No.395760

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第49話:力の正しい使い方

2012-03-21 16:08:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:879   閲覧ユーザー数:879

今から約二年前…カブトのクロックアップシステムが暴走し、その装着者である天堂ソウジがクロックアップ空間に閉じ込められてからと言うもの、カブトによる建築物破壊の被害が多く出ている。

 

なんでもサツキが言うには、クロックアップ…所謂高速空間で動く能力の事で、その力を制御できない為に彼がワームを撃退する度にそう言った被害が出てしまうそうだ。

 

何故高速で動く度にそのような被害が出てしまうのか聞いてみたところ、クロックアップした状態で物に指先で軽く触れるだけでも、実際の時間軸からすれば銃から撃ち込まれた弾丸並みのスピードで動いてるようなものなのだ。そんな物が意思を持って今でも徘徊してるとなれば、ワームに匹敵する人類の脅威に値するには十分だ。

 

当然サツキ達が所属する組織・ZECTもその問題解決の為に何度か他のマスクドライダーシステムでカブトを討伐しようと奮闘したのだが、そのあまりの戦闘力の高さに手が付けられないらしい。

 

「そこで現在、そのカブトに唯一対抗する事の出来ると思われるマスクドライダーシステムの基盤である『マスクドライダーシステム第0号』を使う計画が進行しているのですけれど……」

 

「マスクドライダーシステム第0号」…通称ダークカブトゼクターはカブトに最も近い性能を持つ。そこに目を付けたZECT上層部は、その試作品の出動を要請したのだ。

 

しかしダークカブトゼクターは今の所誰も使う事は出来ない。何故ならゼクターはすべて各々に自我を持ち、資格者を選定するからだ。

ダークカブトゼクターはカブトゼクターに近いために、カブトに近い素質を持った人間でなければ扱う事が出来ない。そのせいで未だに立ち往生している状態なのだとか。

 

「あの、ところでさっき紫さんに言ってた“被検体”って…?」

「それは一般人に教えるわけにはいきませんわ。とりあえず今は“ダークカブトの出動に必要な物”とだけ思っていればよろしいですわ」

 

カブトに関する事を一通り聞き終え、次にサツキが言っていた“被検体”について訊ねてみたが、この事は公(おおやけ)にはされていない非公式の事のようで聞く事は出来なかった。

だが亜由美にはその“被検体”とは、あの時運河を撃退した黒いカブトムシのライダーではないかと何となく察しが付いた。

 

この事はサツキに言うべきなのだろうが、彼女の組織には何か裏がある様な気がする。それがこの世界に大きな異変を齎(もたら)す様な気がして、今は言わない方が良いだろうと思い黙っておく事にした。

 

「アローナ隊長、報告です」

 

亜由美がそう考えていると、生真面目そうな男性の声が取調室に響き、二人はその声がした扉の方を見た。

 

そこにはサツキの来ているスーツと同じタイプの戦闘服をピシッと着こなした男が立っており、その目はまっすぐサツキに向けられている。

 

「あら、日向(ひむかい)君?紫から出動命令は出ていないの?」

「は…?その様な命令は出ておりませんが……」

 

どうやらこの日向と言う男はサツキの部下であるようだが、サツキの部下は彼女からの許可によって紫と同行している筈だ。サツキは何故ここに残っている事に疑問を持ち訊ねてみるが、紫からの指示事態なかった様子だ。

 

サツキはそれを聞くと頭を押さえながら「あの子はまた……」と嘆息混じりに呟くが、すぐに気を取り直して隊員からの報告を聞く事にした。

 

「それで、報告とは何ですの?」

「はっ!先程ダークカブトゼクターの反応をキャッチしました。場所は港区2761ポイントです」

「分かりましたわ。それでは貴方はこの子を私の家まで案内してあげて。私は第一小隊を連れてそこへ向かいますわ」

「イエス・マム!」

「そう言うわけだから、話はまた後にしましょ」

「あ…ハイ……」

 

サツキからの指示に敬礼をしながら返すのを確認すると、サツキは亜由美に微笑みかけながら話題を締め、取調室から出て行き、後には亜由美と日向という名の隊員だけが残された。

 

サツキの姿が完全に消えると同時に、日向は「スゥ~…ハァ~……」と深く深呼吸をすると、生真面目な印象を完全に取り除かれ、亜由美に振り向いてやたらとフランクな言葉を投げ掛けて来た。

 

「ったく、隊長も物好きだよなぁ。家出少女を自分の家に匿(かくま)うなんて」

 

亜由美は先程の日向の変貌ぶりに軽く驚きを見せるが、恐らくこちらの方が素なのだろう。

日向はそんな亜由美に大して気にした様子もなく、更に続ける。

 

