左慈SIDE
ピピピピッ×100
ピピピピッ×1000
「うーん……うるさー」
もうちょっと寝かせてよ…後30年ぐらい……
「ああ、もう……」
誰よ、この時計だち仕掛けたの。
……あ、私だ。
私が寝直して二ヶ月ぐらい経ったかしら。
そろそろ起きないと遙火が心配しちゃうわね。
「…はぁ…、蛇って面倒くさいわね」
蛇の体を乗っ取って作ったこの体だけど、色々と問題点があった。
一つ目は体に鱗が残ること。
二つ目は冬果てしなく眠くなること。(もう春も終わる頃だけど)
三つ目は……この体、脱皮する。
取り憑いてた蛇がまだまだ成長中だったらしく、数カ月に一度ぐらい脱皮するみたい。
まるで海行ってきた後焼けて皮剥けるように剥ける。
寝てる間ちょっとずつ剥けたんだけどまだちょっと残ってる。脚とかまだ剥けきってないけど、無理やり剥こうとうしても痛くて剥けない。
なんかこう、目に見えないビニールみたいなのが皮膚についてるみたいで気持ち悪い。
と、とにかく、せっかく起きたのだから遙火たち見に行かないとね。
私のこと見たがってるかな。
出てきた私を見て泣きながら抱きついて来たりしないかな。うふふふふふ。
さて、服も着たし、行こうかな。
「はーい!皆私のこと見たかったー?」
「「「………」」」
「……」
あ…あれ?なんか空気が冷えてる。
「…さっちゃん」
「あ、はい」
耐えられない沈黙を割って遙火ちゃんが口を開けた。
遙火ちゃん、遙火ちゃんはそれでも私のこと嬉しく迎えてくれ……
「KY」
「遙火のばかーーー!!!」
もう外出ない。ひきこもってやるーー!!
一刀SIDE
「取り敢えず、アレだ……倉?」
「……うん」
「人を引っ張る時は首をいきなり掴むなんてことしてはいけない。絞められて死ぬ時って、息出来なくって死ぬ以前に、首の骨が折れたり脳に血が登らなくて死ぬんだ。僕を苦しまずに殺したいのならそうしても大丈夫だけど、こんな場面ではほんと勘弁して欲しいよ」
「…うん」
死ぬかも思った。
と、躾けが終わった所で…
今度はこっちが躾けられる場面だ。
「どういうことなのか説明してください!」
部屋の中、僕は三人に囲まれて椅子に座っていた。
うちの女勢がここまで怒ったのは、以前セツさんを宿屋に連れてきた以来だと思う。
「そうです、どうして北郷さんが孫権さんとあんな約束したことになってるんですか」
「……浮気」
「う、浮気じゃないぞ!?」
あの時は、あれだ。
「蓮華とその約束した時って、丁度雛里ちゃんと喧嘩した時だったんだ」
「…!」
蓮華の屋敷に居た時に、雛里ちゃんと大喧嘩したことがあった。
確か僕は雛里ちゃんに酷いことを言って、僕自身も精神的に酷く傷ついてそのまま行った場所が何故か蓮華の所だった。
意識が朦朧としている時にああいう約束をしてた気がする。
僕もすっかり忘れてた。蓮華が言ったからそんなことあったのが薄らと思い出しちゃったんだ。
「…それで、どうするんですか?」
「雛里お姉さん?」
終始が分かったのか、雛里ちゃんの声が少し落ち着いてきた。
「あのままだと、蓮華さん絶対付いて来ますよ?」
「…孫策が黙っているはずがない。魯粛さんが孫策に連絡を入れたとしたら、そのうち周泰たちが迎えに来るはずだ。無理やりにでも連れ帰せるさ」
「…じゃあ孫権さんを旅に連れて行くつもりは、まったくないんですね」
「………」
当たり前…とは言い切れない。
さっき魯粛さんが言ったことに同意する所があったからだ。
「…雛里ちゃん、蓮華を孫策の近くに置くことに付いてどう思う」
「………」
