶ。

「見つけたぞ……! 我らが因縁の男……!!」

「ああ、今日こそ、決着の時だ!」

「え、俺?」

『ウチのパーティで男って言ったらアンタだけでしょ』と目で訴えるアイエフを横目にテラはナイフを構えて戦闘態勢を取る。

「誰だ?」

前方は暗がりでよく見えないため、テラは目をこらして声の主を探る。

「くくく……さぁ、行くぞ!」

「覚悟しろ!」

女性の一人は地面に刺さった槍を抜き、格好いいポーズを決めてテラに槍を構える。もう一人も同様である。

 

 

 

「――誰?」

 

最近はインパクトのあるイベントが多すぎたためにテラの脳味噌のキャパシティが限界を迎えていたため、現れた二人、盗賊:ジークフリート&ハーケンの存在がテラの記憶容量から消し去られていた。

名前がテラとかなのに脳の容量は小さいんだな、とかどうでもいいことは言わないでおこう。

「んな!?」

「あれほどの激闘を繰り広げたというのにお前という奴は!」

「いや、すいません。まったく覚えがないんですが」

テラは申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。

『最早緊張感とか微塵もないなー』とか『無様ね』とかそういう雰囲気がテラを除くネプテューヌ一行から感じられるが当の本人達はそんなこと気にせずに話を進める。

「貴様にやられてから一週間! 私達は血を流すような修行をしてきた!」

「今日こそ貴様を倒すとき!」

ジークフリートは槍を構えてテラに突っ込む。

「うぉ!?」

咄嗟に右手のナイフでそれを弾いてもう片方のナイフをブン、と振るう。

「流石に反応は良いな」

「アンタこそ結構いいスピード持ってるじゃないか」

テラは少し冷や汗を垂らす。

ちなみに外野の三人は体育座りでそれを観戦しているのでいまいち緊張感というかそういうものが出ないのだが。

「貴様はこのダンジョンの奥にいる異端者に用があるのだな?」

「何故それを!?」

『ピシャーン』と背後に雷が落ちて(イメージ)ネプテューヌはショックを受ける。

「ソイツをこんなところでなくして情報を失いたくはないだろう?」

ハーケンはにやりと不敵に笑う。

「とりあえず言いたいんだけどさ、あんた達の一週間の修行と努力は何だったワケ?」

と、外野でアイエフは半ば呆れ気味に聞くが相変わらず二人はそれを流して話を進める。

「さあ、武器を収めて貰おうか?」

「汚いヤロウだなー……」

などと呟きつつ、テラはナイフを腰のポーチに収める。

「フン、それでいい」

「何が望みだ? 金か、それとも人さらいか? 俺さらっても大して稼げねえぞ」

「私達が望むのは貴様の命、それだけだ!」

その言葉に今まであきれ顔をしていたテラの顔に真剣味が灯る。

「悪いけど、みすみすやられるワケにはいかねえんだよな……」

テラは素早く腰の銃に手を伸ばして発砲する。

「何!?」

「悪いけど、俺の命はそう易々と渡せるモンじゃないね!」

バッとテラは跳躍して上からジークフリートに斬りかかる。

「貴様、異端者が死んでもいいのか!?」

「アンタらが二人組ってコトは最初ッから分かってたんでね。まとめて、しかも人質も連れて来ないで出てくるってコトはハッタリと見た」

ニヤッと笑ってテラは右足でローキック、ジークフリートを転ばして向かってくるハーケンの槍を弾いて喉元にナイフを突きつける。

「はい終了~」

テラの暢気な声が響き、二人は悔しそうな声を上げる。

「クソッ!」

「私達が、またしても……!」

「ま、アンタらの筋は悪くないし。あとはどう動くかが問題だな」

テラはくるんとナイフを回して再びポーチに収める。

「んじゃ、行くぞー」

「ちょ、アイツら放っておいていいワケ?」

アイエフの問いにテラは「あー」とか言って二人をふり返る。

「ま、久々に強い相手だったしな。次も楽しませてくれるかなとも思うしさ」

「テラさん、おっとなー♪」

ネプテューヌはご機嫌な声を上げてテラの右腕にしがみつく。

「ちょ、くっつくな!」

「ねぷねぷ、ズルイですよ!」

そう言ってコンパはテラの左腕をホールドする。

「おいっ! コンパまで!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぐテラ達の背中をジークフリートとハーケンの二人は非常に冷めた目で見ていた。

