No.397355

真説・恋姫†演義 仲帝記 幕間の四『好きこそものの何とやら、のこと』

狭乃 狼さん

久々更新仲帝記。

まずは幕間の四にて。

メインのキャラは美紗こと雷薄と、棗こと魯粛。

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2012-03-24 20:57:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7559   閲覧ユーザー数:6309

 趣味、と言うのは本当に人それぞれである。

 身体を動かす事、本を読むこと、歌を歌うこと、物を作ること。

 十人十色、千差万別。

 大小様々にその差異を上げていけば、まさしく人の数だけ、趣味という物は何時の時代でも、変わらず存在する。

 

 今回は魯粛と雷薄。この二人に共通する、とある趣味についてのお話……。

 

 

 幕間の四「好きこそ物のなんとやら、のこと」

 

 

 陽人の戦い、すなわち反董卓連合の戦いが終わり、袁家の面々が無事汝南へと帰還を果たしてから数日後。袁術の旧居城だった宛県の城内にて、魯粛と雷薄、そして諸葛瑾の三人が珍しくその顔を突き合わせ、とある懸案についての話し合いを行なっていた。

 

 「それじゃあ~、会場の方は~、問題なく~、確保出来たと~」

 「ええ。ちょうど一軒、適度な広さの屋敷が売りに出されてましてな?他の買い手がつかないうちに、即金でウチが買い取っておきましたわ」 

 「それじゃあ、後は参加者集めですね。会場の警備とか雑務用の人員なんかは、輝里ちゃんが今色々手筈を整えてくれていますから、そっちはあの娘に任せてしまって良いと思います」

 

 彼女らが今集まっているのは、普段は軍議に使われる部屋。その中央に設置されている卓の上には、魯粛が用意してきたある屋敷の見取り図が広げられており、それにはなにやら事細かに、文字やら数字やらが書き込まれている。

 

 「では~、区画分けの方ですけど~。こちらと~、こちらは~、書籍販売組用の~、区画ということで~」

 「ほんなら、こっちが人形(ひとがた)販売組用の区画言うことで、よろしいか?」

 「あ、はい。それじゃあ残りの空いた区画が、装列者組用ということで」

 

 朱色の墨が付いた筆を使い、見取り図を区画ごとに三分割しながら、あれこれとまるで軍議でも行なっているかのような真剣な表情で話を続ける彼女達。 

 そもそも、彼女らがこうも真剣になって一体何を話しているのかと言うと。

 実は近々この宛県の街にて、魯粛主催、さらには彼女の全面的な出資によるとあるイベントが、久々にしかもかなり大々的に行なわれることになっており、雷薄と諸葛瑾はそれへの善意の協力者として、魯粛と供に日夜協議を続けていると言うわけである。

 

 しかもそのイベント、実際には開催そのものが、つい最近まで危ぶまれても居た。その理由は勿論、主催である魯粛や協力者である雷薄と諸葛瑾、そしてこの場には居ないもう一人の協力者である徐庶らが、先頃行なわれた陽人の戦いに絡む様々な事案によって、その手が完全に塞がってしまって居た為である。

 しかし、その戦いもつい先日無事終結を見、このイベントをメインで動かしている四人も、やっとの事でそれぞれに抱えていた案件や役目を無事に果たし終えることが出来たため、こうして再び、イベント開催に向けて日夜精力的に、それこそ寝る間も惜しんでの活動を再開できた、と言うわけである。

 

 「さて。会場の事はこれでええとして。翡翠と美紗は、自分達の出すブツの方はもう用意出来てますの?」

 「それはも~、ちゃ~んと~、出来てますよ~。何しろ今回は~、千ちゃんの作ってくれた~、簡易写本機という~、つよーい味方が居ましたからね~。にゅふふふ~」

 「そうね。あれは本当に助かったわ。お陰で普段なら一月はかかる新刊本の写本、たった一日で出来ましたからねえ」

 「……確か、アレの発案は一刀はんやと聞いてますけど、間違いおまへんか?」

 「は~い~。確かに~、一刀さんが~、千ちゃんに提案して~、二人で作ったそうです~。いわば~、あれは一刀さんと~、千ちゃんの~、愛の結晶とでも言うべきでしょうかねえ~。にゅふふふ~」

