No.395520

IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・

ISさん

アドバイスを受けたので、区切りのいいところまでまとめて投稿します。また、各話はページ別に分けてあります。今後はこのスタイルで行く予定。以前の話も余裕が出来次第編集していきます。

第47話『天からの光』
第48話『天使と剣士、再臨』
第49話『ダブルオーの目覚め』

続きを表示

2012-03-21 01:26:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:17775   閲覧ユーザー数:16376

 

第47話『天からの光』

 

 

 

 

 拓神が再出現したアンノウンと戦闘開始した直後の司令部。

 

「玖蘭君、交戦開始しました」

「……む? 山田君。先の戦闘からずっと、玖蘭の場所がだんだんと移動していないか?」

「え? あっ、確かに……。交戦開始時からかなり沖のほうに移動しています。現在位置はここから直線距離で約三十キロ地点です」

「十キロも……。まさか……」

「……誘導されている。と?」

「その可能性もあるだろうな。もしかしたらさっき以上の大戦力に囲まれるやもしれん」

 

 そんなことになったら―――

 

「ええっ!? それだと、今の消耗した玖蘭君では!」

「確実に墜とされるだろうな」

 

 それでも増援は送れない。

 戦力うんぬんかんぬんの前に、間に合わないのだ。通常のISなら。

 到着したときには戦闘が終了している。

 

「だが今の私達には、見ているしかない」

「………………」

 

 沈黙の帳が、この大広間を満たした。

 

 

 投影されている大型ディスプレイ。

 そこには拓神が戦っている場所周辺のレーダーが表示されている。

 先まで使っていた監視衛星は、すでにこちらの制御を離れたために画像は見えない。

 

 ピピッ!

 

 そのレーダーに、突然赤い光点が表示される。

 その赤い光点が示すものは―――

 

「! ……織斑先生、福音の反応を確認しました。このまま進むと玖蘭君が戦闘をしている空域に介入してしまいます!」

「……最悪だ。恐らく介入した福音は玖蘭とそのアンノウンを、敵とみなして無差別に攻撃するだろうな。そして」

 

 福音と戦闘が勃発した場合、今の玖蘭に勝ち目は無い。

 

 

 千冬はそう言い切った。

 思い出すのは無人機襲撃事件の後で、拓神のところに行ったときのこと。

 

『ワンオフ・アビリティー『トランザム』です。機体の各部に圧縮・蓄積したエネルギーを開放することで性能を三倍に引き上げる機能ですよ』

 

 拓神がそう言っていた。さきほど動きが突然良くなったのはそれを使ったから、と千冬は推測する。

 しかしそれは―――

 

 ―――エネルギーを再蓄積するまでは使えない。さらに、使い終わった後はエネルギーがほとんど無くなる。

 ということの裏返し。

 

(今の拓神はその状態で戦闘を行っている。束はなにかあの機体が普通ではないと言っていたが……)

 

 どちらにせよ、今の拓神が福音相手に勝つことは不可能だ。

 

「織斑先生、玖蘭君が再度出現した一機のアンノウンを撃墜しました。しかし―――」

「そこに福音が迫っている、と」

「……はい、その通りです」

 

 それは―――チェックメイトではないか。

 極限状態とほぼ万全。どちらがどちらに勝つなど、目に見えている。

 

 案の定―――

 

「玖蘭君の反応、LOSTしました…………」

 

 

 そんな報告が、真耶から伝わった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 最後に福音からの攻撃を受けた俺は、海に落ちた。

 

 

 ―――はずだった。

 

 

 気がつくと、知らない空間。

 あの真っ白な空間でもなくて、頭上には球体。ここの四方を囲む壁は、その球体から伸びた太いコードが埋め尽くしている。

 

 

「これは―――ヴェーダ?」

 

 

 これは見覚えがあった。たしか、外宇宙航行型母艦『ソレスタルビーイング』内にあるヴェーダのターミナル。

 ダブルオーのアニメで何度も見た場所だ。太いコードよりこっち側に空中投影されているディスプレイがあって、そこには大量の情報が次々と流れている。

 

「ってか、何で俺はここに?」

 

 でも、ここに来る理由が思いつかない。

 海に落ちても俺が死ぬことは無くて、海底で目が覚めたと思う。

 

「そうだ……ティエリア? おい、ティエリア!」

 

 応答無し。

 ネックレスはあるんだけどな……

 

「居ないのか? ……『マイスターズ』展開」

 

 ……こちらも応答無し。

 本来ならティエリアの補助なしでISを展開することも、武装を展開することも可能なのにだ。

 

「どうなってる……。ティエリアは居ないしISは使えないって。……なら」

 

 神力を開放、これは出来た。

 目に神力を集めて、周囲を見渡す。……生体反応も気配も無い。

 

(範囲を拡大……)

 

 このターミナルの外まで見渡せるように拡大。

 しかし、ターミナルの外は黒一色で何も見えない。存在していない。

 

「これも無駄か……」

 

 

 

『革神者の反応を確認、プログラム起動』

 

 

 

 神力をの行使を止めようとした瞬間、ヴェーダに異変が起きた。

 一面のディスプレイは赤く染まり、途方も無い速度でスクロールしていく。

 

「なにが……」

 

 俺は神力の行使をやめずに、周りを見渡す。

 異変があったのはディスプレイとその色だけ。

 

「どうなってる?」

 

 

『ヴェーダが、君とその存在を感知したんだ』

「ティエリア!?」

 

