「…俺…どうして負けたんだ?」
一夏は訳が分からなかった。最後のときシールドエネルギーがまだ余裕があったはずなのにいきなり0になってしまったからだ。
そこに千冬が答えた。
「雪片の能力が原因だ。あれは、自分のシールドエネルギーを攻撃に回す代わりに相手のバリアーを切り裂く力を持っている」
「そうか…それでいきなり0に…」
シールドエネルギーがゼロになった時点でISの勝負は終わる。0になっても少しは動いていられるが武器は使えなくなる。
「『白式』は俺が作った最新のブースターを搭載している。少ないエネルギーで沢山動けるようになっているが
と槇村がそう言い、千冬も頷きながら肯定した。
その後ろから真耶が現れ、
「えっと、ISは今待機状態になってますけど、織斑くんが呼び出せばすぐに展開できます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ」
そう言って電話帳並みの資料を一夏に渡す。あまりの厚さに一夏が絶句している。
「何にしても今日はこれでおしまいだ。後は帰って…」
と言おとしたときだった。ヒイロと一人の女の子が戻ってきたのだった。
時間は少し元に戻る。
一夏たちの試合に勝敗がついたころ、ヒイロと皐月はヒイロが最初出撃したピットに戻っていた。ヒイロはゼロを解除し皐月のほうを向いて言った。
「…これから千冬のところに行く。お前もISを解除してついてこい」
「わかったわ」
と色気をムンムン出しながら皐月はISを解除する。
そしてその姿を見たときヒイロは目を見開いた。実はこれはヒイロの驚きの顔である。普段あまり表情を出さない彼だがここ一年でマシになっていた。
その理由は彼女が菖蒲色のショートシャギーでアホ毛が一本、ピョンピョン動いており、目は大きめで若干釣り上がり、その瞳は黄土色に近い茶色の少女だったからだ。ヒイロは20代後半だと思っていたので
「…俺より年上だと思っていた」
と率直な感想を言った。
「あははは…詳しく聞かないでほしいです」
とアホ毛も一緒に落ち込むのだった。
そして今に至る。
ヒイロは千冬のそばまで行き、
「任務完了」
と小声でつぶやいた。千冬はそれを聞いて頷き、それを確認するとヒイロは一夏のところまで行き、謝った。
「すまなかった、一夏。お前にいきなり試合をさせて…」
「いや、気にするなよ。試合は負けたけどアレは俺が原因だしな」
と一夏は返した。この辺りも一夏はヒイロの仲間、デュオに似ている。
彼もなんだかんや言いながらいつもヒイロを許していた。一夏もその口だった。
槇村は皐月の頭を撫でた後、みんなに話した。
「すまない。俺の話を聞いてくれ。コイツは早瀬 皐月。俺の…まあ、娘みたいなもんだ。『Gプロジェクト』のテストパイロット兼ヒイロのウイングゼロの整備補助として明日付でIS学園の生徒になる」
そう言うと皐月は礼儀正しく立ち、
「早瀬 皐月です。母はギリシャ人、父は日本人。自慢は足で好きな食べ物はホットケーキ。よろしく」
と言った。アホ毛もピョンピョンして元気になっていた。
そして次に言った言葉が…
「ヒイロさん。お願いがあるんだけど…」
「なんだ?」
「…後でウイングガンダムゼロ触らせて!!」
と鼻息を荒くし、さらに手をワキワキさせながら言ったのだった。その様子をみた他のメンバーは変態がいると思っただろう。実は彼女、メカオタで新しい技術には目が無い。なのでゼロは格好の獲物 (笑)であったのだ。
「ゼロが気になるのか?なら乗ってもいいが…注意しろ」
とヒイロは意味深な返答をした。
でも今日はもう遅いからまたの機会にとなり、今日はここで解散したのだった。
ちなみに、皐月のクラスは2組だった。
サアアアア………とシャワーの音が響く。
その日の夜、シャワーノズルから熱いめのお湯が噴き出す。水滴は肌に当たっては弾け、またボディラインをなぞるように流れていく。白人にしては珍しく均整の取れた体と、そこから生まれる流線美はちょっとした彼女…セシリア・オルコットの自慢だ。しゅっと伸びた脚は艶めかしくもスタイリッシュで、そこいらのアイドルに引けを取らないどころか勝っているくらいである。シャワーを浴びながら今日の試合の事を考える
(今日の試合―――)
