「では、この件はそのようにお願いします」
今日も今日とて三国会議。各国の王・軍師級が出席している。
議事進行役は各国軍師で持ち回りとなっており、今日は朱里の番だ。
滞りなく議事が進行する会議ほど楽なものはない。
事実、会議は終盤だが俺は一回も口を出してない。
……別に分からなかったわけじゃないぞ?
俺が口出しする必要がないくらい、みんなが優秀ってことだ。
「えー次の案件は……『天下静謐における軍事ちゅくちょうの可能性にちゅいて』……はぅ」
朱里が読むには長くて難しすぎたみたいだ。
多分、軍事縮小、と書いてあるのだろう。
「え~と、これは…」
「私の案よ」
そう言うは、一言の音声も響く魏王の華琳だ。
「これは一体、どういうことですか?」
「三国同盟のおかげで内向きに戦をする必要はなくなったわ。そして領内の賊や反乱分子の討伐もほぼ完了した」
「あっという間でしたね~」
他人事のようにのほほんとした穏。
「こうなると街や街道の警備、主要都市の守備隊、王直属の近衛兵。そして対五胡を始めとした国境要所の駐屯兵。本当の意味で必要なのはこれ位だと、私は思うのよ」
「あわ……それも、一理あります」
「……なるほど、そういうことか」
「はわわ~、難しい問題ですよ、これは」
数人、華琳の言わんとしている事が分かったようだが、議場の大半はポカンとしている。
「えー…華琳?私達にも分かるように説明してくれないかしら?」
さすが蓮華。みんなを代表して疑問を投げかける。
「つまり、今の規模では軍部が大きすぎると思うの。もっと民政にお金を掛けたいのよ」
「え~~と、それなら兵隊さんたちのお給料を少し減らせばいいんじゃないかな?」
「そう簡単にはいきませんよ、桃香さま。鈴々ちゃんや恋さんがお昼代削られて喜ぶと思いますか?」
「うぅっ…たぶん暴れちゃうね、二人とも…」
伏目がちに唸る桃香。
張飛と呂布の暴動とか、想像しただけで背筋がぞっとする。
「さりとて、徒に首を切るわけにもいかんのだよ」
「そうですね。軍人にしてみれば、自分達のおかげでこの平和があると思ってますから……」
「それに、不満を持った戦闘の専門家を野に放つと危ないですからね~。また戦争になっちゃいますよ」
呉の三軍師も懸念を挙げる。
「しかし財政面を考えれば、これは必要な改革です」
「その通りよ。軍事費削減は絶対に必要よ!」
「では桂花ちゃんは兵隊さんを路頭に迷わせても良いと?」
「そうは言ってないでしょ!」
丁々発止を始める魏の三軍師(主に桂花)。
「これはより良い世を作るのに避けては通れない問題よ。確かに力を否定は出来ない。特に私はね?
でも少ない力で民の安全を保障できるなら、余過剰金を民政に使いたい。これからはそういう時代だと私は思うの」
「…なるほど」
日本の豊臣秀吉しかり、アレキサンダー大王しかり。
そして、正史のこの国にいずれ現れるチンギスハンしかり。
国の内側・周辺を制した者は、膨れ上がった職業軍人問題にぶつかる。
いや、それを問題と捉えられない事が多いかもしれない。
勝ちに乗っているときはそういうものだ。
この溜まったエネルギーは外へと向けられ、ほとんどの場合、破綻する。
平和裏にこの問題を解決したのは、日本の徳川家康くらいだろう。
その家康も、秀吉の遠征失敗がなければ難しかったはずだ。
それにいち早く気付ける華琳は、さすがの一言だ。
「他の国はどうかしら?」
華琳は二国へ目を向ける。
「呉としては、南方や散発的に発生する江賊に気を配らなければならないけれど…私個人としては、華琳の案に賛成よ」
呉王・蓮華は答える。後は蜀王。
「う~~ん……蜀は五胡と国境を接してるからな~。私も、個人的には大賛成なんだけど……」
理想としては桃香の想いに沿うところだが、現実としては…といった所か。
これもこれで桃香の成長だろう。
「しかし華琳。現実問題、その案をどのようにして行おうと考えているのだ?」
「兵隊さんクビにして行く当てがなくなっちゃったら可哀想ですからねぇ~」
呉の知恵袋、冥琳と穏はすかさず疑問を投げかける。
「そうね、まだ腹案ではあるのだけれど…三国を見渡すと、まだまだ開墾できる土地はたくさんあると思うの。
そこで、除隊して開墾に従事する者には、道具の無償貸与や租税・諸役の減免。さらに収穫物に対する課税を十年単位で優遇。
この程度のことを考えてるわ」
「それなら、人件費の削減と同時に生産性の向上も出来ますね。さすが華琳さま!」
絶賛する桂花。
「で、でも…呉や蜀には、そんなに開墾できる土地は、あまりありません…」
おずおずと亞莎が手(袖?)を挙げ、発言する。
「こちらで引き受けても良いのだけれど、そうね……工芸品などの職人への転職の道を作るというのはどうかしら?
