No.395426

仮面ライダーディージェント

水音ラルさん

第40話:Uの正体/一つの身体に、二つの人格

2012-03-20 23:12:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:351   閲覧ユーザー数:351

時間をほんの少し遡り、ヴァンがエターナルを倒す少し前の時間帯……

 

風都タワー大展望台広場では、「ダッシュ」を発動させて高速移動を可能としたディージェントと、それを上回る速度で連撃を放つナスカドーパントの超スピードでの戦闘が繰り広げられていた。

 

完全に蚊帳の外に放り出されたアノマロカリスドーパントは、最早ここに居ても何の役にも立たないので既にナスカドーパントの指示で撤退している。

 

『アハハハハハ!私のスピードにここまで付いてこれるとは感服いたしますよ、別の世界の仮面ライダー殿!』

(おかしい…いくらなんでも速過ぎる)

 

しかし今問題なのは、このナスカドーパントの異常なまでのスピードだ。

明らかにこのスピードはクロックアップと同等かそれ以上のスピードを誇っているのだ。

この程度なら本来だったら「ダッシュ」の効果と、前の世界で強化された空間把握能力で何とか凌げるのだが、神童がガイアメモリ、もしくは井上運河本人にジャミングを施している為に空間把握能力が意味を成さないのだ。

 

このありえない超スピードは、神童がまたジャミング以外に何らかの細工を施した可能性もあるにはあるが、それだけではない気がする。

 

『ほらほら!足元がお留守ですよ!』

「ヌッ!?クァ……ッ!」

 

戦闘中に余計な事を考えていた為にナスカドーパントの不意打ちの足払いに対処する事が出来ずに転倒してしまい、ナスカブレードによる一閃を喰らってしまう。

 

『ほぉら、まだまだ行きますよ!!』

「ッ!?チィッ!」

 

ナスカドーパントの次の攻撃が来る前に横に転がってかわすと、そのまま受け身を取って立ち上がった軽く舌打ちをした。

 

『ほぉ、そう避けますか……。随分と戦い慣れていますね』

(まずはあの超スピードを何とかする必要があるね……)

 

ナスカドーパントの感心の呟きを余所に、ディージェントはこの場をどう切り抜けるか思考を巡らせた。

「キャンセル」の効果であれば、あの超スピードを封殺出来るかもと思ったが、アレはあくまで“何らかのツールによって発動させた能力”限定だ。

確かにあれはガイアメモリと言うツールで得た能力ではあるが、それでは能力の範囲が広すぎて無効化は不可能だ。

ならば他のカードでは……そう思って今所持しているカードの中で今の状況に適した能力を付与する物はないかクラインの壺の中を探っていると、あるカードを見つけた。

 

(このカードは……)

『呆けてる暇なんてあるですかぁ!?』

「ッ!?ガハァッ!!」

 

再び超スピードで距離を詰めて来たナスカドーパントの一閃を何とか防御しようとするも、ディージェントに当たる寸前で動きを止めて弧を描きながらのフェイント攻撃を仕掛けられて吹き飛んでしまう。

 

「ヌッ…クゥ……!」

 

しかしすぐに受け身を取ってバックルの持ち手部分を引くとカードを一枚取り出し、バックルの挿入口に装填した。

 

[アタックライド…スタン!]

 

カードの効果を発動させて立ち上がって相手を見ると、ナスカドーパントがまたもこちらに剣を振り被って来ていた。

 

『貰いましたよ!』

「……フンッ!」

 

だがディージェントは攻撃を喰らう覚悟でナスカドーパントに右カウンターを相手の左頬に放ち、互いに大きく吹き飛ばされた。

 

『何っ…がほっ!?』

「クッ…!」

 

しかしすぐさま両者ともに受け身を取って態勢を立て直すと互いに相手を見据えた。

 

『やりますね……。ですがまだこれから…ウッ!?』

 

殴られた左頬を拭いながらもう一度超スピードで猛攻しようとした時、ナスカドーパントの身体に異変が起きた。

身体が上手く動かないのだ。頬を拭う為に挙げた左腕も、ただ痙攣を起こしているかのように震えるだけで固まったままだ。

その原因は先程ディージェントが使ったカードによる効果だと理解するのにさほど時間は掛からなかった。

 