「確かに蓮華を帰すことが筋には合ってる。でも、蓮華が孫策の元に居るとせっかく蓮華に見せてやった僕たちの理想が夢物語に変えてしまうかも知れない。孫策は僕たちのような考えを嫌う人間だし、こっちも同じじゃないか。蓮華を孫策の近くに置くと、蓮華も孫策の色に染まるかもしれない」
「正直に言うとです」
でも、僕がそんなことを考えている間、雛里ちゃんたちは違うことを思っていたらしい。
「私は孫権さんが孫策さんみたいになるかどうかはどうでもいいです」
「え?」
「私は単に、孫権さんが私たち、一刀さんと一緒に居ることが嫌なだけです」
「どうしてそんなことを…」
「孫策さんの時のこと、憶えてますか」
僕はその時やっと三人の思惑がどこにあるのか気付いた。
三人は、僕が自分たちが知らない所で蓮華とそういう約束していること自体に怒っているわけではなかった。
蓮華が一緒に居ることで、僕が蓮華に心が行かないかを疑っているのだった。
つまりは僕のことを信用して居なかった。
孫策の時というのは確かあれだ。
突然キスされたせいで何がなんだかわからなくて気を失っていた。
「でも、あの時ちゃんと謝ったじゃないか。雛里ちゃんも許してくれたし」
「はい。でも、忘れたってわけじゃありませんから」
「…僕が信用出来ないって?」
「信用できないというわけじゃないです。ただ、またそんなことが起きそうな状況になることが嫌なだけです」
「……」
「……」
僕は雛里ちゃんを無言のまま見つめた。
雛里ちゃんもそれ以上何も言わずに僕のことを見ている。
僕は、雛里ちゃんのことを絶対的に信用している。だから、雛里ちゃんも僕のことをそう思って欲しかった。
でも、そういう思いはやっぱり僕のわがままなのだろうか。
「…分かった。蓮華は何があっても連れていかない。…これでいいよな」
「…はい。それじゃあ」
「悪いけど、ちょっと出かけてくるよ。直ぐに戻ってくる」
ちょっと外の空気が吸いたくなってきた。
僕は置いておいた剣を握って椅子から立ち上がった。
とその時、
「はーい!皆私のこと見たかったー?」
「「「………」」」
「……」
……何あれ…。
あの人長く見ないかと思ったらいきなりこれか。
「あ、あれ?」
「…さっちゃん」
「あ、はい」
倉は呆れた顔で左慈にこう言った。
「KY」
「遙火のばかーーー!!!」
と叫んで左慈は再びかばんの中へ…
「倉、幾らなんでも言い過ぎじゃないか?」
「ケーワイって何ですか?」
後でちゃんと謝っておけとだけ言って僕はそのまま屋敷の外へ向かった。
雛里SIDE
私の話を切って外に向かう一刀さんの背中は、いつもよりも少し悲しんでいるように覚えました。
今まで私たちの間にあった絶対的な信頼感。互いが自分を愛しているし、自分もそれ以上に相手を愛しているという身勝手な想像が崩された瞬間です。
そして、その発端となる言葉を言ったのは、私が先。
そもそも一刀さんがあっちこっちで女の人と一緒に居たり、孫策さんに対して私の時のような反応をしていたのが悪い、といっちゃいたい気持ちもなくはないですけど、
私はそんな風に人のせいに押し付けてしまうことはできません。
「…雛里お姉さん」
「…私は大丈夫だよ、真理ちゃん」
でも、だからと言って私が以前より一刀さんを好きでなくなったわけじゃありません。
寧ろ、真理ちゃんも含めた他の女の人たちに一刀さんを取られるかもしれないという脅威を感じた今だからこそ、今よりももっと一刀さんのことが好きになるのです。
そして、今まで以上に一刀さんにその愛を行動で示さなければいけないと、私は思いました。
「ちょっと出掛けてくるね。魯粛さんには日が暮れるまでは帰ってくるって………」
