No.395671

迷子の果てに何を見る 第六十七話

ユキアンさん

これでアレも終わりですね。
やっとゆっくりと零樹と共に生きれます。
byアリス

2012-03-21 11:38:13 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4325   閲覧ユーザー数:4005

現実(リアル)と真実(リアル)

 

 

side 零樹

 

 

会場から離れて僕達は雑貨屋『Aria』まで戻ってきていた。麻帆良祭では出店みたいなのをあちこちに出す為店自体は閉まっている。なので鍵を開けて接待用のダイオラマ魔法球にナギさん達を案内する。

 

「フェブ、お茶を用意して。あと、こいつを適当な部屋に寝かせて目が覚めたらナギさん達の所に案内してあげて。僕は疲れたから寝てるから」

 

「はい」

 

「じゃあ、そういうことなんで、後はお任せします」

 

「すまねえな」

 

「いえ、これからは家族みたいなものですしこれ位は普通ですよ」

 

「それもそうか」

 

その後も軽く世間話をしてから限界が来たのでいつも自分が使っている部屋に向かい倒れる様にベッドに沈む。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

side アリス

 

 

零樹が部屋に消えてからも私達は色々と話をしていた。今は二人が異世界に飛ばされていた時の話を聞いている。

 

「錬金術が発達している世界ですか」

 

「ああ、戦争なんてものはほとんど無いし科学と錬金術が半々みたいな世界だな。地形とかはこの地球と似た様な感じで、それでも魔物がいるからこそ命の危機はある。ちょうど旧世界と魔法世界を足して2で割った様な世界だったな」

 

「おかげで魔法を使っても怪しまれることも無かったな」

 

「それに色々と勉強にもなったな。向こうで錬金術を覚えたお陰で弾丸も簡単に生産出来る様になったし、おっと忘れる所だった。こいつを渡しておくぞ」

 

そう言ってお父さんは空間に手を突っ込んでトランクを取り出してきた。

 

「これは?」

 

「向こうの世界で流通している魔力回復薬だ。いるんだろ、目的を果たす為に。まあ零樹からの供給があればいらないかもしれないけどな」

 

「もしかしなくても師匠から聞きました?」

 

「まあな。本当に身内には甘いよなレイトの奴」

 

「その分修行は大変でしたけど」

 

「ああ、あれは酷かった」

 

お父さんと二人してorz状態になり、お母さんはそれを見て苦笑するだけです。

 

「ナギ様、アリカ様、アリス様、ネギ様をお連れしました」

 

その言葉にすぐに気持ちを切り替え、椅子に座り直します。それから年齢詐称薬を半分に割って飲み込み、アレと同じ位の年齢になります。

 

「通してくれ」

 

「はい」

 

ディエチに連れられてアレが入ってきてお父さんに気がつき足が止まっている。それに対してお父さん達はかなり複雑そうな顔をしています。それもそうか、自分の子供がここまで歪んで育てしまいましたから。それでもどう対応するのかは予め決めていたのか真剣な顔をします。私は普段通りですよ。アレのことは道端の石ころと同じ扱いをすることにしましたから。

 

「久しぶりだな、ネギ」

 

「……本当に父さんなんですか?」

 

おや?アレの様子がおかしいですね。お父さんのことを疑っているみたいです。

 

「どっから見てもお前の父親だろうが。それとも何か?幻術とか変装だと思ってるのか」

 

「武道大会に出ていたのも父さんなんですか」

 

「そうだよ」

 

「嘘ですよね、父さんが三位なんて。だって父さんは英雄で偉大なる魔法使いで」

 

「残念だが三位なのは事実だ。それに英雄や偉大なる魔法使いなんてものは周りが勝手に言っているだけだ。オレはそんな物に興味なんて無い。そして、お前は何をしているんだネギ。妹を守ろうともせず幻想を追い求めて、何がしたいんだ」

 

いきなりの全否定にアレが唖然としています。いい気味ですね。それよりもお父さんはどうやら本音や現実を叩き付けることにしたみたいですね。

 

「僕は父さんみたいに」

 