 「あ、愛の結晶……っ!一刀君と、千州君の、禁じられた関係が生んだ……あぅあぅ」

 

 雷薄の愛の結晶発言を受け、なにやらあらぬ想像をしている諸葛瑾のことはともかく。

 簡易写本機とはつまり活版印刷機のことで、活版、つまり活字-文字を凸状に彫った木片や金属片-を組み合わせて作った版を複数組み合わせて、何度も同じ物を印刷する事が出来る機械である。

 

 《注釈》正史においてこの活版技術が何時発明されたのかは、今もって不明のままらしいが、少なくとも宋代、11世紀頃には活版印刷による書物が作られている事、明記だけはしておく。

 

 一刀は当初この活版印刷の技術を使って、当時は高価で貴重な紙資料を、出来る限り長く有効に使えるようにしたいとそんな思いで居た。

 だが、実際に完成したそれの精度自体は、陳蘭のその腕もあってかかなり良いできばえにこそなったものの、違う書物を写すその度に、活字を何通りにも組み合わせ直さなければ行けないと言う、そんな不便さを周囲に指摘されたため、結局はそのままお蔵入りになってしまって居た物だった。

 そしてその写本機に、ある日目ざとく目をつけたのが、誰あろう雷薄だった。

 自分が趣味とする、とある類の書き物。それは、年に一冊程度の原本が出来れば良いところの代物である為、それほど頻繁に活字を組み替えなおす必要も無く、また、一度出来た原本は結構な量の写本を作らないといけなかったと言うこともあり、それはまさに、彼女にとっては垂涎もののお宝だった、というわけである。

 そして、雷薄はその趣味を同じにする徐庶と諸葛瑾の二人と一緒に、陳蘭に対して写本機を譲って欲しいと懇願。頼まれた陳蘭の方も、せっかく作った物をただ埃まみれにして眠らせておくのも勿体無いという事で、彼女らの申し出を快く受諾。

 こうして、おそらくは中国史史上初であったと思われる陳蘭製活版印刷機は、雷薄らの趣味専用として、その後長らくの間、活躍していく事になったのだった。

 

 閑話休題

 

 

 

 「ところで~、棗さんの方は~、準備~、出来ているんですか~?」

 「ほら抜かりはあらしまへんよ。今回はうちも、いつも以上に気合入ってまっからな」

 「今回は、一体どんなのを用意したんですか?」

 「そら当日見てのお楽しみやて。ほういや美紗はん?お姫さんの方の手配は大丈夫なんでっか?」

 

 魯粛のいうお姫さんというのは、勿論彼女らの主にして、豫州汝南とこの荊州南陽を束ねる、袁術その人のことである。

   

 「それも~、勿論抜かりは~、ありませんよ~。ちゃ~んと、美羽さまのその日の予定~、確保してありますから~」

 「美羽様のアレもまた、この催事の基本催しですからね。アレを目当てに集まった人々も、私達にとっては大事な顧客となりますからね」

 「そうやね。……けどほんま、あのお姫さんにあないな特技があったとはなあ。初めて知った時には、そら吃驚しましたえ?」

 「あはは~」

 

 魯粛のいう袁術の特技については、また後述するとして。

 その後も暫く、三人は協議を行ない続け、この日から半月後に行われるその催しを成功させるその為に、この日もまた夜遅くまで、軍議の間の灯りが消えることは無かったのだった。

 

 

 そして、いよいよ催し当日。

 

 

 「……すっごいな、この人だかり。一体何処からこれほど集まってくるのやら」

 

 件の催し物会場の通用口から、正面玄関側に蟻の大群の如く集まる群集の事を、一刀は感嘆の溜息と供に眺めていた。

 そんな手持ち無沙汰気味でいる一刀の下に、通用口の奥、関係者以外立ち入り禁止と書かれた札の立つ通路から、張勲が足取り軽く歩み寄ってきた。

 

 「一刀さーん。ここまでの警護、ご苦労様でしたー。お嬢様はもう会場入りされたんで、後はお好きになさって良いですよー」

 「あ、うん、了解。……で、それは良いんだけどさ、七乃さん?ここって……一体何の会場なんです?」

 「あはは、やっぱり気になりますよねー。……でも、もうちょっとだけ、我慢していてくださいな。すぐ、分かりますから。じゃ、私も着替えがあるんでこれで」

 