 突然聞こえたティエリアの声はいつものネックレスからではなく、頭上のヴェーダから。

 その後、目の前にティエリアのホログラフィックが投影された。

 そしてそのティエリアが口を開く。

 

『始まるぞ……』

「なにがだ?」

第二形態移行(セカンド・シフト)だ。これには条件があった』

 

 条件? そんなこと、聞いてない。

 

『君の力を解放してから、神が後付けしたからな。そしてその条件は―――』

 

 

 ―――君がこの空間で神力を行使すること。

 

 

「は? じゃあ、この空間に来れなかったら二次移行できなかったのか……?」

『そうなる。ああ、忘れていたがこの空間は別の次元や特別な世界というわけではない、この世界に実在しているんだ。このヴェーダの判断で君がここに転送されるようになっていた』

「どうやって転送したのかはともかく、俺は精神だけとかじゃなくてここに居ると?」

『その通りだ。先ほど墜ちた海中に君は居ない。ヴェーダが君をここに転送したからな』

「なるほど。……どのくらいで第二形態移行は終わるんだ?」

『ヴェーダをなめてもらっては困るな、もうすぐ終わる。……ああ、言い忘れていた。この転移は神の力を借りたものだから、君がここを出た後二度目の転移で戻ってくることは出来ない』

「わかった。じゃあ、終わるまで待つか。ティエリアに質問してな」

『質問?』

「このヴェーダは『マイスターズ』とリンク……いや、お前とリンクしてるんだろ?」

『ああ、その通りだ。各機体を準備するときはヴェーダからその情報を引き出している』

「なら、操縦支援とかそんな形でいい。他の機体とリンクできないか?」

『プログラムを積めば操縦支援と処理能力上昇の恩恵は受けられる。それで、既存のISなら十五%の基本性能上昇が望めるな』

 

 よし、それならあれができる。

 

「そのプログラムの構築をしてくれ。国際IS委員会に渡して、世界に広めてもらう」

『そんなことをして、君に何のメリットが?』

「まずはバグに対抗する力を、既存のISに持たせる。最低でもノーマル第二世代型がバグジンクスくらいには勝てるようにな」

『だが、それはつまり敵対されるとこちらが不利になるぞ?』

「もう一つ、ヴェーダとISが繋がることでこっちだけが受けられる恩恵があるだろ?」

『……トライアルシステム』

「そう、今まではコアをわざわざハッキングして制御を奪わなきゃならなかった。でも、そのプログラムでヴェーダとのリンクを作れば……」

『一度に世界中のISを制御下に置くこともできる……』

 

 そういうことだ。

 本来ならトライアルシステムの範囲しか制御を奪えないが、ヴェーダに直接リンクしているティエリアの助力があれば、リンクしている機体全てを無制限に制御下に置くこともできる。

 それならば、いくら強いISに敵対されようと一瞬で優位性(アドバンテージ)を取れることになる。

 ……まぁ一度使えば種が割れる以上、最終手段には違いないんだけどな。

 

 

 

 話が終わったところでヴェーダの情報処理も終わり、ディスプレイも元に戻った。

 

 

『終わったな。…二次移行が終了した、元の座標に戻るぞ』

「ああ、頼む」

『了解……だが、最後に聞かせて欲しいことがある。これは僕自身の意思だ』

「なんだ?」

『君が『ガンダム』を、『マイスターズ』を駆る意味はなんだ?』

「駆る意味か。……理由ならあるな」

 

 

「お前は覚えてるだろ、ティエリア。無人機襲撃の時に言った。俺はコイツで……『ガンダム』で自分の周りの世界だけは少なくとも守る。絶対にな」

 

『そうか……ふっ、十分だな。―――行こう、その守るべき世界を壊させないために』

「もちろん。これからもよろしく頼むぞ、相棒」

 

 

 その言葉を最後に、俺はヴェーダのあるその場所から消えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ヴェーダのあった場所に居た俺が、気がつくと海底に仰向けで沈んでた。……どんな急展開だよ。

 

 

 ―――ともかく、今は現状確認をしなきゃならない。

 こちらに戻るときにとりあえず再展開されたであろうエクシアは、それまでの戦闘の傷を残したままだった。

 まず、左腕の装甲は肩から指先まで何もない。これは自分でやったけどな。

 次に右肩と頭の間は黒く焦げ付いて、そこにあるグラビカルアンテナも半ばから消え去ってる。これはGNフラッグにやられた。

 さらに……というか最後。福音のエネルギー弾を浴びたせいで、機体の各部は抉れてボコボコ。頭部は被弾してないのと、かろうじて素肌が見えてないのが救いだ。

 

「なんていうエクシアリペア状態だよ。……ティエリア、居るだろうな?」

『もちろんだ。君の身を案じていたが……ふざけられるなら問題あるまい』

「ふざけてはないが、問題は無いぜ。とりあえず、俺が墜とされてからどのくらい経った?」

『約三時間といったところだ。現在、この海上で福音と専用機持ち五人による福音への攻撃が行われている』

「そんなにね……。このままの機体状況で動けるか?」

『損傷でスペックが落ちてはいるが、いける。ただ、GNソードが……」

 

 ふと右手に目をやると、ほとんど全壊状態のGNソード。

 あの時――福音のエネルギー弾を受けた時、とっさに壁にしたからなぁ……。

 

「こりゃまた……ご苦労さん」

 

 左手で触れて、言葉を掛けた後で粒子に返還して収納した。

 

 

 ズガアアァァァン!!!

