No.399011

あやせたんの野望温泉編 あやせたんside

俺妹のアニメ放映が終わってもうだいぶ。
pixivで閲覧1万越した久々のシリーズ。

2012お正月特集
http://www.tinami.com/view/357447  そらおと 新春スペシャル 智樹のお年玉

続きを表示

2012-03-28 00:30:14 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3019   閲覧ユーザー数:2820

 新年が明け、新しい1年が始まりました。

 年明け早々にわたしはお兄さんと共に初詣を済ませ、今は新垣家に送ってもらっている最中です。

 隣を歩くお兄さんは家を直前にして足を止めました。

「なあ、あやせ。俺たちはこの春からそれぞれ大学生と高校生になるよな」

「そ、そうですね」

 大学生という言葉を発したお兄さんはいつもより大人の雰囲気を醸し出しています。

 服装もいつもより洗練されていて大人の男性という感じがします。うちのモデル事務所の男性モデルの方々みたいです。

「あやせは、高校生が大学生になると何が変わると思うか?」

「そ、そうですねぇ……」

 ちょっと考えてみます。

「見た目的には服装が変わりますよね。制服から私服に」

 外観的な差は大きいですよね。

「後、生活時間帯が変わりますよね」

 個人的なイメージですが、大学生の1日って遅い時間に始まって遅い時間に終わる感じがあります。

「確かにそれも大きな差ではあるが……他にも、あるだろ?」

 お兄さんがわたしの肩に手を乗せました。

「大学生といえば18歳以上。そう、もう大人なんだ」

「あっ……」

 お兄さんがわたしの顎をそっと持って顔をお兄さんの方へと向けさせました。

「あやせは大人な俺にどんな風に接してくれるのかな?」

 お兄さんの顔が段々近付いてきます。

「も、勿論わたしだって精一杯の大人のお付き合いをするに決まってますよ」

 わたしは精一杯の勇気を振り絞ってお兄さんの顔から目を背けないようにします。

 き、キスしたいんならすれば良いと思います。

 わたしも大人なんですからに、逃げたりなんかしません。

「大人のお付き合いって具体的には何だ?」

 わたしとの顔の距離が後5cmの所でお兄さんは近付くのをやめました。

 そしてニヤニヤしながらわたしの顔を見ています。

 この人、わたしを試しています。わたしの方からキスさせるつもりです。

 普段より3割格好良い癖に普段より3割陰険です。

「どうした? 早く大人のお付き合いが何なのか教えて欲しいんだが?」

 意地悪です。今日のお兄さんは本気で。

 年のはじめなのに凄く悪質です。でも、わたしは負けません。

 