『貴方…私に一体何を…!?』

「一時的に身体を麻痺させてもらいました。今の内に決めさせてもらいますよ」

 

先程ディージェントが使ったカード・「スタン」は、攻撃を加えた対象を6秒間だけ行動不能状態にさせる能力を持ったカードだ。

但し対象となるものは一つだけであり、効果が表れるのにも若干のタイムラグがあるのが欠点だ。

しかし6秒もあれば止めを刺すには十分だ。

 

[ツールライド…アンチ・キル!]

[アタックライド…チャージ!]

 

ディージェントは即座に「アンチ・キル」と「チャージ」のカードを発動させると、その右足にエネルギーを集約させながらナスカドーパントに駆け出し、飛び蹴りを放った。

 

「ハァッ!」

『くっ…ヌオォォォォ!!』

 

ディージェントの飛び蹴りが直撃し、ナスカドーパントは爆ぜてその場から消えた。

そしてその場に残ったのは“N”と描かれた金色のガイアメモリだけだった。

 

 

 

 

 

アノマロカリスドーパントはナスカドーパントの指示で一旦撤退して風都タワーの外に出ていた。

 

『な、何だよアレ、はえぇよ…次元が違いすぎるっつうの。どこのドラ〇ンボ〇ルだよまったく……』

 

完全に逃げ切った所でそう愚痴を零した。

ナスカドーパントならともかく、あの藍色の仮面ライダーまであそこまで素早く動けるとはまさか思わなかった。

しかし、気になる事もあった。それは……

 

『にしても井上さんってあんなに速かったっけか?全然動き見れねぇじゃねぇかよ……』

 

ナスカドーパントの動きが以前見ていた時よりも速くなっているのだ。

確かにナスカメモリにはシンクロするごとにパワーアップする機能が付いてはいるが、その場合は聞いた話だと身体が赤くなる筈だ。

一体何があったのだろうとない頭で考えていると、出入り口の反対から爆音が聞こえて来た。

 

何があったのだろうと思い駆けつけて見ると、そこにはあの剣を持った仮面ライダーに変身する金髪の男が倒れていた。

更にその近くにはエターナルメモリとロストドライバーが落ちている。

アレは確か、ボスが使っていたガイアメモリの筈だ。まさか、やられてしまったのか?

 

(だが、井上さんもあのメモリは欲しいとか言ってたしな!態々奪う手間が省けたってモンだぜ!それに、動けない今ならアイツをぶちのめすチャンスだ!)

 

そう決断した所でヴァンがムクリと起き上がり、その場から立ち去ろうとしていた。

 

(あ!逃がすかぁ!!)

 

アノマロカリスドーパントは即座にその背後に牙の弾丸を放ち、吹き飛ばした。

 

『ハハハハハ!!やったぜえぇぇぇぇ!!』

「そんなズルをして勝って嬉しいのですか?」

『ってげぇっ!井上さん!?何でここに!?』

 

突然声を掛けられた背後を振り向くと、そこには藍色の仮面ライダーと戦っていた筈の運河がこちらをジト目で見据えていた。

何と言う神出鬼没な…心臓に悪過ぎる……。

 

「生憎やられてしまいましてね。逃げてる途中で貴方を見掛けてみれば、何と言う呆れた行為…私の美学に反しますよ」

 

そう言いながら前に出ると、エターナルメモリとロストドライバーを拾い上げてこちらに振り向いた。

 

「でもまあ…彼はただ気を失ってるだけのようですし、第二希望の代物も手に入りました。今回の事は大目に見ておきましょう」

『は、はぁ……』

 

そう曖昧に返事をしながら、ガイアメモリを体外から排出して人間態に戻ると、次に行う運河の計画を尋ねた。

 

「それで、今度はどうするんですかい?」

「いえ、ここからは私一人で十分ですから、アナタはここで用済みですよ。」

 

運河はそう言いながら唇を舐めて湿らせると、不敵な笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

それに合わせて自分も後退りながら様子がおかしい運河に声を掛ける。

 