 

 

 突然響いた、海中にまで聞こえる轟音と、それに付随する衝撃。

 そして―――ここまで届く海面からの光の柱。

 

『海上より高エネルギー反応。正体を―――『銀の福音』の第二形態移行と断定した』

 

 音と衝撃が消えても残留している、天からの光の柱。俺に、昇って来いとでも?

 

「上等だ、行くぞ!」

 

 

 俺は半壊したエクシアのまま、その天からの光を垂直に上昇していった―――

 

 

 

 

第48話『天使と剣士、再臨』

 

 

 今は、機体変更する数秒が惜しい。

 ティエリアに変更の準備は任せたが、ボロボロのエクシアのまま海上を目指す。

 ここがかなり深いところだったのと、水圧も影響で思うようなスピードは出ない。ただでさえスペックは半分程度しか発揮できてないし……。

 まあ、このエクシアで海上に出たところでまともに戦闘なんか出来ない。

 今持ってる武装は、右手首に内蔵されたGNバルカンと海底に落ちてたのを拾ったビームサーベルだけ。

 しかも左手では使えない。装甲がない以上、ビームサーベルにGN粒子を供給する方法が無いからだ。

 

『……海上まで、あと五〇メートル。それと悪い報告だ。形態移行の影響で、機体の変更にあと三分は掛かってしまう。このままで持ちこたえてくれ』

「そういうのを無茶振りって言うんだろ。……ま、できる―――いや、やるさ」

 

 直後、俺は盛大な水飛沫を上げながら、海面から上空に飛翔した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 専用機持ちの独断行動。

 動ける専用機持ちの五人は、居てもたってもいられずに『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の撃墜に向かった。

 ……そのせいで、索敵を続けていた教師陣は多少混乱したのだが。

 

「まったく、あの馬鹿者どもは……」

「あはは……。現在、福音と専用機持ち勢の戦闘は継続中。あと少しで監視衛星の再申請が通るかと」

「それは任せたぞ、山田君」

「はい」

 

 この大広間のふすま。その外で自室待機の命令が出ていたにもかかわらず、ドタバタとした足音がしたのが千冬の耳に入った。

 ふすまがノックされ、返事も待たずに開かれる。

 居たのは数人の女子生徒。その顔は焦りに染まっていた。

 

「お、織斑先生!」

「何だ! 今は作戦行動中だぞ! 自室待機の命令が出ていたはずだ!」

 

「そ、それが……!」

「織斑君が……!」

「居ないんですよぉ……!」

 

「何っ?」

 

 一夏は福音に撃墜され重症。

 これが千冬の持っていた情報だ。一度見ただけだが、少なくとも、動けるような傷ではなかった。

 

 それが……居なくなった?

 

 千冬は内心焦ってセンサー類に目を向ける。

 それで千冬が白式を見つけるより早く、真耶から声が飛んだ。

 

「織斑先生、白式の反応を確認しました! 一直線に福音との戦闘空域に向かってます!」

「どうなっている! 織斑は重症ではなかったのか!」

「そ、そのはずなんですけど……」

 

(生体再生でもしたというのか……?)

 

 これを考えたとき、千冬の中にあった考えの一つにスポットが当たる。

 

 もしも―――白式に使われているコアが白騎士のものだったら?

 あれには、千冬には原理はわからないものの生体を再生する能力もあった。それならば、一夏があの状態から出撃できたのにも頷ける。

 

 

「……報告ご苦労、お前たちもこれまで通り自室待機だ。早く帰れ!」

「「「は、はい!」」」

 

 ドタドタ……と来たときとは逆に、足音が遠ざかっていった。

 

「衛星の使用許可はまだか?」

「い、今取れました。すぐリンクさせます!」

 

 真耶がキーボードに指を走らせると、大型ディスプレイに交戦空域の映像が表示された。

 即席のコンビネーションでも志が同じおかげか、専用機持ち五人の動きは良い。

 

 そのうちに鈴音が捨て身で接近し、福音の特殊なウィングスラスターの片方を奪った。代償として、鈴音はカウンターの蹴りを食らって海に墜ちる。

 続いて箒が二刀で福音に肉薄する。性能任せの急加速で、不意を突き刀は福音の右肩装甲に食い込む。しかし、福音は自らの手のひらの装甲が焼けるのもいとわずにその二刀を掴み左右に広げた。

 両腕を開いた状態になった箒。その無防備な胴に砲口が向けられた。それが発射される寸前、箒を乗せた紅椿は前宙をするように一回転。その途中、踵落としの要領でつま先から発生させたエネルギー刃を使って残ったほうの翼も切り落とした。

 両翼を失った福音は海に沈む。

 

「お、終わったんですか……?」

「いや……まだだ。まだ終わってない……」

「え?」

 

 カッ! と上空からの映像に光点が出来たと思うと、それは急激に大きくなり海面を抉る。

 それは光の珠だった。そしてその中心に居るのは……

 

「福音を中心に強大なエネルギー反応が……。一体何が起きて……」

「『第二形態移行(セカンド・シフト)』……」

「ええっ!?」

 

 空に舞い戻った福音は、切り落とされた翼の付け根からエネルギーの翼を展開した。

 ただでさえ高スペックだった機体が移行でさらに強化され、ラウラ、シャルロット、セシリア、箒の順番で戦闘不能にされていく。

 