「……っと、自己紹介が遅れたな。俺は日向(ひむかい)シュン、シャドウの実質ナンバー3さ」

「あ、えぇと、初めまして。須藤亜由美です」

 

とりあえずこちらも自己紹介で返すと、彼は明るい印象のある笑みを見せた。

その笑顔は何処となく皐月に似ているような気がして、親近感が湧いてくる。サツキの性格が彼みたいな感じだったら、それでパーフェクトだっただろう。

 

「よっし!自己紹介も済んだ事だし、隊長の家に案内するぜ。付いて来な」

 

そう言うと彼は踵を返して扉へと歩いて行く彼に続く様に、自分の親友、皐月に似た女性の家…あのお嬢様みたいな人が一体どんな家に住んでいるのか興味を持ちつつ、亜由美もその後に続いて取調室を後にした。

 

 

 

 

 

カブトはディシードとサソードの戦闘を静観していた。

彼の手助けをやっても良かったのだが、それだと彼の為にはならない。

 

「おでんの具が多ければ多いほど味が増えるが、作る人の思いがなければ美味しいとは言えない」……。これは祖母の言葉であり、今の彼に必要な課題だ。

彼はあの力こそが平和への道筋になると思っている様であったが、それだけでは駄目だ。教えても良いが、これは自分自身で見つけなければならない。

 

「………」

「うわっ!ちょ、アブッ…グァァ!!」

 

ディシードは大剣を盾にしてサソードの攻撃を防ぐが、彼女は素早い剣戟で次々と攻め続くる。

やがてディシードに大きな隙が生まれ、幾つかダメージを喰らってしまった。

 

ディシードの持つ武器はリーチとパワーに優れているのは、その形状を見ればすぐに分かる。

更に、彼の変身しているライダーがスピード特化型である事も……。

しかし彼はその特性を一切使い切れていない。いや、使おうとしないと言った方が正しいか。

もし彼が本気で戦っていれば、サソードを一瞬の内に倒してしまう事も容易な筈だ。そうしないのは彼が彼女と戦う事を望んでいないからだ。

 

戦いに於いてその迷いは危険を孕むが、カブトとしては今はそれでいいと思った。

今の彼に必要なのは力の正しい使い方であり、後はそれに気付けるかどうかだ。

 

(劣勢になって来たな……。そろそろ動くか)

 

サソードの攻撃を喰らう回数が多くなってきているのを感じ取ると、頃合いと判断してカブトは悠々とした足取りで二人に近づいて行く。

 

「……ッ!……チッ」

 

カブトが近づいて来る事を察したサソードは、舌打ちして一旦後退すると、カブトとディシードから間合いを取って剣を改めて構える。

彼女は自分と何度か戦闘を行っている為に、こちらとの戦闘力の差を理解しているが故の行動だ。

 

「祐司君、ここから先は俺がやろう」

「ソ、ソウジさん…?」

「……カブト……抹殺」

 

ディシードと話していると、サソードはその態度が癪に障ったのか低く唸るような声で呟き、剣を振るってこちらに迫る。

しかしカブトは瞬時にクナイ型の武器・カブトクナイガンを亜空間からジョウントして取り出し、サソードヤイバーを受け流す様に弾き飛ばして相手の体勢を崩す。

 

「……ッ!」

「フッ!ハッ!!」

 

更に相手が態勢を立て直す前に胴体を斬り付け、続いて蹴り飛ばす。

 

「グッ…!アァッ!?」

 

[クロック・オーバー]

 

蹴り飛ばされると同時に、クロックアップがダメージによる負担もあって使用限界に達したのか、クロックアップの終了音声が鳴ると同時にサソードの動きが止まった。

それと同時にサソードの装甲がハニカム構造状の分子に分解されながら、徐々にその装着者を露わにして行くが、自分達がクロックアップ空間にいる為にその過程が非常にゆっくりで、カブト達からは中々垣間見る事が出来ない。

 

「さぁ、行こうか。ここに長居は無用だ」

「は、はい……(凄い…まさかあんな一瞬で……)」

 

カブトに促されるままにディシードもカブトに続いてこの場を去るが、ディシードは内心かなり驚いていた。

 

カブトの強さは今までの戦闘を見ていただけでも分かる。しかし手加減していたとはいえ、苦戦を強いらげられたサソードにまさかあんな一瞬で勝つとは……。本当にこの人の力は計り知れない。

 

しかし、本当にこれでいいのだろうかとも考えた。何とか彼女達ZECTと話し合えば、こうして争う事もなく、そして無駄に力を振るう事もないのでは…?