と、いつものように真理ちゃんを置いておいて行こうとしたら、ふともう真理ちゃんは私にそんな都合の良いことをしてくれないだろうということを思い出しました。
でも、
「はい、行って来てください」
「…真理ちゃん」
「その代わり、帰ってきたら私もちょっと北郷さん貸してもらってもいいですか?」
「……うん」
そういえば、真理ちゃん、私には言ったけど、一刀さんにはまだ何も言ってませんでした。
でも、今は取り敢えず、自分の気持ちを一刀さんに伝えることを最優先にしよう、と思った私は頷いて一刀さんを探しに行きました。
・・・
・・
・
私が一刀さんを見つけた時、一刀さんは単に街をただぶらついていました。
独りになって考えたいことがあっただと思います。
でも、
「一刀さん」
私の声を聞いて振り向いた一刀さんの一歩手前で止まりました。
時間は日没、街は大半の店は閉め始めて、家に帰る人たちがたまたま見当たるだけで閑散です。
「……付いて来たのか」
「はい」
一刀さんはそれ以上帰って欲しいとも、一緒に居て欲しいとも言いませんでした。
多分、どっちかで迷っていたのだと思います。
「…お腹すいてませんか?」
一刀さんはここに来て色々あって、まだ何も食べていません。
「どっかに寄って行きませんか?二人で」
「今ちょっとそんな気分じゃないんだけど」
「わかってます。私のせいですから。…だから責任取らせてください」
そう言って、私は一刀さんの腕を掴みました。
一刀さんは拒むことなく掴まってくれました。
以前と違って、このことで一刀さんが私のことを嫌いになったとかじゃないのです。
だから、今回なら…
「ね?いきましょう」
「…この時間だと開いてるのは居酒屋ぐらいだぞ」
「私は別にかまいませんよ」
「雛里ちゃんってお酒呑める?」
「……呑んだことありません」
「まあ、呑まなくても別にいいけど」
「一刀さんってお酒呑んでたんですか?私見たことありませんけど」
「以前水鏡先生と一緒にね…それからは呑んだことない。あまり好きじゃないし……今日はちょっと呑みたいかもね」
「じゃあ、行きましょう。私も付き合いますから」
「…そうだね、行こう」
一刀さんと適当な店に入りました。
ここが居酒屋……。
塾に居た時はこんな所、来るどころか近づくことさえも怖がっていたのに…。
今でも一刀さんが一緒にいてくれないと、絶対に来れないんですけどね。
既に多くの人たちがお酒を飲みながら雑談をしています。
「店主、白酒一瓶、つまみは店主が適当にお願い」
「あいよー」
一刀さんと一緒に円卓に座って、一刀さんが適当な注文をしたら、直ぐにお酒とおつまみのメンマが出てきました。
「呑む?」
「一人で呑むつもりだったのですか?」
「あまり無理して呑まなくてもいいって話」
「呑みますよ。一刀さん一人で酔っちゃったりしたら嫌ですし」
「僕あまり酔わないからその心配はないけど…」
一刀さんが私の杯にお酒を注いでくれると、白い液体が杯いっぱいになりました。
「……」
ちょっとだけ呑んでみます。
「!!」
「ふふっ」
ニヤニヤしないでください!
「こんなのなんで呑むんですか」
「そういう味を楽しむ…ってのもあるし、それとも酔いたくなる時とか…人それぞれだよ」
一刀さんはそう言って自分の杯のお酒を一気に飲み干しました。
「…まずっ」
そして直ぐに頭を俯きました。
「一刀さんも呑めないじゃないですか」
「好き好んで呑むとは言ってないだろ。僕だって呑むのは久しぶりなんだ。旅始めてからは全然呑んでないし」
唸っている一刀さんを見ながら、私はつまみに出たメンマを食べました。こっちはなかなか美味しかったです。
「雛里ちゃん」
「はい?」
「…ごめん」
え?