「織斑の出番は無いと思ったが……。今あれに勝つには織斑か―――」

「玖蘭君、ですか」

「ああ。……その希望は薄いのだがな」

 

 ボロボロの状態に加え、福音の追撃まで受けた拓神だ。

 

(もし生きていたとしても、今すぐ戻ってくることは……)

 

「でも、その薄い希望は叶ったみたいですよ」

「なに?」

「現在福音と交戦している場所、その真下の海中に玖蘭君の反応を確認しました。現在、海上に向けて上昇中です」

「はぁ、まったくうちの男子どもは……」

 

 千冬は額に手を当てて、ため息をつく。

 

 

「ピンチに駆けつけてヒーローにでもなるつもりか?」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「再戦と行くか!」

 

 

 海上に飛び出した瞬間、一夏の声が聞こえた。

 ―――そういえば、戻ってくるタイミングだったな。と思いつつ俺も口を開く。

 

「なら、俺も混ぜてくれよ!」

 

 右手に逆手で握ったビームサーベルの刀身を展開、不意打ちで福音に斬撃を仕掛けた。

 まあ、それは福音の装甲を掠めるだけで回避される。

 

「拓神!? お前、なんでそんなボロボロなんだ!?」

 

「アンノウンと戦闘した後でへばってるとこにコイツが来たんだよ。それで、墜とされた」

 

 だからさ―――

 

「リベンジだ、福音」

 

 俺は一夏の隣に移動して、福音を見据えた。

 

「いや、お前は下がってろよ拓神。そんな機体じゃ……」

「ヤダね。―――でもって、福音ははやる気満々みたいだ」

 

 バッ! と福音が広げたエネルギーの翼から、俺と一夏に向けてエネルギー弾が掃射される。

 

「ハッ! ばら撒けば勝てると思ってるのか?」

 

 自身に迫る最低限のエネルギー弾だけを手首のGNバルカンで迎撃する。

 通常のエネルギー弾なら何発も命中させないと迎撃できないだろうが、こればかりは福音の特殊なエネルギー弾がこっちの利になる。

 着弾点で爆散するそれは、少しの衝撃で爆散させられる。つまり、GNバルカン程度の火器でも迎撃が出来た。

 最低限を迎撃して残りは回避する。当たらなければどうということは無い!

 後少しだ。あと少しで俺は万全になれる。

 それまでは頼むぜ、エクシア。

 一夏を見ると、左手の新装備『雪羅(せつら)』をシールドモードからクローモードにして福音に肉薄していた。

 瞬時加速で接近した一夏はそのクローの先端からエネルギー刃を出して、福音に一撃を当てた。

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

 

 またエネルギーの翼を大きく広げ、さらに胴体からも生えるエネルギーの翼も伸ばす。

 そして、エネルギー弾の掃射が始まった。

 

「何度も食らうかよ!」

 

 一夏はそう叫んで、雪羅をシールドモードに。それから零落白夜のシールドを発生させる。

 エネルギー弾は、一夏を覆うそれに触れたとたん消滅して爆発も起こらない。

 

 俺はさっきと同じように最低限をGNバルカンで迎撃、残りを回避している。

 

『状況変化。最大攻撃力を使用する』

 

 福音はそう告げると、エネルギー翼を自身の身体に巻きつけて繭のようになった。

 ちっ、厄介な攻撃を……!

 翼を回転させながら開き、全方位に大量のエネルギー弾をばら撒く。

 そう、全方位に。

 つまり福音に墜とされて、今戦闘参加していない五人のところにもということ。

 

「くそっ!」

 

 案の定、一夏はそれを行かせまいとそいつらの前に出ようとした。

 俺はそれを止める。

 

「一夏、お前は攻撃に集中してろ! 防御に回るのは俺で良い!」

 

 とりあえず、GNバルカンのビームを小島のようなところ……ん?

 あれって俺がGNハイメガランチャーで押し付けられた島じゃ? クレーターっぽいの出来てるし。たぶんあれで数百メートルは沖に押されたな俺。

 ……まあ、今はどうでも良いか。

 

 その小島に居る五人への射線に入るエネルギー弾を、バルカンで迎撃していく。

 自分のほうは無視だ。なんてったって―――

 

『全領域クリアー、システムオールグリーン……拓神、終わったぞ』

 

「ナイスタイミングだ。モード変更『ダブルオーガンダム』!」

 

 

 ―――もう三分は経った!

 

 

 

 

第49話『ダブルオーの目覚め』

 

 

 

 

『モード変更、GN-0000『ダブルオーガンダム』』

 

 

 エクシアと同じトリコロールの装甲。

 両腰には長剣――GNソードⅡ――が二本、腰の後ろにはビームサーベルの発振器。

 一番の特徴は、背のバックパックから伸びるアームに保持される二基のGNドライヴ。

 そしてそれが実現するツインドライヴシステム。

 ツインドライヴシステムは、粒子生産量を二倍ではなく二の二乗する。

 

 その圧倒的粒子生産量により既存のガンダムを超えたガンダム。ガンダムを駆逐するガンダム。

 

 ――それが、ダブルオーガンダム。

 

 俺は機体をエクシアからダブルオーに変更した直後トランザムを起動、さらに両肩のコーンスラスターに覆われたGNドライヴを前方に向けて大量の粒子を放出する。

 それだけで、こちらに押し寄せていた福音のエネルギー弾は消失した。

 