 

「ん?どうした?」

「あ、いえ。何でもありません」

 

どうやら考え事をしていた所為で足が止まってしまっていたようで、それを怪訝に思ったカブトが声を掛けて来た。

ディシードは大したことじゃない事を伝えると、カブトの後に付いて行った。

 

 

 

 

 

サツキが日向からの報告を受ける少し前……。

港区の一角にある小さなおでん屋…「天堂屋」からショートカットボブの黒髪で、清楚な印象を受ける一人の少女が出て来た。

その顔立からまだ学生である事は明らかだが、今日は休日なのか制服ではなく私服の状態であり、「天堂屋」と書かれた店の暖簾を入口の戸に出している。

 

この少女の名は天堂マユ。天堂ソウジの妹だ。

今から約二年前、兄になりすましたワームにカブトであるソウジを殺されそうになったが、門矢士と名乗る青年のおかげでその危機を無事に乗り越え、今ではこうして店の手伝いをしながら兄が何時か帰って来るのを待っている。

 

暖簾を掛け終え空を仰ぎながら「う~ん」と伸びをする。

外の気温は一月の為に非常に冷えているが眠気覚ましには丁度良い。それに空は良く晴れており、昨夜の雨は完全に止んでいる。今日は何か良い事がありそうだ。

 

「さてっと……ん?」

 

視線を道筋に戻して店の中に入ろうとした時、視界の端の人影が写った。それだけなら何も問題はないのだが、その人影にどこか違和感を覚えた。

違和感の正体を確かめる為に人影を二度見すると、その原因が分かった。髪の色が白いのだ。

しかし白いからと言っても老人と言うわけではない。寧ろ自分と同じくらいかそれより下くらいの少年なのだ。また、服も白く非常に簡素な物で、病院の患者などが着ていそうな物だ。

 

その少年は息切れを起こしながら何かから逃げるように必死に走っている。決して朝のランニングとかそう言う雰囲気ではなさそうだ。

 

「ハァッ…ハァッ……!」

「……えっ」

 

近づいて来るにつれてその少年の顔が明確になって来た時、マユは思わず驚嘆の声を漏らした。

その顔は幼くはあるものの、自分の兄・天堂ソウジその物だったのだ。

 

しかし今の兄はもう三十を過ぎている筈だ。なのに目の前の少年はソウジの少年時代の写真そのままの顔付きをしており、どうしても他人とは思えない。

 

「あ、あの……」

『ギュヂヂヂヂヂヂ……』

「ッ!?」

 

少年に声を掛けようとした時、背後から不気味な鳴き声が聞こえ、思わずそちらに振り返るとマユの予想通りのモノが立っていた。

緑色のズングリとした体型の虫のような怪物、ワームだ。

 

「きゃあっ!?」

 

分かってはいてもそのグロテクスな姿を見てしまうと短く悲鳴を上げ、足を躓かせて尻もちを突いてしまう。

本当の自分の姿に戻れば何て事はないが、あの姿にだけは絶対になりたくない。

なってしまうと人でなくなってしまうような気がするから。それに…兄がそれを望んでいないから……。

 

「ッ!変身!」

 

[ヘン・シン]

 

『ギュギイィィィィ!?』

 

突然白い少年がそう叫ぶと、それに続く様に機械的な音が流れ、自分の横を走り抜けながらワームにタックルを仕掛けて吹き飛ばした。

その姿は先程とは違っており、重厚な銀と赤のツートーンカラーに身を包み込んでおり、ライダーである事は間違いなさそうだ。

 

『ギュヂュヂュ…ギュアアァァァァ!!』

 

ワームはすぐさま起き上がってライダーを恨めしそうに睨み付けると、身体を赤く発熱させ始めた。

成体へと脱皮するつもりだ。

 

「キャストオフ!」

 

[キャスト・オフ……]

 

しかしライダーはボソリと宣言しながら、腹部に取り付けたカブトムシ型のギミックの角を左から右へと押し倒す。するとギミックから宣言された言葉と同じ音声が流れ、突如ライダーの重厚な装甲が吹き飛び、その吹き飛んだ装甲は脱皮しかかったワームに直撃してそれ以上の脱皮を阻止した。

 

更に装甲の奥からはカブトと全く同じ形状のフォルムが現れるが、そのカラーリングが何処となく暗い印象を与えている。

 

[チェンジ・ビートル]

 

「クロックアップ……」

 

ギミックから変形が完了した事を告げられると、ライダーはすぐさま右腰に備え付けられたスイッチを叩きながら静かに宣言する。

 

[クロック・アップ]

 

『ギュギャアァァァァァ!!』

 