どうして勝てたかは、分からないが今それよりも考えることがあると本人は考えていた。
(―――織斑、一夏―――)
一夏のことを思い出す。あの、強い意志の宿った瞳を。彼女の父とは、まるで正反対の力強い瞳をそれと一緒に両親を思い出す。三年前に亡くなった両親どこまでも強く厳しかった母そんな母に媚びるだけの弱い父。だから『将来は情けない男とは結婚しない』そう思っていたでも出会ってしまった。
織斑 一夏と。理想の、強い瞳をした男と。
「織斑、一夏……」
名前を口にするだけで胸の中が熱くなるセシリア。
熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。
―――なんだろう。この気持ちは。
意識をすると途端に胸に広がる、この感情の奔流はなんなのかセシリアにもわからない。
―――知りたい。
その正体を。その向こう側にあるものを。
―――知りたい。一夏の、ことを。
「………………」
(そのためには…)
と何かを考え浴室には、ただただ水の流れる音だけが響いていた。
そして…次の日の放課後、本来初日にやるはずだったヒイロ対セシリアの対決になった。両者ともにビットで待機中だった。ヒイロはサーベルとマシンキャノンだけで戦うことになる。そんな不利ななかでもヒイロは目をつぶって腕を組んで時間を待っていた。
そばには一夏に箒、そしてなぜか本音がいた。
「ヒイロン~お菓子いる~?」
とボリボリ食べながら言う本音。それに対して今まで一切話さなかったヒイロは
「…いらん。水をもらえるか」
「いいよ~」
とヒイロに水を渡すとヒイロはそれを飲んで、そして歩きはじめた。
「時間だ…」
「頑張れよ、ヒイロ」
「オルコットは強いぞ」
と一夏と箒がそう言う。ヒイロはそれを背中ごしに聞いてゼロを展開して空へあがった。
ヒイロの機体を見た生徒たちはざわめき始めた。
『全身装甲!?』
『あんなIS見たことないわ』
と言った感じである。
アリーナに出ると目の前にセシリアが待機していた。ただし、その目は前の男を見下す目ではない。対等に見ている目だった。ヒイロはそれに気づき話し始めた。
「…どうやら昨日、一夏から『何か』を得たようだな」
とヒイロが話しかけてきたのでセシリアは一瞬驚いたがすぐに冷静になり答えた。
「…そうですわね。『一夏さん』から何かを得ましたわ。だから…今のわたくしは油断もしませんわ。わたくしとあなたではわたくしの方が弱いのも今ならあなたを見て分かりますわ。なので足掻かせてもらいますわよ!!」
そう言った時だった。
ブザーが鳴り響き、試合が開始した。
「…任務開始。内容、セシリア・オルコット専用IS、『ブルー・ティアーズ』の撃墜」
ヒイロがそう言うと右手でビームサーベルを取り出す。それと同時にセシリアは手に持っていた六十七口径特殊レーザーライフル『スターライトmkⅢ』で牽制攻撃をしながら後ろに下がる。
ヒイロはそのレーザーを避けながらかく乱するため飛び回る。
「やはりかわしますわね…でしたら」
セシリアは『スターライトmkⅢ』の照準をヒイロの狙いやすい胴体を止め、宙に浮いたままその場にしゃがみ込みスコープを覗く精密射撃の体勢に入る。ヒイロはその様子を確認したので急接近をした。精密射撃にはかなりの集中力が必要になる。だが今のウイングゼロのスピードにその状態になられると完全に回避ができなくなる可能性がある。ウイングゼロのシールドエネルギーは300…ちょっとのダメージが危うくなってくるのだ。
ヒイロは一気にセシリアに近づく。だがこれはセシリアの罠である。
セシリアはこの体制の状態で特殊装備『ブルー・ティアーズ』――通称BT兵器のビットを四機射出した。そしてヒイロの死角になるところから遠隔操作によるオールレンジ攻撃を行った。
「…なんだこれは」
ヒイロは驚いた。初めて見る兵器、それも小さな機械が飛び回り、ビームで攻撃をしてくるのだ。だが、多対一で戦い続けてきたヒイロは少ない動きで回避できると判断した。
しかし…
ヒイロが自分のボディーと翼の間の隙間を作ってビームを回避しようとした時だった。シールドが勝手にはられ、被弾したのだ。本来なら回避できていたはずだがなぜか被弾したのだ。
「なにっ!?」
―ダメージ54 残りシールドエネルギー246、装甲 損傷なし―