 宛県に仕事で行くという袁術と張勲の護衛を突然命じられ、一刀は首を捻りながらもここまで同道してきたのだが、いざ目的地に着いてみても、袁術も張勲もただ『後のお楽しみ』としか言わず、いまだにここが何の催し会場なのか、彼はいまだに理解出来て居なかった。

 そんな一刀に対し、張勲はやはりいつもの笑顔のままで言葉を濁し、困惑している彼をその場に残して、奥へと再び早足で戻っていった。

 

 「……着替え、ねえ。……まさか、とは思うけど。ここで美羽と七乃さんがコスプレとかしたり……しないだろうな?はは、まさかな。いくらなんでもありなこの世界だからって、そんなものまであるはずがないか。さて、美羽の仕事とやらが終るまで、俺何やってようかな……」

 

 この時。

 一刀は自分の言ったその何気ない一言が、まさしく的を射ていようとは、露ほどにも思って居なかった。

 そして、それから四半刻(およそ三十分)もした頃、会場内を何処行くともなくうろついていた彼は、そのとんでもない事実を、身を持って知ることとなった。

 

 

 

 『……えー。会場内の催し参加者の皆様。こちらの方をどうぞご覧下さい』

 「あれ?この声……もしかして、美紗……さん?』

  

 場内に突然響いた、普段良く聞いているその透き通った声に、一刀は一体なんで彼女の声がここでするのか、そう疑問に思いながらも、声のした方へとその視線を送る。

 その先に居たのは、そのデザインこそいつもの看護師然としたソレと同じだが、青地に朝顔の描かれた普段着の方ではなく、黒地に夕顔の描かれた戦装束の方を纏って、場内の中央に置かれた壇の上に立つ雷薄と、そして、足元にまで届くほどの髪を後ろ手に束ねた、鎧武者姿をした見知らぬ美女の、二人であった。

 

 「美紗さん……なんで戦装束なんか身に着けてるの?つか、その横に居る人……どっかで見たような……」

 『こほん。皆さん。まずは今回の催しに参加していただき、ありがとう御座います。……昨今、世の情勢はとても不安定で、いつ何時、何処で戦が起こっても仕方のないような、そんな世の中になっています」

 「……」

 

 壇上にて演説めいたものを行なう雷薄の台詞を、会場内に居る人々は固唾を呑んでただ、静かに聞いている。その顔のどれもこれも、全ての人が世の乱れを本気で憂いて居る、そんな哀しげにも見える表情でいる。

 

 『ですが!私達同胞の心に燃えるこの炎は!如何なる事態、如何なる世の中であろうとも、けして潰えることも消えることもありません!それが証拠に、どれほど外が危険であっても、こうしてこれだけの参加者が、今催しに集ってくれました!』

 「そーだそーだ!」

 「世の中がどうなろうと、私達の情熱に関係は無いわ!」

 「っ!な、なんだ?!この熱気と言うか、会場内に高まりだしてるボルテージは!?」

 

 一刀の周囲の人間のみならず、場内の各区に散らばる人々から、雷薄への同意の言葉が上がると同時に、一種異様とも言える空気が湧き上がってくる。

 

 『みなさん、ご賛同ありがとう御座います!……ですが、正直次回の開催が何時になるかと言うのは、この場において確約をすることが出来ません。しかし!我ら同胞の誓い、我ら同好の士の魂の集いは!たとえ何千年経とうとけして色褪せない!いつか必ず、世が平和になった暁には、この催しが毎年決まった時期に行えるよう、隣に居るこの会の主催者にして出資者、魯子敬殿も確約なさってくれております!』

 「魯…子敬?え?あれ?嘘おっ!?アレ、棗さんなの?!」

 

 雷薄が会場内に居る人々に、先ほどの鎧武者姿の女性の事を、その名を挙げながら紹介したその瞬間、一刀の頭は一瞬にして大混乱に陥った。

 無理もない。

 何しろ、一刀が知っている普段の魯粛は、おかっぱ頭にチャイナドレスという出で立ちで居る、金勘定にうるさい根っからの商売人で、京都弁っぽい関西弁のような言葉を話す、ちょいと粋なお姐さん、というイメージしかない。