二、三年の期限を設けた職人の学校を作るの」
「ふむ…悪くないな。平和になり嗜好品の需要も増えている。酒や織物など、製法・技法を学ばせれば、かなりの収入源になるだろう」
「はわ!蜀繍が他国や都で人気と聞き、生産性を上げる方策を練っていたところです」
「では、こういう方向も模索していきましょう」
スラスラと前進していく草案。
これも簡単に決まりそうだな。
「さて、ここまではいいわ。でも最大の問題がもう一つあるのよ」
「と言うと?」
「最終的には既に仕官している武官にも、文官の仕事をしてもらいたいの」
「「「………えぇーー」」」
議場になんともいえない空気が漂う。
それぞれの武官、特に将軍クラスを思い浮かべれば無理もない。
「何も文官や軍師のような働きは期待しないわ。ただ、隊の調練や自己鍛錬だけをさせとくだけの将は少し効率が悪いわ。
最低、自分の部署の書類くらいは捌けるようになってもらいたいの」
「なるほど。魏で言うところの秋蘭さまや凪のような武官を増やしたいと。そういうことですね、華琳さま」
眼鏡を直しながら稟が言う。
「そうね。秋蘭までとは言わないけれど、凪くらい真面目にやってくれると助かるわ」
「ふむ……対策としては武官の採用・昇進にも知力を問う試験を設ける、といったところか」
冥琳も眼鏡を直しながら喋る。
「そんなところでしょうね」
「でも~、そうなると問題はー」
「今いる将軍、ですね」
穏と亞莎も眼鏡を……って、眼鏡多いな!
「うちは、たまに桂花に頼んで勉強会を開いてはいるのだけれど……成果は芳しくないわね」
「華琳さまっ!あれは春蘭のバカが私の邪魔をするからっ…」
……光景が目に浮かぶ。
「あわわっ……蜀もたまに勉強会を開くんですが…」
「鈴々ちゃんや蒲公英ちゃん、美以ちゃんなんかは逃げちゃうんだよね……はわ~…」
臥竜鳳雛は揃ってため息。
「我が呉の武官は質実剛健……と言いたいところだが、事務仕事は我々がほとんど一手に受けているし、
思春、明命は護衛や密偵が主な任務だからな…」
「あんまり二人はそういうお仕事、得意じゃないですね~」
呉の二大頭脳も苦笑いしながらの嘆息。
「既存の武官の知力をどのようにして向上させるか。それが最大の課題よ」
…………
……
議場を沈黙が包む。
一部の人に対し、如何にこれが難しいか、身をもって知っているからだ。
かく言う俺も、これに関しては匙を投げたい気分だ。
「ここはオレが一肌脱ぐしかねーな」
静寂を破ったのは、男らしい(?)声。
残念ながら俺ではない。
「これこれ宝譿。策もなしにそういうことを言うもんじゃあ~ありませんよ?」
宝譿だった。
「何か良い案でもあるの?風」
渡りに船と華琳。
「いえー、風ではなく宝譿が~…」
毎度のようにとぼける風。
どうしたものかと華琳が苦笑いしていると、
「じゃあ宝譿ちゃんの代わりに風ちゃんが説明してくれる?
風ちゃんと宝譿ちゃんは一心同体だもんね♪」
「………………」
天然なのか腹黒なのか。
桃香が見事に風をあしらった。
「…では、風から説明を~」
風が折れた!
心なしか宝譿も萎れてみえる。
「華琳さま。以前、魏で風が優勝しそうになった催しを覚えてますか?」
「あぁ……なるほど。面白そうね」
「でしょー」
分かり合ってしまう二人。
呆気に取られるその他大勢。
「ちょ…ちょっと待ってくれ、二人とも」
「え~と、私たちにも分かるように説明してくれませんか?」
蓮華と桃香が説明を求める。
「それはですねー。れすぽんすか、こちらをご覧ください~
http://www.tinami.com/view/68914」
「はわわっ!?なんですかこれは…」
「それは読者用ですー」
「……読者用?」
…………
……
「あ~あ、なるほど~♪」
「ふむ、そういうことか」
「妙案かと」
軍師メガネーズは今ので分かったらしい。
……今ので分かるなよ。
「え?えぇ?どういうことですか?」
「ちょっとどういうこと!?ちゃんと説明しなさいよっ!!」
案の定キレる桂花。
朱里・雛里もはわあわしてる。
「おや~?読者的には分かりやすいと思ったのですがー」
「だから読者ってなによ!!」
風は楽をしようとしていた。
「風、ちゃんと説明してあげなさい」
華琳は苦笑いしながら窘める。
「はーい。ま、簡単に言えば、人の嘘を見抜こうという天の国の催しなのですー」
違うけどな。
「そこで、武官の皆さんのためにこの催しを開催し、少し頭を使ってもらおうかなーと思うわけなのです~」
「なによそんなことなの?だったら最初からそう言いなさいよ!」
怒る桂花。
「確かに、鈴々ちゃんたちには机に座って勉強してくれませんから、いい案かもしれませんね」
「あわ……でも、どれだけ効果があるかは分かりません」
二人がメリットとデメリットを挙げる。
「あぁ、それは大丈夫ですよー」
風は言う。
「信長の野望・天道の教練しすてむみたいなものですからー」
「……のぶなが?」
「教練しすてむ?」
…………
しかもPKだった。
風が教えるなら我流なんじゃないだろうか?
