第5話 部活動での馴染む方法
「で、ナニか言うコトはあるか?裏切り者のフユくんよ」
「純、スマン。俺が悪かった。だから裏切りとか言わんでやってや!」
時は放課後。
俺が軽音楽部新入部員となった、翌日のコトだった。
「『俺はバイトあっから部活動ムリなんだわ~』とかー」
「うっ……」
「『いらんお節介焼くつもりないよ~』とかー」
「うぐ……っ」
「ドコのダレが言ってたっけなぁ?」
「あーあーあー、もう自分でも不自然だし、中野さんのケツ追っかけたカタチになったってわかってるってばさ!」
俺と純は各々の部活に行くために部室棟への道を並んで歩いている。
そんで、何故か俺は純から軽音部に入部したコトをネチネチと糾弾されているワケだ。
「でもさー、フユ。実際なんで軽音部入ったの?アンタそんなやる気でもなかったでしょ、どうして?」
「んー、なんかひとりヘンな先輩がいてさ」
「ん、先輩?」
「そんで……よくわからんけど」
「けど?」
「た、楽しさ成分……」
「へ?なんだって?」
「い、いや。なんでもない……っ」
「あら、フユくん。いらっしゃい」
「ムギ先輩、ちいっす」
部室に入った俺を出迎えてくれたのはムギ先輩だった。
この人の名前は琴吹紬。学年が1年上の軽音部のキーボード担当の先輩だ。おっとり系美人って感じで、実際性格もかなりおっとりしている。まだ会ったばかりでわからないけど、この部で一番包容力があるんじゃないかな。
余談だが、先輩たちはみんな俺のコトをアダ名で呼んでくれる。この部は随分、先輩後輩間の距離が近いみたいで、俺も先輩たちのコトは馴れ馴れしくも砕けたカタチで呼んでいる。
「あれ、ムギ先輩ひとりスか?他の先輩方は一緒じゃ?」
「りっちゃんと唯ちゃんはお掃除当番なの。澪ちゃんはもうすぐ来ると思うわ」
「中野さんも同じ理由で遅れるっつってました」
ちなみに俺は昨日入部したワケだが、昨日は俺の歓迎会というコトで放課後はずっと先輩たちと中野さんとこの部室でお茶を飲みながら話をして終わった。その際わかったコトだが軽音部の先輩たちはすげークセが強い。ムギ先輩は比較的マトモだと思うのだが、この人もけっこう天然入ってたりして油断できない。平気で部室にティーセット持ち込むしな。変な部室だ。
「フユくん、紅茶でよかった?あ、コーヒーのほうがいい?」
「えっと、紅茶もらっていいですか?俺お子様舌なんでコーヒーをあんまり美味しく飲めないんですよ」
そんかしコーヒー牛乳とか大好きなんですけどっ、と笑いながら言う。まさに子供舌だ。
ムギ先輩はニコニコしながら俺のために紅茶を淹れてくれる。昨日飲んでマジでビビったが、ムギ先輩が淹れてくれる紅茶はすげぇ美味い。今まで飲んできたティーパックの紅茶はもう飲めないな。
「ブラックがどうもね、美味しく飲めないんですよ。ってそうだ、俺3つ下の妹いるんスけど、ソイツがアタマ沸いてんじゃねえかってぐらいブラックコーヒー飲みよるんですよ」
夏場の麦茶でもそんなに飲まねえだろってぐらいにカフェインを摂取する妹はもうナニ考えているのかわからん。
「フユくん、妹さんいるんだ。私一人っ子だから羨ましいな、姉妹兄弟がいたらどんなに素敵だろうってよく思うの」
「そんないいモンでもないですよー、ナッマイキだし」
4つ上の姉もいるのだが、妹以上のクセがある姉を紹介する気になれなかった。
「はい、どうぞ。冷めないうちね。お菓子もあるんだけどコレはみんなが来てからにしましょうか」
ティーカップを俺に渡してくるムギ先輩が、あからさまに高級な洋菓子の紙袋を見せてくる。家から余ったモノを持ってきていると言っていたが、ムギ先輩はどうやらマジでご令嬢らしい。居るとこには居るモンだなぁ。
「あのねっ。ちょ、ちょっと訊きたいコトあるんだけど」
「ハイハイ、なんでしょう?」
「フユくんってアルバイトしてるんだよね?わ、私アルバイトにすっっごく興味あるの!」
唐突に鼻息を荒くしてコチラににじり寄ってくるムギ先輩。
お嬢様の考えるコトはよくわからないけど、金銭目的ではなくバイトそのものに興味があるらしい。手段と目的が入れ替わっているが、バイトという庶民的な雰囲気がお嬢様のツボを刺激したのだろうか。
俺は駅前の喫茶店とバーを足して3で割ったような小さな店で働いている。ホール兼キッチンスタッフだが、脚が不自由なので混雑時は裏方に回るコトが多い。
ムギ先輩も1年前に1度だけバイトをしたコトがあるらしい。唯先輩の楽器代を稼ぐために部員全員で交通量調査の短期バイトをやったコトを楽しそうに話すムギ先輩。
しばらく2人でバイト談議で盛り上がっていると、部室にニギヤカな先輩2人がやって来た。
「おっすー、やっと掃除終わったぜぃ!」