「なあ、私達はあんな奴に負けたのか……?」

「なんかもう戦う気も失せたな……」

二人はすっくと立ち上がり、はあと溜息を吐いて踵を帰してダンジョンの出口を目指した。

その背中にはひどく哀愁が漂っていたが、ここでは何ら関係はないのでそこら辺の説明は省かせて貰う。

 

 *

 

テラ達がしばらくダンジョン内を進んでいると前方に杖を突いて小岩に腰掛けている老人を見掛ける。

「えーと、アナタが異端者さん? どうしてこんな暗いダンジョンの中にいるの?」

ネプテューヌはいきなり近付いてそんなことを老人に問いかける。

「こんな場所は健康に良くないです! 一緒に出ましょうです!」

コンパはグイと老人の手を引くが、それを老人は邪険に振り払い低い声で告げる。

「お前達は一体……ワシに近付くな。

ワシは動かん。アレの受け取り場所はココだけじゃ。使いの者はこの場所しか知らん……」

「この異端者……危ない薬でも誰かに貰ってるんじゃないの?」

アイエフは眉をひそめて老人を睨む。

「それより、私達協会のこと聞きに来たの!」

ネプテューヌの問いかけに老人はクイと顔を上げる。

「おお……協会の何が知りたい?」

「博覧会が中止になったり、協会の中に入れて貰えなかったりしたの!!」

「それで、内情を知ってそうなアンタに話を伺いに来たってワケさ」

老人は哀しそうに溜息を吐く。

「協会は今、政治を行う国政院に牛耳られておる。女神に仕える教員は追いやられてしもうた。

今の協会には何を言っても無駄じゃ。まあ、それは頭の固い教院も同じことじゃがな……」

「それどういう「教院とか国政院て何だっけ?」アイエフに聞け。邪魔をするな」

テラは言葉を被せられたことに少し苛ついて乱暴にアイエフを指す。

「まったく、女神を信じてばかりでワシらの警告には耳も貸さん。

このままでは人類が滅ぶというのに……」

ネプテューヌがアイエフにこってり絞られる中、コンパが声を張り上げる。

「ちょっと待つです! 人類が滅ぶって、世紀末の予言ですか……?」

「そう、人類は滅ぶ。畏怖の王、魔王ユニミテスの手によってな……」

意味深な言葉に一同は眉をひそめる。

「ユニミテスは遥か昔の女神でさえ、封印するにとどまった凶悪な魔王じゃ……。

現在の守護女神さえもその強大さに下界へ逃れるしか術なかったと言われておる」

「そっか……。ソイツがモンスターで世界を混沌に陥れようとか実はしてたんでしょ!?

わー、ワルモノぽい!」

はしゃぐネプテューヌを横目にコンパは続ける。

「でも信じられないです。女神様でも太刀打ちできない魔王なんて本当にいるですか?」

「そうじゃな……誰しもそうじゃ。

最初はワシも信じられんかった。じゃが、信じねばいずれ使いによって罰が下る!

お前達も同じじゃ! モンスターを倒してココまで来たのじゃろう?

罰は下るぞ! お前達にも! 必ず!!」

いきなり声を荒げる異端者にコンパはすごんでテラの後ろにかくれる。

「おい、オッサン!?」

「去れ! ユニミテスに刃向かう愚かな童どもめ!」

「こ、怖いです! いったいどうしたですか!?」

「とりあえず放っておこうよ。出たくないって言うのなら無理矢理連れ出しても、ね?」

ネプテューヌの言葉に一同は不服を残しつつもその場をそっと後にする。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ダンジョンを抜け出してはあ疲れたと言うところでも構わずネプテューヌはハイテンションで続ける。

「来たねー! 魔王来たねー!! 大魔王ユニミテスだって! 強そー!!」

ぴょんぴょんとはね回るネプテューヌを横目にアイエフは告げる。

「って言っても、どうせ異端者の妄言か何かでしょ?