「あの、井上さん…?」

「貴方は私の予想以上の働きをしてくれました。それを評して良い物を見せてあげましょう……」

 

そう呟くと、運河の姿がメモリも使った素振りもないのに変貌し、その姿を見た男は思わず悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

ディージェントは飛び蹴りを放った後の態勢からゆっくりと立ち上がると、無言で先ほど爆散したナスカドーパントがいた場所を見た。

そこには黒い焦げ跡の中心地にナスカメモリがポツンと落ちており、素体となった井上運河の身体はどこにもない。

だが運河が例えNEVERだったとしても死んだとは思ってはいない。

何故ならあの時、ギリギリの所で「スタン」の効果が切れ、超スピードで致命傷を避けていたのだ。

しかし完全に避けきる事は出来ず、メモリが体外に排出されてしまったようだが、問題はそこにある。

 

メモリが排出されたにも関わらずここにいないと言う事は、メモリが排出された後に超スピードで逃走したと言う事になる。それは人間では絶対に不可能だ。

そしてここから導き出される解答は一つ…“井上運河は人間ではない”と言う事だ。

 

(クロックアップ並みの超スピード…そして人間態への変化が可能な脅威…と言う事はワームだったのか……。また神童さんが連れ込んで来てたみたいだね)

 

ワーム…かつて亜由美と会った世界で襲いかかって来た“カブトの世界”の脅威だ。

何時からこの世界に潜んでいたのかは不明だが、今回はかなり手の込んだやり方をして来てるようである。

 

「……もう流石に追い付けないだろうし、まずは楓さんの援護をした方が良さそうだね」

 

そうぼやきながらマスク越しに頭をガリガリ掻くと、上の階へ行く為に階段を上り始めた。

彼女ならジョーカードーパントまでなら何とかできるだろうが、ディボルグまでは対処できない。

この世界の脅威は彼女に任せるが、Dシリーズ…自分達が撒いた種はこちらで処理させてもらう……。

 

そうこの世界での行動方針を立てながら階段を上り詰めてようやく第二展望台広場まで辿り着くと、そこには上へと続く階段の前で立ち尽くす楓だけが立っていた。窓の一部が割れてはいるが、ここには敵がいないようだ。

 

「あら、来たのね」

「敵はどうしましたか?」

 

楓がこちらに気付いて声を掛けて来ると、ディージェントは今気になっている事を尋ねた。

 

「そこの窓からアキサメ君と一緒に落ちたわよ。多分もう終わってこっちに向かってるでしょうけどね。ジョーカー…ううん、駆も私が正気に戻して、今は元相棒の所へ向かってるわよ」

「そうですか」

 

楓の質問の答えに簡潔に答えると、楓の横に並び立った。

ここから先には変身したDシリーズ…ディボルグがいる事が分かる。

駆と言う人物が一体どれほどの実力を有しているのかは定かではないが、少なくともこの世界の人間では手に負えないだろう。やはりここは援護に言った方が良さそうだ。

そう思い立って先に進もうとすると、楓に手を掴まれて引き止められた。

 

「待って」

「……どうしましたか?」

 

ディージェントは何時も通りの口調ではあるものの、何処か焦った様子で引きとめた楓に問い掛けた。

すると楓はこちらを真っ直ぐ見据えながら意思の強い言葉を口にした。

 

「ここは全部アイツに任せてあげて。これは全部、駆とその元相棒の問題だから」

「……ディボルグはこの世界の人間では倒す事ができません。それだけ強力なんです」

 

ディージェントは仮面の奥で訝しげに眉を顰めながら行かなければならない事を主張するが、楓はそれでも首を横に振って否定した。

 

「確かにアンタの言う通りかもしれないけど、もう少しだけ私の相棒の事を信じてあげて……。アンタだってあの子…亜由美ちゃんの事を信じてるから一緒に旅してるんでしょ?」

「………!」

 

信じる。歩にとってその言葉はあまりにも縁のない言葉だった。

 

今まで歩はこのライダーサークルに来るまでの2年間、殆ど人の目に触れずに独りで戦ってきた。

渡った世界の“歪み”を修正すれば、その後すぐに立ち去る。別の世界の情報はその世界の毒にしかならない故の、歩なりの配慮だ。

だからこそ誰かを信じるなんて、そんな事考えてもいなかった。

 

果たして自分はどうなのだろうか?亜由美の事を本当に信じているのか?