「これがダブルオー……」

 

 同調しきっていない二基のGNドライヴでのトランザムはリスクが大きい。

 すぐに解除して両腰のGNソードⅡを手に取った。

 

「一夏」

「なんだよ、今から本気か?」

「まあ、そうだな。……一つ言っとく。お前に出番はやれそうに無いから」

「へ?」

 

 一夏が理解できてないうちに……いかせてもらう。

 前方に向けたままだったGNドライヴを後ろに回して、福音に向けて急加速。

 

「コイツは……瞬時加速(イグニッション・ブースト)以上だな」

 

 一瞬で福音に急接近。

 両手のGNソードⅡを振りぬいて、福音の頭部から生える一番大きなエネルギー翼を両方とも断ち切った。

 主翼を失った福音は落下を始める。

 

「まだ終わらないよな、福音?」

 

 その通りで、落下の途中で再度エネルギー翼が生えて姿勢を立て直し、エネルギー弾の嵐を見舞ってくれた。

 

「残念ながら無駄なんだよ!」

 

 もう一度両肩のGNドライヴを前に。

 今度は前方に粒子を集めてGNフィールドを形成、エネルギー弾を全て防御。

 

 ある程度続いたエネルギー弾のの衝撃が収まる。

 GNフィールドに衝突したエネルギー弾が撒き散らす爆煙。それを裂きながら、俺は福音に再接近した。

 

「悪ぃが、ここから先は俺のターンだ!」

 

 右手のGNソードⅡを振り下ろす。

 それを福音は腕で受け止めた。俺は止められた瞬間に福音を蹴り飛ばす。

 そして蹴りで体勢を崩した福音に追撃を仕掛けた。

 

「だから……さっさと、墜ちろ!」

 

 左手のGNソードⅡで右から左に横薙ぎ。

 それを福音がバックステップでかわしたのを確認した俺は、右のGNソードⅡの切っ先を向けて福音に突っ込む。

 その突きを、福音は左手の平で受けて無理やりに止めた。たぶん装甲は貫いて、中の操縦者を守るために絶対防御が発動したはず。

 福音もただやられる馬鹿じゃない。この至近距離でもエネルギー弾を俺に向けて集中させて飛ばしてきた。

 俺はそれを両肩のGNドライヴの向きを変えて、高い機動性でその場から回避。

 福音の横合いに回りこんだ俺は右手のGNソードⅡで福音を切り払い、吹き飛ばす。

 

 

「拓神!」

 

 そこで一夏から呼ばれた。

 

「俺達も参加させてくれよ」

 

 視界に入れた白式の後ろには、黄金の粒子を放つ紅椿。

 ―――紅椿のワンオフ・アビリティー『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』を発動させて、白式にエネルギー供給したのか。

 

「俺たちもコイツには借りがあるからな」

「ふっ。好きにしろよ」

 

 

「でもさ……ぼうっとしてると、何も出来ずに終わるぞ。二人とも」

 

 両手のGNソードⅡをライフルモードに。

 手持ちの火器としては標準的なサイズだが、ツインドライヴの高出力のおかげでその威力は大型砲にも匹敵する。

 それを福音に向けて撃った。

 だが、福音は流石の機動性でそれを回避している。

 俺は撃ちながら接近していく。

 福音もエネルギー弾を撃ちだしてくるが、俺も全てを回避する。

 福音との距離が縮まったところでソードモードに切り替え、スラスターを最大出力に。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)以上の加速力で福音に近づき、GNソードⅡを振るう。

 

 福音はかろうじての回避を続けるが、限界があり装甲に損傷が目立ち始めた。

 これ以上は限界と判断したのか福音が後ろに向けて大きく加速、俺との距離を離す。

 

 だが、その福音に近づく白と赤。

 

「行くぜ!」

 

 瞬時加速で接近した一夏が、雪片弐型を両手で持ちで横に薙ぐ。

 福音はバク宙の要領でそれを避け、エネルギーの翼を一夏に向けた。

 

 ―――一夏たちの狙い通り。

 

「箒!」

「任せろ!」

 

 一夏の掛け声に応じて、同時に接近していた箒がその二刀でエネルギー翼を切り落とす。

 

「逃がすかぁぁぁっ!」

 

 さらに脚部展開装甲を展開し、そこでのブーストを掛けた蹴りが福音に直撃する。

 その攻撃で体勢を崩した福音を、一夏が返す刀で右脇から左肩にかけて斬撃を加えた。

 福音は最後の抵抗とばかりに残ったエネルギーの羽を全て一夏向けて飛ばす。

 そしてその羽と一夏との間に、俺が割り込む。

 GNドライヴを再度前方に向けてGNフィールドを展開。

 

「無茶はするものじゃないぜ?」

「悪い」

「気にするな。……でも、代わりに見せ場はもらったぜ?」

 

 急加速で福音に肉薄し、左のGNソードⅡで左脇から右肩にかけて斬撃。一夏のつけた太刀傷と重ねてX字になる。

 そしてその交差点に、右のGNソードⅡで突きを入れた。装甲に先端が突き刺さる。

 

「――もう、暴走は終わりだ」

 

 そう言って、突き刺したGNソードⅡを鍵のようにまわす。

 

 ――バキンッ!