だいたい女神様でも刃が立たないなんて、それこそあの異端者に女神様の罰が下るわよ!」

激怒するアイエフの脇を肘でつんつんと突っついてネプテューヌは囁く。

「分かんないよ? だって現にモンスターは現れてるし、いーすんだって捕まってるしね」

「……あー、いたわねそんな人。案外、その人の自作自演だったりしてね。

モンスター生み出してそれを倒そうとするねぷ子みたいな勇者気取りを誘い出して殺して――みたいな?」

アイエフがからかうようにネプテューヌの頭を抑える。

『ち、違います! 私はそんなことしません。

ネプテューヌさんとテラさんからも言ってあげてください』

「?」

「およ? いーすんの声だ、いーすんキタ―!

もう救出されるまで話に上がってこないのかと思ったよ! どう? 快適?

あ、縛られてるんだっけ?」

ぐいぐいと話を進めるネプテューヌに慌てて声を上げるイストワール。

『縛られてなんてないです! それに快適でもないですし……。

それよりもお二人にも説明してあげてください!

私は史書イストワール、世界で最も尊い存在――「そんなことよりいーすんは今日はどんな用件で連絡してきたの?」……』

話を聞いてやれよ、テラは思ったのだがネプテューヌの暴走を止めることは不可能と分かっていたし、既に危険信号がレッドなのでもうどうしようもできないので傍観している次第である。

『今日はどうしても伝えたいことがあって連絡しました。

あの人によっていつまで伝えられるかは分かりません。

貴方達にも妨害の手は伸びるでしょう……』

イストワールの言葉にテラとネプテューヌは顔をしかめる。

ちなみに端から見れば二人は宙に向かって何やらむにゃむにゃと言っているだけなのでアイエフとコンパは軽く引いているが。

「あの人って……?」

「いーすんは自分を封印した人の名前を知らないの?」

『……知っています。でも言えなかったのです。

その名前を知ってしまったら、あの人を悪者扱いしてしまうようで」

「お前な……」

「悪者でしょ? いーすん封印してるんだから。

それとも封印されてるいーすんが悪者?」

ネプテューヌの言葉に再びイストワールは慌てる声を上げる。

『そんなことはありません。……もう、迷っていられません。

お二人とも、彼女に、マジェコンヌに気をつけて。

彼女は既にお二人に気付いています』

「マジェコンヌ……」

「それがいーすんを封印したワルモノ? そいつが妨害してくるんだね?」

ネプテューヌの言葉にイストワールは少し哀しそうな声で告げる。

『気をつけてください。あの人、マジェコンヌは……!』

そこでイストワールの声はプツリと途絶える。

「おーい、マジェコンヌが何? だんまりされちゃった」

「通信が切れたんだろ。たぶん、そのマジェコンヌって奴に妨害されたんだな」

テラは何時になく真剣な顔つきで呟く。

「いーすんさんの声は聞こえなかったけど、お二人のでなんとなくは分かったです」

「案外、そのマジェコンヌってのがその凶悪な魔王なんじゃないの?

モンスターの生みの親かもしれないし」

「とにかく、そのマジェコンヌって奴に気をつけろって忠告してくれたんだろ?

なら、用心に越したことはねえ」

テラはそう答えつつも、まだ見ぬ敵、マジェコンヌに対し妙な畏怖の念を抱いていた――。

 

 

 

 

再びパッセ工場を訪問する一行。

「……悪いな、変な気をつかわせて。こっちはもう大丈夫だ!」

しかし、その表情からは決して曇りがないとは言えず、変なおじさんの人が『大丈夫だ~』と言うくらいに大丈夫な気がしないのだがそれはおいておく。

「博覧会の中止は残念でしたけど、きっとまだ手はあるですよ!」

「分かってるさ! 俺もまだまだ諦めてねえ!