少なくとも亜由美は自分を信じてくれてる。だからこそ何かあれば今回の様に言う事を聞いてくれる。

きっとこの人もその相棒も互いに信じているのだろう。だからこそこうして自分を引き止め、絶対に通す事もないだろう。

 

「……ハァ、分かりました。しばらくここで待っておきます」

 

ディージェントは軽く息を吐くと、そう言って変身を解除した。

その様子を見た楓は微笑んで「ありがとう」とだけ言って割れた窓へ近づいて、そこから見える街並みを眺めた。だが……

 

『うわあぁぁぁぁぁ!!』

「ッ!?何今の悲鳴…ってちょっと!誰かドーパントに襲われてるわよ!」

 

割れた窓の下を見ながら叫ぶ楓に近寄って歩も同じく眼下を除くと、アノマロカリスドーパントの男が緑と黒茶色の体表をしたキリギリスを模した何かに襲われている所と、その近くで倒れているヴァンが目に入った。

 

「……アレは、ドーパントじゃありませんね」

「はぁ?何言ってんの?ドーパントじゃなければ何なのよ?」

 

歩から出された結論に顔を顰めながら訊ねて来た楓に、歩は淡々と答えた。

 

「アレはワーム。別の世界の怪物ですね」

「……ふぅ~ん、ただの虫のドーパントにしか見えないんだけど……」

 

確かにこの世界の人間から見れば普通のドーパントと大差ないだろう。

だがアレにはこの世界には無い特性も持ち合わせている。そしてそれはすぐに目の前でその片鱗を一瞬だけ現した。

 

「こ、こっちに来るなあぁぁぁ!!」

 

[アノマロカリス!]

 

襲われていた男はすぐさまガイアメモリを取り出してドーパントになろうとスイッチを押した。だが……

 

『そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。それとこれは没収です』

「えっ!?何時の間に…!?」

 

そのキリギリスに似たドーパントならぬグラスホッパーワームは一瞬で男の背後に移動し、アノマロカリスメモリを取り上げた。

 

「瞬間移動!?」

「いえ、アレは目視不可能な速度で動いただけです。“クロックアップ”と言うらしいですよ」

 

目の前の出来事に驚愕する楓に簡潔に答えてる間にグラスホッパーワームは奪い取ったメモリを単純な握力で砕きながら男との距離をジリジリと詰めて行く。

 

ワームの目的は人類の殲滅とワームの繁栄だ。その習性を鑑みれば、間違いなくアノマロカリスの男を殺そうとするだろう。

 

流石にこのまま殺させるわけにはいかない。そう判断した歩は再びディージェントになるべくディージェントドライバーとカードを取り出した。

 

[カメンライド……]

 

「楓さんはここで待っててください。アレに対処するにはアレの世界のライダーかDシリーズでなければできないので…変身」

 

[ディージェント!]

 

すぐさまディージェントへの変身を果たすと、楓の答えを聞かずに割れた窓から飛び降りて行った。

 

「随分と慌ただしいわね…まぁ私も今変身できないわけなんだから、待つしかないんだけど……」

 

そう一人ごちると、ディージェントとワームの戦いをしばらく観ておく事にした。

 

 

 

 

 

「な、何ですかその姿!?一体どうやってメモリを…!!」

『別にメモリに頼らずとも、これが私の本来の姿ですからねぇ……』

 

狼狽する男を余所に、目の前でメモリを挿した素振りも見せずに一瞬で禍々しい異形へと変貌した運河は呆れたような口振りでそう答えた。

 

『私はワーム。前の井上運河でしたらもういませんよ。同じ人間は二人もいりませんからねぇ。アッハッハッハッハ』

 

その話し方は運河その物ではあるが、その内に内包している狂気を隠し切れていない。

普通のドーパントとはどこか違う醜悪さを持った見た目もあって、更に不気味だ。

自身をワームと答えたその存在は、狂気を隠す事なくこちらに歩み寄って来た。

 

「こ、こっちに来るなあぁぁぁ!!」

 

[アノマロカリス!]