「なにがですか?」
「蓮華と…約束したの」
「でも…それは」
「雛里ちゃんと喧嘩したのと、僕が蓮華とあんな約束したのってさ、別に関係ないじゃん?」
「……」
「あの時は僕がどうなっていたのかわからないけど、僕はとにかく今雛里ちゃんのこと好きだし、昔話のせいで雛里ちゃんとギクシャクするのは嫌だ」
「…でも、本当の所は連れていきたいんですよね」
「雛里ちゃんは嫌なんだろ。じゃあ良いさ。最も、蓮華を孫策の近くに置きたくないというのは蓮華が孫策みたいになることを恐れてだ。蓮華を信用できていれば、別に彼女がどこに居たって構わないさ」
「一刀さん…」
一刀さんは、
いつもこうです。
他の人に対しては絶対自分の考えを折らないくせに、私に限ってはなんでも先に折ってしまいます。私と争うことを極力避けてくるんです。
私の意見を尊重してくれるのは嬉しいですけど、そういう一刀さんの性格がたまに私自身を酷いと思わせてしまいます。
こう思ったら一刀さんはきっと怒るでしょうけど、昔の一刀さんは、私のためになると思うなら例え私の意見を折ってでも一人で居ようとしていました。
に比べて今は、私の意見を全て受け入れることで自分の立場を危うくしているのです。
こんな時、私はどう一刀さんを接したらいいのか良く判りません。
「……」
手前に残っていた酒を一気飲みしました。
「……っっ!!」
「大丈夫か?そんな一気に呑んだら後で二日酔いするぞ」
「……お代りください」
「え?」
「お代りです。今日は二人で飲み潰しです」
「……分かった」
そう言って私の杯に白酒を注いだ一刀さんは、自分の杯にも酒を注いでその杯を私の手の杯に軽くぶつけました。
「何ですか?」
「乾杯」
「完敗?」
「僕の世界で人と酒を呑む時にやるんだよ。何かにかけて酒を呑む時とかに」
「なるほど…じゃあ、何にかけて呑むのですか?」
「……君の美しさに乾杯…とか」
「からかわないでください」
「からかってないんだけど……じゃあ、雛里ちゃんがなんか言ってよ」
「そうですね、じゃあ
これからも続く貴方様との日々に乾杯」
「………乾杯」
チーン
明命SIDE
真夜中、私たちは徐州に向かって昼夜休まず馬を走らせていました。
「まったく、我々が居ない間に荊州から徐州まで向かわれるとは…蓮華さまは一体なにを考えておられるのだ」
「多分…一刀さんたちを追いかけたのだとは思いますけど、まさかあんな長い道を独りで行かれるとは思いませんでした。とにかく、今は先を急がなければ…」
「甘寧さま!周泰さま!待ってください!早すぎます」
そう言う言いながら思春殿と私をおいかけるのは、蓮華さまの私兵として編成した諜報部隊の中で、一刀さんが特別に抜擢して欲しいと言って特別に連れてきている、呂蒙子明さんです。
諜報員としての能力はいまいちで、何よりも視力の悪さが響いています。
長く鍛錬した私と、同じく長く自己鍛錬していた私たちは長時間走っても疲れませんけど、この人はまだそこまでは至らないようです。
「しゃきっとしろ、呂蒙!お前は何の荷物も持っていないでそれか!」
実際、私と思春殿は同じく背中に大荷物を背負って走っていました。
更に甘寧さんの手には……
「も、もうしわけありません」
「っ!そう文句を言うつもりならお前はもう豫州に帰れ!」
「っ」
「思春殿!」
流石に自分からも言い過ぎだと思ったのか、思春殿は口を閉じました。
思春殿のせいじゃありません。
きっとこれは……
「…代わりましょうか」
「…頼む」
そう言いながら思春殿は、手に持っていた細長い包みを私に渡しました。
「!」
厚く包んでいるにも関わらず、冷たさが両腕に染みます。
「……早く行きましょう」
「ああ、呂蒙、貴様のわがままを聞いてあげてる程の余裕はない。全力で付いて来い」
「は、はいっ!」
手に包みを持ったまま私は先へ進みました。
さっきよりも更に早くなって、後ろの思春殿や呂蒙さんを追い抜いてしまいましたが、私は早くこれを離したい気持ちで先を急ぎました。
包みの中にある『剣』が私にささやく言葉を無視して…
――殺せ
――殺せ
――殺せ……
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素直が一番、というわけではないけど、
嘘ばっかりの仲よりは例えそれが今よりも成り下がるのが怖いとしても、一度ぶつけて砕け散っってみるのも、また一興なのかもしれない。