……っとそれより、この地図のところに行って資材を取りに行ってくれねえか?」

「なんでだ? 博覧会は無いんだろ?」

「注文したんならさっさと持って行けって怒られた」

アハハと笑うシアンを見て、テラはひとまず安堵の息を漏らし、パーティを引き連れて地図の通りの場所へ向かった。

 

 *

 

「何だコレ? 全然終わってねえじゃん……」

シアンの紹介で訪れたのは資材屋のシェーブルという男の店である。

そしてここはその裏手の資材置き場。

テラは不機嫌そうに眉をぴくぴくと動かして仕事のはかどらなさに苛立ちを覚える。

「だってホントに重いんだもん~~!」

ネプテューヌは「ふぎっ!」とか声を上げて一つの段ボールを荷車に乗せる。

「だいたい、テラさんがおじさんとお話をするからですぅ! そういうのは女の子に任せて力仕事をするのが男の子の役目です!」

近くの木に身体を預けてコンパは叫ぶ。

「仕様がねえだろ。アイエフは他のところに行っちまったし、お前らが話聞いても、な……」

最後の言葉を濁してフイと明後日の方向を向く。

「あー、今の傷ついた」

「まったくです!」

頬を膨らませる二人に「悪かった」と謝ってテラは続ける。

「それより、凄いことが分かったぞ」

「何々?」

「飛びつき早いな……。アヴニールだが、どうも国政院の力が働いているらしい」

テラの言葉に二人は頭上に?マークを大量発生させる。

「どーいうこと? 国政院って協会のかたっぽでしょ? 女神様に仕える仕事の人がなんでアヴニールを守るの?」

「これは少しばっかり難しい話になるんだがな……」

テラは『お前に理解できるかな……』とか言おうとしたが流石にこれは本気で怒りそうだったので口の中に押しとどめる。

「アヴニールみたいに他の会社を倒産に追い込むような事業は普通は協会が事業を抑えるように忠告するんだ。他の大陸ならな」

「うんうん」

「それは分かりますぅ」

子犬のように寄ってくる二人を前に押し出して、テラは続ける。

「アヴニールはとある力を使って今、協会を仕切っている国政院に自分達の横行を見逃せと言ってるらしい」

「とある……」

「力ですか?」

「おうよ。なんだか分かるか?」

テラの言葉に二人はう~んと唸って思案する。

「袖の下?」

ネプテューヌは少し大きめの自分の服の袖をフリフリと揺らしてみせる。

「ま、選択肢として無い話じゃないが、今回は違うな」

「えー?」

不服そうな声を上げて再び腕を組んで思考を廻らせるネプテューヌ。

「もしかして……数、ですか?」

「お、コンパ正解」

「数?」

「そ。国政院が権威を行使するにはそれに賛同する民衆の気持ち、

つまり民意が必要なわけだ。アヴニールほどの大企業となれば……」

「それだけ人も沢山いるってことですね」

「そう。つまりあっちから見れば、アヴニールは民意の塊みてーなモンだろ?

アヴニールを味方につければ、それだけ自分達が好き勝手できるってコトだ」

テラの言葉にネプテューヌとコンパは「なるほど」と言ってポンと手を叩く。

「それでアヴニールは更にでかくなって国政院の優位を高める、無限ループさ」

テラはお手上げ、とばかりに溜息を吐く。

「なるほど。とうとう無視できない感じになってきたわね」

「お、アイエフ。おかえり」

アイエフはいくつかの荷物を抱えて門の前に立っている。

「聞いてたのか?」

「大体ね。後はこっちもこっちで色々聞いていたし」

アイエフは持っていた荷物を荷車に積み上げる。

「こりゃ、立派な職務妨害だろ。権力をいいことに自分達の好き放題使いやがって……!