「なら、わたしの本気をお見せします」

 そう言って、わたしは背伸びしながら自分からお兄さんへと顔を近付けていきました。

 街灯の明かりの下、2人の顔と顔が重なり合います。

 わたしのその初めての体験は永遠とも思えるほどに長い時間を掛けたものになりました。

 実際には10秒ほどだったのでしょうが、わたしにとっては悠久の時でした。

 大人への階段を登ったわたしはゆっくりと踵を地面に付けて再びお兄さんの顔を見ます。

「これが、大人のキスですよ」

 ちょっとだけ誇らしくお兄さんに告げます。

 新垣あやせ15歳。お正月に遂に大人への階段を1歩登りました。

 これでお兄さんもきっとわたしを子供扱いしなくなると思います。

 でも、ここでお兄さんは予想外の反応を示しました。

「おいおいおい。今時キスぐらい小学生だってするぜ。どこが大人なんだ?」

 お兄さんはまだ意地悪な笑みを浮かべています。キスの余韻に浸っている様子はまるでありません。

 ちょっと失礼な態度だと思います。せっかく私のファーストキスをあげたのに……。

「これから女子高生になる大人の女が小学生と同じだってのは問題あるんじゃねえのか?」

 それどころかより高度な要求をしてきました。

 何て卑劣な人なんでしょうか。卑怯です、この人。

 こんな人と一緒にいたらわたしは不幸の階段を転げ落ちてしまうに違いありません。

 でもこんな人だからこそわたしがずっと一緒にいて更生させてあげないとダメなんです。

 そう──

「お兄さんには、わたしが付いてあげないとダメなんです」

 お兄さんに指を突き差しながら告げます。

「はぁ? 何で俺がお子ちゃまなあやせに付いて来られないとダメなんだよ?」

 現金をだまし取った後の結婚詐欺師のような軽薄な表情でヘラヘラ笑うお兄さん。

 やっぱりこの人にはしっかりした女の人が必要なんです。

 そう、わたしが必要なんです。

「わたしに付いてくる理由ですか? そんなのはお兄さんにちゃんとした大人になってもらう為に決まっていますよ」

 お兄さんの手を取って家に向かって走り出します。

「ちょっと待て? どこへ行こうとしている?」

「どこって、勿論家ですよ」

「そうじゃなくて、何故俺を家の中に引き込もうとする?」

 お兄さんはとても焦った声を出します。そこにはもう先程までの大人の余裕はどこにも見当たりません。

「そんなの、お兄さんにこれからうちの両親に挨拶してもらうからに決まっていますよ」

「何でそうなる?」

 お兄さんは必死に抵抗しますが、もうゴールは目の前です。

「そんなの大人のお付き合いと言えば結婚を前提とした交際に決まっているじゃないですか。その為にはお兄さんが両親に気に入ってもらいませんと支障が生じます」

「あやせのお母さんってPTA会長、お父さんって議員……だったよな?」

 お兄さんの体がプルプルと震えています。

「はい。2人とも礼儀と格式を重んじるとても素晴らしい方ですよ」

 ニッコリ笑って腕をガッチリ抑えて逃がさないようにします。

「嫌だぁ~~っ! そんな人たちに挨拶とか絶対にしたくない~~っ!」

「今年から大学生になる大人が何を子供みたいなことを言っているんですか? しかも相手は近い将来義理の両親になる人なんですからね」

 お兄さんを引きずりながら玄関を開けて入っていきます。

「俺は独身生活をエンジョイするんだっ! やっと自由を手にできる大学生活が~っ!」

「男子大学生と女子高校生って、年齢的には結婚できるんですよ。知ってましたか?」

「そのトリビアが今何の関係があると~~っ!?」

「それはお兄さんのこれからの挨拶次第、ではないでしょうか?」

 お兄さんを力ずくで新垣家の中へと押し入れます。

「大人になんてなりたくないぜ~~~~っ!」

 家に押し込まれる直前、お兄さんは大声で叫んだのでした。

 こうして楽しい1年が始まりを告げたのでした。

 

 めでたしめでたし

 

 ………

 ……

 …

 

 

「あれっ? 何だか物語のオチみたいな夢でしたね」

 指で擦りながら目を開けます。

 いつもと感触が違うなと思いましたが、それもその筈。わたしはテーブルに突っ伏して寝ていました。

 全身が痛いなあと思いながら首や肩を回してから時計を見ます。

 そこにはデジタルな文字で 2012/01/01 07:01 と出ていました。

 知らない間に寝てしまっていたようです。

 つまり、今のがわたしの初夢だったわけです。

「漫画読んでいる内に寝ちゃって年明けとかって我ながら最悪です……っ」

 最近のわたしはお兄さん+αの世界に近付いてみようと、オタク的なものによく触れるようになりました。

 わたしは声優の早見沙織さんの美声が大好きで、彼女の出ているアニメは抵抗なく見られます。最近では彼女が声優をしているアニメの原作にも手を出すようになりました。

 今読んでいるのは、彼女がハクアというキャラクターの声優を演じていた“神のみぞ知るセカイ”という漫画です。

 ちょっと説明すると、ハクアというのは地獄から来た容姿高校生ぐらいの美少女で、悪い悪魔の魂を封印する駆け魂隊の地区長を務めています。

 物語内のポジションは一言で述べると、主人公の桂木桂馬に恋しちゃったツンデレサブヒロインでしょうか。物語後半での人気と重要度はエルシィよりもメインヒロイン扱いなんですけどね。