 

 突き刺した部分から装甲に罅が入り、それは俺や一夏がつけた傷に広がっていく。

 

『―――ア……リ、ガトウ…』

 

「っ――!?」

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 直後『銀の福音』の装甲は、量子に変換されて消える。

 

 俺は、ISスーツだけになった福音の搭乗者を抱きかかえた。

 

 そしてつぶやく。

 

「―――ようやく終わった…」

 

 本当にようやくだ。

 俺がアンノウン……バグとの交戦を開始してから数えると、もう四時間は過ぎた。

 

 ―――かなり激動の四時間だった気もするけどな。

 

 まず一対十――合計の数だと十三――で戦って、その後出てきたGNフラッグに左腕切り落とされて、かろうじて勝ったと思ったら福音に撃墜されて、気がついたらヴェーダのある場所に居て、そして帰ってきて、第二形態移行《セカンド・シフト》して……そして今、福音を倒した。

 

 本当に激動だった……。

 

「終わったな」

「ああ、やっと……な」

 

 一夏と箒は肩を並べて空に。

 その空にもう蒼は無くて、夕闇のあかね色。それに眼前に広がる世界は包まれていた。

 

 

 

 

第50話『作戦終了』

 

 

 

 

「作戦終了―――と言いたいところだが、お前達は独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるからそのつもりでいろ」

 

 砂浜にて、疲れ果てた俺達を仁王立ちで待っていた織斑先生から浴びせられたのは、冷たい一言だった。

 

 そして今、一夏達は織斑先生から説教を食らっている。

 俺は免除らしい。というか、織斑先生が『死ぬな。必ず生きて帰って来い。……これは命令だ。達成できれば、お前への懲罰は無しにしてやる』って言ってたし。

 というわけで福音の操縦者―――アメリカ国家代表『ナターシャ・ファイルス』―――を医務室扱いの部屋に預けてから、俺は部屋に戻った。

 

 ―――で、どうして織斑先生以外から説教受けなきゃならない?

 部屋に戻って一休みした後、俺は楯無に通信した。

 内容は今回の報告。流石に腕切り落とされたとか生々しいことは報告しないが、その他のことは全部報告。

 

 結果――楯無から通信越しに説教されてます、と。

 

『聞いてるの?』

「あ、ああ、聞いてる」

『まったくもう、いくら死なないからって無茶しすぎでしょ? 他の専用機持ちに手伝ってもらえばよかったのに』

「それは織斑先生から提案されたけど…正直、あいつらがバグに勝てると思うか?」

『……絶対に無理、とは思わないけどきつそうよね』

「しかも一夏が撃墜されてそっちに気が向いてたからな。それに……楯無以外は要らない」

『あら、嬉しいこと言ってくれるわね。……でも話は逸れないわよ? ……まあ、最後だけれど。別にいいのよ、無茶しても。でもね、あなたが傷つくと心配する人がいるのは覚えておいて』

「……ああ、了解」

 

 今度から心の中心にでも留めておこう。

 

 

 

 

『で、"あなた"が広めようとしてる……』

「ちょっと待て。今の"あなた"おかしくなかったか?」

『……何のことかしら?』

 

 ごまかすのか……。明らかに夫婦とかの『あなた』だったよな!?

 

「……まあ、今のは気にしないから続きを」

『むー、つまんないなぁ。ま、いっか。……あの『操縦支援プログラム』? ってどう支援するの?』

「なにがいいのかは置いとくぞ? ほら、機体のポテンシャルをうまく生かせてる操縦者って国家代表くらいだろ。……たとえばセシリア、あのBT兵器は偏向射撃で真価を発揮するのに使えてない。とまあ、こんな感じだろ? さすがにその問題は操縦者任せだから、プログラムは少しくらいしか補助できないけどな。普通のIS学園生徒だと訓練機でも満足には使えない。……ああ、一年な? けどそのプログラムは、操縦者に合わせて総合性能をできる限り引き上げる」

『でも、機体自体がそこまでするポテンシャルはもう無いわよ? プログラムの搭載は出来ても、機体がそれを処理できないんじゃ意味が無いんじゃないの?』

「そこで出てくるのが『ヴェーダ』。ヴェーダとリンクさせて外部《ヴェーダ》で情報を処理すれば、その機体自体のポテンシャルには頼らないようにできる。ただ処理し終わった情報に対処するだけだからな。その程度なら第二世代機だろうと問題は無いさ」

『『ヴェーダ』ねぇ……。量子演算処理システムってまだ実用化されてないのよ? あな―――拓神の話を聞いてるとヴェーダは完全に完成してるようね』

 

 また"あなた"って言いかけたな……

 

「もちろん。でもプログラムには一つだけ欠点があるんだよな」

 

『?』

 

「楯無みたいにこれまでの機体でほとんど完璧に機体を扱える奴は、このプログラム使用時との感覚のズレを慣らさないといけないんだよ。まあ、数時間で済むだろうけど」

『なによ、そんなに欠点でも無いじゃない。国家代表レベルなら、少しのズレがあっても問題ないわ』

「へえ、そうなのか。なら大丈夫だな。とりあえずプログラムを転送しようか?」

 

 ちなみにプログラムは俺があの空間に居る間には出来上がってたりする。……ヴェーダパネェ。人がやったら何日掛かるんだよ。

 

『そうね、お願いするわ。一応こっち(ロシア)の人に見てもらわないと、『ミステリアス・レイディ』には搭載できないから』

「ああ、そういえばISって国家のものだったっけ。第三者が無断で改造とかは施せないんだったな」

『ええ、だから使えるのかどうか聞いてみるの』

「オーライ、転送する」

 

 ――ティエリア、楯無に構築したプログラムデータを転送。

 ――了解……転送率…三〇…五〇…八〇…一〇〇パーセント、転送完了。

 

「転送したけど、どうだ?」

『来た来た。ありがとね』

「一応、どういたしまして」

『じゃあ、私はこれ見せてくるから通信切るわよ?』

「わかった。一応それはお前と見せる人だけで秘匿しとけよ? そのうちにIS委員会に渡すからそのときまでは」

『りょーかい。じゃね☆』

 

 ピッ―――

 と、開いていたプライベート・チャンネルの回線が閉じた。

 

 ―――あ、そういえば。

 確か白式と紅椿ってどこにも所属してなかったよな? ……あえて言うなら篠ノ乃束所属?