この国の協会ってのはロクな仕事してねーな」

テラはそう吐き捨てる。

「でも、これは私達がココでどうこう言って何とかなる問題じゃないし。今は情報も少なすぎるし、今はうまく動けないわね……」

アイエフの言葉に一同は渋々と作業を再開する。」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「いいクエストないわね」

「そうだな……」

街中に張り出されているクエスト掲示板をテラとアイエフはのぞき込んでいる。

「……」

「何よ?」

テラはジーッとアイエフを見つめる。

「いや、見づらくないのかなーって思って」

「馬鹿にすんなぁっ!」

ガツンとアイエフのかかと落としが脳天にクリティカルヒットしてテラは地面にどさっと倒れ込む。

「っ~~~~!!」

「ったく……」

額に青筋を浮かべるアイエフを蹴られた頭を抑えて涙目で見つめるテラ。

「でもお前、ウチのパーティでもダントツで小さいしさ……」

「余計なお世話よ。どうでもいいでしょ、そんなこと」

アイエフは怒ったように声を上げて目に付いたクエストの張り紙を取ろうとする。

「っ~~」

「取ろうか?」

「うっさい!」

なんかポストに手が届かなくて投函できない子供みたいだなー、とテラは自然の笑みが零れそうになるのを我慢してその微笑ましい光景をしばし堪能していた。

「っ~~! っ~~~~!!」

「ほれ」

グイッとアイエフの腰を辺りを掴んで上へと上げるテラ。

「んなっ!」

「これで届くだろ?」

「するなっ! 笑うな~~っ!!」

ジタバタと暴れるアイエフを見て余計にニヤけそうになるのをテラは必死で抑えて渋々張り紙を取ったアイエフを地面に降ろす。

 

 *

 

「……」

「……」

妙に憤るアイエフとトリプル重ねタンコブをこさえたテラを見てネプテューヌとコンパは何も言えなかった。

『だってなんか下手なこと喋ったら殺されそうだったんだもん』とネプテューヌは後日ガタガタと震えて語っていたがそれはまた別のお話。

「アヴニールのクエストがあったわ。列車がモンスターに襲われて、なんとか逃げ延びた従業員を助けて欲しいってあるわ」

「えー……アヴニールの人助けるの? なんか釈然としないなー。

大体、従業員さんもアヴニールの人なんだし、自分達の工場で作った武器とか持ち歩いてないの?」

アイエフはハァと溜息を吐きつつも説明する。

「アヴニールは基本、人用の兵器は造ってないって聞いたわ」

「代表が代表だからなー」

先日のアヴニール代表:サンジュを思い出し、テラは少しイライラした。

「従業員さんは悪くないです。そうやって助ける人をえり好みするのはダメですよ!

人助けに国境はないです。さあ、行きましょう!」

コンパの強い押しにネプテューヌは渋々納得し、一同は指定のダンジョンへと足を運んだ。

 

 *

 

ネプテューヌの視線の先には一人の男性が近くの岩場に腰掛けていた。

ネプテューヌはすぐに男性に駆け寄り、手を差し伸べる。

「……よかった。貴方が依頼にあったアヴニールの従業員でしょう?」

男性は少々戸惑ったような表情を見せたが、すぐにニコッと人当たりの良さそうな微笑を浮かべる。

「貴方のような綺麗な方に助けていただけるとは、光栄の極みですが……だ、誰ですか?」

「私達は貴方の会社さんに言われて救出に来たです」

コンパの声に男性は辺りを見回す。

「おや、コンパさんにアイエフさんに、君ですか。お久しぶりです」

「アンタ……」

男性:ガナッシュの姿を見てテラは眉をしかめる。

数日前に協会内部でノワールと接触していた人物。

テラの警戒心を察知したのか、ガナッシュは小さく口元に人差し指を当て、内緒のポーズをとる。

「そういえば、真っ先に走ってきそうなネプテューヌさんの姿が見えませんが……?」

「……どこかであった? だとしたらごめんなさい。記憶にないわね。

私が一度あった人の顔を忘れるなんて……」

ネプテューヌは申し訳なさそうにガナッシュを見る。

その態度にガナッシュはポカンと口を開けるが、直後に大声を上げる。

「はぁ……はぁ!? も、もしかしてネプテューヌさんですか!?