「でも、ハクアの恋って前途多難なんですよね……」

 彼女の心情に感情移入しながら大きな溜め息が出ます。

 この漫画では、人の心の隙間に入り込んだ悪魔の魂を追い出す為に恋愛感情で心を満たそうという方針を主人公たちが取っています。

 その為に落とし神と呼ばれるほどのギャルゲーの達人桂木桂馬は、ゲームでヒロインを落とす手法を下地にしながら少女たちと恋愛をして悪魔の魂を追い出していきます。

 言い換えれば複数の女の子にその気もないのに唾を付けていく最低な主人公です。そういう所、お兄さんにそっくりです。乙女心を踏み躙る悪人です。

 そして桂木桂馬の一番側にいるのは、仕事上のパートナーであり、妹の身分を偽って私生活も共にしているエルシィです。

 桂馬はエルシィの恋心にまるで気付いていませんが、それでもハクアから見れば一番親しい女の子には変わりがないんですよね。

 妹は、ハクアにとってもわたしにとっても恋のライバルなのです。

「妹に勝つにはよっぽど強いアピールが必要ですよね。うん、妹はいつだって敵です」

 ハクアはツンデレな女の子で自分の気持ちを素直に口にすることができません。

 その上桂馬は鈍感で、悪魔の魂を追い出したり女神を探すのに忙しいのでハクアの想いにはまるで気付きません。

 ハクアの恋心だけが一方的に募っている状態です。

 ほんと、わたしの今の状態にそっくりだと思います。

 ハクアを見ていると自分のことのように悲しくなります。

「ハクアも一生懸命頑張っていると思うのですけどね……この、鈍感」

 桂木桂馬はゲームの中のヒロインの動向には敏感な癖に周囲の女性の心情には鈍感すぎます。本当に誰かさんそっくりです。

 ハクアは何度も裸だって見せているのだからもう少しぐらい意識しても良いはず。

「裸……っ?」

 今何か、凄い考えが浮かんだ気がします。

 お兄さんは桂木桂馬と同じぐらい女性の想いには鈍感です。

 でも、桂馬のように現実の女性を敵視しても軽視してもいません。

 お兄さんは現実の女性との出会いを、恋愛を求めているのです。

 そして、人並み、ううん、きっとそれ以上にエッチに違いありません。

「そうですっ! 答えは裸にあるんですっ!」

 お兄さん攻略の為の必殺の作戦が思い浮かびました。

 

 

『きゃぁ~~♪ お兄さんのエッチ~~♪』

『おっと~これはあやせたんに大変申し訳ないことをしてしまった。お詫びをせねば』

『だったら、男らしく責任を取ってわたしをお兄さんのお嫁さんにしてください!』

『やれやれ。あやせたんに許してもらう手段がそれしかないのでは仕方ないな。あやせたん、俺と結婚してくれ!』

『まったく、お兄さんみたいなダメな男の人はわたしが貰ってあげるしかありませんね。仕方ないからお嫁に行ってあげますよ』

『おお~ありがとう。マイ・ラブリー・エンジェルあやせ~~♪』

『幸せにしてくれなきゃまた怒りますからね、京介さん♪』

 

 Fin

 

 ……何か女の子として自分から負けに行っている気がしないでもないです。しかし、この際手段がどうとか言っていられません。

 お兄さんの妹をはじめ、腹黒三次元メルル、お姉さんなどライバルは多いのですから。

 勝てば良いのです。勝てばっ!

 そして、勝つ為に最善の努力を果たすことこそがわたしに課せられた義務なのです!

「温泉っ! それこそが勝利のキーワードですよっ!」

 お正月にふさわしくとても明るい光が室内に差し込んできた気がしました。

 

 

 

あやせたんの野望温泉編 あやせたんside

 

 

『でさ~、聞いてよあやせ』

 午前8時00分。新年最初に掛かってきた電話。

『いやぁ~、年が明けて早々にさぁ~、アイツと2人で初詣に行っちゃったりなんかしちゃった訳なのよ~。もぉ~これだけで1年の始まりが最悪って感じで~。しかも加えて参拝に行ったさ~、超混んでてアイツと2人きりで2時間も待たされたのよ。アイツのつまらない話を聞かされておまけにカップルと間違えられるし超最悪な年明けだったわよ。あっはっはっはっは』

 その内容を聞きながらわたしの頭に浮かんだ感想。それはたったひとつの単語に集約されました。

『おみくじ引いたらさ~一番身近にいる男性と今年結ばれるってあってさ。それって京介のことじゃない? 実の兄妹で結ばれるとかキモ過ぎだっての。にゃっはっはっはっは』

 電話から響く楽しげな笑い声。

 それに対してわたしは正直に一言返してしまいました。

 

「死ネ~~~~ッ!」

 

 あの腐れ近親相姦ビッチ。

 連絡を遮断してわたしが一緒に初詣に行くのを妨害した癖に、お兄さんと2人きりの初詣を超最悪とか惚気ながら言うとかマジで死ねっ!