 ふむふむ、プログラムの実践に使えそうだ。

 まあ、学校に戻ってから提案してみるか。

 

「……暇になった」

 

 さてどうするか。

 楯無との話は終わったし、あのメンバーは説教食らってるだろうし。

 ―――あ、そうだ。第二次移行で『マイスターズ』は機体の数以外に何か変化あったのか?

 

「ティエリア」

『む? なんだ?』

「『マイスターズ』、第二次形態移行(セカンド・シフト)で機体以外に何か変化はあったか?」

『ああ、そうだ。それに関して報告しなければいけないことがあった』

「?」

『『ダブルオーガンダム』並びにその系列機。……まあ、ツインドライヴ搭載型のことだ。この『マイスターズ』に積まれているGNドライヴは一基……だったんだがツインドライヴが使えるようになって二基に増えた』

「マジで? それは……他の機体にもツインドライヴの高出力が流用できる?」

『それは無理らしい。増えた片方はツインドライヴのときだけ開放されるみたいだ』

「なんだそりゃ」

『まあ、他の機体ではツインドライヴの高出力に耐えられずに損壊する可能性もある』

「ダブルオーとリボーンズ限定ねぇ……。ま、ツインドライヴでなくても『ガンダム』は強いから、大丈夫だろ」

『まあ、その通りだ』

 

 ふと壁に掛けてある時計を見上げると、説教が始まってから三十分くらい経っていたのでティエリアとの話を切り上げる。

 そして部屋から外に出た。

 

 

 

 

第51話『星光の空』

 

 

 

 自分の部屋を出て旅館をうろうろ散歩していると、一夏と鉢合わせになった。

 

 ……ん? 一夏の様子がおかしい。

 まあ、某ポケットなモンスターみたいに進化するわけではなさそうだけども。

 てかあれ、こっちの世界にもあったし。タイトルは変わってたけど、内容はまんまっぽかった。

 

 ―――思考が変なほうに飛んだな。……まあ、直接本人に聞けばいいだろ。

 

「おい、一夏?」

「あ、拓神か」

「どうかしたか? なんだか浮かない顔してるけど」

「そ、そうか?」

 

 ……やっぱり何かが不自然だな。

 

「なんかあるなら話せよ。……聞くだけはしてやるから」

「ああ―――って、聞くだけ!?」

 

 このツッコミ、これでこそ一夏だ。

 

「ま、答えられることなら答えてやんよ」

「ああ。ありがとな」

 

 ―――さて、そろそろ落とすか。

 

「誰もお前の心配なんかしてないんだよ。お前がそんな感じだと―――」

 

 

「―――俺に面倒が回ってくるかもしれないからな」

 

 これは建前じゃないかって?

 んにゃ、本心だぜ?

 

「結局自分のため!?」

「当たり前だろ。結局な、人は自分が一番なんだよ」

「やっぱりコイツヒデェ!」

 

 いまさらだな。そんなことは今更だぜ?

 

「で、なに考えてたんだ?」

「……結局聞くんだな」

「当たり前だ。何のために話しかけたと思ってるんだよ」

 

 気にならなかったら、放っておいたさ。

 

「いや、な。……今回の戦い、俺は―――守れたのかって」

「ふぅん。……ま、俺は聞くだけだからな」

「やっぱり答えてくれないのかよ!」

「もちろんだ」

「自信満々で答えられることじゃねぇからな!」

 

 ツッコミはスルーの方向で。

 

「ただ―――お前が守りたかったもの、それは残ってるか?」

「―――え?」

 

 

「なにを守りたかったのかは聞かない。けど、それは残ってるか? 今、お前の近くに残ってるのか?」

 

 

「俺が言うのはそれだけ。後は自分で、な」

 

 なんか、柄にも無いこと言った気がするぜい。

 とりあえず、散歩再開するか。

 俺は、一夏を残してその場を後にした。

 

 

 ◆

 

 

 時間は流れて、日は完全に落ちた夜。

 夕食も終わり、今日の夜空には天の川が綺麗に流れてる。満面の星空だ。

 

 ザッ、ザッ、ザッ……

 ザァン、ザァン……

 

 そんな時間に、俺は砂浜に居た。

 今の俺に聞こえるのは自分の足音と、波が打ち寄せる音。それに動物や虫の鳴き声。

 

「ふぅ…………」

 

 ドサッ、と砂浜に腰を下ろす。

 

「おぉ……」

 

 そしてその場で寝転ぶ。

 眼前には、一面の星空。ちょうど真上には天の川が。

 俺はつい感嘆の声を漏らした。

 

「……来て正解、だな」

 

 こうやってると、世界に自分ひとりだけのようで―――

 