随分と思い切ったイメチェンをしますね……。

前に見たときはどう見てもお子様……いえ、こちらの話です」

ガナッシュは明らかに何かを取り繕っているのだが、そんな彼とは対照的にテラはますます警戒する。

「わざわざすみませんね……。博覧会の準備で大陸中を回っていたのですが、列車にモンスターが襲われてしまって」

「でも博覧会は中止になったってラジオで聞いたですよ?」

その話は行き届いていなかったのか? と一同は妙な違和感に襲われる。

「いいえ、例年通りに行われますが? ……ああ、一般の方には伝わっていないのですね。

すみません、忘れてください」

「そうはいかないわ! シアンも相当落ち込んでたし、予定通りってなら大ニュースだわ!」

アイエフはずんずんとガナッシュに迫るが、それをネプテューヌは制止する。

「確かにいい報せね。ところで総合博覧会の準備と言っていたわね。

アヴニールはどんなモノを出展するの?」

ネプテューヌの問いにガナッシュは茶化すような軽い声で答える。

「いやですねぇ! そんなに口が軽そうに見えます? 流石にそんなことは言えません」

その飄々とした態度にテラはますます苛立ちを募らせる。

「ですが、ココだけの話ですよ? 今回の博覧会の準備は会社が現在の態勢に移行した直後、三年前くらいから計画されていたらしいですねぇ」

「どういう意味だ?」

「まあ、その事については博覧会再開の件を含めてラジオの方で察しが付くと思いますけどね」

ガナッシュはそれだけを言い残すと、「私はもう大丈夫ですので」と言って颯爽と去ってしまったのだった――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「……本当だろうな? 博覧会再開なんて、嘘だったらぬか喜びの分返して貰うぜ?」

なんか最早盗賊の手口だなーとかネプテューヌはどうでもいいことを言いそうになったのだが、アイエフに怒られそうな気がしたので押し黙った。

「なんでそんな話になんのよ。一瞬でもぬか喜びを味わえた分、奢って貰いたいくらいね」

生活も厳しいから少しでも出費は抑えたいんだなー、とテラもテラで変なところで感心したが、同じくアイエフに怒られそうだったので押し黙っていた。

ザザザッと一瞬だけノイズ音が鳴り、ラジオから淡々とした口調の女性の声が流れる。

『それでは、ここで協会からの公共情報をお送りします。

数日前に中止を取りざされた総合技術博覧会ですが、主催、運営を教院から国政院に移し予定通り開催されることが決定しました』

ラジオ放送の内容にネプテューヌは声を1オクターブ上げてラジオを指さす。

「ほらね! 言ったとおりだよ! やっぱりあるんだよ、博覧会!」

「確かに聞いたが、国政院が主催ってのはどういうことだ?」

シアンは小首を傾げて大量の?マークを頭上に浮かべる。

「なんか嫌な予感がするです。ていうか嫌な予感しかしないです!」

コンパも騒ぐがテラは至って冷静に答える。

「どうせ、アヴニールの出来レースかなんかじゃないのか?