 憎しみで、人を殺したいっ!

『急に大声出してどうしたの? あんまり声が大き過ぎて聞こえなかったんだけど』

「お兄さんと2人で初詣とか兄妹仲が良くていいな~って言っただけだよ」

 兄の貞操を狙うビッチな妹を死刑にできる法律ってないものでしょうかね?

『ふっふ~ん。まあ、アイツは~、頼んでもいないのにアメリカまで迎えに来ちゃうほどの重度のシスコンだから~アタシがいないと何にもできないのは確かなんだけど~』

 心の中で何度も何度も死ねと丁寧に祈るように唱えます。

 この毒婦の存在によってお兄さんの健全な恋愛感情が妨げられているのは間違いありません。

 コイツさえいなければ、わたしはとっくにお兄さんの彼女になっていたに違いありません。初詣もわたしが一緒にいっていたに違いないのです。

 でも、今はそれを恨みに思っている場合ではありません。

 今、大事なのはこのビッチを上手く利用してお兄さんを誘き出すことです。

 ビッチはお兄さんの妹という属性を持っているので上手く使わない手はないのです。

 お兄さんは重度のシスコンで、妹の為ならかなり無茶をしてくれるそのポイントを突かないとダメなのです。

 わたしは出来るだけ猫撫で声を出しながら先程練った計画を進めることにしました。

「ねえ、ビッ……桐……あのさあ」

『アンタ、無二の親友であるアタシの名前忘れてない?』

 わたしは質問にはすぐには答えず携帯電話を一度耳から離しました。

「そんな訳がないでしょ。嫌だなあ、桐乃~♪」

 携帯って、話している相手の名前が表示されるから便利ですよね♪

『で、話って何?』

「実はモデル友達でさ、温泉慰安旅行に行くのはどうかなって思って」

 わたしは慎重に本題を切り出しました。

『温泉慰安旅行? いつ、誰と? どこへ?』

 桐乃の声は興味半分、面倒臭さ半分と言った所でしょうか。ですが、桐乃は計画の要。必ず来てもらわないとお兄さんが釣れません。

なので、それ相応の手を打ちたいと思います。撒き餌はたっぷりと。

「メンバーはわたしたちの他に加奈子とブリジットちゃんを呼ぼうと思うの」

『リアル洋ロリと温泉っ!? マジでっ!?』

 思った通りに犯罪者は飛び付きました。

「場所は館山で、父が懇意にしている温泉旅館で宿泊券をもらっているからお金は気にしなくても大丈夫だよ」

 房総半島の最南端館山に行くには内房線を使うか高速バスで行かなければなりません。

 どんなに頑張って急いでも2時間近くの移動時間を必要とします。更に交通手段が1時間に1本とかしかないので、同じ県内なのに泊まりイベントが発生する土地です。

 勿論、お泊りイベントとなれば新垣あやせ、一世一代の大勝負を掛けにいきますよ。プロのモデルの底力を見せてあげたいと思います。泣かされる覚悟も完了済みです。

 そして、お金の話をしましたが、あれは全部嘘です。今回の壮大な計画の為にモデルで稼いできたお金を盛大に使うことにしました。

 費用が掛からないことを述べておかないとお金持ちの桐乃はともかく、ケチな加奈子や小学生のブリジットちゃん、そしてお金に困っているお兄さんは来てくれない気がします。

 未来の夫を捕まえる為の先行投資です。この際何万円掛かろうと安いものとします。全てのこの左手の薬指に指輪を嵌める為に!