電子音声が告げられた次の瞬間には、ワームは緑色の炎に包み込まれながら消滅し、カブトに似たライダーはその少し前に立ち尽くしているだけだ。

 

しかし緑色の炎が完全に消え去ると同時に、変身が解かれて白い少年に戻りながら地面に倒れ伏した。

 

「ッ!大丈夫ですか!?」

「一体何の騒ぎだい、マユ?」

 

倒れた少年に近寄って肩を軽く揺さぶりながら様子を窺っていると、天堂屋の戸が開いて仕事着を着込んだ祖母が騒ぎを聞き付けたのか顔を出して来た。

 

「おばあちゃん!この人、急に倒れちゃって……」

「……しばらく店の中に入れて寝かせといてやりな。ここで寝てもらっても困るからね」

「分かった!」

 

祖母の指示に従って少年を担いで店の中に入れようとすると、その少年の異常なまでの軽さに驚いた。

比喩的な表現ではあるが、まるで紙粘土のような軽さだ。

若い頃の兄と同じ顔を持ち、カブトに酷似したライダーに変身したこの少年は一体何者なのだろうか?

そんな疑問を抱きつつ、マユは少年を店の中に入れた。

 

 

 

 

 

「デ、デカい……」

 

日向の自家用車に約3~4時間ほど乗せられ、連れて来られた場所を見て亜由美は思わず驚嘆の声を漏らした。

 

亜由美は現在、サツキの自宅の前に立っているのだが、その家がどこぞの中世ヨーロッパの貴族が住んでいそうなイメージのある巨大なお屋敷だったのだ。

 

「スゲェだろ?アローナ隊長ってどっかの名門のお嬢様らしくってよ。これくらいの敷地くらい持ってて当然なんだとさ」

 

亜由美の横に立ってそう説明する日向がいたが、正直目の前の異常さにばかり頭が行ってしまってそれどころではない。

 

更に中に入ってみると、だだっ広い大広間が広がっており、天井には豪奢なシャンデリア。目の前には二方向に分かれる階段が身構え、二階には幾つかの扉が壁に張り付いている。

しかし広さの割には人の気配は一切なく、亜由美と日向の足音を除けば静寂が包み込んでいるだけの空間だ。

 

「ここって、アローナさんが一人で住んでるんですか?」

「らしいぜ?まぁ偶に神園副隊長を呼んで泊めてやってるらしいけど、基本はこの屋敷に一人で住んでるんだと」

 

聞く所によれば何でも大学を卒業後に、ZECTにザビーというマスクドライダーシステムの資格者として選ばれてスカウトされたらしく、親元から離れてここに一人で住んでいるとの事だ。

 

これだけ大きな家ならば執事だのメイドだの居てもおかしくないのだが、サツキはそう言った自分が世話をさせられる事が嫌いらしく、今後も雇うつもりはないのだとか。

 

「やっぱり皐月とは全然違うなぁ~」

「ん?何の事だ?」

「あぁいえ、アローナさんに『顔だけ』似てる知り合いがいるもんで……」

 

つい口に出してぼやいた言葉を日向が聞き取ってしまったようで、それに亜由美は一部の単語を強調しながら簡潔に説明した。だって性格が180度違うし……。

 

「ふぅ~ん、ワームじゃなくても似た様な顔の人間っているもんだなぁ~」

 

変な所に感心しながら日向は屋敷の左手へと進んで行く。亜由美もそれに付いて行きながら改めて辺りを見渡す。

一人暮らしの割には何処にも埃が落ちておらず、毎日掃除している事が窺える。どうやらこちらの皐月は随分と綺麗好きの様だ。

もし自分の知っている方の皐月だったら、間違いなく一カ月もすればゴミ屋敷にしていた事だろう。

 

やがて日向が一階の左手にある二枚扉を開いてその奥に進むと、そこは広い部屋になっており、真っ赤なソファとテーブルが鎮座している。どうやらここは客間の様である。

 

「隊長が帰って来るまでここで待っててくれ。大体一時間くらいで戻って来るだろ」

「ハイ…所で、何でアローナさんは態々…?」

 

日向にここでしばらく大人しくするよう促された後、亜由美は先程から思っていた疑問を日向にぶつけた。

こんな見ず知らずの自分を何の疑いもなく自分の家に送るなんて人が良すぎる。

そんな意味を込めて訊ねてみると、日向は苦笑いしながら少し言い辛そうに答えた。

 

「あぁ~、実はな……隊長って意外と寂しがり屋なんだよ」

「……寂しがり屋?」

「そ。特にZECTって基本的に女性の隊員ってかなり稀だからさ、それでよく神園隊長とプライベートとかでも一緒にいたりする事が多いんだよ。

特にあんたみたいな訳あり少女なんかを見掛けると、どうしても世話を焼きたがる性分なんだよなぁ……」

 