 そんな彼女が、今は少々古風な鎧姿に身を包み、長髪-おそらくカツラなのだろう-になっていて、目元に三つ並んだ黒子がなければ彼女とはパッと見分からない、見事なまでの男装の令嬢という姿になっているのである。

 

 「……」

 

 茫然自失。

 今の一刀にこれほどぴったり当てはまる言葉は無いだろう。だが、そんな彼に更なる追い討ちをかける、この催しの正式名称が、今まさに、雷薄の口から開幕の宣言と供に告げられようとしていた。

 

 『それでは!長らくお待たせいたしました!これより!第129回同人祭、『庫見家(コミケ)』を開幕いたします!!』  

 『おおおおおおおおおっっっっっっっっ!!』

 「へ?コミ……ケ?って、まさか!?」

 

 催しの正式名、それを聞いて我に返った一刀だったが、時既に遅し。

 

 《うおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!》

 

 会場の正面入り口が解放され、それと同時に一気になだれ込んできた人の波に、一刀はあっという間に飲み込まれた。

 

 そして。

 

 一刀が気がついたその時には、既に催しの全ては終了しており、彼は医務室のベッドの上で、自分の名を呼ぶ袁術の声で目を覚ましたのだった。

 

 「……恐るべし、同好の(つわもの)どもよ……。も、この世界、ほんとに訳分からん……」 

 

 色んな意味で、この世界に来て一番と言えるカルチャーショックを受けていた、この日の一刀であった。

 

 

 追記。

 

 庫見家の翌日。

 

 汝南へと再び袁術を護衛して戻る一刀の胸中には、ただ一つだけ、今回の事についての激しい後悔の念が渦巻いていた。  

   

 「……美羽と七乃さんのデュエットか……聞きたかったなあ……あーくそ……っ!!」

 

 庫見家会場の一角で、袁術と張勲によるミニライブが、その時同時に行なわれていた事を後から知った、一刀の心底からの言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間の四・了

 

 

 

 

 狼「と、言うわけで。久々仲帝記更新は、美紗と棗さんをメインにおいての幕間、でした」

 輝「どーも、皆さんご無沙汰です。コミケ絡みなのに出番の無かった、徐庶こと輝里でーす」

 命「名前がちらと出ただけでも良かろうが。命じゃ。皆の衆、元気でやっておったか?」

 

 狼「さて。今回は趣味、という物をテーマに書いてみたわけですが」

 輝「美紗の趣味は前から分かっていたけど、棗さんの趣味は本邦初公開ね」

 命「しかしまたコスプレとは……変わったモノを持って来よったの」

 狼「まあ、彼女の趣味については、この作品の始め頃から設定は出来ていたけどね。ちなみに、翡翠が棗と交渉して彼女を袁術軍に引き込んだ・・・と言うことがありましたが」

 輝「・・・・・・まさか、庫見家(これ)繋がり?」

 狼「そーゆーこと。大半の人は単に『腐』つながりだと思っていただろうけど♪」

 命「・・・似たようなもんじゃと思うがの。ところで、棗が作中でしておったコスプレは、誰のものをしておったのじゃ?」

 狼「本人曰く、古の英雄の一人である『項羽』の、だそうです」

 輝「・・・・・記録とか残ってるの?衣装とか鎧とかの」

 狼「さあ?絵巻か何か、残っていたのかもねえ。詳細は不明ですw」

 

 命「で?また次も幕間か?」

 狼「ん。次回は千州と秋水さんがメイン」

 輝「今回の幕間は何回やるの?」

 狼「予定としては四つだけど、三つでやめる可能性も今はまだある」

 命「予定としては誰の幕間じゃ?」

 狼「樹と椛、楽就と周倉のはとりあえずやる。もう一つの候補は・・・今のとこ内緒ってことで。まだ、はっきり決めてはいないんでね」

 

 輝「じゃ、今回はこの辺で」

 命「では皆の衆。今回も様々に、忌憚無き意見、待っておるからの?」

 狼「それでは皆さん、また次回、幕間の五でお会いしましょう」

 

 三人『再見~!!』

 

 

  


 
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