「出発は明後日で、1泊2日の予定。どう? っていうか、この日でないと券の都合上困るのよ」

 相手に考える時間を与えないで出発。これが勝利への鉄則です。

『リアル洋ロリちゃんは来るの? それが一番大事』

「勿論来るよ」

 まだ連絡していませんが、犯罪者を確実に釣り上げる為にはこう答えるのが一番です。

『じゃあ、アタシも参加するわ。ブリジットちゃんと一緒に温泉。ハァハァ。お姉ちゃんが体の隅々まで綺麗にしてあげるからねぇ~。ハァハァ』

 コイツとブリジットちゃんを同じ時間にお風呂に入れるのだけは絶対に阻止しよう。そう心に決めました。

『あっ、でもさ。そういう温泉旅館ってアタシら中学生だけで泊めてくれるの? 保護者とか引率者とかそういうのが必要なんじゃないの?』

 桐乃は犯罪者決定の変態の癖にこういう頭だけは回るんですよね。

 でも、そこも抜かりなしです。というか、その点こそが今回の肝です。桐乃はさすがに千葉県トップクラスの学力を誇るだけのことはあり、よく食らいついてくれました。

「ああ、その点なら問題ないわよ。加奈子の元マネージャーさんに保護者代わりに来てもらう予定だから」

 元マネージャーさんとはお兄さんのことです。

 でも、桐乃にその事実は告げません。告げると、ツンデレかつ、他の女にお兄さんを近づけたくないこのビッチは代役を立てるように騒ぎ立てますから。

『あっ、そう。あの加奈子が信頼しているんだから問題ないんでしょう。わかったわ』

 桐乃は深く疑いもせずに了承しました。

「じゃあ、集合時間と場所はね……」

 わたしはほくそ笑みながら用件を伝えて電話を切りました。

「フッ。今回の作戦は勝算はありですよ。ふっふっふっふ。あっはっはっはっはっは」

 新年早々こんな楽しい気分になったのは久しぶりです。

 さあ、決戦の時です。

 今回こそ、手に入れてみせますよ。お兄さんの心と体をっ!!

 

 

「ブリジットちゃん。はぁはぁ。リアル洋ロリのプニプニほっぺ。ハァハァ」

「あやせさま~っ! このハァハァ言っている危ないお姉ちゃんをどうにかしてください~っ!」

「桐乃……とりあえず殴るね。強く、激しく」

 館山へと向かう高速バスの中、前の列でブリジットちゃんに抱き着きながら座っている桐乃の顔を思い切りグー拳でぶん殴ります。

「でへへへぇ~♪ 怒られちゃった♪」

 だけど真性の性犯罪者に暴力は何の意味もない行為でした。

 まったく、これが将来の義理の妹の姿かと思うと情けなくなって来ます。

 昔はこの人のことを、完璧な女の子と信じていたこともあったんですよ。本当、若気の至りだったと思います。

「ああぁ~、でも、怯えるブリジットちゃんの姿もメッチャ可愛い。これはもう、今すぐ大人の世界を教えてあげるしかあたしには選択肢がないわっ!」

「死ねっ! この犯罪者っ!」

 桐乃を蹴り飛ばして窓から車外へと放り出します。

「あやせさま~っ! 怖かったよぉ~~っ!」

 ブリジットちゃんが泣きながら抱き着いてきました。体をガタガタと震わせて本当に怖かったのだと思います。多分ブリジットちゃんの人生で初めて性犯罪者のリスクに長時間晒された経験だったでしょうから。

「犯罪者は窓から落ちてタンクローリーに轢かれて死んだ筈だからもう怖がらなくて大丈夫よ」

 ブリジットちゃんをギュッと抱きしめます。

 予定とは違った展開を迎えてしまいましたが、1人の幼き少女の純潔を守れたから良しとしましょう。

「うぉおおおおおおおぉっ! たかがバスの速度ぐらいでアタシのブリジットちゃんへの劣情と言う名の情熱の炎を消し去ることなんて出来ないのよ~っ! 陸上のエキスパートを舐めんな~~~~っ!」