「何だ、英雄になりたいのか?なら戦争が起こるのを待って敵を殺しまくれ。そうすれば英雄だ」

 

「違う!!僕は困っている人を助ける立派な魔法使いに」

 

「人を救うのに魔法はいらねえ。人を救うのに必要なのは心から救いたいという気持ちと僅かばかりの勇気だ。魔法はそれを手助けするだけの物だ。そして俺は心から救いたいと思った人はアリカだけだ。大戦が終わってから人を助けていたのはただの罪滅ぼしの気持ちからだ。俺はそう話したよなネギ」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ。父さんならそんなことは言わない」

 

「お前が俺の何を理解しているんだネギ。これが現実だ。幻想を追い続ければ、いずれ理想と現実に追い込まれる。その先に待つのは破滅だけだぞ」

 

「違う、そんなことはない」

 

「何度でも言っ「少し落ち着けナギ」……あ~、すまんちょっと感情的になりすぎた」

 

「だろうな。さてネギ、今度は私からだ」

 

「母さん」

 

今度はお母さんからですか。どういう風に話すのか見物ですね。

 

「例えばだが目の前に10人のケガ人がいるとしよう」

 

ああ、なるほど。どんな話をするのか分かりました。

 

「どの人も苦しそうだ。そしてお前の手元に薬が9つある。さあ、どうする」

 

そう言うと同時に幻術で作られた10人のケガ人と9つの薬がアレの目の前に現れる。

 

「えっ?」

 

ケガ人は本当に今にも死にそうにうめき声を上げるだけで、それでも必死に生きようとアレの方に顔を向けます。ちなみにこのケガ人達、老若男女が揃っています。

 

「早くしなければ全員死んでしまうぞ」

 

その言葉でやっとアレが動きます。薬を手に取り、そこで手が止まってしまいます。大方誰から治療すれば良いのか分からないのでしょう。私から見ればとりあえず一番高齢でおそらく心臓を貫かれていると思われる禿げた男性を見捨てることにして、お腹に穴の空いている男の子、背中に重度の火傷を負っている40代位の女性、両足が吹き飛んでいる女の子を順に薬で治してから残りを病院に運んで手術ですね。薬を使った3人は今すぐ処置する必要があるから薬を使い、残りを取っておいて保険にしておきます。他の人も詳しく調べていませんがすぐに命に関わる様な怪我ではないことだけは分かります。

まあ、10人とも助ける方法もあるんですけどね。それもこの問の正解ではありませんけど。

とか考えているうちに私なら見捨てることにする人が死にました。慌ててアレは薬を飲ませていますがもう遅いですよ。そして、その無駄な行動をしているうちにお腹に穴の空いている男の子も死にましたが気付いていないようです。

 

 

 

10分後、結局救えたのは8人です。そして、ここからこの問答の地獄が始まります。

生き残っている8人が消え、またケガ人が10人現れます。しかも今度は全員が重傷です。さらに今度は薬がありません。

 

「どうしたのだ?困っている人を救うのではなかったのか」

 

更に10分、全員がお亡くなりになりました。合掌。

 

「レイトから聞いていたが人を救うと言いつつ結局の所救えたのは最初の8人だけ、それも薬を一つ駄目にした。これは幻術だが、実際の状況に立たされた時、それだけしか助けられないということだ。アリスもやってみるか」

 

「ええ」

 

そう言うと同時にアレと同じ状況に立たされます。

まずは全員の状態を見ます。今回は2人を見捨てることにします。次に残りの8人の傷を見て本当に危ない1人にのみに薬を使い、後は簡単な応急処置を施すだけにします。

 

「もう良いです」

 

「そうか、それが答えか」

 

「ええ」

 

また10人が現れ、今度は見捨てる様なことはせずに対処します。ここでは薬を2個使います。それを続け薬が無くなってからは魔法を使いながら処置を施していきます。100人を救った所で終了します。

 

「さて、ネギよ。自分とアリスの違いは分かったか」

 

「そいつは困っている人も平気で見捨てられる薄情な奴」

 

「自分の妹をそいつ呼ばわりか」

 