アヴニールと国政院が繋がってることは分かってんだし」

「アヴニールの外回りが言ってたわね。今年の博覧会に向けて三年も前から準備してきたって……」

アイエフはうーんと腕を組んで、思考を廻らせる。

「実は今年のジャンルは武器なんだが、それだって分かったのは今年になってからだ。

ジャンルが分からなきゃ、たいした準備は……って、もし事前にジャンルが分かっているとしたら……?」

「もしくは、自分達でジャンルを好きに決められたなら、とかな」

テラとシアンの言葉にコンパは焦った声を上げる。

「そんなの反則です! だいたい本当にアヴニールさんがそこまで考えて動いてきたですか?」

「確かに博覧会で脚光を浴びるためだけにしては大袈裟ね。多分、もっと大きな理由があるんだろうけど」

しかしながらビジネスについての知識をほとんど持たない4人にはその理由とやらは想像が付かない。

「博覧会を手始めに大陸中の企業を抱き込む気かもしれねー。いいアピールになるだろうからな」

「そんなものなの?」

「わかんねーよ。アヴニールの目的なんて……だけどサンジュの目的ならだいたい分かるぜ。

大陸中の全てを機械に置き換える気だ!!」

その言葉にネプテューヌは頭上に浮かぶ?マークを更に3個ほど追加した。

「なにそれ……。

もしかしてロボットだらけの世界を創りたいとか? 機械ヲタクなの?」

ネプテューヌの言葉にシアンはフルフルと首を横に振る。

「いや、機械が好きって言うか、人間が嫌いなんだな。信用できないって言うか、人間不信って感じか?」

あー、それは仕方がないなという雰囲気が流れるが先程からも言っていると思うがそんな間抜けな口を挟めるような柔らかい雰囲気でないことくらいはネプテューヌにだって理解できている。

まあ、今までの発言が決してメタ発言ではないと言えば嘘にはなるが。

「アヴニールも従業員を雇ってはいるが製造ラインの大部分は機械だ。人がやる仕事なんてほとんど無いんだろうな。

大体は商品を売りに行ったり、資材を買いに走ったり調達するための肉体労働だったり……。機械のサポートだ」

シアンの長々とした説明にコンパは納得したような声を上げる。

「そうだったですか。じゃあ、本社の中に従業員さんみたいな人はほとんどいないですか?」

「そういうことだ。

それより、博覧会……妙なことにならなきゃいいけどな……」

「俺はもう胸騒ぎしかしないんだが……?」

テラの言葉はごもっともなのではあるが、そんな悲観的に、消極的に考えていても仕方のないことなのでここから後はシアンに任せようよ、みたいな雰囲気になり一同は工場を後にした。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

「ネプテューヌは予想よりもはるかに強いわ。

それでもまだまだ発展途上ではあるけれど……」

少女、ノワールは悔しそうに自分の服の裾をぎゅっと握る。

「叩くなら急いだ方がいいと言うことでしょうか?

もちろん女神様のためというならば、明日にでも総力戦と行きたいところですが……」

男、ガナッシュは大きく溜息を吐く。

「なかなか大がかりなモノでして、予定より早くとまでは行かないでしょう。

急いで事をし損じても意味がありませんしね……」

「急げとは言わないわ。

でも、本当に貴方の提案通りに上手くいきそうなの?」

ノワールは訝しげにガナッシュを見る。

ガナッシュが少し肩をすくめる。

「こちらはこちらでこまめにネプテューヌさんを見てきましたが、今のままでは問題ないでしょう。

女神様はのんびり彼女が倒されるのをお待ちくださればよいのですよ。

ギルドの誇りにかけて必ず彼女を倒してご覧に入れましょう」

ノワールは「そう」と呟いて相変わらずの曇り空を窓から見上げる。

哀しそうに――。

「代表は何て? とても無口で何を考えているか分かったものじゃないけど、協力に関して不満とか憤りとか……そういうのは上手くいっているの?」

「私に関してならあまり好かれていませんが、問題ないでしょう。

彼には彼なりの意地やこだわりがあるようなので」

「そっか……」

ノワールはカリ、と爪で軽く窓ガラスを掻く。

「……気になりますか? 彼のことが」

「っ! 私は別にテラのコトなんて……!!」

ノワールは赤面してガナッシュの方を勢いよく振り向く。

「私は何もあの少年のこととは言っておりませんが?」

「く……!」

からかわれているようでノワールはますますイライラする。

「あの少年、テラバ・アイトでしたか? ふつうの人間にしては随分と面白い戦闘能力をお持ちのようですよ。まるで、女神様をも凌駕するような、ね。

あぁ、これはブラックハート様の前では不謹慎でしたかね?」

ガナッシュの言葉に、ノワールは目を見開く。

まるで、女神をも凌駕する――

 

 

『彼女』すらも超える存在と言うことが……。

 


 
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