 外を見ると、真性の変態犯罪者が法定速度ギリギリで並走しているのが見えました。

 わたしは何も言わずに空き缶を桐乃に向かって放り投げてから窓を閉めると、カーテンを厚く敷いてブリジットちゃんを抱きしめ直しました。

 事故に見せ掛けて崖から突き落とそうかな。陸上競技選手も水の中じゃ無力だよね。そんなことを考えながらブリジットちゃんの頭を撫で続けました。

 

 

 千葉駅を出発してから約1時間半、ようやくわたしたちは館山へと到着しました。

「冬の冷たい空気は、運動するには最適よね~洋ロリが側にいると思うと断然萌えるし」

 バスを降りると、真性の変態性犯罪者が先に到着してストレッチ運動しながら待っていました。

 色々言いたいことはありました。

 でも、わたしはツッコミ担当ではありません。ツッコミはみなさんが脳内ですれば良いと思います。

 それに、今これに構っている暇はありません。

 わたしは犯罪者を無視してブリジットちゃんと共に駅に向かって歩き始めました。

「はぁはぁはぁはぁ。ブリジットちゃん。運動した後だからいつもより2倍呼吸が荒くなって、いつもの2倍エロいことがしたいの~♪ はぁはぁはぁはぁ」

「あやせさま~っ! こ、怖いよ~~~~っ!」

「あの犯罪者とは決して目を合わせちゃダメよ。それからもし襲ってきたらこのスタンガンを躊躇なく使ってね」

 わたし愛用の10億ボルトスタンガンをブリジットちゃんに渡しておきます。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

 中2の夏前のわたしたちってどんな感じだったっけ?

 そんなことを考えながら左手で桐乃にワンパン入れて、右手にブリジットちゃんを抱きしめながら駅へと向かいました。

 

 

「よぉ。遅かったじゃねえか」

 駅に到着すると、2階建ての駅舎の中のベンチでお菓子を食べながら座っていたのは加奈子でした。

「待った?」

 加奈子とお兄さんには理由を色々付けて別ルートの電車で館山入してもらいました。

 理由は千葉を一緒に出発した場合、桐乃が何か文句を付けてお兄さんが付いてくるのを反対しそうだったからです。

 加奈子にはお兄さんと2人きりで移動という羨ましい厚遇を与えてしまいました。けれど全ては今日わたしがお兄さんの彼女、そして近未来のお嫁さんになる為の布石なのです。

 今回のわたしは葛城桂馬並の知略でお兄さんを攻略しますよっ!

「20分ぐらい前に電車は到着したな」

 加奈子は股を広げてダルそうにしています。生意気にも赤いレースのパンツが丸見えです。しかし、こんな悪ガキのパンツを見たいと思う物好きも暇人もいないでしょうから何の問題もありません。

 お兄さんが何か反応したら2人とも即処刑ですが。

「ところでお兄……マネージャーさんは?」

 一応桐乃の目があるので、マネージャーとお兄さんが別人であるかのように振舞っておきます。まあ、もう必要のない行為ですが。

「ああ、京介ならちょっと午後ティー買いに行かせてる。ここの自販機、ろくなもん売ってなくてよぉ……ブベッ!?」

「ごめん。右頬に蚊が止まっていたから全力で叩き落としちゃった」

 蚊がいたんですから仕方ないですよね。

 しかも、蚊がついていたのがわたしの将来の夫をパシリにしているゴミ女じゃ仕方ないですよね。この蚊叩きは正当なものにしかなりませんよね。

「今真冬なんだから蚊なんかいるわけがないだろうがぁっ!」

「じゃあ、頬に付いていたのはカブトムシってことで♪」

「もっといねえよっ!」

 加奈子は何か怒っています。

「あっ! 加奈子の左頬にガラパゴスオオトカゲが!」

「正式名称はガラパゴスリクイグアナで日本にいねえよっ! っていうか、そんな巨大なトカゲが頬に付ける訳がね……ブベラ~~ッ!?」

 加奈子の額に付いていた気がするガラパゴスゾウガメをビンタで払い落とします。

 その衝撃で加奈子がこの葉のように軽く吹き飛んでいきましたけど問題はないですね。

「まったく、お兄さんを便利屋代わりに使おうだなんてこのわたしが許しませんよ」

 お兄さんに頼み事をしていいのはわたしだけなんです。

 