「別に構いませんよ。私はアレ扱いですから」

 

「何があった」

 

「まあ色々です。ああ、ちなみに私との違いなんて簡単ですよ。まずは知識の量が圧倒的に違いますね。簡単な応急手当てだけですむ様な人にすら薬を使い、必要な時に何もすることが出来ない状況にはなりませんでしたし。

次に度胸ですね、どんな状況でも大変な状況でこそ冷静に動けないといけませんから度胸強くないといけません。

他にも私が見捨てたのは火事場泥棒の様な人たちか死刑囚です。これは偶々覚えていた分だけですが。

あとは回復魔法をちゃんと使えること位ですかね。

最後に一つだけ言わせてもらうなら、魔法なんて無くても私は70人を救うことが出来ました」

 

ああ、それとこれも言っておきましょう。

 

「ちなみにお父さんが得意な魔法は大戦中は雷系の攻撃魔法でしたが、それ以降は回復魔法ですよ。知ってますよね」

 

それを知らないことを私は知っていますけどね。

 

「ネギ、お前が目指している物とお前の力は矛盾していないか?そもそも本当に困っている人を助けたいと思っているのか」

 

そこで限界がきたのだろう。アレは何かを喚きながら何処かに走り去っていってしまいます。

 

「ウーノ、すみませんがアレを眠らせて外に出しておいて下さい」

 

傍で隠れていたウーノにアレの処分を任せることにします。

 

「よろしいのですか」

 

「構いませんよね?」

 

「ああ、一回頭を冷やさないと駄目だな。年単位で」

 

「そうするしかないな」

 

「というわけです。それから店に近づくようなら仕留めても構いません」

 

「かしこまりました」

 

ウーノが離れ、アレが別荘から出されるのを気配で確認してから今度は私の話を聞いてもらおうとします。

 

「二人に話しておきたいことがあります」

 

「僕も混ぜてもらいますよ」

 

いつの間にか零樹が部屋にやってきます。

正直言って助かります。一人でこの話をするのは不安でしたから。表面には出ていませんが震えが止まりそうにありません。それが分かっているのか零樹が手を握ってくれます。まだ辛いはずの身体を引きずってまで私の傍に居て守ってくれようとしている姿に少しだけ不安が消え去ります。

 

「ありがとうございます」

 

「言ってくれましたよね。傍に居て欲しいと。こんな時こそ傍にいないでどうするんですよ」

 

「そうでしたね」

 

忘れもしない初デートの日のあの言葉。

『傍に居て欲しい』

私が望むのはそれだけ。

何を不安になる必要があるのだろう。

零樹が傍に居てくれる。

それでいいじゃないですか。

今度こそ不安は全て消え去る。だから全てを話そう。

 

「私は、転生者です」

 

side out

 

 

 

 

 

side ナギ

 

 

「私は、転生者です」

 

その言葉から話は始まった。前世の話をされ、神の身勝手さを聞き、生まれてからの葛藤、全てを話し終え最後にこう言う。

 

「こんな私でも貴方達の娘でいられますか?」

 

答えなんて最初から決まっている。

 

「当たり前だろうがこの馬鹿者が」

 

あっ、アリカに台詞を取られた!?

 

「誰がなんと言おうとも私が産んだ娘だ。それでなくとも私達は家族だ。家族である以上お前は私の娘だ」

 

うん、全部取られたな。なんかハブられた感が半端無い。

肩に手を置かれたと思ったらいつの間にか零樹が傍に来ていた。

その顔からはドンマイと言っているようだった。

 

 

side out

 

とりあえずこれで、にじファンに投稿していた『迷子の果てに何を見る』を全て移すことが出来ました。

続いて、これの続編に当たる『高みを目指して』の転載作業を本格的に進めたいと思ったのですがリアルの方で少し忙しくなるので来週から取りかかろうと思います。

なお、『迷子の果てに何を見る』も幾らか纏めて話数を減らす作業にも取りかかろうと思います。そちらの方はいつから始めるかは未定ですが、いずれは行ないます。それまではこちらをよろしくお願いします。


 
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