「まぁこの話しはあんまりしない方が良いんだけど」と言って締め括ると、亜由美はサツキが紫と一緒にいる所を思い出して何となく納得した。

あの時のやり取りが何処となく姉妹のように見えていたのは、言い方は少し悪いがサツキが自分が寂しくない様にする為の措置だったのだ。

日向の話から彼女がご令嬢であると言う事を聞いたが、それならば異性との関わりが少ないと言う事もなんとなくイメージが付く。

そしてZECTに女性が少ないと言う事はつまり、気が合う同性がいないと言う事。当然異性との付き合いがなければあまり話せる話題もないし、あったとしても大抵は仕事の話しかしなくなってしまう。

そうなってくれば誰か気を許せるような友人が欲しくなってくるのも必然と言えるだろう。

 

皐月と似ていても全くの別人…それは楓と話した時にも思った事ではあるが、なんとなくホームシックに陥りそうになった。

 

しかし、今はまだ帰るわけにもいかないし帰れない。まだ歩との旅は、始まったばかりなのだから……。

 

 

 

 

 

サツキはダークカブトゼクターの反応があった付近までワゴンで移動すると、ゼクトルーパー達を三人編成の小隊に分けて捜索を開始させた。

 

この付近は港区にある料理店舗が多く建ち並ぶ区域で、休日の朝方である今の時間帯は極端に人の気配が薄い。

もしこの辺りを“被検体”が通過していたとしても、この様子では目撃者を見つけるのも難しそうだ。

しかしそれでも必ずや見つけ出さなくてはならない。何故ならあれは本来、公(おおやけ)にされてはならないモノなのだから……。

 

―――プルルルルル……プルルルルル……―――

 

サツキは定期連絡の通信を受けて胸のホルスターに取り付けた通信機を取り外して通話ボタンを押すと、連絡をしてきた隊員の声が通信機越しに響いた。

 

『こちらAグループ。“被検体”は見当たりません。目撃証言もなしです』

「分かりましたわ。それでは店内に入って店員から今から一時間の間に何か変わった事はなかったか情報を収集なさい。各グループにもその事を伝えて」

『イエス・マム!』

 

それだけ話すと通信を切って自身も捜査を始めた。

 

ダークカブトゼクターは変身する度に特殊な周波を放つ。そして周波の反応が起こると言う事は、戦闘などの為に変身したと言う事でもある。

戦闘を行えば当然騒音が起こることは間違いないだろうし、その時の音を聞いた人は少なからずいる筈だ。

 

サツキは二人のゼクトルーパーを従えて自分も捜査に出るべく目の前に見えた一件の店に近寄って戸を三回ノックして開いた。その店の名は…天堂屋だ。

 

「お邪魔致ししますわ」

「なんだい?まだ店は準備中だよ」

 

社交辞令的な口上を述べながら店内に入ると、右手のカウンターの奥で何らかの料理の下準備をしていた堅物そうな老婆が眉を顰めながら、訝しげのこちらを睨んできた。

 

まぁ武装した人間が突然店内に乱入して来たらそれは嫌な顔の一つくらいしたくなるものだろう。

 

「すぐに出て行きますからご安心を。それで、一つお聞きしたいのですが、今から一時間の間に何か変わった事は……」

 

「う、うぅ……」

 

サツキが言い切る前に、男性の低い唸り声がその先を遮った。その声のした方を向くと、そこにはおかっぱ頭の少女が店の椅子で造った簡素なベッドで誰かを見ている所が目に入った。

今サツキがいる場所からでは、テーブルが死角になって足元しか見えないが、間違いなく今の声はその倒れている誰かだろう。

 

「……待機してなさい」

『はっ!』

 

後続していた二人の隊員を店の外に出して少女と男性の元へ近寄ると、サツキの予想は見事に的中した。

 

「やはり居ましたわね、“被検体”」

「ッ!?チィッ!!」

 

口元をニヤリと歪ませながら、その倒れている白髪の青年…“被検体”にそう言い放つと、その声に反応した男は目を見開いてこちらの姿を捉えると、舌打ちしながら起き上がってテーブルに手を突き、その部分を軸にしながら反対側へ飛び移ってそのまま店内から風の様に逃げ去った。

 

「逃がしませんわ!」

 

サツキはそう叫ぶとその後を追う為に天堂屋から駆け出して行った。

 

あの“被検体”…天堂ソウジの細胞から造られたクローンを追う為に……。


 
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