「何か今、凄い音がして何かがゴミ箱に突っ込んだ音がしたんだが。一体どうしたんだ?」

 加奈子の下郎っぷりを嘆いていると背後から声を掛けられました。

 この男性の声は……。

「お兄さん。明けましておめでとうございます」

 振り返りながら声の主、未来の夫、高坂京介さんに向かって頭を下げます。

「お、おう。あやせ。今年も元気そうで何よりだ。よろしく……だな」

 頭を戻すと苦笑いを浮かべているお兄さんの顔がありました。

 お兄さんが何で苦笑いを浮かべているのか。その視線の先を追うと頭からゴミ箱に突っ込んでパンツ丸出しになっている加奈子の姿がありました。

「確認するのも怖いんだが、あれは、あやせがやったんだな?」

 お兄さんの額には大量の汗が。わたしを見る目にも恐怖が感じられます。

「そ、そんな訳がないじゃないですか。あ、あれは加奈子がふざけて勝手にゴミ箱に潜っているだけですよ。パンツ丸出しで子供なんだから。あっはっはっはっは」

 笑ってごまかそうと頑張ります。このままじゃあ、今年もわたしは暴力女と謂れのない誤解を受け続けてしまいます。

「いや、あれ、ぴくりともしないから気絶しているだろう?」

 大ピンチです。

 誰か、わたしの誤解を解いてください。このままじゃ、お兄さんの恋人になるという壮大な野望が始まる前から失敗してしまいますっ!

 天使さんっ、わたしを救って!!

 

「あっ! 京介お兄ちゃんだ~っ!」

 そして、わたしの前に救いの天使が現れました。

 駅前広場で性犯罪者と鬼ごっこをしていたブリジットちゃんがわたしたちの前にやってきたのです。

「京介お兄ちゃん。明けましておめでとうだよ♪」

 日本の文化に慣れ親しんだブリジットちゃんは丁寧におじぎをしました。うん、わたしも誠心誠意教育した甲斐があります。

「おうっ! ブリジットちゃんは礼儀正しくて良い子だな。明けましておめでとうだ」

 お兄さんは笑顔を見せながらブリジットちゃんの頭を撫でました。わたしへの恐怖心はすっかり忘れたようです。

「えへへへへ」

 嬉しそうな表情を浮かべるブリジットちゃん。

 ……お兄さんの撫で撫で。羨ましいです。わたしの頭は一度も撫でてくれたことないのに。ブリジットちゃん、ずるいです。

「俺の知り合いの中学生の女は野蛮で暴力的なのばっかりだからな。まったく、小学生は最高だぜっ!」

 デレデレした表情を浮かべるお兄さん。

 遠まわしにわたしが野蛮で暴力的と言われている気がしてなりません。

「これだから小学生ってヤツは最高だぜ」

「えへへへへへ」

 それに……最近、お兄さんの小学生を見る目がおかしい気がします。

 女子高校生との恋愛に破れて怖くなり、女子中学生は暴力的で危険だからと遠ざけて、小学生少女に癒しを求めている。

 そんな女性恐怖症にお兄さんは掛かっている気がします。これは治療の必要ありです。

 早く、お兄さんの目を若くてピチピチした現役女子中学生を恋愛対象かつ性的な視線で見るように矯正しないとっ!

 今回の旅行中にお兄さんのお嫁さんにしてもらえる確約をもらわなければなりません。

 こうなったら暴力を奮ってでも、早くお兄さんの目を覚まさなければなりません。暴力を奮ってでもっ!

 いえ、むしろ暴力を奮ってっ!

 

「って、何でこんな所にアンタが来ているのよぉ~~~~っ!?」

「グッハァアアアアアアアアァっ!?」

 わたしが魂込めた右ストレートをお兄さんに炸裂しようとした瞬間でした。

 お兄さんは背中からジャンプキックを思い切り食らって加奈子の方へと吹き飛んでいきました。

 吹き飛んだお兄さんは加奈子のパンツに思い切り顔を埋めていました。

 これなんてエロゲーですか? お兄さんはエロゲー主人公ですか?

 加奈子もお兄さんも殺らないとダメですか?