今の武官に教えるには不向きなような…
「よく分からないけど、試す価値があるならやってみましょう。風。この一件、あなたに全て任せます」
「御意ー」
「結構。では、今日の会議はこれで終了とする。解散!」
議事進行役は、華琳に変わり、終わった。
数日後、特定の者に召集状が送られた。
『○○殿
来る明後日、知力に関する特別訓練を実施する。
卯三つに城の東屋に集まられたし。
仔細は当日、程昱から説明がある。
なお、この訓練は全ての業務に優先される。
出向しないものは厳罰に処す。』
最後に三国の王の署名と捺印がされていた。
特定の将に召集状が届けられてから二日後。
まだ日が昇りきらぬ中、都城の東屋の階下には召集された諸将のほとんどが顔を揃えていた。
顔ぶれを並べると、
魏からは春蘭と季衣。
本来は流琉も呼ばれるのだろうが、武以外に一芸(料理)があるとのことで免除となった。
蜀からは鈴々と翠、それに蒲公英が選ばれた。
蒲公英は焔耶がいないことに、いたくご立腹のようだ。
呉からは思春、明命に小蓮も選ばれていた。
三者三様に険しい表情をしている。
その他、南蛮王の美以に袁家の残念少女・美羽。そして召集されていないのに美羽の付き添いで七乃もいる。
またもう片方の袁家、麗羽に猪々子も呼ばれていたのだが…
……
…………
「この完璧なわたくしが、これ以上なにかを訓練する必要など、これっぽちもありませんわ!」
「そーっすよねー」
「で、でも、参加しないと厳罰に処すって書いてありますよ?」
「はぁー…まったく、斗詩は全っ然、成長してませんのね」
「え~~~、私なんですか!?」
「よくその書状をお読みなさい。厳罰の件の後に、わたくしがこの大陸の統治を委譲している三人の名前と判子が捺してありますわね」
「……そう、ですね」
「こんなもの、真の大陸の王であるこのわ・た・く・しには何の拘束力もありませんわ」
「そーっすよねー」
「だから、このような書状は華麗に無視ですわ。おーっほっほっほっほ!!」
「…………」
…………
……
と麗羽には華麗にぶっちされ、何気に猪々子まで来ていない。
そして謝罪のため、本来くる必要のない斗詩が、二人の代わりに腰を低くし待機していた。
「おはようございます~」
朝の、どこか気の抜けた空気にぴったりの声で、風が現れた。
人の間を抜け階段を上ると、東屋を背に皆の方を向いた。
「本日は皆さんの知力向上訓練を行います~」
目をパチクリさせる者もいれば、口を真一文字にしむくれる者など、表情は三者三様だ。
というか、パチクリさせてる人は召集状を読まなかったのだろうか?
「方法は簡単。今日、風は皆さんに嘘をつきます。皆さんには、それを見破って頂きたいのですー。
何も難しいことはありません。今日は皆さんお仕事が免除になっているので、普段のお休みのようにお過ごしください。
ただし、居場所が分かるように、ご自分達のお屋敷でお過ごしください」
とは言っても…という面々。
「もちろん、メンドくさーい訓練を受けていただく訳ですので、ご褒美も用意してます」
おぉー、と一部の人から歓声が上がる。
「見事、風の嘘を見抜き、知力を向上させた方には、お兄さんが何でも一つ、願い事を叶えてくれますよー」
おぉ~!!と先ほどより大きな歓声。
「お猫様」や「ハチミツ一年分」など、欲望が高らかに聞こえてきたかと思うと、腹に一物抱えて静かにほくそ笑む者もいる。
何はともあれ、多少なりとも全員がやる気になったのは間違いないようだ。
「なお、参加者同士の相談は構いませんが、それ以外の人からの助言は失格扱いとしますので、あしからず~」
そりゃそうだと頷く者も入れば、ポカンとしている者も約数名……危険である。
「日の入りにまたここで答え合わせを行います。では、また後でお会いしましょー」
こうして一部の人間には長い一日が始まった。
Tweet |
|
|
16
|
1
|
追加するフォルダを選択
こんにちは、お久しぶり、はじめまして、DTKといいますm(_ _)m
今回はだいぶ前から温まっていたエイプリルフールネタ第2弾です。
何気にまともな萌将伝ものは初めて。遅いですが^^;
おかしなところもあると思いますが、良かったら読んでみて下さい^^
続きを表示