勢いよくドアを開けて入ってきたのは田井中律先輩。ドラム担当にして軽音部の部長である。そのちっこい体のドコにそんなエネルギー詰まってんだよ、といった具合に激しく賑やかかつ豪快な先輩である。カチューシャで前髪を上げて快活そうなイメージを前面に押し出している。ちなみにれっきとしたオンナノコな。
「ムギちゃんムギちゃんっ、今日のお菓子ナニ~?」
律先輩に続いて部室に入ってきた人は唯先輩。
俺を軽音部に誘ってくれた先輩で、憂の姉ちゃんである。律先輩とはまた違ったベクトルで賑やかな人で、外見はよく似ているのに中身が憂と全くもって異なる仕様である。
24時間ずっと笑っていそうなイメージだなぁ。ちなみにギター担当。
「おおっ?なんだなんだぁ、フユお前ムギと二人っきりで変なコトしなかっただろうなぁ?」
「あー、俺さっきデートに誘ったら『顔がカブトムシみたいなヒトとは生理的にムリ』ってすっげえ冷めた眼で断られました……」
「ム、ムギ、お前なんてコトを……っ」
「私そんなコト言ってないっ!?」
なーんて、こんな茶番を打てるぐらいには律先輩とは仲良くなったつもりである。
本当に言わなくてもお分かりだろうが、ムギ先輩がそんなコト言っていたら俺は窓から身投げしている。
「ヘイ、フーちゃんっ!」
やたら上機嫌な唯先輩の声。ちなみにフーちゃんとは俺のコトである。
「フーちゃんっ?」
「はい?」
「フーちゃんフーちゃんっ!」
「はいはい?」
「えへへ、呼んでみただけ~」
「…………」
クスリでもキメてきたのだろうか……?
唯先輩の天然はムギ先輩をも凌ぐぜ。
そんなこんなで4人でお茶を飲んでいると、残りの2人がやって来た。
「遅れてすいませんっ」
中野梓。俺のクラスメイトで、友達で、ギタリストで、泣き虫で、可愛い。
ある意味、唯先輩とは別に俺が軽音部に入るきっかけをつくってくれた感謝すべきお方である。彼女の熱狂的なファンであるポッチャリくん曰く、中学校時代はけっこうモテていたそうな、ウラヤマシイ。
「おっす中野さんおつかれ。……あ、澪先輩も。お疲れ様でーす」
そして澪先輩が微妙な顔つきで入室してきた。
秋山澪。ベース担当で、物静かな性格、スタイル良しの超美人。俺が昨日でわかったコトはこれだけである。なぜなら―――
「そーいや澪先輩ってひとりだけみんなとクラス違うんでしたっけ?何してたんですか?」
「……ぁ、えっと……っ。ごめん、まぁ、ぃろぃろ……」
ドモるわ、声裏返るわ、視線泳ぎまくるわでマトモに会話できないのである。昨日も終始こんな感じで、あまり話を聞くコトができなかった。こんなキレーな人と話がしたいなんてのは当然だが、ソレ以前に同じ部の部員として上手くやっていきたいモンである。
「あ、あー喉乾いたなぁ!ムギっ、ミルクティー淹れてもらえるかな!?」
動揺を隠すように大声で話し出す澪先輩。
そして、頬を赤くして俺のコトを落ち着きなくチラチラと見ている。
…………。
誤解の無いようキッパリハッキリ言っておくが、澪先輩は俺に恋をしていてそれで緊張のあまりついそっけない態度をとってしまうのだ。とかじゃねぇから!
逆に俺のコトが嫌いであんな態度をとっているワケでもないハズ。……ない、ハズ。
「律先輩っ律先輩っ……。ちょっと」
「ん?どーしたフユ?」
俺たちは顔を寄せ合ってコソコソと秘密裏に話し出す。
「澪先輩が異性に全然耐性ないコトは重々承知しましたけど。ひょっとして昔オトコ関係でなんかトラウマとかあったんすか……?」
「お前がそう勘ぐるのもムリはないが、……澪は単っ純に男慣れしてないだけなんだ」
「最近の女子中学生だってもうちょい小マシな対応するでしょう!?」
「お前みたいに部活入ったばっかなのにもう部に馴染んでるような人見知りとは無縁なヤツにはわからんトコだよなぁ」
「ソレ部長にだけは言われたくねぇわ……」
「まぁ、でもクラスの男子とかにはもうちょっと普通なカンジでいるぞ、アイツは。少なくともあんなにテンパらないな」
「えー……。考えたくもないですけど、俺嫌われてる?」
「いや、そうじゃなくてさ。単純にコトが唐突だったし、部活でオトコと一緒になるなんてのはかなりイレギュラーなコトだからさ。アタシらだってそうだし」
「俺だって澪先輩と話すの緊張するんだけどなぁ」
「え?なんでよ?」
「だってあんなキレーな女の人と話すなんてメッチャ恥ずかしいじゃないですか!」
「……ほー」
「あ、律先輩もすげー綺麗な女性ですからね?」
「ばっ、馬鹿!とってつけたように言うなっ!」
「痛い痛いっ!?髪引っ張んなっ!」
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勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。
Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。
よかったらお付き合いください。
首を長くしてご感想等お待ちしております。