「痛えじゃないか! 何をすんだよ、桐乃っ!」

 お兄さんが立ち上がりながら犯人に向かって大声で叫びました。

「何でアンタがモデル温泉慰安旅行について来ているのよ?」

 桐乃は不機嫌全開オーラを公共の場にも関わらず出しまくっています。千葉駅からお兄さんと合流しなかったのは正解だったといわざるを得ません。

「俺はなあ、加奈子に仕事で一緒に旅行に付いて来てくれと頼まれただけなんだよ。桐乃がこの旅行に来るなんて知らなかったぞ」

 お兄さんも桐乃に負けない険しい瞳で妹を睨み返します。

 この2人、近親相姦も犯しかねないぐらい激しく求め合っている一方で、普段は喧嘩ばっかりなんですよね。

「はぁ? 仕事だからって、女子中学生と一緒に旅行とか超キモっ!」

 翻訳すると『アタシ以外の女と旅行に行くなんて許せない。この浮気者!』となります。

「はぁ? 何を言ってんだ? 加奈子はお前の友達だろう? だったら、妹の友達が困っているのを助けるのは兄として当然のことだろうが!」

 今のは翻訳すると『年下の可愛い女の子は全部俺のもんだ。文句言うな』となります。

「はぁ? 都合の良い時だけ兄貴ヅラして、本当は加奈子と仲良くなりたかっただけなんでしょう? アタシの友達をキショい目で見るな、このロリコンっ!」

 今のは翻訳すると『アタシ以外の女に色目を使わないで。この浮気者!』となります。

「はぁ? お前の表の友達って言ったら、みんな中学生のお子さまばっかりだろ? キショい目でなんか見るかっての。自意識過剰だ、バカ!」

 今のは翻訳すると『年下の可愛い女の子は全部俺のもんだ。文句言うな』となります。

「はぁ? アタシは知ってんだからね。アンタがステージ上のあやせや加奈子、ブリジットちゃんさえも好色に満ちた目で見ていることを。この変態スケベバカ男っ!」

 今のは翻訳すると『エッチな目で見るのはアタシだけにしてよ。この浮気者!』となります。

「はぁ? 俺はあやせたちのプロ意識とレベルの高さに感動して見ているだけだ。エロい目なんか全然してないもんね。加奈子たちをエロい目で見てるのはお前の方だろうが!」

 今のは翻訳すると『年下の可愛い女の子は全部俺のもんだ。文句言うな』となります。

 

 さて、このまま見ていても良いのですが、そうするとお兄さんが千葉に強制送還されるか、桐乃が怒って帰ってしまい、その結果お兄さんも帰ってしまう事態になりかねません。

 ここらで介入を果たすべきでしょうね。

「さあ、みんな。遊んでないで温泉宿に移動しましょう」

 加奈子の足を引っ張ってゴミ箱から抜き去ります。

 加奈子はグルグルと漫画みたいに目を回しています。

 これならきっとここ2、3日の記憶は綺麗サッパリ吹き飛んでいるに違いありません。

 これで今回の企画のプロモーターがわたしであることは隠し通せるかもしれません。

 隠し通せれば、お兄さんを手中に収められる可能性も一気に上がります。

 差し当たってのライバルは桐乃ですが、彼女はわたしたちがいる前ではお兄さんに対してツンな態度を取り続けます。隙を見計らって、お風呂を覗かれる、寝込みを襲うなどの責任とってイベントを発生させることは十分に可能でしょう。

 後のライバルと言えば、このゴミ箱に頭から突っ込んでいたパンツ丸出し女と小学生金髪少女ですが、こちらは恐れるほどの存在ではないでしょう。

 お兄さんが真性でないない限り、こんなロリっ子を恋人に選ぶことはないでしょうから。

 勝てる。勝てますよ、この勝負。

 お姉さんも黒猫さんも不在のこのシチュエーション。お兄さんの恋人の座に一番近いのはわたしなんですよ。

「エンディングが、見えましたっ!」

 どうやらわたしが清い体でいられるのも、新垣の姓を堂々と名乗れるのも今日が最後のようですね。

 さあ、お兄さん。

 わたしが、貴方のお嫁さん、ですよ。

 ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ腐フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ。

 

 

あやせたんの野望温泉編 京介side へ続く

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択