 

その危機感を孕んだ恐怖を感じた男は、自分のガイアメモリを取り出してドーパントへ変わろうとしたが、目の前の異形が一瞬にして消えた。

 

「へ!?い、一体どこに!?」

『そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。それとこれは没収です』

「えっ!?何時の間に…!?」

 

一瞬で背後に移動していたワームは、男の手にあったメモリを取り上げて粉々に握り潰した。これで最早、抗う事も出来ない。

 

ジリジリとこちらに近づいて来るワームに合わせてこちらも後退るも、遂には壁際にまで追い込められてしまった。

 

『さて、協力してくれたせめてもの礼です。苦しまない様にして差し上げましょう』

 

ワームはそう言うと、自身の右手を変形させてそこから茶色くくすんだ片刃の刺々しい西洋剣を造り出し、ゆっくりと上げた。

 

『それでは、未来永劫にさようなら』

「そこまでです」

 

剣が振り下ろされるかと思った刹那、あの藍色の仮面ライダーがワームの背後から腕を掴んで動きを止めた。

 

『おや?もう来たのですか?西方駆を放っておいてもよろしいのですか?』

「しばらく信じてみる事にしました。それよりもまず、貴方を倒す事にします。まさか、ワームだとは思ってもみませんでした……」

『アッハッハ、そうです…かっ!』

 

ワームは仮面ライダーの手を振り払うと、横一線に仮面ライダーへと切り払うが、それをバックステップで避けると、男に言い放った。

 

「君は早くここから逃げた方がいいよ。もうメモリもないんじゃ何も出来ないだろうからね」

「は、はいぃぃぃぃ!!」

 

ピシッと敬礼して返事をすると、男はすぐさまその場から逃げ去ろうとした。

だが次の瞬間には世界が暗転し、ワームの言った通りに未来永劫さよならする事になった。

 

 

 

 

 

「…ッ!!」

 

アノマロカリスの男が逃げ去ろうと背を向けた途端、グラスホッパーワームはクロックアップを発動させて一瞬で男の首を斬り飛ばしてしまった。

今のは流石にディージェントでも反応する事が出来ず、只々身体を失った男の頭部が宙に舞って行くのを見る事しかできなかった。

 

『まったく、そう易々と逃がすと思いますか?そんなわけないでしょうに……』

「……殺した理由は、何ですか?」

 

男の首はやがて重力に引き寄せられて硬い地面にグチャリと言う不快な音と共に落ち、ディージェントは両手を強く握り締めながらグラスホッパーワームに問い掛けた。

何と答えるか分かってはいるが、そう訊かずには居られなかった。

 

『我々ワームの使命は全ての人類を殲滅する事です。私はただその使命に順じて動いたに過ぎませんよ?』

 

グラスホッパーワームはさも当然の様にそう答えた。

 

許せない……。

何故脅威と呼ばれる存在の殆どは章治や正幸の様に共存の道を選べないのだろうか。

そんな奴等のせいで、どれだけの人が死んだと思ってる。

ディージェントの脳裏に浮かぶのは、二年前に自分のいた世界の人間達を当たり前の様に屠って行く怪人達。

そのおかげで、実験台にされる日々から解放されたと言っても過言ではないが、その所為で多くの人達が死んでしまった。

どんなに嫌悪を抱く人間だろうと、命がある事に変わりはない。

そして、それを容易く奪い取って行くような異形達は、絶対に許せない!

 

「そうですか…じゃあ僕もこれから、使命を遂行する事にします……」

ディージェントは両手のグローブを何時もより強く嵌め直すと、冷淡な声でグラスホッパーワームに言い放った。

 

『貴方の存在を完全に消し去ります/お前を塵一つ残さず破壊してやる!』

 

そのディージェントが放った声の最後に、あの声が重なって聞こえた。

 

世界の破壊者・門矢士の声が……。


 
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