「いや、楯無(アイツ)も居ればいいな……俺の隣に」

 

 なんて考えてる俺は、いまさらながら独占欲はかなりのものみたいだ。

 自分で考えてて苦笑する。

 アイツは、楯無は俺の中で一番の特別。

 恋人だからって理由もあるけど、一番は……俺を認めてくれたから。

 しかも、俺と同じ時間を歩いてくれるとまで言ってきた。

 たまに弄られるのがアレだけど……別に嫌じゃない。むしろやり返すし。

 

 とにかく俺は―――玖蘭拓神という存在は絶対に、何を掛けてでも、どんなことをしてでも、これからずっとアイツを守るって決めた。

 だから、さ。

 

「わがままかもしれないけど―――ずっと見守っててくれよ、父さん。母さん」

 

 七夕だしな。短冊は無いけど、届いてくれるだろ。俺のお願い事。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「―――ん……」

 

 

 すぅっと意識が浮上する。

 目を開けてあたりを見回すと、そこは海岸。真上には夜の空。

 

「……はぁ、起きたか馬鹿者」

 

 後ろから聞こえた威圧感たっぷりの声に、とっさに振り向く。

 

「まったく、さっきアイツらに指導して旅館に戻ってみればお前が居ないとはな。一体なにをしてるんだ?」

 

 どうやら、俺はあの寝転んだまま寝てしまったらしい。

 半神のこの体が風邪をひいたりすることはほとんど無いけれど、それでも少し寒いと感じた。

 

「いやぁ、ちょっと海岸に出てきて、それでそのまま寝ちゃったみたいです。あははは……」

 

 自分でも笑うしか出来ないぞ、この状況。

 

「はぁ、まあいい。説教の代わりに聞きたいことがあるんでな」

「はい……?」

 

「玖蘭、お前あのアンノウンのことを知っていたな?」

 

『知っているか?』じゃなくて『知っていたな?』。まあ、俺があんなことすれば誰でもその関係には気づくだろうけど。

 

「ええ、まあ。といっても、情報は少ないんですけど」

「やはり、か。……あれはなんだ? 少なくともISでは無い」

「アレには、絶対防御もシールドバリアーもありませんから」

 

 バグは、MSをそのまま人間サイズにしただけのような感じだ。

 

「では、あれはなんなんだ?」

「俺はバグって呼んでます。世界のバグ……この世界の異常ですよ」

「ではなぜ今まで見つからなかった? あれほどの存在、見つからないわけが無い」

「さあ? でも、発見した俺からすれば殲滅対象ですけどね」

 

 原因が俺だなんて言えないし。

 

「気にしないでいいです。バグはこっちの敵ですから、対処はこっちがします」

「いや、次は専用機持ちにも対処に当たらせる。お前一人では複数方向からの侵攻には対処できん」

「……誰も一人なんて言ってないです、楯無も知ってますし。でももし専用機持ちのメンツを出すなら、一対一だと危ないですよ。それにバグはだんだん強くなってるみたいですし、ISを取り込むとかわけのわからないことまでしますから。その実例が……あの無人機です」

 

 それに人が乗ってないぶん痛みとかで動きが鈍ることは無いし、エネルギーはどこから持ってきてるのかしらないけどかなりあったし。

 

「……生徒をむやみに危険の前にさらすわけにもいかないが、手段があるなら対抗するしかないだろう。他に留意する点は?」

「たぶん実弾兵器は効果が薄いです。まあ、デュノアのパイルバンカーとかは別ですけど」

 

 他のこともダブルオーの原作通りに見ていいと思う。

 GN粒子は放出してなかったけど、その分装甲表面に何かしらの防御のためのものがあると見ていい。

 とりあえず、俺のGN系武装は通用した。

 

「それだと、現行のISの大多数は実弾兵器が主武装だ。対抗できないぞ」

「だから厄介なんですよ。たぶんあの専用機持ちの中でまともに戦えるのは一夏の『零落白夜』、オルコットのBT兵器と篠ノ乃の展開装甲のレーザーだけ――ああ、そういえば一夏は荷電粒子砲を使えるようになってましたからそれも」

「そうなると最低でも二人一組(ツーマンセル)か」

「そうなりますね」

 

 この三人に、他の三人を一人づつ付けてサポートに回らせる。

 俺的には一夏とラウラ、セシリアと鈴、箒とシャルロットがいいとは思ってるが……。もしもなら、いっそのこと六人を一つのチームでまとめてもいい。

 

「他には?」

「もう無いです。それに、少しすればその戦いも楽になりますから」

「それはどういうことだ?」

「織斑先生でも、まだ教えられません。でも、そのうちわかります」

「そうか……。ふぅ、話が長くなったな。そら、部屋にもどれ。もっとも、時間はほとんど無いがな」

 

「え?」

 

 空を見上げる。

 まだ太陽は出ていなかったが、空は白みがかっていて、朝の訪れを感じさせていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「結局寝なかった……」

 

 この体、寝なくても全くといっていいほど問題は無いが……眠いものは眠い。

 朝からのISの撤収作業は、午前十時頃には終了。

 それぞれが自分のクラスのバスに乗り込み出発準備終了。

 ……ねみぃ。

 

 ―――よし寝よう。

 

 一夏がまた何かやらかしてたのと、目を閉じる寸前に見慣れない金髪が視界の隅に写ったが、俺は気にしないことにした。

 

 

 
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