と表示されるのを見てヒイロはさらに驚いたのだった。
「まさか…ならば、これで決着を決めますわ。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」
その様子をみていた千冬は一人だけ落ち着いてみていた。残りの一夏、箒、真耶は驚きを隠せずにいた。映像に移るヒイロの被弾。それがBT兵器になって突然食らうようになっていた。
「やはりな…」
「なにがやはりなんだ…千冬姉ぇ?」
と一夏がそう言ったので拳骨を頭にきめた千冬。一夏は痛さでのたうちまわった。
「ヒイロは自分の機体のシールドエネルギーがどこで展開するのか把握しきれていない」
「つまり、ちゃんとした設定をまだしていなかったから…」
「だろうな。本来なら避けれている攻撃でも被弾扱いになるのはヒイロがギリギリすぎるところで避けようとするからだ」
そう、本来ならウイングゼロは翼が楯代わりになるので翼には対ビームコーティングがされているのだがシールドの展開場所の設定がしていない故にこのような事態が起こってしまっている。翼に当たってもシールドエネルギーが減り、また機体に触れないギリギリのところでレーザーを回避しても同じことが起こっていた。
「ま…それでも、アイツは把握しきったみたいだがな」
ヒイロのシールドエネルギーは残り50を切っていたがそこから攻撃が当たらなくなった。セシリアもそれに気が付いていた。
(く…どうやら、自身の機体のシールドの効果範囲を把握したみたいですわね。たった3分で把握するなんて…)
そうこうしている間にヒイロはサーベルとマシンキャノンでビットを二つ破壊する。セシリアはこのままではいくら被弾していないって言ってもやられると判断。当初から考えていた作戦を実行することにした。
ビット二つを攻撃させる中で『ブルー・ティアーズ』のスカートが動き、二機のミサイルビットから10数発のミサイルを発射した。ヒイロはそれを回避して一気に真正面からセシリアに近づく。だが正面に来させるためにわざとセシリアが攻撃した誘導攻撃だった。
「これで貰いますわ!!」
と言って『スターライトmkⅢ』からビームが発射された。
ヒイロの接近するスピードとビームの速度を考えると回避は不可能。セシリアはこれで!!と思っていた。しかしヒイロはなんとビームサーベルでビームを切り裂いた。
「な!!」
セシリアとしてもそれは予想外だった。本来ならそんなこと並みの人間じゃできない。六十七口径のビームに対してサーベルを当てようとすると必ず消すためにはタイミングが重要になってくる。それをヒイロは行ったのだ。
一気に接近を許されてしまったセシリアにヒイロは言った。
「お前の強さ…見せてもらった」
「く!!『インターセプター』!!」
セシリアは近接装備を呼び出そうとしたが間に合わずヒイロは袈裟斬り、返し薙ぎをして最後に多段抜き胴をした。抜き胴をした時、ヒイロはただセシリアの後ろに言っただけに見えたが後から『ブルー・ティアーズ』から火花が飛び散り、連続攻撃していたことが分かった。
そして…
「任務完了」
と天使の羽をまき散らせながらつぶやき、セシリアの機体はゆっくりと地面に落ちて行った。
セシリアは負けたけどすがすがしい気持ちだった。世の中には一夏やヒイロのような男もいるとわかったから…この後、
『試合終了。勝者――ヒイロ・ユイ』
というアナウンスが流れてくるのだった。
一夏はそれを見て、思った。俺も…ヒイロに示さないといけない。俺の意志を。そう考えていると後ろから肩を叩かれた。
一夏が振り返るとそこには槇村がいた。
「槇村さん」
「一夏、ヒイロに勝ちたいかい?」
「え!!」
「今回だけしか使えないが君の腕でも勝てる可能性がある戦法を教えよう」
と槇村は一夏の心情を考慮して助言をしたのだった。
次回、一夏対ヒイロですが一瞬で終わります。
後気付いていると思いますが白式は作者はアニメ版の設定からアレンジしています。なので少しおかしいなって思うかもしれませんが許してください。
なんせ、アニメ版は雪片の展開装甲と零落白夜は別でしたしね…
これからもよろしくお願いします
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第06話 セシリア・オルコットの力